連載小説
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中編 独白とコント



「……病める時も、健やかなる時も、
ベッドで正常位エッチする時も、風呂場でするローションプレイする時も、はたまた地下牢でSMプレイする時も!
共に果て、他の者に依らず、
死が二人を分かつまで、いえ!!死んでもなお!!愛を誓いますかぁぁぁ!?」
なぜかハイテンションのダークプリーストが牧師をしている。

「おう!誓うぜ!」

…ずいぶんアレンジされてるような気がするけど…まぁいいか。オリアさんも全然気にしてないみたいだし。…そういうところに僕は何度も救われてきた …そして惹かれた。プロポーズはオリアさんからになっちゃって、少しかっこ悪かったけど。


君が死んでから1年半も経つのか…
あんまり、あっさりと死んでしまうものだから、君への想いは伝えられず終いだった。
性別なんて関係ない。本当に君のことが好きだった。
友達のいなかった僕に話しかけて、いっしょに遊んでくれた。
僕の父さんと母さんが病気で死んじゃった時も、泣いてる僕の隣にずっと座っていてくれた。
勇者になった後も、変わらず僕の傍にいてくれた。
僕が、冒険に無理やり付いていっても受け入れてくれた。


いつも、戦士のオリアさんよりも前に出て、敵の攻撃を全部引き受けて傷だらけになってた。
君は

『いや、俺、前に出てるつもりないんですけど… おい、なんで後ろ退がってるんだお前ら! もっと前出ろよ… 俺ばっか攻撃受けてるだろ… ちょっと!!おい!だから退がるなってのに!完全に囮にしてるだろ!」

なんて照れ隠しを言ってたけどね。
なんでリストさんがあんなに攻撃魔法使ってるか知ってる? 口では言わないけど、少しでも早く敵を倒して、君の負担を減らしたかったんだよ。
オリアさんだって、君が攻撃を引き受けてくれてたから、いつも全力で攻撃することが出来てたって言ってたよ。
君がいなくなっても、頑張って旅は続けたけれど、君がいないから三人とも体じゅう傷だらけになっちゃった。


最期の最期まで僕の心配をしてくれてたよね…

『リストがまた裸でお前に襲い掛かってきたら、今度はオリアを頼れ、あいつならお前を助けてくれるさ…
でもリストだって本当にお前のことが好きなんだ。ただかなり歪んでるだけで。もし受け入れることが出来るならしてもいいと思うぞ? 歪んでるけど。


後、なんで俺のベッドの中に入ってるんだ…伝染るからでなさい。え? 俺が飲み残した水を飲んでも、寝てる間中、至近距離で寝顔観察してても、なんともないから大丈夫だって?
それ…俺が大丈夫じゃねぇだろ!!何やってんだおま……えうっ!!ぐ…』

…そういってたら、今度はオリアさんに押し倒されちゃったんだけどね。でも後悔はないかな。終わった後泣きながら、責任取るって言ってくれたし。…君のために取っておく必要もなくなってたしね。

こんなことばかり考えてたんじゃ、もし君が生きていたら、僕は今頃アルプになってたかもね。

まだまだ君との思い出はたくさんあるけど、泣いちゃうからもうやめにしよう。
結婚式で泣くなんてオリアさん困らせちゃうよ。

そう、これからはオリアさんといっしょに頑張るんだ。この結婚式が終わったら、君を忘れる努力をするよ。とってもとっても大変だろうけど…。でもそうじゃなきゃオリアさんに申し訳ないもん。



…リストさん、どうして来てくれなかったのかな。しばらくあってないや…

いろいろされたけど、本当はパーティの皆を一番気にかけてた、思いやりのある人だった。ちょっと抜けてるところもあるけどね。

いろいろされたけど、君がいなくなったパーティを一生懸命まとめてくれた。だから僕ら三人、こうやってここに住めている。

い ろ い ろ されたけど 大好きだよ。仲間としてね。

そんなに僕たちが付き合っていたのショックだったのかな? 僕とオリアさんがいっしょになっても、仲間はずれなんかしないのに…
もしこのまま、リストさんと会うことがなくなったりしたら嫌だな…

でも、リストさんのことだし、きっと大丈夫だよね!

「……愛をぉぉぉぉ誓いますかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

考え事をしている間に、進んでいたみたいだ。これから、変わらなくちゃいけないけど、オリアさんとなら乗り越えることが出来るだろう。

「…はい、誓いま…!!」

突然、何かが粉砕されるような轟音が鳴り響く。

教会の屋根に穴が開き そこから人らしき影が目の前に落下してくる。落ちた衝撃で煙が上がり視界が悪く、急な事態に誰も身動きできない。

「うわ! 何すんだ、やめろ!離せ!アーチ!」
その隙に影の1つがオリアさんを抱え、開いた天井から飛び去ってしまった。そのシルエットは、どこか見覚えのある姿だった。

「オリアさん!!」

後を追おうとする僕に、煙の中からハルバードが突き出される。とっさに後ろに飛びのいてかわすが、オリアさんの姿を見失ってしまう。
辛うじて回避できたが、突きの速さからかなりの実力者であることがわかった。


「結婚おめでと〜う、地獄からお祝いに来たぜ」


聞きなれた声。やや声が高い気がするが、間違いなく彼のものだ。

体が動かない。

「というわけで、あいつらが帰ってくるまで私と遊んで欲しいな」

おどけながら煙の中から出てきたのは、僕が愛して止まない彼だった。
















 教会突入前 町上空

「ちょ、ちょ、心の準備が…アーチになんて言えばいいかわからないです!」

「いらないわそんなもの! 得意のアドリブで誤魔化しなさい!」

「そんなの得意だったことねぇよ!?」

「教会の屋根から突っ込むわ、私はそのままオリアを連れ出すからあんたはそれの援護をお願い」

「お願いっていうか他の選択肢ないし」

「オリアを魔物化するには、少なく見積もっても1時間は掛かるわ…出来る?」

「出来るっていうかやるしかないんでしょ…」

「いちいち煩いわね、一回墜ちる?」

「この高さからちょっときついかな〜」


「そういえば、これが終わったら私はどうなるんだ?」

「…あ゛っ」
言うの忘れてやがったな…

「『あ゛っ』じゃないよ『あ゛っ』じゃ! 私ちゃんとあの世に帰れるんだろうな!?魂消滅とか笑い事じゃないよ!?」

「召還した後まで魂に作用する効果は、私が使った術式にはないわ。体内にある魔力を使い切れば自然に冥界へと帰っていくはずよ。
ていうか、あんた、またあの世に帰るつもりだったの?」

「当たり前じゃないか、このまま生きていられるはずないじゃん」

「この私が作った術式よ?侮らないで欲しいわね。魔力さえ補充すれば半永久的に活動可能よ!」
フフンと鼻を鳴らし自慢げにしている。お前が作ったから心配なんだよ。

「あっそ、まあ…どっちにしろ帰るつもりだけどな」

「…!!?…なんで? あんたが生き返ったって、別に誰も困らないわ。アーチくんもオリアもすっごい喜ぶわよ!? 町の人だってそんなの気にしないし……それに私だって…」

意外な返答に驚いているようだ。それどころか、目じりにうっすらと涙を浮べている。

「いつもそれくらいデレてくれるとかわいげあるんだけどなぁ…」

「あんたはそうやっていっつも茶化して…真面目に言ってるのよ!?」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、私はこれでも勇者って肩書きは気に入っててね。それらしく振舞おうと頑張ってきたわけよ」

「…そうは見えなかったわね」

「やかましい。そんな勇者である私は、アンデッドとして魔王の手先になってまで、生きたいとは思いません」

「……下らないわ…」

「下らないだろ? 下らないことって結構楽しいんだぜ?」

主神への忠誠でもない。勇者としての責務でもない。言うなれば趣味である。
私は勇者であることが楽しくて仕方なかったのだ。
誰かを守れること。困っている人に手を差し伸べれること。仲間たちと冒険に出れること。

…後ぶっちゃけると、気に食わない悪党をボッコボコに出来るのが一番楽しかった。
綺麗事ばかりじゃ勇者なんてやっていけませんよ?

全て、勇者だから出来たことである。ただの私だったらどれ一つ出来なかった。
これまでもそうであるように、死んだ後でもこの下らない趣味を続けていきたい。
…我ながらひねくれ者である。

「……あんたらしいわね。いいわ、私も私らしくキツく突き放してあげる」
言っても無駄だと諦めたのか、いつもの調子に戻った。

「自分がキツイっての自覚はあったんですね…」

「あんたに100万年くらい魔王城の掃除をさせようかしら?」

「やめてください。考えることをやめそうになります」

「……さぁ!教会が見えてきたわよ!」

「お〜 思ってたのよりずっと立派!」

「そうよ、この町で一番立派な教会なんだから。そこでアーチくんと結婚式なんてあの野郎…うぎぎ…」

「間違っても魔物化以外するなよ?」

「しょうがないからそうしてあげるわ」
教会にさらに近づいていく。

「ちゃんと掴まってなさいよ!」
徐々に高度を下げ、教会に一直線に降下していく。



「よし!!お前ら3人のために勇者様が一肌脱いでやりますか!!」
自分に付いて来てくれた3人への、最初で最後の恩返しになればいい。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫びながら私は教会の屋根を蹴破った。


12/07/10 10:23更新 / ヤルダケヤル
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■作者メッセージ
「なんでこんなギリギリに蘇らせたんだ!」

「追い詰められないと仕事が出来ないタイプなの、私」

「……」



まさかの中編、思ったより後半が長くなったので分割ということになりました。意外にも、一番真面目な性格なのは勇者だったりする。

はい、コッテコテです。使い古されて陳腐化一歩手前みたいな感じですが、何事も腐りかけが一番美味しいということでここは一つ。

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