連載小説
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TAKE18.7 逆恨みのMachine Servant
"聖戦"第七試合 『要塞防衛ウォーターガン対決』

 現代遊侠王の暗部とも言われる無限ループコンボによって後攻一ターン目にして決着のついた『海上デュエル対決』に次ぐ第七試合の競技は舞台を浜辺に移しての開催となった。

「第七試合は『要塞防衛ウォーターガン対決』である!」
「ウォーターガン……水鉄砲で戦うの?」
「撃ち合いでもするつもりか」
「いかにも! エアガンや実銃では危険故、安全に配慮した結果だ!」
「安全に配慮するんだったらヌードリングなんて考えないでよ……。
 っていうか、水鉄砲で撃ち合いって今一どんな感じで決着つくか想像つかないんだけど」
「案ずるでない、ホルスタウロスもどきよ。その点についても抜かりはない」
(だから本物なんだってば……)

 スク水ランドセルの巨竜が説明するには『要塞防衛ウォーターガン対決』とは以下のような競技である。

・競技は浜辺にて行い、その競技場は9メートル×18メートル四方の長方形とする。
・選手は支給されたウォーターガンを武器として用いる。
 それらには魔術が施されており、軽量乍ら実銃並みに頑丈であり水の補給も必要ない。
・選手は競技場の両端に砂を固めて作られた四メートル半四方の"要塞"を有し、また要塞の周囲二メートル半を自身の陣地として有する。
・選手は自身の有する陣地の内外を自由に行き来できるが、相手選手の陣へ立ち入ることはできない。また、競技の最中選手はウォーターガンを持ったまま競技場の外へ出てはならない。加えて協議中の選手は上空や地中などウォーターガンの射程範囲外へ逃げてもならない。
 これらのルールに違反した者は魔術により自陣へ戻された後十五秒間身動きが取れなくなる。
・要塞の各所には空中浮遊する"標的"が設置される。
 "標的"は"選手からの攻撃"をある程度受けると破壊され消滅する。
 勝利条件は相手要塞に設置された標的を全て攻撃し破壊することである。
・ウォーターガンでの相手選手への攻撃はルール違反ではない。
 被弾した選手はペナルティとしてその場で十秒間身動きが取れなくなる。



「つまりはサバイバルゲームのようなものと思えばよい!」
「……まあ、似てるっちゃ似てるか」

 かくして両チームは第七試合の出場者を選出する。
 話し合いの結果、対戦カードはオートマトンのセレーネ 対 "怪物俳優"志賀雄喜となった。

「すみませんユウさん。私どうしてもああいう飛び道具使うの苦手で……」
「構いませんよ。然しそういえば確かにマキさんが吹替以外で鉄砲撃つシーン演じてるの見たことありませんね」
「養成所の時に色々ありまして……担当の先生から『上に言ってこの科目は受講免除してやる。今後弓や鉄砲の類は握らない方がいい』って言われちゃったんです。投げるのは問題ないんですけど、撃つのはどうも……」
「養成所で何があったんですか……克己さんには何と?」
「当然彼女にもその旨は伝えてありますよ。何なら仕事の交渉でも先方にちゃんと事情説明してくれてますし。
 ただ、出会ってばっかりの頃は流石に事情知らないから『試しに撃ってみて』って言われて、仕方なく百円のマグナムで空き缶撃とうとしたんですけど……」
「……わかりました。詳しくは聞かないでおきます」

 後日、雄喜は図らずも克己からその件について話を聞くこととなったのだが『まさかあんなことになるとは思わなかった。決して下手ではないがあの子に銃を握らせてはいけない』という返答に、男優はやはり詳細の追究を躊躇うこととなる。

「我らの残存戦力も残り僅か……。
 資金源のマーレスに、何かと便利だったケンジョーやミューズ、肉弾戦無敗のパッション、そして貴様の主ルージュさえ今や海の底。どうなっているかなど想像もつかんが、どの道奴らを頼ることなどできんわけだ」
「ええ、存じておりますリーダー……我々のみであの不躾な庶民たちを何とかせねばならないと、そう仰りたいのでしょう?」
「その通りだ。無論我は地上の王者、最強にして万能の魔物娘たるドラゴンである故あれしきの人間風情に負ける筈もない。そしてセレーネ、貴様とて古代文明の英知をその身に宿す"最秀の魔法生物"オートマトンであるな?」
「如何にも仰る通りに御座います」
「そしてまたセレーネ、貴様は幼少よりルージュの忠臣として、また一昨年からは我が部下としても数多の修羅場を潜り抜けて来た傑物。ともすれば我同様、単身であれあの程度の人間に遅れを取る筈はないと我は確信しておる」
「お褒めに預かり光栄に御座います、リーダー。私セレーネ、生涯お仕えする主君はルージュ様ただお一人と心に決めた身なれど、上司たる貴女様への忠義もまた揺らいだことはそう御座いません」
「ほう、貴様にそこまで言われるとは……は我としても光栄なことだな」
「当然の事を申した迄。……何よりあのユウという性悪屑男は他ならぬルージュ様の仇。他の取るに足らない愚物や下劣な畜生ども、特にあの何から何まで腐りきったいけ好かない虫けらを痛めつけた件は褒めてやらないこともありませんが、ヴァンパイアたるルージュ様を事もあろうに白昼の海へ沈めるという行為……というより、あの方への狼藉だけは断じて許しておけません。
 その代償はたっぷりと……打ち倒し、押し倒し、犯し辱め喘がせて……搾り取った精とその過程で見せた醜態によって支払わせると致しましょう……」

 一方のセレーネ。彼女のルージュに対する忠誠心たるや凄まじく、それは妄執や狂気と言って差し支えない程であった(『雄喜がルージュを海に沈めた云々は言い掛かりじゃね?』とか突っ込んではいけない)。


 かくして機械仕掛けの忠臣による弔い合戦は幕開けとなる。
 そして……


「――ッ」
「うおっと!」


 開幕から三分と経たぬ内、雄喜は自身が相対する自動人形が如何に恐るべき相手であるか身をもって思い知ることとなった。

(……見くびってたわけじゃない。寧ろ最初見た時からあいつだけは別格でヤバいと思ってたんだ)

 競技場に設置された防壁に身を潜めながら、雄喜は独白する。

(ただなんというか、他の連中共々話し合いに夢中になって偽那珂群を逃がすとかいうポカやらかしたって聞いたんで、内心『実はああ見えて案外ポンコツなんじゃないか』とか、多分無意識に思ってしまってたんだろうな。
 だが実際奴はポンコツなんかじゃない。寧ろあの警官どもの中じゃぶっちぎりで有能だ――恐らく炎天下でなきゃ主共々っ。
 その事実はもう目を見ればすぐにわかる。動きを見ればより確実だ。恐らく連勝されまくって焦ったか、はたまた主が海に落ちたんで僕を逆恨みしてるかのどっちかだろうが……まあ、どっちにせよ関係ない。要はどうやってあいつを倒すか、だ)

 自陣の標的を破壊されないようセレーネの注意を引きつつ、雄喜は策を練る(幸いなことに、セレーネは雄喜を怨む余り標的より彼ばかりを狙っていた)。

(オートマトンは古の時代に製造された自動人形が魔物娘化した魔法生物で、機械魔物だとかロボットの魔物娘と呼ばれることもある。
 運動機能は元より頭脳も機械並み……下手すりゃどっちも機械以上っ。
 そりゃ"最秀の魔法生物"なんて呼ばれるのもわかるってもんだ)

 砂浜の競技場を駆け抜けつつ、青年は再び身を潜め好機を待つ。

(だが幾ら"最秀"でも"完全無欠"とはいかない。
 如何に強力で隙かろうと魔物娘って時点で結局は"生物"だからな……。
 命宿し生きるものなら当然生態系の一部であり弱点も存在する!
 それは一見生態系とはかけ離れた存在に思えるオートマトンだって同じことだ!)

 失踪と潜伏を繰り返しつつ、雄喜は瞬時に策を練り上げる。

(支給のウォーターガンは4挺(ちょう)。
 どれも拳銃型かつ圧縮空気で水を撃つ、大体夏場のデカい玩具屋で二千円するかしないかって所のやつ……)

 このタイプのウォーターガンは総じて長射程・高威力の傾向にある。
 だが雄喜にとってより好都合だったのは、その内部が海水で満たされていたこと。
 言ってしまえば威力や射程で劣ろうとも、海水で満たされてさえいればよかったのである。
 というのも……

("海水"……実に幸先がいい。これで奴の弱点を突きやすくなった!
 問題は奴に"命中"するのかってとこだが……悩んでるぐらいなら、やるしかねえだだろッ!)

 意を決した雄喜は勢いよく身を乗り出しウォーターガンを構え、セレーネに狙いを定める。

「遅かったですね……命乞いの準備でもしていたのですか?」
「誰がするかよそんなことッ。お前こそ随分と余裕だな?
 ヴァンパイアの件もあるし、ともすりゃ"リロード要らず"のウォーターガンで僕が隠れてる砂壁を崩すぐらいはしそうなものだが」
「安易ですね、これだから庶民は……。
 私はオートマトン。古代文明の英知が産み出した究極の芸術。
 であれば何時如何なる時も瀟洒(しょうしゃ)かつ清楚に、
 貞淑かつ優雅に、上品かつ華麗に……
 それは戦場であっても変わりません……私は存在そのものが芸術なので――
「笑わせんなよ人形」
「……何?」
「お前程度の俗物風情がやれ瀟洒だ清楚だ貞淑だ何だと……
 笑わせるなって言ってんだよ、くだらねえ。片腹痛いってヤツさ。
 粗方そうやって『だから自分は他のクズどもとは違う』とでも言いたいんだろうが、
 奴らとつるんで汚職でウマい汁吸って、万引き野郎をスタンロッドで掘りながらイキってたお前も結局奴らと同じなんだよ。
 魔物娘として持つべき良心も信念もなく、
 ただ目先の利益や私利私欲のため、
 手を取り合うべき相手、守り助けるべき民に狼藉を働く外道……
 それがお前だよ、セレーネ」
「……不躾で低俗な庶民風情が生意気な。
 あなた風情がこの場で何と言おうと無駄なことです。
 何故なら――
   「『結局あなたが私に敗北(まけ)る事実に変わりはないからです』……ってとこかぁ?」
「……!」

 刹那。
 言葉で如何な感情を吐露しようと無表情を貫いていたセレーネの顔に、初めて"動揺"が走る。

(ありえない……あの男、なぜ私が発しようとしていた言葉を"読めて"いた……?
 大雑把に当ててくる程度ならばまだ、理解できなくもないッ。データベースがそれを証明してくれる……。
 然し奴は"十割"だった……寸分違わず完璧に言い当てるなど、理論上不可能……
 我がデータベースは、我が演算子はそれを認めないッ!)
「どうした人形。いきなり表情が変わったが……動揺しているのか?
 お前らしくないな。何があろうと常に仏頂面で感情を表に出さなかったお前が、
 たった一度の先読み喰らった程度でそこまで取り乱すなんてなぁ……
 そりゃ、普通の魔物娘ならともかく?
 自分で自分を『古代文明の英知が産み出した究極の芸術』と言って憚らない『最秀の魔法生物 オートマトン』が"その調子"じゃあ……わりと冗談抜きにカッコ悪いよなぁ?」
「――……黙れ"有機物"ッ。この一撃で仕留めてくれる」
「ほう、やる気かい"魔法生物"ゥ」

 自動人形と男優……浜辺で向かい合う二者は、ほぼ同時にウォーターガンを構える。
 もし両者の服装が水着でなく、手にする銃が黒く場所が浜辺でなかったなら、或いはその光景は本気の"殺し合い"に見えていたであろう。
 それだけ二人は殺気立っており、競技に対して全力であった。

「……いい表情(カオ)だ。
 宛ら主を殺した因縁の化け物と相対する女騎士か、鉄砲なら特殊部隊の兵士ってとこか。
 どうだお前、警官やめて役者にならないか?
 オートマトンの役者は声優やスーツアクトレスばかりで、顔出すのは業界でも未だ少数派でなぁ。
 魔法生物向けのいい事務所を知ってるんだが……」
「この期に及んでまだ軽口を叩くか、人間……おまえの童貞、貰い受ける!」
「……"童貞貰い受ける"、か! 実にストレートな台詞をどうも……。
 然しその気迫と言葉選び、益々役者向きだ……本気でスカウトしたくなって――
「くどいッ!」
「きたぜッ!」


 男優の戯言を遮り声を荒げた自動人形は、同時にウォーターガンの引き金を引く。
 照準は正確、かつ射程・威力ともに申し分なし。よって必中は、確実
 だが全く同時に男優も引き金を引いていた。こちらも人間乍らに照準は正確。
 幽かに光を帯びた一筋の海水は、実弾の如く熱気の中を進んでいく。

 そして――

「――ッッ!?」
「――ッッ♥♥」

 男優と自動人形は、全く同時に被弾する。
 途端に"設けられていたルール"に則り発動した魔術が二人から十秒の間自由を奪う。
 そして、十秒後……

「ぬぅっ、避けられなかったか……」

 浜辺に倒れていた雄喜はゆっくりと起き上がる。
 一方、同じく拘束魔術から解放されたセレーネはというと……

「――……」

 なんということであろう、倒れ伏したまま動かない。
 どころか……

「――ぁ♥ はぁぁっ♥」

 淫靡に息を荒げ、艶やかに赤面しする。

「ふッ♥ くぅぅっ♥」

 魔物娘が息を荒げ赤面。しかもその様は淫靡……
 "魔物娘図鑑"に造詣の深い読者諸氏であれば、既にセレーネの身に起こった出来事が何か、しっかり見抜いておられることと思う。
 その出来事とは……


「んァッ♥ はァァァッ♥」

  ――即ち"発情"に他ならない。
 そしてまた読者諸氏としては、彼女を発情させた"不届き者"が誰なのかも凡そ見当がついていることと思う。



「ふん。効いたようだな、オートマトン」

 そう、志賀雄喜である。
 このなんとも性悪で狡猾な男は、当初からセレーネを"こうする"為に策を練り動いていたのである。

「ぁっ♥ に、人間っ……♥
 き、きさまあっ♥ 私に、何をしたぁ♥」

 発情し、動きや思考が鈍って尚戦意を失っていないセレーネは、必死で雄喜を問い質そうとする。然し今や彼女の顔は元が冷徹なオートマトンとは思えぬほどにだらしなく緩み、その身は火照り熱帯びて、股座は愛液或いは潤滑油でしどどに濡れている。もし彼女が主役なら、即座に愛する男(断じて主の仇たる外道の悪鬼に非ず)へ淫らな奉仕を始めそうな程に。

 そんな有様で敵へ凄もうなどというのが、土台無理な話なのは言うまでもない。

 色に狂わされながら声を荒げんとして、然しその拍子に図らずも喘いでしまう、露出の高い水着を着込んだ長身長髪かつ巨乳巨尻のオートマトン……その姿たるや紛れもなく妖艶、かつ確かに淫靡であるのだが……ほんの少し前まで主の仇討ちに燃えていた冷徹なる不良警官と同一人物である事実を考慮すれば、いっそ滑稽なようにも思えてしまうのは、果たして気のせいと言えようか。

 事実、相対する悪辣な下手人はこの発情する自動人形の艶姿を目にしてもまるで欲情しないばかりか――それそのものは一応、彼が一途な男たる確証と言える――敵の変わり果てた姿を実に滑稽かつ無様だと内心散々嘲笑っていたわけである。
 然しとは言えそれを表に出すのは流石に躊躇ったか、はたまた敵とは言え掛けられた問いには答えるのが流儀と判断したか、ともかく……

(仕方ないな……)

 下手人・志賀雄喜はあくまでも冷静に、淡々と種明かしを始める。

「何をした、だと? 簡単なことだ。
 止めてやったのよ、お前の動力部を」
「どどっ♥ 動力部をっ♥ 止めた♥ だとぉ♥」
「おうよ。厳密には"主動力"だがなぁ」

 オートマトンの主動力を止める。
 一見複雑で、先程の一瞬でできるとは思えない行為であるが、その実……

「まあ、そう難しい事じゃないんだ。オートマトンの主動力を止めるなんてことは……」
「ぁ♥ な♥ なにぃ♥」
「寧ろ行為そのものは簡単だ。身体に電気流してやればいいだけなんだからな」
「でっ♥ 電、気ぃ♥」

 赤ら顔で喘ぎながら、セレーネは理解した。

 言わば『機械の魔物娘』であるオートマトンの体組織はゴーレム属・魔法物質型に分類される魔物娘の例に漏れず頑丈で、その耐久力は他種族の追随を許さぬ程と名高い。
 衝撃は勿論のこと、摂氏数千度の高温や絶対零度の超低温にも余裕で耐えうる程である。
 そんなオートマトンにも弱点はある。中でも致命的なものとして名高いのが電気であり、オートマトンの身体に電気を流すと彼女らの中枢部に当たる主動力が漏電、機能停止してしまうのである。
 無論、すぐさま予備動力に切り替わるため行動不能には陥らない。
 ただ普段主動力の駆動に用いている魔力が全身に行き渡る関係上、その挙動は極めて"魔物娘らしい"ものとなり、時として『電撃を受けたオートマトンが魔力によって齎された強烈な快楽により酒に酔ったかの如く上手く身動きが取れなくなってしまった。普段とは比べ物にならないほどに"えっち"だったので思わず襲ってしまった』などの事例も報告されていた(原因については諸説ある)。


「きさ、まっ♥ 私を動けなくしたトリックはそれかっ♥」
「ああ、そうだ」
「しっ、しかヒ♥ ロオやって私に電撃をッ♥
 そのような仕草、貴様微塵も見せていないではないかっ♥」
「あぁ、そりゃそうだろう。何せバレないように仕組んでたからな」
「……?」
「『何がなんだかわからない』って顔だな。
 気付かないのか? ウォーターガンだよ。
 中の水を帯電させて、お前の露出した装甲目掛けて放ったのさ。
 幸いにも中身は海水だったんでなぁ、帯電させるのは簡単だったよ。
 水ってのは不純物を含んでいた方が電気をよく通すからな……」
「っっ♥ このっ……卑怯者、がぁっ……♥」
「卑怯? スタンロッドで非力な人間のバックバージン散らした挙句、尻の中に電流放って痛めつけるような奴に言われたかないなぁ……」

 身動きの取れないセレーネを放置して、雄喜はセレーネの陣地に配置された"標的"に狙いを定める。忠誠心の余り主の仇討ちしか考えていなかったオートマトンとは反対に、このずる賢い男優はしっかりと"競技に勝利して相手を打ち負かす"ことをも視野に入れて動いていたのである。

「さて、勝たせて貰うぞ……」

 標的目掛けてウォーターガンの狙いを定めた雄喜は、そのままトリガーを引き放水で標的の一つを消滅させる……かと思いきや

「――――ダメだ」

 トリガーも引かず、ウォーターガンを下ろしてしまった。

(狙いが定まらん、命中(あて)られる気がしない……
 そもそも僕自身、マキさん程じゃないが射撃はさほど得意じゃないんだよなぁ)

 無論、まるでできないということはない。
 事実そうでなければ、先程とてセレーネを狙撃することはできなかっただろう。
 ただ、得意かと言うとそうでもないのである。

(オートマトンを撃った時とは勝手が違う。
 あの時は水平方向だからまだ良かったが、標的を狙うとなると上向きに角度があるし距離も若干遠い。
 実銃ならともかく、ウォーターガンは圧縮空気式でも弾は水。
 角度と距離を考慮するに少なからず重力の影響を受けて弾道がズレかねん。
 それに風が吹き始めたのも不都合だ。
 風は重力より更に弾道を狂わせるし、メストカゲが僕を負かそうと風を起こす可能性すらあるからな……。
 もっと言えばルール説明によると標的はウォーターガン一発当てたんじゃ消えない仕様になっていると見た。どのくらい当てりゃいいのかは知らんが、射撃がさほど得意じゃない奴がこの状況下で複数回命中させるってのは冗談抜きにそこそこ難しいだろう……)

 雄喜は考える。
 重力や風の影響を受けず、射撃が不得手な自分でもできる標的の攻撃方法とは何か……。

(よし、これだ)

 すぐさま案を纏め上げた雄喜は、手にしたウォーターガンを銃本体と水を溜めるタンクの二つに分解し……

「そらッ! 行けッ!」

 標的目掛けて投げつけた

 圧倒的な腕力と確かなコントロールを以て投擲されたウォーターガンの部品は、それぞれ別の標的に命中……"選手からのある程度の攻撃"を感知した標的は、そのまま崩れるように消滅していった。

「よしよし、上手く行ったな。標的はあと七つ……うん、なんとかなるだろう」

 その後も雄喜は支給されたウォーターガンを二つに分解しては投げつけ、次々と標的を破壊していった。
 結果、四つのウォーターガンで八つの標的を破壊。残るは要塞の頂上へ堂々と鎮座する大ぶりな一つのみなのであるが……

「困った。投げるものがない」

 雄喜はシンプルかつ致命的な問題に直面した。
 元々支給されたウォーターガンは四挺であり、構造上二つに分解するのが精一杯……つまりウォーターガンを投げて破壊可能な標的は原則八つに留まる。
 やりようによっては一つの部品で複数の標的を破壊することさえ可能かもしれなかったが、全ての部品を投げ尽くしてしまったとあっては後の祭り。
 こうなっては流石に万事休すかと、そう思われたのだが……

「……あぁ、あったな。投げるものが」

 わざとらしく呟いた男優は、快楽によって意識を支配されまともに動けなくなったセレーネの元へ歩み寄っていき……

「"オーバーヒート"してんだろっ?
 だったらちょっくら、
 冷 や し て 来 い や ぁ !

 喘ぐばかりのオートマトンを、"標的"目掛けて投げ飛ばす


 その勢いたるや宛ら大砲か投石機の如く。
 勢いよく飛ばされた魔法生物はそのまま最後の大ぶりな標的を破壊し、要塞の真後ろに広がる海へと落ちていく。
 その後の展開は言わずもがな……待ってましたと言わんばかりに寄ってきた海棲魔物娘らに捕まった自動人形の従者は、そのまま海中へ引き摺り込まれていった……。

「良かったなぁセレーネ、愛しいご主人様の元へ行けて。
 再会できたらめいっぱい仲良くしてやれよ……」
21/08/14 19:59更新 / 蠱毒成長中
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