連載小説
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 無事仲直りして数日が過ぎた。
 朝の「おはよう」はキスに変わって、「行ってきます」もキスに変わって、「ただいま」は言うけど同時にキスをして、「おやすみ」はキスに変わった。
 俺とイヴの関係は、もう単なる同居人じゃなくなっていた。
 恋人、みたいなもの。
 きっと変だと思われるだろう。俺だって変だと思う。
 だってイヴは植物だ。それも他に類を見ない奇妙な植物。
 身体を自在に動かせるし、意思疎通できるし、俺の唾液が好きだったりするし。
 でも可愛い。
 うねりうねりと蔓をくねらせる姿はとても女性的でちょっぴりエッチな可愛さがあるし。
 ちょっと嬉しいことがあるときゅうって手や腕に蔓を絡めて来て愛らしいし。
 蔦や葉、蕾なんかをいっぱい撫でてやるともう我慢できないって感じでキスしてきてたっぷり蜜を飲ませてくれるし。
 会話はできないけれど、それ以上に態度で示してくれるから一緒にいて全然苦にならない。
 人間じゃなくても、この関係がおかしいのだとしても、迷わず言える。
 俺は、イヴが好きだ。
 俺の手に蔓を絡めて寄り添ってくるイヴが大好きだ。
 だから俺の最近の異変はきっとイヴのせいだ。
「はぁ……」
 イヴのことを意識し始めてもう何日も経つ。
 溜まっていた。
 健全な男子高校生なら誰もが持つ欲求が溜まっていた。
 オナニー欲もとい性欲。家にいる間ほぼずっと、ペニスが大きくなってしまっていた。
 この数日は特に顕著で勉強もゲームも身に入らないし、イヴとキスしようものならそれだけで暴発しそうなくらい溜まっていた。
 トイレで様子を見ればいつもより一回り、いや二回りは大きくなって皮も半分以上剥けかている。ちょっと触れば敏感な部分が丸出しになってしまってなかなか辛い。
 特にイヴと一緒にいるときはきつい。普通に会話していてもイヴの甘い香りについ朦朧としてしまいそうになる。
 イヴのことを女の子として見ているからだろうか。恋人として想っているからだろうか。人間ではなく、植物のイヴに俺は興奮していた。
 そのことを自覚してしまえばもう我慢できなかった。
 イヴの蕾の口に、俺の、この大きくなったモノを挿入したらどれだけ気持ちいいかとつい考えてしまう。
「あぁ、イヴ」
 オナニーしたい。トイレで発散させようかと思いもしたけれど、どうせするなら。気持ちよくなるなら、イヴと……。
「ちょっと稔。いつまでトイレに入ってるの」
「!? な、なに?」
「何慌ててんのよ。ちょっとお母さん、お父さんと一緒に出掛けるから帰り遅くなるけれど、ご飯は鍋にカレーあるからそれ食べなさいね」
「え、いきなり?」
 まさかの事態だった。母さんと父さんが家からいなくなる。つまり家には俺とイヴの二人っきり。
「多分、帰ってくるの深夜回ると思うからちゃんと電気消して鍵も閉めておきなさいよ。それじゃあね」
 と言って母さんは父さんと出かけてしまった。どこへ行くのかは結局聞けなかったが、そんなことよりも。
「イヴと二人っきり」
 俺は居ても立ってもいられず、イヴのいる自室に戻った。
 イヴはいつも通り、うねりうねりとしながら鉢植えにいた。
 身体も全体的に大きくなっており、蔓の細い部分と太い部分の差がより明確に出るようになった。蕾も数を増やして七本ある。俺の唾液を与えたおかげ、だったらいいな。
 俺はベッドに腰かける。イヴがすぐにこっちに寄って来て、頬にキスをしてくる。いまから唇同士のキスをしようというイヴのおねだりだ。
 いますぐにでもイヴとたっぷり舌を絡めたキスをしたいと思ったが、それ以上の欲求が下半身に集まっていた。
 俺は深呼吸して、イヴの甘い香りを肺に溜めて彼女を見つめる。
 いつもと違う俺にイヴもちょっと戸惑ったみたいで、俺の前で蕾の動きを止めた。
「イ、イヴ。その、俺たち、こい、恋人、ってこと、でいいのかな」
 ド直球にお願いすることのできないヘタレな俺は外堀から埋めるような形で尋ねてしまう。
『…………♪』
 でもイヴは嬉しそうに俺の腕に蔓を絡めて肯定の意を示してくれた。
「お、俺さ。イヴのこと、好きなんだ。その、人として、じゃなくてっ、植物だとか同居人だとかじゃなくて、一人の女の子として俺とは違う生き物だけど、イヴのことが好きなんだ」
 好きという言葉に反応して腕をきゅうっと締め付けてくれる。イヴをよく感じられる優しい締め付けだ。
「だからさ、イヴのことを想ってるとつい俺もさ、お、男だからさ。その、興奮しちゃって……大きくなっちまうんだ」
『…………!』
 俺が視線を下ろしてイヴの視線を俺の股間へと向けさせる。ポジションは上手く調整していてよくはわからないだろうけれど、俺のペニスは勃起していた。
「本当は、恋人だからとか、そんな理由でこんなのしちゃいけないんだろうけど。でも、俺、イヴとシタい。イヴにシテ欲しいんだ」
『もしこの植物にあることをシテみたいと思ったら、迷わずするっす』
 あの説明書の言葉がまた思い出される。免罪符にしてしまっているかもしれないけれど、もうどうにも抑えられなかった。
 これが人間で言う性行為なのかはわからないけれど。それでも。
「俺、イヴとセックスしたいんだ」
『……! ……!!』
 ぴぃんっと蔓が張った。すごく驚いてしまっていた。そりゃあ、そうだよな。
 俺とイヴは違いすぎるし。イヴに意思があるとは言っても、さすがに。
「……イヴ?」
 蕾がやや大きく口を開けた。その唇から、触手を何本か蜜の涎を滴らせながら垂らした。
 まるで、口を開けて挿入れてもらうのを待つ女の子のように。
「い、いいのか?」
 急かすように腕に巻き付いていた蔓が俺のことを引っ張る。本当に良いんだ。イヴは俺のこと受け入れてくれるんだ。
 部屋着を全部脱ぎ捨てて、パンツ一丁になる。これを脱いだらもう戻れない。人間よりも植物であるイヴに興奮して、ついには交わってしまう男になってしまう。
 でもそれでもいい。イヴが相手なら、植物だろうが人間だろうが、人ならざる者でも関係ない。
「はぁ、ハァ、ハァ」
 荒く浅い息を繰り返しながらパンツを脱ぎ捨てた。尋常じゃないほど、痛いくらい隆起した俺のペニス。どれだけ興奮してもここまで大きくなったことはない。
 もしかしたらイヴの蜜を毎日のように飲んでいたからかもしれない。あれを飲むと身体全身が元気になるから。ペニスだって例外じゃないのかも。
 ああ、でもそんな考えどうでもいい。いまは、涎を垂らして待っているイヴの口にこれを挿入れたい。
 ベッドの上に膝立ちになって、イヴの蕾にペニスを寄せていく。イヴは自分からは決して動かないが、俺と同じように興奮したりしているのかぷるぷると全身を震わせていた。
 はぁ、イヴのお口。蕾の花弁が折り重なる唇。緑と濃紫の入り混じった色は卑猥な雰囲気を醸している。
「イヴ……いくよ」
 ぴちゃ。
 垂らされた触手の舌先にペニスの先っぽを乗せる。にゅりゅりとした粘質の感触と、生暖かい熱。どっくんどっくんと舌が脈打っているのがわかってイヴも興奮しているのかと思うとより愛おしく思えた。
「はぁああ、柔らかいよ、イヴの中……っ、裏側が擦れてるだけなのにすごい」
 ゆっくりゆっくりと暴発しないように気を付けて腰を前に出していく。
 先っぽが蕾の深淵に消えていくけど、まだ何も触れない。だけど生暖かい熱で包まれている。
 呼気を感じる。荒くていまにも襲い掛かりそうな獣の呼気。獲物前にむしゃぶりつこうとしている獣の呼気を。
「ッ! あ、当たった、これが、奥」
 ペニスの先端に柔らかいような固いような弾力のあるものが触れた。粒々していて濡れているのがわかる。
「ああ、イヴ……お願い」
 そう頼んだ瞬間だった。ペニスの根本にしゅるると無数の触手舌が絡みついた。玉袋ごとまるで、もう絶対に何があっても離さないと言いたげに。
 わずかに腰を引いてもびくともしない。そして俺が腰を引いたことに反応したのか、蕾の口が伸びた。奥の粒々にペニスが押し付けられたまま、根本、いや玉袋までイヴの蕾が俺のペニスを覆いつくしたのだ。
「ッ!? ああッ……何っ、これっ!?」
 生温かい熱に包まれるだけだったペニスが亀頭から竿に至るまでしゅるしゅると細長いものが走り絡まっていくのがわかった。イヴの触手舌だ。それはわかってる。だけど、気持ちよさが自分の手と比較にならない。
「お、おおっ、おぅおおっ、んあっ!」
 変な声が漏れる。絡みついてなぞるように走っていく触手舌にペニスが人外な快楽を与えられる。
 一瞬で俺は腰砕けになり、ベッドに仰向けに倒れた。
 その動きにより無数の触手舌の蠢きは活発になって、縦横無尽に俺のペニスを舐めしゃぶる。根本から競り上がってくる熱い白濁した奔流。それを導くように、吸い出すようにくちゅくちゅぐちゅぐちゅと触手が走る。
 トドメは蕾。
 触手舌ごときゅうううううっと俺のペニス全体を締め付け、中を真空状態にする。
 そしてほんの少し。たった少し数センチだけ上へと引いた。
 掃除機で吸われているかのような未曽有の吸い込みと、触手がカリ裏に引っかかってもたらす快楽。
 俺の頭は一瞬でスパークし、白濁の閃光が視界を埋め尽くした。
 我慢なんてできるはずもなく、男としての尊厳も何もかもイヴの前には無意味で、だらしなく白濁を吐精した。
「あああっ! ああぁぉおおっ、お、おおっ、おっ……」
 あまりの気持ちよさに仰向けのまま腰を突き上げて、ペニスをイヴの口のより奥深くに突き刺す。粒々の突起に包まれた亀頭はびくびく震えてイヴの喉奥に屈して、何度も何度も精を吐き出した。
 ごくりごくり、ごくりごくり。
 脈動する音が聞こえる。蕾の奥のどこからか、精をいやらしい音を響かせて飲み下す音だった。
「はぁ、はぁはぁ……すご、かった。気持ちよすぎて頭がおかしく、なりそう。うぁ……」
 さっきまで激しかった触手の動きは緩慢になって、尿道に残った精液を吸うように優しく動いてくれる。イヴの優しさが伝わってくるようだった。
 仰向けになったまま気持ちよさの余韻を味わっていると、イヴの別の蕾が顔の前に寄ってくる。触手舌がちょっと太くて、全体に粒々がついている蕾だった。
「イヴ。ん、ちゅっ、んんっれろっちゅっちゅっ」
 口に寄せられたイヴの蕾に迷いなくキスをする。唇を掻き分けて侵入してきた触手舌に舌を絡ませて出迎えて、たっぷりと涎と蜜の交換をした。
 イヴの蜜を飲むと身体の奥がかあっと熱くなる。ペニスが再び力を取り戻していた。それに反応するように穏やかな動きだった触手舌がまた気持ちよくさせるように蠢き始める。
「イヴ、またシテくれるのか? あっ、ちゅっ、あむっはぁ……ありがとう。ん? もっと? え、精液もっと欲しいって? 何、唾液じゃなくてもいいの? まさか。むしろ精液の方がいいって?」
 ずっと思っていた。何のためにイヴの蕾の中はあんなに触手舌でいっぱいなんだろうって。それも情欲を煽るようないやらしい形状で、気持ちよさそうな蜜塗れだったのかって。
 理由はこれだったのかもしれない。別種族の精液をより効率的に搾るため。その栄養を得るためにあんなにいやらしい形状をしていたのかもしれない。
 無理矢理襲ってこなかったのはきっと、恋人になれたから。無理矢理はしたくなかったのだと思う。今日の俺みたいに。
 でも、その歯止めを俺は自ら外してしまった。だから。
「イ、イヴ、うっ激しいってうあああっ!」
 何度も何度もイカされて、四度目になる精液を吸い取られる。
 接合部から溢れるほど俺は精液を吐き出してしまっていて、あの蜜には精力増強効果まであることがわかった。
 四度目を出し終えても正直まだ出し足りない気がしていた。でもあまりの気持ちよさに俺の理性が音を上げていた。
「イヴ、も、もう駄目だって」
『…………♪』
「これ以上されたら、狂うって、おかしくなっ、うああっ!」
 まるで酔っているみたいに俺の話を聞かず、いや、俺の言葉を聞くとさらに激しくなる。抵抗は逆効果? 嗜虐心というよりは、もっと主人に喜んで欲しいと頑張るペットの気持ち? 
 確かに悦んでいるけれど。四度の射精なのに全部が全部気持ちよくて、痛みなんてこれっぽっちもなくてずっと味わっていたいくらいだけど。
 そうなったら俺の理性は完全に壊れるような気がした。もうイヴなしじゃあいられない身体に。
 あ、もしかしてイヴの狙いは、ソレか? 俺の身体を完全にイヴだけのモノにするためにこんなに激しく?
「は、は、ははっ……」
 だとしたら止めようがない。止めて欲しいと思えない。イヴのモノにされるならそれでもいいかと思えてしまう。
 だったらいいか。しよう、おねだり。もっとイヴに気持ちよくしてもらって、盛大に壊れてしまおう。
「はぁあぁぁぁぁ、イヴ、もっと……シテ」
『…………!』
 イヴの身体が、全身が動いた。俺が見たのは鉢の土に埋まっていたイヴの身体が出てくる光景。支柱に絡まっていた蔓が全てほどける光景。
 土などは全部払われて、一応置いていたバケツの水で落とされて、イヴの全身が露になる。といっても土はそれほど深くないから、見えていなかったのはほんの一部だけども。でも、鉢から出てきたイヴは完全に自分の力で自走していた。蔓を使い、葉を使い、自身の身体を動かしていた。
 向かう先は俺だった。
 特に太い部分の幹とも呼べる幾本かの蔓の身体は俺の身長くらいある。そこから無数の細い蔓が伸びていて、それも合わせれば俺よりも遥かに大きい。
 そんなイヴが、俺に覆いかぶさろうとしていた。
 全身を蕾から垂らす蜜でいっぱい、てらてらとぬめらせて。
「んあっ、ちゅっ、イヴ、すごっ、こんなっ!」
 全身に絡みついてくるイヴの蔓触手。手と足の指一本一本に、首、脇、腕、腰、太もも、膝、足首までびっしりと蔓が絡みついてくる。
 全身を愛撫されているような、絶世の美少女に全身舌を這わせられているような感覚に、思考が蕩けそうになる。
 それだけじゃない。
 手を足を、あの蕾が丸呑みにして中の触手で指を爪の中まで犯してくるのだ。
「んちゅっ、んはああっ、耳、までっ!?」
 耳まで蕾に食べられて、穴の中を触手が這う感じがする。でも痛みはなくて脳が蕩けるような快感だけを感じさせられる。イヴの気持ちよさを脳に直接覚え込まされる。
 乳首にはあの触手の突起でびっしりの葉が被せられ、それだけで何度もイかせられた。
 そんな性癖なんてないはずなのに尻の穴に細い蔓が挿入されて、奥のある箇所を何度も突かれて激しくイッた。
 全身、中も外もイヴの蜜を塗り込まれて、強制発情状態にされた俺は何度も何度もイヴの蕾の中で果てた。
 もしこれがイヴの目的で、俺を繁殖のための苗床にするためだったりしたのだとしても、それでも構わないと思えた。
 イヴが俺を傷つける気はないのは嫌でも伝わって来ていたし、気持ちよくしてあげたいと思ってくれていたのも伝わっていた。
 何度交わりを重ねても、イヴが俺を好きでいてくれているのが変わらないとわかった。
 だから、俺もイヴのことが好きだし、問題なかった。イヴのためなら何度だって精液を注いでやれると思った。
 それに、こんな気持ちいいことをずっとずっとイヴと一緒に味わえるんだ。
 嫌だなんて思うはずがない。
 俺はもう何度目かわからない精液を、イヴの中に吐き出した。
『…………』
 イヴの喘ぎ声が聞こえたのは多分気のせいじゃないだろう。
 俺とイヴはとても深く繋がっていたのだから。

 という感じで初夜はとてつもなく激しかった。
 結論から言うと、苗床にされたとか精液を吐き出すだけの肉人形にされたとか、そんなことは一切なかった。
 いつも通りの朝。ちょっと違うのは。
「イヴ、おはよう」
『…………♪』
 一緒にイヴとベッドの上で眠っていたということだ。
 というかイヴが俺の布団代わりのように、俺に蔓を巻きつけてくれていた。
 太い蔓は抱き枕のように股で挟んで腕で抱いて、蕾が横向きに寝る俺の目の前にある。
 起き抜けに早速イヴとキスをする。朝のおはようのキスだ。
 最初は軽いものだったけれど、すぐに舌も絡める激しいものになって興奮が止まらなくなった。
 俺の気持ちを察してくれたのか、ペニスが生暖かいものに包まれて蕾とその中の触手舌で扱かれる。
 若干俯せがちになってベッドに押し付けるようにして、腰を突き出す。粒々のある太めの触手の間にペニスが擦れて、俺は瞬く間に精液をイヴに飲ませた。
「はぁああ……良かったよ、イヴ。最高だよ、イヴの中」
『…………』
「どうしたの?」
 さっきまで元気だったイヴの様子がちょっとおかしい。なんというか控えめになっている。我慢している?
「もしかして昨日のこと申し訳なく思ったりしてるの? 無理矢理したから」
『…………』
 どうやらそのようだ。酔ったような感じに昨日のイヴはなっていたが、まさにその通りで。初めての精液の味に自制できなくなってしまっていたらしい。今日はもう大丈夫らしいが。
「大丈夫だよ、イヴ。俺は気にしてない。それにさ、俺の精液で理性を失っちゃったとか、男としては少し嬉しかったりするから。イヴを悦ばせられたってこと、だよな?」
 慌てたようにイヴが何度も何度も頷いて。俺はその蕾を撫でた。で、またキスをした。イヴへの愛おしさが止まらない。もっとイヴに悦んでもらいたかった。
「だから気にしなくていいよ。まぁあれだけ激しくされると、母さんたちにバレるからもうちょっと抑えないとだけど……」
 俺はイヴの蕾に口を寄せて、小声で言った。まるで耳元で内緒話をするみたいに。
「今日もシテくれよ」
『…………!!』
 イヴは蕾を跳ね飛ばしてピンと蔓を張ったかと思うと、ふにゃりとなって俺に甘えるように何度もキスを迫ってきた。
 愛しいイヴのおねだりに応えないわけにもいかず、学校にいかないと行けなくなるまでの間、たっぷりとイヴと身体を重ねた。

 よく成長したからなのか。唾液を与えていたからなのか。精液を与えたおかげか。それとも元からそうだったのか。
 イヴは鉢も土も支柱も必要としなくなった。
 根の形状が他の植物とは蔓とほとんど変わらない。根っていうのは細いものばかりだと思っていたけれど、自走するためにそう進化したのか太くて強靭そうだった。
 あと、吸い付きのいい吸盤のような触手が根の片側にびっしりとついていて、地面をしっかりつかむことができるらしい。
「すっかり大きくなったなぁ」
 なんというか感無量だった。あの種がここまで大きくなるとは。身長も蔓を伸ばさない状態で俺と同じ高さ。鎌首をもたげる蕾がちょうど俺の顔の前に来る。
 根でしっかりと立ち、蕾の顔を俺に向けて、蔓の手を俺に伸ばす姿は本当に女の子みたいだった。
 蔓を撫でる。張りがあってつるつるした感触は癖になる。この蔓に絡みつかれて肌に走るとすごく心地いい。
「ん」
 蕾から伸びてきた一本の触手舌。それと舌を絡めて愛撫する。
 触手舌は蔓よりも柔らかくて基礎体温が高い。それに蜜を常に分泌しているので甘い。舌で擦るようにしたり、歯で甘噛みしたり、唇で吸い付いたりするとよく蜜を分泌するのが最近わかってきた。
 あと最初よりもずっと甘くなっていて、とろみも増しているような気がする。
「イヴもうシタい? わかった、服脱ぐから……って自分で脱ぐからっ」
 イヴはとても器用だ。蔓や蕾、葉を上手く使い俺の服まで脱がすことができる。
 自分で脱ぐよりも速いというのはどういうことなのか。
「ったく。あ、俺に選ばせてくれるの?」
 ベッドで蔓や根を折りたたみ、座るように身体を低くしたイヴが全部の蕾を俺に差し出してくる。
 蕾で花形を作るようにくっつけて、八つの蕾穴が煽情的にくぱぁくぱぁと何度も口を開いては閉じてを繰り返した。
 媚びるように、求めるように蜜塗れの舌がにゅるにゅると這い出て来て、まるでペニスをしゃぶっているように円を描いたり巻き付くような仕草をする。
 この蕾たちにペニスを挿入れたらどうなるかを想像しただけで、痛いほど勃起した。もう脳には完全にイヴの身体の気持ちよさが刷り込まれている。一緒にいるだけでいつも半勃起状態だ。
「じゃあ……最初はこれ、かな」
 触手舌にびっしりと毛が生えた蕾に俺はペニスを添える。すると触手舌が伸びて来て一気に絡めとり奥まで引きずり込まれた。
「うあっ、すっごっ、毛柔らかくて、しっとりしてて……熱くて溶かされてるみたいだ」
 吸い付くような強さはないけど、肌を浅く擦られているようなくすぐったさがペニス全体で味わえる。とても優しい愛撫だ。
 刺激は足りないけど、それがいい。甘く溶かされて、ゆっくりと天国を誘われるような甘い快楽。ずっと浸っていたくなる心地よさ。
「あっ、ぅあ、出て、る……とろとろって」
『…………♪』
 我慢するなんて発想すらなく、まるで涎を無意識に垂らすように精液を蕾の中に漏らした。
 にゅるんと蕾が引き抜かれて中をまざまざと見せつけられる。吐き出して溜まった精液で触手舌の毛をドロドロに濡れていた。とても卑猥な光景。そしてそのまま、ごきゅごきゅと飲み下す音と一緒に溜まった精液が奥へと消えていく。
 こんな光景を見せつけられて余韻を味わっている暇なんてなかった。
 早く次のイヴの蕾を味わいたい。そんなことが頭の中を占めてイッたばかりなのにもうギチギチにペニスが勃起している。
「つ、次、これ……」
 奥から触手舌が生えているのではなく、蕾の壁から太くて短い触手が突起物のように生えている構造。
「うあぁあ、すごコリコリってしてるっ……はぁあ、腰止まらなっうあっハァハァ!」
 さっきまでと違って全部を包み込むような感触じゃない。コリコリとした触手の頭にペニスの亀頭が擦られるような感じ。引き抜くとカリ裏に引っかかって、その気持ちよさを何度も味わいたくて腰が止まらない。
「はぁ、我慢できないっ、もっと早く動かしたいっ良いよな、イヴ、良いよなっ!?」
 答えなんて聞く前にイヴの蕾を掴んで上下に動かしペニスを扱いた。まるでオナホみたいに。
 手で締め付けるのと、イヴ自身が締め付けるのとが合わさってペニスが味わう快感が不規則になる。
 どれだけ扱いても慣れることのできない快楽。亀頭やカリ裏など弱いところを重点的に攻めて擦ってくるイヴの触手にもっとペニスを擦って欲しくて、俺は両手を使って激しく動かした。
「あっ、イク、イクイクっ、イヴ、出すから、奥で一番奥で! うあぁっ!」
 腰も突き出して、手も引いて、ペニスを大きく突き入れる。こりこりっと固くて狭い喉奥のような箇所に亀頭が包まれた瞬間、俺のペニスはついに屈して、どぴゅどぴゅっと大量の白濁を吐精した。
「あ、ああ、あ、あぁ……」
『……! ……♪』
 傍から見たらまるでオナニーみたいだろうけれど、これもれっきとしたイヴとのセックスだった。
 だって互いに悦んでいるから。俺たちは愛し合っているから。
 引き抜くときにカリ裏を刺激されて、尿道に残ったものをはみ出しながらペニスを外に出す。
 二連続射精しても全然萎えない。もっとイヴの蕾を味わいたい。イヴに精液注いでたっぷりと悦ばせたかった。
「ハァハァ、イヴ、つ、次はどこに挿入れて欲しい? 俺ばっかりやりたいことやるのもな。イヴが精液欲しいところどこだ? イヴのやりたいようにやってもいいよ」
『…………』
 イヴは少し迷った素振りを見せた後、ある蕾を出してきた。
 外から見た形状は他とそう大差ない。ただ中身が奇妙だった。
 触手舌がない。奥は暗くてよく見えないけど、深淵が広がっているようだ。
 それに溝みたいなのが円を描くように口の中に走っている。どうやら溝は奥まで繋がっているみたいだ。
 味気なく見えるけど、それでも口の中は柔らかそうで、それにイヴがあえてこれを出してきたんだ。普通であるはずがない。
「ん? 寝てろって?」
 イヴにベッドに寝かされて、さらには手足に蔓が巻き付いていく。縛られてしまった。言えば解いてくれるだろうけど、いまはイヴの好きにさせよう。
 そして、鎌首をもたげたその蕾が俺のペニスを丸ごと根本まで包み込む。
「っ、あ、結構狭いな、これ……ぐにぐにって手で揉まれてるみたいだ」
 マッサージみたいに亀頭も竿も、唇部分に包まれた玉袋も揉みしだかれている。さっきの毛の蕾の優しい気持ちよさと、亀頭責めしてきた突起物の蕾の激しい気持ちよさの中間みたいだ。
 案外何もない、普通の蕾も気持ちいいものだと思った。
 普通であるはずがないとさっき思ったばかりのくせに。
「っ!?」
 それは突然起きた。
 ギュルンッと俺のペニスを丸呑みした蕾が回転した。
「っぁ、なにこ、れっ!?」
 突然ペニスに恐ろしいほどの吸引力が加わる。
 ペニスが根本から抜けてしまいそうなほどに。
 鈴口の奥の精液がイッてもいないのに吸い取られそうなほどに。
 そしてペニスに密着した口の中がまるでペニスの汚れ全部をこそぎ落とすように、激しく刺激する。
 溝。あの円を描くような溝。あれだ。あれが、蕾が強く回転することでこんなに激しくペニスを責めてきている。
「あ、あああっ、あ、か、イヴ、や、うぶっ!?」
 一度止めてもらおうと思ったが、俺の口をイヴの蕾が塞ぐ。さらに触手を喉奥へとどんどん侵入させ、大量の濃厚な蜜を直接胃に注いできた。
「――!?」
 ずっと勃起しっぱなしだったはずのペニスがさらに大きく膨らむ。蕾の溝に食い込むように。
 それでも蕾の回転は収まらず、それどころか、緩急付けた激しい動きに加え、上下運動まで仕掛けてきた。
 自分がイッたという認識すらないまま、俺はもうすでに一度目の絶頂を迎えていた。
 ズッチュズチュグチュブジュ。ジュズズズズ。ブジュッ。
 激しい水音が耳を犯し興奮を誘う。精液を吐き出している最中にも関わらず責め手は緩めず、まだ精液を出している最中なのにもう一度絶頂を迎えさせられた。
「んっー!! んんぅーっ!!」
 突然の快楽責めに俺はもがこうとした。だけど、イヴの拘束は強く、全然身動きが取れない。俺がこうなることは織り込み済みだったのだ。
 唯一緩いのは腰だけ。しかしそれもイヴの思惑通り。
 快感に操られた腰が反射的に浮くと、イヴはペニスを蕾のより奥へと誘う。
 そこの吸い付きは尋常じゃなく尿道から一気に精液が吸い上げられ飲み下された。
 大量の玉になった精液の塊が尿道を駆けのぼる快楽。脳が焼け切れそうなほどの気持ちよさ。涙を流し、鼻水を垂らしてもイヴはそれをすぐに蕾で舐めとり、触手舌で蜜を塗り込んでくる。
 射精でペニスが萎えることはなく、絶え間なく注がれる蜜の精力増強に常に怒張していて、絶頂を何度も重ねた。
 がくがくと腰が震え、何度も何度も射精する。しかし一切精液は零れず飲み下されていく。卑猥な音で俺の耳を犯しながら。
 イヴは飲み下している蕾の蔓を俺の目の前に伸ばし、わずかに白濁していることと、太くなっていることを見せつけてきた。飲み下した精液がどんどん蔓を通って身体中に巡っている。
 俺の子種汁が、イヴの養分になっているのを見せつけられている。
 イヴに捕食されている。
「――」
 昏い悦びを感じた。
 イッた。
 イッた。
 また、イッた。
 ごきゅごきゅと蕾が脈動する。精液を飲み下している。
 蕾の回転。俺のペニスに食い込み円を描く溝。吸い付く喉奥。
 ペニスに絶え間なくもたらされる激しい快楽責め。
 それは決して人間相手では味わえない快楽。
 いままでAVやエロ漫画で妄想してきた非現実的な快楽が、いま現在実現していたのだ。
 こんな快楽。男なら誰でも悦ぶ。屈する。この身を捧げていいとさえ思える。
 この快楽をずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっと、味わえるなら。
 幾らでも精液を捧げていい。蜜を飲まされ、この娘のための身体になってもいい。
「――――」
 真っ白になっていく思考の中、俺はそんなことばかり考えていた。

「あぁ……まだ頭クラクラする」
 無事、セックスは終わった。一方的に搾られるというかなり激しい内容だったが。
 シャワーも浴び終えて、ベッドに俺は倒れ伏している。
 シーツ類は交換済み。イヴの身体の一部には水分を吸収する部位があるそうで、蜜もほとんどわからないくらい吸ってくれる。匂いは多少残るけどまぁ、それくらいなら飲んでたのを零したとかでごまかせる。
 あと幸か不幸か、蕾に口を塞がれていたので声は聞かれていなかったようだ。もしも、聞かれていたら多分死ねる。
「んぁ、ああ、だいじょぶだいじょぶ。ちょっと休めばねー」
 ぴったり俺に添い寝(?)してくれるイヴに大丈夫だと伝える。申し訳なく思っているのか、蔓で何度も撫でてくれる。ついでにペニスも撫でてくれる。またムラムラしそう。
 でももうさすがに今日はね。眠い。でも疲れすぎて寝れない。毎日やったら死ねるな、これ。
 でも気持ちよかったのは間違いない。あの頭が真っ白になって、イヴに全部を委ねる感覚、癖になりそうだ。
 とはいえ。
「あの蕾は休みの日だけにしてくれな、イヴ。あれは凶悪すぎる。快楽的な意味で」
『…………』
 こくんと頷いてくれた。物分かり自体はいいんだよな。ちゃんと言わないと今日みたいになるけど。
 まぁ普通なら腹上死してもおかしくないくらい激しかったが、命の危険はまるで感じなかった。なんだろう、これに関しては確信めいたものを感じる。だから、きっと安心して委ねられたんだと思う。
「……」
 やっぱりちょっと俺、頭おかしくなってるのかもな。ちょっと前までなら絶対にありえなかっただろうことを考えている。
 でもいまの状況がすごく気に入っている。気持ちいいからだけじゃなくて、こうして触れ合っているだけで心が安らぐのを感じた。
 いや、別に日常に不満を覚えているわけじゃあないけどさ。
 でもそろそろ、この先のこと考えないとな。いつまでもこうしていられない。
「イヴはどれくらい大きくなるんだろうな」
『…………?』
 この部屋みっちり埋め尽くすくらい大きくなるのだろうか。
 それともこれ以上はもう大きくならないのだろうか。
 いつまでも隠し通せるわけじゃない。少なくとも母さんたちには話しておく必要があるかもしれない。
「でもどうしたもんかなぁ」
 見せて、すんなりと受け入れてもらえるだろうか。警察とかに通報されたらどうしよう。
「お前が人間だったならな。いや、せめて人の姿になれたら、なぁ」
『…………』
「ああ、いや。ごめんな。別にその姿が嫌なわけじゃないんだ。好きだよ、イヴ。でも、二人で外に行ったりできないからさ。……夜中ならワンチャンあるか?」
 でも下手に見つかりでもしたら町で変な噂立ちそうだな。面倒ごとは避けたい所存。
「世知辛いなーイヴー」
『…………』
 仰向けになり、イヴの大部分をお腹に乗せて、蔓を手に取って色々動かした。イヴは成すがまま動かされてくれる。蕾と頬擦りして、じゃれ合う。
「ん?」
 それに気づいたのは偶然だった。
 イヴとよくキスをする頭ともいえる蕾。そこに繋がる太い蔓の一部がまるで瘤ができるように膨らんでいた。
「なんだ、これ」
 そっと手を伸ばす。ゴルフボール一個分くらいの小さな瘤。少し硬質な感じがするけど、触ってみた感じ他の蔓の表面と大差ない。
「イヴ、これなに?」
 聞いてみたがイヴはきょとんとするだけで、小首を傾げたまま何も言わなかった。何も言えないのは当たり前だけど。
 しかし、なんだろうこれ。悪い病気とかじゃないと良いけど。

 悪い病気かわからなかったけど、それが自然に治癒するということはいつまで経ってもなかった。
「やっぱりちょっと大きくなってるな」
 前はゴルフボールサイズだった瘤が、いまでは野球ボールの大きさまで膨らんでいる。中は何か入っているように硬いし、イヴ自身も何かわからないみたいだし、心配だ。
「痛くはないんだよな?」
 何度目になるかわからない問い。いつも通りイヴは頷いた。
 痛くはないというのは少し安心だ。だけど人間なら、自覚症状のない病気なんて幾らでもあるわけだし、完全に無害というわけにもいかない。
 かと言って、誰かに見せるわけにもいかないし。困った。
「ん? どうした、イヴ」
 イヴが窓をコツンコツンと蔓で突く。
 外? ん、何もない。
「……もしかして、外に行きたい?」
『…………』
 ややあってイヴは頷いた。
 それは初めての願望だった。色々、俺にシタいことをジェスチャーで言って来ていたけど、こう明確に外へ行きたいと言ってきたのは初めてだった。
「外か」
 考えてみればこれまでイヴは一度も外に出たことがない。外の道路を窓から見下ろすことはできるし、太陽の光を浴びることもできるけど、外には決して出たことはなかった。玄関前でさえだ。
 それは下手に見つかるとまずいからという理由だったし、親のこともあった。イヴの動いている姿は慣れないヒトからしたら少々刺激が強すぎる。
 本当なら駄目だと突っぱねるべきなんだろう。べきなのだろう、けども。
「……しょうがない、行くか」
『……!』
 この前も思ったけどこれから先、イヴがどんな姿へとなっていくか、どう大きくなるかわからない。もしかしたら巨人すら目じゃないほど大きくなるかもしれない。そうなったら、外に遊びに行くなんて夢のまた夢だ。
 なら、いままだ成長しきっていないと思われるこのうちに行ってしまうのはありかもしれない。俺だって行きたくないわけじゃないのだ。
「ただし、条件が幾つかある。一つ目はそうだな、これ、服着ていくこと」
 クローゼットから出した服を見せる。これに蔓などを通してヒト型を意識すれば、遠目なら人が歩いている姿に見えるだろう。
「あと、できるだけ蔓はまとめて服の中にいれて目立たないようにすること。真っ暗になった深夜に行くこと。もし人に見つかったらすぐに逃げること。セックスも主に俺が声出ちゃうからNG。守れる?」
 イヴは頷いた。服も俺のものだけど通して着る。うん、明るい場所で見たらすごく変。袖や裾から蔓や蕾の束が生えているのがなんとも不気味だ。
 でも暗がりなら、真夜中かつ街灯を避けさえすれば遠目ではわからないだろう。
「それと人の少ないところにしか行けないから、そう多くの場所には行けないぞ? それでもいいか?」
 イヴは何度も激しく、それこそ蕾が落ちてしまいそうなくらい頷いた。嬉しいの感情が嫌というほど伝わってくる。
 これだけでも駄目だと突っぱねなくて良かったと思えた。
 それに、これはかなり重要なミッションだ。イヴを外に出させてあげる、ということだけじゃない。もっと重要な意味がある。
「初デート、だな」
 そう、初デートなのだ。イヴと外での初のデート。思えば家でひたすらじゃれ合ったりセックスするだけだった。外に遊びに行くなんてことなかったのだ。
 これは少し、いやかなり気合が入る。デートなんてしたことないけど、妄想でなら幾らでもしたことがある。
 いままで培ってきた妄想力を発揮するときがいま、訪れたのだ。
 よし、やるぞ!
 俺の気合に応えるかのように、イヴが蕾を天井高く掲げた。

 母さんには友達のところに行くと伝え、イヴには窓から玄関前に降りて来てもらった。
 外は住宅街に加え、街灯もあるためイヴの姿をごまかすには少々心もとない。なので早々に抜ける必要がある。自転車を使おうかとも思ったけど、蔓が車輪に絡まりそうなのでやめた。
「早足な、イヴ」
 イヴには俺の服に袖を通してもらって、ズボンも穿いている。頭部分には中折れ帽を被ってもらっている。遠目なら男性に見えなくもない、はず。
 俺の足音に加え、やや不規則な靴の音。靴という概念のない植物なイヴには仕方がなかった。
 もう夜も遅いし、人通りは全くない。
「と思ってたのに。イヴ、こっち寄って」
『…………』
 向かいから自転車。イヴを建物側に寄せて、視界に入らないようにする。すれ違うまでの瞬間、心臓が相手に聞こえそうなくらい跳ねた。
「……ふぅ、危なかった」
 バレなかったみたいだ。街灯の真下でもなければなんとかごまかせるみたいだ。
 俺とイヴはより閑散とした住宅街へひたすら歩いていく。一応の目的地はある。気合こそ入れて外に出てきたが、正直行ける場所なんてほとんどない。
 何度か下見して、結局行ける場所と言えば住宅街を抜けたこの先にある寂れた公園だけだった。
 あと少し。だったのに。
「君たち、こんな遅い時間に何しているんだ?」
 俺たちを呼び止めたのは、ちょうど交差点を渡っている途中だった警察官だった。自転車に乗っているのだからそのまま行ってしまえばいいのに、目ざとく俺たちのことを見つけた。
 自転車を降りてゆっくりとこっちに来る。
「まずい……一番見つかりたくないのに見つかった」
 どうする。逃げるのは、無理だよな。イヴがいるし、あっちは自転車だし。かと言ってこのままだとイヴのことがバレる。どうする。イヴに普通の植物のフリをしてもらうか? でもそうだと服を着ていることの説明が。
「ちょっと君たち。高校生かい?」
 咄嗟にイヴを背にやって前に出た。苦し紛れの策としては最悪だっただろう。こんなのイヴを見せたくないって言っているようなもんだ。
「後ろの子も顔見せて。名前は?」
 当然ながら警官は目ざとくイヴに注意を向けてしまう。
「えっと、俺たち家すぐそこで。もう帰るところなんです、それじゃ」
「待ちなさい。名前と家の場所、教えてくれるかい?」
「ホント、大丈夫なんで」
 訝し気に見てくる警官の目が怖い。本当に怖い。イヴのことがバレたらどうなる。こんな事態を考えていなかったわけじゃないけど、よりにもよってこんな最悪のパターンを引くなんて。
 俺はイヴの手を引いて、早足で歩く。とにかく逃げたかった。が、また選択を間違えたということなのだろう。
「待ちなさいって、ちょっと君」
 警官の伸ばした手が、よりにもよってイヴの頭の帽子に触れた。
 はらりと中折れ帽がイヴの頭の蕾から滑り落ちる。
「ッ、まず、イヴ、逃げ」
「な、なんだこ、れっ……ふわぁ」
 イヴを庇おうとしたその瞬間だった。
 ぶしゅーと勢いよく何かが噴き出る音が鳴った。
 それは帽子を被っていたイヴの蕾から。そこから煙のようなものがもうもうと吐き出されていた。
 ピンク色の煙は警官の顔にまともに直撃し、イヴの姿に驚いたこともあってなんの対処もできずに無防備に吸い込んでしまっている。
 煙が晴れると警察官はぼんやり、いや恍惚な表情を浮かべていた。
 そして、俺たちに見向きもせず、自転車を押して俺たちと反対の方向へ歩き始める。
「へへへ、理沙ー、いま帰るぞー。今夜は寝かせないからなー」
 妻の名前、だろうか。女性の名前を呼びながらゆっくりとした足取りで警官は闇夜に消えていった。
「助かった……?」
『…………!』
 イヴがどこか誇らしげに身体を反らせる。えっへん、とでも言いたいのだろうか。
「あんなのもできたんだな、イヴ。あれ、身体に害はないの?」
 イヴは頷いた。ちょっと甘い香りもしたし、もしかしたら蜜の種類に入るのかもしれない。エッチな気分になる系の。
「なにはともあれナイスだな、イヴ。これで公園に行けそうだよ」
『…………♪』
 せっかくのデートが警官に危うく頓挫するところだったが、イヴのナイスな能力のおかげで無事切り抜けることができた。思ってた以上にイヴは多芸なのかもしれない。
 そうして無事、俺たちは公園に着いた。
 住宅街からも若干離れていて、寂れすぎているせいかホームレスの人たちの姿もない。不良たちもコンビニでたむろすることが多いのか誰も全くいない。
 ずっと前に植えられたまま放置されて無遠慮に佇む木々や、雑草たちの風に吹かれる音だけが深夜の無音を掻き消している。
「なんとか到着ー、ふぅ、無事辿り着けたなー」
『…………』
 レジャーシートを適当に広げる。さすがに雑草の上にそのまま座るなんて真似はしない。
 イヴと一緒に並んで座る。いや、イヴに関しては座っているという表現が正しいのかわからないけども。
 母さんの目も盗んで、住民たちの目からも逃れて、警官も追っ払ってなんとかイヴとデートに行くことができたけど、残念ながらこの場所である。ムードもへったくれもなかった。
 周りには何もない。公園とはいうもののそれは名ばかりで、遊具はほとんどが撤去されている。ベンチすらなかった。砂場の跡みたいなのが残ってはいるけれど、そこで遊ぶのは年齢的にも、あるモノが混ざっている可能性を考慮するだけでも除外される。
 だからこうしてレジャーシートの上に座って、まったりするしかすることは残っていなかった。
「デート……」
 デートってこれでいいのだろうか。いや、本当にただ単に外に出てきただけじゃないかこれ。デートっていうのは、もっとこう映画館行ったり、ショッピングしたり、甘いもの買って食べたりなんて思ってたけど。どれもイヴには厳しい。
 イヴは楽しめている、のだろうか。
 ちらりとイヴを横目で見る。
 遠くにぽつんとある街灯一つのみが灯り。近くは住宅街だし、空も明るい。暗がりにも目は慣れてきたのでイヴの姿を見ることはできた。
 俺の男物の服を着てゆらゆら蔓を揺らすイヴ。俺の視線に気づいたのか、蕾がこっちを向いて小首を傾げる。
 俺が返答に窮していると、イヴは俺の腕に蔓を絡めて来て肩に蕾を乗せてきた。
「っ!」
 こ、これはいわゆる、あの、腕組み頭肩乗せってやつではないかっ!?
 恋人にされたら嬉しいことトップ5に入るアレだ。
 こんな寂れた公園が、いまイヴにこうしているだけで百万の夜景を見ているくらいとても煌びやかに見えた。
 あ、うん、俺、もうイヴが隣にいるならどこでもいいや。イヴと一緒なら本当どこにいても満足できる。
「へへ、ぅへへへ……」
 ドキドキする。変な声が漏れてしまうくらいには。
 これでイヴも同じ気持ちだったら最高なんだけど。
「イヴ?」
 チュッと頬に柔らかいものが触れた。
 イヴのキスだった。とても軽いキス。でもそれだけで、イヴの気持ちが伝わってくる。嬉しいくらいに伝わってくる。
 言葉なんていらないのがわかった。寂れた場所でも、どんな場所でも、いつもと違う場所でこうして二人きりでいられることがとても嬉しい。
 俺も、イヴも。
「っ、イ、イヴ……」
 ズボンの中に滑り込む細いもの。何か疑問に思うまでもなく、それがイヴの蔓だとわかった。
 もうパンツの中に入ってペニスにくるくると巻き付いている。
「ちょ、セックスは駄目だって言ったろ」
『…………♪』
「え、何、これはセックスじゃ、ないって?」
 いや確かに蕾でやってないけど、くそっ、そう捉えたかこの淫乱娘はっ。なかなか強かというか、狡賢く育ってきてないか?
「イ、イヴ、もし通行人に聞かれたら、やばっ、んんんっ!?」
 蕾で口を塞がれた。主にうるさいのは俺。つまりその声が漏れ出る口を塞いでしまおうという考えらしい。
 確かにその選択は正しいけど、狡いぞイヴ。ああもう、そうやって蜜を飲まされたらもう俺も我慢できないじゃないか。
 絡みついてくる蔦。触手とはまた違う引っ掛かりのある感触で、パンツの中で竿を扱かれる。
「うぁ、んぐっむちゅっちゅじゅずず、ぷはぁ、あ、葉っぱまで」
 亀頭に裏側が触手突起でびっしりの葉っぱが覆う被さる。亀頭をとろとろつぶつぶの突起でにゅるにゅるにされて、竿を根本から激しく蔓で上下に何度も扱かれる。
 蜜で増産された精液はすぐに発射体勢に入り、玉袋から根本へと昇っていくのがわかった。
 ここまで来たらもう我慢なんて無駄だ。もうイヴは俺のペニスを知り尽くしている。どう扱いてどう刺激したらいいか、俺の弱いところはどこか完全に把握している。
 イヴにはもうエッチなことでは敵わない。責められれば屈服してこうして。
「ぅあ、出るッ……」
 ビュビュビュッ!
 降参の白濁汁を漏らすだけだ。
「はぁ、ハァハァ、イヴ、こらっ」
 軽くイヴにキスを何度も浴びせる。小突く代わりのキスだ。うん、言葉では言いつつもイヴに求められて嬉しくないわけがないのである。
 さすがに外でやるのはちょっと恥ずかしいから勘弁して欲しいけど。
 俺はちょっとした倦怠感のまま寝転がろうとする。
「ん、大丈夫? 重くないか?」
 俺の背をイヴの蔓が受け止めてくれた。レジャーシート越しとは言え、地面に寝転がるのに比べて断然心地いい。
「ありがと、イヴ。うん、良い寝心地だ」
 下手すればベッドよりもいいかもしれない。
「……こんな住宅街でも結構星って見えるもんだな」
『…………』
 俺の頭の横に蕾がある。俺とイヴは一緒に星を見上げていた。
 住宅街の灯りに掻き消される星の中、それでも闇夜に煌めく星があった。
 それも、二つ寄り添うように並ぶ一等星が。
「また来ような、イヴ」
『…………♪』
 どちらからでもなく、俺たちは手を絡め合う。
 決して離れないように。離さないように。
 あの双子星のように。

 だけど、俺の不安はいまこの瞬間も膨らんでいたのだった。
18/04/29 20:21更新 / ヤンデレラ
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■作者メッセージ
エロ成分マシマシな二話目でした。
多分、この話が一番筆が乗っていると思います。

警官はあのあと奥さんとズッコンバッコンしました。数日後、奥さんはサキュバスになったそうです。勤務中でしたが、何か変な力が働いて不問にされたそうな。

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