連載小説
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【お化け屋敷】
「ねぇねぇ、ここカップル限定のお化け屋敷なんだって」
「へぇ、俺たちがもっと仲良くなれるための仕掛けとかあるのかな」
「えー、私たちがこれ以上仲良くなっちゃったらどうなるのよぅ」

カップル限定とかかれたお化け屋敷に人間のバカップルが入って行く。

数分後。
「お前なんてもう知らねぇよ!」
「こっちだって、あんたなんてお断りよ!」
「「ふん」」
何があったのだろうか、お化け屋敷から出てくる頃には二人は喧嘩をして別れてしまった。

別々の方向へ去っていく二人。
お化け屋敷のお化けたちはその様子をニヤニヤしながら見ていた。
「くっくっく。大成功」
「面白いように別れていきますねぇ」
「男女の愛情なんてこんなもんよ。危なくなったら、すーぐに相手を見捨てる。だから、俺は相手を作らないんだよ。作れないんじゃ無くて作らないだけ。そこ大事だから」
「はい。俺もっス。愛なんて、彼女なんてもんはいらないんだー!」

このお化け屋敷にはモテない男たちの怨念が渦巻いていた。

「次の獲物が来たようですよ」
「よし。みんな配置につけ〜。別れさせてやるぞ!」

うえ〜い。
お化け屋敷の中から、お化けに扮した男たちの返事が呻き声のように帰ってきた。




「うわ、雰囲気あるな。静かだけど、大丈夫? アヌビスちゃん」
「だ、大丈夫に決まっているだろう」
「そのわりには声が震えてるけど」
「気のせいだっ、だ!」
「え、ダダ?」
「うるさいっ、ぎゃあああ!」
悲鳴をあげて男性にしがみつくアヌビス。尻尾が股の間に巻いている。
「やっぱり怖いんじゃん」
「こ、これはお前を守るためだ。は、早く行こう。時間がおしてるぞ」
腕時計のついていない腕を見ながら、アヌビスが男性を促す。

「よし、死刑だ」
目の前でイチャつくカップルに向かって殺気が放たれていた。
「相手は犬系の魔物娘。この場合はこれだ」
お化けが取り出したのはシュールストレミングの液を入れた小瓶。
「ちょっ! それはこっちも被害が大きいんじゃないですか!?」
「俺たちに失うものは無い! あいつらを別れさせるためならば手段は選ばん」

カップルが上から降ってきたこんにゃくに気を取られている間に、彼氏の股間に向かってそれをふりかけた。
「うっわ、くっさぁぁぁぁ!」
男性から悲鳴が上がる。

「ぎゃあああああ、こっちも食らった。ひいいい」
お化けたちも絶叫を上げる中、とうのアヌビスは。
「ごくり」
「え、何その目。その獲物を狙うような目」
「ジュル、いや、ジュル、私、臭いのが好きで、ジュル」
「マジで!? そ、そんな風によだれ垂らしながら近づかないで」
「ハァハァ。だから、お前の靴の臭いとか大好きで、舐めまわしてたり」
「雨でも無いのに湿気ってたのはそのせいかよ!? そんなこと知りたくもなかったよ!」
「今までプラトニックに臭いだけで我慢していたというのに、股間から強烈に臭わせるだなんて、我慢が出来なくなってしまう」
「なんて事してくれたんだよぉぉぉぉぉぉ!」
アヌビスに抱えられて遠ざかっていく男性。

「しまった。臭いフェチだったか。カップルの距離を縮めてしまった」
「いえ、あのアヌビスが特殊すぎただけですよ。ダメだ、くせぇ!」
自爆したお化けたちの阿鼻叫喚が吹き荒れた。




「きゃああああああ!」
「「ぎゃああああああ!」」
女性の声に混じってお化けたちの声が響く。

(デュラハンのカップル)
「首が取れると、抑えぇ、られなくぅ、ン」
「ち、ちょっと待て」
首を抱えて逃げる男性とそれを追いかけていく首なしの胴体。

(ゾンビのカップル)
「う、あ、ああう」
「あんまりびっくりして飛び上がるもんだから、手が取れたじゃ無いか。縫い直さなくちゃな」
男性は女性のもげた腕をもって平然としていた。

(ミミックのカップル)
男性が持っていた小箱には可愛らしいミミックがみっしりと入っていた。
「ほう」
「きぇぇぇ、目が合った!?」

(ドーマウスのカップル)
「え、ドーマウスちゃん、そっちには誰もいないよ」
ペコリ。ニコッ。むにゃむにゃ。
「寝ぼけているだけと言ってくれぇぇ!」
ドーマウスがお化けの隣の何も無い空間に向かって手を振っていた。

(カースドソードのカップル)
「やっ、やめっ! こんな狭いところで剣を振り回すなぁあ!」
スパッ!
「ぎゃあああああ」
ウホッ。男だらけのお化けたちが発情した。

(白蛇のカップル)
「こいつらには、これだ!」
「せんぱーい、悪ですね〜。彼氏にラミアの写真渡すなんて。これで主に彼氏が恐怖を味わうこと間違いなし!」
「馬鹿にしないでください。目の前でそんな事をされて、嫉妬するわけ無いじゃ無いですか。むしろ」
白蛇は彼氏の顔に尾を巻きつけて目と耳を塞ぐ。
「私(白蛇)の前で、彼氏に別の女の写真を渡したご自身の心配をなさってはいかがですか?」
「おぅふ!?」
「せんぱぁぁぁぁい!? そんなところにそんなものを!? これは彼氏には見せられなぁい!」
「あなたもギルティー♡」
「可愛い声なのに怖い! やめてください、白蛇さん。それはそんな使い方をするものじゃな、らめぇぇぇぇぇぇぇ!」

(キョンシーのカップル)
ピョンピョン。
「彼氏に水をぶっかけたこと、めっちゃ怒ってる!?」
ピョンピョン。ピョンピョン。
「やめて、暗闇で飛び跳ねる音だけ聞こえるのむっちゃ怖い」
ピョンピョン。ピョンピョン。ピョンピョン。
「近づいてきている上に、反響してそこらじゅうから聞こえる!?」
ピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョン。ペタペタ。ピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョン。クスッ。ピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョン。
「ぎゃあああ。誰か俺の肩触った!?」

(スケルトンのカップル)
「怖いからって、体の骨を投げてこないで。そっちの方が怖いから、って頭ぁぁぁ!? パス!」
「こっち回さないで、ください!」
「こっちにも投げるんじゃねぇ! 彼氏に返してやれよ。パス!」
「「だから、あっちに返してって」」
二人のお化けの声が上がる。
「「え!?」」
「「今俺に回ってきた頭って?」」
暗闇の中でお化けたちは青ざめる。
「「ぎゃああああああ!」」


「ダメですよ。本物の方達には勝てないですよ」
「途中、シャレにならない本物も混じってなかったか?」
「やめてください!」
小鹿のような足取りで先輩と後輩が震えていた。



「くっ、くそう。魔物娘どもめ〜」
「先輩、俺。何しても別れない彼らに、真実の愛ってあるんじゃないかって思い始めてきました」
「おい、何馬鹿なことを言ってるんだ! そんなものあるわけがない。例えあるとしても、俺たちには無いだろ。その証拠に魔物娘でさえ俺たちを狙わない」
「ぐう」
歯を食いしばって呻くお化けたち。
「そっスね…」
「だろ。俺たちはこのまま人間のカップルを別れさせ、魔物娘カップルを盛り上げる役目を続けるしかないんだよぉお!」


男たちが嘆くが、お化け屋敷の外がざわめき出していた。
「なんか外が騒がしいっスよ」
「うん? そういやさっき龍神様のお知らせでなんか言ってたような」

「ちょっとお客さん、ここはカップル限定ですよ」
受付に止められている女性がいる。
「はい、だからあなたと一緒に入ろうかと」
「ええ? 何言ってるんですかアポピスさん」
「大丈夫よ。すぐにその気になれるから。カプリ」
「あ、あ、あ」
「じゃあ、行きましょう。そうね、受付の人は私と出かけるからマミーちゃんに店番をお願いしようかしら」
「は〜い。じゃあ、名前も変えなきゃね。男食い放題、と。これでよし」
マミーがおどろおどろしい看板を、上からポップな字柄で書き直した。

「おい、受け付け。何女連れで、って。ここはカップル限定ですよ!」
アポピスの後ろから入ってきた、整った鼻をひくつかせるワーキャット。
「臭うよ。臭うよ。男の匂いだ。ねぇ、食べちゃっていい?」
「いいわよ飲んじゃいなさい」
「うん、分かった」
「あなたたちも好きになさい」
おー、という歓声が上がる。

「な、な!?」
「先輩、とうとう俺たちにも夏が来たんじゃないですか?」
「待て、よく考えろ。好みの子に捕まったらいいが、そうじゃないのに捕まったら大変だ」
「俺はもうさっきの甘ったるい空気で耐えられなくなってるんですよ。俺を愛してくれる子なら誰でもいい。誰か、俺を抱いてくれ!」

「ゲッチュ!」
「猿にゲッチュされてしまった」
カク猿に抱きつかれて顔を緩める後輩。

「裏切りものぉ! 俺は、逃げる!」
「いきのいい獲物ね」
走り出した先輩はギルタブリルの狩猟本能を刺激してしまったようだ。彼女は天井を伝って縦横無尽に彼を追いかける。
「く、来るなぁぁぁ! ぐ」
「ゲ〜ット」
ギルタブリルが先輩の首根っこを掴んで釣り上げた。

「くはははは! 喰い、放題だっ!」
男を捕まえて歓喜の咆哮を上げるジャバウォック。

「食べ放題会場ってここですか〜。なんかあんまり残ってなさそう〜」
遅れてやってきて嘆く、ホブゴブリン。



こうして食い放題会場と化したお化け屋敷は魔物娘たちに食い尽くされることになってしまった。
来年は、今年よりクオリティの高いお化け屋敷が作られることだろう。
16/07/01 22:17更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
なんだかんだで出発が延びて旅行は明日から行きます。
なんとかちょこちょこと書きあがったので、ポチッとな。


申し訳ありません。
気になる部分がいくつかあったので、ところどころ手直しいたしました。
会話メインでなんとか情景を表しきれないか試みたのですが、何かが足りないような…。

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