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初夜権と花嫁

 所用で魔界に呼ばれた私は、何時も逢魔が時に覚ます目を朝に早め、魔界からの迎えが用意した馬車に乗り込んだ。
 私は陽の光が嫌いだった。
 この身に流れる血が拒む以上に、煩わしく感じている。
 何事も人間などとは超越した存在であるにもかかわらず、陽の光によって手足に重たい枷を付けられた様な感覚に陥る。それが自尊心を傷つけるのだと、私は熟知していた。
 黒い布で身体を覆い、館から馬車に移る僅かな時も、陽の光を避ける。馬車の窓も予め暗幕で覆っておく。そうして安心してから、煩わしい外套を脱ぎ去るのだ。
 馬に鞭が打たれる。馬車がゆっくりと動き出す。外の風景は暗幕で隠されている。
 だが私はそれで満足だった。陽の光にさえ当たらずに済むのなら、外の世界なんて知らなくても良い。領地の統治など、書類に目を通して判を捺すかすれば十分。
 そう思っていた。


―――――


「近頃、親魔物派領で民衆の動乱を煽る連中が出没している。注意されたし」
 魔界でその旨の連絡を受け、帰路に付く。
 私の指示で最近道を整備した甲斐もあって、馬車の揺れも快い。行きもそうだったが、帰りも睡眠時間を充足させるのに使わせてもらおう。そう思って、一人だけの空間で壁に寄り掛かる。
 眠りに落ちそうになる瞬間、不意に馬車が大きく揺れる。油断していた私は座席に腰掛けていたというのにバランスを崩し、思わず暗幕を掴んで引き剥がしてしまう。
 差し込むのは赤き日差し。塞ごうとして暗幕を掲げる。先程は思わず力んでしまっていたのか、暗幕は手の中で襤褸切れとなっていた。
 思わず、溜息を漏らす。
「どうしたのだ」
 静かに問うと、行者は慌てた声で答える。
「申し訳ありませんっ。突然カエルが飛び出してきたものですから、馬が驚いて……!」
 私はもう一度溜息を吐いて、進むように指示した。しかし急かさずに、だ。つまらない事で急ぐようになるなど、みっともない。
 馬車はゆっくりと、窓から覗く夕暮れ時の領地を動かしていく。
 丁度今頃が、私が起き出す時間だった。幸い昼頃よりも日差しは強くはないが、差し込む光は未だに苦痛だった。
 ……それでも何故かは判らないが、私は窓の外をぼんやりと眺めていた。
 何かを求めていたのかもしれない。何かあの館の中にはないような事があるのかもしれない。そんな期待があったのかもしれない。真夜中に血を求めて闊歩する事はあったが、この時間帯でみる我が領土というのもまた新鮮に思えたのかもしれない。
 理由は何処にあるにせよ、私はそうして、陽の光を我慢して外の風景に目を凝らしていた。


 そんな瞬間だった。窓の外を、緑色の霧が覆った。
 何事かとギョッとしたが、どうやら地元名産の野菜を育てている農家の前を横切ったようだった。生い茂る葉に隠れる、この鮮血の如き赤色を湛えた丸っこい奴は私の好物の一つだ。青臭くはあるが、それでも奥深くすっきりとした甘さがある。
 不意に緑の奥に人影が見えた。
 別段、冴えた様子などない男だった。
 只真剣な目で作物に目を通し、手入れをしてやっている様子が見えた。
   よし)
 男が笑んで、音もなく唇が動く。けれどはっきりとその声が耳に聞こえた気がする。
 そんな時、自身に奇妙な感覚が込み上げてくるのに気付く。なんだか、あの男をじっと見ていたい様な、でもなんだか見ていたくない。そんな、矛盾した気分でもあり、出来る事なら、もっと傍に寄りたい。
 兎に角、無性に気になってしまったのだ。何の変哲もない、只の農民に。
 そんな時に、男が私の方に目を向けた。咄嗟に窓から目を背け、胸を抑えた。何故か、顔が熱くなる。
 ……実に奇妙だ。私は只、領民の生活を目にしていただけ、なのに。
 馬車は構わず進んでいく。私は館に着くまで、もう窓の外に見るものなんてなかった。


―――――


 夜を待ち、血を求めて館を出る。
 まず、民家の窓から目に付いたのは鍛えた体躯を横たえる男。忍び込んで首筋によれば、鼻を突くような汗臭さが漂う。其れを我慢して、牙を突き立てる。カッと目を見開く男。舌で肌を舐める。此奴の味は酷く苦い。
 やがて男は勝手に絶頂に達してしまうが、私はどうも乗り気になれない。夫候補として考えていたが、止めておこう。これ以降この男は勝手に私の虜となるだろうが、また私兵として置いておけばいい。
 こうして私は毎晩の事、血を求めて彷徨い続けていた。それでも私の夫たる男は見付からない。
 こんな風に、無駄に下僕だけを増やして何十年が経っただろう。過去、私が餌食にした男達を振り返ろうとしたが、一人たりとも思い出せずに止めた。


 そんな時、何故か、今日の夕刻に見かけたあの野菜畑の男の事を思い出す。気付けば私は村の風車の上に飛び乗り、村全体を見渡し、目で探していた。
 まぁ、いいだろう。こうなったら今日の締めはあの男にしよう。そう開き直り、改めて探す事にした。
 確か、中々に広い野菜畑だった筈。実に美味しそうな赤い果実が実を結んでいた。そうして頭の中のイメージと合致したのは、私が見渡した限りで、一か所だけだった。
 月に舞う。
 下僕のコウモリ達が私を包む。
 畑の傍に佇む一件の古ぼけた家に一気に迫る。闇に溶け、すんなりと入り込む。寝息を辿り、寝室のドアの隙間から入り込んだ。
    寝ている。まるで死人のように、静かに。
 確かに其処に寝ているのは、夕刻見かけた男だった。
 私は逸る鼓動を抑えられず、戸惑っていた。そっと、起こさぬように細心の注意をはらって牙を首筋に宛がう……。


 だが其処で、部屋の外から人の気配がした。私は咄嗟に身体を闇に溶け込ませる。
 やがて、部屋の扉がゆっくりと、部屋の主を起こさぬように開いた。外から部屋を覗きこむのは、若い娘であった。
「ルーゲル、寝ちゃった……?」
 そう問い掛ける。そうか、この男はルーゲルと言うのか。
 やがて、娘は扉を閉めた。闇から姿を現し、ルーゲルを見詰める。
 私は、そのまま牙を突き立てて血を頂くのも良かった筈なのだが、無性にあの娘がこの男の何なのかを知りたくなった。
 本当ならエサ如きの身辺に興味など湧かない筈なのだが、こうなったらついでだ。
 扉に目を向ける。また闇に溶け込んだ。


 明るい部屋は苦手だ。私は明かりの無い廊下の闇から、明かりのある部屋に目を向けた。
 其処にはランプを置いたテーブルを挟み、先程の娘と、見知らぬ小太りの中年がティーカップを片手に向かい合っていたのだった。
   それにしても、彼奴も幸せ者だ。村一番の美人を嫁にもらえるとはなぁ」
 中年が快活に笑った。其れに対して、娘も愛想笑いの様な表情を浮かべる。
「いいえ、伯父さん。私の方こそ、彼に相応しい女なのかなって思ってて……」
「何を言う! 謙遜などする必要などないさ。あんな悪ガキが一端に嫁をもらえるだけでもありがたいというのに」
「もう、そんなの昔の話でしょ? 今はしっかりと働いて、あんなに大きな畑を持つようになったんだから」
「ははは。そりゃそうだな。昔とは偉い違いだ」
 そう笑った後、感慨深げに中年は俯く。
「そうか……。あのルーゲルが、もう結婚か   」 
 結婚。
 その言葉を聞いた私は、思わず闇から姿を現してしまいそうに動揺した。慌てて物陰に隠れる。
 音に気付いた住人が此方を見遣る。
「はて、何の音かな」
「きっとネズミでしょう。後でネズミ除けのハーブを置いておかないと」
 高貴なる私の足音をネズミと勘違いしたのは腹立たしいが、なんとか難を逃れた様だ。盗み聞きをしておいて姿を現し、人間に見付かるなど、一族の恥だ。
 しかし   私の心は未だざわついていた。今まで決して感じた事のない、不安に似た苛立ち。
 唇に指を置く。視線が泳ぐ。一連の私らしくない行動に気付いた時、中年が席を立った。
「では、初夜権を買い戻す金は私が立て替えておくからな」
「え、そんな。悪いです」
「いやいや、こんなめでたい事は他にはない。君達への祝い金だ。是非とも受け取ってくれ」
「そんな……いえ、きっとお返しいたします」
 中年はほくほくとした笑みを浮かべて、家から出て行った。まるで我が子の幸せを見たかのように。
 初夜権。
 確か婚姻の際、金を支払わないと初夜の契りを交わす権利が権力者に移行するという制度だったか。
 といっても、私が生まれてこの方、金を支払えなかった者などいない。それもこれも、この地の領主が皆優秀で、領民には常に安定した財産があったからだろう。私個人としては、金を集める事も適い、それが万が一適わなくても堂々と血を頂ける好機となる、正に一石二鳥な制度だった。
 私は胸に鼓動する感情の正体を未だ掴めぬまま、闇に溶け込む。
 無防備にも、月の照らす夜道を呑気に歩く小太りの中年。
 私は闇から姿を現し、この男の首に荒く牙を突きたてた   





――――――――――





 熱に浮かされたように頭がぼーっとする。なんだか近い過去を夢に見ていたようだった。
 そうか、久々に陽の光を浴びて倒れてしまったのか。死にはしないとはいえ、光を徹底的に避けてきた私の身体には厳しいモノがあったのだろう。
 しかし、寝ぼけていたとはいえ、光のある所に獲物を逃してしまうとは不甲斐無い。
    ひたり
 それとなく触った額に、違和感を憶える。何かが張り付いている。剥がしてみたそれは、真水に濡れた布であった。
 驚いて、咄嗟に放り投げる。放り投げた先で、悲鳴が上がる。
   おわっ」
 私は驚いて起き上る。瞼の中に光が入り込み、目を細める。悲鳴が聞こえた先には、濡れタオルを顔面から取り払いつつ此方を睨み付ける男の姿があった。
「……起きたかよ」
 ぶっきらぼうに言葉を吐かれる。普通なら、この口の利き方を無礼と断ずる筈だが、私は咄嗟にシーツに潜り込む。
「な、なんだ。此処は何処だ」
 一杯一杯になって絞り出した言葉。この男、ルーゲルは呆れた様な口調で答える。
「アンタの部屋だよ」
「嘘を吐くなっ。妾の部屋はこんなに明るくはないっ」
「……そもそも、なんでアンタ、あんなに部屋を暗くしてたんだよ。しかも、態々棺桶の中に入って……」
「五月蠅いっ。妾の勝手だろう!」
 ルーゲルが溜息を吐く。私はベッドに埋もれる。この感覚は、確かに滅多に使わぬ私のベッドのモノだ。しかし、どういう訳か光の一つも入り込めないようにしていた筈が、今では外界のように光で満ち溢れているではないか。
 調子が狂う。目の前に獲物が居るのに、そのまま襲ってしまえばいいのに、ベッドから顔も出せない。
 くそ、姑息な手を使いおって。私がそう心の中で悪態を吐くと、ルーゲルが口を開く。
「所で、アンタ……いや、領主サマか。領主サマは一体何者なんだよ」
 私は少しだけ奴の顔を見る。一瞬見えただけだったが、その目には、興味や怖れと言うよりかは、真っ直ぐに対峙しようという姿勢が見えた。
「……ふん。貴様の様な一般庶民に、妾の事を詮索されたくはない」
「おいおい、此方は態々助けてやったんだぞ。これだから、貴族ってやつぁ」
 偏見染みた言葉を叩かれる。私はすかさず言った。
「だ、誰も助けろなどとは頼んでいない……っ」
「生憎、俺の嫁さんが助けろって言ったんだよ」
 そう言って笑った。私はこの男が花婿だという事を思い出し、問う。
「お節介な娘だ。確か、ナーシェと呼んでいたな。……今何処に」
「ああ。今は別の部屋を掃除してるよ」
   はぁ!?」
 腹の底から声を挙げる。
「いや、だって、アンタの家、随分汚いからって」
「そんなもの、貴様等の様な農民風情に言われたくないわッッ」
 私の剣幕にルーゲルが押し黙る。
 この部屋のドアが勢いよく開かれる。
「ふぅ、やぁっと終わった〜。このお屋敷広いから、中々掃除し甲斐があったわよぉ」
 その手には箒。頭には三角頭巾。口元にはマスク。全身を埃塗れにしながらも、笑顔で其処に娘が立っていた。
 絶句する。この者達はなんなのだ。私と、私の住むこの館をなんだと思っているのか。全く、解せなかった。
「まぁ、見ての通り、世話好きでな。運が悪かったと思ってくれ」
「あ、もう起きられたんですか?」
 ナーシェと言う娘は起き上った私を見て、真ん丸な瞳を迫らせてきた。そして途端にルーゲルをキッと睨みつけ、言う。
「もう、ルーゲルッ。ちゃんと冷やしときなさいっていったじゃない!」
 そう言えば、さっきまで額に濡れタオルが敷かれていたのを思い出す。
 ルーゲルは私の投げ付けた濡れタオルを握り締め、抗議する。
「ち、ちげーよッ。此奴が投げ付けて来て……!」
「“此奴”じゃなくて、“領主様”でしょ!」
 そう言われるだけで、ルーゲルは小さくなっていく。喧嘩をしているように見えたが、とても仲の良い間柄にも見えた。
    面白くない。
 何故か判らないが、この新郎新婦を見ていると、胸が苦しくなる。兎に角、私は何もわからぬままに、この女が無性に気に食わなくなっていた。
「兎に角、冷やさないと。領主様も、倒れたんですから無理に起き上ってはいけませんっ」
 立て続けにそう言われ、思わずベッドに横たわる。
 濡らした布を僅かに絞る、水の滴る音が聞こえた。
「では、失礼します」
   !」
 そういって濡れタオルを私の額に乗せようとする娘の手を、私は反射的に払った。
 地面にべちゃりと落ちる布。驚いた表情を見せる娘の視線に、私は気まずさを感じ、咄嗟に言葉を呈する。
「そ、その……水は苦手、なのだ」
「そ、そうだったんですかっ。すみません、気付きませんで……」
「いや、構わない。気を使ってくれた事だけは感謝する」
 そう言うと、娘は安心したようにはにかんだ。
 気に食わない。   此奴等に気を使ってしまった事も気に食わないが、何にしろ、この娘を安堵させてしまった自分が許せない。
 私は込み上げてくる苛立ちが命ずるままに、気付けば娘を睨み付けていた。
「しかし   よくも、妾の部屋をこんなにしてくれたな」
 娘がすぐに血相を変えるのを見ると、胸のあたりがスッとした。
「え……」
「貴様等は、妾に恩を売っておけば、初夜権の話は無しになるとでも打算したのかも知れんが、余計な世話だったな。……妾を介抱するだけで良かったものを」
「そんな事……っ! あ、あの。もしかして、何かお気に召さない点でもありましたでしょうか……?」
 不安そうに娘が問うので、ハッキリと言ってやる。
「光だ」
「……?」
「妾は、光が嫌いだ」
「え、と」
 ピンと来ていない様子のこの鈍感な人間共に向かい、私は窓辺を指差した。其処には、何時も締めきっていたカーテンは開け広げられ、口に出すほど嫌っている光が、部屋の中を満たし続けていた。
 こんなにも判り易く示しているというのに、目の前の娘は何の事か判らないという風に首を傾げた。
    これが、込み上げる苛立ちが悪意に変わった瞬間だろう。


「ところで、娘よ。少し耳を貸せ」
 何気なく嘯き、首筋に手招きする。素朴な娘は何の疑いもなく、私にまっさらなそれを晒した。
 私は彼女の首に腕を回し、引き寄せ、的確に且つ迅速に牙を突きたてた。
「あ……っ」
   ナーシェ!」
 娘がふぬけた声を発する。
 どうやらこの娘は列記とした処女だったらしい。処女の血は美味い。男の血と違って精の補充にはならないが、それでも爽やかでいて奥深い鉄の味がする。舌の上に探せば甘さすら感じられるだろう。
 極上の美味を味わいながら、私は娘に魔を吹き込んでやる……
「ナーシェ……!?」
 ルーゲルが慌てふためいて何もしないでいる間に、必要な分は流し終えた。今更引き剥がそうとも、この娘は、もう。
 ぐったりとした様子の娘は花婿の腕に抱かれる。此処で花婿は当然、私に殺意の目を向けて叫だろう。
「お前、何をしやがった!」
「ふふ、喜ぶがいい。その娘は、運良く選ばれたのだ」
 唇を濡らす血を手の甲で拭き払い、残滓を舐め取る。私の寛ぎの空間を、私の嫌いな光で満たした腹いせだ。この女に直接教えてやったのだ。
 私……いや、私“達”が嫌う、光を。
 幸い、この女の顔立ちやスタイルは庶民にしておくのは勿体ない。品位に関しても申し分ないだろう。
 只、色々とし込んでやらなければならないのは確か、だが。
「……“貴族”たる素質があったのでな。妾を懇切丁寧に介抱してくれた礼だ。ククク」
 自分でも陳腐だと気付いていながら、意地の悪い笑みを浮かべて見せる。
「言ってる意味が判らねぇ」
「頭の悪い男だ。未だ妾を、貴様等と同じ人間と思っているのか?」
 違うのか、というような目を向けてくる。実にそれ自体は可愛らしい事なのだが、今は只煩わしいだけ。私は言う。
「その娘は、この瞬間より高貴なるヴァンパイア一族の一席に加わったのだ」
   !」
 愕然とした様子のルーゲル。私は娘、いや、今や同族となったナーシェを指差す。
「窓を閉めてやれ。目覚めに悪かろう」
 私の言葉の意を理解する前に、花嫁は目を覚ます。
    途端に、両鉾を腕で覆った。
「! 眩しい……っ。ルーゲル、窓……っ!」
「え? あ、ああ……!」
 言われるままに、ルーゲルは窓を閉め切り、カーテンで光を遮る。
 やがてこの部屋を満たすのは仄かな暗黒。暖炉と蝋燭の火が視界を照らす。
 花嫁の姿はもう変わっていた。暗くなった部屋に落ち着いて、退かしたその細い指。その先に輝く瞳は、鮮血の紅と変わり果てていた。犬歯と耳は鋭く尖り、爪も見る見る内に伸び生えていく。
 立派に同胞と成り変った花嫁に、私は不思議な満足感を憶えた。ベッドから出て、彼等の前に堂々と立つ。
「どうだ。これで妾が光を嫌う理由が判っただろう」
 花嫁は自分の手を見て、訳が判らない、とばかりに首を振った。花婿は狼狽しきって、掛ける言葉すら思い浮かばないようだ。
 いい気味だ。
 私の生活を滅茶苦茶にしてくれた報いだ。
 そのまま絶望の淵に立ち、やがて闇の眷属として相応しい存在となるがいい。
 ……そう言い捨ててやりたい衝動に駆られたが、口に出すには品位に欠ける台詞だ。


 そうして、私は満足した筈だった。
 しかし、途端に虚しさが私を満たした。何時の間にか、さっきまでの充足感は嘘のように消えてしまっていたのだ。途端に、耳元で誰かがこう囁いた気がする。
    違う。別に、花嫁を同族にしたくて、この男を呼び付けた訳じゃない。


 私は舌の上に残る血の味が、早々に消える事を願った。





――――――――――





 夜は更けた。恋人を吸血鬼にされた人間は、何を想うべきなのだろう?
 例えば、犠牲者になった恋人を慰めたり、もしくは恐れたりする。時には容赦なく見捨てたりもする筈。
 彼は   ルーゲルは何も言わなかった。態度をはっきりとさせなかった。領主様に宛がわれた暗い一室。蝋燭の明かりがほんのりと輝くだけの部屋で、彼は私の隣で只俯いて一言も発さない。
 私は大丈夫。寧ろ、今までと違ってとても調子が良い。でも、これは多分、人間じゃなくなったという証拠。
 だけど、それでもいいかもしれないと心の中ではほくそ笑んでいた。
 だって、気分も良いし、見た目だって凄く美人になっている。今まで自信なんて無かったけど、これできっと、ルーゲル好みの女の子になれた。
    人間では、ないけれど。
 なのに、彼は何も言わない。それどころか余所余所しく目をそらしている。私は不安になって尋ねた。
「ルーゲル」
 彼は、悲しそうな目で私を見た。
「何か言ってよ」
 そう懇願すると、彼は言葉に詰まりながら必死に声を絞り出してくれた。
「あ……え、ああ。あー……ナーシェ」
「うん」
「……大丈夫か?」
「うん。寧ろ、調子が良くなったみたい」
 心配させないように、気をつけて振舞って見せる。だけど、ルーゲルはすぐに俯いた。
「どうしたの、ルーゲル」
「いや。これからどうしようかなって」
 それを聞いて血の気が引く。すぐに言外の意に気付いたルーゲルは、慌てて補足する。
「あ、いや、違うっ。これからどうやって、俺達、過ごしていけばいいのかと思って、さ」
「うん……」
 確かに私も不安に思っていた。人間ではなくなった以上、人間とは勝手が変わるだろうし、今までどおりの生活に戻れるなんて都合がいい話だと思う。
 するとそんな時、部屋の入り口から領主様の声が響く。
「どうだ。別れの言葉は済ませたか」
 振り向く。其処には昼間に見たベビードールを脱ぎ浚い、村ではまず目にしない様な、刺激的な下着を纏う領主様の姿があった。
 ルーゲルはすぐさま立ち上がり、領主様に牙を剥いた。
「何の用だ」
「ふふ。態々妾の方から夜這いを掛けて来てやったというのに、何の用か、とは無粋にも程がある」
 そう年下の男をからかうように笑う。そうだ、私が人間でなくなった事も問題だけど、元々此処に来たのは初夜権を取り戻す為だった。
 ルーゲルは血相を変えて領主様に叫ぶ。
「夜這い? 馬鹿言うな、誰がお前なんかと」
 領主様はルーゲルに冷たい目を向ける。
「貴様の意向など無きに等しい。初夜権を買い戻せなかった貴様に、抗う権利はない」
 私はルーゲルと領主様を見比べる。勿論、ルーゲルが別の女と初夜を迎えるのは嫌だけど、何故だか領主様に逆らう気が起きない。何処からか知れず、正体不明の忠誠心が湧きだしてくるからだ
 そんな私の様子を見て、領主様はほくそ笑んだ。
「なんだ。妾を止めんのか」
 引き留めたい。一歩ずつルーゲルに近付く領主様の足を掴んで引き留めたい。けれど、そんな恐れ多い事出来ない。
 自分でも良く判らない葛藤が、頭を巡る。
「ふふ。判っているぞ。動きたくても動けんのだろう」
 そう告げてから、領主様は語る。
「同類といっても、妾は純血種であり、貴様は妾の眷属だ。ヴァンパイアは位に厳しい。よって、誰に対して敬意を払うべきなのか、“血”が弁えているのだ」
 そう。まるで体中を巡る血が、私の身体を支配しているかのよう。領主様を前にした私の身体は、自然に傅いていた。
「巫山戯るなっ」
 ルーゲルは私の様子を察し、近付いて手を伸ばしてきた領主様に拳を振るった。
 けれどそれは空を切ると、領主様がルーゲルの腕を取り、軽々とベッドに放り投げる。
「目上の者に拳を振るうとは、随分と礼儀知らずな人間だ。少しは花嫁の殊勝な態度を見習うがいい」
 私を一瞥した後、領主様はベッドに埋もれたルーゲルに跨った。
「止めろっ」
 暴れるルーゲル。だけど領主様はそんな彼の耳元で、私にも聞こえる様にはっきりとこう言うのだった。
   忘れたのか。貴様の花嫁は妾の思い通りだ。余りに手を煩わせるようだったら、花嫁を妾の下僕共の慰みモノにしてやっても良いのだぞ……?」
「!」
 それを聞いて、ルーゲルの目がくすんでいく。私は、私の存在が彼を縛り付けていると知り、心が押し潰される気分だった。
「フフ……良い子だ」
 ちゅ   
 唇のシルエットが重ね合わされる。
 ルーゲルは拒まない。
 私は見てられなくて顔を下げる。けれど、すぐに領主様はこう声を挙げる。
「顔を下げるな。しっかりと、その目に焼き付けていろ」
 そう命令されれば、私の血はすぐに私の頭を持ち上げ、彼に覆いかぶさる領主様の姿に私の目を向けさせる。
 此方を振り返る事もなく、領主様は私の見ている前で下着を外す。その白い乳房が、彼の前で曝け出された。
「ふむ。そういえばキチンと貴様の味を見ていなかったな」
 徐にそう言うと、領主様はルーゲルの首筋に顔を埋める。
 淫らな水音が響く。ルーゲルが呻く。その表情は苦痛から、次第に甘美なものへと変わっていく。
 領主様が血を吸い終えた。満足げな表情で天蓋を仰ぐ。
   はぁ……っ! 美味い。これ程までに我が身を打ち震わす程甘美な感覚など、未だかつてない事だ。矢張り貴様を選んだのは正解だった」
 恍惚の表情でそう語る領主様の口から赤い糸が零れ、首筋を伝い、綺麗な乳房の間を流れ、やがて太股を伝ってルーゲルを染めた。
 そして改めてルーゲルに向かうと、垂れ出した鮮血を拭って見せる。
「さて、どうしてやろう」
 そうしてちらりと私を見てから、ルーゲルの下半身を露わにする。私ですら始めて見るルーゲルの分身は、驚く程の怒張を見せていた。
「ふむ。恋人を盾にされているというのに、此方は楽しもうと言う姿勢を見せているな?」
「五月蠅い。……さっさとすませろ」
「威勢が良いのは誉めてやろう……」
 不敵な笑みを見せながら、領主様はルーゲルのペニスを覆い隠す皮を根元まで下げ、その細い指で柔らかく扱き始めた。
「! あ、待て……」
「ふふ、怖がるな。痛くはしない」
 領主様の顔も既に上気し、ルーゲルのペニスに目を細める。傍に鼻を寄せる。
「ふん、男の臭いというのは、皆どうしてこうも汗臭いのだ」
 ルーゲルは何も言わない。領主様は手を動かす。
 荒い息を数回、そのはち切れてしまいそうな怒張に吹き掛けると、にやりと笑んだ。
「そうだ……直接、此処から精を吸ってやろう……」
 そう言うと領主様はルーゲルの怒張を、その気品あふれる口元を大きく開けて頬張った。その部分をそんな風に扱うなど知らない私。恐らく、ルーゲルも初めてだったらしく、戸惑った表情をしている。
「う……あぁっ」
 そしてすぐに呻き声をあげ、その身体をビクビクと震わせる。
 力無く項垂れるルーゲル。
 領主様は喉をゆっくりと鳴らし、そっとルーゲルから離れる。その唇からはとても長い糸が、ルーゲルの縮んだペニスに垂れさがっていた。領主様の口から、赤ではなく、白が零れる。
「もう果てたか。まぁ、今までそういった事とは無縁だったのだろうから、少々敏感でもいた仕方ないか。では、そのまま妾の中に来るが好い……」
 そう言いながら、もう一度ルーゲルのペニスを口に含む。暫くもぞもぞと口を動かした後離れると、其処にはまるで手品のように怒張が戻っていた。
 そして領主様は再びルーゲルに跨ると、自身の秘裂を怒張の先に宛がう。指に触れるその部分からは、僅かに水音が響く。
「どうだ。貴族の血筋である妾と身体を重ねられるなど、光栄な事だろう……?」
 腰を前後に振ってルーゲルのペニスを弄びつつ、言う。
「……貴様は、花嫁の前だから素直になれんのだろう。本当は、これに託けて女を抱けるのが嬉しい。身分の低い自分が、高貴な身分の妾を抱けるのが嬉しくて堪らない……。幸運だと思っているのだろう? 妾にこうして初夜を奪われ、甘い時を過ごせるのが。だから、つい先日一緒に式を挙げたばかりの花嫁を差し置いて、妾に対してこんなにも欲情している……」
 領主様の侮蔑のような、それでいて最高の賛美を受けたかのような淫靡な瞳に貫かれるルーゲル。身体を僅かに震わしつつ、目を細め、息を荒げ始める。
 それはまるで、心がもう、私以外に向いているかのように。
「もう素直になるがいい。大人しく妾に身を捧げるというのなら、この先ずー……っと、精を捧げ続けるだけの家畜として、妾が飼うてやろう……」
「あ……」
 恍惚とした表情を見せるルーゲルの顎を軽く持ち上げ、じっと彼の瞳を見詰める領主様。まるで催眠術を掛けているように、僅かにも視線はぶれなかった。
 ルーゲルはその目を細め、その視線から逃れようとはしなくなっていた。
「……娘よ。その目にしかと焼き付けておけ。貴様の愛する旦那が、初夜を別の女と済ます所を……な」
 領主様は勝ち誇った表情で私にそう告げ、秘裂をルーゲルの先に押し当てる。
 ルーゲルはゆっくりと、柔らかな花弁を押し広げ、領主様の中に頭を埋めていく。私はその光景を否定したくても、目を背けられなかった。


―――――


   ……ふん」
 けれど、領主様はその腰を深く落とす事はなかった。
 あれだけ欲情なさっていた表情が一気に冷めたかと思うと、そのまま行為を中断し、脱ぎ捨てた下着をまた着始めたのだった。
「つまらん」
 ぼそりと呟いた一言。私は耳を疑った。
「これは罰なのだ。もっと抵抗するなりなんなりすればいいものを。……本気で欲情しよって」
 ルーゲルは怒張を収めきれずに、まだ蕩けた目で息を荒げている。
 私は深紅のベビードールを再び纏った領主様の背中を見る。
 さっきまでの様子とは違う、何処か悲しげに自分を責める様な様子。「これは罰だ」そう言った言葉がどうしてか嘘くさい。
「今夜は見逃してやる事にしよう。また明日、心を入れ替えて臨むがよい」
 クスクスと笑う領主様。ルーゲルは、何時か畑仕事で特別疲れていた時のように、身体を持ち上げた。
「こ、心を入れ替えって……じゃあ俺達、何時帰れるんだよ」
「それは勿論、妾と初夜を迎えるまでだ」
「初夜って。もう初夜なんてとっくに過ぎて……」
「妾と同衾するまで、と言った方がよかったか?」
「……」
 領主様の台詞に押し黙るルーゲル。領主様は私を挑発的に見降ろした後、またルーゲルの元に歩み寄り、未だ静まらぬ彼の怒張に指先を触れる。
「まだ収まらぬか。……いた仕方ない。測らずとも、焦らす結果となってしまったのだから」
 領主様はルーゲルの赤黒い肉竿に指をからませる。
 その美しい指にルーゲルから出た粘液が絡み付こうともお構いなく、上下に撫で擦る。
「せめてもの慰みだ……」
 そう呟いて、先程と同じようにルーゲルの肉棒を口に頬張る領主様。
 舌が這いずる音。不意に口の中の空気が漏れ出る音。微かな呻き声。壁には蝋燭の淡い炎が照らすシルエットが映る。
 さっきはすぐに果てたルーゲルだけど、今度は長い時間を掛けて、領主様は彼を味わう。
 ルーゲルは何も言わず、只歯を食い縛って蹂躙される。苦悶の表情が走ると、領主様の喉が、ゆっくりと、数回動く。
 やがて、その口元からは白い筋が垂れ出した。
「ん、く……ふふ、二度目の方が量が多いとは。……味でもしめたか?」
「な、何が、だよ……」
 領主様は口の周りの残滓を舌で掬い、指に付いた粘液も残さず唇で吸い取る。
 行為が終わると領主様はすぐにルーゲルから離れ、部屋の出口に立つ。
「今日はもう休むと良い。妾達は今からが活動時刻だからな」
 私は一瞬言葉の意味が判らなかったけど、すぐにジロリと視線を向けられ、慌てて領主様の傍に立った。
 領主様はルーゲルに振り返る。
「言っておくが、妾と初夜を迎えるまで花嫁と一緒に居られると思わん事だ。この娘は今や妾の下僕。妾の指示がなければ貴様と会う事もさせない」
 その言葉を聞いて私は項垂れる。ルーゲルと会えないのは嫌だけれど、どうしても領主様の言う事には逆らえない。
 ルーゲルの顔を窺うと、その顔はまだ少し赤かった。呼吸も弾み、目は何処かうつろ。
 彼は確かに夢見心地だった。

    そんなに気持ちいいんだ……。

 今まで聞き及んできた、男性とのそういった行為について。
 女の子は最初痛い思いをすると聞いていた私は、ルーゲルとの初夜は、待ち侘びていたようでとても不安だった。
 でも、ルーゲルが気持ちよくなってくれるなら……私に気持ちを向けてくれるのなら。そう思って覚悟もしていた。
 領主様がルーゲルに“した”あの行為で、彼はあんなに気持ちよさそうにしている。
 私は何時の間にか身体が熱くなってきているのに気付く。
 さっきの刺激的な場面。ルーゲルを慰める領主様を私に入れ替え、彼の中心を口に運ぶ幻想   いや、妄想に堕ちる。
 自分でも知らない内に自分の唇に中指を添わせ、人差し指の先を口の中に滑り込ませていた。


    いつかは、私も、あんな風に彼を……


「何をぼさっとしている。貴様の寝床は此方だ」
 領主様の声で我に返る。
 私はなんて事を考えていたのだろう。
 顔が熱くなる。逃げる様に部屋の出口をくぐった。
 廊下の脇には申し訳程度の蝋燭の火が灯る。昼間掃除したばかりの薄暗く整った通路は、片付ける前の姿以上に不気味さを醸し出す。
 私は領主様の一歩後ろを付いて行きながら、なにやらアソコがむずむずする感触を憶える。内腿を擦り合わせながら歩く。下着の中が生温い……。
   あの男とは、付き合ってどのくらいだ」
 唐突に領主様に尋ねられる。私は言葉を詰まらせながら答える。
「あ、えと。ルーゲルとは、子供の頃から一緒で……幼馴染、なんです。私の方が二つ上で、弟みたいな感じだったんですけど……彼、昔は凄く荒れてて。村でも問題の乱暴者で、どうしようもなかったんですけど、ある日行き成り真面目になって、畑を耕すようになって。吃驚してたら、その、彼から……結婚してくれ、って」
 領主様は黙って聞いていた。私は自分でも驚くほどすらすらと続きを話す。
「なんだか、私の事ずっと想ってくれていたらしいんです。でも、彼、自分に自信がなくて、荒れて……でも立ち直って、私に見合う男になるんだって決めたそうなんです。それで、今では村一番の働き者です。……私も、そんな彼の事……ずっと」
 そう話していると、私が抱えている不安を段々と思い出してくる。
 気付くと、もう口に出していた。
「……でも、いつも不安だったんです。彼は私に見合う男になるって頑張ってくれたけど、そもそも、私の方こそ彼に見合うのかって。彼が見ている私の姿って、そんなに、手の届かなかったものなのかなって」
 すると、今まで黙って聞いて下さっていた領主様が急に立ち止まる。
 私も驚いて足を止める。
「あの、領主様? どうかなさいましたか」
「……それが平民の考え方か」
 そうぼそりと呟いた領主様。
「相手が自分に釣り合うかどうかではなく、自分が相手に釣り合うかどうかを考える」
「そうです。ですがやっぱり、愛すれば身分なんて関係なくそう考えるのではないでしょうか」
 領主様は暫く考える素振りを見せていた。
「……自分から釣り合わせるか。成程」
 そう呟くと、領主様はまた歩き始めた。
 やがて行き着いたのは領主様のお部屋。私は首を傾げた。
「あの、此処は領主様のお部屋では……」
「そうだ」
「……え、あの」
「何だ。妾と寝るのがイヤなのか」
「イヤというよりか、恐れ多いといいますか……」
 領主様は渋る私の顎を指先で持ち上げ、じっと瞳を覗きこんでくる。
   あの男に釣り合う女になりたいのだろう?」
「……え」
「忘れているのかも知れんが、貴様は高貴なるヴァンパイアの一人だ。その身体は以前よりも……ふふ、妾が何を言いたいかは、自分が一番良く判っているだろう?」
 人間ではなくなった瞬間感じたのは、女としての自信。美貌への自信。そして彼への自信。
 領主様が言いたい事は十分すぎるほど判っていた。
「妾は慈悲深い。貴様を同族にする際には、段階を踏もうと思ってな。その所為で、貴様はまだ完全ではない。だが、完全にヴァンパイアになってしまえば……もうあの男は貴様を手放せなくなる」
 完全にヴァンパイアとなる……それを聞いて、何故か憧れが叶う思いがした。
 私はもう、人間としてではなく、ヴァンパイアとしての生を望んでいた。
 領主様は私の表情から返答を聞き出し、ほくそ笑む。そして有無を言わさず、私の首筋に顔を埋めた。
 牙が刺さる。二度目の感触。もうヴァンパイアとして入口に立っているからか、とてもリラックスした状態で領主様に身を預ける。
    全身が蕩けてしまいそう。
 領主様は私から血を奪いつつ、部屋の扉を開ける。そして私を強く抱きしめ、貪りながら棺桶に倒れ込む。
「貴様を此方側に引きこんだ以上、妾が責任を持って、あるべき姿にしてやろう……」
 領主様は呟く。棺の蓋が一人でに閉まる。荒い息遣い。気付けば衣服が脱がされ、身体に領主様の腕が絡み付いていく。


 そうして私は、また夜に帰るのだった。





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“ベビードール”

ベビードール。ああ、ベビードールだ。
ネグリジェじゃない。ベビードール。

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これを着て彼女(魔物)に迫られた日には、もう抵抗など無駄である。



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《V商会》

10/02/27 21:45 Vutur

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