連載小説
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古城の主T
まだ日も昇りきらないとある早朝、場所はゼーゲル山の丘陵に築かれたロード・マイト城と呼ばれる古城から300mの位置にある、とある廃墟。
そこは、ゼーゲル山の中に切り開かれた城下町だった。

かつて、1000を越えた町人は既に亡く、過去の栄華を僅かに偲ばせている。

そして、この廃墟に300人を超える人間が終結していた。

彼らは聖王都教会の討伐部隊及びギルド・エルトダウンの構成員だった。

彼らがここに終結している理由。
それはロード・マイト城に居座り続ける魔物の討伐であった。


「先遣隊からの報告は?」
「第2部隊・第3部隊は城門前を確保、第1部隊は連絡がありません、第4部隊は現在、ワーウルフ・ワーキャットの混成部隊と交戦中」
「第2・第3は現状維持を最優先、第4は無理せず下げろ」

城下町跡地に築かれた討伐軍のキャンプで、指揮官の騎士ビスマスは舌打ちをしていた。

彼がイラつく理由。

それはここ3日間で3度使者を送り説得を試みて、全てが失敗。
使者は帰らぬ身となっていた。

そして、今も討伐軍の先遣隊と魔物達の前衛が磨り潰しあっている。

(状況は良くない…使者の説得にも応じず、先遣部隊が入り口を確保していても、動じる様子も無い…)

「ビスマス様、敵の前衛が下がりました」
「よし、本隊を動かし、城に突入する、急ぎ各小隊を集めろ」
「はっ!」

連絡に来た兵士を走らせ、彼自身も鎧と剣を身につける。



5分程して、町の広間に居た兵士は全員が整列していた。
ビスマスは整列した兵士の先頭に立ち、全員に向って大声を上げた。
「これから、敵が根城にしているロード・マイト城を制圧する、各小隊は正門から突入、ただちに分散し城内の各所を全力で奪え」
「「はっ!」」
「尚、当任務は魔物の討伐である、いいか、保護でも捕獲でもない、捕殺だと言う事を各員は念頭におき、躊躇しないよう」

「オーッ!!」

兵士たちの雄叫びが上がり、討伐軍の本隊が動き出す。
その様子はロード・マイト城からも良く見えていた。



――――ロード・マイト城玉座

「ほぉ…人間共が動き出したか…」
「そうじゃ…わしの用意した獣っ娘部隊は目下城内に後退中じゃ」
「ふむ…にて、何か情報は得られたのか?」
「そうじゃのぉ…人間達は城下町の跡地に陣を敷いておるから正確な数は不明じゃが、おおよそ250〜350人程度じゃな」

薄暗く締め切られた玉座で2人の人影がなにやら話し合っていた。

1人は玉座に座り、頬杖を付いている麗人。
色白の肌に赤い瞳、漆黒のマントを身に着けている。
彼女は吸血鬼、ヴァンパイアと呼ばれる種族だった。

もう1人は玉座から離れた所で胡坐をかいて座り込んでいる小柄の獣人。
手足が獣のそれであり、傍らに大鎌を携えている。
彼女は魔王軍の幹部、バフォメットと呼ばれる種族だった。

「…しかし300人前後で妾を滅ぼそうなどと…下等種の考えることは分からぬ」
「じゃが、今は朝じゃ、おそらく人間達はこの城におる者の正体を察しておるぞ」
「…確かに、人間にも多少猿知恵が働く奴がおるようだな」

しかし、とヴァンパイアの女性は手にしたワイングラスを揺らしながら続ける。

「下等種が必死になって編み出した雑煮のような魔力で妾に挑むと…これが笑い話でなく、何だと言うのか」
「自分の能力に胡坐をかいておる寝首をかかれるのと違うかの?、例えばわしとかな」

にやにやと笑い、鎌を翳しながら、バフォメットはヴァンパイアをからかった。
からかわれた方もどこか表情を緩めている

「…言いたいことは分かるがな…フェリン…汝とて、妾の実力…信じていないわけではあるまい?」
「分かっておる、大戦当時からわしの右腕であったラピリスに期待をするなと言う方が無理であろう」

2人は顔を見合わせにやにやと笑いあう。
そこに、褐色の肌と尖った耳を持つダークエルフが駆け込んできた。
ラピリスは不躾な奴と思いつつも、それが自分のお気に入りの娘であることが分かると、つい頬を染めてしまった。

「マスター、敵が城の正門前に集結しました」
「ふむ…来たか…」
「そのようじゃな…わしはこの辺で失礼するぞ、人間に見られるといろいろ厄介なのでな」
「ああ…世話を掛けた…後、借りた娘達はできるだけ無事に帰す」
「…無理をするな、わしとてお前を失うのは惜しい、それにこの作戦以外にもやるべきことは沢山有るんじゃからな」
「分かっておる」

それだけ告げると、フェリンは魔力を練り上げ床に魔法陣を描く。
彼女がそこに飛び乗ると、その場に光が溢れた。

「最後にもう一度だけ言うぞ…死ぬな」

ラピリスが言葉を返す前に、フェリンの姿は光に溶けてなくなった。
後には吸血鬼とダークエルフだけが残される。

「…分かっておる…お節介焼きめ」

彼女の独白を聞いたのはダークエルフだけだった。

まもなく、ロード・マイト城内にいる全ての魔物に念話が送られた。
発信者はラピリスであり、内容は戦闘の準備と作戦を伝える物だった。



――――部隊長ビスマス

彼は今、城門の前に立っていた。
無論、何もしていないわけではない、直ちに門を破るため、魔術師に指示を飛ばした。
現在、門は大きく歪み、後数回衝撃呪法をぶつければ崩れるというところだった。

「…開門と同時に各棟の制圧を行う」
彼は城の構造を思い出していた。

正門を抜ける開けた場所があり、門番や衛兵が詰める宿舎がある。
その背後にはすぐに城壁があり、侵入者を拒んでいる。
宿舎の裏に、城内に入るための扉がある。

城内に入ると中央棟がすぐにあり、そこから西棟・東棟・北棟に分かれている。
居館は北棟にあり従者及び城主が住んでおり、衛兵は中央棟、東・西棟に詰めていたそうだ。
城に居座る魔物の長はおそらく、居館のある北棟にいると思われる。

そうこう考えているうちに、門が破壊された。
直ちに、前衛が中に入り、周辺を確保する。
ビスマス自身も自分の部隊に指示を飛ばし、門を潜った。

「突入だ!!橋頭保を確保しろ!!!」

彼らが踏み込んだそこは小さな広場のようになっている。
人は居らず、物は朽ちていた。
広間の中央には井戸が掘られており、まだ水が汲めるのか水音が聞こえる。
正面に目をやれば、切り立った城壁が城を囲っている。

そして、北棟のすぐ横に立っている塔に目をやると、そこには数人の人影が見えた。
討伐隊が突入を終えたその時、塔の人影から朝日にきらめく何かが幾本も放たれた。

「弓兵だ!!物陰に隠れろ!!」

討伐隊には重装歩兵は居ない。
自然と手にした防具は小さな盾のみとなってしまう。
次々と降り注ぐ弓矢に対して、彼らは身を隠す他無い。
魔術師はそれぞれ得意の呪法で矢から身を守れるが、如何せん数が多い。

たちまち、矢を体に受けて負傷する物が続出する。

「くそ、救護班、負傷者を門の外まで連れて行って手当てをしろ!」
「はっ!」

矢を逃れた救護班が広場に倒れる負傷者の救助に当たる。
その間も間髪を置かずに矢が降り注いだ。
救助しようとした兵士数人が体に矢を受ける。

「呪法部隊、あの塔に衝撃呪法を撃て!」
「了解」

魔力を練り、魔法陣を塔に向けて展開する。
5人の魔術師が魔術の詠唱に入ったが、内1人が肩に矢を受けて倒れた。
だが、幸いにも彼らがそれ以上矢の的になることは無かった。

「「「「破ッ」」」」

4人が同時に放った術はバリバリという不快な音を立て、北棟横にある塔の上部を吹き飛ばした。
20人ほどの魔物が居たのだろうか、崩れる石塔の瓦礫に混じって人の形をしたものがいくつも落ちていった。

「各員狙撃を避けて、物陰で待機!」
「了解…しました」

過ぎること10分。
魔物側の動きは無かった。

「被害状況の把握と部隊の再編を急げ」
「承知しました」

ビスマスは副官のアノーサを捕まえ、指示を伝えた。
そして、彼は緊張した面持ちで、廃屋の陰に留まった。
アノーサが状況の把握と部隊の再編に走り回り、結論が出るまで10分を要した。

「隊長」
「ん…アノーサか、流石に早いな」
「被害状況の確認が完了いたしました」

アノーサは今年で19歳になる女騎士だった。
幼少から騎士としての訓練を積み、聖王都騎士団に入って以来、目覚しい活躍を見せる出世頭である。

「報告を頼む」
「最初の攻撃ので軽傷36名、重傷1名、死亡2名です」
「ふむ…それぞれの内訳は?」
「ギルド兵が20名、聖王都騎士団5名、魔術師3名、救護班5名です」
「軽傷者は戦列に復帰できそうか?」
「無理です、どうやら先ほどの弓矢…新種の麻痺毒を使用した物のようです、現状の準備だけでは、解毒剤の調合だけで1週間は掛かります」
「なるほど…分かった、部隊の再編成は?」
「既に完了しております、最も負傷者を出した、第3小隊を解散し、第4・第5小隊に合流させました」

淡々と報告を行うアノーサをちらりと横目で見つつ、ビスマスはこれからどのように攻城戦を行うか思慮に耽っていた。




――――副長アノーサ

彼女は報告を終え、思慮深い顔している隊長をそのままにその場を離れた。
周囲に気を払ってはいるものの、石塔を崩してから10分以上も敵に動きが無いところを見るとすぐに襲撃してくることは無いと彼女は踏んでいた。

(…しかし、なぜ致死性の毒矢では無く、行動できなくなるだけの麻痺矢を選んだのだ?)

答えが出ない問いをつい自分にしてしまったと頭を振りつつ、彼女は城を仰いだ。
明るい日差しに照らされながらも、どこか薄暗いその城は重厚な威圧感を持っていた。
彼女は多少気押しされながらも、考える。

(…後5分もしないうちに城内に突入するだろう…それまでに小隊の様でも見てくるか)

現在各小隊は広場の中にある廃屋の中や陰に入り、不意打ちを警戒をしている。

彼女は第1小隊が潜んでいる廃屋に入った。
その場に居る全員と目が合う。
50人を超える人数が狭い廃屋に潜んでいるため、非情に暑い。

(第1小隊……聖王都騎士団所属の人間が比率として多い部隊…異常は無い…後で隊長に知らせておこう)

それ以上そこに居ても仕方ないので、彼女は次に第2小隊が布陣している城壁の真下まで移動する。

(…確かにここなら狙撃は受けないが…)

彼らと目が合うや、彼らは一様に彼女に敬礼をした。
彼女自身も敬礼を返し、しばらく休んでいるようにと告げた。

(第2小隊…私が指揮する部隊…第1小隊とほぼ同じ部隊編成…よし問題無い)

彼女は城壁を離れ、第4小隊が布陣する大きな廃屋の陰に向う。
彼らはアノーサと目を合わせても言葉1つ発せず、敬礼もしない。

(第3小隊と同じでギルド兵が大半を占める部隊…指揮系統が少し心配だ)

続けて様子を見た第5小隊も同様だった。
そして最後に呪法部隊、彼らは第1小隊が詰めている廃屋の陰に居た。
彼らは本来魔物の領分である魔術を積極的に研究し身につけた者達だった。 

(薄気味悪いが、彼等の協力がなくては魔物との戦いには勝てないしな…)

挨拶を1つ2つ交わし、彼女はビスマスの居る廃屋の陰に戻ってきた。
救護班は現在全員が負傷者の移動と手当てに追われており、アノーサが様子を見ることは出来なかった。

「隊長、各小隊異常ありません、いつでも突入できます」
「ありがとう、こちらも準備は出来た」

そして2人は廃屋を出て、各小隊を1部隊ずつ城壁の陰に集める。
全部体を集合させ、ビスマスは話し始めた。

「各員、再編成した部隊の担当を確認し、それが済み次第城内に進攻する」
「オォー」

そして、彼らは足止めを受けた広場から移動を始めた。



――――吸血鬼ラピリス

彼女は不愉快だった。
城門を抜けてきた討伐隊に先制の打撃を加えたところまでは問題なかった。
だが、総定数の被害を与える前にダークエルフで構成していた弓兵部隊が大損害を被ってしまった。

何より、その中に彼女のお気に入りであり、参謀であるリィンが含まれていた。
ここ20分程の間、彼女は悲しんだり怒り狂ったりと手がつけられなくなっていた。

そこに奇跡的に軽傷で済んでいたリィンが現れ、ラピリスを叱咤し、正気を取り戻させて今に至る。

「…敵の様子は?」
「…現在広場にて部隊の再編を行っているようです」
「まだ来ないのか…こちらの配置と作戦は?」
「万事抜かりなく、ご心配なく、マスターの元に来るまでに奴らは根こそぎ打ち倒されます」

手足に包帯を巻き、右目に眼帯をつけてリィンはそう答えた。
後は敵が突入してくるのを待つだけ。


5分ほど、やけに時間が長く感じられ始めた時、斥候部隊であるゴーストから念話が飛んできた。

敵軍動く…と…
10/06/07 14:03更新 / 月影
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■作者メッセージ
今回は魔物の調査・保護では無く、反魔物派の騎士団と協力しての討伐任務となってます。
騎士団とギルドの混成部隊と統率の取れた魔物達だと人に勝ち目はあるのか?
という感じで書いていきます。


(´・ω・)関係ないですが、魔物娘キャラソートやってみました
1位から…シー・スライム、クイーンスライム、ダークスライム、レッドスライム、スライム…なんじゃこりゃ(笑
この娘らを題材にSSを書く予定ですので、よろしくお願いします。

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