読切小説
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Rental L.o.o.o.o.ve

 今日はいちごのパックを買った。
 旬の時期だから美味しいんだよな、という理由だ。五百円というのは学生の身分では命に届く出費ではあるけども、これは自分で食べるわけではなくて、むしろ五百円で済むというのなら驚くほど安いもんだった。

 スクールバッグを背負うように肩に掛け、片手にスーパーのビニール袋を提げて、傍目から見れば「学校帰りにお使いする親孝行な中学生男子」といった雰囲気を纏いつつも、足が向いている先は家族と住む家じゃなかった。
 住宅街に埋没している安そうなアパート。関係のない敷地に入る後ろめたさは通ううちに消え失せていて、103号室のインターホンを鼻歌交じりに押す。
 ドア越しに聞こえるチャイムの音にやや遅れてのっそりとドアが開く。
 そこから覗くのは、

「や。なに買ってきたん?」
「いちご。安かなかったけど。果物のほうがいいんだろ」
「おっ、いいね〜〜。まいどどーもね〜」

 緑色のショートボブ。幼めの可愛い顔立ち。それと、等身大のアオムシの身体、ぴこぴこと嬉しそうに揺れる頭頂部の触覚。だぼついた袖を想起させる一対の腕らしきものから伸びる疣足。低めの背丈から見上げてくる視線は嘲笑まじりの含み笑いでいかにも小生意気だっていうのに、小さな胸もややぽっこりとした腹もY字にくぼんだ下腹も隠さず、少女は本当に一糸も纏わない姿で恥ずかしげもなく玄関先に立つ。
 魔物娘――グリーンワームに招かれて、後ろ手に玄関扉を閉めた。

「でもさあ。このままあたしに課金してると、そのうち破産しちゃうんじゃない?」
「そこまでのめり込んでないだろ。あ、ちゃんと洗ってから食べろよな」
「あいあい。水道止まってなきゃね〜」
「仕送りもらってるんだろお前……」
「まあねー。でもああいうのってめんどくさくってー」

 日常に溶け込んでいる異物でも、部屋の中はいたって普通だ。
 やや大きめのベッドには充電中のスマートフォンが投げ出されていて、安っぽい液晶テレビは黒く沈黙中。回収日を待っている大きめのゴミ袋は案外少なく、ちゃんと毎回回収場所に持っていっていることに感心させられる。
 台所でステンレスのざるにパックの中のいちごを全部出して、じゃばじゃばと雑に洗う手つきは人間らしいものだけど、背丈が足りないからって身体をシンク下の収納扉にひっつかせているのはアオムシだということを如実に表していた。

「なあ、すだち」
「ん〜? なあにー」
「その姿で人間スケールの家具使うのってしんどくないか? 学校で人間に擬態できてるんだから、家でもそうすれば楽だと思うんだけど」
「べっつにー。むしろ人間になってる方が疲れるなあ。視点が高くってさあ」
「マジか」
「まんじまんじー」

 けだるげな言葉にはなんの気負いもなくて、この先に期待してるのは自分だけなんじゃないかって気になってくる。そりゃそうだし、悪くはないけど。
 彼女のぷにぷにとした身体を背後から眺めると、無性に抱きつきたくなってたまらない。なんなら顔を合わせた瞬間からずっとだ。中学生男子のささいなプライドが自制をしてくれていなければ彼女の邪魔をしていたに違いない。
 そもそもこの場所に足繁く通っている時点でプライドなんて瘡蓋は剥がれかかっているのかもしれなかった。既に周囲からなんと言われようと構わなくなっている。

「よーし。洗ったー。ベッドいく? お風呂でもいいよー」
「……風呂は狭いだろ」
「んー。素直じゃないよねー」
「うっせえ……」

 小馬鹿にした笑い方を、咎めることもできない。
 ざるごと抱えてのそのそ動くすだちをじれったく思いながら、自分は自分で服を脱いで畳んでいく。学生服を汚したらバレてしまう。
 シャツとパンツだけになる頃には、すだちはベッドの上でだらりとくつろいでいた。
 両手の疣足で一粒のいちごを口元で保持する姿は小動物的で愛らしいと思う。
 けれど、もう、自分は彼女のことを肉欲的にしか見れなくなっていた。

「ん〜。甘酸っぱくておいしーねー。んまんま」
「……すだち」
「おすきにどうぞー。いちごおいしいから、今週はずっとおっけーにしとくねー」

 たった五百円で、一週間――。目眩がするほどに魅力的な言葉だった。
 うんとかああとか、熱に浮かされてろくな返事ができなくなる。唾が喉を鳴らす。
 ベッドに投げ出された彼女の柔肌は、遮るものも守るものもなく無防備すぎる。ただでさえミニマムな胸は重力に従ってただの板になり、だけどぷっくりと膨れた色素の薄い乳首と乳輪が懸命に起ち上がっていた。肋にへたりこんだ第一疣足がかろうじて乳の下限を教えてくれているくらいで、幼児と変わらない。
 その下にはぽっこりと内臓の存在を意識させるお腹がある。一日中なにかを食べている彼女は、その分脂肪もついているはずだというのに、体型を崩しているというほどじゃない。アオムシの部分に蓄えているからだろうか。だからって痩せているわけでもなくて、くびれもなく丸々としているいわゆる寸胴体型ってやつだ。彼女が身じろぎする毎にぽよんぽよんと僅かに脂肪の動きが見て取れる。
 さらに、その下――。

「挿れないのー? もー、せっかちなのにいざってときはじれったいよねー」
「……ムードとか、いろいろあるだろ」
「ま、いいけどさー。あたしはきみにおまんこ貸すだけだし。レンタル中はきみの好きにする約束だからねー。眺めるのも好きなだけしていいよー」
「ッ……!」

 下腹の真横に位置する疣足が僅かに伸びて、その爪で自身の股座を引っ張って見せつけてくる。Y字の中心点、つるつるの縦すじ。一番窪んでいる深い穴。
 それは人外の存在であっても備わっている、男を誘う膣穴だった。
 彼女の前面、人間味のある部分は白く瑞々しいタマゴ肌で、もちもちとした柔らかさを持つ。その弾力性の最たるものが女性器だ。彼女の疣足によってぐぱあと雌臭を含む蒸気が漏れ、むにゅんと薄ピンク色のちっぽけな生殖器がとろとろに穴を濡らして男性器を待ち構えている。抜け出せず忘れることもできない。柔らかさにも中毒性がある。
 同じ中学で勉強しているときの彼女はまだしも、今こうして本当の姿を露わにしていると、まだランドセルを背負っていそうなくらいの小ささしかない。なのにまったりと果物を啄みながらもいたいけな膣粘膜をこちらに見せつけ、恥ずかしがるでもなくこちらをニヤニヤと眺める余裕たっぷりの振る舞い。いけないことをしているという背徳感が、背骨をずたずたに引き裂いていくような感覚を起こす。

 ――彼女の身体をレンタルする。
 正気を疑う言葉だが、彼女にとっても互いに得する取引だと思っているらしい。あっちは食欲を、こっちを性欲を満たす取引だ、と。そもそも持ちかけてきたのは彼女からだったし、彼女は言葉通りに身体をこちらへ明け渡してしまってる。
 この関係性がどこから発生したものなのかさえ、彼女に溺れる心地よさで忘れてしまった。気づけばすだちという人外の少女を当たり前に受け入れ、当たり前に身体を重ねるようになっていたんだ。その代わりに、勉強どころか日常生活にも手がつかなくなり始めてしまっている。日常を、非日常が、食いつぶしていくような。

「挿れるぞ……」
「どぞー。いつでも好きなだけ、孕ませるつもりでたっぷり出していいかんねー。あ、いちご食べるー? おいしいよこれ」
「はああぁぁ……っ。や、いらね……っ」
「そー? まーあたしへの貢ぎ物だしなー。冷蔵庫に練乳あったかなあ」

 アオムシ部分の円筒形した腹部を跨ぐようにのしかかり、一切の遠慮なく穂先から根本までをいやらしく粘ついた水音と共に押し込んでいく。ぐぷぐぷ、と空気を含んだ愛液が隙間から押し出されるように漏れ出して、すんなりと受け入れてくれる。
 半ばまで飲み込まれると、びりびりと脳に登る快楽で思わず息が漏れてしまう。とにかく肉厚で、極上のクッションに埋まっていく心地。がっぷり咥えこんだ男性器を、持ち前のぽちゃっとした脂肪とぐねぐねうねる膣構造と執拗に絡みついてくるお餅みたいな肉襞とで、睾丸から根こそぎに搾り取ろうとしてくる。
 食いしん坊が勢い余ってオスもパクついてんじゃないのか。
 それでもいいと思った。もうとっくに、自分は彼女の餌になってんだから。

「く、ふーっ……ぅく」
「ん、全部入ったねー。へへ、おかえりー。このおちんちん、あたしのおまんこないともーダメになってるっしょー。帰っても一人でオナニーできないんじゃないの?」
「貯める時間も必要なんだよ」
「そだよねえ。あたしにいっぱい注ぎ込むんならチャージしとかないとなー」

 根本まで挿入しきって、そこで一旦呼吸を整える。
 もっちり包み込んでくる膣穴は、ふかふかの焼き立てパンに腰を振ってるみたいな気持ちになってくる。狭いのは狭いが、それより包む柔らかさの感触が強い。幾度もの行為でほぐれにほぐれたミニホールは、彼女の柔らかさの極致だった。
 暴力的な搾精機構ではなくて、あくまで腰を振ってもらうための受け身の穴っぽこ。
 オスを労り、オスを労い、オスを優しく暖かく心地よく迎える。そんな雌穴。
 手遅れだとしても、ときどきセーブをかけないと本当に獣になってしまいそうだ。

 腰を密着させれば、それだけ顔の距離も近くなる。眼前ですだちがにんまり笑む。

「いっつも思うけどさー、きみのおちんちんってけっこうえぐい形してるよね。わかるかな。あたしのおまんこをさ、こう、ぐいぐいーって内側からかきまぜる感じで。発情期きたらやばそうだなーって思わされるんだよなー」
「褒めてんのかっ、それ……!」
「褒めてる褒めてるー。まあ正直テクはないっぽいけど、それはまああたしだってマグロみたいな反応しかできてないから、女を泣かせるーなんてテクニックは育たないんだけどさあ。それでもおちんちんのかっこよさがおまんこの弱点にびしびしくるもんだから、こりゃーあたしとしてもナイス先行投資ってなわけですよ」
「そうかよっ……ああ、くそ、気持ちいいっ……!」
「んふ、それはあたしも嬉しいねー。いいおまんこっしょー」

 すぐに我慢できなくなって、腰骨を擦り付けるように抽送を始める。
 両手で彼女の脇の下を縫いとめて、逃がさない形――なのに彼女は笑顔を深めた。

 セックスのテクがない、との言葉には過不足なくその通りだと頷けるから、すだちが自身の男性器を褒めてくれている、って状況がすっと頭に染み込んで興奮を増す。
 自分本位の腰振りだ。膣内の途中にある気持ちいい部分――チョココロネみたいにうねってる螺旋したぷりぷりの肉襞にカリ首をこすりつけたり、ざらざらとした膣底の小さな肉粒群に裏筋を押し付けたり、こっちのためにわざわざすだちが用意してくれたんじゃないかって錯覚するくらいに膣内のありとあらゆる場所が気持ちいい。
 腰を引いて、腰を突き出す。抱き枕に股間を擦り付けているような動き。ほとんど床オナと変わりないし、この行為自体がセックスと言えるのかも怪しい。すだちのいたいけな身体を借りて自慰をする、っていうのが正しいんだろう。
 でもそれが脳みそを至福でどろっどろに蕩かしてくれる。
 眼下で俺を眺めるすだちは喘ぎ声一つ上げない。いつもの通りにのんびり気だるげに、俺との会話をおやつ両手に楽しんでいた。

「あー、そうだ。今度ファミレスいきたいな。いちごで思い出したんだけど、この時期デザートがいちごまみれじゃんね? いこーぜいこーぜー」
「おまえっ、奢らせる気だろっ!」
「そりゃーなー。男は甲斐性っしょー? ま、ちゅーがくせーには酷か。高校上がったらバイトとあたしの両立で私生活めちゃくちゃになりそーね。へへへ」
「お前の食いしん坊なんとかしろよっ……」
「そりゃ無理っしょー。だってこれ種族的な問題だもーん」

 すだちは――グリーンワームという魔物娘は、色気より食い気という時期が長いらしい。蝶として羽ばたくまでの充電期間をひたすら食事で費やす。いつもなにか食べている、というのはそのせいだ。中学で擬態している時さえ、お菓子を手放さない。
 充電期間を終えると盛りが始まり、子作りを兼ねた変態に移行していく、という話だが……それはまだ来ていない。だから彼女の中の神経は膣を鈍くさせ、食事にリソースを割かせているようだった。彼女は感じていないわけではないらしいが、喘がない。
 そのことに男としてプライドを傷つけさせられる面もあり、だからって「好きなだけ使っていい」という言葉が出てくることにも隠しきれない興奮があり。

 彼女はこっちが気持ちよさそうにしている顔をじーっと小悪魔的な笑顔で見つめながら、いちごの一粒一粒を少しずつ少しずつ味わって食べていく。
 ぐちゅ、ずじゅ、なんて粘膜が擦り合わされる恥ずかしい水音を立てているのにも関わらず、幼めの顔で平気そうにおやつをもぐもぐぴちゃぴちゃと食べ続ける姿が、どうも自分は気に入っているらしい。恋い焦がれるとか愛してるとか、こういうことなのかな。

「んふ。きみはあんまり冴えない顔してるけどさあ、こうして腰振ってあたしのおまんこにがっつんがっつんおちんちん食らわせてる時の顔、かっこいいんだもんなー。そういうのいいよね。あたしだけが知ってるいいところ、みたいなの」
「はっ……や、そんなん、知らねえっつーの!」
「へへ、照れてやーんの。かわいいのもいいよねえ。でもあたしの前なんだし、そこは自信持って胸張れってー。接待とかお世辞とかじゃないんだからさあ。ほら、あたしって嘘つかないのがいいとこじゃーん? わかるっしょー」
「おまえっ、嘘つくほど頭よくないからだろ……っ!」
「まーそーなんだけどねー。そこは素直でいい子って言ってほしいなあ。こんなに優しくってえっちでご飯もいっぱい食べて嘘もつかないんだよ? な、すっごくいい子じゃん? こんないい子におまんこ貸してもらえるきみは本当に恵まれてるよねー」
「っ、ばーか……」

 恵まれてる。そうだ。中学生が一番性欲に盛りがつく時期だって言うし、そんな時にすだちと出会えたのは恵まれてるにも過ぎて余りあると思う。
 たかがいちごのパックを買ってきただけで、一週間も好きなようにさせてくれる。そんなのは恋人であってもありえない関係性のはずだ。
 友人や家族の誰にも秘密にしている、俺とすだちの密やかな関係。放課後のセフレ。

 ――セックスフレンド、という言葉はこの関係を卑小化する気がして、あまり使いたくない。でもじゃあ他の言葉で当てはまるものがあるかといえば、セフレ以外には思い浮かばないのがもどかしい。今の立ち位置はそれでしかないから。
 一歩引けば、――あるいは一歩進めば、言葉も変わるだろうけど。それでも今の関係が気に入っているし、そんな勇気もないしで、緩やかで堕落的な怠惰に甘んじてる。
 好きなものに、好きなことを、好きなだけ――――。

 キンタマが迫り上がる感覚と共に、下腹の底面からじわじわと衝動が突き上がってくる。息がどんどん荒くなって、不随意に男性器が跳ねて膣を引っ掻き回す。

「おっ。おちんちんがびくびくしてきてんね。もう精液出そう? 汚さないように全部奥でびゅるびゅるーって出しちゃっていいからねー。あたしのこと思いっきり孕ませるつもりでー、孕め孕めーって出すの、気持ちいいっしょ? つっても、いっつもガチで孕ませる射精してるもんなー。わざわざ言わなくてもするよねー」
「ッ……おまえがエロいこと言うと、めっちゃ興奮、するからっ……く、やば……!」
「そーお? そだよねー。あたしがおまんことかおちんちんとか言うと、ぴくぴく反応してんだもんね。やー、嬉しいな。へへ。ほらほら、あたしのおまんこの奥の子宮、きみのための精液お便所だからね。あたしのことなんか考えない無責任孕ませ射精、どぴゅどぴゅやっちゃっていいんだよー。あたしのおまんこ使えるのはきみだけだもんねー」
「う、おおおッ……!! すだちッ――!!」
「うわやっば、ガチケダモノじゃーん……嬉しくてニヤける〜〜」

 全身の血液が沸騰するような錯覚。脳がインフルエンザの時よりもひどく浮く。
 浅ましすぎる独占欲や征服欲を目の前のすだち自身から刺激されて承認されて、欲望にまみれたオスがさらに一回り硬く大きく切れ味を増してしまう。
 かくかく乱暴に腰を振り乱し、体重をかけて押しつぶすピストンのせいで拍手のようなぶつかる音が室内にくぐもる。すだちのぷにぷになお腹が振動で僅かに波打ち、手のひら以下サイズの極貧おっぱいがなけなしの乳揺れを起こす。虫刺されみたいな可愛らしい乳首がぷくっと膨れて自己主張が激しい。
 とにかく彼女のあらゆる部分が興奮を喚起させる。とてつもなく、ムラムラする。
 そのせいか知らないけど、まったく射精感の抑えが効かない。しょうもない男のプライドが早漏だって侮られたくないってのに、入れてそう時間経たずに漏らしそうになってる。すだちはこんなことじゃ幻滅しないってセックスを繰り返すうちにわかってんのに。

「あーあ、あたしもいい加減発情期来てほしいんだけどなー。そしたら一緒にセックス楽しめるのにねー。こんだけばこばこおまんこ耕されてんだからイきまくっちゃうんだろーなあ。もしかしたらこうしてる内に性感帯開発されまくってて、ちょっと挿れるだけで深イキするようになってるかもだし。このおちんちんイイところ当たるっぽくてさあ」
「はっ、はぁっ……おまえ、盛りついたら、やばいだろっ」
「んー? やばいってなにが?」
「だって、そんなんっ……おれ、まだ大人じゃないから、責任とれないし――うお!?」
「…………ふーん。大人になったら責任取ってくれんだ? 言質ってことでいーい?」

 ――突然、すだちの雰囲気が一変する。
 いちごの甘さで穏やかだった目は、すっと細く肉食獣のように眼光を放ち出して。
 ぽってりとしたぷるぷるの柔らかい唇を、唾液まみれの舌なめずりで淫らにてからせて。
 逃さないと言いたげに、胴体の疣足全部が俺の身体や腿をがちっと強い力で捕まえる。
 今までずっとされるがままで、微動だにもせず受け入れてくれていた膣穴が――ぎゅっと引き絞る力を込めて、男性器の全体を握りしめてきた。
 ぶわりと身体中の汗腺から汗が吹き出す。急所を人質に取られているという反射的な恐怖からか、あるいは――人外という上位者から獲物にされる絶望からかもしれない。

「つーか発情期来てもセックスするの前提中出しするの前提なんだね? あたしのおまんこ借り続けてくれるつもりなんだよね? それってさあ――本気であたしのこと孕ませてやりたいってーことでいいよねえ? このおちんちんでさあ」
「う、ぐっ……! すだち、ちょっ、待っ――」
「あたしの恋人になってくれる――ってことでいいんだよね?」
「ッッ――――!」

 この時を待っていたと言わんばかりの豹変具合。
 痛いほどの快楽を膣から押し付けられているせいで、精液がもうそこまで上り詰めてきているのに全力の膣圧で射精だけをさせてもらえない。欲求がどんどん膨れる。
 射精したい、射精したい、射精したい――――原始的すぎる欲望が鋭く暴れ出す。

 そんな時に限って突きつけられる、俺と彼女の関係性。その行く先。
 自分がどうしたいか、なんてのはもう既にわかりきっていることではある。だけど言うタイミングなんてものは無かったし、なにもこういうことしてる時になんて最悪すぎる、って思ってたのに。彼女はそう思っていなかったのか。
 すだちの表情がみるみるうちに淫らに歪み、心底愉しそうに頬を吊り上げる。

「今まではあたしでオナニーさせてあげてたけどさあ……あたしと恋人になったら、ヤバいよ? あたしはきみのことが好きだから、ずっと離してあげない。ずーっとぱこぱこセックスしまくって、どろぐちゃになるまでおまんこに中出ししてくれないと許さない。毎日あたしの子宮を精液で埋め尽くしてくれないと、寝ることも許さないかんね?」
「おまえ、本気で……ッ」
「本気も本気。ガチだかんね。こんだけ男らしいやつ、手放すわけないじゃん。なにも言わずにそっちからセックスしにきてくれてさあ……ご飯もくれるし。あたし、ほんとに大好きなんだよ? 気持ちよくもないくせに、顔見ただけでまんこ濡れるもんなー」

 いくら魔物娘だからといっても、当然一日中濡れているわけではない。前戯もないのに即ハメられるのはそういうことだったのか。
 額同士がくっつきあって、じっと合わせられる眼から逸らすことができない。びりびりと全身の神経が暴走して痛くて痒くて気持ちいいのが溢れ出す。いつも真っ白なすだちの頬は、今だけはいちごよりも真っ赤だった。

「ね。今あたしね、すっごいどきどきしてる。だってきみの眼、男の子なんだもん。ずるいよねー。こういうの、心通じるってことなんだろなー」
「……すだちッ、イっ、…………イかせてくれッ……!」
「へへ。いーよ。子宮にびゅるるーって種付けしちゃってね。つってもねー、発情期が来ないとなんとも孕んであげられないんだけどさあ」

 途端に膣から僅かに力が抜けて、それでも依然としてきつく絞られるようなものだけど、代わりに今度は彼女の腰がくいっくいっと縦に横に精液をねだるように淫らなダンスをし始めた。粘膜の接触部分が秒ごとに変化して、射精を応援してくる。
 こんなの今までしてくれたことないのに――既に限界だった堤防が、夥しい量の白濁で蹂躙されて、尿道をぐんぐん駆け上がっていく。がくがくと腰が制御を離れて蠕動する膣内を必死に堪能しようとする。狙いはすだちのちっちゃな子宮。
 頭がひどく混濁してしまって、正常でいることができなくなってる。

「――あたしをむりやり排卵させちゃうくらいに愛してよね」
「うぅっおォっ! おれもっ、大好きだッ!! 孕めぇっ!! ぐううぅ゛ぅ゛ッ!!」
「あはっ……♡」

 腰をグリグリと押し付けて、懸命に子宮に鈴口を押し付けながら――押し留められて煮詰められた異常な濃度の精液を、びゅぐ、ぶびゅ、と射精する。
 気持ちいい。脳みそはその単純な言葉に支配されて、海綿体の脈動ごとに放出する快楽が脊髄をかきむしる。きゅっと内股になろうとしてすだちの胴体にしがみつき、精子一片たりとも逃さず注ぎ込むことに集中してしまう。
 メスを屈服させ孕ませようとするオスの本能がめきめき充足していって、多幸感が尋常ではないほどに意識を薄れさせる。なのに組み敷いているすだちの存在感だけははっきりとしていて、世界がすだちだけに閉じていくような、ありえもしない錯覚に陥る。

「びゅーびゅーって一番奥に出すの気持ちいいねー。全部出しちゃえなー。おちんちんがんばれー、卵子ぼこぼこにレイプしちゃえー。射精してる時の顔かっこいいよー……♡」
「ふッ――ぐぅッ……まだ出るッ……」

 耳元でぽそぽそと囁かれて、脳に染み渡る前に腰が跳ねて射精の勢いが増してしまう。身体の芯まで引きずり出されそうなまでの吐精快楽がいつまでも止まない。
 これはただのオナニーじゃない――この瞬間だけは、双方向としてのセックス。
 快楽の許容値が溢れ出して、どんどんと感覚が希薄になっていく――。
 彼女が囁く声ばかりが脳で反響して、もう洗脳まがいの刷り込みでしかない。

「大好き。ちょー大好き。ちょー愛してる。あたしが子ども産んであげたいのはきみだけ。思う存分あたしのおまんこでシコって、中出しして、孕ませても大丈夫なんだから……あたしだけ見て、あたしでだけ気持ちよくなっちゃおーね……♡」

 嘘偽りない、本心からの優しい言葉。
 穏やかで慈しみに満ちたすだちの声に導かれて、朦朧としながらへこへこ腰を振って精液を絞りきろうとする。こっちはもう呻き声しか上げられなくなってる。
 正しく気の遠くなるような時間を夢のままに射精し続けて、それでもやっぱりそんなに長くは続かなくて、……急速に波が引いていく。
 かさを開いた亀頭が注ぎ込んだ全ての白濁液を逃さず密閉する征服感、常人なら確実に孕ませているだろう濃度での種付け欲求、それと――言うしか無かった思いが、快楽の余韻として頭に残留する。恥ずかしすぎる。

「んん、ぜんぶ出たかな……。射精おつかれー。いっぱいびゅびゅーって出せたねー。奥で精液がちゃぽちゃぽしてる感じあるなあ。へへ。あたしの身体使ってオナニーしまくったおかげで、射精がうんと上手になったんだろーねー?」
「……はーっ……、ふーっ……」
「疲労困憊ってかんじ? そんだけあたしで気持ちよくなってくれたってことかな。めっちゃ嬉しーわー。やっぱあたしのおまんこ最高っしょー? うりうり」
「つつくなって……。最後の寸止めがヤバすぎたんだよ……死ぬわあんなん」
「まんじー? んー、気持ちよくなってくれるならちょいちょいしてあげよかなって思ってたけどなー。んじゃやめとこか。罰ゲームする時あったらいっぱい寸止めすっからねー、今後はあたしに逆らわないほうがよいぜー。へっへっへ」
「おまえのすることって、飯食うだけだろ……」

 いつもの調子で会話してるのに、俺だけなぜか顔を見れなくて、こういうのもこいつは余裕なのかよってちょっと悔しくなってきた。バカなのは俺もだな。
 疣足で頬をつんつんされてる辺り、もう俺が照れまくってるのはバレバレなんだろうけど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。射精したおかげで一時的にムラつきが治まって、下半身にめちゃくちゃ集まっていた血液がすーっと戻っていくけど、そのせいで頬が熱くなってんじゃないだろうか。
 力を失っていく男性器の代わりに、心臓がばくばく跳ねてる。抑えようもない。
 どうせちょっと休んだらすぐ辛抱できなくなってまたすだちを使わせてもらうことになる。それまでの和やかな時間も、つーかすだちと二人でいるあらゆる時間が大好きだった。めちゃくちゃ死ぬほどすだちのことが好き、ってわけじゃなくて、二人でいると居心地がいい。そんなだから、すだちのことが大好きってのは自明だ。
 重ね合わせた身体を引っぺがすこともなく、汗がべたべたでちょっと気持ち悪いけど、どくんどくんと互いの命の鼓動を交換し続ける。落ち着く音色。

「あー。あとさー」
「ん――ぐえっ」

 突っついてきてた疣足が急に力入って俺の頬を挟み込んで引っ張って、
 ――また、ゼロ距離で目線が睦み合う。
 とろんと目尻が垂れ下がった、幸せそうなすだちの瞳が、磨かれたビー玉みたいで。

「あたしのハート、返却不可だから。レンタル料、ちゃんと払えな」
「……うまいこと言った顔してんじゃねーよ」
「へへ」

 彼女の唇はいちご味だった。
18/03/07 11:30更新 / 鍵山白煙

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