連載小説
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【危機一髪ゲーム】
「これはグループ参加の出し物だよー」
声を振り上げるアークインプの横にはいくつもの穴のあいた大きな岩が置いてあった。

「なんだ、これ」
通りかかった大学生くらいの男性グループが興味を惹かれて立ち止まっていた。
「グループ参加らしいし、せっかく皆でいるんだしやってみねぇ?」
ノリの良さそうな青年が他のメンバーを誘っている
「面白そうなんだけど、コレ。確実に怪しいだろう」
「なんかそういう魔物娘いなかったっけ?」
「ボクとしてはぜひぜひやりたい企画だね」
「ひゃっふううう。」
訝しがって乗り気ではないメンバーに、鼻息を荒くしている奴らもいる。
「はぁ?、なんだよ。その分かれ方。ま、いいや。じゃ、全員参加ね」
「「ヤメロォォォ!」」
「「よっしゃぁぁ!」」
あくまで気がついていない青年と嫌な予感を感じている者、期待にどこかを膨らませている者。
彼らの運命はいかに。

「それではルール説明です。ルールは簡単、この岩に開いている穴を一つ選んで手をずぷっと差し込んでください。何が起こるかはあなた次第」
ね、簡単でしょう。という、不安しか煽らないアークインプさんの言葉に拒否組はゴクリと唾を飲み込んでしまう。
すぐにでも逃げ出したいが、彼女の眼光は逃げることは許さないと雄弁に語っている。しぶしぶ配置につく者、いそいそと配置につく者、言い出しっぺの青年はウキウキと穴を選んだ

「それでは、危機一髪ゲームスタートです!」


(ケース1)
「だって、コレ、あの魔物娘の穴だろ。俺、彼女いるのに…」
恐る恐る穴に手を入れた彼の手に何かが触れた。
「うわ、なんだこれ。体か? あれ、でもそれにしては何だか」
何とは無しに引き抜いてみるとそこから出てきたのは、虜の果実がいくつか入った袋だった。

「あ、当たりですね。おめでとうございまーす」
アークインプの声に、彼はホッと胸を撫で下ろして穴から離れる。

何事もなく乗り越えたと思う、そんな彼の耳に届いた声があった。
「チッ。彼女いんのにやるんじゃねーよ」
穴なら聞こえてきたドスの聞いた声はあの魔物娘の容姿とはかけ離れている。
…………気のせいだ。自分にそう言い聞かせて、彼は手に入れた虜の果実の楽しみ方を考えることにした。

「ケッ、幸せにな」
悪態があぶくのように浮かんでた。


(ケース2)
これで、念願の彼女が。しかも、あの魔物娘ならば体格も。
次の彼は邪な考えを抱きながら、手を穴に入れた。

しかし、手に触れるのは硬い岩の感触だけ。
「え、あれ、あれェ?。何もないんだけど…」
「残念、ハズレですね」
「そ、そんなぁ。どこかに何か」
諦めきれずに丹念に穴の中を探る彼、そこでふと手に当たるものが。
「ん!、柔らかい。この感触、あの子に違いない!」
彼は嬉々として、手に当たったものを引きずりだそうとするが、どうしても引き寄せることは出来ない。

彼は頑張るが、岩の中から聞こえてきた声に背筋を凍らせることになった。
「やめてください。じゃないと、大声あげますよ。それとも、私に潰されることをお望みですか?」
ナニを!?
「ヒッ、ブヒィィィィ!」
彼は慌てて手を引き抜くと尻餅をついてガタガタと震えることになったのだった。


(ケース3)
「この様子なら、大丈夫だな」
二人の様子を見て安心したのか、躊躇っていた男は思い切って穴に手を突っ込んでみた。

「ふ、ァぁぁぁァん」
「は!?」
幼い矯正と共に入れた手が、がっしと掴まれる。

「離、…しません」
「俺の時だけテンプレって、やめろよなァァァァ!」
断末魔の悲鳴を上げながら、穴の中へと引きずり込まれていく彼。
彼女持ちの男は手を合わせ、震えていた男は羨ましそうな顔で見ていた。

ぎっちりと岩の穴が閉じた。
よく見ると、この大岩には今彼を吸い込んで閉じたものと同じような箇所がいくつもある。
「まさか、これ全部…」
頭をよぎった恐ろしい予感に、彼女持ちの男は喉を鳴らしてしまう。

「………中には誰もいませんよ」
彼の後ろからかけられたアークインプさんの声に金玉がキュッとなった。


(ケース4)
「希望は捨てない!」
もう一匹の萌え豚が穴に手を突っ込んだ。

「……、なんかニュルニュルするのデスガ?」
腕を這いずり回るイヤな予感にダラダラと汗を流す彼。

「混沌の世界にようこそぉ」
艶かしい女性の声音と共に、飛び出してくる触手、触手、触手。
彼の体をくまなく覆い尽くすと、そのまま穴の中へと引きずり込んでいく。

ずるずる引きずり込まれていくその光景は、まるでイソギンチャクが獲物を捕食しているかのようだ。
「お姉さんは、ノーセンキュぅぅぅぅl!!」
「じゃあ、変えなくちゃ。頭の中からじっくりと、ネ♡」
拒絶の声も彼も一緒くたに引きずり込んだ混沌の淵は固く閉ざされたのだった。


(ケース5)
「よっしゃ、じゃあやるかなー」
「おい、お前、今までの惨劇を見て何も思わないのかよ…」
「いやいや、言い出しっぺの俺がやらなきゃダメでしょ」
「お前のそういうところは好きだけどさ。………幸運を祈る」

言い出しっぺの青年を残された二人は見送った。

「せいっ!」
気合いと共に彼は穴に手を突っ込んだ。
同時に閉まる穴。
「は、ハァァァァ!?。抜けないぞこれ、お姉さん、おかしいでしょこれは」
彼は慌てて店員に声をかける。

「いいえ、これで合ってますよ」
彼にかけられた別の女性の声。
それを見た彼の顔が驚愕で歪む。
「なん、…だと?」

「私と約束していたというのに、それをほっぽり出して友達と遊びに行くなんて。その上、カリュブディスちゃんの穴に手を突っ込んでいるなんて。これはもう処刑だよね」
ニッコリと笑うワーラビットの目から、ハイライト=サンが消えている。
「待て待て、話せばわかる」
「問答無用ォォォ!!」

彼の後頭部に炸裂する彼女の拳。
ラビット・パンチだ。キケン。良い子は真似しないように。
青年は延髄に拳を叩き込まれて崩れ落ちる。岩の穴から、手がするすると抜けていく。

「よい、しょっと。では」
「持って行ってくれ」
彼を肩に担いで爽やかな笑顔で去ろうとする彼女に対して、彼女持ちの青年が虜の果実を彼女に放った。

「ありがと」
しっかりとキャッチして彼らは去って行ってしまった。


(まとめ)
残されたのは男性二人。
「待て、ボクだけ独り身じゃないのか?」
独り身は社会的に危機一髪だった彼だけだ。
「そうだな」
「そうだな。じゃなくて、なんとかしてくれよ」

「だったら、私なんてどうです?。これから交代なので一緒に回りませんか」
捨てる神あれば拾う神あり。店員のアークインプさんが彼に声をかけてくれた。
彼女に対して彼は。

「チェンジ、ぐぶふゥ」
彼女のリバーブローの前に崩れ落ちたのだった。
アークインプさんが彼をどうしたのかは、神のみぞ知る。
16/07/26 17:16更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
残りの魔物娘、4種…。

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