連載小説
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後編 上 教会とベッドで戦闘
 爆音と衝撃

濛々と立ち込める煙の中で、オリアを抱えたリストの姿を確認する。どうやらうまくいきそうだ。

「じゃあね! ひねくれ勇者様!」
「じゃあな!ドS僧侶!」

そう最後の言葉を交わし、破れた天井から飛び立っていった。

さて、やりますか。

バイザーを下げ、臨戦態勢に入る。ブランクはあるがそれくらいどうってことない。

リストを追いかけようとするアーチを発見する。

煙の中からの一撃はあっさりと避けられてしまった。

相変わらず機敏な奴だ。

煙も晴れてきたし、いい加減名乗りを上げてみましょうか。

「結婚おめでとう、地獄からお祝いに来たぜ!」
まあ75点くらいだな。というか私、地獄と天国どっちに行ったのかわからないし。

「というわけで、あいつらが帰ってくるまで私と遊んで欲しいな」

アーチは呆然とこちらを見ている。よっぽど私のかっこよさに驚いているのだろう。

「…レイバなの?」

アーチがやっと口を開いた。

「想像にお任せします」

「なんで!?死んじゃったんじゃなかったの!?」

「そんなのはどうでもいいだろ?」
「それよりも、オリアのことはいいのか?」

「っ!そうだ、オリアさん!!」
教会の出口に向かって走り出す。

「まぁ、行かせないんだけどさ」
アーチの前に立ちふさがり、斧槍を横払う。これまたあっさりとかわされてしまう。
最初から当てるつもりはなかったがな …と負け惜しみを言ってみる。

「…どうして?」
泣きそうな顔をしながらこちらを見ている。罪悪感を感じるがここまできたらやるしかない。

「理由聞いても納得しないと思うし言いません」
「とにかく、今オリアは大変な目にあってるだろうとだけ言っておきます」

「レイバはそんな酷いことしない…」

「じゃあ私、レイバじゃないかもな。というか結構酷いことしてきましたけど?
何の罪もない山賊さんや奴隷商人さんたちを金銭目的で襲ったりとかね」

「どいて」

私の冗談が利かないほど怒っている。

「嫌だ」

「どうしても通りたいというならば、私を倒してから行くがいい。ふぁっふぁっふぁっ」
一回言ってみたかったんだよね。
教会全体にリストが用意してくれていた結界を展開する。私が倒れない限りは破れないだろう。


招待客も事態が飲み込めてきたようだ。こちらに視線が集まっている。何人かこちらに向かってくるものもいる。普通の人間相手ならば物の数にもならないがな。




「ほう…それならば手を貸すぞ花婿殿」

え? こいつもしかしてドラゴン?

「全く、結婚式に水を差すなんて無粋な奴もいたものね」

え? なんでヴァンパイアもここにいるの?

「オリア君とアーチ君の門出を邪魔するとは… 覚悟はいいな?」

デュラハンまで…

よく見ると他にも魔物娘が混じっている。まさかのモンスターハウスだ!!

「ありがとう皆…」

「お礼は後だ。さっさとこの賊を倒して、花嫁を助けに行くぞ!」

「…うん! ……例えレイバだとしても本気で行くからね?」

簡易の術式で小さくしていた弓矢と短剣を元に戻し、こちらに向けて構える。
どうやらハッタリでもなく本気のようだ。というか結婚式の時まで持ってきてるのか。

魔物娘たちも一斉に飛び掛ってくる。

「ゆ…勇者舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

想像以上に絶望的な状況である。
ヘルムで顔を隠していて本当によかったと思った。
涙でぐしゃぐしゃですから。


















「あ、いっけない。あいつにここが親魔物領だってこと教えてなかったわ」

「うがーー!!は〜な〜せ〜!!」
暴れるオリアを小脇に抱えながら一人呟く。あいつならあの数の魔物くらい大丈夫でしょ。

「放していいのかしら?」
オリアの体を空中に投げ出す。これくらいの意地悪なら許してくれるわよね。

「うわぁぁぁぁ!!!や、やっぱりはなすな!!」

「まったく、ワガママねぇ…」
落下中のオリアを掴まえ元の位置に抱えなおす。

「ワガママじゃないと思うんだけど…」
「それよりもリスト!何のマネだ!いくらお前だからってこれ以上すると怒るぞ!」

「もう怒られようが、恨まれようが自分の欲望に忠実に生きることにしたわ」

「むかしから、欲望に忠実じゃなかったか?」
きょとんとした顔で聞き返された。こいつに悪意が全くないから質が悪い。

「…さらに忠実に生きることにしたのよ」

「それはいいことだ、我慢はよくないからな!」
そうやってにっこりと笑われると罪悪感が半端無いわ…
あんたは嫌いじゃないけど苦手なのよ…

「でも、それとこれって何の関係があるんだ?」

無事家に着くことができた。追っ手が来てないことをみるとうまくやっているみたいだ。

「ちゃんとそこらへんは説明してあげるわ……

ベッドの中で だけどね」

「へ?」
家に入りそのまま寝室に連れ込む。

「さぁて…ダークプリーストのテクニック思う存分教えてあげるわ…」

一人で慰めた月日は幾星霜…今ここでその全てを発揮するわ!

「そ…そんなこと教えなくていいぞ!!って、ぁあ…いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

…これなら案外早く終わりそうね。
















「成せばなるってホントだよね…」

呻き声を上げ床に臥している魔物娘たち。しばらくは起き上がれないだろう。

助太刀に来た魔物の半分以上は返り討ちにすることが出来た。

よく考えればこの娘たちは町に住んでいるのだ。戦いの経験など殆どないだろう。にもかかわらず、アーチとオリアのために、私に向かってきたのだ。それだけ二人が慕われているということにうれしさを隠せない。

…手加減はしませんけどね。

「流石、勇者を名乗るだけはある。久々に滾るわ!!」

瓦礫の中からドラゴンが出てくる。いいのを一発くれてやったのにずいぶん元気そうで。
爪と尾から繰り出される連撃は戦闘経験によって裏打ちされた威力がある。

「本当に3人の仲間だったようだな、君を見くびっていたようだ」

服の埃を払い、剣を構えなおすデュラハン。惚れ惚れとするような剣術は、別の機会に見たかったです。

「……ふぐぅ…」

…ヴァンパイアはすでにのびている… 

昼間でも自信満々に向かってきたため一番警戒していたが、ドラゴンの攻撃で吹っ飛んだ瓦礫に頭をぶつけて戦闘不能のようだ。
何しに来たんだこいつ?

「……」

そして何より、厄介なのはアーチ君。遠くに居れば絶え間なく弓矢が飛んでくるし、近づくとナイフと格闘で翻弄するし、最悪です。
…やっぱり仲間だからそこらへん分かってるのかな。


 ヒュン! ヒュヒュン!

真正面から正確に鎧の継ぎ目を狙った射撃が再開される。
少し動けば鎧で弾くことが出来る。しかしそれは、休むことなく動き続けなければならないことを意味している。そしておそらく矢には麻痺毒が塗られているため、一発も貰うことができない。…アンデッドに毒が効くのか疑問だが、今は試したくない。

それを合図に私の右からドラゴンが飛び込んでくる。射線上に入らず格闘を仕掛けて来れる技量はさすがである。

左には剣を構えたまま動かないデュラハン。私がドラゴンとの戦闘で体勢を崩した瞬間を狙っているのだろう。それを許したらおそらく一撃でやられる。

そして少し遠くの後方には、まだ戦闘可能な魔物娘が何人かいるが、倒れている仲間を見て怯んでいるようだ。アーチたちをやっちまえば、もう私の勝ちだな。

デュラハンに警戒しつつドラゴンの攻撃をいなす。
どうにかアーチの射線に入れようとするがドラゴンは入らない。

「せい!」
右上段蹴りを斧槍の柄で受け止める。長年の相棒はこれくらいではびくともしない。

「まだだ!」
ドラゴンは右足を戻すため身を捩じらせ、その反動で上段から左爪を放つ。魔法銃で左手を撃ち攻撃を弾く、その衝撃で左腕からドラゴンは仰け反る。

ここで一撃お見舞い… といきたい所だが左にデュラハンが居る。攻撃に転じた瞬間に切りかかってくるだろう。ドラゴンもそれを狙って易々と体を仰け反らせたのだ。また、大きく動くと鎧の継ぎ目が見えやすくなる。今はひたすら我慢するしかない。

数が減り却って役割分担がしっかりと出来てしまったようだ。

こちらとしては持久戦は好都合ではあるが…何か狙いがあるのか?

ヒュッ

条件反射のように体を少し動かし、矢を弾く

…はずだった。

「がぁっ!?」

予期せぬ衝撃が体を走る。大ダメージとまではいかないが、全く予想していない痛みに体が硬直する。

「いつまでも、魔法が使えないと思わないでよ」

冷ややかな声で告げるアーチ。ひたすら弓矢を撃ち続けていたのは俺の警戒を解くためだったようだ。魔法矢なんて高度な技術まで使えるようになっていたとは…まったく、私はアーチを見くびっていた。

素直に敗北を悟る。

その刹那、ドラゴンの尾とデュラハンの剣とが風を切る音を聞いた。

12/07/12 04:02更新 / ヤルダケヤル
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■作者メッセージ
「見せたかったな〜俺の勇姿」

「記念用に撮ってあるよ!」

「…え?」

「……泣きながらハルバード振り回してただけじゃない」

「……」

「最後なんて守りっぱなしだし、情けないぞ」

「…グスッ」

ということで戦闘描写をちょこっと入れてみました。難しいね。
どのようにすれば、テンポよく分かりやすい描写が出来るのか。いろいろ頑張って探ってみようと思います。

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