連載小説
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古城の主U
敵軍動く。
その報は魔物達を色めき立たせた。


――――吸血鬼ラピリス

吸血鬼は玉座を立ち上がり、ワイングラスを高く掲げた。
愚かな人間に、我等の勝利に、魔物達の繁栄に、高らかに祝杯を挙げる。
そして、中の液体を一口飲み込むと、それを床に叩き付けた。

「征くぞ諸君」
「「はい!」」

彼女はそのまま玉座の間を立ち去る。
後につき従うのはバフォメット直属の精鋭部隊。
バフォメットが『獣っ娘部隊』と呼ぶ者達だった。

構成は『ワー』と付く者達。
ワーウルフ・ワーキャット・ワーラビット・ワーバットからなる混成部隊だ。
数は12人だが、これまでにバフォメットの指揮下で数多くの戦果を上げてきている。

ラピリスは北棟のホールに立った。

彼女は逃げも隠れもしない、薄暗く締め切ったこの場所で、人間達が自分の元にたどり着けるか、見学することにしたのだった。

ラピリスの元に斥候からの念話が届く。

(敵部隊、4個小隊に分かれて城内を進行中、うち2個小隊がこちらの斥候部隊と衝突を始めました)
(よろしい、後は奴らを所定の位置まで引き込め)
(りょーかい)

それは人間達に対しての精一杯のびっくり箱。
それを開けた時の人間の驚き、慌てふためく姿、それらを想像して彼女はにやにやと笑みを零す。




――――部隊長ビスマス

その騎士は全部隊に城各部を制圧するよう指示を出した。

敵からの狙撃を避けるため、城内中央棟を拠点とし、東棟・西棟の敵を駆除した上で、北棟にいるであろう敵軍の大将を攻略しようという物だ。

東棟には第4小隊、西棟には第5小隊をそれぞれ向わせ、中央棟を第2個小隊で制圧。
後に全軍でもって居館のある北棟を攻める算段だ。

「各部隊の状況は?」
「第4及び第5小隊がほぼ同時に敵の斥候部隊と思わしき集団と戦闘を開始しました」
「…敵の内訳は伝えてきたか?」
「ギルド兵の通信は要領を得ないのが欠点ですが、どうやらゴーストの部隊のようです」
「?…おかしいな、ゴーストは基本的に物理的接触が出来ないんじゃないのか?」
「はい…それが………憑依されるようです」

ビスマスは2・3考え事をしたかと思うと、魔術師に追い払わせるよう指示を出した。


――――第4小隊(東棟)

「きゃははははははは♪」
「うぎゃっ…」
「おい!しっかりしろ!」
「よそ見してると取り憑いちゃうぞ〜♪」
「ぎゃぁぁぁぁ」

そこはひどい有様だった。
赤かったであろう絨毯が敷いてある古風な造りの廊下をゴーストたちは壁と言う概念を無視して飛び回っていた。
彼女達は廊下に並ぶ扉などお構いなしに、何も無い壁や床、天井から飛び出し、兵士に飛び掛る。

廊下には第4小隊の兵士達が立ったり倒れてたりしている。
言うまでも無く、倒れている兵士は彼女達に憑依され、リアルかつ淫猥な妄想を流し込まれると同時に脳を睡眠状態に追い込まれてしまい、行動できなくなっている。

「くそっ、こいつら剣が効かないぞ!!」
「そんなことしても無駄だよ〜それっ!!」
「うわぁぁぁぁ!!!!」

彼女達には矢も剣も意味を成さない。
そもそも実体を持たない魔物なのだから。
そして、壁などの物体に関らず移動できるため、いわゆる普通の騎士では対処できないのだ。
そんな状況を打開するため、中央棟から呪法部隊が駆けつけた。
第5小隊の居る西棟へも向っているため、魔術師は10人程度である。

「ちょっと、あれ魔術師よ〜♪」
「あらあら〜それは大変〜みんな〜逃げるわよ〜♪」

そんな彼等の姿を見つけるや否や、ゴーストたちは壁の向こうへ逃げていった。
彼女達が居なくなるのを見計らい、体の動く兵士達は倒れた仲間の元に駆け寄った。
新たに駆けつけた魔術師達もそれに加わろうとする。

丁度そのタイミングだった。
第4小隊が仲間に気をとられ、魔術師達が僅かに注意散漫になった時、それまでまったく開く様子が無かったり、中に誰も居ないはずの廊下の扉が一斉に開いた。

「!!」

反応が一瞬遅れた。
それが致命傷となる。

扉から血色の悪い少女と全身に包帯を巻いた少女が現れると同時に、天井から何かが降ってきた。

「おぃ…なんだこいつら」
「ゾンビとマミーだ…なんて数だ…」
「まて、後ろを見ろ!!」
「ありゃ…バブルスライムとダークスライムじゃないか…」

第4小隊と呪法部隊の間はマミーとゾンビに分断され、既に互いが見えなくなりつつある。
そして、呪法部隊の上に降り注いだスライム達は各々魔術師をその体で捕らえていた。

「くそっ、放せ!!」
「おい、誰か炎術を…」
「だめだ…離れな…ウプッ」

彼らを捉えたスライムは揃って彼らにキスをすると、魔力と体の一部を流し込んだ。

「はぁはぁ…おいし……そう…食べちゃ……だめ?」
「だめだよ、後でマスターが沢山食べさせてくれるから、今はお仕事、んちゅ…」

とある、バブルスライムとダークスライムはそんな会話をしながら捕まえた魔術師にキスをする。
まもなく、魔術師達は意識を失っていく。
彼女達は意識を失った魔術師達を開いた扉の中に連れ込むと、まもなく扉が閉まった。
10人居た魔術師達はこれにより、全滅した。

一方の第4小隊は…

「くそ、何匹いるんだよ!!」
「黙って倒せ、囲まれてるんだぞ!」

互いに罵声を浴びせながら、壁のように連なって押し寄せるゾンビとマミーを切り倒していた。

「くそっ、化け物め!!死ね!死ね!」
「おぃ、危ないぞ!!」
「な…うぎゃぁぁぁぁ!!!放せぇぇぇぇ」

だが、20人ほどの人数で50人を超えるゾンビとマミーを全て退ける事などできる筈も無く、まもなく彼らは彼女達に体をつかまれ、彼女達が出てきた部屋に引きずり込まれた。


後に残るのは倒れたゾンビやマミー、一部自害してしまった人間、そして静寂。
中央棟まではここから10分程歩く必要があり、第1小隊・第2小隊がこの奇襲に気づくまで僅かに時間を要した。

そして、この発覚の遅れが第5小隊を壊滅に追い込むことになる。


――――第5小隊(西棟)

彼等もまた、魔物の斥候部隊と思われるゴーストと対峙していた。
ただ、こちらは魔術師の到着が早く、その人数は7割以上を残していた。

「助かった…」
「気を抜くな、あれはただの斥候部隊だ…実動部隊は他に居る」

長い廊下は驚くほど静まり返っていた。
先程までの喧騒が嘘のようだ。

「…一先ず任務が先だ…西棟を制圧しなければ…」
「われわれも同行するよう命令を受けた、一緒に行こう」
「助かるよ…うわっ!!!」

ある魔術師とギルド兵がそんな会話をしながら、手近な扉を開けたときだった。
扉の中は暗い水面のようになっており、そこから突然3人の少女が湧き出すように現れたのだった。

「じゃじゃーん!!餌がかかったよー」
「捕まえろーいー」
「頂きまーす」
「んな?!」
「おぃ、待て、放せこの…アッー」

正確にはそれは扉ではなかった。
扉に擬態した大きな箱だった。
箱を立てて、壁に埋め込んでいたのだった。
その施工は隣の扉と比べて違いが分からないレベルだ。

あっという間に2人は6本の腕に捕まれ、箱の中に姿を消してしまう。
そして、勝手に扉が閉まった。
一同が騒然となる。

「おい!なんだよあれ!」
「知るか!早く助け出せ!!」

慌てて別のギルド兵が扉を開けるが、そこは何も無いただの箱だった。

「これって…」
「ああ…ミミックの仕業だ」
「隊長…どうしますか?」
「…魔術師に感知してもらうしかあるまい」

隊長は箱を見据えつつ、指示を出した。
即座に廊下の全ての扉を魔術師が調べる。
魔力の流れが異常な扉に呪符を貼り付け、封じ込める。

まもなく全ての扉の確認が終わった。

「よし、次は部屋を全て調べるぞ」
「了解」

小隊長の指示を受け、それぞれが呪符の無い扉を開き、部屋の探索を開始する。
それぞれ4・5人の班に別れ、各部屋に突入した。
どの部屋も基本的には同じ造りをしており、衛兵が生活していた様を殆どのそのまま残していた。


とある、部屋ではギルド兵が5人、部屋に入り探索をしていた。
その部屋には古い家具は有っても、魔物の姿は一切無く、異常は見られなかった。
5人のうち、1人は常に誰かに見られている気がしたという。

そして、異常は無いということで5人は部屋を出たのだが、全員が廊下に出た時点で、人数が1人減ると言う現象が起きた。
姿を消したのは最後尾の兵士だったのだが、魔物が現れた気配も無く、魔術を行使した形跡も無い、不可解な失踪だった。


また、とある部屋では、兵士がふと上を見上げると、そこにはガラス張りの天井板を挟んで向こう側に蠢くたくさんのデビルバグがいた。
驚いて悲鳴を上げると彼女達が一斉彼に視線を合わせた。
腰砕けになりつつも、小隊全員が慌てて出口の扉に向うと…最後尾の1人の目の前で、前を歩いてた4人が一斉に消えた。

「!、おい…どこにいったんだ?」

彼が仲間の姿を求めて辺りを見回していると、天井裏に先ほどまで無かった姿が見えた。
仲間達は全員、ガラス張りの天井裏に転移させられていた。
いつの間にか書かれていた転移の魔法陣を踏んだらしい。

「ひっ…ひぃぃ!!」
「ほらーみんな、餌だよー」
「「「「はぁはぁ…もう辛抱たまらん!!!」」」」


響く絶叫と嬌声と悲鳴を背に最後の1人は廊下に飛び出した。

このように、各部屋がトラップだらけで、それらに掛かって戦線から外れる者が続出した。

結局それらが罠であると察知し、部屋から撤収するに至るが、それまでに受けた損害は全体の半分以上に及んだ。

「くそ…小隊長と副長は?」
「だめだ、さっきあの部屋に入って、落とし穴に落っこちた」
「糞ッ!、仕方ない、俺が代理で指揮を執る、まずは部隊の再編成だ…」

そんな中、数を減らした第5小隊及び呪法部隊に敵の実働部隊が迫った。

「!!、魔物が来ます!」
「どこからだ?」
「あそこからです」

魔術師の1人が示した先は、西棟の奥へ向う廊下、その曲がり角から魔物が顔を出していた。
残存数20を下回った第5小隊はそれでも迎撃体制をとるが…

「きゅ?」
「なぁ…あれ…」
「ああ…ワーラビットだ…あんな戦闘向きじゃない魔物がなんでこんなところn…っておぃ!!」

言葉を途中で区切り、震えながら指をさすその先には…
ワーラビットが廊下をこちらに向ってきており、その背後には、
ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス・ラージマウス。
おおよそ20人前後のラージマウスが薄暗い廊下の奥で瞳を爛々と輝かせている。

「冗談だろ?」
「…こっちが罠に掛かって数を減らすのを待ってやがった…おい通信できる奴、本隊に伝えろ!!、敵は烏合の衆にあらず、極めて集団戦に長けていると…」
隊長代理がそう叫ぶとほぼ同時に、ラージマウスの群れが弾け飛ぶ様に動き出した。

救援は間に合わない、兵士の誰もがそう思った。
それでも、飛び掛るラージマウスに対して抵抗を諦めなかった。

「糞っ、中央棟まで後退だ!!、お前ら、諦めるな!!」
「応ッ!!」

ギルド兵の1人が飛びつこうとするラージマウスを叩き落す。
が、次の瞬間、天井まで飛び上がり、そこから鋭角に跳ね返るように降ってきた別のラージマウスに押し倒されてしまう。
それを助けようとした別のギルド兵は壁を足場にし、飛びついてきたラージマウスに蹴倒される。
更に、ワーラビットが自慢の脚力で飛び上がり、天井を蹴って第5小隊の背後に回りこみ、数人のギルド兵と魔術師を仲間の元へ蹴り飛ばした。

「死ねェ!!」

そんな彼女にショートソードを持って切りかかるギルド兵も居たが、ワーラビット特有の身の軽さであっさりと躱すと、返礼と言わんばかりに腹に蹴りを見舞った。
そして、今度は壁に向って飛び、壁を蹴って、仲間の元へ飛び去っていった。

「何なんだよ、こいつらの動きは!!」
「身軽さ故ってか?、冗談じゃない!」

魔術師が1人、炎術で火の壁を張る。
だが、まもなく、どこからともなく現れた水球が弾け、辺りを水浸しにしてしまった。
魔術師は気づいてしまった、ラージマウスを指揮するワーラビットの更に後ろ、彼女が現れた廊下の曲がり角に居る赤い帽子を被り、動物の頭骨のついた杖を掲げる少女に。

「魔女まで居るぞ!!、もうだめだぁ…」
「くそっ、なんで西棟にこんなに魔物が潜んでるんだ!!」

火の壁は消火され、ラージマウスが重力にとらわれない動きで迫る。
後詰には魔女とワーラビットが控えている。
状況は最悪だった。

更に前衛の3人があらぬ角度から飛びついてきたラージマウスに押し倒されてしまう。
だが、しかし、彼女達は押し倒したギルド兵をそのまま犯すわけでもなく、ものの数秒で哀れな兵士から離れてしまう。
それでも、倒れたギルド兵は体を痙攣させるのみで、起き上がろうとはしない。
まだ無事なギルド兵達は疑問に思ったが、それを考えている暇は無い。
ラージマウスは動きを止めることなく後退するギルド兵達に迫って来る上、魔女が唱えているであろう魔術が断続的に飛んで来ては、廊下や扉を破砕していく。

「おい、誰かチーズ持ってないのか?」
「冗談言ってる場合か!」

絶望的な状況に脳の回路が切れたのか、とんでもない事を言い出すギルド兵まで現れた。
錯乱したギルド兵はあっさりと、眼前に迫っていたワーラビットに蹴り飛ばされる。
床に激突し動かなくなった彼にラージマウスが砂糖に群がる蟻のように飛び掛った。


「下がれ下がれ!!、全員喰われちまうぞ!!」
「くそ、魔術師、衝撃呪法で足止めをしろ!」

3人の魔術師が衝撃波を放ち、近くに居たラージマウスを弾き飛ばした。
その程度では倒すことは出来ないものの、足止めにはなる。

「殿に誰か志願しろ…俺達でここを食い止める」
「…私がやります」
「俺も…」

隊長代理の他にも魔術が2名とギルド兵が2名、その場に踏み止まった。
それ以外の敗残兵は本隊へ合流すべく、中央棟への廊下を駆ける。

「けらけら…たった5人なんて、無茶もいいところだよ〜♪」
「あははは〜♪」

ラージマウス達はいつの間にか整列し、列を成してじりじりと迫る。

「…魔術師…敵が近づいたらぶっ倒れるまで衝撃呪法で足止めをするんだ…近接は俺達に任せろ」
「分かりました…」

魔術師が詠唱に入った瞬間。
彼らの耳に幼声が響いた

「はーい残念、そんなの通じないよ〜♪」
「!?」
「うし…」

背後からの声に振り返る直前、5人は衝撃波を受け、ラージマウスの目前まで吹き飛ばされた。
不意打ちを仕掛けたのはもう1人の魔女だった。
彼女は部屋の中に仕掛けられた転移魔法陣から移動してきていたのだった。

「そんな……調べた時には無かったのに…」

女魔術師が1人悔しそうに呻いた。
それもそのはず、魔女が出てきたであろう部屋は彼女自身が調べていたからだった。

「何百年も魔術の研究に明け暮れていた我が主が、自ら組んだ術式を昨日今日魔術を齧ったようなド素人に解析できる訳、無いでしょう?」
「なんびょくねん…ですって…」

女魔術師が全身の痛みに苦しみながらも、思いついた魔物が4人、魔王、その夫、そして、魔王軍幹部バフォメットと、その右腕のヴァンパイア。
彼女は辛うじて首だけを起こし、自分を吹き飛ばした魔女を見る。

「まさか…この城の…吸血鬼って…」
「残念、いまさら気づいても、誰にも知らせることなんて出来無いよ〜情報戦略の甘さを後悔しながら、私達の晩御飯になってね〜♪」

最後に彼女の耳に届いたのは魔女の嘲笑めいた言葉、彼女の瞳に最後に映ったのは、自分の首筋に牙を向ける笑顔のワーラビット、そして仲間達に同じ事をしようとするラージマウス達だった。
10/06/07 14:06更新 / 月影
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■作者メッセージ
(´・ω・)だめだ、組織立って特技や魔術を駆使する魔物娘達に太刀打ちできる展開が思いつかない……というお話でしたとさ。

指揮系統や縄張り意識から、各小隊の編成を偏らせた結果、端っこから崩れていく状態です。
聖王都教会所属の騎士団のみで果たして、魔王軍の実力者に勝てるのか否か、
それを描いていけたらと思いますので、よろしくお願いします。

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