連載小説
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ある日のバフォ様
ついにここに辿り着いた
バフォメットの住む宮殿に

ハーフメイルを着込み、剣を二本携えた俺は、勇者と呼ばれている者だ
今回、バフォメットを討伐しにやってきた

魔界屈指の実力者であるバフォメットと戦うなど無謀に思われるかもしれない
だが、勝算無く挑むわけではない
ちゃんと実力は十分にあるつもりだ

以前、ドラゴンを撃退させた経験もある
もちろん、一対一の勝負で、だ
ドラゴンとバフォメットはどっちが強いのかは知らないが
少なくとも手傷は負わせられるだろう

対バフォメット用の切り札もある
まあ、ドラゴン戦で使用したものだが、竜の硬い鱗を破り
ドラゴンが逃げざるを得ない状況に追い込んだ代物だ
バフォメットにも十分効くだろう

このあたりで最も強いバフォメットを倒し
この辺を拠点にしている魔王軍を瓦解させるのが目的だ
失敗は出来ない

俺は深呼吸を一つして覚悟を決めてから、門をくぐった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



表札があった
「バフォメットのおうち」

・・・・・・なんだか人を小馬鹿にしたような奴だな
いや、見た目(おそらく態度も)は子供だが、相手は魔界屈指の実力者なのだ
もしかしたら戦意を削ぐ作戦かもしれない

扉は近づいたら勝手に開いた
挑戦者は拒まない、ということか・・・・面白い
その余裕、必ず後悔させてやろう




扉をくぐった先は巨大な通路が続いていた
この先にバフォメットがいるのだろうか?

それにしても、衛兵の類が全くいない
人影はあちこちの窓から見えるので、無人ではなさそうだ
主を守る気が無いのか、または無駄な被害を抑えるためか
まあいい、主であるバフォメット以外に興味は無い
他の魔物は見逃してやろう

そして巨大な通路をしばらく進んでいくと、巨大な扉にぶつかった
ここにバフォメットがいるのだろう、扉越しに魔力を感じる

俺が扉の前で立ち止まると、扉は軋みながらゆっくりと開いた

扉の向こうは広い空間になっており、玉座の間をイメージさせられた

「よく来た、歓迎しよう勇者殿」


そこに、奴がいた



マントを羽負い


頬杖を突きながら


余裕の笑みを浮かべ


玉座に座っていた



その姿は威風堂々とし、子供の姿ながら王者の品格があった
これが魔界の実力者、バフォメット・・・・!!

「して、何用か・・・・と、問うのは野暮じゃな
大方、ワシの首を獲りに来た、といったところか」

そう言ってバフォメットは自分の首を手でトントン、と叩く
いままでたくさんの人間に狙われたからだろう
こちらの目的は分かっているようだった

「ならば話は早い、その首を貰い受けよう」

俺は腰に二本ある剣のうち、一本を抜き放った

「ほう、どうやって?」

「当然・・・・・・」

俺は脚に魔力を集中させる

「・・・・・・・・お前を倒して、だっ!!!」

言うが早いか、俺は脚に溜めた魔力でブーストさせ
一瞬でバフォメットの真横に辿り着き、剣を払う!!

もらった!!
バフォメットは魔術師型の魔物、詠唱さえさせなければ・・・・・

「・・・・勝てると思うたか?」

「な・・・・に・・・・!?」


必殺のはずの俺の一撃は、バフォメットの腕でガードされていた
嘘だろう・・・・デュラハンにも競り勝った剣だぞ!?

「やれやれ・・・・椅子から立ち上がることさえ許さぬとは・・・
 最近の勇者はマナーがなっておらんのう・・・・」

バフォメットはそう言うと、ガードしていない方の腕に魔力を集中させた

俺はとっさに剣を引き、魔力防壁を作る・・・!!

「サンダー」

展開した魔力防壁にバフォメットの作り出した雷が突き刺さり
俺はその衝撃に耐え切れず後退する・・・・・!

「ぐ・・・う・・・・っ」

だが、俺の魔力防壁はそんなにヤワじゃない・・・・!!
バフォメットの雷に打ち勝ち、弾き飛ばす!!

それを見たバフォメットは椅子から立ち上がり
楽しそうに笑顔を浮かべる

「ほう! ワシのサンダーを受けきるとは・・・・魔術にも精通しておるようじゃな」

「一応、魔法剣士で通っているもんでね・・・・!」

だが、魔術に精通しているからこそわかる
こいつは子供の姿をした化け物だ
下級呪文とはいえサンダーを無詠唱で、しかもあの威力で出すなんて・・・・

こいつに魔力を溜めさせたらまずい
手数で勝負をかける!!

「うおおおおおおおおっ!!!」

俺は咆哮をあげて突進した!!
さっきの剣の手応えからして、手足の毛皮部分は切れない
なら、露出している部分を狙う!!

「ほう、ダンスをご所望か」

バフォメットは何も無い空間から大鎌を取り出すと、突進してくる俺に備えて構えた

ギィィィィイイイン!!!

俺の剣とバフォメットの大鎌がぶつかり合い、火花を散らす

お互いに衝撃で武器が弾かれ合う
そこに俺は間髪入れずに連撃を繰り出す!!

しかし、バフォメットはそれを読んでいたかのように俺の剣を鎌で迎え撃った!!
お互いの武器が磁石で引きつけあうかのようにぶつかり、火花を何度も何度も散らし合う!!!

ギィィン!! ガギィィィン!!!

ガン! ギィン!! ガキィィン!!!

俺はフォメットを仕留めるために連撃を繰り出したが
バフォメットの迎え撃つ一撃は想像以上に重く
いつしか攻守は逆転し
俺がバフォメットの連撃から身を守る形になった

「ふふ、どうした? ワシは攻める男の方が好みじゃぞ?」

「ぐっ・・・・・!!」

冗談じゃない
今、攻めようとしたら確実に負ける・・・・
だが、これを続けていても剣が持たない・・・・・!!

「隙あり」

ドゴォッ!!

「!?・・・・ごっふ・・・・!!」

腹で何かが爆発したような衝撃がしたと思ったら
俺は大きく吹っ飛んだ

倒れそうになる身体をなんとか支え、背中を地面につけることは避ける
鎧は大きく凹んでいた

バフォメットを見ると、上にあげた足を下ろしていた
今の衝撃・・・・・蹴りか!?
鎧の上からこの衝撃とは・・・・どんな蹴りだよ!?

「剣撃に夢中になっているようではいかんの
 敵は武器だけで戦うわけではない・・・・・こんな感じにのう!!」

説教臭いことを言い終わると同時に
バフォメットはまた雷を繰り出した!!
多い!!
3、4、・・・5本!!

魔力障壁を展開・・・・
いや、防御しているうちは攻撃できない

なら・・・・全部避ける!!

俺は雷に向かって走り出す

「!」

バフォメットは俺が守ると思っていたのか、目を見開いて驚く

そして俺は回避に全神経を注ぐ!!

「いち!!」

雷がしゃがんだ俺の髪を焼く

「にい!!」

頬のすぐそばを雷が通る

「さん、しい!!」

俺は飛び上がり、俺のいた場所を二本の雷が焼き尽くす

「ごぉ!!!」

最後に、俺に向かってきた雷を叩き斬る!!!

全ての雷を避けきった俺は真っ直ぐバフォメットに向かって走る!!
バフォメットは慌てて武器を構えようとする
だが

「確か"敵は武器だけで戦うわけではない"んだったよなァ!!」

俺はバフォメットの大鎌を蹴り飛ばす!!

主を失った大鎌は弧を描いて近くの壁に突き刺さる
バフォメットは丸腰だ!!

俺は剣を両手で持ってバフォメットに斬りかかった!!!

「おりゃあああっ!!」

しかし、彼女は両手で白刃取りをし、俺の剣を防いだ!!

「ぐっ・・・・あ、あれだけの雷を避けきり、ワシに斬りかかるとは・・・・
 だが、あと一歩足りなかったようじゃのう!!」

バフォメットの身体に魔力が満ちる
それを感じ取った俺は


剣から手を離し、大きく後退した

「な・・・・!?」

バフォメットは驚く
そして、俺は剣に込めていた魔力を暴走させた

「爆ぜろ!!!!」


ドゴォォォオオオオオオン!!!!!!


凄まじい衝撃と爆音が宮殿全体を揺るがす
爆風で目も開けられない
これが俺の「切り札」だ

数ヶ月じっくり溜めた魔力を一気に暴走させ、爆発させる
ドラゴンの鱗を吹き飛ばし、大火傷を負わせた最強の手札だ
まあ、剣がぶっ壊れるのと、作るのに時間が掛かり過ぎるのが難点か

ようやく爆風が収まり、目を開けると辺りがすごい事になっていた
美しかった玉座の間がまるで廃墟のようだ

そして、煙が収まって・・・・・・

「な・・・・・!?」

そこに彼女がいた
魔力障壁を展開させ、薄い笑みを浮かべている

「ワシに全力でガードさせるとは・・・・・大したものよ」

彼女は・・・・・・・・・・無傷だった

「嘘、だろう・・・・?」

もう一つの剣には魔力がほとんど入ってないんだぞ・・・・・!?

障壁を解いてバフォメットは言った

「さて、今度は・・・・・ワシの番じゃな」

彼女はそう言うと、右手を大きく上に上げた
高く上げた右手に魔力が収束し、形を成す・・・・!!


"それ"は巨大な雷の槍だった

四角錘状の鋭い穂先を備え、稲光を纏い、鈍く発光した雷の塊・・・・!!!

「雷鳴魔法、"雷槍オベリスク" 手加減してあるゆえ死にはせんが
 戦闘不能にはなってもらうぞ・・・・・!!!」

避けきるか? 無理だ
あんなもの、余波だけでやられる・・・・・!!

バフォメットは大きく振りかぶり、雷の槍で投げ貫いてきた!!!

俺は魔力障壁を全開にし、槍を迎え撃つ!!!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

ガガガガガガガガガガッッッッ!!!!!

俺は魔力障壁に今ある全部の魔力をぶち込み、ガードする!!

「うぉらあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

雷の槍と魔力障壁がぶつかり合い
数十秒もの長い時間競り合った後

両方とも消滅した

障壁と槍が消え去った後、俺は全魔力を使い切り、床に倒れ伏した
もう指一本動く気がしない

勝敗は、ここに決した


バフォメットは勝敗がついたのを確認すると、俺に近寄ってきた

「見事じゃ オベリスクを防ぎきったのもそうじゃが
 ワシと戦って最後まで意識を残していたのはお主が初めてじゃ」

マジかよ どんだけ化け物だ コイツ
もしかしてバフォメットの中でも上位の個体なのか?

俺は気力を振り絞って声を出した

「俺を・・・ころ、す・・・・のか・・・?」

「はあ? なんで今のところ、ワシの兄上の座に最も近い者を殺さねばならんのじゃ?
 それではワシはいつまで経っても兄上ができんではないか」

バフォメットはそう言うと、俺の上体を抱き起こして頬にキスをした

「じゃが、今のままでは我が兄上にはなれんな
 もっと精進するがいい、そしていつかワシを負かせば兄上にしてやろう」

「俺を生かすというのか・・・・・・?」

「うむ、とりあえず客人扱いでもてなそう 
 その後は帰るなりここに留まるなり好きにするがよい」

できれば我が軍に入ってほしいがな、とバフォメットは子供のように笑った

そしてバフォメットは俺を横にすると、手を叩いて部下を呼んだ

「お呼びですか〜?」

「うむ、この者を客室へ丁重にお連れせよ 命に別状は無いが、手当てもしっかりな
 あ、つまみ食いも許さぬぞ」

「了解〜♪ バフォ様はどうなさるんですか?」

「昼食を摂りに行く」

あとは任せたぞ、と部下に言った後、バフォメットはマントを翻して玉座を去っていった


「あれが・・・・・バフォメット・・・・・・・」

魔女に介抱されながら、俺はその小さくも大きな背中をずっと見送っていた




数日後、バフォメット親衛隊に一人の男が入団した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


〜食堂〜

「いい匂いじゃの〜 今日のお昼はなんじゃ〜?」

「今日はバフォ様の大好きなミートソーススパゲティですよ〜♪」

「わーい♪」
13/07/29 20:09更新 / くびなし
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■作者メッセージ
エピローグ


俺は、バフォメットの宮殿で療養している
しかし、寝ても覚めても考えるのは彼女の事だけだった

「バフォメット・・・・・・・・」

ぶっちゃけ初恋である
戦いばっかりだったからなあ・・・・・・

「やあ、君! バフォ様のことかい?」

なんかガタイのいい男が話しかけてきた

「ボクはバフォ様親衛隊の一人! ボクも君と同じくバフォ様に挑み敗れ
 バフォ様に心酔してしまったんだよ!!」

「はあ・・・・・・?」

「親衛隊に入らないかい? これは規則だよ、読んでね!!」

なんかパンフレットみたいなのを渡された

1、バフォ様を悲しませない
2、抜け駆けOK(ただし、バフォ様に迷惑はかけないこと 良識の範囲内で)
3、バフォ様のために命は賭けても絶対に死なないこと(バフォ様が悲しむ)
4、全てはバフォ様のために

「はあ・・・・・?」

「そして今ならこの写真がついてくる!! あ、バフォ様の写真の交換は
 本人の了承が必要だからね!!」

その写真は
フォークを掴んで、口の周りをソースまみれにして
パスタを口いっぱいに頬張りながら、満面の笑顔を浮かべているバフォメットの写真だった

「入ります」

「よし、今日から我々は同士だ!!」

俺達は固い握手を交わした


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
↓ここからあとがき

某リャナンシーちゃんSSで、「シリアスは作者の技量が試されるよ!」
的なことを言われたので書いてみた話

ここのバトルシーンは未だにカッコよくてお気に入りです

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