読切小説
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魔王様が本気で世界を救うようです
 西暦2012年某日某所にて──

「この場にお集まりの諸君、既に連絡は届いていると思うが改めて説明させてもらおう」
 重苦しい口調で一人の青年が壇上で口を開いた。
「3月14日・・・ホワイトデーが近づいているのは誰もが知っている事だ。
 そしてそれにあわせて不穏な動きが国内で目立ち始めている」
 青年は背後のスクリーンを指差した。

「全国各地で非リア充によるカップル襲撃、および種族を問わない無差別テロ・・・
 人間として嘆かわしい振る舞いが罪の無い者達に被害をもたらしている。
 本来ならばこのような輩は断罪されて当然なのだ。
 だが今回君達を召集したのはもっと罪の重い輩を始末するためだ」
 青年は辺りを見渡した。

 辺りには真剣な表情のまま立ち尽くす女性・・・否、魔物娘達が勢ぞろいしていた。
それもスライムのような下っ端からリリムに至る大物までが青年の顔を見据えて。

「きたるホワイトデーにおいてリア充に対する無差別攻撃の予告が
 先日ネット上で公開された。発信元は『RDA』(リア充撲滅連合)総本部からだ。
 おそらく新たに生まれるカップル達に強襲を仕掛けるつもりなのだろう」
 魔物娘達の間に動揺が広がった。
 しかし青年が再び口を開くとすぐに意識を青年へと向けなおした。

「今回君達にやってもらうのは『全国のカップル達の護衛』
 及び『RDAによる恋愛妨害工作の阻止』だ。
 無用な被害を出す事は許されない。総力を挙げて挑んでもらう」
 スクリーンの映像が変わり、文字の羅列が映し出された。

「本作戦において我らからは勇者部隊及び魔術部隊を
 総動員して対処に当たることを決定した。
 残る騎士団は全国の治安維持に努めるが、教団との対立ゆえ
 ジパング地方への派兵はできない。
 そのため君達はジパングの妖怪を中心に本作戦を遂行してもらう事になった」
 再びスクリーンの映像が切り替わった。

「本作戦を遂行するに当たってジパングからは航空自衛隊及びSAT(の支援を、
 刑部狸の同盟からは資金を、クノイチ達からは現地の案内や援護の協力を取り付けている。
 作戦執行中に限りあらゆる支援を無償で行うそうだ」
 どよめきが魔物娘達の間で起こった。無理も無い。
ここまで大規模な作戦は史上初だからだ。

「阻止の手段は現場の諸君に任せる。捕まえた人間と結婚するもよし。
 連れ去って手土産にするもよし。好きにしてくれたまえ」
 魔物娘達の歓喜の声が響き渡った。

「説明は以上だ。くれぐれも気をつけてくれたまえ」
 青年・・・魔王の夫はこう言葉を締めくくったのであった。









 3月14日午前0時0分東京都某所──


「死ね、死ね、リア充どもなぞ死んじまえ〜! ビッチな魔物をやっつけろ〜!」
「寝取られ心を汚してしまえ!! 死ね、死ね、死ね死ね〜!!」
「リア充どもなぞ目障りだ!!」
「サバトとイケメンぶっ潰せ!! 死ね死ね死ね!!」
「世界の地図から消しちまえ!! 死ね!」

 どこから集まってきたのやら、リア充撲滅連合の組員が大声で叫びながら
町の中を行進していた。ヒステリックに暴れまわり無差別にカップルを
襲撃してホワイトデーの雰囲気をぶち壊して歩み続ける彼らに
気配を消して忍び寄る影が多数。戦いの火蓋は切って落とされた。

「これより攻撃を開始する。全員散開!!」
 何所からか響く女性の声。同時に周囲の明かりが一斉に輝きを失った。

「なん、なんだぁ?」
 周囲の変化に戸惑い、行進していた男達は行進を止めた。
「誰か明かりは──うわらばッ!」
「どうした──ひでぶっ!」
「あべし!」
 暗闇から次々と響き渡る悲鳴。辺りから甘ったるい匂いが漂い始めた。
この匂いは──

「敵襲だァーーーーーー!! 魔物に待ち伏せされてるぞ!」
 誰かの絶叫が夜の街に響き渡る。
同時にあらゆる方向から足音と雄たけびが沸きあがった。

「ヒャッハーーーー!! レッツパーティーー!!」
「ようこそ愛の巣へ!! たっぷり『歓迎』してやんよ!」
 ノリノリの口調で待ち伏せしていた魔物娘の集団が突撃し、
哀れな童貞たちを(性的な意味で)喰らいつくしに向かった。

「ヒイィッ! どこからくる!?」
「俺の側に近寄るなァーーー!」
 一転して童貞たちの悲鳴が町中に木霊し始めた。
星明りすら見えない都会の空の下では明るさに慣れた目は役に立たず、
空から地上まで婿に飢える性欲の権化達に逃げ道を絶たれた。
一方的な狩りが今始まる。

「さぁ、お楽しみの始まりよぉ〜♪」
 近くの建物から顔を出したサキュバスが集団の真上に何かを放り投げた。
空中でそれは弾け飛び、鉄のような匂いを漂わせながら童貞たちに降り注いだ。

「GAAAAAAAAAAAAAA!!」
 突如集団の中心から奇声を上げて行列を抜け出す男達が出始めた。
股間からイカ臭いお漏らしを垂らしながら魔物達の胸に飛び込む男達。
そのまま魔物に連れ去られる彼らの口からは嬉しそうな悲鳴が出ていた。

「うっひゃ〜。ウシオニの血ってこんなに強力だったのね。期待できるわ〜」
 先程のサキュバスが暢気な声で呟いた。
「よっしゃ、放水開始じゃ〜♪」
 隣にいたドワーフが携帯電話に向かって指示を出した。
すると通りの角から消防車がエンジン音を立てて走ってきた。

「まずはウンディーネの汚染水でシャワーと洒落込むとするかの。
 とりあえずやっちゃってくれ」
「Yes,Mam!!」
 返事と共に行列の端にいた男に向かって消防車が放水を始めた。
「冷てぇ! ぶへっ・・・止めてくれ!」
 汚染した水をぶちまけられて怯む男達。その隙を狙って魔物達が雪崩のように押し寄せた。

「よし、君に決めた!」
「お兄ちゃんにき〜めた♥」
「ウホッ、いい男・・・」
「掘 ら な い か 」
「「「「アッーーーーー!!!」」」」

 片っ端から蹂躙され、ものの十分すらかけずに童貞の集団は崩壊した。
しかし、魔物達全員が結婚できるだけの人数はいなかったため、
獲物を得られず悔しがる魔物達が地団駄を踏んでいた。

「おいおい、夜明けまで時間は有るんだし他の場所にも
 未来の旦那候補はいくらでもいるんだから
 そんなに悔しがりなさんな。ほら、さっさといくよ。ボケッとしてると皆取られちまうよ」
 アカオニが残された魔物達に発破をかけて慰めた。

「そうそう。お楽しみはこれからなんだから行かなきゃ損だよ」
 ニヤニヤ笑いながら電卓を叩き何かを計算している刑部狸。
こんな時でも金勘定をしているあたりがいかにも守銭奴らしい。

「さて、こちらも報告だけはしておこう」
 離れた場所でクノイチが携帯電話を手にした。
「こちら雛鳥。掃除は終わった。後は頼む」
 そそくさとその場を後にする魔物娘一同。
彼女らが去った後に明かりが復旧したが、その場に残されていたのは
できたてホヤホヤのバカップル達だけだった。




午前8時20分 ヴェネツィア・テッセラ空港

「午前8時ごろヴェネツィア・テッセラ空港にて
 テロリストによる大規模な占領事件が発生しました。
 現在も憲兵隊との衝突が続いており周辺道路の封鎖が行われています」
 淡々と説明を続けるニュースキャスターの背後にはずらりとならぶ警官が
盾を構えてテロリストと向かい合っていた。

「犯行グループは人質三百名余りの開放条件としてイタリア内の全菓子店における
 チョコレートの販売停止と破棄を1時間以内に行うよう要求しており、
 要求を拒絶した場合は航空機の撃墜を宣言しています。
 警察は長年カップルの誕生を妨害してきた国際的な犯罪組織RDAの犯行と
 断定しています」

 カメラが映し出している空港の正面玄関には武装した覆面の男達が
カップル達の頭に銃を突きつけて人質の壁を作り建物に立て篭もっていた。
しかも携帯式のミサイルまで所持しているため、着陸できずに空に留まる
飛行機までもが標的になっていたのだった。

「あなた〜!!」
「お嬢さん危ないから近寄っちゃいけません!!」
「落ち着いてください!」
「ママ〜!」

 包囲の外側では家族を心配する悲痛な声と警官が静止を呼びかける
声が飛び交っている。何人かが囲いを強引に突破しようと試みているものの、
数の多さには勝てず押し返されていた。

「畜生・・・折角彼女といちゃつけると思ってたのに・・・」
「もてない奴はデビルバグとつがってりゃいいんだクソッタレ!」
「ああ・・・無事で居てくれよ・・・アマポーラ・・・」

 その一方で現場の司令部では呪詛の声が響いていた。
恋人と甘い一時を過ごすために色々準備をしてきた苦労を
水の泡にされた挙句大規模テロに巻き込まれたプレッシャーに
苛まれ、険悪な雰囲気に包まれていた。

「GISはまだ到着しないのか!」
「後20分以内に到着する予定だ。それまで持ちこたえてくれ」
「もっと早く来られないのか!? 20分で人質の救出なんて出来るわけが無いだろ!」
 イライラを募らせながら無線機に向かって巡査が叫んだ。

「何とか持ちこたえてくれ。これでも精一杯なんだ」
「シィィィィィィィット!!」
 巡査は悪態をつきながら無線機を投げ捨てた。

「おうおう、ずいぶんと荒れてるなぁ。なんなら手伝ってやろうか?」
「あぁ?」
 巡査が振り向くとムッキムキ・・・ではなくムッチムチのミノタウロスが立ちはだかっていた。
「素人が口出しできる状況じゃねえ。さっさとひっこめ!」
 怒りに任せて口汚くミノタウロスに暴言を吐いた巡査。
にもかかわらず彼女はにこやかに笑っていた。

「なら素人じゃなけりゃ口出ししてもいいってことかい?」
「NOCS(治安作戦中央部隊)並みに腕がありゃな!!」
 その言葉を耳にするや否や彼女は豪快に笑い始めた。
「アッハハハハハハ!」
「何がおかしい!?」
 巡査は彼女に掴みかかった。

「いやいや、あんたがそう言ってくれたおかげでこっちは大助かりなのさ」
 そう言って彼女は鞄からボイスレコーダーを取り出した。
どうやら先程の会話を録音していたようだった。
「どういう意味だ?」
「なぁに、見てりゃすぐにわかるよ」
 ミノタウロスは携帯電話を手にした。

「おら、お前ら! お上のお達しだ。派手に懲らしめてやんな!」
「「「Mam,Yes Mam!!」」」
 スピーカーから大勢の女性の声が巻き起こった。

「・・・誰と連絡したんだ?」
「うちらの軍さ」
 携帯電話をしまいながらミノタウロスは答えた。
「さぁて、こっちも準備すっかな」
 踵を返して人ごみの中に紛れていった。

「軍・・・だと・・・」
 突拍子も無い発言に目を白黒させる巡査。
魔物が軍を呼ぶとしたら考えられるのはただ一つ。
それは──

「くおるぅらああああぁぁ!! 僻みで人様の幸せをこわすなああぁぁぁ!」
 空から怒鳴りながら急降下してくる影が複数。
それらは風切り音を轟かせ、一直線にテロリストのど真ん中に突っ込んだ。
着地による凄まじい衝撃波で周りにあるもの全てが無差別に吹き飛ぶ。

「うわあああぁぁぁ!」
 瓦礫と共に軽く5,6メートルは宙に吹っ飛ぶテロリスト達。
だが彼らは地面に叩きつけられて怪我をするような事にはならなかった。
なぜなら遅れて突っ込んだ影の一団が彼らをしっかりキャッチしていたからだ。

「人の恋路を邪魔する奴はうちらがおいしく食べちゃうぞ〜♪」
 影の一団の正体はハーピーの集団だった。
掴んだ男達をそのまま引っ張り上げ、素早くその場を離脱する
彼女達の下で他のテロリスト達が銃を構えていた。

「撃ち落とせ!」
 司令官と思われる偉そうなおっさんが指示を出したその時、
彼の足元の影から一人の女性が飛び出した。クノイチだ。

「足元がお留守だぞ」
 不意を突かれ、隙だらけの足に水面蹴りを叩き込むクノイチ。
バランスを崩して仰向けに転ぶおっさんの姿を捉え周囲の男が
銃を彼女に向けた。

「あんたらの相手はこっちだ!」
 クノイチの背後を守るように一人のドラゴンが躍り出た。
「ゲッ! ドラゴン!?」
 大物の登場に一瞬怯むテロリスト。その隙にクノイチは体勢を立て直した。

「ナイスアシスト」
 一言礼を述べると、クノイチの姿が空へと溶け込んだ。
「さて、君達には世間からご退場願おうか」
 どこかからクノイチの声が響くと、一人、また一人と男達の姿が消え去った。

「うわわ!」
 目の前で起こる訳の分からない出来事に怯え、辺りに銃を乱射する男達。
流れ弾が同士討ちを引き起こし、辺りは混乱状態になった。
「こんな状況で銃を乱射するとは基本がなってないな・・・命が惜しくないのか?」
 ドラゴンは翼を盾のように構えて弾丸を弾きながら大きく息を吸い込んだ。

「しばらく眠ってもらうぞ!」
 彼女は勢い良く回し蹴りを放ち、男達の武器を弾き飛ばした。
余波の風圧だけで突風が巻き起こり、周りに居た者は転倒し、
他の者を巻き込んで倒れこんだ。

「いってぇ!」
 しりもちをついてうめき声を上げる男達。
立ち上がろうと地面に手を着けると、手のひらにヌルッとした
妙な感触が広がった。みると赤い粘液みたいなものが付いている。

「はいはい、危ないものは女の子に向けちゃいけませんよ〜」
 粘液が集まり女性の姿を成した。レッドスライム達だった。
どうやら乱戦の最中にこっそり忍び寄っていたらしい。

「くそっ!」
 悪態をつきながら振りほどこうともがくが、相手が悪すぎた。
両手を絡め取られ、関節を固められて捕縛される仲間を見て
周りの男達は我先にと距離をとった。

「お〜い、後ろががら空きだよ」
 頭上から暢気な声が響いた。
振り向くといつの間にか展開していたホーネットの大群が銃を構えながら笑っていた。

「大人しくお縄に着け!」
 拡声器で大声を出しながら警告を出す別のホーネット。
圧倒的な数の差に観念したのか、テロリスト達は銃を投げ捨てた。

「よぉ〜し、そのまま頭の後ろに手をつけて伏せるんだ」
 警告に従って伏せた連中を手際よく捕縛していく魔物達。
その中でさっきのドラゴンが周囲の警察官に向かって歩いていった。

「ほい。制圧しといたよ。後はあんた達に任せるけどいいね?」
「・・・・・・あんたらなんなんだ?」
 目の前で起きた出来事にあっけに取られた警察官が訊ねた。

「ん〜? 魔王軍の勇者部隊ってとこかな」
「はぁ!?」
 勇者部隊と言えば動く事がない事で有名な精鋭中の精鋭部隊である。
そんな彼女達が目の前に現れるとは誰も予想していなかったのは言うまでも無い。

「いや〜うちの娘を傷物にしようとする連中がいるってんでちょっとばかり懲らしめに来ただけ。
 なにもあんた達を取って食おうって訳じゃないから安心しておくれ」
 ドラゴンらしくない砕けた口調で彼女は喋った。

「さぁて、旦那を迎えにいくとするかぁ」
 ドラゴンが思い切り伸びをしながら空港の中へと向かっていくと、
後を追うように他の魔物達も空港の中へと入っていった。
そして現場には縛り上げられたテロリスト達と解放された人質達が残された。

「とりあえず・・・逮捕するか」
 現場の警察官は混乱していたが、ひとまずテロリストの収容を始めるのだった。






 同時刻空港内──

「おら、さっさと歩け!!」
 不機嫌そうな声を出しながらカップルをどやすテロリスト達。
人質となったカップル達は空港の奥へと追い立てられていた。

「ねぇダーリン、私たち無事に帰れるかなぁ」
「大丈夫だよハニー。きっと神様が愛の力で助けて──」
「だまらっしゃい!!」
 リア充の神経を逆なでにするような会話に一括するテロリスト。
相当恨みが溜まっている様子だった。

「くそっ、リア充なんざ爆死しちまえばいいのに・・・」
 彼は涙を流しながら集められたカップル達を睨み、怒気を放っていた。
「今は我慢しろ。世界中のリア充を泣かせるのが先決だ」
 荒れる仲間をたしなめる別のテロリストは懐を探った。

「ほら、これで鼻をかめ」
「すまん・・・」
 もらったティッシュで鼻をぬぐってゴミ箱へ向かうと、ゴミ箱の中から妙な光が見えた。

「ん?」
 何が光っているのか確かめようと顔を近づけたその瞬間
ゴミ箱の中から拳が飛び出した。

「ぶべらっ!」
 うめき声を立てて吹っ飛ぶテロリストを見て一斉にゴミ箱へ注目が集まった。
「度し難いな。他人の不幸は蜜の味とは言えど、
 恋路を邪魔した挙句命まで奪おうとするとはな」
 ゴミ箱の中から低い声が響いた。
だが投入口から拳を突き出したまま喋っているその姿は隙だらけで滑稽だ。

「撃て!」
 指示の声と共に一斉に弾丸が突き出た拳をめがけて放たれた。
ゴミ箱は銃弾の嵐を受けて空中に舞ったが、なぜか血は一滴たりとも見られなかった。
その不自然さを調べるためにテロリストの一人が穴だらけとなったゴミ箱に近づいた。

「こりゃ玩具じゃねぇか」
 ばね仕掛けのビックリ箱に玩具の手にとスピーカーを仕込んだ単純な玩具だ。
さっき光って見えたのは電源ランプの明かりだったようだ。

「そうだ。けれど隙を作るには十二分に役立ったがな」
 先程の男の声が再び響いた。声の聞こえた方向を見ると、
どう考えても時代錯誤な出で立ちをした男が立っていた。
全身を包む金属の鎧にバカでかい槍。中世の騎士をまんま再現したかのようだ。
そんな彼を見てカップル達もテロリストたちも一瞬気が抜けてしまった。

「そんじゃ、作戦開始だ」
 合図をするかのように指を鳴らすと、
これまた古臭い装備に身を包んだ男達がぞろぞろ現れた。
しかし、その動きには無駄が無く、血で赤黒く染まった装備の見た目は
人々の恐怖をかき立てるには十分だった。

「全員散開!!」
 号令と共に怪しげな連中は一斉に動いた。
重装備にもかかわらず人間ではありえない速度で駆け、
一気にテロリストたちの眼前に迫った。

「ぬわっ!?」
 接近の風圧でよろめくとその瞬間に銃を弾かれ、
近づけまいと弾幕を張ればことごとく弾を叩き落され
ほんの数十秒すら立たない間にテロリスト達が半数以上討ち取られていった。
それもたった一人の死人も出さず、掠り傷一つ負わないままで。

「なんなんだこいつらは!?」
「助けてくれぇ!!」
 目の前で広がるあまりにも一方的な戦闘に恐れをなして逃げ出す
テロリスト達。だがそんな連中すら一人も逃がさず叩きのめす怪しい一団。
あっという間にテロリスト達は全滅寸前に追い込まれてしまった。

「もうどうにでもなりやがれ!」
 やけくそになったのか、テロリストの一人が空を飛んでいる航空機に向かって
ミサイルを撃ち込んだ。噴煙を上げて真っ直ぐに空へ吸い込まれていくミサイルを見て
空港の中に居る人々は息を呑んだ。

「余計な手間をかけさせないでほしいねぇ・・・」
 弓を持った男が空を飛んでいくミサイルを狙って矢を放った。
矢として絶対にありえない速度で飛んでいった彼の矢は、
ものの見事にミサイルの胴を貫いて撃墜に成功した。

「嘘だろ・・・」
 呆然とミサイルの残骸を見上げるテロリスト。
「ところがどっこい現実なんだなこれが」
 先程の槍を持った男がゆっくりと近寄ってきた。
さんざん暴れたにもかかわらず顔には汗一つかいていなかった。

「お前ら・・・本当に人間か・・・?」
 腰を抜かしながら槍を持った男に訊ねた。
「”元”人間だな。まあ体はれっきとした人間だ」
 男はテロリストの首筋に手刀を打ち込んで気絶させると
腰のバッグから携帯電話を取り出した。

「もしもし、こちら勇者部隊。制圧完了したぞ。次は何所だ?」
 その言葉に周囲の人々が驚いた。
「って事はお前らは魔王軍!?」
 その大声にカップル達の中で動揺が広がった。

「心配すんな。ただ魔王から『私の娘を攫った愚か者を懲らしめてこい』
 って言われただけなんでね。あんたらに手出しをするつもりはねぇ」
 携帯電話をしまいながら男は答えた。

「よぉ〜し、次は中東だ。さっさと行くぞ、野郎ども!」
「「「「「Sir,YesSir!!」」」」」
 号令と共に空港から疾風のように去っていった。勇者達。
入れ替わるように入ってきた警察官達によってテロリストは拘束。
イタリアの平和は守られたのであった。





午後2時 アフリカ東岸部ソマリア

「よぉ〜し、全員集まったな?」
 港のドッグの中で荒くれ者達が集まって打ち合わせを開いていた。
全員重装備に身を包み、近くに留めてある船も機関銃やロケットランチャーなど
強力な装備を搭載していた。間違いなく海賊である。

「今日集まってもらったのは言うまでも無い。
 あの忌々しいリア充を撲滅する日が遂にやってきたのだ!」
「「ウオオオオオオ!!」」
 唾を飛ばしながら大声で叫び、場の雰囲気を盛り上げるリーダーらしき男に釣られて
周りに群がる下っ端たちは雄たけびを上げた。

「今から紅海を航行する予定の客船アルクーディア号に向かう。
 催し物と称してシービショップたちの集団結婚パーティが開催されるその時に
 襲撃を仕掛ける。無論警護の船団が周囲に配置されているのは間違いないだろう。
 そこで、我々は部隊を二つに分けて襲う事にする」
 リーダーは机の地図に刺さっている待ち針の一つを指した。

「まず囮の先発隊は南西から漂流した振りをして接近する。
 船から約十kmの地点から信号弾を発射し注意をひきつけてくれ。
 使うのはそこの木造船だ」
 リーダーは船に乗っている木箱を指差した。

「十分ひきつけたらそこの箱から武器を取り出して攻撃だ。
 予告を出してある以上すぐに追跡がくるはずだ。
 もちろんまともにやりあったら勝てん。攻撃したらさっさと逃げろ」
 ついで別の待ち針をリーダーは指差した。

「その間に本命は水中から別の船に爆薬を仕掛ける。
 爆破が確認できたら水上から援護射撃をして船内への浸入を
 サポートだ。わかったな?」
「アイアイサー!!」
「よっしゃ、錨を上げろ! 出発だ!!」
 海賊達は真っ直ぐに船の停泊場所へと突っ込んでいったのであった。



午後6時 紅海 アルクーディア号

「さあさあ皆さんお待ちかねのウエディングタ〜イム!!
 この日の為に集まってくださったシービショップの皆さんと
 ポセイドン様にかんぱ〜い!」
「「かんぱ〜い!!」」

 華やかなパーティ会場に所狭しと並べられた料理。
グラスを片手に酒を酌み交わす結婚予定のカップル達。
幸せそうな顔を浮かべプールの中で式を行うその光景は
夕日に照らされてロマンチックだった。
だが──

「ふっふっふ、いい気になるなよ、クソッたれども。
 今すぐその面を恐怖で歪ませてやるぜ」
 そんな雰囲気をぶっ壊そうと企む輩がすぐ近くに牙をむいて待っていた。

「いくぞぉ〜!」
「「ウオオオオオオ!!」」
 信号弾が空中に青い輝きを放つと、すぐに近くの船から小さな船が
急速に接近した。おそらくは救助用のボートだろう。

「さて、と」
 木箱から銃を取り出して準備に取り掛かる海賊達。
後は近づく船を吹き飛ばすだけ。興奮で手に汗が浮かぶ。
そうしている間にぐんぐん距離が縮み、船の上の人影も見えるようになった。

「───」
 船のなにやら叫んでいるようだが波の音にかき消されて聞こえない。
だが最初から聞くつもりの無い海賊達には無意味だった。

「攻撃開始!」
 大声と共に一斉に攻撃が開始された。
周囲に響く轟音。衝撃に揺れる水面。
海賊達の船は一瞬にして沈められた──

「は?」
 何が起こった? 今攻撃したのは俺達のはずじゃあ・・・
「まったく、しょうがない坊や達ねぇ」
 海に投げ出された海賊達の周りにいつのまにかスキュラや
シースライムといった海の魔物達が包囲網を作っていた。

「飛び入り参加はいいけどちゃんと決まりは守らないとダメよ。
 さぁこっちにいらっしゃい」
「え? ちょっ、はぁ?」
 無理やり何処かへと連れ去られていく海賊達。重装備が祟って動けないため
成す術も無く引きずられていくのであった。

「みんな〜。新入りの相手をしてあげて〜」
 シースライムが大声を出すとメロウの集団が一斉に集まってきた。
「え? もしかして飛び入り君?」
「そうだよ〜。皆始めてみたいだから優しくしてあげてね〜」
「「「「「「「「「「「「「「イヤッホオオオウウウゥゥゥ!!!」」」」」」」」」」」」」」

 どんな地獄耳をしていたのやら、アルクーディア号の中からも
メロウ達が押し寄せて海賊達の服を引っぺがしにかかった。
さながらピラニアに襲われる水牛の群れのような有様である。

「苦節60年・・・・・・遂に旦那様が出来るわぁ・・・」
「駄肉とよばれ年増と言われ・・・耐え続けて甲斐があったわ・・・」
 感極まって涙まで流すメロウ達。
海賊達は彼女達の凄まじい爆乳に挟み込まれ、戸惑いを隠せなかった。

「おい、話を──」
「わかってるわ。脅してでも私達の愛を勝ち取りたかったんでしょ」
「安心して。私達は貴方達が寿命で死なないようにする準備はバッチリよ!」
 メロウ達は自己主張の強い胸を持ち上げた。
すると乳首から真っ赤な血が勢い良く噴き出したのであった。







@                作者からの補足事項  その1                 @

 魔物娘図鑑を見た君達はメロウが貴重な人魚の血を分けてくれる事は知っているだろうが、
その採取方法を知っている人は少ないのではないかな?
注射器とかで痛い思いをして血を分けていると考えているのなら断言させてもらう。

 そ れ は 間 違 い だ 。

 ホルスタウロスの項目を見てくれ。彼女達は妊娠して無くても母乳が出る。
そして母乳は元々は血液だ。彼女達と同様にメロウ達も妊娠しなくてもおっぱいが
出てもおかしくは無いだろう?

 え? 図鑑にそんな事載ってないって?
知るか! 俺はメロウちゃんが痛い思いをするシーンが書きたくねぇんだ!!
それに良く考えてみろ。愛しい嫁の赤ワインを吸いながら下の口に白ワインを注ぐんだぞ?
こっちの方が紅白そろって見栄えがいいじゃないか! 文句ある奴はもっとエロイ作品を書いて
そこのメッセージ欄で文句を書くように!! 以上!



@                           @                        @




「今日の為にいっぱいひじきとシジミを食べ続けてきたのよ。
 遠慮なんてしないでぐいっと飲んじゃっていいわよ〜♥」
 人の話を完全に無視しながら血の噴き出すおっぱいを押し付けるメロウ達。
必死になって海賊たちがメロウ達を引き剥がそうとしているが、まるで効いていない。

「毎年の事とは言え凄まじいわね」
 遠巻きに様子を見ていたネレイスが呟いた。
「ほんとねぇ」
 呆れた様子でマーメイドが餌食となった海賊達を眺めていた。

 海賊達は知らなかったようだが、このような海の魔物との集団結婚企画は
人魚の血を求めてならずもの達が世界中から集まってくるため非常に危険なのである。
こうしたハンター達から夫婦を守るためポセイドンは魔王とある協定を結んでいた。
それは──

「お〜い、大丈夫〜?」
 さっきから勢い良く近づいていたボートが彼女達の前に到着した。
「見ての通り大丈夫よ。」
 ボートの中の魔女に向かってネレイスは返事をした。

「じゃあいつもどおりでいいのかな?」
「そうね」
 近くの魔物達が海賊達の装備品と運良くメロウ達から逃げた生き残りを
ボートに引き上げた。

「お、お、お、お前ら、何すんだ・・・」
 さっきまでの勢いはどこへやら、すっかり怯えている海賊達。
そんな彼らにボートにいた魔女が語りかけた。

「ねぇ、おじさん達は何でこんな事したの?」
「・・・・・・」
 海賊は語り掛けに答えなかった。
「それじゃあ・・・お仕置きとお説教のどっちがいい?」
「・・・・・・?」
 質問の意図がつかめず海賊は首を傾げた。

「あのね、、海の神様とまおー様は一つけーやくしててね、
 悪さをしたおじさんはこくさいほーを守らずにお仕置きしてもいい事になってるの」
 海賊達の顔が凍りついた。
「でもね、わたしたちだけで罰を決めるのは不公平だからつかまえたおじさんに
 どっちがいいか決めてもらう事にしてるの」
 ニコニコしながら魔女が続けた。

「そういうわけだからどっちか好きな方を選んでね」
「・・・どう違うんだ?」
 海賊は魔女に訊ねた。
「お説教はバフォ様がつきっきりでエッチなお勉強を教えてくれるの。
 でね、お仕置きはお姉ちゃん達がつきっきりで下のお世話をしてくれるの」
「お仕置きで頼む」
 即座にお仕置きを選ぶ海賊達。既に諦めモードに入ったようだ。

「それじゃあお先に失礼するよ〜」
 魔女は捕まえた海賊達と共にどこかへテレポートしていった。
代わりに別の魔女がメモを持ってボートから出てきた。

「今日もお疲れ様。報酬はどうします?」
「それじゃあ後でいつものやつを届けてくれる?
 できれば山菜とかを多めで」
「あ、出来れば水の中で使える蝋燭とシャンパンをくれる? 来週が結婚記念日なのよ」
「はいはい、順番にお願いしますよ〜」

 集まった魔物たちの注文を手際よく記録していく魔女。
保存技術が発達した現代でも海底までは郵送システムが届かない。
こうした問題を解決するために海の魔物達はこんな風に
ならず者を捕まえて引き渡す代わりに陸地でしか調達できない品物を受け取っているのだ。

「はいはいここまで。これ以上はもっと捕まえないと引き受けません」
「え〜」
「東の方から怪しい船が近づいてるからそれを調べれば──」
「ちょっと行ってくるわ」

 水中に姿を消して東に向かってまっしぐらに泳いでいく魔物達。
その後海賊たちが捕まって海の平和が守られたのは言うまでもない。

 その後の捕まった犯罪者達がどうなったか?
もちろん教育的指導と言う名のおっそろしい罰が与えられていた。





 北海道 午後11時 牧場






「よぉ〜し、ろくでなしども!! よぉ〜く聞け!!」
 威圧感たっぷりに怒鳴るオーガ。
彼女の前には散々悪事を働いた男達が並ばされていた。
無論全員素っ裸である。

「人の幸せを踏みにじるような奴を豚箱になんざ入れさせねぇのが魔王様の考えだ。
 てめえらがちゃんと反省するまでみっっっちりしごいてやるから覚悟しておけ」
 ムチを持ったダークエルフが目を輝かせながら近寄った。恐怖で男達の体が強張る。
「まず最初は一年間みっちり勤労奉仕よ」
 ダークエルフが口笛を拭くとワーシープ達が集まった。
 
「今年中に一人当たり三人子供を孕ませなさい。できなかったら・・・わかるわね?」
「ヒイッ!」
 脅しに怯える男達にワーシープが抱きついた。
魔力によって眠気を催す毛皮によって次々と男達は眠っていった。

「全員眠ったな? じゃあ撤収!」
 オーガを始めとする見張り役の魔物達はその場から立ち去った。
眠った男達とワーシープを除いて辺りから動くものの気配が消え、
彼女達の下の口が肉棒を飲み込む淫らな音と愛液が飛ぶ水音だけが響いていた。

「〜♪」
 体を摺り寄せ気の向くままに相手を犯すワーシープ達。
魔物嫌いの人間達に襲われる事無くのんびりと楽しんでいる彼女達を
離れてじっと見つめているナイトメアがちらほらと現れ始めた。

「・・・・・・」
 ナイトメア達が無言で羨ましそうに男達を見ていると、気配に気が付いたのか
ワーシープ達が手招きして彼女達を誘い込んだ。それをみて恐る恐る近づくナイトメア達。
世にも珍しいナイトメアの集団が牧場の中に出来上がった。





@               作者からの補足事項  その2               @

 ナイトメアは臆病で特定の場所に住まないから滅多に会えないといわれているが、
実は高確率で会える方法が存在する。それは『ワーシープに襲われる事』だ。
元々ワーシープは眠らせてから相手を襲うためナイトメアの悪夢の能力と相性が良い。

 そのうえお互いに温厚な性格なので魔物同士で争う事も無いし協力すれば一日中
狙った男を寝かせずにいられるためこの2種族はとっても仲が良いのである。
だからワーシープがいればナイトメアも近くにいるのだ。

 だから良い子の皆は間違っても牧場でワーシープをいじめちゃダメだぞ。
綺麗なお姉さんが夢でも現実でも君の息子を搾り取ろうと擦り寄ってきて
童貞どころか人間を卒業させちゃうかもしれないんだからね。

以上!!




@                       @                     @





「どうする?」
 ナイトメアに向かってワーシープの一人が言葉をかけた。
「え〜と・・・」

 イア ガンガン犯るわよ  しっぽりがんばれ  わたしにまかせて

    まほうはやめて   こどもだいじに    めいれいするわよ

「じゃあ犯ろっか♪」
 ぐっと親指を立てて前を譲るワーシープ。
代わってナイトメアが正面に座り眠りこけている男にエロエロな夢を見せて
一時の安らぎを奪っていった。

「うえ・・・リア充なんか・・・えっぐ・・・」
「よしよし・・・いい子いい子」
 夢を見て泣き崩れる男を慰めながら息子の方も優しく慰めるナイトメア。
男の背中ではワーシープが暇つぶしに首筋や背中を嘗め回してくすぐっていた。

「もう一人ぼっちじゃないから安心して・・・ね?」
「ヴァニラさん、貴女は天使だ!」
 あっさり陥落してリア充の仲間入りをしてしまったこの男を皮切りに
他の男達もねっとりしっぽり犯されて3日と経たずに全員まとめて魔物娘が
好きになりましたとさ。





 3月15日 午前5時  魔王城 謁見の間 

「全部隊より報告! 我らの数の三倍に相当する敵を無力化! こちらの損害はゼロ!!」
「よろしい。婿をファックすることを許可する」
 魔王から許可を得て真っ直ぐに捕まえたばかりの旦那の元へと向かう魔物娘達。
後には山のようにうず高く積まれた辞表が残された。

「毎年の事とは言えこれは疲れるな・・・・・・」
 溜め息をついて辞表の封を切り始める魔王の夫。
バレンタインやクリスマスといった恋人の為の行事が来るたびに秘書すら退職するため
事務職を直々にこなす必要に迫られるのであった。

「でも今年も子供達が素敵な旦那様を見つけられたからいいじゃない」
 落ち込む夫に慰めの言葉をかける魔王。彼女はそっと夫の肩にもたれかかった。
「これが終わったら明日はお仕事休んであげるから頑張ってね ア・ナ・タ♪ チュッ♥」
「よし、本気出す」
 嫁のキッスで覚醒した魔王の夫。亜音速で辞表を処理し、
ほんの数分で全ての辞表を片付けてしまった。

「よし、今日はバック攻めだ!」
 鼻息を荒くして嫁と共に寝室へ突撃する魔王の夫。
魔王は毎年こうして世界の平和を守り、精力と勢力を増やしているのである。







12/03/20 16:45更新 / rynos

■作者メッセージ
今後の予定

ぬれおなご、ドッペルゲンガーのネタor以前書いた連載物の続きを執筆
いつ投稿できるかはまだ不明です。

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