連載小説
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バフォ兄妹道中記
〜拠点〜

「そういえば僕、前から気になってたんですけど
 デュラハンって誰かに師事していたことがあるんですか?」

「ん、なんだ突然」
「いえ、妙に構えが綺麗なので・・・・」

二人で話していると、そこにDエンジェルが入ってきた

「ん? 師匠のこと? デュラハンは確かに教わってたわね、剣術や体術、簡単な魔法とかも」

「Dエンジェル、お前だって師匠に色々教わってただろう?
 信仰に背いたから光の術が使えなくなって、代わりの術を簡単に教わってたじゃないか」

「え、お二人とも師匠が同じなんですか?」

二人は頷く

「以前、姐さんの話をしたでしょ? あの人の「お兄ちゃん」が師匠なの」
「良くも悪くも破天荒な人だったな・・・・・・」

あの人はすっごいわよ〜、とDエンジェルはさも面白げに笑った

「まず、昔は教会にいたらしくて騎士をやっていたそうなの
 しかも当時から強くて敵無しの状態だったらしいわ
 で、そのあまりの強さを恐れた上層部が追放しちゃったんだって」

「その後の行動が凄いんだ・・・・・・
 己の強さを極めようと単身魔界に入った挙句、出会った魔王軍をことごとく打ち倒し
 ついには魔王城に攻め入ったらしい・・・・・・・単独で」

「そ、それは・・・・・・」

なんというか・・・・めちゃくちゃな人だ
伝わってくるイメージでわかる・・・・・・・・

「その頃に姐さんに会ったんだっけ?」
「そう聞いている 
 なんでも、姐さんが手も足も出なかったらしい
 まあ、姐さんの実力は今のバフォ様より下だが、それでも我々にとっては雲上の領域だ
 負けるなど微塵も思っていなかったろうな・・・・・・
 当時の姐さんの宮殿が吹っ飛ぶような激しい戦いだったと聞いている
 ちなみに、姐さんは半殺しの目にあったらしい」

「えっと・・・・もしかして、その時に・・・?」

「うむ、惚れ込んでしまったそうだ」
「盛大に、ベタ惚れでね」

凄まじい出会いだ・・・・・・・
半殺しから始まる恋愛って・・・・・・

「で、治療もそこそこに師匠についてっちゃったわけよ、姐さん
 そしたら将軍クラスと相打ちになって死に掛けてる師匠がいてね」

「自分の治療も済んでいないのに、師匠の看病を必死でしたそうだ
 師匠の目が覚めるまで、三日三晩でな
 そして目を覚ました師匠が事情を聞いて姐さんに惚れた、と」

「は、半殺しから始まって半殺しで終わる恋愛事情・・・・・」

「その後はしばらく姐さんと一緒に魔王軍で仕事してたんだけど・・・・
 ほら、あの人って破天荒じゃない?
 だからデスクワークが性に合わなかったらしくって10年前に出て行ったのよ
 "飽きたから旅に出る"って書置き残して、姐さんと」

「どんだけフリーダムですか」

「まあ、師匠だからな・・・・としか言えん
 そういうわけで肩書きだけ残して職を下り、
 今は魔王軍に在籍だけしている状態なんだが
 ・・・・まあ元気にしてるだろう、師匠だし」

「そうね、師匠だし」

「断言ですか
 ・・・・・・・どんな人なんだろうなー」

「人っていうか・・・・まあ、もうインキュバスだけどね」
「人間だったときよりパワーアップしてるらしいぞ、化け物だな」

デュラハンとDエンジェルが互いに爆笑する
少年も、それにつられて笑うのであった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



〜だいたい同時刻、ある山中〜


「ぶえっくしょん!!」

長い金髪を一つに束ね、細身で全身黒服の青年がくしゃみをしていた

「ん? 珍しいではないかや、風邪か?」

彼の傍らにいる、ジパングの衣装「十二単」を着たバフォメットが彼を気遣う

「む・・・・誰か噂をしているのかもしれんな・・・・」

ずずっ・・・と彼は鼻をすする

「ふむ、きっと兄殿がカッコいいと巷で評判になっているやも知れぬのう」
「そうなると、俺の周りに女が寄ってくるわけだが、いいのか?」

青年は意地悪く笑う
それを聞いたバフォメットは慌てたように手をじたばたさせた

「な、ならぬ! 兄殿はわらわの兄殿じゃ!!
 他のおなごが手を出すことは許さぬ!!」

青年は彼女の慌てた様子を見ると、笑いながら彼女の頭をぐりぐりと撫でた

「くはははははっ! すまんすまん、からかい過ぎたな
 心配しなくとも俺はお前以外の女に興味は無いぞ?」
「む、むう・・・・兄殿はいじわるなのじゃ・・・・・・」

それを聞いて青年は再び笑う


そう、この青年こそがデュラハン達の「師匠」であり
傍にいるバフォメットこそが「姐さん」だった





「しかし・・・・誰ともすれ違わないな?
 地図によると、この先に大きな街があるはずなんだが」

彼は地図を見ながらつぶやく

「雲行きが怪しいしのう・・・・
 皆、どこかで雨宿りの準備でもしておるのではないか?」

バフォメットはそう言うが、この地図を見るかぎり"誰もいない"というのは不自然である
ここは、山中の街へと繋がる唯一つの道なのだから

「見張りの兵くらいは居てもおかしくないはずなんだが・・・・」
「わかった! 皆おやつの時間なのじゃ!!」

バフォメットが謎は解けた、というように笑顔になる
だが、青年はそんなバフォメットの心中を察していた

「・・・・・・おなかが減ったのか?」
「・・・・かなり」

その言葉と同時にバフォメットのおなかがグウ〜ッと鳴った
恥ずかしそうにおなかを押さえるバフォメット
そんな彼女を見て青年は苦笑した

「わかったわかった、街に着いたら何かおやつを買ってやる」
「本当か!? 兄殿大好きなのじゃ〜♪」

じゃれつくバフォメットの相手をしながら、青年は妙な違和感を気に留めておくことにした



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




特に何も起こらず街に着いた
杞憂だったのだろうか?

「おお〜・・・・・・でっかいのう・・・・・・」

バフォメットが首が痛くなるほど上を見上げて感嘆する
街は巨大な扉とそれを中心に大きな壁で囲むように守られていた
そして街の周りは険しい山々に囲まれている
壁の中からはハンマーで鉄をたたく音が聞こえ、賑やかな声もする

「50年ほど前、この辺りは山の資源を巡って教会と戦争を繰り返していたらしい
 その名残だ、と以前行商人に貰ったガイドブックにあるな」

「山の資源?」

「ああ、金とかが出るらしい」

「金とな!?」

バフォメットが目を輝かせる
こいつも金とかに興味があるのか・・・・・

「金といっても今では掘り尽くされ、砂金程度だ
 それよりもここでは様々な用途がある鉄や鋼のほうが価値がある
 要するに金なんておまけだ、おまけ」

そう言うとバフォメットは目に見えて落胆した

「むう・・・・・金無いのか・・・・・」

そんなバフォメットの頭を少し乱暴に撫でてやる

「ふふ・・・・それよりおなかが減っているだろう?
 街に入ったら夕飯の邪魔にならない程度に買い食いでもするぞ」

「お、おお!!」

そして俺達は門番に話しかけた



・・・・


・・・・・・


・・・・・・・・



「はい、では種族をどうぞ」

門番の兵士がにこやかに対応してきた

「俺はインキュバス、こっちはバフォメット
 二、三日の滞在を希望する」

「わかりました、ではどうぞ」
「・・・・・・・ああ、感謝する」

大門の傍にある少人数用の小さな門が音を立てて開く
大きいほうの門は基本的に大量の人間、軍隊などが通るときに使われる
普通の人間はこっちを使うというわけだ

門を通った後、俺は後ろを振り向き門番をしている兵士を見た
どうやら俺達が通ったという記録をつけているようだった

「どうしたのじゃ、兄殿?」
「・・・・・いや、なんでもない」

バフォメットは不思議そうに首をかしげる

「・・・・? まあいいのじゃ それよりほれ、あちこちに屋台があるぞ!!」

見ると、そこかしこに食い物の屋台があり、美味そうな匂いを辺りに漂わせていた
バフォメットの口からよだれが出ている
きっとこいつに尻尾があったらぶんぶん振り回しているだろうな

「これだけ屋台があるということは、ここはよほど治安が良いんだな
 そうでなければ屋台など食い逃げや強盗のいい"カモ"だからな」

「見よ、兄殿"りんご飴"なるものがあるぞ!?」

そこではアルラウネがりんご飴というものを売っていた

「これは・・・・りんごを蜜で固めたものか?」
「はい、とても甘くて美味しいですよ?」

しかし・・・・アルラウネが売っていると・・・なんだか怪しい感じもする

「・・・・・普通の蜜なんだろうな?」
「はい、もちろんここにあるものは普通のものですよ?」

"ここにあるものは"ってなんだ・・・・・・・

「兄殿〜、買って買って〜」
「・・・・・・・・普通のやつを二つくれ」
「はい、普通のやつ二つですね?  チッ、乱交見れると思ったのに

危ねえ・・・・・
魔物は基本良いやつだが油断だけはできない





「んまあ〜〜いのじゃ〜♪」
「そうか、良かったな」

バフォメットはりんご飴を食べてご機嫌だった
それにしても・・・・・・入門時のアレが、気にかかる
加えて山道での違和感・・・・・・そして、この街の歴史・・・・

「まさか・・・・とは思うがな」

「なにがじゃ?」

バフォメットが俺を見上げていた
りんご飴咥えて

「・・・・・いや、なんでもないさ
 それより他に食いたいものはあるか?」

「おお、それなら・・・・・」

バフォメットは駆け出していく
俺はそれを見ながらりんご飴を一口かじり、誰にも聞こえない声でぼそりとつぶやいた








「もしそうならば・・・・・・・運が良かったな、この街は」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「「宿が無い?」」

俺達はその後屋台めぐりをした後
夕方になったので宿を探しに来たのだが、満室との事だった

「ええ、もうすぐ祭りの時期なんで、宿はもうどこも満室だと思いますよ」

祭りか
屋台が妙に多かったのはそれのせいか

「と、なると・・・・まさか街中で野宿か?」
「ええ!? 嫌じゃ!! 今日は兄殿と布団の中でえっちいことをいっぱいする予定だったんじゃぞ!?」

おいバフォメット・・・・そういうことは大声で言うもんじゃない

宿の主人はこほん、と軽い咳払いをした後

「無理に泊めるとなると物置になってしまいますが・・・・どうなさいますか?
 もちろん物置にお泊りされる場合、お値段も勉強させていただきますが」

安くなるのはいい
しかし、できればこの小さな妹を布団で寝かせてやりたい・・・・・
そう考えていたところ

「おや、お取り込み中でしたかな?」

身なりの良い、品の良さそうな男が宿に入ってきた
宿の主人はその男を見ると明るい声で答えた

「おお、町長さん 祭りの準備は順調ですよ」

町長と呼ばれた男は嬉しそうに頷いた

「そうですか、それは良かった
 ・・・・・・そちらの方々は旅人さんですか?
 もしや宿が満室で泊まれないのでは・・・・・・」

俺は素直に答える

「ええ、できれば連れをベッドで寝かせてやりたいんですが・・・・」

「それはお困りでしょう では我が家に泊まる、というのはどうでしょう」

・・・・・・・は?
町長の家に、俺達が?

「おお、太っ腹じゃのう!!」
「ふふ、どうでしょう? 私も旅の話を聞きたいですし」

都合が良すぎてなんか怪しいが・・・・とりあえず断る理由は無い
バフォメット喜んでるし

「・・・・・じゃあ、お願いします」

そして俺達は町長の屋敷に向かった
まあ、何か企んでいるかもしれないが、その時はその時だ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


〜夕方〜

町長の屋敷はかなりデカかった
その辺の貴族の屋敷と比べても十分に

夕食を貰い、しばらく案内された部屋でくつろいでいた
ここも結構デカイ
だが、嫌味な調度品なんかは少なく、良い部屋だった

ザアアアッ・・・・という雨音が聞こえてくる
屋敷に入ったあたりから一気に降り始めた
多分一晩中降り続けるだろう

コンコン、とドアがノックされた

「はいは〜いなのじゃ〜」
バフォメットがドアを開けに行く

やってきたのは町長だった

「やあ、くつろいでくれているようですね」

町長はそう言ってソファーに腰掛けた

そして俺は言った

「宿を提供してくれたのには礼を言います
 しかし解せない あなたは俺達を泊めて何のメリットがあるのか・・・・」

町長は俺の言葉を聞いて少し驚いた後、楽しそうに話し出した
「ふふ、なかなか用心深いですね 流石、旅慣れているだけはある」

「質問に答えていただきたい 俺はともかく、こいつに害なすことは許さない」
俺は警戒しながら話す

町長は微笑ましげに俺達を見た
「そうですね・・・・・・では、これを見ていただければわかるでしょう
 ・・・・・・・・・入ってきてください」

その声と同時に部屋の扉が再び開く
すると、そこには一人の可愛らしいドワーフがいた
なんだか居心地が悪そうにしている
「あ〜・・・っと・・・・ども、こんちわ」

俺は町長に聞いた
「その子は・・・・・?」






「私の妻です」




なん・・・・・だと・・・・・!?

俺は思わず立ち上がり、町長のほうを見た
町長は、笑っていた

「私はね、あなたがバフォメットを連れているのを見て、思ったんですよ
 この人と私は同類だ、と」

俺は、感動に打ち震えていた

「町長・・・・・・・俺は、あんたを誤解していたようだ」
何をどう誤解していたかは聞きませんよ、と町長は手を差し伸べてきた
俺は、その手を固く握り返した

ガシッ!!

「あとで、共に酒を酌み交わしましょう」
「ああ・・・・・美味い酒が飲めそうだ」

――ここに、一つの友情が生まれた――








「わらわ達、置いてきぼりじゃのう・・・・・」
「ま〜た旦那の悪い癖が始まったよ・・・・・」



こっちはこっちで仲良くなっていた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

〜夜、屋敷中が寝静まった頃〜

「さて・・・・そろそろ寝るか」

俺は布団にもぐりこんだ

「あ、兄殿・・・・・・・//////」

バフォメットは既にパジャマに着替え、ベッドの前でもじもじしていた
恥ずかしそうに顔を赤くし、なんとも可愛らしい

「ほら、来いよ」

俺はバフォメットの手を引っ張り、布団の中に誘う
バフォメットはこくりと頷き、俺の腕の中に入ってきた




・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

















キングクリ○ゾン!!!
そして夜のいちゃいちゃシーンは終わり、朝がやってくる!!!!












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌朝、まだ日が昇って間もない頃
慌ただしい足音で俺達は目を覚ました

「なんだってんだ・・・・・朝っぱらから・・・・・」
「むふふ〜・・・・兄殿激しい・・・・・・♪」
「・・・・・・寝ぼけるな」

だが、やけに騒がしい
まさか、俺の懸念が当たってしまったのか

「おいバフォメット、すぐに服を着て支度しろ」
「ああ・・・・これからまた二回戦など・・・・わらわの身体が持たぬのじゃ・・・・♪」
「んなこと言ってないぞ」

だいたい昨夜は二回戦どころじゃ・・・・げふんげふん

なかなか起きないバフォメットを起こした後
俺達は町長に会いに部屋を出た
















「なんですって? 警備の兵が山道のどこにもいないと?」
「はい、山小屋ももぬけのカラで、争ったような跡が・・・・・」

町長は報告を聞いて嫌な予感がした
まるで、何かが起こる前兆のような・・・・・

「他に何か異変は?」
「それが・・・・山小屋に、こんなものが・・・・」

町長はそれを見て驚愕した
なぜならそれは、教会の紋章がついた血まみれの剣だったのだから

「教会・・・・!? なぜ、50年も経った今になって・・・・!?」

「それが奴らの策だったんだろうさ」

その声と共に現れたのは、金髪黒服の青年と十二単を着たバフォメットだった
ちなみに、バフォメットはまだ眠そうである

「策だった・・・・・とは?」

町長は彼に聞き返す
彼は、なんでもないことのように話し出した

「当然、この街を奪う策だ 気の短い教会連中が50年も待つなど、よほどここが欲しかったらしいな」

「し、しかしこの街にそれほどの利点が・・・・・?」

「あるさ まず、ここは天然の要塞だ
 周りを険しい山々に囲まれ、ここに続く道は一つだけ
 更に教会連中と戦っていたときに築かれた強固な壁
 これだけあれば、並大抵の敵から身を守れる」

彼は続ける

「次に、ここで採れる資源
 これも教会からすれば喉から手が出るほど欲しいだろうな」

町長は何かに気づいたかのようにハッとする

「まさか・・・・・"金"ですか・・・・!?」

教会は50年もここを放っておいたのだ
ならば、金が既に掘りつくされていることを知らないはず・・・・!!

だが、彼は頭を横に振った

「違う あいつらは清貧を信条にしているからな
 よほど欲の皮をかぶった奴でない限りそれは無い」

「では・・・・・?」

「鉄をはじめとした豊富な金属類、そして鍛冶技術だ
 教会ほどの大きな組織になると、それなりに軍備を整えなくてはならない
 だが、ここなら剣や槍、鎧兜に至るまでいくらでも作れる
 つまり、奴らがここを手に入れれば
 "堅牢な要塞"と"武具の生産工場"がいっぺんに手に入るわけだ
 ここがどれほど魅力的かはもうわかるだろう?」

「・・・・・わかりました では次に、奴らの策というのは・・・・?」

「さっき言ったとおり、"50年待つこと"だな
 もう襲ってこないと思わせて、油断させてから叩く
 兵法の初歩だな・・・・・・・無論、根回しも済ませた後で、な」

「根回し?」

町長が不安そうな顔で聞いてくる

「そう、根回しだ
 気づいていなかったかもしれないが、この街には既に教会の手の者が潜んでいる」

「なんですって・・・・・!?」

「あ、兄殿、それはどこにおるのじゃ!? まさかここに!?」

バフォメットが発した言葉でここにいる全員が固まる

「いや、おそらくここにはいない
 スパイならここにいなくてもできるさ
 人通りが多く、街の外部と連絡が取りやすく、街の情報も入手できる人間
 ・・・・・・それは、門番だ
 おそらく、門番は全員人間・・・・・・そうだな?」

「は、はい そういえば・・・・・・・」

「推測が多分に含まれるが、連中の動きはこうだ
 まず、50年音沙汰無しと見せかけて油断を誘う
 次に少しずつ町の兵士の中に潜り込み、門番として働きつつ街の情報を外部に流す
 そして決行は、最も油断の生まれやすい祭りの直前
 祭りの最中は警備が強化されるし、更に祭りの直前ならばみんな目が祭りに向いているからな
 決行当日、門番達が人知れず山道の警備を始末した後、山道を通って軍が進軍
 軍がある程度まで街に近づいたら、門番が油断しきっている街の者達を襲撃
 その騒ぎにまぎれて門番が門を開き、全軍で蹂躙する
 ・・・・・・・まあ、そんなところだろう」

そこでバフォメットが質問する

「ところで兄殿、山道に人がいなかったのはわかるのじゃが・・・・・
 なぜわらわ達は無事だったのかのう?」

町長達も疑問に思う
何故彼らだけ無事だったのか・・・・・?

だが青年は、呆れたように答えた

「あのな・・・・・無用な争いを避けるために道中はお前がステルス魔法をかけているんだろうが
 ・・・・・・・・・まさか、忘れてたのか?」

そう言われ、バフォメットは慌てて訂正する

「ちょ、ちょっとド忘れしていただけじゃもん!!」

バフォメットは恥ずかしそうに視線を空に漂わせる

「し、しかし、兄殿は何故門番が怪しいと思ったのじゃ?」

まるで誤魔化すかのようにバフォメットは質問した

「・・・・・まあ、この街に入ったときなんだが
 門番に俺達のことを話した際
 バフォメットをほんの一瞬見下したような目をしやがったからな
 あの時は八つ裂きにしてやろうかと思ったぞ」

「ああ、だからあの時兄殿は門番を睨んでおったのか」

バフォメットは納得した、というような顔をする

「では、対策を早く練らねば・・・・!!」

「今何時だと思っている? まだ日が昇ったばかりだ
 今から軍を編成し直して間に合うのか?
 山道の兵士を始末した、ということは山道を通って軍がこちらに向かっているということだぞ?
 ・・・・・・・正直、ここの兵士達では無理だ」

「たとえ無理だとしても、私は町の人たちの為、愛する者の為にもやるしかない!!」

ダンッ!!と町長は机を殴りつける

その後、一時の静寂が部屋を包む





そして青年は一息ついた後、

「だが、この街は一つだけ運が良く、連中は一つだけ運が悪かった
 なにしろ、俺達がこの街にいたから、な
 ・・・・・この件、俺達が引き受ける 宿を借りた恩もあるしな」

そう言った

「な・・・・・・?」

「そうじゃのう、このままでは寝覚めが悪い わらわもやろう」

町長は彼らを引きとめた

「ちょ、ちょっと待ってください
 あなた達二人だけでいったい何を・・・・?」

青年は心配は要らない、と笑って答えた

「別に命を賭けるわけじゃない、ただ俺達にできることをやるだけさ
 それに・・・・俺は"何があっても借りは必ず返す主義"だ
 あんたに止められても、俺は行くぞ」

バフォメットもそれに賛同する

「そうじゃの、わらわも兄殿について行くのみ
 さあ、行くぞ兄殿!!」

「あ、お前は残れ」

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・



「何故じゃ!? 普通ここは"ついてこい"とか言うシーンではないのか!?」

「いや、お前話聞いてたか?」

バフォメットは憤慨し、青年はそれを見て呆れていた

「門番が暴れるかもしれないんだぞ?
 お前はそれを鎮圧する役だ わかったか?」

バフォメットはそれを聞いてハッと動きを止める
そして腰に手を当て、ふんぞり返った

「・・・・・う、うむ、承知したのじゃ!
 決して忘れていたわけではないぞ、本当じゃぞ!?」

わかったわかった、とバフォメットをなだめる青年を見て町長はこう思った

(・・・・・本当に、大丈夫なのか?)

とても、心配だった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




その後、青年は町長の屋敷から出た
バフォメットが見送りに付いてくる

「さて、行くか」

「兄殿、気をつけて行って来るのじゃぞ」

バフォメットは"兄"を心配する
だが、青年はなんでもないことのように答えた

「俺が教会連中相手に負けるわけ無いだろう? 心配しすぎだ」
「まあ・・・・それはそうなのじゃが、やはり心配なのじゃ」

青年はバフォメットの頭を少し乱暴に撫で
まるで買い物にでも行くかのように軽く答える

「すぐ戻るさ、じゃあ行って来る・・・・・・ここは任せたぞ」
「うむ、いってらっしゃい」

青年はバフォメットに一度手を振ってから歩き出し
バチッという電気の爆ぜる音と共に姿を消した
















〜山道〜

そこには、見るからに屈強な軍隊がいた
少なく見積もっても数は5000人以上、完全武装の歴戦の戦士達だった
指揮官らしき男が先頭で手を振り上げ、大声を上げる

「よいか!! 今こそ我らが50年の悲願が叶う時!!
 あの街を魔物達の手から取り戻し、神に捧げるのだ!!
 ――そう、これは聖戦である!!
 この地を清め、足掛かりとし世界を不浄から救うのだ!!
 行くぞ諸君、神が我等を守ってくださる限り、我々に敗北は無い!!
 穢れし魔物達とそれに同調する者達を殲滅せよ!!!!」


うおおおおおおおおおおおっ!!!!!


指揮官が口上を終えたその瞬間、一筋の雷光が軍の中心に突き刺さった


ドゴォォン!!!!!


「な、なんだ!? 落雷!?」

指揮官は思わず慌てる
だがそんなはずは無い、なぜなら空は快晴そのものなのだから

舞い上がった土煙がだんだんと治まる
そこには、穂先が四角錘状で陶器のような乳白色の槍が突き刺さり、
そしてその上に、金髪黒服の青年がたたずんでいた

「・・・・・さて、何人だ?」

青年は槍の上から周りを見渡してそう言った
指揮官が声を張り上げる

「な、なんだ貴様!? まさか魔物に味方する者か!?
 たった一人で我等に刃向かうつもりなら残念だったな!!」

青年はうるさそうに眉をしかめ、指揮官を見た

「我々は6000人もの軍勢だ、後悔しろ!!
 たった一人でここに現れたことを!!!」

青年は酷く歪んだ、それでいて楽しそうな笑みを浮かべ、言った

「そちらは俺のことを知らないようだな、ではこっちからも言わせて貰う
 身の程を知れ、たった6000程度で何ができる?

指揮官は青年の態度に腹を立てたらしく、大声で命令を下した

「殺せ!!!! 神に逆らえばどうなるか教えてやれ!!!!」

うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!

指揮官の号令に合わせ、戦士達が青年に突撃する
だが、青年は慌てるそぶりを見せずに槍から下りると
どこからともなく両手に乳白色の双剣を出現させ、構えた

「―――雷双剣、"アスカロン"」


・・・・・・・・

・・・・・

・・・




途中で逃げ出し、生き残った兵士は後に語る
―――あれは、まるで鬼神であった、と




誰かの首が落とされた、と思った次の瞬間に違う誰かの胴が貫かれる
その瞬間にまた違う誰かの体が縦に割れる

―――それは、既に戦いではなく、ただの"人が死ぬ作業"だった

「何をしている!! 早く懐に入って討ち取れ!!」

被害の出ない遠くから、指揮官はやみくもな指示を出す

――冗談じゃない、近くに入った瞬間に人が死ぬ
あれは、人の形をした化け物だ

青年の足元にある死体の山がだんだん高くなっていく
それに反比例して彼にむやみに近づく兵士はいなくなり、逃げ出す者も現れ始めた

「さて、そろそろ頃合か・・・・・」

そう呟き、彼はおもむろに双剣を地面に突き刺した

「オベリスク」

キィン、と地面に刺さったままの槍が応えるように光る

「アスカロン」

地面に刺した双剣も、槍と同じく応えるようにキィン、と光る

「炸裂しろ
 ―――"三極雷迎"


その瞬間、山々を揺るがす轟音と共に
恐ろしくまばゆい閃光が、彼らを包み込んだ


ドゴォォオオオォォォン!!!!!!


木々が吹き飛ぶような爆風が一瞬起こったあと
山々に反響していた轟音も収まり
まるで轟音など無かったかのように山に静寂が訪れ
轟音の中心となっていた山道は



山の一部ごと、巨大なクレーターになっていた












何もかもが塵となったクレーターの中心に、彼は立っていた

「げほっげほっ・・・・・参ったな、加減を間違えた
 武器は二つ分でよかったか・・・・・げほっ」

彼は独り言をつぶやくと、のんびりクレーターの外に出る
するとそこには、ギリギリ範囲の外だったのか、指揮官がガタガタ震えてそこにいた

「う、嘘だ・・・・みんな・・・・消し飛んだ・・・・?
 そんな・・・・あ、ありえない・・・・・ありえない・・・・・」

彼はそんな指揮官を見下ろして、フン、と鼻を鳴らした

「生きていたか・・・・お前が一兵卒なら見逃したが、流石に指揮官は見逃せない」

そう言って青年は再び虚空から剣を取り出す

指揮官は思った
目の前の男は何だ?
これほどの力を持つ者が人間なはずが無い
そうだ、彼は"神"なのだ
"神"に人間が逆らえるはずが無い

指揮官は錯乱し、気が触れる直前の頭でそう考えた

「か、神よ・・・・・お許しください、神よ・・・・・」

"神"と呼ばれた青年は、何の反応も、感傷も見せず
静かに剣を振り下ろした






「さて、こっちは終わったが・・・・・・あっちはちゃんとやっているだろうな?」

そして青年は来たときと同じように、バチッという炸裂音と共に姿を消した


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



――少しだけ時間は戻り、大門前
 そこでは、門番になっていた教会の兵士が大勢慌てていた

「おい、早く大門を開けろ! 本隊の連中が来ちまうぞ!!」
「やってるよ! でも開門用のレバーが動かないんだ!!」

おかしい
昨日の点検では問題なかったはず・・・・!!

「お、おい・・・・あれ・・・・・」

外に出た門番の一人が大門を指差していた

大門は分厚い氷で包まれ、凍っていた

「な・・・・・・!?」

一人の例外も無く、全員絶句する
そこに、

「ふむ、やはり兄殿の読み通り門番がクロであったか・・・・」

十二単を着たバフォメットがあくびをしながら現れた

「こ、こいつ、昨日入ってきた二人組の片割れ・・・・!!」
「そうか、こいつが大門を凍らせやがったんだな!!」

門番が全員出てきてバフォメットに殺意を向ける
だいたい12、3人といったところだった

「む、思ったより数が少ないのう? まあよい
 投降するなら縛る程度で許してやろう、どうじゃ?」

余裕のある態度が彼らを怒らせる
こんな小さな子供に嘗められるのが我慢ならないのだろう
バフォメットという種族を知らないが故の怒りだった

「てめえ・・・・汚らわしい魔物のくせに、吹いてんじゃねえ!!」

門番の一人が斬りかかる
だが、彼は次の瞬間、巨大な氷塊に押しつぶされ絶命した

「気をつけろ!! こいつ、氷使いだ!!」

リーダーらしき兵士が注意を呼びかける
だが、バフォメットはそれを"違う"と断じた

「わらわは氷使いではない、水使いじゃ
 それにわらわは兄殿ほどの火力も無いし、妹ほどの強大な魔力も無い
 ・・・・・・・じゃがの、水を極め、気体、液体、固体を全て使い分けるわらわは
 "汎用性と柔軟性"なら両者に勝る・・・・・"濃霧結界"

バフォメットの台詞と共に、濃霧が発生した

「!! き、気をつけろ、どこから来るかわからんぞ!!」

門番のリーダー格はきょろきょろと周りを警戒する

「そして昨日は雨が降ったばかり
 この状況ならば、わらわの力を最大限に行使できる
 ・・・・・・・・・・運が悪かったのう」

目の端に、小さな影が見えた

「貰った!!」

彼はすかさず斬りつける!!

だが、それは彼の仲間の門番だった
斬りつけられた門番は声を上げる間もなく絶命した

「な・・・・・!? ま、まさか幻覚・・・・!?」

戸惑う彼にとんでもない速度で氷弾が放たれ、彼は間一髪でそれをかわす
あんなものに当たったら間違いなく即死だ

「くそっ! しかもこっちの動きは筒抜けか・・・・」

ならば、この結界から脱出するしかない
次々と襲い来る氷弾をかわしながら・・・・・!!

彼は走り出す
音で氷弾を察知し、回避する!!

「ぐ・・・・おおおっ!!」

何発もかすりながらも彼は氷弾をかわし、結界を脱出した
「よし、勝っ・・・・・!?」




彼の目の前には

巨大な水の竜が鎮座していた


水竜招来・・・・・惜しかったのう」

彼は次の瞬間、横から尻尾に叩きつけられ絶命した

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

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「さて、兄殿は大丈夫じゃろうか・・・・やり過ぎてなければいいんじゃが」

そう言った瞬間、恐ろしいほどの轟音が街を揺らした
凄まじい爆風でバフォメットがごろごろと転がる

「ぎゃーー!! 言った傍からこれか!!
 もうちょい加減を知れ、兄殿のアホーーーーーー!!」





しばらくして青年が電気の炸裂音と共に現れる

バフォメットは逆さでゴミ箱に頭を突っ込んでいた

「・・・・・・何を遊んでいる?」
「遊んでなんかないのじゃ・・・・・・たしけてぇ」

青年はバフォメットを助け起こした

「で、ちゃんといくらかは逃がしたんだろうな?」
「うむ、結界の逆側から逃げた奴は小門から出て行ったわい」

ま、一人二人程度じゃがの、とバフォメットは付け加える

「俺もそのくらいだ
 ・・・・・もしかしたらあの爆発でいくらか死んだかもしれんがな」

「兄殿は加減を知らなすぎるのじゃ」

バフォメットが青年を叱りつける
それはとてもほのぼのとした光景で、両者ともに
とても血生臭い戦いをしたとは思えないほどだった

そして、町長の屋敷にいた者たちが終わりを感じて集まり
両者の様子を見て町長が話しかけてきた

「お二人とも、ありがとうございました
 おかげで街は守られました・・・・・本当に、ありがとう」

「気にするな、それと俺達はすぐに街を発つ
 逃がした奴らが俺達を追って来るだろうからな」

そう、何人か逃がしたのは全て自分達に矛先が向くように、
この街を、教会の目から少しでも外させるためだった

「それと、この紹介状を使え
 これを使えばいくらか魔王軍から街の護衛が来るだろう
 そうすれば、この街はもう安泰だ」

町長は驚いたような顔で二人を見る

「そんな・・・・何故、ここまでこの街を・・・・?」

そんな町長の疑念に、青年は紹介状に書かれた自分のサインの"上"を指差した

そこには、こう書かれていた


魔王軍 第六師団中将、と

「な・・・・・!?」

青年とバフォメットを除く全員が絶句する
なにしろ、目の前の青年が魔王軍の幹部の一人だったのだから

「魔王軍の将軍として、教会の手から街を守るのは当然だろう?」
まあ肩書きだけの将軍だがな、と青年は笑う

「わらわは、もうちょいここでのんびりしたかったんじゃがのう」
バフォメットが口を尖らせる
それを青年は苦笑しながらなだめ、小門をくぐろうとした

そして、町長は二人を呼び止めた

「待ってください!!
 その、また、この街に遊びに来てください!! 
 その時は、私がこの街を案内します!!」

それを聞いて、二人は顔を見合わせた後

「ああ、その時はよろしく頼む!!」
「おいしい料理とふかふかベッドを用意しておいて欲しいのじゃ!!」

「はい、必ず・・・・必ず!!」

町長は門の外まで二人を見送り、見えなくなるまで手を振り続けた




















場所は変わり、とある反魔物派の街の酒場

「最近賞金額の良い獲物がいないよなあ・・・・」
「お、これなんてどうよ? すっげえ高額だぜ」

だが、彼の相棒はやめたほうがいい、と忠告した

「それな、挑んで帰ってきた奴が殆どいないって聞くぜ
 運良く帰ってきても重傷で間もなく死ぬんだそうだ」

「マジかよ・・・・おっかねえ」
彼はため息をつく

「別の街にでも行ってみるかぁ?」
「そうだなあ・・・・・腹ごしらえしてから行こうぜ」

そして「何食う?」「やっぱ肉がいいな」・・・・という声が遠ざかっていった


彼らが去った酒場の壁際には、一枚の手配書に二枚の顔写真が貼ってあり、そこには

雷神&水神兄妹
総合懸賞金 4億5千万

と、書いてあった
13/07/29 20:16更新 / くびなし
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■作者メッセージ
無双物って厨二全開で後から見返すと恥ずかしい(*ノωノ)

「ある日のバフォ様」くらいが丁度良いですね
二度とこんな最強主人公書かん

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