連載小説
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エピソード7、時の眠る園
王魔界の広大な大地と山々、それを揺るがす巨大な影達が交差する。

「ィィィィィヤアッ!」
「ッゴオゥ!?」

タロスの巨体が宙を舞い、そのまま岩山の岸壁に叩き付けられる。
ビッグシルバーの正拳突きで一気に吹き飛ばされたのだ。
その一撃は、ただの大質量攻撃というだけでなく、
インパクトの瞬間に魔力を腕にエンチャントする事で破壊力を上げていた。

「ふん、文献通りだな。彼は攻撃と防御の際、
魔力で腕をコーティングしている。人間や魔物にも同じような運用をするものはいるが、
あのサイズでそんな小細工までするかよ。」
「劣勢なのにうれしそうですね。マスター。」
「劣勢? まだまだこれからだよエンブリオ。タロス、翼を出せ。」

タロスは青銅色の巨体を震わせ立ち上がると、
肩と背中のアーマーを展開し、機械的な翼を出現させる。
翼にはびっしりと風のルーンが記され、
また内部機関は周囲の魔力を風と共に取り込むことで、
半無尽蔵に燃焼物質を生成、動力として噴出する魔術式が組まれていた。

爆風と爆音を響かせながら、タロスはその巨体で大空を舞う。
「爆撃しろタロス。灼岩の青銅(カルコス・ラヴァ)」
タロスの胸部が開き、そこから燃え盛る巨大な金属片が次々に打ち出される。
それは飛行のために作られた燃焼物質の残りかすであり、
高い硬度と不安定で爆発するという特性を持った未現物質である。
タロスはそれを体内で生成し、貯蔵することで炸裂弾へと転用できるのである。

上空からの灼岩弾に対し、ビッグシルバーは人差し指と中指を立て。
そのまま腕を上空へと突き出した。
すると指先から青白いスパークが走り、そこから細短いビームが発射される。
細いといってもサイズは巨人のそれ、直系は1mにもいたろうという大口径のビームだ。
そのビームはタロスの灼岩弾二・三発を巻き込み相殺する。
ビッグシルバーはそのビームを腕を交互に前に突き出す形で連射した。
射線上の灼岩弾は空中で全て爆砕され、ビッグシルバーの周囲にのみ降り注いだ。

「魔術式もへったくれもない。ただ魔力を純粋にエネルギーとして打ち出す。
原始的極まりない。だがやはりあのサイズでやられると兵器だな。
ふふふ、ぞくぞくするなあ。やはり貴殿は最高だぞジャック。
タロス、ロードス機関始動だ。出し惜しむな!!」
「ヴァッ。」

シェムハの指令にタロスが吠える。
空中で静止したタロスは突如その体を赤く光らせる。
そして姿がじりじりとぼやけ始めた。
それは陽炎、タロスの発する高温が大気を歪めているのだ。

「この状態では長くもたん。一気に決めるぞ。」
「ゴオゥ。」

タロスは太陽のように光と高温を纏い、周囲を焼き照らす。
「赤き陽神(ヘリオス・エリュトロン)モード発動、突っ込めタロス。」

Drは何時の間にか宇宙服のような耐熱服を着込み、
その内側から魔術無線でがなり立てる。

タロスは両腕から内部の熱を解放し、レーザーのような熱線として撃ち出した。
初弾、ビッグシルバーはその巨体を感じさせぬ軽やかさで宙返りしやり過ごす。
次弾、弧を描くように右腕を回し受けて弾き飛ばす。
三・四 左腕でも同様に弾き、さらに続く熱線を両掌で真下に叩き落した。
弾かれた弾は周囲を吹き飛ばし、燃え上がらせる。
空手の受けの演武を思わせる動作でことごとくタロスの熱線を弾いていく。

シェムハは爆風で吹き飛びそうなところを、
がっちりエンブリオに抱えられて固定されていた。


だが、弾かれながらも間合いを詰めたタロスは、
身を傾け滑空して突っ込んできた。
一気に加速してタックルを仕掛ける。
落下を利用したそのスピードにビッグシルバーも対応が遅れる。

二体の巨体が交差し周囲に地響きを打ち鳴らす。

「ヘアッ!!」
「ゴオオオオッ。」
「捕らえたぞ。そのまま焼き尽してしまえ。」

タロスに捕まり、そのまま鯖折のように抱えられるビッグシルバー。
溶鉱炉のようなその超高体温はビッグシルバーといえど無事ではすまない。
体を引き抜こうと掴みかかるが、その高温ゆえまともに掴む事も出来ない。

「ジャッ!!」
独特の叫びをあげ身をよじるビッグシルバー、
タロスはその両手を彼の背の後ろでがっちりロックしますます力を込める。


一方、遥か前方


其処では巨人が一人でダンスをしている。
いや、一人ではない。相手が小さいのでそう見えるだけだ。

まるで生きた砲弾のように突っ込みその巨体を揺らがせるシュテン。
だが負けじとゴリアテも怪力と正確さを合わせた一撃を叩き込み、
シュテンを砲弾のようにふっ飛ばし返す。

すっ飛んで岩山と大地を砕き砕き、狭く深い溝を形成してようやく止まるシュテンの体。
埃っぽい体を叩いて立ち上がると、プッと赤い血の混じった唾を吐いて一息つく。
「やれやれ、わしとステゴロのゴンタで此処まで渡り合うたあ。
やるじゃないか最近の若いのにしては。ストクのアホとやりおうた時以来の胸の高鳴りぞ。」

だがゴリアテは知らん! と言わんばかりに突っ込んできて巨大な拳を振り下ろした。

三機のグランギニョルはそれぞれ性能が違う。
同じ型の機体を量産した方が効率的だし連携も取りやすい。
そう進言したエンブリオに対し、特化機体の方が燃えだから却下・・・
とシェムハはにべも無かったのである。

そしてゴリアテの性能は格闘戦特化である。飛び道具無し。飛行能力無し。
だが三機でもっともパワーと頑強なボディを供えたのがゴリアテなのである。
重い体を強引に脚力で浮かせて駆けるゴリアテ。
その脚力と重量と腕力、全ての乗った一撃、

比べればまるで蟻のようなシュテンは、その一撃に対し避けも逃げもしない。
それどころかむしろ自分から突っ込んだ。抱えるように親指の間接を掴むと。
「一本っっ!!」

大またに開いた両脚を地面に深く打ち込み。そのまま腕と全身を捻(ねじ)り捻(ひね)る。
地面に打ち込まれるはずだった力のベクトルを絶妙のタイミングで前方に歪ませる。
まるで独りでにけっつまずいたようにゴリアテは一回転し、
その巨体を背中から地面に打ち付けられる。

「フンッ。」
間髪いれず両脚を強引に引き抜き跳躍、
後方の岩山の壁を大きくクレーター状に陥没させ己が肉体を発射。
そのまま全身ごとの頭突きを鳩尾の位置に打ち込むシュテン。
ゴリアテの巨体がくの字に持ち上がる。

「ゴオオオオオオッ。」
苦しそうに声を上げるも、ゴリアテもすぐさま反撃に転ずる。
突き刺さった形のシュテンを握りこむと、メンコを打ち付けるように地面に放る。

「ぐがっ。」
肺から空気を絞る出されるシュテン、その眼前にゴリアテの顔面が迫る。
お返しのつもりか、ゴリアテは土下座でもせんばかりの体勢で,
地面ごとシュテンに頭突きを打ち込む。
一撃・二撃・三撃四撃・・・執念深く打ち込まれる連続の頭突きに次第にめり込むシュテンの体。

パンチドランカーの如く、打たれ過ぎてふわふわし始めた思考の中、
シュテンはあることを考えていた。

(ムキになっとるなあ、一体どうした?・・・痛かったとか?
カラクリ人形風情が痛み?・・・さっきの頭突きか・・・腰の辺りに何か弱点でも?
いや、そもそもこいつは一体・・・巨人やゴーレムなら何故に娘化せんのか・・・
ドラゴンのように・・・いや、だったら戦う時だけ巨大化すれば良い話で・・・
・・・ああ、そうか、こやつら・・・面白いことを考えるな、あのシェムハとやら・・・)


戦場の上空


大輪の花のような爆発を次々に咲かせ、その間隙を赤い巨竜が飛び抜ける。
普通の人間なら呼吸も不可能なまま吹っ飛ばされる。
そんな風を切りつつ空を飛ぶシーラ、彼女は口を大きく開け放つ。

王魔界の濃厚な魔力と酸素と水素、それを大量に取り込みつつ体内での燃焼の助けとする。
そして自身の魔力で炎の出力と形を制御して彼女は炎の砲弾を口から撃ち出す。
長い首を巡らせ砲塔のように地上のスプリガンにピタリとロックし発射する。

一撃打つごとの反動を首で受け流しつつ、正確に炎弾はスプリガンに吸い込まれていく。
だがスプリガンは回避行動を微塵も起こさない。その両手を前方にかざして終わりだ。
掌の中央には大きな宝石のような物が埋まっている。
それが光り出すと、空中にまるで波紋もような揺らぎが発生する。

三発の攻撃は全て着弾、しかし右手の揺らぎの前に消滅させられた炎弾は、
そのまま左手の揺らぎからまったく同じまま飛び出て打ち返される。
それを難なくかわすも、シーラは苦虫を噛み潰した表情だ。

(ポータルのような空間魔術を再現する装置か、防御に転用するとはな。)

そうして攻撃の手が止むと、スプリガンは脛、肩、胸部と全身を展開し、
そこから様々な兵装をシーラに向かって撃って来る。
肩の魔導レールカノンが魔界の空を割き、
胸部からは魔導半生態誘導弾等弾をピラニアの群れように放ち、
脛や腕からは魔界鋼の槍を雨のように降らす魔界フレシェット弾を打ち上げる。

シーラはレールカノンをかわし、誘導弾の群れを炎のブレスで薙ぎ払い、
さらに雨のように降り注ぐ槍を全身の鱗に魔力を帯びさせ勢いよく空中で回転することで
魔力で強化された鱗の硬さと丸みを利用し振り払った。

(くそう、目が回るからやりたくないのだがなこれは・・・このままでは埒が明かんか。)

スプリガンの戦闘スタイルは砲戦型、遠距離での打ち合いには無類の強さを発揮する。

「中々やるな屑鉄、貴様のその両手は厄介だ。だが一体どこまで反射出来る?
どこまで吸収し続けられる? 根競べといこうじゃないか。」

空中から舞い降り、地上に四肢を下ろしたシーラは、
そう言うと首を煙突のように上空に伸ばし口を開ける。
先ほど同様に大きく魔界の大気をその身に吸い込み始める。
その勢いと量は凄まじく、スプリガンの巨体が起きた風で少しずつ引きづられる有様だ。

その巨体を遥かに凌ぐ量の大気を体内に蓄え圧縮し、融合し、全身と内臓の筋肉を動員し、
シーラはその大口径の口を割かんばかりに開けて吐き出した。

「帝竜息(ドラゴンブレス)!!」
シュゴゥッ!! 炎の息というには余りの出力。
サイズこそ桁違いだが、それは扉を焼ききるためのガスバーナーを髣髴とさせる炎だ。
白く発光する炎の大剣、それがスプリガンの空間の盾に深く突き立った。

周囲の大気から急速に酸素が減少していく、燃焼という現象の極地とでも言うべき事象。
シーラの口腔から吐き出されるそれはしばしその状態を維持し、
膠着状態に陥ったともいえた。だが先に変化が現れたのはスプリガンのほうであった。
大規模空間魔法により焔その物を飛ばし続けたスプリガンであったが、
発生する熱量全てを飛ばすことは叶わず、
スプリガンの周囲は紙や木が自然に発火するほどの温度となっていた。
さらにディメンジョンシェードシステム、その連続使用で内部からの発熱が重なり。
スプリガンのディメンジョンシェードシステムはオーバーヒートし始めていた。

「ヴァウウウウ。」
スプリガンは唸ると、両手の次元の盾を格納せざるをえずしまう。
シーラの竜息にそのままその身に晒した。

時間にして十秒ほど、スプリガンの身は白き焔に晒される事となった。
シーラの口からもガス欠となったのか、炎の帯が止まる。
煙を白く上げ、スプリガンはその身を黒焦げにしてがっくりと崩していた。

「フン、原型を留めたままか、まあよくやったと褒めてやるべきか。」
シーラは鼻を鳴らし、夫の方に注意を向ける。

「・・・ちっ、苦戦しておるではないか。仕方の無い奴め。」
シーラは飛び立つとビッグシルバーと組み付くタロスの元へと向かった。

赤熱の巨人に組み付かれる銀色の巨人。
その上空に赤い竜が姿を現す。
「シーラ様ですね。スプリガンは敗北したということでしょうか?」

上空から見下ろしながらシーラは半ギレしていた。
「貴様、一体誰の物に気安く抱きついている。
英雄殿も英雄殿だ。先ほどから貴殿は隙がありすぎるぞ。
もっと我の所有物である自覚を持てド阿呆。
それとも久しぶりの鉄火場で勘が鈍ったか?」

「ヘェエアア。」(なあに、体がようやく暖まってきたところだよ。)
「なら良い、早く振りほどいてしまえ。」

そんな二人の様子を見ながらDrシェムハは笑う。
「油断大敵だぞ赤き滅びよ!」

閃光が空を引き裂き、シーラの翼に大穴を開ける。
「ぐぅう。」
シーラは首を巡らすと、閃光の発射元を探す。
それは沈黙したと思われたスプリガンであった。

魔導レールカノン、
魔術式によって摩擦や熱発生等、諸所の問題をクリアしたその兵器。
強力な運動エネルギーと熱を伴うそれが彼女を狙撃したのだ。

「ヘアッ!」(シーラ!)
「我の吐息に耐えただと? くそう。」
墜落して地響きを立てるシーラ。

「カカカ、スプリガンは遠距離特化、ドラゴンブレスも当然懸念すべき攻撃よ。
アレの体の魔界合金は超耐熱使用であるのみならず。
凍り魔法の術式をルーンで掘り込んである。
体内の魔力を使用し急速冷却が可能なのだ阿呆め。伊達に貴様の相手を指名しとらんわ。」

ビッグシルバーは体が焼付くのも構わず。
強引にタロスの両腕を魔力をエンチャンとした肘鉄で解き放ち。
シーラのもとへと駆け寄った。

「大事無い、飛べなくなっただけだ。」
シーラのプライドがその身を長く横たえる事を許さない。
何よりジャックの前で恥を掻かされたことが彼女は許せなかった。

(大した才能だ。専用の対策をしているとはいえ、
ドラゴンの中でも最上位クラスといっていいシーラのブレスを耐えるとはね。)

「ジャック、少々大人気ないかもしれんが、アレをやるぞ。」
「ジュワッ。」(・・・えっ、しかし。)
「しかしも案山子も無い。見せ付けてやらねば気が済まん。格の違いを。」
「・・・ヘエエエッ。」(はいはい・・・)

こうなったらシーラは譲らない。長い付き合いで察しているジャックはすぐに折れた。

スプリガンも追いついてきて戦場には四体の巨体がその威容を晒していた。
「2on2か、まあそれでも構わんぞ。あと一息だ。やってしまえお前達。」
シェムハの声に答え咆哮を上げる二体のグランギニョル。

「残念だが、もう貴様らのターンは終わりだ屑鉄。」
そういうとシーラは再び周囲の大気を吸いブレスの発射体勢に入る。

「やらせるな、お前ら。」
吸い込まれそうなりながらもエンブリオに捕まり命令を飛ばすシェムハ。

「遅いわ。」
だが、先ほどと違い今度の吸い込みは時間が短い。
シーラはその首先をグランギニョルでなく、ビッグシルバーの方へと向けて口を開けた。

シュッボオゥッッ! 究極のドラゴンブレス、それが今度はビッグシルバーに撃ちつけられる。
普通であればその巨体が吹き飛んでも不思議は無い代物だ。
だが、その炎の大剣はビッグシルバーを焼きも吹き飛ばしもしなかった。
天と地に手を構え、その両腕の間に炎がまるで導かれるように集まっていた。

「なんだと?! あれは・・・データに無いぞ。」
「シーラ様とジャック様の魔力の同期を確認しました。」
「同期だと・・・成る程、そういう・・・まずっ!」

ドラゴンブレス、それは炎の形態をとっているが、
つまるところ発射したドラゴンの魔力である。
体内で魔力と炎をミックスし意のまま操ることで、体内や口内が焼けることを防ぐなど、
様々に自分に都合の良いように操る事が可能なのである。

そして夫婦で長年交わってきた二人には、
交わりの中でほぼ同質の魔力が流れていた。
そんなジャックはシーラの魔力であるそのドラゴンブレスを、
我が物のように取り扱う事が出来た。
彼女の体内で練り撃ち出したそれを、
再び彼の内臓する魔力を上乗せして練り直し撃ち出す。

それはもはや燃焼の域を超え、プラズマ化してその両手の間でスパークする。
二人の魔力を凝縮させたそれはブレスとして放つシーラの攻撃の数倍の威力を秘めていた。
「ズェアァ!」(バーニング・プラズマ!)

青白い閃光と化した大口径プラズマエネルギーは、
二本に分かれるとそれぞれ一瞬でタロスとスプリガンの頭部を消滅させ、
地平の彼方へとそのまますっ飛んでいった。

ビッグシルバーは、胸部のランプを白く点滅させ、両肩から力を抜いた。
その隣にシーラが寄り添い警告する。
「まだ終わってないぞ。油断するな。何故全身を吹き飛ばしてしまわなかった?」
「ヘェエ。」(いいや、もう終わりだよ。)

Drシェムハは呆然と立ち尽くすと、がっくりと膝をついた。
「負けた・・・偉大なる私の成果が・・・」
「マスター、まだメインカメラがやられただけです。
戦いは続行可能だと進言いたします。」
「判らんのか? さっきの攻撃で胴体を根こそぎ消滅させる事も出来た。
なのに彼はそれをしなかった。操者の命をおもんばかっての事だろう。
その上で戦いを継続するということは、人質を取って戦っているに等しい。
正義とは程遠い下衆の所業だ。そんなことを私にしろというのかね?」
「・・・了解いたしました。操者の方々はリンクを解除し降りてください。」

エンブリオの指示によってグランギニョルの腰部、
其処が展開していき球状の物体が姿を現す。
それはジェル状の液体を吐き出しながら開くと中から人影が姿を現した。
体にピッタリとした伸縮性の生地で全身を覆い、
その表面は耳無しほういちのようにルーンでびっしりである。
彼らはそれを素早く脱ぎ去るとほぼ下着だけの姿を晒した。

ジャックとシーラも人間大の姿に戻るとDrの所へと歩を進めた。
「やはり人が乗っていたのですね。彼らは勇者ですか?」
「ああ、あの特殊なゲルで振動や負担はかなり低減されているが、
それでも並みの人間に耐えられる操縦負荷ではないからな。
勇者を募って機体と相性の良い奴を訓練している。」

ジャックとシェムハはある程度解っているどうしで会話するが、
シーラはついていけずにジャックに説明を求める。
「ゴーレムかと思ったら人が出てきおった・・・英雄殿?」
「あれはゴーレム未満、恐らくゴーレムとして完成された体を、
命令式であるルーンに代わり、ああやってルーンでゴーレムとリンクさせた勇者が操る。
そういう兵器ですね。分類上は馬鹿でかいしハイテクですが鎧といっていいかと。」
「何だってそんな面倒な事をする。普通にゴーレムを造ればよかろう?」

そんなシーラの言葉を聞き、シェムハは子供のように拗ねる。
「もうやったわ。自立稼動する正義の巨大ゴーレム。
それが私の造ろうとした本来の作品だ、だが結果はご覧の有様だ。」
「いえーい。」
無表情なままピースをするエンブリオをシェムハは指差す。

「ボディの製作まではまったく問題が無かった。
しかしルーンを組み、いざ動かすと魔王の魔力の影響で縮んで娘っこになってしまうのだ。
絶望した。燃えが萌えに転化されてしまうこの世界に絶望した。
だが腐っていても始まらん、私は方法を模索しついに現在のグランギニョルを完成させた。
人が乗り込み操る巨大な鎧、魔物と認定されないギリギリのラインという奴だな。」

そんな会話を続ける彼らの耳に地響きが聞こえ、体にも揺れが響いてくる。
ゴリアテが山の向こうからその姿を現しこちらに移動してくる。

「ぬう、あの二本角め、おくれを取ったか?」
「・・・いや、そうじゃない。」

ぐったりとして動かぬゴリアテを、足の裏から両腕と全身を使って支え歩いてくるシュテン。
あまりに小さく遠目からはゴリアテが歩いているようにしか見えないが、
確かに豆粒のような彼女が確認できた。

「完敗か。出直しだな。」
「マスター・・・」

ゴリアテを開けた平野に下ろし、一ッ跳びで合流したシュテン。
「負けたかと思うたぞ二本角。」
「フン、貴様こそ風通しのよさそうな翼になったな。くーるびずってやつか?」
「まあまあ、僕もシーラが来てくれなきゃ危なかったし、強敵だったのは確かだよ。」
「確かに、わしも中に人がおることに考えが及ばねばもっと苦戦しておったわ。」
「へえ、気づいたんだ。でもそれでどうやって勝ったんだい?」
「ジパングには古来より様々な武技が存在する。
素手で甲冑を着込んだ相手を倒したり内臓を破壊したりと言ったな。
それをわしの怪力を持ってみまってやったのよ。
差し詰め、鎧通し・鬼式といったところかの。」
「中の勇者の方を気絶させちゃったわけか。」
「本来わしの好みの勝ち方ではないがな、
まあこれを使わせたこやつは間違いなくつわものであろうよ。
久しぶりにわくわくしたしな。」

好みでないと言いつつ機嫌の良いシュテン。
エンブリオは作品が全敗したからか大人しいシェムハの心持を気づかうが、
どう接してよいか解らず黙って立ち尽くしていた。

シェムハはごそごそと懐からぼろぼろの絵本と筆記用具を取り出した。
「ん・・・それは。」
「おう、我と英雄殿の馴れ初めを書いた絵物語ではないか。」
「その・・・だな・・・」

彼にしては珍しく歯切れの悪いシェムハ。
「さ・・・サインを・・・」
「・・・僕にかい?」

コクコクと頷くシェムハ・・・
大人しかったのはどうやら憧れのヒーローを前にして緊張しているだけ、
それに気づき、エンブリオはその顔を珍しく笑顔にした。
「敗北し任務にも失敗、教団がパトロンを続けてくれるか怪しい状態ですが・・・
マスターが楽しそうで何よりです。」


※※※


空中で対峙する二人の白翼を持った女性。
もっとも片方の翼は猛禽類のそれを思わせる天使の翼。
片方は色こそ純白だが蝙蝠を思わせる悪魔の翼だ。

殺気を放ち睨み付ける天使のノフェルと微笑しながらそれを受け流すデルエラ。

「大したものです。悪魔でありながらその神族にも匹敵する力。
一体どれ程の人間から精を吸ったのです?」
「あら? 聞きたいの? うふふ、初体験から順に赤裸々に語ってもいいわよ♥
でもすこ〜し長くなるからドリンクとお菓子でも用意するといいわね。」
「皮肉だこの売女が。汚らわしい悪魔め。」
「ええ、知ってるわよ。」

けろりと言い返すデルエラに対し、ノフェルはますます目を三白眼にして睨む。

「もう、駄目ね。せっかく綺麗な顔してるんだから・・・
そんなに眉間に皺をよせたら台無しよノフェル。」
「貴方達、もう彼らへの加護の付与は終了です。全ての加護を私に集中しなさい。」

背後に控えていた数十人の天使の一団は、今までとは違う音色の歌を戦場に響かせる。
地上で拘束されている百名余りのベルセルク達に行っていたブーストを、
元々強いノフェル一人に集中する。それによりノフェルの魔力は更に飛躍的に上がる。

地上で治療に専念していたウィルマリナ達であったが、
その強大な魔力に驚きを隠せていない。

「・・・強い。」
「ちょっと、あんなの有り?!」
「天使様は元々下級とはいえ神族です。
種族的にも魔物達の中では上位と肩を並べる力を持っています。
さらにあのノフェルという天子様は元々力を持った方の上、
他の天子様達に加護をつけてもらって強化している様子。」

ウィルマリナとミミルの言に対し、元シスターのサーシャが補足を入れる。

「ふ〜、まいったね。ありゃ今の私達じゃ全員束になっても勝てそうにないな。」
サーシャに治療してもらいながら、メルセはこらあかんといわんばかりにこぼす。
だがその顔には暗さや絶望は微塵も感じられない。それは他の皆も同様である。

「あのレベルじゃもうどっちが上か私達には知るよしも無い。」
「それでも・・・まあ想像できないよね。」
「ええ、あの方が負けて地に這う様など・・・」
「デルエラ様が任せろっつったわけだし、あたし達は此処で見物と洒落込もうや、
滅多に見れないからなあ。あの方が前線で戦う所なんて。」

「問題です。私の好きな事は何でしょう?」
「・・・どうせ性交あたりでしょう。」
「ぶっぶ〜、間違いではないけど、
淫魔にその答えを許したら問題にならないわ。ということで不正解。」
「そうですか・・・」

戯言を、と言わんばかりにノフェルは次のデルエラの言葉を待たずに仕掛ける。
左手から閃光魔法を放ち、
また空間に舞う羽根に反射させて光のシャワーをデルエラに投げかける。
それと同時に自身も光の剣を右手に間合いを詰める。
その動作はまさに閃光。自身の速度も加護による強化で上昇している。

だが、対するデルエラの動作は緩慢にすら見える。
空中に魔力で黒い椅子のようなものを形成し、其処に座ったまま腰を上げようともしない。
「見えてるわよ。それ・・・」

スッと左手を上げるデルエラ、それと同時に周囲に黒い球体が複数形成され、
それがギョロリと目を剥く。さらにその眼は一瞬めまぐるしく動くと、
揃って動き始めノフェルの放った閃光をことごとく遮る。
それだけではない。光の矢のように迫り剣を打ち下ろすノフェル。
その右手首をデルエラは最低限の動作で左手で捕まえていた。

「なっ?!」
「ああん、せっかちねえ♥ 問いの答えは見る事。観察が趣味なのよ私。」
「・・・何を言ってる。貴様。」
「貴方を一目見て思ったわ。強いわって・・・まだうちの子達じゃ厳しい相手ねって・・・
それが解っていて何故私はウィルマリナ達を貴方とやらせたと思う?」
「見切ったとでも言うつもりか・・・ふざけるな! あんな・・・あんな少しの攻防で。」
「なら試してみると良いわ♥」

折角掴んでいた手首を自分から離すデルエラ、ノフェルは再び閃光魔法を放つ。
この攻撃の強みは距離を問わない事でも有る。上下と背後から反射した閃光魔法で攻撃しつつ、
ノフェルは右手の光剣を全力で振るい、前面からは自身が斬りかかる。

デルエラも今度は腰を上げ自らが動く、だが先ほどのように黒球を使った防御を行わない。
その身一つを空中に躍らせて全方位からのレーザーと斬撃を避ける避ける。
光の剣と光芒が舞い、その身を躍らせ照らされるデルエラは、
薄暗い魔界の空においてクラブの壇上で照らされながら踊るダンサーを髣髴とさせる。
その抜群のスタイルと衣装も合わさりとてもセクシーな様相を展開する。

そんなデルエラの姿を地上から見上げる乙女達。
「綺麗・・・」
「ああ、やっぱり見る価値大だったな。」
「お兄ちゃんに見せて上げられないのが残念。」
「ああ、神々しくも淫らで・・・デルエラ様。」

四人とも顔を上気させてデルエラの戦いを見守る。
対照的に剣を振るうノフェルの顔色は真っ青だ。

「そんな・・・」
「言ったでしょう? 見えていると・・・その羽根、
閃光を反射するものと拡散するものの二種類あるわよね。
似てるけど微妙に形状に差異がある。
それさえ解ればあとは貴方が最初に撃った射角と周囲の羽根の位置から、
攻撃の軌道もタイミングも手に取るように解る。
貴方の剣も、その実直な性格を反映してか素直で解り易い剣筋だわ。」

ノフェルは蒼白なまま沈黙を貫く。
それはデルエラの言が図星であることを逆に応えているも同然であった。

(ありえない。一・二度見せただけで其処まで把握された。
あれの射角から攻撃を読むなんて、使い手の私にさえ出来ないのに・・・
ありえない。有っていいはずが無い。こんなこと・・・)

「お前達!!」
ノフェルが剣を上に掲げると、天使達が再び閃光魔法をその剣に集中する。
しかも今度は一人当たり何発も何発も、概算にして数百の閃光魔法をその剣は吸い取り。
肥大化しようとするところを、大剣クラスのサイズにノフェルは収束させる。
ウィルマリナの剣を豆腐のように抉ったそれより、さらに強化した光の剣。
サイズこそ大剣サイズだが、ノフェルが一度それを解放すれば。
その光りは大地と天を穿ち
、野山を広範囲にわたって吹き飛ばす程の高密度のエネルギーの塊だ。

流石にそれの制御には両手を使わねばならず。大剣を彼女は両手持ちしていた。
それは閃光魔法が使用できない状態になることであったが、
彼女はすでに見切られたその攻撃を捨て、この攻撃に全力を注ぐ。

「あら素敵♥、太くて長くて熱くって。」
「私の奥義、浄剣 楽園(ガン・エデン)。如何に貴様とてこれを喰らえば・・・」
「どうなっちゃうのかしら。わくわくするわ。」

あくまで楽しそうな姿勢を崩さないデルエラ、鬼気迫る表情のノフェル。
「ズェア!!」

数m離れた間合いからの突き、だが剣の切先は光速で伸び。デルエラの眉間に迫る。
剣筋を見切るというなら初見で尚且つ目線に真っ直ぐ伸びて来る突きを・・・
ノフェルの狙い違わずデルエラの体は反応出来ていない。
だが・・・滞空していた黒球の一つがその切先を遮った。

「そんなものでこの・・・この・・・馬鹿な。」
精々ソフトボールを一回り大きくしたようなだけのその黒球。
それが凄まじいエネルギーの奔流であるはずのその大剣の切先を飲み込んでいた。

(あれは、何となしに複数生み出したものの一つのはず・・・そんなもので私の奥義を・・・)
「おおおおおおおっ!!」

ノフェルは一気に間合いを詰め、残りの刀剣も黒球に差し込むが、
その小さな玉はまるで底なし沼のように全てを飲み込み揺るぎもしない。

「うーん、期待したのだけど、いまいちだったかしら。
以前似たようなものをお父様にやってもらった事があるけど、
もっと熱くて太くて素敵だったわよ。」

余裕の表情をついぞ崩さないデルエラ、
まだまだ余力を残したその振る舞いに対しノフェルは・・・

(私は神族、下級とはいえ神の末席、
その私が・・・これだけの加護を受けても子供扱い。
こいつ・・・もはや中級の領域にいるとでもいうのか・・・)

神族の下級、中級、上級にはやはり大きな壁が存在する。
強化された自分は下級の上限に近い存在のはず。ノフェルはそう考え思い出していた。

遠征前に一同に介した会議にての軍師ルアハルの言葉を。


「ええ、今回の遠征に対し一つアドバイスがあります。
相手が生粋の神族や魔王の娘、それも一桁台の連中だった場合。
あくまで戦うよりは時間稼ぎをする方向でいった方がいいでしょう。
奴らは殺し合いを避ける傾向にあります。
茶のみ話しにでも付き合って一秒でも長く相手を釘付けにする。
下手に勝とうなどと思わないことです。」

それを聞いたときはこの第二次遠征軍の中でももっとも力を持った自分は例外だ。
などと自惚れていたが、何のことは無い。自分もしっかりその中に含まれていたのだ。

(力の差は絶望的だ。どう転んでも私はこいつに勝てないだろう。
だが・・・・・・そんなことが有っていいはずが無い!!!)

ノフェルは握っていた大剣を離し全ての力を自爆覚悟で解放する。
その解放すら黒球は風船のように少し膨らんだだけでエネルギーを飲み込んでしまう。
しかしそれすらノフェルにとっては想定内。
彼女は羽ばたき、光る羽根をデルエラの前方に撒き散らしてその視界を一瞬封じる。

元々詰めていた間合いを更に詰め、正面から抱き合う形でノフェルはデルエラを拘束する。

「情熱的ね、でも淫魔相手にこの距離はどうかしらね。」
「時間は掛けない。」

ノフェルはその大きな翼を広げると翼の先から閃光魔法を我武者羅に撃ち放つ。
「貴方?!」

デルエラの顔に初めて驚愕の色が浮ぶ。
閃光の雨は全方位から二人に降り注ぐ。黒球がその内のほとんどを遮るが、
ノフェルは拘束しつつ攻撃をやめない。
当然その攻撃はデルエラだけでなくノフェル自身も直撃する。
だがその攻撃ではデルエラの体に対し致命傷には遠い。
そして削りあいでは自力の劣る自分が力尽きるのが先であろう。
だからそれは囮、次の攻撃を決めるための布石。

「ぐっ?!」
ノフェルは食いしばった歯の間から血を流す。
だが同様にデルエラの口元からも血が垂れていた。
自らの体と閃光魔法の雨をブラインドに、
ノフェルは自身の翼の先端に力を集中し、
光の槍として自らの体ごとデルエラの腹に一撃を突きたてていた。

「例え相手が神であっても、私は負けるわけにはいかない。
このまま地獄まで付き合ってもらうわデルエラ!」
「・・・・・・素敵♥・・・いいわ貴方。とっても良い。」

トロンとしたような顔で頬を染め、デルエラは互いに血を垂らしたままの口を合わせる。
腹を互いに貫かれたまま、デルエラは構いもせず濃厚なキスを始める。

ノフェルの食いしばっていた歯が一瞬で脱力し、
脳裏を直接舐められるような感触を味わい、世界がぐるぐる回転する。
血生臭いはずの口内はデルエラの唾液と血のせいかむせ返るように甘い。

(?!)
たったそれだけでノフェルは自分を見失いそうになる。
眩暈で倒れるときのように自分の立ち居地があやふやになっていく。
だが・・・ノフェルは持ち直す。

そして意識を持ち直したノフェルの眼前にはデルエラの顔があった。
キスを最初にした後、そのままじっとこちらを見続けていたらしい。

黒真珠を思わせる深い黒をたたえた瞳、
そこには黄昏時の太陽を思わせる紅い瞳。
ノフェルはそんなデルエラの瞳を見て素直に美しいと思った。

「ありがとう。」
(・・・何を?)
「瞳を褒めてくれたでしょう。
お父様やお母様にも褒めてもらった自慢の瞳なの。
だからうれしい。だからありがとう。」

まだぼぅとして回らない頭でノフェルは考える。
そしてすぐに思い至る。自分は一言も声を発していない。
心の中の呟きにデルエラは応えていることに。

(読心? そんなことが・・・)
「うふふ、言ったでしょう。私の趣味は観察。
何もそれは貴方の戦い方だけに限った話ではない。
例えば・・・彼の事とかも・・・」

魔力で生み出した黒い触手、それがスルスル伸びて地上にいる一人の狂戦士を持ち上げる。
もはや気絶しているその男性を目の前に差し出され、ノフェルに劇的な変化が現れる。

「貴様!!」
「あ〜らこわい。うまく冷静を装えていたつもりでしょうけど駄目駄目、
彼がウィルマリナ達に深手を負わされるたびに、
貴方の魔力にはっきり揺らぎが生まれていたわよ。」

ノフェルは黙ったままデルエラを睨みつける。
今すぐにでも翼をより深く突きたててやりたいが、
まだ先ほどのキスで脱力した体には力があまり入らない。

「私も立場上色んなカップルを見てきたわ。
だから貴方達を一目見てどういう関係なのか大体想像はつく。
貴方のその鬼気迫る気迫に関しての理由とかもね・・・」

「・・・殺してやる。」
ノフェルは怒り心頭であった。己の心に秘めていた大事なものを、
土足で踏み荒らされた心持であった。

「良い殺気と気迫ね。それはあなたの思いの深さの裏返しなのだから。
だけど、向ける相手が違っているのではないかしら?」
「黙れ・・・」
「貴方が本当に憎むべきは・・・」
「黙れ!!」

ノフェルは大声を上げてデルエラの声を打ち消した。

「もう・・・強情ねえ。まあそんなところもかわいいのだけれど。」
デルエラは脱力したノフェルの頬に両手を添えると、まっすぐ彼女の瞳を見つめた。
その紅い宝石のような虹彩が光り、その光りは一瞬でノフェルの瞳から脳へと抜けていった。


※※※


少し昔のことだ。
とある辺境の村に一人の天使が派遣された。
特別教団にとって重要な土地でもなく、
特に魔物が出る地域というわけでもないその場所が、
新人の天使の研修場所として選ばれた結果であった。

その村の村民達は、
貧しいながらも何処かしら牧歌的で心の優しい人たちだった。
教団の教えを守り、貧しかれど心は清く隣人を愛する。
そんな村人達との日々は天使にとっても心安らぐ日々であった。

ある日、天使は村の馬達と戯れていた。
動物にも好かれていたその天使に、有る馬が悪戯をした。
羽根を一本むしって駆け出したその馬を、
天使は幼子を叱る母のように追いかける。

「こら、駄目よ。」
お仕置きと彼女はその背に寝そべってのる。
馬も解っているのか声を上げて走るが、
彼女を振り落とすほどの勢いでは走らない。

だが少しばかりの誤算が彼女を襲う。
とある村の男がその様を見ており、
「て・・・天使様?」
「あっ・・・?!」

普段は清楚に振舞っていたが、
馬とのやんちゃな戯れを見られた天使は動揺から赤面したまま体勢を崩す。
ドべッとそのまま落馬して顔から落下する天使。
「むぎゅん・・・」
「だ・・・大丈夫ですか?!」

「良いですか? 貴方は此処で何も見なかった。誓えますね?」
「ええ、天使様のためなら、何だって誓います。」
視線をあらぬ方向へとそらし頬を染めつつ、
失態を見られた天使はその男にそう釘を刺すのだった。
男の名はセルウス=アグリコラと言った。
しがない農家の次男坊である。

だが、其処から二人はより仲を深めていく。
天使もすでに失態を知られているセルウスに対しては、
他の者に頼みにくい頼みごとも頼めたし、
実際にセルウスは約束を違えることなく彼女に尽くしてくれた。

彼は不器用で卵さえ満足に割れない男であったが、
純朴で温かく、傍にいるとほっとするような雰囲気の持ち主で・・・

また音楽を愛した。けしてうまくはなかったがよく夕暮れになると彼は歌った。
故郷に伝わる民謡を口ずさみ、それに導かれるように馬や羊は囲いに戻る。

ある日、ノフェルは今までお世話になった礼にと、
セルウスを呼んだ。自分には何もあげられるものはないから歌を歌う。
そう言って彼女が披露したのは天界で学んだ賛美歌であったが、
その歌声はまさしく天使のそれで・・・セルウスは呆然とその美声に酔いしれた。

「どうでしたか? 正直一人で歌うのも人前で披露するのも初めてですので・・・
いたらぬところもあったかもしれませんが、歌が好きな貴方になら喜んでもらえると。」

ノフェルは歌い終わっても微動だにせず何も言わない。
そんなセルウスの反応にどぎまぎしながらそう言った。

我にかえったセルウスが賛辞を述べる前に、
割れんばかりに拍手と喝采が夕暮れの丘を包んだ。
二人は驚いて周囲を見回すと、何時の間にか辺りには村人がほとんど集まっていた。

「いんや〜すんばらしい歌だったべなあ。」
「ありがてえ、ありがてえ。天使様の生歌拝めるなんて一生自慢出来るべさ。」
「すごかったよお姉ちゃん。でもどうしてセルウス兄ちゃんと?」
「これ! 天使様と呼ぶだぞ。それとおめえにゃまだはええからそん話しは後でな。」

口々に囃し立てられ半ばノフェルはパニックになりながら取り繕う。
「え・・・ええとですね。セルウスには個人的に世話になった事がありまして、
その時のお礼としてう・・・歌なぞを・・・おおおお。」

結界でも張っておけばよかった。
などと後悔するノフェルを尻目にセルウスが言った。
「素晴らしかったです天使様。今まで聞いたどんな音より綺麗で。
自分ひとりには勿体無いと思ってたところですので、
御礼というならみんなにも聞かせてあげてください。」

目を少年の様に輝かせるセルウスのそんな言葉に、
ノフェルは微笑みながら言った。
「貴方がそれで良いなら。」

その後は、セルウスが良く歌うその辺りに伝わる民謡を、
ノフェルも交えてみなで合唱した。

夕暮れ時の麦畑、それが風と共に金色の波音を立てる。
それは何処からともなく歌を運んできた。
温かく美しい音色で奏でられる歌を。

その一件以来、天使はセルウスと
そして村人達とさらに仲を深めていった。

そして月日は流れていく・・・

緑の牧場に風が吹き、馬と羊が嘶いて。
丘の上には風車が回り、人は笑顔で麦植える。
輝くような日々は過ぎ、恋の蕾は芽吹き行く。

天使の半生において、もっとも美しくもっとも大切な時。

だが、そんな日々にも終わりは来る。
所詮天使は研修で此処に来ているだけなのだ。
時期がくれば何処かの聖都に赴任せねばならない。

そして所詮自分は神族、相手は何の変哲も無い農夫。
立場も寿命も何もかもが違う。
互いにそのような自覚を持っていた二人は、
結局どちらからも互いの気持を伝えることなく別れを告げることとなる。

聖都に赴任した天使、彼女はその日々を振り払うように仕事に邁進した。
力を磨き、勇者と共に魔物と戦ったり、啓示を人々に伝えたり。
天使としての勤めを立派に果し続ける。

元々才能があったのか、彼女は何時の間にか若くして天使たちを率いる立場になっていた。
彼女が聖都に赴任してから十年と経っておらず、その昇進は異例のレベルであった。
だが彼女は同時に悩みを深くしていた。
戦えば戦う程に、力を振るえば振るう程に、教団の有り様に・・・今の神の有り様に・・・

そしてそれはヴィートベルセルクの計画を立案されたところで頂点に達する。
仮にも信徒を使い捨ての道具とするようなその計画を聞かされ彼女は激怒した。
だが、教団の幹部達は言う。主神様の許可は取り付けています。
貴方様はそれに逆らうのですか? と・・・

何も言えなかった。天の御使いである自分が天の意思と逆の事を言えるはずも無い。
彼女はしぶしぶその計画の開発に手を貸すこととなる。
だが、それらの日々は地獄そのものであった。

勇者の適正が無いものに無理矢理それと等しい力を付与する。
天使の加護を借りてとはいえ、そんな無茶を人の手で量産する体制をつくる。
部隊の構成員を安定して造れるノウハウを得るまで、
そしてそれらの構成員をどのように運用するかを確立するまで、
急ピッチで進められた、その部隊を結成するまでに流された血と命の量は想像を絶する。

人々を救い導くのが我々天使の役目ではないのか?
そう思いながらも、仕方の無い犠牲なのだと必死に心を殺して彼女は納得したふりをした。
聖都での彼女の生活は、その華々しさに反し、まるでモノクロのような日々であった。

それでも、彼女は進み続ける。迷い苦しみながらもその歩みを止めることは無い。
何故なら、彼女の胸には何時だってあの村での記憶があるから。
(あの人々を、あの景色を守るためなら私は・・・セルウス。)


だが、運命は残酷な現実をそんな彼女に突きつける。

「お久しぶりです天使様。」
セルウスが聖都に来ていた。彼はノフェルへの思慕を抑えきれずに上京し、
何とか面会出来ないかと手を尽くした。
勇者としての適正があるかも調べたが、やはり話しはそううまくはいかなかったらしい。
しかし、近くある大きな戦にて、天使と共同で作戦を遂行する特殊部隊。
その有資格者を探す募集に応募し、彼は適性検査をクリアしたとのことであった。

「帰りなさい。此処は貴方のような下賎の来る場所ではありません。
貴方など大人しく故郷で農業に従事していればよいのです。」
彼女は表情も声も固く、そう言い放った。
それでもセルウスは折れない。彼とて此処まで伊達や酔狂で来ていない。

「しかし天使様。大きな戦が控えており、
天使様はその内の一部隊を率いて戦われると伺いました。
みながそのために身を投げ出しているとも、
私もて・・・いえ、神にその身を捧げた信徒の一人です。
どうか・・・この身と魂を捧げる事をお許しください。」

「・・・おすきに・・・なさい。」

彼女は絶叫を抑えるのに必死になりながら、ただただ機械的にその言葉だけを吐き出した。

やめて やめて やめて どれだけそう言いたかっただろう。
だが、彼女はそう言える立場も資格も持っていなかった。
天使である自分が、人の命を大量に犠牲にしながら、
知人であるというだけでその命だけ特別扱いしてと免責を願うのか?
そんなことが許されていいはずが無かった。

そうして造られた部隊と自分は魔王討伐という大任を拝命した。
彼女は思う。この戦いがどう転んでも、一度全力で戦ったベルセルクは余命幾ばくも無い。
次は無いだろう。だからこそ失敗は許されない。例え何者が相手であれ・・・
この遠征は絶対に成功させねばならない。でなければ・・・でなければ・・・
何のために彼は・・・私は・・・


(夢?・・・ハッ?!)
そこでノフェルの意識は覚醒する。
だが、其処は王魔界の空の上などではない。
懐かしい、あまりにも懐かしいあの村の夕暮れ時の風景がそこには広がっていた。

(これは・・・デルエラの仕業か・・・)
案の定其処にはデルエラが立っていた。
自分も彼女も腹に穴が開いていなければ血も流していない。

(現実ではない。あの女の邪眼の類か?)
「他人の中にずかずかと、デリカシーの欠片もありませんね。」
「うふふ、その分の御代は払うつもりよ。」
「・・・ふざけるな。」

「ふざけているのはどっち?」
「何?」
「どうして思いを伝えなかった。」
「私は天使、彼は人。伝えるだけ不毛、互いに苦しむだけだわ。」
「どうして天使だと駄目なの?」
「人は人と結ばれるのが定め、この世界の理だわ。」
「本当に?」
「くどい!」

「では何故部隊への入隊を断らなかった?」
「神にとって万物の命は平等。等しくあまねく愛さねばならない。
彼の死だけを特別厭うということはそれに反する行為だわ。」
「等しく愛する。本当にそんなことが正しいの?
この美しい風景、其処での日々も意味の無いことだった。
貴方はそう言ってるにも等しいのよ?」
「詭弁だ。そんなことは言っていない。」
「いいえ、言ってるわ。計画を推進した教団上層部も、
彼も等しく愛せというなら、一体あの日々に何の意味があったというの?
それこそ彼を殺す原因になっただけじゃない。」
「黙れ、悪魔風情が神の定理に異を唱えるな。
私は天使だ。神の意向を代行する者、それ以外に私の取れる道など・・・」
「悪魔?・・・悪魔ってなんのことかしら・・・」
「ふざけるな。貴様以外に誰が・・・?!」

ノフェルは眼前のデルエラに食って掛かろうとして自らの目を疑う。
目の前には何時の間にかデルエラでなく、別の人物がいた。
それは自分、鏡写しのノフェルそのものであった。

同じ姿の二人が並び、コトノハの刃を交わす。
「・・・幻か。趣味の悪い真似を。」
「そうやって逃げるの?」
「・・・何だと。」
「解っているはずよ。全て貴方の偽らざる本心。
貴方の心は己と神への疑念と懐疑で一杯だわ。」
「それは・・・」
「私彼が好き、戦って欲しくなんてなかった。
聖都にも行きたくなんてなかった。あの村でずっといっしょに・・・」
「儚い夢だわ。全ては過ぎ去った過去。もう取り戻せるはずも無い。
彼はもうあと数年と持たずに死ぬ。
であればその死を無意味なものにしてはならない。
絶対に、だから私は・・・」

「硬い、固い、堅いわねえ。
ノフェル、貴方はもう少し考えるべきだったわ。本当に取り返しがつかないか否か。」
鏡写しで議論しあう二人のノフェル、その横からデルエラが再び姿を現してちゃちゃを入れる。

「・・・どういう意味。」
「貴方言ったわね。例え相手が神であってもって・・・
神に喧嘩を売るくらいの覚悟決めてるなら、
出来ない事なんか何も無いのよ。そうでしょう?」

{その通りです。迷える代行よ・・・}

ノフェルの頭の中に突然声が響く、
それは神が彼女達天使に指令を与える時の天啓そのものであった。
しかし声が主神のものとは異なる。

{天使は属する神の代行、その定めは確かに変えることは出来ません。
ですが、逆に言えば属する神しだいで如何様にでもその有り様は変えられるのです。}
「貴方様は・・・まさか。」

黙り込むノフェルの顔を愛おしげに覗き込むデルエラ
「もう解っているのでしょう?
どうすればいいのか。どうするべきなのか。」
「・・・」

ノフェルの翼がしだいに先から黒く染まっていく。


※※※


男が目覚めると其処は見知った天井であった。
故郷の家そのものだ。だが、ところどころ微妙な差異がある。
あるはずの物が無かったり、すでに無くなった物がまだあったり・・・

「目が覚めましたかセルウス。」
「て・・・天使様。ここは・・・」
「違和感がありますか? ごめんなさい。
あくまで私の記憶を頼りに複製した空間ですので、
現在の貴方の家とは少し違うものになってしまいました。
この方が貴方も安心できるかと思ってのことでしたが、
不安がらせたのならすいません。」
「そんな、天使様にそこまでして頂いて恐縮です。」

ノフェルは優しく微笑んでいた。
聖都で会ってからというもの、彼女はセルウスに一度も笑顔を見せた事はなかった。
だが、今の彼女はセルウスの故郷での彼女と同じように笑っていた。
その事にセルウスは安堵しつつも思い出して問うた。

「戦いは・・・どうなりましたか。」
狂化されている間、彼らの記憶はほとんど無い。
それ故、彼からしてみれば戦いが始まった後いきなり寝かされていた状況である。

「もうよいのです。魔王は我々によって討たれ、
争いは終わりました。セルウス、貴方の奮闘あればこそです。
神も大変に感謝しておられます。ですがセルウス、貴方の体は無茶のせいでボロボロです。
貴方には休養が必要、長い長い休養が・・・ですからその間は私が貴方の面倒を見ます。
それが我が主からの命令であり、同時に貴方への褒美です。
天使長からの惜しみない奉仕、幸せ者ですねセルウス。」
少しおどけた調子でノフェルは言った。

水を取るために振り向いたノフェル、その背を見てセルウスは驚く。
「て・・・天使様、その羽根は・・・」
「・・・ああ、随分と黒くなってしまったでしょう?
魔王を討った際にその魔力を浴びた影響で多くの天使達が羽根を黒く、
肌を青く染められてしまったのです。
ですから、実はこれは私の療養も兼ねているというわけです。
私ももうしばらく立てば肌が青白く染まっていくでしょう。
・・・醜いと思いますかセルウス?」

振り返り、黒く染まった羽根を掴みながらノフェルはセルウスに問う。
セルウスはそんなノフェルの姿を上から下まで眺めながら思う。

(醜いだなんてそんな、前と変らず・・・
いや、何処か解らないけど前より・・・美しい。)

純白の衣装、膝上ほどまで有る布から伸びる脹脛と足首。
ノースリーブの大きく開いた肩口と鎖骨、
スラリとした体のラインが奏でるくびれ。

前から美しいとは思っていたが、
今のノフェルに対しセルウスは前以上に女性を強く感じてしまっていた。
知らずに溜まった唾を飲み干すと、その動作で感づかれたのか、
セルウスはノフェルの視線が自分の半分起こした上半身でなく、
下半分の方に向いているのに気づく。
それは見事なまでに毛布を持ち上げ、平野に丘が作られていた。

「こ・・・これは・・・その、違うのです天使様。」
邪な感情を向けてしまった。夫婦でもない異性に邪心をむき出しにするなど、
ましてや神の御使いである天上の存在に、なんとはしたなく罪深い行為であろう。
教団の教えに従うなら軽蔑されるべき行為だ。
セルウスはノフェルに軽蔑されると必死に取り繕おうとする。

「あっ! 天使様・・・何を・・・ああっ。」
だが、ノフェルは軽蔑するどころか、
その白魚のような指で優しく慈しむように丘を撫で回す。

「いいのですセルウス。
これは私を異性として美しいと感じ求めてしまった結果なのでしょう?
ならばその感情、否定などどうかしないで下さい。」

聖母が赤子をあやすように、ノフェルはセルウスの剛直を何度も撫ぜる。
その奉仕は技術的にみれば拙くすらあったが、
純朴で女を知らぬセルウスにとって十分、
ましてや想い人からの奉仕は天上の快楽であった。
セルウスはまたたくまに衣服とシーツを汚してしまった。

「て・・・天使様・・・申し訳ありません。」
「何を謝るのですか? これは人の男性にとっては生理現象なのでしょう。
貴方は病院でナースにも同じように振舞うのですか?」
「ですが、私は一介の農夫で・・・天使様に下の世話をさせるなど・・・ああっ。」
「まだまだ溜まっているようですね。
どうせ汚れてしまったのです。だせるだけ出してしまいましょうか。」

ノフェルはセルウスの口を封じるように、
また彼の股間にその美しい指をはしらせる。
「セルウス、貴方は少し自分を過小評価しすぎです。
貴方は救世の英雄、その一人なのですよ。
私と比べてもその武功は何ら劣る所はありません。
我が主がこのように知己である我らに対し、
計らってくれたことからもそれは解るでしょう?」

「ああ・・・うっ・・・し、しかし。」
慣れぬ快楽に喘ぎながらもセルウスはなお抗議しようとする。
「どうかセルウス、だから天使様などともう呼ばないで下さい。
どうか・・・私のことを・・・名前で呼んでください。」

ノフェルは手を止め、少し哀しげにセルウスの顔を覗き込む。
そんな彼女の視線を受け、それでもセルウスは顔を反らしてしまう。
「そ・・・そんな恐れ多いです。私などに御名を御呼びする権利など。」

{セルウス、セルウスよ。}

セルウスの頭に突如、艶っぽい女性の声が響く。
「声が・・・聞こえる。」
「セルウス、その声に耳を傾け、主の御心を知ってください。」
「な! これが主の?! では・・・」
{セルウスよ、貴方の身を賭した働きには感謝の言葉もありません。
ですから、貴方には相応に報いる必要があると私は考えます。}

「も・・・勿体無いお言葉です。
しかし私は教団の信者として当然のことをしたまで。
主が御自らお褒めの言葉を掛けて頂いただけで全てが報われました。」

{・・・セルウス。偽らないで下さい。私には全て解っているのですよ?}
女性の声に少し咎めるような色が混じる。その言葉にセルウスの顔が青くなる。

{教団の信者として、つまり貴方は私のためにその身を賭したと言いましたね。
しかし私は知っています。その理由が貴方の隣に立つ我が使いのためであると・・・}
「それは・・・申し訳ありません。」
{謝らないで下さい。その気持を咎めるつもりはありません。
良いのです。自分に正直におなりなさい。貴方にはその資格があります。
そのための配慮です。むしろ此処では偽る事こそが罪。
貴方の抱える愛も劣情も、全てを許しましょう。祝福しましょう。}

神の思わぬ言葉に、呆けたようになっていたセルウス。
その頬を両手で掴み視線を合わせるノフェル。

「セルウス、どうか・・・」
「の・・・ノフェル様!」

抑えきれない、溢れてこぼれた気持が、
口付けという行為としてセルウスを行動させた。
ノフェルは思わず目を見張るが、すぐに相好をとろかすとそれを受け入れた。

二人は長いキスを終えると、しばし見詰め合い。
また貪るようにキスを再開した。
しだいに荒く、大胆に、互いの体と存在を求め合うように・・・

「夢のようです。ノフェル様。どうか・・・夢なら覚めないで。」
「現実でも、夢でも、私は此処にいます。ずっといます。
もう離しません。離れません。貴方の傍から。
そんなありふれた当たり前の願い、それが全てで良かったのだから。」

その日、二人は永遠に一つとなった。
流れる時間という摂理さえ、もはやこの二人の間を違うことは出来ないだろう。

此処は堕ちた天使達の失楽園(ユートピア)。
刹那という永劫の場所、万魔殿(パンデモニウム)という名の最果て・・・

13/08/25 08:10更新 / 430
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■作者メッセージ
ギャース!
月間連載どころか隔月連載に。

全て夏の熱さが悪いのです。
庶民の貧乏が悪いのです。

誰が政治しとるのか!

と どこぞのげっ歯類男っぽく愚痴ってみる。


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