連載小説
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命のやり取りとは
3日後
また新たな試合があるということで、多くの観客がひしめき合っていた。
しかし、試合があるというのに、奴隷たちは準備をさせられていなかった。
周りで、どうしたのだろう?と話をしている時に、試合を開始するラッパがなった。

奴隷達は、スタート地点から柵を通して見ることができ、そこにも勿論キースがいた。
しかし、いるはずであるグリーがいない。
キースの不安は、ここで現実のものになってしまう。

『『『『殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!』』』』

この歓声は、もう始まるという合図だ。
広場では戦うであろう、変な兜をかぶった男たち6人。

バン!

もう一つの入口が開き、そこに立っている男はグリーだった。

「グリー!!」

思わず叫んでしまい、周りの視線を受けてしまう。
しかし、そんなことを気にしている余裕はない。
すぐ近くにいた男の胸倉をつかみ、叫ぶ。

「どうしてグリー・・・あの男があそこにいるんだ!!しかも一人で!!」

キースの剣幕に押されたのか、おどおどしながら答えた。

「そ、そんなの知らねぇよ。ただ今日は試合があるが、俺たちは出なくていいって。」

くそっ!と吐き捨て、胸倉を掴んだ手を離した。
主人の男の差金か。
今は奴隷の身だが、自分の惚れた相手を死なせたままでは気がすまない。
自分の命を捨てて、あの男に報復してやる。

キースの胸に黒いモノが立ち込めようとしたとき、歓声が一気に静かになった。
不安になり、すぐさま奴隷達を掻き分け、自分も見える場所に移動する。

無事であってくれ!!

神にすがる気持ちで、戦いの場を見ると、予想外のことが起きていた。
キースの望んだ希望ではあったのだが、その希望が薄かっただけに、喜びは一段と大きかった。

「グリー!!!」

彼は、6人の男たちを倒してその場に動かずに立っていた。
その右手には血まみれの剣が。

喜んでいたキースだが、グリーの眼を見て不安がこみ上げてきた。

グリーはあの時と同じ眼をしていたのだ。
恨みを抱いた冷たい眼。

そんな眼をしたグリーは静まり返っている周りを見回すと、おもむろに手に持っていた剣を観客席に投げた。

ガチャンという音と共に、再びグリーに視線が集まる。

「なぜ喜ばない!?なぜ歓声を上げない!?楽しみに来たんだろう!?」

グリーの叫びに近い大声に、周りが未だ静かなところが、徐々に歓声を上げ始めた。

『『『『グリー!!グリー!!グリー!!グリー!!』』』』

グリーの名前を上げる大歓声に変わったが、その歓声を上げた観客席を一瞥してその場をあとにした。

出口の近くにはプロキシマがいた。

「お主に話がある。ついてこい。」

プロキシマの後を衛兵とともに歩かされた。


「お主は何を望んでいる?金か?力か?名誉か?はたまた女か?」

部屋についてすぐプロキシマが話し始めた。
話の脈絡に、意味がわからなかったグリーはイライラしながら答えた。

「何の話ですか?」

「お主は強い。まるで、自分から戦いを欲しているかのようだ。しかし、まだまだだ。」

「殺してくれと言われたから殺した。」

「確かにそうだ。しかし、殺すだけじゃダメだ。それだけでは観客に好かれない。戦いとは好かれなければならない。観客の心を掴め。別に好かれる殺し方をしろと言っているわけではない。戦い方を考えろと言っている。」

「・・・・・・。」

グリーは黙ってその話を聞いていると、プロキシマは自分の話をし始めた。

「ワシは・・・元剣闘士、奴隷だった。」

「なに?」

「ワシは戦いに戦い続け、最後の戦いで勝利し、領主の手が肩に置かれ奴隷から解放されたのだ。」

「何?領主様が?」

「今の領主にだ。前領主にではない。」

聞くには、今の領主、シーカーは大々的に自分の国でやっていたのを、自分が領主になってからも本拠地で試合を催しているという。

「ワシは自由になってから、木の剣を授与された。お主らが使っている木剣ではない。特別な木剣だ。木剣は昔、自由の象徴でもあったらしい。」

木の剣を眺めていたプロキシマは、グリーのつぶやきが耳に聞こえ、そちらの方に顔を向けた。

「・・・・自分も本拠地に行きたい!大舞台に立って見たこともない試合を見せてやる!!」

「そうか。また、あの大舞台へと向えるか。こんな小さい試合ではない、あの大きな舞台へ。そうと決まれば準備だ!衛兵!!」

プロキシマの笑い声に背中を押されながら、奴隷の寮へ向かった。
グリーは、本当に戦いたかったわけではない。
全ては復讐のため、そして、領主を殺すためだった。

奴隷の寮に帰ってきてすぐ、キースが駆け寄ってきた。
少し話がしたいらしい。

今は自由時間。
奴隷の寮には屋上があり、その屋上から夕日が見える。

「あの男に何を言われたのか気になってな。」

「あぁ、そのことなら気にする必用はないですよ。ただ単なる次の試合のことです。」

少しキースが黙ったあと、不意にグリーの顔を見つめた。

「・・・・・グリーは、もしかして復讐とか考えているのか?」

「・・・・!」

話したことはないのに、自分の本当の目的を見抜かれた。
そのことに黙っていると、やっぱり、と言って話を続けた。

「あなたの戦っている時の眼は本当に怖かった。まるで、自分から戦いを求めているかのように。」

グリーは黙って聞いた。

「私はこれでもいろんな人を見てきた。安寧を求める人、武を極めんとする人、趣味に明け暮れる人、いろんな人がいた。その中に・・・。」

涙目になりながらでも、グリーから目を離さずに言った。

「目的に埋もれて潰れていった者も大勢いた。グリーにはそうなってほしくない!復讐をするなとは言わない。でも、グリーが【元】に戻れなければ、意味が無いんじゃないかって。」

グリーは衝撃を受けた。

そうだ。
自分が戦いの中で、命のやり取りをする場所だからといっても命を蔑ろにしたことは一度たりともなかった。
それなのに、自分は、今日戦った男たちの命を奪っても何とも思わなかった。
まさか、そのことに気がつかされるとは。

「それに、私だって、あなたのことがすk・・・・いや、すごい尊敬してるのだ。そんな人がダメになっては勿体無い!」

自分の本音を漏らしかけて、焦りつつも言い直せたことに一安心。
グリーも、それには気づいていないようだ。

「ありがとうございます。おかげで目が覚めたように思います。」

お礼を言うグリーの顔は、以前のように陰りのある眼では無かった。
優しい、親しい仲にしか見せない爽やかな笑顔だった。

「///////////////////」

キースはその破壊力のために、押し倒しそうになったが、なんとか踏ん張った。
ここで押し倒してしまえば、重荷にならないように気を使ったのが、意味がなくなってしまう。

もし自分が無事で、なおかつ奴隷から解放されたら、グリーを連れて故郷に帰るのもいいな、と魔物娘らしい心の強さを発揮して欲望を膨らませるのだった。

「・・・・・・なぜか寒気が。」

グリーに寒気が襲うほどの欲望だったのは、ここだけの話。
13/10/20 06:54更新 / 心結
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■作者メッセージ
とりあえず、わかったことが一つ。

ノリと勢いだけで、やるもんじゃないなぁとww

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