連載小説
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マーシャークにソメられてーソメてー

「博灯君あれなの?」

「あれ…ですか?」

博灯、男、櫟羅博灯(いちら はくとも)は不思議に思う。目の前のマーシャークは何がいいたいのかと。

「えーと、えーと…なんだっけ?」

「…?」

二人で首を傾げる。

「夕ご飯ですか?」

「違うよ!」

「うーん、僕が、何かなんですよね?」

「そうだね。うちもそこまでは分かってるの!」

困ったな…。
リエイ、リエリィ・ウノスクアーロ・コンエクストは良く言えば天真爛漫、悪く言えば脳天気というのだろうか。

しかし、博灯も真剣に考える。

「あー!もう!分かんない!気持ち悪いよぉ」

「なんだか分かる気がします」

軽く抱きついてきたリエイに慰めの言葉をかける。
言おうとしていたことが出てこないときのもどかしさがなんだか分かるような気がした。

「僕はいつまでも待ちますよ」

「ほんと?」

可愛い…。
上目遣いのマーシャークはいつも通り可愛いさ満点だった。

「はい、リエイさんとずっと一緒にいますから」

ニッコリ微笑み嬉しそうなリエイを見ると自分まで嬉しくなる男。

「それにしても、何でしょうかね」

「何だったっけな〜♪」

もう考えることを諦めているのか。
抱擁を楽しんでいるだけのようだ。

「リエイさん暖かいです…」

「そーお?良かったねっ!」

破顔して博灯に微笑みかける。鮫の腹、その特徴を持った白い顔も今はほんのり朱い。

「博友君、生きてるね〜」

「い、生きてるですか?」

突然の発言に少しどもるが、つい最近まで自殺を考えていた男にすれば感慨深い一言なのかもしれない。

「トクトクって心臓の音、スッゴく元気だよ」

「リエイさんの御陰ですよ。全部、今こうしていることが僕の幸せですから」

「えへへっ」

むふふっ〜、と悪戯な笑みを浮かべる
マーシャークの頬は桃色に蒸気しているが男は愛おしさが溢れ顔を直視できなくなる。

「博・友・くぅ〜ん、かぷっっ!」

するとリエイは博友の手を取り、その人差し指を甘噛みした。

「うっ、り、リエイさん。ちょっと…」

「イヤ?」

目を潤ませている上目遣いはまるでテンプレなぶりっこ。しかし弄ばれてることが分かっても博友は抵抗できない。

「も、もちろん、そんな事はないですが…まだお昼ですよ?」

「それもまた乙だねッ!」

「お風呂入ってないですが」

「全然汗かいてないよッ!」

「えーと…」

「あっ!!!!!」 

「はい!!」

急に、博友の胸に埋めていた顔を上げるリエイ。
博友も釣られて意味のない返事を返してしまった。

「博友君!うちのことさ」

「はい?」


“愛してる?”


急に、急で、急な質問。だが、そこに関しての反応はすさまじく早い男。

「愛してますよ」

ニッコリと大人な笑顔で博友は返す。
ハッ!と何か驚いた表情で固まっていたリエイもみるみる破顔一笑し、話し始める。

「ふふふ、すっかり素直になったね、うちのダーリンは♪」

雰囲気も最高潮で猫をなでる甘え声で博友を誘惑しようとするリエイだが、そこに邪魔者が入った。

ピンポーン

チャイムだ。妖艶な雰囲気を台無しにされ、さらに恋人までそちらに奪われる。

「はーい」

チャイムが鳴ったので応対にでる、普通の行為だ。
が、ソレが少し気にくわないリエイ。
嫉妬的感情に動かされ呼び出しから解放されるであろう恋人を待つことにした。

玄関手前まで向かいそっと壁から顔を出す。

「あー、これはうちではなくお向かいのお家になるかと」

博友が対していたのはマーメイドの宅配だった。
穏やかな声と柔らかい笑みで博友の言うことをきいている。

「あら〜、そうなんですねぇ。お騒がせいたしました〜」

「いえいえ、お疲れさまです」

社交辞令だろうが博友も笑顔で返す。
と同時に胸が締め付けられるような気がするマーシャーク。


博友が戻ってこようとしたので慌ててベットへと泳いだ。

「リエイさん、ただいま戻り…どーしたんですか?」

寝室に戻るが状況が理解できない。
博友はベットの上のリエイが頬をぷくっと膨らませてた原因が分からなかった。

「博友君のバカ!」

「ど、どうしたんです?」

怒っている、のは分かるのだが明らかに可愛い。
拗ねている子供の怒り方だった。

「博友君はうちよりマーメイドの方がいいよね!」

「マーメイド?」

先ほどから頭にははてなマークの連続でリエイがどこに引っかかっているのかイマイチ伝わってこない。

「マーメイドの制服可愛いよねっ!うちじゃ絶対似合わないもん!」

やっと先ほどのやり取りについてだと分かる。

ぷんすかと怒って頭から布団を被ってしまう。コミュニケーションの放棄により博友もどうすることも出来ない。

「何さ何さ…デレデレしちゃって」

ベットの上の小さな小さな山から声が聞こえてくる。
ここまで聞けば博友でも気づいてしまった。

「まさかリエイさん。あのマーメイドさんに嫉妬してます?」

「…」

一旦もぞもぞと布団が動き、ピタッと止まる。
愛しい顔は見えないが赤くなっているのが見なくても感じられる間。

「嫉妬じゃないもん。ちょっと博友君を盗られてると感じただけだもん…」

すみません、可愛いです。

声には出さないが博友は愛しさで悶えてしまいそうになる感情を覚える。
自分に嫉妬してくれる女性がいる事がこんなにも幸せだと思わなかった。

すると小さな山からちょこりと顔を出し付け加えられた。

「だ、だってうちマーシャークだし。普通なら結構怖がられる種族なんだもん。うちだって博友君に好かれるならマーメイドに産まれたかったよ」

「リエイさん…」

「うち、頑張って肌綺麗にしてるけど鮫肌だからざらざらしちゃってるし、目つきも上にとんがって怖いし、歯も…」

凹んでいるのが直に伝わるくらい俯いているが、博友が立っているのに対して布団にくるまって顔だけを出している状態のため何だかシリアスにならない。

博友は思わず笑ってしまった。

「な、なに!?うち何か変なこと言った!?」

白い、いや、白くて綺麗な頬を染めて必死に訪ねてくる。

「リエイさん、僕はリエイさんのこと大好きですよ」

ゆっくりと駄々をこねる子供に言い聞かせるような優しい口調だ。

博友の弱い部分を笑って許し、それどころか何もかもを包み込んでくれるリエイ。
そんな愛しい女性の弱い部分を見れて嬉しくなるのは可笑しいだろうか。

「言い訳はしません。さっきのマーメイドさんに浮ついた気持ちは微塵も無かったですがリエイさんに心配を掛けさせてしまったのなら僕が悪いです」

「い、いや、うちがワガママなだけだよ…」

「なら、もっとワガママをいつ言って下さい!僕は全部、受け入れます」

ソレを聞くとリエイはベットの山から這い出てちょこんと座する。
まだ俯きがちだがそれは照れからきているモノ。
そして最高の破壊力を持った上目遣いで一言。



「うち…博友君のお嫁さんになりたい…」



少しの間、時が止まる。
しかしそれは一瞬。

「僕で良ければ喜んで」

ずっと独りで、出会ったときは自信も無く生きることに絶望していた男は今、こんなにも人を愛すことが出来た。
不安がないなんてことは無い。
しかし、それが自分のワガママだとしても関係ない。

自分がそうしたいと感じたから。

「…えっ!?い、いいの?てか、うち言っちゃった!あ、あっ…」

目があう二人だがすぐに逸らすはマーシャーク。再度、滑らかな動きで布団へとダイブした。

「博友君見ないで!うち今スッゴく恥ずかしいから!いや!嬉しいよ?嬉しいけど本当にいいの?まだうちら会って間もないし、うち魔物娘だし!」

誰のためか。
懸命に言い訳を紡いでいるが既に博友の耳には何も届いていない。

普段なら出会って間もないというのは博友の台詞なのに。

ベットに腰掛けると布団へ向かい囁くように言った。

「リエイさん、これからもずっと。よろしくお願いします」

「う、うちだって!よろしくね!でも今は顔見せられないよっ!!」

声のトーンはいつもの通りに戻ったが少し語尾が震えている。
それは悲しみから来るものでは無いことを博友は確信しいてる。

「うぅ…恥ずかしいよぉ」

相も変わらず山の中で話し続け良い意味で複雑な感情を紛らわしているリエイ。

また何だか可笑しくなって博友は笑う。

「も、もう!笑わないでよ!博友君の意地悪っ!罰として後でいっぱいエッチするかんね!」

リエイはそろそろいつもの調子に戻るだろう。
しかし、先ほどとは二人の関係は違う。
これからは何もするときも二人、どんな感情も分け合い、愛を深めあっていくのだ。

「あっ!」  

「今度はどうしました?」

またひょこっと顔のみを出し博友に聞く。

「博友君!誓いのキスはしてくれないの?」
 
すっかりワガママな乙女モードのリエイに博友は嬉しくなってくる。
自分もリエイにだけは甘えられるようになれた。
今度はマーシャークに甘えてもらう番だ。



「リエリィ・ウノスクアーロ・コンエクストさん。僕はあなたの側を一生離れません。幸せにしますとは言えない僕を許して下さい。ただ、一緒に幸せになりましょう」

「うん!私だけでも、博友君だけでも
ダメだよ!二人で一緒にね♪」



そして二人はキスを越えてまた一つ深い仲となったのであった。




19/05/02 11:40更新 / J DER
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■作者メッセージ
日常の妄想はあるのですがこの二人に当てはめられるようなシチュエーションがなかなかでない中での3話目。
書き上げから日が浅いため誤字脱字が目立つかと。徐々に直していくのでスルーでお願いします。

それでは。

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