読切小説
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ぼくのかみさま
足音が聞こえる。
曜日も、時間も、いつもと一緒。
遠くに見えるちっちゃな身体も、いつもと一緒。

肌のお手入れは欠かしてないし、髪のケアも入念にした。
8本の尻尾も当然綺麗にしてある。
服も清楚系だけど胸の谷間はしっかり見える物にした。
私の準備は、完璧。

部屋も片付いてる。
秘蔵のコレクションは・・・押し入れに詰め込んだ。
流石にこれを見られる訳にはいかない。

あ、来た来た。
開いてるから入っておいで。



飛脚の代わりにバイクが便りを届け、露天商の代わりにデパートの店員が物を売る時代。
文明の進歩により、人々は神仏の存在を昔ほど気にしなくなった。

しかし、少なくなっただけで、それらの存在を信じる者はいる。
神を絶対的な存在として崇め、未だに前時代的な慣習に固執する者で出来た村もある。

その村では、まことしやかに囁かれている伝承があった。

『山には神が棲んでいる』

誰がその話を始め、どう広まったのかは定かではないが、人々はどういう訳か、
それを信じていた。



「かみさまなんて、いないよ?」

一人の子供が、声を上げる。
根拠は無いが、至極真っ当で、十分想定される可能性。

「この子は悪魔に誑かされた」
「急いで禊をせねば」

無垢な子供の思想は、狂った大人達の前には悪魔じみて見えたらしい。

『山には神が棲んでいる』

その真偽は誰も知らない。
しかし、理由も無しに、この伝承は絶対的なものでなくてはならなかった。
狂っていてもそれが多数派なら、それは正常であり、真実を語る少数派が狂人とみなされる。
故に、この村はあらゆるものが何一つとして、数百年前から変わっていなかった。

神を信じなくなった人々も、言葉の中に『神』という文字を使う時がある。
『神憑り』『神の領域』『神頼み』
そして。



『触らぬ神に、祟りなし』



天然の要塞とも言える地形も相俟って、
外の者がこの村の内情を知る事は無く、逆もまた然りだった。



「神には、貢物をしなければならない」

神は、畏れを生んだ。

「貢物をしなければ、村に災厄が訪れる」

畏れは、恐れを育てた。

「誰かが、神に貢物をしなければならない」

恐れは、強迫観念を創った。

人々の幻が作り上げた神は、非常に気難しく、移り気らしい。
機嫌が良ければ村を守ってくれるが、損ねれば滅ぼしにかかる。

「誰が行く」
「お前が行け」
「死にたくない」
「ならばお前だ」
「ふざけるな」

猫の首に鈴をつけに行こうとする鼠がいないのと同じで、自ら神に立ち向かう者はいない。
自分は安全圏にいたい。その為なら、誰が死んでも知った事ではない。

「あの子を行かせよう」

身勝手な人々は、その責を幼気な子供一人に負わせた。
無垢なままでいられた、彼に。



銭が数十枚、野菜と果物、穀物がいくらか。
麻袋を背負いながら、彼は歩く。

木々が鬱蒼と生い茂る獣道を歩くこと、一と四半刻。
人々はそこを、神の住処とした。
身の丈四尺にも満たない彼には、それはあまりに遠い道のりであり、
着いた頃には脚は酷く震えていた。

そこには神の住処がある。そこに貢物を捧げる。
そうすれば。

(ほめて、もらえる)

親族含め狂気に満ちた人々に囲まれる中、彼は無垢なままに育った。
それ故、彼は神の存在を気にしていなかった。
村の人々が口々に言う『かみさま』とは一体なんなのか。
それに疑問を抱いた。

疑問を抱く事すら、村の人々は許さなかった。
村八分寸前の所で、両親は神への貢物を運ぶ役目を、我が子に負わせた。
そこに、我が子への罪悪感など、微塵も無い。ただ、保身の為に、行動した。
甘言で騙し、厄介払いをするようにして。

一片の愛情も受けずに育った彼は、『ほめてもらいたい』というだけで、
何の意味も無い貢物をここまで運んできた。

人々が作った神の住処。それは祠を作って、奉ったとか、そういう訳では無い。
率直に言ってしまえば、ただの妄言であり、そこには何も無い。



……それでも、おかしくなかった。



偶然にも、そこにはあった。
粗末な造りながら、誰かが住んでいると思しき、一軒の庵が。

もしも神がいるとしたら、救うに値すると判じたのは彼らしい。



その日の夜、彼は村に戻ってきた。
人々は驚いた。まず帰ってこないと思っていたのだから。

「ほめて、くれる?」

少年の心は浮足立っていた。
これで、自分の存在を認めてもらえる。そう確信していた。
だが、両親から帰ってきた答えは。

「今度また行ったら、褒めてやる」

両親は、彼がのたれ死ぬ事を望んでいた。

『我が子は人柱となった。自分の命と引き換えに、村を守った勇敢な息子だ。
 彼を可哀想に思うなら、私達の待遇を改めてくれ』

生贄となり、尊い犠牲となったという美談をでっち上げ、
自らの立場を持ち直すという、身勝手極まりない理由で。

「わかった」

その悪意を読み取るには、彼は幼すぎた。
彼はそれから週に二度、神へ貢物を届ける役目を担う事となった。

これが、少年が定期的に庵を訪れる事になった経緯である。



「こんにちは」
「いらっしゃ〜い♪ 会いたかったよ〜♥」

引き戸を開け、中に入ると同時に抱きしめられ、頬ずりをされる。
その後、胸を顔に押し付けられたり等々、たっぷりと接触行為を受けた後、
ようやく少年は解放された。

「んふふ〜♥」
「……?」

少年は、彼女の行為の意味も、このニヤつき顔の意味も理解していない。
しかし、とりあえず気持ちいいものと感じているので、特に気にする事も無かった。
そして何より。

「ほらほら、早く上がって」
「えっと、おじゃま、します」
「あっ、この前教えた挨拶覚えてたんだ。偉い偉い」

どんな些細な事でも、この人は褒めてくれる。
それが嬉しくて胸が一杯になり、自然と他の事を気にする余地は無くなるのであった。

「待っててね。美味しいお茶と羊羹があるんだ。今すぐ用意するから」
「わかりました」

奥の部屋へと消えていく姿を見送り、置いてあった座布団にちょこんと座る。
着物の裾をいじったりしながら、少年は静かに待った。



「……あ〜う〜」

ぷるぷると震えながら、唸り声を漏らしつつ、お茶の用意をする。
手付きは慣れているが、その表情は色々な意味で大変な事になっている。

そして、羊羹の封を切った所で。

「本当になんであの子はあんなに可愛いの!?」

声自体は小さいが、全身全霊を込めて叫んだ。

「ちっちゃな身体でとてとて歩いて、重い荷物背負って散々歩いて何であんな顔できるの!?
 それに挨拶なんていちいちどうでもいい事とか毎回毎回一個一個どうして覚えてくれるの!?
 教えてるの私だけどさ! あの子いい子過ぎるでしょ!
 入ってくるなりすりすりぎゅむぎゅむしてるけどさ、本当だったらぺろぺろもぐもぐとかしたいよ!
 というか今にでもしたい! お茶菓子の用意とか投げ出して押し倒してヒャッハーしたい!
 ああもう可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い……」

感情の昂ぶりに比例するようにして凄まじい勢いで茶筅を回しながら、
本人には聞こえないように叫び続けた。



結局の所、山には神などいなかった。代わりにそこにあったのは一軒の庵と、一人の妖狐。
彼女……八尾の妖狐の奏(かなで)は、古くからこの山地に住んでいた。
時折人里に下りては男を捕まえていたのだが、彼女は酷い幼児嗜好の持ち主であり、
周囲からは完全に子供さらい扱いをされていた。
流石にやり過ぎたのか、それとも噂が広まったのかどこに行っても子供が見つからなくなり、
途方に暮れていた所で訪れるようになったのがこの少年。
以来、人里に下りる事をやめ、彼を待つことにしたのである。

(私は妖狐のお姉さん……清楚で優しいお姉さん……)
「ほら、お上がり」
「ありがとうございます」
(嘘つきましたごめんなさい私はただの変態ショタコンメス豚淫乱狐です!
 ああそんなキラキラした目で私を見ないで! ごめんねこんなお姉さんで!)

純粋・ミニマムサイズ・健気・ちょっとぶかぶか着物・よい子・不幸属性(何で来るのか聞いた)等、
奏の理想像をこれでもかと言わんばかりに詰め込んだ彼、誠(まこと)は
最早その存在が凶器であり、今まで理性が決壊しなかったのは奇跡以外の何物でもない。

こくりこくりと、小さく喉を鳴らしながらお茶を飲む。
竹串で羊羹を切り、口に運ぶ。
上品な甘さにうっとりし、思わず顔が綻ぶ。

その一挙手一投足全てが、どうしようもなく愛らしい。

(お願いだからお姉さんをこれ以上おかしくさせないで……!
 私、本当にどうかしちゃいそう……!)

耐える。
必死に耐える。
襲いたいのは山々だが、そんな事をしたら、この子に一生物のトラウマを植え付ける事になる。
そうなったら、もう二度とここには来てくれないだろう。

(ああもうダメ……この子が帰ったらオナり倒そう。
 この子にクンニされてる妄想しながらいじり倒そう。そうしよう)

一人悶々としている中、対面に座る誠は思い出したようにして、麻袋をちゃぶ台に置いた。

「これ、いつものです」

神様への貢物として、村人が詰め込んだ数々の品々。
野菜を中心とし、穀物や肉、魚。
幾らかの金銭と宝飾品等々。

「ん……? あ、そっか。いつもありがとね。
 だけど私玉ねぎは食べられないんだよなー。これ油揚げだったらいいんだけど」
「あの、その……もってきました」
「へ?」
「これ……どうぞ」

誠は思っていた。自分がこの妖狐のお姉さんにしてあげられる事は何か。
色々考えていた所、前回の訪問の際に、彼女はこんな事を言っていた、という事を思い出した。

『油揚げ……食べたいなー』

油揚げ。
村の豆腐屋で売っていた。その価格は、自分の僅かな小遣いでも買える金額。

これを持っていけば、喜んでもらえる。
そう思った彼は、村人の貢物とは別に、油揚げを持ってきていた。

それも、ただの油揚げでは無い。
「おべんとうがほしい」と言って、両親から何とか1合分の米をもらい、作ったもの。
甘辛く煮た油揚げの中に酢飯を詰めた、彼の初めての料理。

「かたちは……その……」
「え……?」

風呂敷につつまれた弁当箱の中に4つ。
油揚げが破れていたり、酢飯がはみ出ていたりと少々不格好ではあるが、
これは間違いなく『稲荷寿司』と呼べる代物であった。

「……食べて、いい?」
「どうぞ」
「うん、いただきます。……あむっ」

じゅっ、と、油揚げに染みた出汁が溢れ出る。
大好物に違いないが、ごくごく普通の、何の特徴も無い稲荷寿司。

「おいひい……おいひいよぉ……!」

だが、それは今まで食べたどんな稲荷寿司よりも、美味しかった。
一噛み毎に口内に広がる味が、この上ない多幸感をもたらす。
自分の為に、油揚げを持ってきてくれた。ただ持ってくるだけではなく、調理までしてくれた。
どうしようもなく嬉しくて、涙が零れ落ちる。

「えっぐ……おいひい……ありがとう……!」
「おねえさん!? なんで、ないてるの……? ……おいしく、なかった?」
「ううん。とっても美味しい。誠くんの作ってくれたお稲荷さん、美味しい。
 けど、それよりも誠くんの気持ちが嬉しくって。ごめんね。泣き虫なお姉さんで」

子供さらいの烙印を押されてから、ずっと一人で過ごしてきた。
そうなってからは唯一の知り合いとなった少年からの、少年なりのプレゼント。
心にまで届く温かな稲荷寿司は、何よりのご馳走だった。

「誠くんも一緒に食べよ。このお稲荷さん」
「ぼくは、だいじょうぶ」
「ううん、私がそうしてほしいの。誠くんと一緒に、お稲荷さんを食べたいなって」
「……それじゃ、いただきます」

稲荷寿司を取り、両手で持って、小さな口で食む。
ほんの少しだけ、口角が上がったのを見て、奏は微笑んだ。



「ごちそうさまでした。美味しかったよ」

奏は3つ、誠は1つ、稲荷寿司を食べた。
空っぽになった弁当箱を風呂敷で包みなおそうとした所、誠の頬に米粒がついていたのが分かった。

「ん、誠くん、ちょっとそのまま」
「……?」

ほっぺたについたお米を食べる≒誠自身を食べる
その思考に辿り着くまでの所用時間、0.1秒。
口調は何とか保てたが、頬にくっついている米粒に伸ばす右手は興奮で震えている。

頬まであと数センチ。そのまま、手を伸ばし・・・

「……あっ」

不意に、誠の指が動いて米粒をつまみ、口の中へと持って行かれた。

「しつれいしました」
「えっ、あぁ……うん。気付いたならいいんだ」

この時ばかりは、彼のよい子属性の存在を恨んだ。
誠の頬に張り付いていた、たった一粒の米は、奏にとっては稲荷寿司を百個積まれても譲れない、
何よりも欲しい食べ物であった。
なお、千個積まれても同様。一万個なら半日くらい悩んだ後、食べきれない事に気付く。

(……まぁ、いっか。舐め取るのを踏みとどまっただけマシでしょ)

気を取り直して、そのまま後ろを向き、八本の尻尾を向ける。
黄金色に輝くその尻尾はゆらゆらと動き、神々しくもどこか艶めかしい雰囲気を醸し出す。

「それじゃ、今日もいつもみたいにする? 『もふもふごっこ』」

奏は、己が持つ少年を籠絡する武器は、この尻尾だと確信している。
そして、その考えは見事に的中している。

先程までもじもじしていた誠の目が輝き。

「うんっ!」

と言うが早いが、彼は尻尾の中へ飛び込んだ。

「きゃんっ♥」

妖狐の多くは、尻尾を性感帯として持つ。
本数が多ければ多いほど、その特徴は顕著に表れる。

ベルベット生地の様な極上の肌触りの尻尾の海に、誠の小さな身体は忽ち埋もれこんでしまった。
その中でもごもごと動き、その感触は奏にはっきりと伝わっている。

「んふふっ……うぅん……誠くんっ。気持ち、いい?」

喘ぎ交じりの、色香を含んだ声で問いかける。
返事をしているみたいだが、尻尾に埋もれていて、何を言っているのかはよく分からない。
だが、多分好意的な反応をしているだろう。

この『もふもふごっこ』は、誠が初めて庵を訪れた時から繰り広げられていた。
奏が尻尾を向ける。誠がそれをもふもふしながら埋もれる。ただそれだけ。
この上なくシンプルだが、どちらもこれを楽しみにしている。

奏は、誠に襲い掛かりたい事この上ないのだが、何かと不安なので、
それ以外の方法で彼を喜ばせるにはと考えた所、これしか浮かばなかった。
もっとも、結果として唯一にして最大の効果をもたらす手段となったが。

「ほ〜ら、ぎゅっぎゅってしてあげるね♥」

八本の尻尾を、誠を圧縮するように動かす。
密度の増した尻尾は、布地から羽毛布団のような感触に変わり、眠気を呼ぶ程。
誠もそれに抗えず、尻尾にくるまれながらうとうとし始めた。

「おねむ? 寝ちゃってもいいよ。その間、ずっと尻尾でなでなでしてあげるから♥」

誠の下側に四本、上側にも四本。
下四本をゆりかごのように揺らし、上四本で頭・胸・お腹・足をふわりとなでる。
全身の力が抜け、ぶらん、と、四肢が下がった。

「力抜けちゃったね。しょうがないよね。
 あったかくてふかふかの尻尾布団に包まれちゃったんだもん。
 こんなに気持ちいいおふとんに抵抗するなんて無駄だよ。
 何にも考えなくていいの。ゆーーーっっくり、おやすみ……♥」
「ふぁ……」

頭部も尻尾に預け、誠は意識を手放した。
心地よい重みを感じながら、奏も静かに目を閉じる。
そして、尻尾をゆらゆらとさせながら。

(だからもうなんでこの子は本当にこんなに可愛いの!?
 私の尻尾が気持ちいいのは分かるよ! 毎日しっかり手入れしてるんだし!
 埋もれてるから音は聞こえないけどさ、この尻尾に伝わる感覚!
 絶対『くぅ……くぅ……』って感じの可愛らしい寝息してるよ!
 その息ちょうだい! 瓶詰めにして毎日嗅ぎたい! 私の肺の中の空気と取り換えたい!
 この子の二酸化炭素は私にとっての酸素! 葉緑体無しで光合『性』!
 まさにエロロジーな発電方法で自家発電も捗る!
 あぁもうかわいいかわいいたべたいかわいい……)

そこそこにトチ狂いつつ、その感情が尻尾に表れないよう、必死にこらえた。



「……あっ」
「おはよう。ぐっすり寝てたね」

目を覚まして最初に見たのは、奏の整った顔。
誠が眠っている間に、奏は彼を寝室に運び、抱き枕代わりにしていた。

「えへへ。もふもふごっこ、楽しかった?」
「うん!」
「そっか♪ お姉さんも、誠くんともふもふごっこするの、楽しかったよ♪」

誠を抱き寄せ、頬ずりをする。
定期的に来るとはいえ、常に傍にいる訳では無い。
なら、いる内に出来る限りは、接触しておきたいというのが心情。

「あっ、時間大丈夫?」
「じかん……?」
「ちょっと待ってね。……ありゃ、もう暗くなってきてる」
「ほんとだ……いそがないと」
「ねぇ誠くん。今から帰ると危ないから、今日は泊まっていかない?」

外が暗くなっているのを確認した瞬間、奏は心の中でガッツポーズをした。
もしかしたら、これを口実にお泊りコースに持ち込めるかもしれない。
もっとも、そうならなくても帰りに付き添うくらいはするつもりだったが。

「ね、いいでしょ? お稲荷さんのお礼に、今日はお姉さんがごはん作ってあげるから」
「でも、おとうさんとおかあさんが……」
「私が説明するから大丈夫だって。ね? ねっ?」
「うーん……それじゃあ……その……おねがいします」
「うんっ!(キターーーーー!!!!!)」

心の中で、派手にガッツポーズ。
尻尾以外には、その感情は表に現れていない。
その分、尻尾はガン立ちだったりブンブン振り回されたりとエラい事になっているが、
幸運な事に、誠の視線は奏の目に集中していた為、尻尾の変化には気付かなかった。

(よっしゃ最高級の布団出そう! こんな事もあろうかと誠くん用のおふとんがございます!
 ワーシープ毛100%のふっかふかふとん! 一回試しに使ってみたら一日潰れた!
 危険だったから封印してたけど、誠君の為ならこれ使いましょう!
 但し使うのは敷布団だけ! 掛布団に関しては私の尻尾! 誠君を背中に感じながら寝たい!
 寝れるかどうか分かんないけど!)

故に、この暴走する想いも伝わっていない。
伝わっていたら大変な事になっていたであろうが。



その夜。
夕食を(襲い掛かりたい欲望を必死に堪えながら)食べ終え、
入浴を(一緒に入ったら間違いなく襲ってしまうので、誠の後に入り、
残り湯をちょっと飲んだりしながらも)済ませ、寝室へ。
ワーシープ毛の布団を敷き、枕を二つ並べる。

「ごめんね。布団一つしか無いんだ(嘘だけど)」
「それじゃ、ぼく、たたみで……」
「風邪ひいちゃうって。だから、一緒に寝よ?」
「なれてるから、だいじょうぶ。かけるほうのおふとんのはじっこ、もらえれば」
「(慣れてる……? あの村の奴ら、何て事を……)いいから。私がそうしたいの。
 誠君の身体ってあったかいから、湯たんぽにしたいの。それに、掛布団は私が使う。
 代わりに、誠君は私の尻尾の中で寝て」

くるりと向きを変え、尻尾を揺らす。
先程まで包まれていた、ふかふかすべすべ、あったか狐布団。
ワーシープに勝るとも劣らない、この世に存在する空間の中で、天国に限りなく近い場所。
その誘惑に耐える事の出来る生物など、この世に存在しない。

「……うん!」
「素直でよろしい! それじゃ寝よっか。
 私はこんな感じで寝転がるから……ほら、おいで♥」

布団に横たわり、尻尾を誠の方へ向け、毛先を接触させる。
無意識のまま、倒れ込むようにして、誠はその身を奏に預けた。

「ふぁ……おねえさん、おやす……」

風呂で得た熱も程よく抜け落ち、狐の尻尾とワーシープ毛の布団に包まれ、眠気が限界に達し、
就寝の挨拶を言い終える前に、誠は夢の世界へと落ちていった。

(……あれ、これワーシープ毛ですよね。全然眠くならないんですけど。
 どうしてですかね。16時間くらい余裕で寝れるはずですが、何でですかね。
 いや原因分かってますけどね。分かってるけどこう、あるじゃん。こういうの。
 というかね、こんな感じで何かで気を紛らわせないと夜這いルート一直線です。
 どうにかしないと……そうだ、今なら……バレないよね)

目をギラギラさせながら、背中に感じる寝息に悶えつつ、そっと、秘所に手を伸ばす。
誠が起きないように、声を押し殺して、自らを慰める。

「んっ……はぁ……んん……っ!」

誠の眠りは深い。
幸い、僅かな声と水音、震え程度で起きる事は無かった。

(……今日も、何とか襲わずに済んだか)

こんな山奥に、いつも一人で歩いてくる。
あくどい村人に騙され、その小さな身体では重すぎる荷物を背負って、険しい山道を1時間強。
大切な、大切な、大好きな少年。

(……ねぇ、お姉さん、どうしたらいいのかな。もう、分かんなくなってきた。
 君が大人になるまで、待てないよ)

「あぁん……んんっ!」

淫らに、艶めかしく喘ぐ。
それでも、奏の欲望は満たされることはなかった。



翌朝。
結局奏は一睡もできず、達することの出来ない自慰行為をし続けていた。
中途半端に揺蕩う昂ぶりの処理をどうするか悩んでいたところ、背後から誠の感触が消える。

「ん……? あ、出ちゃってる……」

どうやら寝返りを打った時に、奏の尻尾から身体がはみ出て、そのまま布団の外まで転がったようだ。
とりあえず、起こしてみる。

「誠くーん。朝だよー」

眠たい目を擦りながら、誠の身体を揺らす。

その時だった。



「……ふぇ?」



微かに感じる、異臭。
しかし、この臭いは、魔物娘なら誰もが知るもの。

「え……あれ……?」

寝惚けた頭が徐々に覚醒するにつれ、その正体が見えてくる。

「………………」

脳が指令を下す必要も無かった。
手が勝手に動き、誠の着ている浴衣の帯を緩めた。

その瞬間、辺りに立ち込める、粟の花のような匂い。



奏は、それを全身で感じ、浴びて『しまった』。



「…………………………………ハハッ。」



プツン、と、頭の中で何かが切れた音がした。
夢精によって漏れ出た、誠の精液の臭い。

一人の妖狐を狂わせるには、十分すぎた。



「うぅん……?」

精通を迎えた誠が最初に感じたのは、下腹部の違和感。
そして、最初に見たものは、目からハイライトの消えた、妖狐。

「誠君が、悪いんだよ……?」

その姿は艶美であると同時に、明らかに狂気をはらんでいた。

「ずっと我慢してきたのに、無防備すぎるんだもん」

誠の頬に這わせた、白魚のような指は震え、
瞳孔はどことなく、開いているように見えた。

「ふぇ……?」
「だから、悪いのは誠君。どんなことされても、文句なんて言えないし」

荒い息が、鼻の頭にかかるまで距離を縮め。

「言わせない、から……んちゅっ!」
「んむっ!?」

舌を突き入れながら、一気に唇を奪った。

「んっ、んちゅ、んっ……」
「んんっ!? んっ!?」

息が出来ない。苦しい。何が起こっているのか分からない。
錯乱しかけた誠に、声がかかる。

「誠君、鼻で息、できるよね?」
「はな……?」
「鼻で呼吸すれば大丈夫。……もう一回、んっ!」
「んむぅっ!?」

呼吸の方法を教えるだけで、理性の残り滓すら使い切った。
奏の頭の中はもう、目の前の愛する少年を犯す事しか存在しない。

口内で暴れ回る舌を無理やり絡め、唇で食む。
どちらが優位に立っているか明白な、あまりにも一方的な責め。
幼い少年にとって、それは恐怖でしかない。
それは、奏も分かっているはずだった。

(誠君……誠君誠君誠君誠君誠君!
 大好き! 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!)

頭が、回らない。
粘膜から何から、吸い尽くすようにして奪い取った唾液が麻酔となり、全身を巡る。
衝動を抑え込んでいた枷が弾け飛び、次から次へと欲望が溢れ出す。

一頻り口内を犯しつくすと、次の瞬間には、奏は誠の股間にいた。
当然、やることは一つ。考えるまでもなく、脊髄反射で陰茎を飲み込んだ。

「んぐぅぅっ!」
「ふひゃあっ!?」

喉奥深くに突っ込む、ディープスロート。
口淫はおろか、自分の手でしたことすらない誠にとって、あまりにも過激すぎる性感。

「あぁっ……あぁぁ……」

感じたことの無い感触に戸惑うも、快楽が強すぎて、蕩けた声が出てしまう。
それは奏の耳に入り、脳をかき混ぜ、ドロドロに溶け切った頭を更に溶かす。

(これが夢にまで見た誠君のおちんちん! それを私、口でシてる!
 この青臭さ、味、感触、全部最高! 待ってて誠君! お姉さんが全部飲むから!)

壊れたからくり人形のように、奏は全速力で、前後に頭を動かす。
淫らな水音すら後からついてくるようなピストンで舐り、吸い込み、扱く。
理性は当然、自分自身の首への負担さえも考慮に入れない、ただただ男を犯す為だけの動き。

ブンブンと尻尾を振り回しながら、目にも留まらぬ速さで頭を振り、喉で締め付ける。
部位が違うだけで、最早膣性交と殆ど変わりない。

「ふぁぁっ、おねぇっ、さっ、おしっこ、もれちゃ……」
(射精るの? いいよっ、思いっきり射精して! お姉さんが全部飲んであげる!
 白いおしっこ、全部射精して!)

精通後の肉棒に初めて触れた、淫乱ショタコン妖狐の口内粘膜。
それを超高速で擦られれば、耐えられる訳が無い。

「もれ……ひゃあああああっ!!!」
「んーーーーーっ!!!」

奏が一際強く、頭を誠の腰に打ち付けた瞬間、誠は生まれて初めて、絶頂による射精をした。
眩い光が視界を覆い、身体を弓なりにして、快楽をまともに食らった。

そのまま、流れ出る精液が吸い込まれていく。
誠はこれが何か、全く分からない。何が起きているのか、理解できない。

(なに、これ……きもち、いい……)

ただ唯一、この暴力的な快楽だけは鮮明に感じている。
よく分からないけど、おしっこを出すところが気持ちいい。
お姉さんに咥えられたおちんちんが、ビクンビクン震えて止まらない。

一方、奏はというと。

(あぁん♥ 濃くてドロドロでたっぷりの誠君のお汁ぅ♥
 特上濃厚精液生搾り、誠君特製ホワイトドリンク一番絞りぃ♥
 喉に塗りこまれてくよぉ♪ もうこの精液無しじゃ生きられない♥♥♥)

顔を下品に歪ませ、誠の陰茎を吸い、喉を鳴らして精液を飲み込む。
魔物娘の本能にどこまでも忠実に、愛する少年を貪る。
それでも、なお。

(足りない……もっと、誠君が欲しい……)

当然、このままで終わるはずがない。
一度弾け飛んだ欲望は、途中で止めることはできない。

「誠君……誠君……!」
「ふぁ……ふぁぁ………!」

荒い息遣いをそのままに、誠の透き通るような肌を撫で回す。
手の平から感じる熱は、普段より少し高め。
性的なものか、異常事態によるものかは定かではないが、誠も少なからず、興奮している。

奏の解釈は、自分にとって都合のいい、前者。
何の迷いもなく、先程まで咥え込んでいたモノに、陰裂をあてがい。

「誠君……誠君の初めて、もらうね」
「ふぇ……?」
「お姉さんに全部任せて……ねっ!」
「ひひゃぁぁぁっ!?」
(―――ッ!)

沈めこんだ瞬間、奏の脳内麻薬がリミッターを解除した。

(誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君!!!!!
 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!!!
 誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君!!!!!
 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!!!
 誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君!!!!!
 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!!!
 誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君!!!!!
 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!!!
 誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君!!!!!
 大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!!!)

上下の動きが止まらない。
瞳からハイライトは消えたままだが、代わりのようにハートが浮かんだ。
誠のそれとは意味の異なる好意をぶつけ、その代償を奪い、
膣をきゅうきゅうと蠕動させながら、全身で誠を感じる。

「ひゃっ、やぁっ! ふぁぁっ、ふぁっ!?」

『怖い』『気持ちいい』の二つ。
与えられたのは、たったそれだけの要素。
しかし、あまりにもそれらが多すぎる。
誠の頭は、簡単にキャパシティオーバーを起こした。

『性行為』というものの内容どころか、そんな言葉が存在することすら知らない少年。
何もかもが分からない中、股間の気持ちよさと、お姉さんがおかしくなっているという、
経験の無いことしか手がかりがない。

故に、かもしれない。
思考能力を失った頭が、感じたのは。

(しっぽ……やわらかい……)

触れたり、嗅いだり、埋もれたりして、一番経験した部分。
騎乗位で動く身体に合わせて、脚を打ち付けるように当たる、奏の尻尾。
唯一、それはとても柔らかで、温かいものであるということを知っている。

(……ふぁ)

少しだけ、余裕が出来た。
お姉さんはおかしなことになってるけど、この感触は変わらない。
今まで感じたことのない気持ちよさがあるけど、嫌じゃない。

少なくとも、狂った里の人々からかけられた、罵声に比べれば、
それは天と地、と形容するさえおこがましい。

「おねえさ……また……」
「あぁん! あんっ! んぁっ、あぁんっ!」

小便ではない、何かが漏れる。
今度は口の中ではなく、お姉さんの身体の中へ。

それは、とても気持ちいいこと。

(ごめんなさい……おねえさん……)

心の中で、申し訳程度に謝り。

「ふぁ……ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♥♥♥♥♥」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

二度目の射精を、奏の膣内へと流し込んだ。



(…………終わった)

誠の子種を、子宮で受け止め、余韻に浸る時間が過ぎ。
奏は現実へと戻った。

とうとう、やってしまった。
トラウマ確定の、苛烈な逆レイプ。

これでこの子は、自分の所に来てくれない。
来たとしても、今までのような関係ではいられない。

色々なことが、頭をよぎる。

(どうしよっか……誠君に、本当に酷いことしちゃった……
 こんないい子に、私は何てことを……最高に気持ちよかったけど、誠君は……
 ……死のうかな。誠君みたいないい子、どこにもいないだろうし。
 それとも、いっそのこと監禁しちゃうか。でも、それじゃ人形遊びと変わらない。
 だけど、それでもいいかもしれない。誠君に逃げられてしまうくらいなら……)

全てを捨てて、生を終わりにするか。
狂った世界で、偽りの幸せに浸るか。

その二つしか、選択肢は無いと思っていた。

だからこそ。

「……っ!」
「ふぇっ!?」

誠が自分を抱きしめるというのは、全くもって予想外だった。

「誠、君……?」
「……おねえ、さん」



「だいすき、です」



「……………!?」
「こわかったけど、きもちよくて。おねえさんが、いつもよりきれいにみえて。
 よくわからないけど、おねえさんがもっと、すきになりました」
(……あぁ)

馬鹿なことを考えていた。
馬鹿なことをしてしまった。

目の前にいる少年は、どこまでも純粋で、尊い存在。
それを穢しておきながら、自分勝手に先走ってどうする。

「……誠君、怖がらせてごめんね。これが、お姉さんの正体。
 だから、もう来なくても大丈夫だよ。村の人には、私から言っておくから」
「いやです」
「……え?」
「ぼくは、おねえさんにあえるのがたのしみで、まいにちすごしてます。
 だから、またつぎもきます」

自分と会うのが、楽しみ。
本人の口から、はっきりと伝えられた。

それなら、別の選択肢が出てくる。

「ねぇ、誠君」
「はい」
「その、良ければなんだけど。
 お姉さんとさ、駆け落ちしちゃわない?」
「……かけおち?」
「村を離れて、誠君と私の二人で暮らすの。
 知り合いが外にいるからさ、衣食住は保障するよ。
 それに……私も、誠君のことが大好き。だから、一緒にならない?」

どういうことか、誠は理解していない。
ただ、お姉さんと一緒にいられるということは伝わった。

村に戻ったら、他人には奇異の目で見られ、親からは殆ど無視される。
自分の唯一の楽しみは、この人に会うことだけ。

「うん!」

断る理由など、どこにもなかった。

「……ふふっ♪ それじゃ、準備しよっか?
 あ、村に何か取りに戻るものある? 着替えとかなら、私が用意するけど」
「えっと……なにもないです」
「そっか。じゃ、私の準備が終わったらすぐ。
 これから……宜しくね?」
「はい!」

山に神はいなかった。
しかし、神に近い存在が生まれた。

二人とも、まだ気づいていない。
ここにいる妖狐の尻尾が、一つ増えたことに。



誠の住んでいた村が、その後どうなったかは、諸説ある。
流行り病で村人が全滅したという説もあれば、
マタンゴの胞子がばら撒かれ、キノコ村になったという話もある。

誠も奏も、どうなったかは知らないし、知るつもりも無い。
過去、住んでいた村のことより、これからの暮らし。
その方がずっと重要だと、二人とも思っている。

「楽しみだねー。
 勿論、今日からはいつでも好きな時に気持ちよくしてあげるからね♥」
「…………♥」
17/06/19 16:58更新 / 星空木陰

■作者メッセージ
最近、ネタ帳に結構な数のおねショタ物があることが判明。
おねショタのショタと言えば、生意気なマセガキのパターンもありますが、
個人的には純粋な子であって欲しい。
……すいません、何の関係もない話で。

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