連載小説
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前編.力技ヘッドハンティング
暗いオフィスの中、ただ一箇所、明るいモニターの前。
そこに浮かび上がるのは、青白い顔。
しかし、それは幽霊の類ではない。つまり、人間の顔である。

ただ、それが『生きている』人間かと問われると、即答はできない。
それほど、そこにいる男はやつれていた。

それも当然の話である。
彼はこれが三徹目。連続勤務日数は6ヶ月。
一日当たりの平均労働時間は、優に16時間を超えている。

「………………」

カタカタ、カタカタと、キーボードを打つ音だけが響く。
彼が打ち込んでいるのは、プログラムのコード。
顧客から注文を獲得したはいいが、その納期と作業量が釣り合っておらず、
結果として、無茶をする必要のある社員が出る、ということになっていた。

(……俺、何の為に働いてるんだろ)

IT企業入社3年目、システムエンジニア、矢畑光之助(やばた こうのすけ)25歳。
上司から押し付けられた無謀な量の仕事を、淡々と消化している。



「ハァ!? まだ終わってねぇの!?」

夜が明けて午前9時。
光之助の姿を見た上司が、最初に放った言葉だった。

「俺言ったよな!? これ納期あと2日だろって!
 ったっく使えねークズだなボケ!」
「ぐっ」

右頬に、拳が飛んできた。
土気色をした顔のこと等、一切気にしていない。

そもそも、元はといえばこの上司が元凶。
自分の営業成績を上げる為に、無茶苦茶な案件を安請け合いし、
現場の状況おかまいなしに、仕事を押し付けたのである。

「あーあーお前のせいで大損こいちまうなー!
 お前の代わりなんてごまんと居るんだぞ? あ?」
「……すいません」
「すいませんで済んだら警察いらねーんだよクソが!」
「つっ」

今度は左頬に平手打ち。
暴力を振るうことに、何の躊躇も無い。

「当然、明日明後日の土日もやれよ?
 仕事できねークズに休む資格なんてねーんだからよ!」
「……はい」

労い一つ無く、自分の席へと向かう上司。
すると今度は、酷く太った社員がやってきた。

「おうおうノロマだねー。俺ならおとといにゃ終わってるぜー?
 お前の訓練の為にくれてやったけど、こりゃ失敗か?」

光之助の1年先輩に当たるこの社員は、本来なら同じくプログラミングをしているはず。
しかし、彼は『後輩を育てる為』と言って、自分の仕事の丸投げばかりしていた。

「会社かかってんだぞ? いつまで学生気分でいるんだか。
 さっさと終わらせろよ?」
「……はい」

あくびをしながら、自分の席に戻っていく社員。
どうやら、嫌味を言う為だけに来たらしい。

「……やるか」

顔色一つ変えることすらせず……というより、そんな気力も無く。
光之助は作業に戻った。



「…………」

午前2時。
4日ぶり、無言の帰宅。
ほぼ物置と化している部屋は、散らかり放題。

家賃3万円のワンルーム。風呂は無い。
万年床となった布団の他は、カップ麺の容器と、空になった栄養ドリンクの瓶、
あとは電気ケトルと古雑誌がある程度。
とてもではないが、人が住んでいる部屋とは思えない。

「………はぁ」

見る目が無かった。そうとしか言えない。

複数社の内定を貰い、色々と考えた結果入った今の会社は、典型的ブラックだった。
老害と化した上司、コネ入社のボンボン、サービス残業の常態化他多数。
求人情報には年間休日120日以上とあったが、入社以来あった休日は1桁。
同僚は入って数ヶ月で、全員が辞めた。

そんな会社でも、彼が辞めないのは理由がある。
単純な話、彼は借金の返済に追われていた。

奨学金を借りるのが嫌だった彼は、学費免除の特待生として大学へ進学。
無事卒業し、さぁ働くぞとなった矢先、両親が他界。
その時に分かったのが、両親が借金の連帯保証人になっていたということ。
結果、自動的にその立場が相続され、多額の負債を背負うこととなった。

今の会社に入ってからは転職先を探す余裕も無く、思考停止状態で馬車馬のように働く日々。
それでも貰える給料は、雀の涙と言うのもおこがましい程。
根が真面目なこともあって、無断欠勤するということもしておらず、
ただただ、死神から逃げながら働いている。

借金を返し終わる前に、自分は死ぬだろう。
光之助は、そう思っていた。



「お前に客だ。失礼な真似したらぶっ飛ばすからな!」

翌朝、開口一番上司から。
全く覚えがないが、ある企業の役員が自分に会いたい、とのことらしい。

「……失礼します」

疲労を悟られないように、可能な限り顔を作って、応接間へ入室。
そこにいたのは。

「こんにちわぁ〜」

明らかにこの場にそぐわない、小柄な少女。
その頭には、左右で大きさの違う角が生えており、着ているスーツはサイズが足りない。
具体的には、体躯に不釣合いな胸の一部が露出している。

「もんすたーそりょ、あれ、それー……? そりゃー?」
「……『株式会社モンスターソリューション』の、小雲様ですね。
 おはようございます」
「そうでした〜。いっつも思い出せなくて、言われちゃうんですよ〜。
 あと、わたしのことは『メリルちゃん』でいいですよ〜」
「そういう訳にも」

モンスターソリューションの小雲メリル(おぐも めりる)。
その名は、業界で知らぬ者はいないと言っても過言ではない。

起業からわずか数年の新興企業でありながら、東証一部上場を達成。
高い可用性と安定した納品で、顧客から絶大な信頼を受け、瞬く間に発展。
今、最も注目されている企業の『代表取締役』。つまり、社長である。

会社では最上位の役職だが、むしろマスコットと言った方が良さそうな幼い顔立ち。
喋り方は舌足らずでどこか抜けているが、仕事では人が変わったかのような敏腕ぶり。
そのギャップと種族ならではのアンバランスなスタイルから、
メディア(特にネット)上では『エロ可愛いすぎる女社長』と称されている。

魔物娘が所属している会社は昨今珍しくないし、魔物娘が起業した会社も少なくない。
しかし、彼女……ホブゴブリンは基本、頭に難のある種族であり、
社長どころか、役員クラスとなったのは、現在メリルただ一人である。

「矢畑光之助さん、今日はですね〜、あなたにお願いがあって来ました」
「自分に、ですか」
「えっとですね、ヘッドバンドです」
「……『ヘッドハンティング』ですかね」
「そうそれです。簡単に言うと、あなたを『ひきにく』に来ました」
「『引き抜き』ですよね。挽き肉じゃただの猟奇殺人です」

本当に、あの有名企業の社長なのだろうか。
そのことが気になって、彼女の話している内容がとんでもないことであることに、
光之助は気づいていなかった。



その日の昼過ぎ。
話の続きは会社で、ということとなり、モンスターソリューションの社員食堂へ。
メリルがゆっくりと定食2つを平らげた後、話したことの要点をまとめると。

「魔物娘以外で、即戦力のプログラマーが欲しい、と」
「はい〜。ということで、光之助さんに来て欲しいんですよ〜」

光之助は、この状況の不可解さに疑念を抱いていた。

流石に、話がうますぎる。
これは何か、裏があるだろうと。

(そろそろ俺もクビってことか? これで退職金削るとか、そういうことだろ?
 ……つっても、まだ退職金出るほど働いてねぇか。それに、今年の新人は皆辞めた。
 まぁ、それでも俺くらいクビにしても大丈夫ってことかねぇ)

天然なのかもしれないが、先程からメリルの体勢は胸を強調するような前かがみ。
その辺りから考えても、自分の会社の策略としか考えられない。
そう考えていた所、後ろから声が聞こえた。

「社長」
「あ、どうだった〜?」
「2週間から1ヶ月はかかるものかと思っていましたが、今日にでも可能です」
「ほんと〜? よかった〜」
「…………?」

現れたのは、スーツ姿のアヌビス。
二人の会話に困惑していると、彼女は光之助の斜向かいの席に座った。

「お初にお目にかかります。
 私は小雲の第一秘書、菱崎カミラ(ひしざき かみら)と申します。
 以後、お見知りおきを」
「あぁはい、どうも、矢畑光之助です」
「率直に申し上げます。あなたの転職が決まりました」
「……はい?」

自己紹介するや否や、いきなりの爆弾投下。
唐突過ぎて、理解が追いつかない。

「先程、貴方が勤務しているブレインクラッシュ株式会社の方々とお話をつけまして。
 本日付で、貴方は解雇とのことです」
「ハァ!?」
「形としては自己都合退職という扱いで、本日分の給料は……」
「ふざけんな! どういうことだ一体!」

ありえない。意味が分からない。
衝撃的な事が告げられ、光之助は激昂した。
しかし、メリルはのほほんとした顔で動じず、カミラもそのまま話を続けている。

「……つまり、矢畑様はこれから、弊社のプログラマーとして勤務して頂きます。
 こちらが、雇用契約書及び、弊社のパンフレットです」
「いきなりクビって、何てことしてくれ……!?」

そこに記載されていた内容に、目を疑わずにはいられなかった。

給与は月額50万円、賞与年2回。別途住居手当、通勤手当他多数。
中には『おしゃれ手当』に『おやつ手当』などというものまで存在する。

勤務時間は午前9時から午後4時まで、休憩1時間、実労わずか6時間。
休日は土日祝他、夏季休暇に年末年始等の特別休暇が存在。
基本的に週勤4日、年間休日は200日弱。

パンフレットには社員旅行や社内クラブ活動の写真が載っており、いずれも魔物娘。
ゴブリンが最も多く、次いで刑部狸。他はドラゴンやワーウルフ等の知能の高い種族が多いが、
機器類に触れていいのかというスライム、そもそも働くのかというアントアラクネ等、
多種多様な種族がいる。

とにかく、全てにおいてデタラメ過ぎる。
今まで居た環境もあり、信じられる要素が一点も無い。

「悪ふざけ以外の何者でもないだろこんなの……」
「お気持ちは分かります。しかし、これが弊社のやり方です。
 小雲の『世界一楽しく働く』という理念の下、待遇を整えた結果、
 これだけの給料と休日を与えても、業務が回るようになったのです」
「みんな頑張ってくれるから、ごほーびをたくさんあげる。それだけですよ〜」
「確かに成果は出てるけど……それでも、そっちもIT企業だろ?
 夜勤とかサビ残は……」
「深夜の業務は夜行性の社員に一任してありますので、矢畑様に夜勤はありません。
 あったとしても、せいぜい年に1、2回程度でしょう。
 また、基本的に残業は殆どありません。あれば手当ても代休も出ますが。
 勤務時間内に終わる分の案件しか受諾しないので、むしろ早上がりが多いですね」
「納期を守る為には、最初から余裕を持ったスケジュールを組むのが一番ですから〜。
 それに、サービス残業って違法ですよ? 流石にわたしでも知ってます〜」
「…………マジっすか」

頬を膨らますメリルに、淡々と説明するカミラ。
光之助はただただ、静かに驚くばかり。

「ご理解頂けたでしょうか? でしたら、こちらの誓約書にサインを。
 少々強引な手段に出た為、選択肢は限られているとは思いますが」
「……ここ蹴ったら、また就活からだしな。
 まぁ、宜しく頼みます」

事実上、やることは一つ。
渋々ではあるが、光之助は突然の転職を受け入れた。



3日後、朝7時。

「…………開かねぇ」

異常に早い時間に出勤してしまった光之助。
鍵のかかった扉の前で立ち往生。

「どうしたもんかね……」
「それはこちらのセリフだ。やっぱり、来ていたか」
「あっ、菱崎さん」
「あれほど遅めに来て大丈夫だと言ったのに、何故こんな時間に来た?」
「クセが抜けなくて、つい。
 前の会社だと、この時間に来て掃除してなかったら、減給だったんで」
「噂には聞いていたが、本当に酷いな。だが、ここは君が前に居た会社ではない。
 うちに来た以上、うちのやり方に従ってもらう。
 あぁ、勘違いするなよ。異議の申し立てを一切認めないという意味ではない。
 ……こう言っておかないと、君は誤解しそうだからな」

そう言いながら苦笑するカミラ。
光之助もつられて、軽く表情を崩した。



「彼にモーニングセットA、ドリンクはブレンドで。私はいつもの」
「かしこまりました」
「あの……」
「大丈夫だ。私が誘って私がメニューを決めたんだから、私が払う」
「いやそうじゃなくて、というか奢るだなんて」
「遠慮するな。入社祝いとでも思っておけ」

会社近くの喫茶店。
時間潰しの為、カミラは光之助を連れ、入店した。

どうやら社長であるメリルもよく来ているらしく、壁面にサインつきの写真が数枚。
内容は口元にクリームをつけながら、笑顔で『ケーキセットおいしい♥』など、
そこに社長としての貫禄など微塵も無く、見た目相応の少女そのものである。

「当面、ここの世話になるだろうな。早く出勤した時はここで時間を潰せ。
 贔屓にしてるから、コーヒー1杯で2、3時間居座っても大丈夫だ」
「なんというか、本当すみません」
「謝る必要がどこにある。君がやたら早くに来るのは想定の範囲内だ。
 それより、その口調は素か? 今は業務時間外なのだから、もっとくだけていい。
 雇用契約の時のような感じで、な」
「もう、そういう関係ではないんで。後輩である自分が取るべき態度でいるだけです」
「そうか。……まぁ、君がそうしたいならそれでいい。
 なら私も先輩として、後輩に食事の一つでもご馳走しないとな」

軽く会話を続けている内に、注文の品が運ばれてくる。
光之助の前に置かれたのは、チーズトーストと色鮮やかなサラダに、コーヒー一杯。
カミラの前には。

「ショートケーキ、チョコレートケーキ、レアチーズケーキ、
 季節のフルーツタルト、バターロールケーキ、プレミアムプティング…………」
「何だコレ!?」
「ここの各スイーツだが?」
「いやそうじゃなくて、量! 量!」
「全部私の物だから、やらんぞ」
「そういうことじゃなくて!」

おびただしい数のスイーツがどっさりと載った大皿。
異常な光景には間違いないが、『いつもの』で頼める辺り、当人にとっては定番の注文。
それを見つめるカミラは、写真のメリル以上のキラッキラの笑顔。
今まで光之助が持っていた、カミラのお固いイメージが一気に崩壊した瞬間である。

「ふふふ……いつ見ても幸せだ♥」
「何も喫茶店で頼むこと無いでしょうに」
「バカを言え! この店のスイーツはそんじょそこらのものとは違うぞ!
 特にこのプレミアムプティング! このプティングは原材料からこだわり抜き、
 調理の過程も丁寧に丁寧に丁ねーーーいに行った、ここでしか食えぬ逸品だ!
 これぞ正にプティングを超えたプティング、キング・オブ・プティング!
 ただのプティングならいざ知らず、『プレミアム』とまで冠されたらプティ」
「ごめんなさい分かりましたから落ち着いて下さい」

初めて怒鳴られたのが、仕事のミスの叱責でも、喝を入れる激励でもなく、プティング愛。
社長が社長なら、秘書も秘書。
あの社長にして、この秘書あり。
そう思わないとやってられないので、そう思うことにした光之助であった。



喫茶店で適度に時間を潰し、9時。
勤務開始の時間。

「矢畑光之助くんだな。課長の華ヶ谷クロエ(かがや くろえ)だ。
 期待してるよ。今後宜しくな」
「宜しくお願い致します」

光之助の上司は、ドラゴンのクロエ。
キリッとしたツリ目が印象的な、妙齢の美女である。

「早速だが仕事だ。社内管理システムの案件が来ている。
 確か、このコードは君の専門分野だったな? 設計がこんな感じで、ここを任せたい」
「かしこまりました」
「分からないことがあったら、誰かに聞け。勿論、私でもいい。
 それじゃ、頼んだよ」

クロエは、席へと戻っていく。
光之助にとっては、上司と話して罵声を浴びせられなかったことすら初めてである。

(さて、やるか)

パソコンを立ち上げ、仕事に取り掛かる。
何となく、視界がクリアに見える気がした。



(……おかしい)

時計を見る。
何度確認しても、時間は同じ。

何か、忘れている気がする。
そうでなければ、ありえない。

午前11時45分。
自分が担当している作業工程が、テスト含めて終わった。

(一日分を予定してるって言ってたけど、どう考えても余裕持ちすぎだろ。
 何かミスってんじゃないか……?)

不安ではあるが、とりあえず報告する。

「課長、終わりました」
「……ヘッ?」
「私の作業工程、完了いたしました。動作確認済みです」
「え、ちょっと……早すぎないか?」
「私としては、普通か遅い位だったのですが」
「そうか……それじゃ、先に休憩してくれ。
 戻りは通常通りでいいから」
「何か、他にやることは?」
「特に無いな」
「掃除とか、お茶くみとか」
「どっちも君の仕事ではないだろう。
 どうしてもと言うのなら、これで市場調査でもしてこい。正面出て左3軒目で」

腕を掴まれ、紙幣を押し付けられながら。
指定された場所にあるのは、高級鰻料理店。

「特上うな重と肝吸いで丁度のはずだ。間違っても並なんて頼むなよ」
「そんな、頂く訳には」
「市場調査だと言ったろ。うまい物を食うのも仕事の一環だ。
 ゆっくり食って来い」
「こんな大金使えませんよ。一ヶ月分の食費じゃないですか」
「……うん?」

クロエが渡したのは、五千円札。
到底、月の食費を賄える金額ではない。

「君、普段は何を食べてるんだ?」
「水練り小麦粉を中心に、修羅場の時はカップ麺か栄養ドリンクを」
「……エイプリルフールは、全くもって別の日だぞ?」
「え?」
「え?」

光之助の食生活は、いつ倒れてもおかしくないような有様。
それが普通となっていた為、金銭感覚もおかしいことになっていた。

「……仕事だ。私の宝物を食って来い。ドラゴンの習性は知っているだろ?
 私は宝物を集めるのが好きだが、見せびらかすのも好きだ。
 市場調査ついでに、私の宝物をしっかり、ガッツリ食え。
 ほら、さっさと行った!」
「えっ、ちょっ……」

言われるがまま、強引に背中を押され、エレベーター前へ。
後には、呆然と立ち尽くす光之助が残された。



「……社長?」
「おー、光之助くんも来たんだ。
 こっち座りなよ〜」
「では、失礼して」

隅の席でひつまぶしを食べていたのは、社長のメリル。
向かい側の席に座り、メニューを開く。
光之助は、一番安いメニューを頼むつもりだったが。

「特上うな重と肝吸い、あと特選おしんことポテトサラダで」
「かしこまりました」
「社長!?」
「クロエちゃんの紹介でしょ? それならちゃんと食べないと〜
 それとも、わたしみたいにひつまぶしがよかった?」
「いえそうではなくて! 自分がそんな……」
「上司を気にするなら、むしろここでいいもの食べないとダメだよ。
 クロエちゃんが宝物見せたがってるんだから、遠慮なんてしないの。
 勿論、わたしのことを気にするんだったら、おしんことポテサラもね」
「……そういうことなら、いいんですかね」
「いい、というかそうするべき。
 これも仕事ってことなら、そうするしかないでしょ?」
「……分かりました。頂きます」

その後少ししてから運ばれてきたのは、タレが光を反射する様さえ高級感を放ち、
肉厚の鰻がぎっしりと詰められた、見たこともないような豪華なうな重。
光之助にとっては、社会人となって以来数えるほどしかない、まともな食事である。

「……凄ぇ」
「んぐんぐ……」

対面では、おいしそうにひつまぶしを食べるメリル。
実に幸せそうな表情をしている。

(本当に、この会社おかしいだろ。
 初日から上司のおごりで豪華なメシ食わされるなんて、ありえねぇ。
 午後からどんだけ働かされるんだか……)

光之助は、雇用契約書の内容を一切信じていない。
今まで働いてきた環境と、それを差し引いてもありえない滅茶苦茶さ。
そこから考えると、どうしても信じる気になれなかった。



午後4時。
雇用契約書に書いてあることが本当なら、退勤時刻。
しかし、光之助は現在、社長室にいる。

事は退勤直前、クロエの一言まで遡る。

「光之助くん」
「はい」
「社長から伝言だ。この後暇なら、社長室に来て欲しいと。
 予定があるなら、明日以降でも構わないが、なるべく早くとのことだ」
「分かりました。今日行きます」
「ん、それじゃ宜しく。私は先に失礼する」

光之助は「やっぱりか」と思った。
何かしら理由をつけて、深夜まで働かされる。
そういうことだろう、と。

(社長室っていうのがよく分からんが、何だろうな。
 詰られるのか、説教されるのか)

街を一望できる、それなりに豪華な社長室。
体形に合わせて作られたのであろう、低めの椅子にメリルが座っている。

「お仕事お疲れ様〜。とりあえず、そこに座って」

指し示されたのは、こちらもまた豪華な革張りの椅子。
言われるがまま下座に腰掛けると、メリルが駆け寄った。

「帰る時間にごめんね。こよーけーやくしょに一つだけ、書き忘れたことがあったの」
「そうですか」

『時刻に若干の調整あり』での長時間労働か。
『休日に若干の調整あり』での休日出勤か。
あるいはその両方か。
そのいずれかだと予想していた光之助。

答えは、そのどれでもなかった。

「これなんだけどね、備考欄」
「はい。…………ハァッ!?」

丸っこい文字で、書き足されていたのは。



『希望の場合、社長による性欲処理あり』



全くもって聞いたことの無い、驚愕の福利厚生の存在だった。

「何ですかこれ!?」
「すっきりして仕事できるように、わたしが光之助くんの性欲処理をするの。
 えっとね〜……実際にやった方が分かりやすいかな。
 みんな〜。手伝って〜」
「「「「「はい只今!」」」」」
「うぉっ!?」

突如、机の下やら棚の裏やらなんやらから、多数のゴブリンが登場。
驚いている間に、光之助は一瞬で身ぐるみはがされてしまった。

「それじゃ後はごゆっくり! 親方、お先に失礼します!」
「うん、また明日ね〜」
「えっ、ちょっ、はいィ!?」
「それじゃとりあえず……んぐっ」
「うぉっ!?」

全裸に剥かれ、既に半勃ちの光之助の一物を、メリルは自然に咥えた。
小さな口を精一杯開けて、カリ首辺りを唇で挟み、舌先で鈴口を舐め回す。

「んんっ……んもんむもむもんんも?」
「何言ってるか分かりま……うぉぉぉ……」

学生時代は勉学に明け暮れ、風俗店にも行ったことが無い光之助。
そんな彼に初めてフェラチオをしたのは、憧れのロリ巨乳女社長、
小雲メリルだった。

「んむむ、んぬっ、んっ、んっ、んっ」

苦しそうな表情を浮かべていながらも、どこかうっとりしているようにも見える。
魔物娘の本能と、生来きっての奉仕精神が混ざり合った結果だろうか。
いずれにしても、とんでもなく贅沢で、心地よい口腔奉仕であることは間違いない。

「嘘だろ、こんな……」
「んむっ、んむっ……ぷはっ。どうかな、イケそう?」
「いや、いくらなんでもこんなことを……」
「そっか〜。それじゃ、ちょっと立ってもらえるかな?」

そう言いながら、メリルは膝立ちになると、光之助の手を動かし、頭の角を握らせた。
先程まで行われていた行為からして、流石に光之助も察する。

「もう一回咥えるから、好きなように動かしてね〜。
 わたしの角、バランス悪いから、動かしにくかったら髪掴んでもいいよ〜」
「そんな、社長にこんなことをさせる訳には!」
「だったら、社長命令〜。わたしのお口をオナホにして、気持ちよ〜くイッて♥」
「うおっ!?」

フェラチオからイラマチオに変化し、責めを再開。
今度は先程より浅く咥え、舌先を動かす。
相変わらずの上目遣いは『好きなように動かして』と訴えかけている様子。

据え膳を用意されたどころか、飯を口に詰められた形。
豆腐に爆弾をブチ込むようにして、理性は瓦解した。

「……どうなっても知らねぇからな!」
「むぐぅっ!?」

自分本位の快楽を得る為に、角を握って前後に動かし、腰を打ち付ける。
口内粘膜を蹂躙しながら、なおも動き回る舌に舐め回され、犯し返される。

小さい上、奥行きも浅い少女の口に、大人の男の肉棒がめり込む。
あまりにも倒錯的な情景から醸し出されるのは、尋常ならざる犯罪臭。
更にこんなことになっている場所は自分が働く企業の社長室、相手は社長と、
ありえない事柄ガン積み。

「んんっ、んずっ、ずずっ!」

呼吸困難に陥ってなお、肉棒を吸い込もうとするメリル。
ただでさえ無理がある中、身の安全さえも無視し、
とことん、快楽を与えることだけに専念している。

頬の裏側に押し付けられれば、頬越しに指で亀頭を撫で、
喉奥に突っ込まれれば、脚に抱きつくようにして胸を押し付ける。

「くそっ……もう、イクからな!」
「んっ。んっんんっ、んんんっ!」
「うぉっ!?」

光之助が角と一緒に、柔らかな頭髪まで一緒に掴んだ瞬間、
メリルは睾丸を握り、射精の瞬間に合わせて陰茎の根元へ押し付けた。

心地よい圧迫感と共に、複数の刺激による反射のまま、勢いよく精液が噴出する。
口の中に放出している最中も、メリルの吸いつきは一切止むことが無い。
一滴残らず、この一発で全て出し切らせてしまうつもりのようだ。

「んぐっ、ずずー……ぷはっ。……んぁ〜♥」

絶頂による脈動が完全に終わった後、陰茎を解放したと思ったら、口内を見せつけた。
ほぼ全ての箇所が白く染まり、壮絶な射精であったことを物語っている。

「んむんむ……ごくっ。んあ〜♥」

至極当然のように、咀嚼し、飲み込む。
白色が消え、鮮やかなピンク色となった口腔内は、むしろより淫猥に。
最後の最後まで、楽しませ、興奮させるフェラチオが終わった。

「こんな感じ。わたしの手が空いてる時なら、いつでもいいよ〜。
 毎日でも、1日に何回してもいいからね〜」

これが、株式会社モンスターソリューション、社長による福利厚生。
メリルによる、性欲処理。

「あ、光之助くんの他にうちで働いてるのは魔物娘の子だけだよ〜。
 しばらくは魔物娘の子しか雇うつもりはないからね〜」

つまりこれは、自分の為だけの行為。
そしてそれは、少なくとも当分は続く。

「それと、合意さえ取れたら、他の子にしてもらってもいいからね〜。
 クロエちゃんとかは、仕事できる子には優しいから〜。
 それじゃ、服はここに置いておくから、着替えてから帰ってね〜」

最後の最後にとんでもないことを言い残し、去っていくメリル。
後には、呆然と立ち尽くす光之助が残された。
17/06/28 01:32更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
一連の流れを書いた結果、エロに入るまでで8000字超……
予定を変更し、連載での投稿となりました。

何もかもが規格外の企業、株式会社モンスターソリューション。
光之助の明日はどっちだ。

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