連載小説
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将軍から剣闘士へ
がちゃ、がちゃ

耳元で物と物が当たるような音で目が覚めた。
流れていく雲が見える。
それで自分は寝かせられて、なおかつ何処かへ移動しているのがわかった。

「気がついたか?」

ふと右から声が聞こえ、そちらの方に顔を向けた。

「死ぬな。死んだら猛獣の餌にされる。」

彼女は人間ではなかった。
ポニーテールに切れ長の目は人間のそれだったが、彼女の手はまるでトカゲのように鱗に包まれていた。
リザードマンという種族だったように思う。

「到着までにまだ時間がかかるだろう。もう少し寝ていろ。」

凛々しくも優しい声音を耳に、ゆっくりと目を閉じた。

目的地に到着したのか、すぐさま荷台から下ろされ、少し歩かされた。
目の前には行商人風な男が一人。
行商人風な・・・と言ったのは、彼の眼光の鋭さにあった。
まるで、戦いの中に身を置いていたかのような、そんな鋭さがあった。

将軍だった頃にも、そのような眼を持った兵士は多かったように思う。

「ワシはプロキシマ。貴様らと長い付き合いになる男だ。本当に長い長い付き合いになるぞ。」

男が大声で自己紹介をした。
覇気のある声、それなりの人生を歩んできたものの強さがあった。

「ワシはお主たち、奴隷を買って戦わせるためにここに連れてきた。目的は儲けるために戦わせる。お主たちに選択肢はない。戦うか死ぬかだ。」

男が後ろに指を指した。
そこには猛獣に食われたのだろう。
無残な人間か魔物であったであろう亡骸があった。

それにどよめく奴隷達。
ここに居るということは、グリーも自身が奴隷として、ここに連れてこられたのだと確信した。

恐らく、倒れていたグリーを敗残兵と見て、奴隷として拾ったのだろう。
まわりを見ると、自分たちの他に大勢の男たちと魔物娘たちがいた。
その中にも、起きた時に見たリザードマンもいた。

「早速だが、戦ってもらう。弱い者を戦わせても面白くもないし意味もないからな。」

少し歩かされたところに、まるで訓練場のような広場があった。
訓練場といっても、簡素な柵に囲まれた簡単なものであったが。

そこには一列に屈強そうな男と魔物娘が。

木で出来た剣を持たされた奴隷達は、一人一人の前に並ばされると、合図もそこそこに戦いが始まった。

周りでは、瞬殺で負けるもの、つばぜり合いをしているもの、逆に瞬殺するもの、それぞれだ。
先ほどのリザードマンも腕利きなのか、屈強そうな男を瞬殺していた。

他の事に夢中なのはいいが、問題は自分のことだ。
抵抗しなければ、殺される。良くて半殺しだ。
しかし・・・。

ぼと

砂で出来ている地面に何かが落ちる音。
グリーは、まるで戦う気はないとでもいうように木剣を投げ捨てた。

それを見て、男は、先ほどの行商人の男を見た。
頷く仕草。
それを見て攻撃を始めた。

ガン!!

腹にめり込む木剣。
肺から一気に空気が抜けるのを感じながら、その場に踏みとどまる。
しかし、それでも抵抗する気はないかのように、その場に立ち続ける。

ガン!!

続いて肩。
それでも立ち続ける。
業を煮やした男は止めを指すため、首に一撃を「待った!!」
寸前で止まる木剣。
待ったの声は行商人から発せられた。

「まだだ。まだ殺すな。」

その一言で、後ろにある控え室のような空間に戻っていくグリー。
置いてある椅子に腰掛け、少しあとにグリーの隣に座る人、いや、魔物娘が一人。

「どうして抵抗しない?」

「・・・・・・。」

「抵抗しなければ殺される。」

「・・・・・・。」

それでもグリーは声を出そうとしない。

「あなたは殺されるのが怖くないのか?」

リザードマンのその言葉に、首を向けたグリーは冷たく笑って、また俯いた。
それから三日後。
試合があるということで、移動させられた。
輪を書くように立てられた建物に人がひしめき合い、下の砂場のような地面に恐らく奴隷であろう男たちが、戦っていた。

戦いが終わり過ぎていく中で、とうとう、自分たちの番が来てしまった。
趣向を凝ったようになのか、奴隷が2人1組になり、手錠をはめられる。

片方には剣を、片方には盾を持たされた。
グリーの相手は・・・・。

「また会ったな。」

リザードマンの魔物娘だった。
「あなたとパートナーになれて光栄だ。私はキースという。よろしく。」

「・・・・・自分はグリーといいます。」

「よろしく頼む。まぁ、生きていれば、また話す機会があるだろう。」

そう言って会話を切った。
彼女も奴隷として連れてこられたというのに、まるで絶望の色が見えなかった。
そんな彼女は、元は腕試しをするために旅をしていたのだと、あとからわかった。
それならば、その肝の図太さも納得がいくものだ。

2人1組で、通路に立たされた。
もちろん、組みになった順番にだ。

前の扉から光がみえて、影がチラホラとしている。
向こうでは、奴隷を戦うためのならず者がひしめき合っているのだろう。

そして、上では、その殺し合いを見るために、歓声をあげる観客たち。

『『『『殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!』』』』

ヒートアップしているのか、並んでいる通路の天井から砂埃が落ちてくる。

そして・・・

バン!

扉が一気に開き、それに合わせて奴隷たちが走って入る。
先頭の人間は、先に攻撃されたのか、もう動かない。

そんなことを言っている間に、自分たちに襲いかかってきた者がいる。
すぐさま、そちらに向き直り、盾を持っているグリーが前に出る。

剣と盾が弾き合う音が聞こえる。
しかし、2、3合打ち合ってから勝負は決した。

ガン!!

グリーが一気に距離を詰め、もう片方の手で剣を持っている片手を掴み、盾で思い切り、殴りつけた。
相手は急な攻撃に体制を立て直せず、剣を奪われ、切りつけられた。
手錠の鎖が長めに作られているのが、功を奏した。

それからも次々と掛かっていくグリー。

しかし、リザードマンのキースを気遣うことは忘れてはいない。
戦っている最中に、後ろから来られた敵の攻撃を防ぐため、間に割り込んだり、攻撃が躱せそうになかったら、鎖を思いっきり引いて遠ざけたりした。

戦いは勝利に終わり、観客が大歓声を上げた。
そんな大歓声を上げている最中、冷静にグリーを見ている人間がいた。
行商人の男、プロキシマだった。

「さっきは助けてくれてありがとう。」

椅子に座ってボーっとしていると隣にキースが座ってきた。

「しかし、随分と戦い慣れしている。どこかの兵士だったのか。」

「・・・そんなところです。」

「もしかして、敗残兵?」

「・・・・・・・そんなところです。」

それっきり俯くグリー。
しかし、どうしても話したいのか、その場を離れようとしないキース。

「もしかして、何かやらねばならないことでもあったのか?」

話をするために、そんなに考えないで話題を振ったキースだが、それに反応して顔を向けたグリーの表情に、驚きを隠せなかった。

『どうして、こんな眼を出来るんだ?まるで何か恨みを持っているような・・・!』

そう考えて、キースはハッとした。
自分はなんて愚かなのだろうと。
考えもせずに口にしたことを公開した。
少し居心地が悪くなり、俯くキースの肩にポンと手が置かれた。

「気遣ってくれてありがとうございます。自分は大丈夫です。」

そう言って、グリーは笑って答えた。
その時の眼は、あの眼ではない。

「あ、あぁ、私たちは共に戦った仲だ!気遣うのが当然だろう!」

と、少しずつ話題が増え、それに答えてくれることに喜びを感じていた。
本人は戦友のため、などといっていたが、内心はそうではなかった。

『まさか、こんなところで私の理想どストライクの男性を見つけるとは!人生(?)は何があるかわからないな!しかし、彼には私がついていなければ。恐らく、自分から茨の道へ突き進むだろう。そうなっては【元】には戻れない。そうはさせない!』

どんな状況下でも自分の本能に忠実に生きる。
魔物娘の強さはここにあるのかもしれない。

「おい!そこの!主人がお呼びだ。来い。」

衛兵らしき兵士が、グリーを呼んだ。
グリーは面倒くさそうに立ち上がると、素直について行った。

「グリー・・・・。」

キースの不安そうな声には、グリーは答えなかった。
13/10/18 23:35更新 / 心結
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■作者メッセージ
展開が唐突で何が何やらw

少しシリアスが続きます。

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