連載小説
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第2部
第2部


それから7日経ちました。

ジプシャの宮殿の前には魔物の軍隊が整列しています。すると見張りの兵士がトランペットを吹きました。

『見えました!数およそ……2万!!大部隊です!』

玉座に座るネフェルタリ陛下はゆったりとくつろいでいます。アブドゥルは心配です。

『大軍だな……。ハーピーの斥候部隊を出せ。アラビの兵と武装、を調べさせよ。』

『はっ!!』

すると直ぐに羽の生えた魔物が空を掛けていきました。

『ネフェルタリ陛下、宜しいでしょうか?』

『アブドゥルよ、申してみよ。』

『何故陛下は宣戦布告をご承諾されたのでしょうか?この度の戦は避けようとお思いでございましたら、いくらでも仕様はあった筈ではございませんか?』

ネフェルタリ陛下はアブドゥルに優しく微笑みました。

『その言葉は我が軍の兵を心配してか?貴国の兵を心配してか?……いや……そうか……両方だな。アブドゥルよ、其方は優しいな。』

『甘いのかも知れません……』

『いや、その優しさは誰でも持てるものではない。誇るがよい。どうかその心を忘れぬようにな……。其方の思う通り、避けようは幾らでもあった。面倒だと思えば戦の取り決めの折、ファラオたる妾の言葉の魔を聞かせればアラビの王ごとき従わせることは容易い。』

『では何故に戦を?』

『それをすれば妾は王たる資格を失おう。他者の心をいたずらに意のままにすることは恐怖に繋がる。欺瞞が欺瞞を呼び闇を広げ、気付けば妾は暗君として玉座に座り世を乱す事であろう。さて……東の国の兵法と言うものにも戦は可能な限り避けなければならないとあるが、此度の戦は避けてはならないのだ。アブドゥルよ、其方は国とは何か分かるか?』

『……人。すなわち民でございますか?』

アブドゥルはいつかシェヘラザードが寝物語で語ってくれた薔薇の国の王様のお話しを思い出しました。

『そうだ。聡い子よ。では、法とは何か?』

『……国を……いえ……民を守るものでございますか?』

『半分は正解だ。いや……人間としてはもう十分か……。シェヘラザードに与えられたとはいえ、其方が持つ知識や教養は、本来なら誠に高貴なる思想の下、人間の時間では老いさらばえ、死の足音が聞こえてくるような時になり、やっと理解し得るものである。アブドゥルよ、良く聞くがよい。これは妾の理想やも知れぬが、法とは民を守る為のものであり、民を幸せにするものでなくてはならない。たとえば、盗んではならない。犯してはならない。殺してはならない。などの決まり事は人を守る為のものだ。それらが集まり、細糸が織られるようにして法という布が出来上がる。こうあってほしい……こう生きてほしい……法とはそういった祈りや願いのようなもので、それらが幾重にも織られた布のようなものである。それを着るのは民ぞ。民とは国ぞ。民の幸せの為に法というものは無くてはならない。自由や権利や幸せとは、織り成した法の上でしか成り立たぬ。』

アブドゥルはネフェルタリ陛下の言葉に涙を流しました。

『では王とは何か?……王とはその願いと祈りの糸をひとつひとつ紡ぐ者である。……王とは因果なものでな?国益……ひいては自国の民の幸せの為に他や自らを犠牲にしなければならない時もある。その事を知り、力を尽くし、最善を選び続けるのが王たる者だ。……残念な事に、王と呼ばれる殆どの者が自身やごく一部の者の幸福や豊かさを追求する為に他を苦しめ、私欲のままにその布を使っている。アラビ王国も例には漏れることは無く、アラビの王は王の器にあらず。国が……民が苦しんでいると見える。其方は王となるのであろう?』

『はい……私の願いはいつの日か幸福の国を作る事……ですが私は器となりえましょうか?』

『案ずるな。器とは時間をかけ作り行くものだ。……この戦、負けはありえぬ。王が民を救うのだから。そうであろう?アブドゥル・マジードよ。……それにな、妾の国は魔物娘の国故に民に嫁ぐ男が不足しておる。これもまたジプシャの国益となろう。』

ネフェルタリ陛下の言葉が終わるとハーピーの斥候が帰ってきました。

『陛下、ご報告します!』

『申せ。』

『はっ!……現在こちらに向かっている軍は約2万。歩兵ばかりです。槍兵が少し。あとは剣というよりは鉈を装備した兵。こん棒を持つ兵。あとは麻布の粗末な投石器。盾すら持たない者もおります。装備や服装から奴隷のようです。その後方、400キュビットほど離れた所に本隊と思わしき軍勢を確認。こちらは騎兵をはじめ、槍兵、弓兵、弩兵の他に少数のアサシンと多数の攻城投石機を確認しました。約3万の軍勢の内、約2万は弓、弩兵です。なお武装、装具を見るに正規軍のようです。』

『成る程。合いわかった……アラビの愚王め、妾の軍諸共に奴隷兵を矢で射ろうということか?大方、奴隷に敵に背を向かば矢で射るとでも言ったのであろう。……ご苦労、良くやった。』

陛下に一礼して、斥候のハーピーはその場を去りました。

『参謀!ケンタウロス、ユニコーン、バイコーンのチャリオットに枯れ枝を……枯れ藁でも枯れ葦でもかまわぬ。それと縄を持たせ、側面に待機させよ。以後、別名あるまで待機。それからラッパ手を用意させよ。』

陛下に一礼して、参謀のアヌビスは命令を伝えに行きました。

ネフェルタリ陛下は玉座からしどけなく立ち上がると、アブドゥルに手を引かせてバルコニーに出ます。そして整列している軍に手をかざして言葉を掛けました。

『妾の誇るジプシャの軍よ。敵は総勢5万の軍勢。何故アラビはジプシャに矢を向けるか?それは愛を知らぬからである。故に彼の者らを救わねばならない。愛がいかなるものか、愛がいかに素晴らしきものか。彼の者らの骨身に教えてやれ!!……なお、終戦後に此度の戦にて捉えた捕虜を集計する。捕虜の内、独身の者らは其方らの好きにせよ。妾が愛する其方らの働きに期待する。』

歓喜の声が上がり、進軍トランペットの音が空に高らかに鳴り響き、魔物娘ねか兵士達は戦場に向かいました。

『陛下!本当に剣も弓も槍も必要ないでございますか?兵も少な過ぎるかと……』

ジプシャの兵士達は皆武器を持っていません。代わりに様々な楽器を持っていました。

『案ずるな。ジプシャの精鋭が3万もおるのだぞ?妾の軍は皆独身故に良く働いてくれるであろう。この戦は盛大なお見合いみたいなものだ。……アブドゥルよ。魔物娘の……いや、妾の……ジプシャ王国の戦をとくと見ておくが良い。』

アラビの奴隷兵達が近づいてきます。みんな必死な目をしていて、中にはアブドゥルと同じような年端もいかない男の子もいました。

『報告します。敵軍作戦区域内に侵入しました。』

『ご苦労。……戦車隊を敵150キュビットほど後方を走らせよ。目くらましである!敵主力と奴隷兵とを分断せよ!』

パン、パパーン、パパパパパ、パッパパッパパッパパッパパーーン♪♪♪

ファンファーレが高らかに鳴り響くと一斉に側面に待機していたチャリオットが走り出しました。すると、2万の奴隷兵の後ろに砂煙が舞い、何も見えなくなりました。


シャン、シャン、シャシャン、シャン

タン、タンタン、タタン、

シャン、シャーーーッ、ツタン、

タン、タタン、タンタン、

シャラン……

隊列の前にいるアプサラスという魔物娘がタンブラを鳴らしながら踊っています。

それに合わせて、

ガンダルヴァの奏でる
ハープの音……
リュートやマンドリンの音……

アヌビスとスフィンクスの奏でる
ホルンの音……

ピクシーとフェアリーの奏でる
フルートの音……
オーボエの音……

そして

ケプリやマミーが奏でる太鼓やシンバルの音が鳴り響きます。

美しく軽やかに響く音は壮麗で、砂漠であるにもかかわらず華の香りを風に乗せていました。

楽器が響くと今度は歌が聴こえてきます。

ラララ♪♪ラララ♪♪

今は華咲く季節、若人はみな踊りましょう♪

ラララ♪ラララ♪ランランラン♪♪

華の喜びを身にまとい、踊りましょう♪

ハープの音色の中で、あの娘は誰の手の中に?

ラララ♪ラララランラン♪♪

ああ、なんと悲しい事でしょう?

なぜ甘い喜びを取らないのでしょう?

ラララ♪♪ラララ♪♪

さぁ、娘たちの手を取って♪

それとも、私の手を取るの?

ラララ♪♪ラランランランラン♪♪

愛の女神の微笑みは♪

悲しみを風に乗せて追いやるの♪♪

ラララ♪♪ラララ♪♪

今は華咲く季節、さあ、私の手を取って♪

愛と喜びに踊りましょう♪♪

ラララ♪♪ララララランラン♪♪

ラミアやハーピーやセイレーンや妖精達が歌う美しい歌が。

それを観て聴いたアラビの奴隷兵達はみな武器を落としてしまいました。

次々に戦意を失っていきます。

膝をついて見惚れてしまう者……

聞き惚れてその場に立ち尽くしてしまう者……

魔物娘の手を取って踊り出す者……

殆ど全ての兵がそのような有様でした。

『見よアブドゥルよ。いかな者であろうとも、愛には勝てぬ。ましてや愛に飢えたアラビの兵など恐るるに足りぬのだ。』

2万の奴隷の兵隊たちは殆ど残らず捕まってしまいました。

そして、砂煙が晴れるとアラビ王国の正規の軍団が現れました。

音楽が鳴り響く中、それを観たアラビの王は驚きました。

『こ、これはいったいどういうことか!!……えぇい!!魔物に囚われた無能な者ごと矢で射れ!!』

アラビの王が怒鳴り声を上げると一斉に矢が雨のように放たれます。

なんという事でしょうか?矢が空中で色とりどりの花に変わってしまいました。

『なっ!??……えぇい!!投石機も使え!!』

投石機から放たれた大きな岩は大きな花束に変わってしまいました。

『無駄ぞ。3万の妾の軍勢が器楽、舞、歌の魔法で術式を陣として展開しておる。そら、どんどん広がってゆくぞ?』

ジプシャの軍勢が一歩進む度にアラビ王の軍勢を魔法の音楽が包み混んでしまいました。兵士達は剣を捨て、武器を持っていた手で娘達の手を取って、踊ったり、歌ったり、愛を育みました。

そうして、流れる歌のままに戦はジプシャ王国の勝利で終わりました。

戦が終わった後は奴隷も、兵士も、捕まった独身の男の人はみな魔物娘と結婚しました。

アラビの王と大臣達や私服を肥やし民を苦しめていた諸侯達は皆裁きにかけられるそうです。

悪い人達はみんな居なくなってしまいました。

アブドゥルはネフェルタリ陛下と共にアラビの王宮に行き、地下牢に捕まっていた太った商人を助け出しました。

『……この度は私の至らなさから不憫をおかけして申し訳ありません。』

『良いのだサウルの子アブドゥル。……これは、陛下……お久しぶりでございます。あなた様がここにこうしていらっしゃると言うことは……』

『久しいなサウル。……そうだ。お前が思っている通りだ。』

『左様でございますか……いや、遅かれ早かれこの様な国は滅んでいたでしょう。それで、我が国はどうなるのでしょうか?』

『……それを陛下とお話したいと思います。』

『アブドゥル?……どういうことだ?』

『それは……』

アブドゥルはこれまでの経緯を太った商人に話しました。そして、これからの話し合いがはじまります。

『その様なことが……ネフェルタリ陛下。』

『うむ……さて、諸君らはアラビをどうする?アラビをどうしたい?』

『うーむ……。アラビは戦争に負けました。古い慣習に従うのであればジプシャ王国の属国となるのが妥当かと……。』

太った商人が腕を組み口を開きました。

『妾はそれでも構わん……。どうした?アブドゥルよ、申してみよ。今は其方がアラビの王ぞ。』

アブドゥルはネフェルタリ陛下の言葉に、重さと責任を感じました。アブドゥルは息を静かに深く吸い込みました。

『……アラビ王国は西の大陸、霧の国、南の大陸と北方地方をも結ぶ"布の道"の中心であり、主神教中つ国アシュマール派、主神教ユタ派、西方主神教教会の3つの宗教の聖地……サレムにほど近い中つ国の中心。もしアラビがジプシャ王国の属国となれば、魔物娘の国が中つ国に領土を広げる事になりましょう。そうなればコラン聖典、旧約聖典、新約聖典を信仰する3つの巨大な宗教勢力と西の大陸列強が黙ってはいない。彼らの共通の敵は魔物娘……。いたずらにジプシャ王国がアラビ王国を吸収して領土を広げれば、聖戦軍を始めとする動乱が起きましょう!』

『うむ……ではアラビ王アブドゥル・マジードよ、この危機を如何に治める?』

『……私の国を、"主神教アシュマール派を国教とした人魔中立国"として宣言。以後、立法を全て書き直し、人魔中立アラビ王国はジプシャ王国や他のアシュマール派国と和平交渉をいたします。』

ネフェルタリ陛下はその答えに感心しました。

『其方は良い王となろう。……そうともなれば貴国との条約の交渉内容を精査せねばなるまい。アブドゥル王よ、妾はこれで失礼する。』

ネフェルタリ陛下はアブドゥルに頭を下げ後ろを向いて歩きました。

『ネフェルタリ陛下……この度は、ありがとうございました。』

『……ふふ、いずれまた会いにこよう。今度は取り引き相手としてな。』

そう言って去っていきました。

それを見ていた太った商人はオイオイと泣いて喜んでいました。

『アブドゥルがこんなに大きく……逞しく……神に感謝せねばっ!』

『……感謝をするのは私の方です。あなたは血の繋がらない私の事を"サウルの子"と呼んでくれました。あなたの名前を初めて知った時、本当に嬉しかった……。あなたは路傍で売られていた奴隷の私に手を差し伸べて"我が子"と呼んでくれたのです。』

アブドゥルはサウルに感謝を伝え抱擁をしました。






それから数日後、今日は王様としての挨拶の日です。沢山の人々が王宮の広場に集まりました。






『ここにお集まりの愛する国民の皆様、ジプシャ王国の皆様、そしてネフェルタリ4世陛下に心から感謝いたします。私はこの度、アラビの王となったアブドゥル・マジードです。私は皆様に……いえ、ここにお集まりの一人一人にお話ししたい事があります。

私はアラビという国の王です。ですが私は勇者やましてや英雄のような特別な者ではありません。齢13歳の年端もいかない小さな人間です。あなた方と同じく、隣人なのです。

私には夢があります。それは誰もが幸せになれる国を作る事です。

あなたは、あなたの父を愛していますか?あなたは、あなたの母を愛していますか?兄弟を愛していますか?姉妹を愛していますか?友人を愛していますか?今、あなたは誰かを愛していますか?……その気持ちに、その心に、宗教や身分や肌の色や人種、人間か魔物娘かは関係ありません。お金持ちも貧乏な人も、貴族も平民も奴隷も皆、別け隔てはありません。

では、王とはなんでしょうか?国とはなんでしょうか?

国とはあなた方、人民であり、王とはその願いを紡ぐ者と私は考えます。

しかし、その事は決して誰かを下に置いて、誰かを犠牲にして発展するという事ではありません。私の国で、その様な事は決して許さないでしょう。

……過去、私達は奢り、人の下に人を作り、誰かに犠牲を強い、愛の無い国を作ってしまいました。私はある時、裕福な者に鞭で打たれる召使いを見ました。雨風凌ぐころも無く路傍で身を寄せ合う人達を見ました。今日食べるにも困る人を見ました。聖なる祈りを聞いて殺されてしまった人を見ました。殺された方は奴隷の身分です。

なぜか……。それは、そのような境遇にある人達が存在する事を、法が認めていたからです。

法と言うものは私達が存在し生きている社会を制御する為に無くてはならないものです。もし法が無ければ自由という暴力が私達に襲いかかるでしょう。

しかしながら、私達はその法が持つ力を制御できていたのでしょうか?逆にその力に支配されていたのではないのでしょうか?

私達はなんのために生まれて来たのでしょうか?もっともっとと豊かさを求め、偉くなる事ではありません。幸せになる為です。……社会を制御する仕組み。すなわち法とは幸せを阻害するものではあってはならないのです!!

一部の階級の人間が法の下に権威や権力を振りかざし、その他大勢に犠牲を強い、幸せを搾取して豊になる。これは間違っています!!

そしてその間違いは大きな負の連鎖を生む根源となりえるのです。

それ故に剣を隣人であるジプシャ王国に向けてしまいました。しかし、剣を向けられた隣人は力に訴える事なく、私達の手を取り、もう一度やり直す機会をこうして与えてくれました。

争っている場合ではありません。今こそ手を取り合わなければ、私達の前に立ちはだかる巨大な壁は乗り越えられないでしょう。

もう一度、私の夢をあなた方一人一人に語りましょう。

私の夢は誰もが幸せになれる国を作る事です。そこには、宗教や身分や肌の色や人種、人間か魔物娘かは関係ありません。

しかし、それは私一人では作れません。国とはあなた方です。ですから、幸福の国を作り上げるにはあなた方一人一人の力が必要なのです。どうか、私に力を貸してください。』



アブドゥルは深く頭を下げました。広場はしんと静まり返っています。

すると、

パチパチ……パチパチ……

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

『旦那様……ご立派でございます。今、わたくしの夢も叶いました……。あなた様の願いを聞いた頃より、あなた様の願いはわたくしの願いになりました。アブドゥル・マジード王……どうか、お顔を上げてください。さぁ、建国宣言を。』

拍手と歓声の中で、シェヘラザードが言いました。その言葉に拍手と歓声を現実だと確信出来たアブドゥルはゆっくりと顔を上げました。

『ありがとう……ありがとうございます。サウルの子、アブドゥル・マジードの名において、主神教アシュマール派を国教とする人魔中立アラビ王国の建国を宣言します!!』

アブドゥルは高らかに宣言をしました。多くの人々が新しい王様を祝福しました。


その夜のこと……

『……出でよ、シェヘラザード。』

寝室に入ったアブドゥルはシェヘラザードをランプから呼び出しました。

『わたしの王様。お呼びでございますか?』

『はい。……シェヘラザード。君のお掛けで私は王様になりました。幸福の国を作る……その願いはまだまだ途中だけど、対価を払いましょう。』

『旦那様……。わたくしは旦那様の願いを叶える為に魔法を使っていません。わたくしが持つ拙い知識を与えただけで……それも旦那様自身の努力の賜物。わたくしが魔法を使ったのはあの時、アラビの憲兵からジプシャへ逃げた時だけです。それに、旦那様はもう十分過ぎる程の対価を払っておいでです。』

『対価?』

シェヘラザードは俯いてしまいました。

『旦那様が願いの為にお支払いした対価。それは、旦那様が子供でいる時間でございます。……齢13歳にして完全な人格と本当の意味で高貴な思想を持っておいででございます。その代償は……余りにも大きい…………。わたくしには願いの代価を受け取る資格はありません。』

アブドゥルは俯いて涙目のシェヘラザードの手をそっと取りました。

『泣かないで、シェヘラザード。……君は私の願いを覚えていますか?』

『はい。……この国の全ての人が幸福であるように。悲しい思いをしない、痛い思いをしない、そして不幸にならない。奴隷も王様も、お金持ちも貧乏な人も、皆んなが幸せになる……。片時も忘れた事はございません。』

『そう……幸せになる者の中にはシェヘラザード、君もいるんだよ。もちろん私も。それでも、願いの代価がいらないと言うのであれば今度は私個人の為の願いを叶えてくれるかい?』

すこし企んだようなアブドゥルの笑顔にシェヘラザードは不思議な顔をしました。

『はい。何なりと。』

『……"サウルの子アブドゥル・マジードの名において命ず" ……シェヘラザード、私の願いが叶った後も、ずっとずっと側にいてください。きっと君を幸せにします。結婚してください。』

『だ、だだだだ旦那様!!本当にわたくしでよろしいのですか?旦那様にはもっと、素敵な方が……』

『君じゃないと嫌だ。……それで、叶えてくれるの?』

『はい……旦那様の願い事、確かに承りました。』

それは初めて2人が出会った頃と同じような会話でした。シェヘラザードの涙が喜びの涙に変わった時、彼女の身体に魔法の文様と文字が浮かび、朱と黄金色に輝きました。

『シェヘラザード、これは?』

『わたくしの身体は正当な対価を支払うことであらゆる奇跡を可能にする古の魔法陣術式そのもの……恐らくこれは魔法の契約でございます。わたくしは旦那様のもの。そして、旦那様はわたくしのものとする最も堅く、最も強い魔法。この世が終わっても永久に続く魔法の契約です。』

アブドゥルは真剣な眼差しをシェヘラザードへ向けました。

『サウルの子アブドゥル・マジードの名において……火のジンの娘シェヘラザードを健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみのときも、試練の時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、命ある限り、まごころを尽くす事を誓います。』

『火のジン、ジーニーが1人シェヘラザードの名において……サウルの子アブドゥル・マジードを健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみのときも、試練の時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、命ある限り、まごころを尽くす事を誓います。』


『『死が2人を分かとうとも永久に……』』


ちゅっ……


2人が誓いの言葉を紡ぎ、アブドゥルがシェヘラザードのベールを取り口付けを交わすと、2人の左手の薬指にそれぞれ黄金に輝く魔法の文字が指輪のように巻きつきました。

『……わたくしと旦那様は夫婦となりました。ですが、わたくしが旦那様の僕に変わりありません。お次の願いはございますか?』

『つ、次の願い……?うわぁ!?』

ドサッ……

シェヘラザードはアブドゥルを寝室用の敷布に押し倒してしまいました。

『……此方の方はお教えしませんでしたね。夫婦となったのです。わたくしがお世継ぎの授かり方を教えて差し上げます。』

ちゅ……れろ……ずっちゅ……っ……っ

シェヘラザードはアブドゥルに口付けをしましした。誓いの時にした唇を重ねるだけの口付けではなく舌と舌が絡み合う大人の口付けです。あっと言う間にアブドゥルの頭は蕩けてしまいました。

『ぷぁっ……♪旦那様、如何でしょうか?』

『はぁ……っ……はぁ……』

口の中のありとあらゆる所を犯されたアブドゥルは息も絶え絶えです。シェヘラザードの魔法でしょうか?気がつくと、いつの間にか衣服が取り払われていて2人は生まれたままの姿になっていました。

ん……っ……ちゅ……

シェヘラザードはアブドゥルの身体を抱き寄せてその柔らかい手でさすったり、首筋を舐めたり、耳に舌を入れたり……

『ぁあ……いゃっ』

生まれて初めて与えられる快楽にアブドゥルのエメラルドの目には雫が溜まっています。

『ふふふ♪旦那様、ご立派でございます♪』

すっかり堅くなったアブドゥルの分身を愛おしそうにさすりました。

『ひっ!やぁ!?』

びくんと身体が跳ねます。それが嬉しくてたまらないシェヘラザードはアブドゥルの分身をぱくりと咥えてしまいました。

ずっ……じゅっ……れろれろ……ずずっ……

『えっ!?な、にこれぇぇ!??』

『ふはらひへほはひはふは?(如何でございますか?)』

ちゃぷっ……れろ……んちゅっ……

シェヘラザードはアブドゥルに快楽を教えていきます。

『シェヘラザード!シェヘラザード!……何か出ちゃう!……何か出ちゃうっ!』

ちゅぽん……

するとシェヘラザードはアブドゥルの分身から口を放してしまいました。

『旦那様……お口で果ててしまうのはもったいない。もっと……もっともっとキモチイイ事を致しませんか?』

シェヘラザードは自らの濡れそぼった花園をくちゃぁ……といやらしい音を立てて開いて見せました。こぷり……と蜜がヒクヒクと蠢く奥の穴から滴り落ちて、彼女の太ももを濡らしました。アブドゥルは目を離す事が出来ません。

『旦那様?……おねだりの仕方はお覚えでございますか?』

ドサッ

『きゃっ♪』

アブドゥルはシェヘラザードを押し倒しました。どうするべきか?知りませんでしたが、アブドゥルは本能で理解していました。

『"サウルの子……アブドゥル・マジードの名に……名において命ず。"……君の中に……入りたい……です。』

『かしこまりました♪♪』

シェヘラザードはアブドゥルの分身に手を添え、彼を花園の奥へと導きました。

ぐちゅん……!!

『『ーーーーー!??』』

びくん……びくん……

『はぁ……はっ……』

パズルの欠片が噛み合うように、光と陰のようにぴったりです。まるで、片方の為にもう片方が創られたようでした。あまりの快楽に奥に入れたまま動けません。息をするのもやっとで、時々2人の身体が快楽に抗うようにびくんと動くだけでした。

息の音……鼓動の音……温もり……それらが混ざり合っています。

『らんなしゃまぁ♪らんなしゃまぁ♪♪』

シェヘラザードが何かを求めるような声を上げると、アブドゥルは彼女の唇を奪いました。

ぐちゃ……ずちゅっ……ずっ……ずっ………

ゆっくりと動き始めました。快楽の中でアブドゥルは何やらコリコリとする感触に不思議に思いました。

『おわかりれすかぁ?そこはぁ……らんなしゃまのぉ……あかしゃんつくるところれす♪』

『あかちゃん?』

びくん……

『ひゃんっ♪♪』

ぢゅぼっ……じゅぷっ……じゅ……じゅっ……じゅぱ……ぱじゅ……ぱっ……ぱん……ぱん、ぱん、ぱん……

早くなる鼓動に合わせるように、糸を引くような湿った音がだんだんと乾いた音になっていきます。

『あっ♪あっ♪あ、あ、あ、あ、あ、あ♪♪♪』

『シェヘラザード!シェヘラザードっ!!』

たんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたん

『シェヘラザードっ!わたしのっ!……わたしの子を……あかちゃん……つくってぇえ!!』

『はい♪らんなしゃま♪♪♪あかしゃんつくるぅ♪♪♪はらむ♪♪はらむぅぅ♪♪♪』

シェヘラザードの子宮は降りきっていて、アブドゥルの分身にしゃぶりついています。

たんたんたんたんたんたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた

『シェヘラザードっ!シェヘラザードっっ!!』

『らんなしゃま♪♪♪らんなしゃまぁぁあああああ♪♪♪』

びゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる

足を絡ませ合い、口付けを交わしながら2人は果ててしまいました。最大の絶頂と快楽を極めた2人は息も絶え絶えで、ですが幸せそうでした。

口を離すと愛を囁き合って、気怠い微睡みに任せて夢の中に旅立ちました。



こうして王様となりシェヘラザードと結婚したアブドゥルはジプシャ王国との同盟を築き、主神教アシュマール派諸国との和平を成しアラビ王国を良く治めました。

貿易や外交は太った商人が助けてくれます。

奴隷制を廃止して、沢山の人々を救いました。

戦争をする国々の間に話し合いを設けることもありました。解り合え無くても利と理で仲を取り成すのです。

アラビ王国は代々、王様の土地です。アブドゥルは国民を同じ家に住む家族として、一人一人を大事にしました。

そんなアラビの小さな王様が治める国は栄え続けて、やがて砂漠の宝石と呼ばれるようになりました。

アブドゥルが望んだ通りに、アブドゥルの国は幸せの国となったのです。

砂漠の小さな王様の言葉はまるで魔法の様に人々を勇気付けます。

あの日、シェヘラザードが魔法を使わない魔法を使ったように。

砂漠の小さな王様は言葉と願いを紡いでいきます。





おしまい。

19/05/22 01:31更新 / francois
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■作者メッセージ
これにて、砂の国 はおしまいです。褐色ロリ×ショタってイイヨね!!
ネフェルタリ陛下はどうなった?だって?……はっはー!こいつめ!!
お楽しみ頂けたら幸いです。感想や誹謗中傷などありましたらお気軽に。
ではまた!U・x・Uつ

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