連載小説
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外風呂(夜桜見物)
 
〜貴方を灯しましょう〜

最近は雨続きで日照時間が少なかったせいか庭の植物達の育ちが悪い。予定していた花見も突然の大雨でドタキャンとか本当についてない。春先にこんなに雨が降るなんて滅多に無いはずなんだが、自然の事だからしょうがない。運が悪かっただけと思っておこう。しかし・・・雨か。洗濯物は乾かないし、出掛けようにも行きたい気分にならないし、どうしたもんか。・・・明日明後日は休みだから遠出でもして咲いてる所まで走りに、と行きたいところだがそこまで手持ちに余裕がある訳じゃない。正直な話、懐事情は少しばかり寂しいのが現実。今年の花見は諦めるしかないな。

「・・・つまんね」

どこかにいい場所が無いかな。隠れスポット的なやつ。誰にも邪魔されずにのんびり眺めれる場所・・・なんて都合良くあったらいいのに。全く、外を見りゃ雨、雨、雨。どう見ても散ってるよな。折角、ビールと酒用意して待ってたのに。毎晩ちびちび呑んで消化していくしかないか。

「今日は不貞寝して過ごすか」

いや、不貞寝しても時間が勿体無いだけだ。時間が無くて読めなかった小説を今の内に読んでおこう。とりあえず、こいつから読むか。



「よし、飽きた!」


やっぱ無理だった。気が乗らないのに突然小説読んでも全く進まない。時計見れば二時間ちょいしか経ってないし。なんかいい暇潰し無いか。そうだ、銭湯に行こう。暫く行ってなかったし、たまには気分転換しないとな。そうと決まれば早速用意だ。

「・・・あれ?石鹸とかシャンプーとか風呂道具どこに仕舞ったっけ??」

久しぶり過ぎてどこに置いたのか忘れてしまった。いや、そもそも置いてたっけ?・・・無いな、しょうがない近所の100均で買い揃えるか。



「540円になりまーす」

風呂道具一式揃えるのって、こんなに安かったのか。石鹸とかは家のを持ち出せばいい。それじゃ一旦帰ってシャンプーとか詰め替えて銭湯行くか。



「・・・んん?金玉ってこんなんだったか?もしかして俺・・・呆けた?ま、いいか」


「あら、いらっしゃ〜い」

あ、昔見た妖狐姉さんが居るじゃないか。やっぱり俺が呆けてたんだな。俺って案外物忘れする性格だったんだ。さ、入ろう入ろう。


「おおおーーー・・・、広いなあ。って、あれ?やっぱ何か違う気がする」

ガキの頃は確か・・・ここにサウナがあって・・んで、ここに電気風呂だろ?んで、こっちが流水風呂だった・・・はず?もしかして知らないうちに改築でもしたんかな。まぁいいか、別に困る事でも無い。まずは先に体洗うか。ん〜ふふ〜・・・む、隣の人・・・すっげーいい匂いするシャンプー使ってるな。

「・・・(一体何使って・・・あ!番台の妖狐さんが売ってるやつじゃないか!)」

くそっ、俺もこっちで買って揃えればよかった。次来たら絶対買おう。

「そういや、外風呂はどうなってるんかな。改築してるならきっと変わってるはず」


-カララララララ・・・・-


「おぉーー・・・、露天風呂とか五右衛門風呂とか贅沢すぎる!!・・・あっ!?桜が・・・」

外風呂の塀の外に桜が咲いてるなんて・・・、初めから此処に来れば良かった。時間勿体無い事したな。

「一本だけだが・・見事な桜だな。凄く綺麗だ・・・」

「綺麗だなんてお姉さん嬉しいわ〜♪でもね、・・・私には夫が居るの。ごめんなさいね」

「ぶふぅっ!!?」

ド、ドリアードだったのか・・、塀の外に生えてるからわからなかった。でも、旦那さんには悪いけど、暫くはこの桜を拝ませてもらおうかな。今年は一度も見れなかったし。

「・・・来年は花見行きたいな」

「あらあら〜、それなら良い場所を知ってますわ〜」

「えっ、マジ?どこどこ?」

うーむ、ドリアードってその場に固定されてるのになんで他所の土地の事がわかるんだ。不思議過ぎる。まあでも、いい情報聞けたし来年はドリアード姉さんのオススメスポット行ってみよう。と、いつまでも裸で突っ立って立ち話してるのもなんだし、岩風呂に浸かるか。

「ふぅ〜〜・・・いい湯だ。桜も見れて気分いいし」

ん、少し翳ってきたな。そろそろ日が暮れるか・・、お?急に明るくなった。

「んーー?あ!?上に提灯が何個も吊るされてる!夜桜に提灯か、風情があるな」

これって俺が好きな風景だわ。夜桜にほんのり灯りが燈る提灯。さらに岩風呂。最高じゃないか。

「最高の贅沢気分だ、これで隣に女の子でも居たら言う事無しなんだけど」

流石にそこまで贅沢言ったらバチが当たる。何事もほどほどが一番だ。夜桜と提灯を眺めるだけで充分満たされるし・・・満たされ・・・・ちょ、提灯が・・震えてる?

「・・・・・・・・へぅぅぅ〜〜・・・・」

「・・・・へっ?」

今、提灯が喋らなかったか?気のせい・・か。


ぐぅぅぅ〜〜きゅるるるる〜〜


気のせいじゃない!!明らかに提灯から聞こえてきたぞ!今のは何の音なんだ!?

「も・・・もぅダメですぅ・・・お腹空いたぁぁ〜・・・」


-ポンッ!!-


「・・・え・・えっ・・・女の子・・・、ま、待て!こっちに落ちてくるなあああああああああああ!!」

ダボォォォン!って音と共に見事に湯の底に沈む俺。もちろん知らない少女付きで。ぐ、ぐるじぃ・・・だずげで・・・・。









「・・・もぅ!!あれほど言ったじゃないの。お腹空いた時は無茶しちゃダメでしょ」

「ごめんなさぁぃ・・・」

どうやらあの提灯はこの子が化けていたようだ。

「本当はもっと・・我慢出来たんだけど・・。そこに居るお兄さんの匂いが凄く・・・美味しそうで・・我慢出来なくなって」

俺の匂い美味しそうって・・なんか変な妄想してしまうじゃないか。と、いうか俺って匂うのか・・、別の意味でちょっとショック。

「はいはい、しょうがない子ね〜・・、ところでそこのお兄さん」

「へ、俺の事?」

「此処に貴方以外に誰が居るのかしら。話は変わるけど・・・お兄さんは小さい子はいける口?」

「それって俺がロリコンみたいじゃないか」

「別に幼女趣味じゃなくてもいいわよー?ねぇ、今フリーならこの子と付き合ってみない?この子は貴方の事かなり気に入ったみたいだし」

女将さんの隣で顔を真っ赤にしながら俯いて両手の指を突き合わさないでくれ。


『そんな事されたら萌えるじゃないか!!』


「も・・・萌え・・る?」

「何でもないです、こちらの独り言ですから」

「それで御返事は?」

見た目、妹が出来た感覚っぽいけど・・はにかんだ姿が可愛いし、もじもじしてるのもポイント高し・・これはこれで有りだな。とりあえずここは気の利いた言葉を・・・

「来年、俺と一緒に桜を見に行かないか」

「・・来年ですか・・、それまで御付き合い出来ないのですか・・悲しいですぅ」

「ち、違う!そういう意味じゃなくて、来年もその次の年も一緒に桜を待たないか、って意味だから!」

言葉の意味を理解した途端に顔を真っ赤にするのやめてくれ。こっちも恥ずかしいんだから。腹の炎もすっごい燃え盛ってるし。

「はぁ〜〜〜・・若いっていいわねぇ〜。お姉さんちょっと妬けちゃうな〜」

いやいや、女将さんも十分若いですよ。鏡で御自分を見てくださいよ。ぅん?何?いきなり服の裾を引っ張ってどうしたの?

「・・浮気・・ィャ・・」

「しないしない。心配性だなあ」

ああもう、見てるだけで可愛いなぁ。頭ぐりぐり撫でてやろ。

「あぅ・・・、もぅ・・子供扱いしないでえ・・」

「んじゃ、一緒に帰ろっか」

「うん♪」



はぁ〜、誰かと一緒に帰るのっていいもんだなー。・・・少し幼いけど来年に期待。

「なぁ、・・・来年は夜桜見物にしような」

「どうして夜桜なの?」

「夜桜見物じゃないと提灯の良さがわからないだろ?」

「・・・ッ!?」

おーおー、顔真っ赤にしちゃって。アイタッ!?脇腹抓っちゃいかんぞ!

「・・意地悪」

頬膨らませてむくれる姿も良し!






              『早く来年にならんかな』






15/04/26 00:46更新 / ぷいぷい
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■作者メッセージ
今回のテーマはGARUさんからのリクエスト『岩風呂』『夜桜見物』『提灯オバケ』でした。

4月中のリクエストで良かった・・・。

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