連載小説
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マーシャークにツツまれて
「リ、リエイさん。起きて下さい」

「むにゃ…ふぁ」

櫟蘿 博灯(いちら はくとも)は困っていた。
隣の恋人が起きてくれないからだ。

「リエイさぁん、起きてくれないと困ります…」

ゆっさゆっさと体を揺らしているとベットから落ちそうになるが。
くるくるとベットの外へとはみ出たリエイはプカプカと浮かぶ。

何を隠そう、ここは海の中である。リエイはマーシャークであるが博友は人間だ。

お察しの通りシービョップや海坊主が可能な儀式のおかげで水の中でも生活が出来る体となっている。
呼吸はもちろん、食事も睡眠も可能だ。
しかし、それと恋人との接し方はまた別物。慣れが必要なのだ。

「Zzz…んあっ!なになに!?地震?」

「ただの朝ですよ」

博友は恋人、リエリィ・ウノスクアーロ・コンエクストが呆けいてるところを冷静につっこむ。

「あっ、トモ君おはよ」

ふわっと男のところまでよると頬にキスする。
博友にはまだ慣れない習慣だ。

「あれ?うちにはしてくれないの?」

リエイに迫られ困った顔をしてると彼女は微笑む。
嘲笑ではなく母性の感じられるもの。

「良いよ、慣れるまでね。でも忘れちゃダメだよ?うちは博友君を愛してるってことはね」

「はい…」

嬉しいが未だに慣れないことだらけだ。
根本は人に愛されるということに。
細かいところでは愛してくれる人への接し方。

「ご飯、作りましょうか」

「一緒に作ろっか♪」

腕に抱きついてくるマーシャークは非常に嬉しそうな反面、博友は複雑そうだ。

「トモ君どうかしたの?」

これもそう。
とにかくリエイに好意的に見られることが違和感でしかないのだ。

「リエイさん…」

「んっ?」

柔らかな眼差しで頬を撫でてくれる。博友はそれ以上言葉は出てこなかった。

「なんでもありません…」

僕なんか、こんな何もない僕なんかを。
今覚えば勢いで自分を受け入れてくれたリエイに、同じく勢いで甘えてしまった自分。
ただただ、申し訳なかった。


ーーーーー☆ーーーーー


家の中ー水の中のーはなんと表現すべきであろうか。
地上と大差ないのである。
水で家が満たされているかと思えばそんな事はなく地面の上と同様に透明なのだ。
いや、正確には水で満たされている。リエイによると水の中が住処の魔物娘と共に住むことになった人間が違和感なく過ごせるように家に入っている水を無色透明にする魔術が家自体に掛かっているらしいのだ。

リエイをはじめマーメイド系統の魔物娘は泳ぐように動くことも出来れば博友は地上を歩くのと何ら変わらないように動いている。これ自体はシービショップや海和尚からの儀式の賜物なのだが。

ちなみに、当然リエイも仕事をしているが恋人が見つかると有給がでるという魔物娘特有の制度にて休日となっている。


「うーん、やっぱりおかしい!」

「うわっ!」

リエイが泳ぐように博友の上に移動し顔を頭の上から逆さに除かせた。

「トモ君なんか元気ないよね?」

ドキリとてしまう。もちろん、図星だからだ。

「な、何でですか?」

「うーんとね、うちの顔見てないから」

藍色の目は決して責める気はないのだろうがこちらを見据えそれが博友へのプレッシャーとなる。

「す、すみません…」

「何が?」

小首を傾げるリエイは博友の複雑な気持ちなど分からないのだろうか。
察して欲しいがそればかりでは埒があかないことを男はこれまでの人生で学んでいた。

「分かった!」

突然大きい声を出しリエイは博友の手を取る。
キラキラした目でこんな事を言い出した。

「“トモ君”ってやっぱり嫌だった!?」

ゴメンネと舌を出し悪戯な笑みを浮かべるとスッーと冷蔵庫まで泳ぐように向かいその扉を開けながら話し続ける。

「んじゃ、何が良っかなぁ♪」

博友君だからぁ…ハッ君、ハク君、トモ君、トモちん、、トミー、ダーリン。
正直博友にはピンとこないことこの上ないだけでなく最後の方はツッコミたいくらいだった。

「リエイさんの好きに呼んで下さい」

せっかく呼んで貰えるのだから何でも良い、注文をつけること自体烏滸がましいという感情。
しかし、リエイはそれを許さなかった。

「んん〜、それはどうなのかな。うちさ、博友君に言ったよね?」

卵とソーセージを取り出して朝食作りに取りかかろうとしていたが、また海の中特有の動きでずいっとキョリを縮める。

「うちがどう呼びたいかなんてどーでもいいんだよ!重要なことはその先!」

なんだか分かる!?
テンションに少し圧倒されるが懸命に会話を成立させようと言葉を発する。

「えーと、その…語感というか、語呂ですか?」

苦し紛れの答えに苦笑し、元気よくかつ、頬を染めつつリエイは放つ。

「博友君がどー呼ばれたら幸せかってことだよっ!」

頬に両手を当ててイヤンイヤンと腰をクネクネさせるマーシャーク。

「…ありがとうございます」

心の底からの言葉にリエイも満足げで、すぐに朝食へと戻るのであった。


ーーーーー☆ーーーーー


「博友くぅ〜ん」

空腹も満たされリエイの要望でまたベッドへと戻った二人。
すると博友を押し倒しリエイは甘え始める。

「やっぱりくっつくと男の子の体だね」

「そんなことは…」

もちろん、少し前まで病弱で仕事を追われるほどだったので平均と比べれば大したことはないのだが。

「んふふ…うちの優しい彼は逞しいんだあ」

これまた妙に嬉しそうなためそれ以上は何も言えなくなる。
が、リエイの言及からは逃れられない。

「むぅー!博友君言いたいことはちゃんと言わなきゃダメだぞ!」

ピンとでこを指で弾かれる。痛くはないがドギマギしてしまう。

「す、すみませ…」

「うちは謝罪なんて聞きたくないよ。だってうちは、唯一でも良いからキミが言いたいことを言って好きなように振る舞える相手になりたいんだもん」

博友は首に手を回され抱き寄せられると同時にふわりと良い香りが漂う。

「ね?だからさ、うちには何も隠さずに正直にお話しして欲しいな」

ニコッと優しい笑みを浮かべ頭を撫でられるとやはり素直にならざるを得ないところがでてしまう。

「リエイさん、本当に僕なんかで良かったんですか?」

「…一応聞くけど何のこと?」

ハンターの視線になっているリエイ。あの時と、博友が身投げから助けてもらった時と同じである。
自分でも分からないけれども、博友は怯まずに答える。

「やっぱり…僕は、リエイさんに合ってないと思うんです。だって綺麗で優しくて。出会いが無い海だったから僕を選ぶなんてそんなの勿体ないのに」

モゴモゴと口ごもる。
博友自身もくどい、ウザったいと思える思考だった。
それでも言わずにはいられない。

「あーあ、博友君気づいてないんだぁ。ふーん、そっかそっかぁ」

半分呆れ、半分は博友には分からない感情を覗かせるリエイ。
どういうことなのか、と聞く前に話は続く。

「うちだって誰でも良いわけないに決まってんじゃん!キミ、博友君だから良いよって思ったんだってば!」

これまでは怒りと苛立ちからなっている。が、だってさ、と続く言葉には慈愛が込められていた。

「博友君さ、逆に聞くけどなんでそんなに気にするの?」

「だ、だって、僕は幸せでもリエイさんが本当に幸せになってくれるかなんて…」

「そう、それ!!会ってさ、間もないうちのことをそんなに心配してくれる人じゃん。それってうちのことがどうでも良かったら無いわけでしょ?」

もちろんだ。
リエイさんは、こんな自分を救ってくれたリエイさんに幸せになれるかも分からない選択肢をとって欲しくない。


自分とではその選択肢になれないのではないか。


「うちの幸せ勝手に決めないでよ」

少し寂しげに、そして困ったような笑顔で投げかけられる言葉。
博友はガツンと殴られたような衝撃を受けた。

「そうですね、僕勝手に…」

「違う違う、博友君は優しいからこそ相手の幸せをもっともっと上の幸せにって。でも知ってた?」


“うち今すっごく幸せなんだよ”


ポンポンと頭を撫でられ抱き締められる。

「うちもまだまだキミの事は分からないし、過去の経験でうちの接し方がイヤかもしれない。だからいろんな事試さないとね!」

手始めに博友の思考を、感情を理解することから。
リエイは博友を愛している。
他人から見れば身投げをした博友を助け数時間で交際スタートというのは早すぎると思えるかもしれないがちゃんと強い気持ちを持っている。

「これを踏まえてさ。言いたいこと言ってよ。何でも良いよ」

うちが可愛いとかね!
リエイは冗談のつもりで言ったのだが、途端に博友は泣き出した。

「あーあー、ほらほら男の子でしょ…なんて事は言わない。うちの前では我慢しなくていいんだよ」

「僕、僕は幸せになりたいです。でもこれから働けるかも分からない、なんでリエイさんに好きになってもらえたかも分からない状態で辛いんです」

溢れる言葉がせき止められない。リエイもそれを受け止め笑顔を向けている。

「そかそか。ごめんね、うちも悪かったよ」

心に誓って優しい博友を愛していると言葉にすることを考えるが。
問答のように、博友も引かずに続ける。


「違います、僕が我が儘なんです。さっきも言ったとおりこのままではどうなるかも分からない僕がそれでもリエイさんと一緒にいたいと思ってしまって」

口づけ。
もう、分かった。だから言わなくていい。
よく言ってくれたね。ありがとう。

様々な意味が込められているリエイからのキスに頭も心も止まる。



長い時間繋がっていた唇が離れた。

「全く、博友君は我が儘だなぁ。でも良いよっ!うちがぜぇぇぇぇんぶ受け止めてあげるから♪」


ーーーーー☆ーーーーー


「んっ、んっ。ふぅ、博友君キスうまくなったね」

「そ、そうですか?僕はリエイさんとならずっとしていたいです」

天然で魔物娘を挑発するような発言にまた接吻を始める。
言葉で愛を確かめ合えば次は体。
これが魔物娘の常である。

「あんっ、なんか腰らへんに堅いものが当たってますねぇ」

嬉しそうに男の耳元で囁くマーシャークだがそれより先に手は動いてしまっている。

「リエイさん、お願いしても良いですか?」

「!!!」

ベルトを外し肉棒が露わなる寸前で待望の、博友からのお願いであった。

「もぉー、早く言ってよ♪なになに?口でファスナーあけて欲しかった?それとも命令されて羞恥に震えながらズボン下ろしたかった?うちだけ全裸にしてあざ笑いたかった?」

なんだろうか、確かに博友はさしてお願いもおねだりもしてこなかったのだがリエイは勘違いをしているようであった。

「リエイさん、僕が変な性癖を持っていてそれも込みで色々話さなかったとか考えてます?」

「違うの!?」

yes i do。
全く違いますよ。

「でも、確かに少し変なお願いをするかも知れません」

先ほどまでの、ある種リエイを信じきれていなかった博友では絶対に出来ない願い。

「僕に、いっぱい噛みついて欲しいなぁ…なんて」

リエイも少し驚いた表情だ。
しかし、みるみるうちに破顔し博友へ問う。

「そっかぁ、博友君。うちに噛まれるの、“愛される”のいつの間にか癖になっちゃってたかぁ」

うん!良いことだね!
誇らしげに親指を立て、露骨に嬉しそうだ。

まずは〜、と言ってズイっと博友へ近づきまたキスをする。
愛し合っているもの同士の舌を絡ませたキス。

「はむっ♪はむっはむっ♪」

お願いへの回答、その最初は舌だった。

言を発するために必要な器官を征服されもの申す事が出来ない博友。
その舌はジクジクと熱を帯びその口づけはとろけるように心地の良いものとなっていた。

「ん〜、ぷっは!次はこっち♪」

種族の能力であることを求められ、博友から本当に必要とされていることを感じノリノリのリエイである。
口元からフレンチなキスを繰り返し、博友の首あたりまで到着する。

「博友君、食べちゃうぞぉ!」

舌の時とはまた違う、少し痕のつく力で噛みつく。
痛みはそれほど無いがそれでも噛まれているという感覚は切に感じられる行為だ。

「ぼ、僕リエイさんに食べられてしまいました」

快楽に酔っておりどこか焦点が合ってないような博友だが構わずに今度は腕に噛みつく。

「どんどんいくよぉ!」

両腕、脇腹、腿、脹ら脛。
ハグハグと啄むように歯を立てられとにかく快感を感じ続ける博友。

「り、リエイさん。僕もう」

痛いくらいに立ち上がったペニスだけは弄られずに残されていた。

「ふぅ…博友君がうちのモノって証拠いっぱいつけちゃった♪」

持ち主は仰向けで、なおいきり立つ肉棒。
ガマンできないといったように博友の欲望からなるソレを手に取り自身の割れ目へとあてがう。

「少し早いけど、良いよね?うちもう博友君を全部食べちゃいたい」

「お願いします。僕もリエイさんに食べられたいです」

ズルルッ。
愛した雄を独り占めにし、欲望が満たされつつある魔物娘のソコは既にジュクジュクにとろけきっており博友の分身を簡単に飲み込んでしまった。

「んん〜っ。いつもよりカタいね♪もしかして、食べられフェチにでもなっちゃったかな?」

いつもなら何ですかその縁起でもない造語はと突っ込みたくなるが今は違った。
確実にその、ネーミングに近い欲望を博友自身も感じていたからだ。

たまらず博友が腰を突き上げる。

「んぁぁ!ズンズンくるぅ!」

「リエイさんの中ぎゅうぎゅうですっごく気持ちいいです!」

身投げから助けてもらったあの日。
初めて繋がった時からそれほど経ってはいないのだが心のキョリが縮まった今、結合部から生まれる快楽は計り知れないものとなっていた。

「んはっ、んぁっ。きゃっ!そこダメぇ!」

たまたま膣壁のザラザラとした感触の部分をなぞりあげリエイは乙女の声を出す。

「こ、ここがダメなんですか?」

息も切れ切れだがもっと、もっとリエイの可愛らしい声を耳にしたいと懸命に腰を突き上げる。
Gスポットなるところをなぞられ、突き上げられぎりぎりのところで動いていたリエイも、博友本人も限界を迎える。

「はっ、はっ、やだ!博友君のイジワル!そんな事されたら、うちイっちゃう!イっちゃうよぉ」

「僕もです!リエイさんの中に出したいです!」

「一緒だよ!一緒にイかなきゃダメなんだからね!」

絶頂を迎える本当に寸前、ガバッと博友に覆い被さり唇を合わせる。

「んんん〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

リエイの中のペニスは欲望を暴発させ、びゅくびゅくと精液を吐き出している。

ビクビクと何度も、何度も震えそのたびに幸せというものを噛み締める二人。

その格好のまましばらく、二人は繋がったままでお互いの温もりを感じていたのであった。


ーーーーー☆ーーーーー


魔物娘の休日らしくその後もずっと肌を重ね合っていた二人。
昼夕飯もイチャイチャを止まらずに
一日中愛し愛されていた。

就寝前。
二人は布団に潜り込み囁けば聞こえるキョリで目をつむりポツポツと話している。

「今日の博友君、意地悪だったよね。ヤダっていったのに気持ちいいところいっぱい攻めてきてさ」

「すみません、でもしたかったんです」

少し困っている博友を後目にクスクスと笑いさらに続ける。

「良いんだよ♪だって、言ったんじゃん。全部受け止めてあげるってさ」

やっぱりもう離れられないとだけ切に感じる。ここに自分の幸せはあるのだと。

「リエイさん…大好きです」

「うちもだよ、意地悪な博友君なんてうちしか知らないもん!」

手を少し握られまたドキドキしてしまう。
しかし、そこには後ろめたい気持ちはなくなっていた。

「リエイさん」

「なに?」

「僕のこと、博友君って呼び続けて欲しいです」

笑顔で、返ってくる言葉は当然のごとく肯定だ。

「そっか♪もちろんだよ。これからもよろしくね。博友君♪」

段々会話が途切れ始め、二人は眠りに落ちる。
その中で博友は決心したこと。




そう、明日の朝、おはようのキスを返すことを。




19/05/02 11:37更新 / J DER
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■作者メッセージ
皆様からコメントを頂き、その中でも小浦すてぃ様からの素敵な感想に喜びを覚え書かせていただいたモノ。
前回とのギャップは狙ったので萌え墜ちしていただければ幸い。

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