連載小説
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初夜
薄暗い病室に、微かな水音が響いていた。

「ん、……っ…………」

唇を合わせ、甘露のように甘い唾液を交換しながら、男はふわふわと揺蕩うように浮ついた意識の中で思う。

――ああ、綺麗だな、と。

とろりと瞳を蕩かせた、夢見るような美貌。くねくねと艶めかしく蠢く尻尾。
もっと、もっとと言う様にすらりと長い手を背に回され、密着する身体はその全てが柔らかい。
ずっと、胸の内に抱く事すら己に禁じていた感情。
綺麗だ。
本当に、綺麗だ。

「っ、ふ…………っ♥」

唇が離れる。
二人の間に透明な唾液の橋が架かり、音も無く垂れ落ちた。  

「……ん…………♥」

アゼレアが、しなだれかかるように行綱をベッドの上へと押し倒す。
されるがまま、見蕩れるがままに押し倒された男の患者衣の内側へ手を滑り込ませ、アゼレアはうっとりとした笑みを浮かべた。

――ああ、何て愛おしい。

痩せ乾き切っていたその素肌はアゼレアの魔力を取り込み、隆々とした筋肉の張りと潤いを取り戻し始めている。
極限まで鍛え上げられたその身体。幾度も破れ、革のように厚みを増した掌。
彼のその全ては、いずれ全てを捧げる主――つまり、自分の為に作り上げられたもの。
傷跡の一つ一つさえ、愛おしい。
首筋に。その鎖骨に。
魔王の娘は、露になった男の胸板についばむような口付けを降らせてゆく。

「っ…………!」

あまりにも現実感の無い光景。主の唇が触れた場所から、甘い痺れが広がる。
それは唇が離れた後もじくじくと疼き、背筋をぞくぞくとした感覚が駆け上がってゆく。
アゼレアが、男の胸の先端を口に含んだ。

「ぁ、っく………………っ!?」
「…………♥」

男の身体が、大きく震えた。
目の前が真っ白に染まる程の、強烈な快感。
揺蕩う意識の中、自覚もないままに絶頂を迎えた男の手を握り、アゼレアは男の胸の先端にだらりと力の抜けた舌を這わせ続ける。
下腹部に感じる脈動。鼻を擽る豊潤な精の香りに、うっとりと目を細めながら。

「っ、ぁ……私、は…………?」
「……ふふ。そのまま、力を抜いているが良い……♥」

ぜえぜえと息をつき、己が絶頂を迎えた事に理解が追い付いていないような男の頭を撫で。一つ口付けをして、アゼレアは身体を男の下半身へと滑らせる。
そして――男が身に纏っていた前結びの患者衣、その結び目をするりと解いた。

「はぁぁ…………っ♥」

それは、この上なく淫靡な光景だった。
べったりと白濁に塗れ、見た事も無い程に大きく屹立した赤黒い己の肉棒のすぐ横で、瞳に怪しい光を灯らせた美貌がうっとりとそれを見つめている。
行綱は実感した。
この人は。自分が仕え、夫となるこの人は――紛れもない、淫魔の姫君なのだという事を。

「っ………………!!」

腰が、跳ねた。
瑞々しい唇に咥え込まれた咥内で白濁に塗れた亀頭から汚れをこそぎ落すように、温かな淫魔の舌が蠢く。
この世にこんな快楽が存在したのかと、体の芯から震えが起きる程の快感。

「……………♥」

既に二度目の限界が近い事を察した淫魔は、再び男の手に自らの手を重ねた。
そのままそのまま自分の与える快感を、最後まで楽しんで欲しいという想いを込めて。

「っ、く、ぅ…………っ!!」
「………………っ♥」

絡められた指を強く握り返し。温かな咥内の中で、男は二度目の絶頂を迎えた。
己の射精を、全てを受け止めてくれる相手が居るというこの上ない安心感と開放感。勢いよく吐き出される精液を幸せそうに嚥下するアゼレアの姿が、堪らなく愛おしい。

「んっ、ふ……………♥」

男の射精の全てを受け止めたアゼレアは、なお硬度と熱を増した男の肉棒に見惚れるように目を細めて――再び男の股間に顔を埋めると、その陰嚢を口に含んだ。
愛しい男が吐き出した精を、一滴たりとも無駄にするものかと。
血流を促すように、たおやかな指先で行綱の足の付け根をマッサージしながら、一度目の射精で付着した精液を舐め清め、咥内でころころと陰嚢を転がす。

「んっ、ゆき、つなぁ…………♥」

顔を上げたアゼレアが、衣服をするりと脱ぎ捨てた。
ほの暗い部屋の中に、火照った淫魔の白い裸体が浮かび上がる。

「…………っ」

息を呑むほどに、綺麗だった。
支えを失ってなおその形を崩さない双丘。堪らなく男の劣情を誘う女性的な体のライン。無毛の慎ましやかな割れ目からは発情の証である一筋の雫が溢れ、肉感的な太ももへと伝っている。
その恥丘が、行綱の先端へぴたりとあてがわれた。
お互いの目を見つめ合いながら。
ゆっくりとアゼレアの腰が落とされ、行綱の剛直が熱い蜜壺の中へと飲み込まれた。

「っ…………!」
「は、ぁぁぁぁぁ…………っ♥」

柔らかく絡みつく膣に歯を食いしばる男の愛しい男の肉棒を根本まで受け入れ、アゼレアは歓喜のため息を漏らす。
そうして、ぐりぐりと腰を動かし始めた。

「っ、…………っ!」

男の上で、淫魔の身体が跳ねる。
肉付きの良い臀部が腰に打ち付けられ、背後で白く艶めかしい光沢を放つ翼と尻尾が怪しく踊る。
精を搾り取ろうと蠕動する熱い蜜に満ちたその膣に、行綱はあっという間に三度目の絶頂へと導かれそうになる。
堪らず、男はその折れそうなほどに細い腰へと両手を伸ばし。
下から、その腰を突き上げた。

「っ、ゆき、つなぁ…………っ♥」

本能が行綱の体を動かしていた。
アゼレアの口から甘い嬌声が上がり、嬉々としてその荒々しい突き上げに腰の動きを合わせ、受け止める。

「…………っ!!」

最後の止めとばかり一際深くまで行綱の剛直が突き入れられ、子宮口へと押し当てられた鈴口から勢いよく精液が放たれた。
止まらない。腰から下が全て溶けだしてしまったかのような快感。

「ぁ、ぁぁぁ…………♥」

お腹の奥底から、愛する男の熱がじんわりと身体に染み込んでくる。
その感覚は、あまりにも甘美で。あまりにも幸せで。
どくどくと跳ねるペニスに合わせて締め付けし、一滴でも多くの精を吐き出させようと蠢く膣の動きとは裏腹に。アゼレアは呆けたような、今にも泣きそうな表情で、その感覚を噛み締めていた。

「…………っ、……っ!」
「ん………っ♥」

行綱は、そんなアゼレアを押し倒した。
自らの中で更に熱と硬さを増したような肉棒。獣欲を瞳に宿らせた男をその腕に抱き入れ、アゼレアはその耳元で囁く。

「ん、っ……。お前は言って負ったな。魔物が男を産まぬ事を、いつか自分が責めるようになってしまうのではないか、と」
「…………っ、は、い」
「ふふ、ならばその心配は無用じゃ。……妾も、いずれは男の子が欲しいと思っておるからな」

戸惑うように動きを止めた男の頬を撫で、アゼレアは続けた。

「……沢山、お前の子供を作ろう。この世界の仕組みを、書き換えてしまうくらいに……♥」
「…………っ!」

繁殖衝動を煽るような蠱惑的な囁きに、男の理性は完全に吹き飛ばされた。

「ん、っ、行綱ぁ………っ♥」

目の前で揺れる双丘を鷲掴みにし、荒々しく腰を打ち付ける。
孕ませる。
この極上の雌を、必ず、己の子種で孕ませてみせる。
貪るように唇を塞ぎ、逃げ場を奪う様にその身体を押さえ付け、男はその最奥へと精を放った。

「ぁ、んっ…………♥」

脈動する肉棒から最後の一滴までを注ぎ込み、それでも尚その昂りは留まるところを知らない。
再び荒々しく打ち付けられ始めた男の腰にはーー淫魔の白い尻尾が、甘えるように巻きつけられていた。





――――――――――――――――――――





一体、どれだけの間交わっていたのだろうか。
数えきれない程の昂ぶりを主へと吐き出した男は、その柔らかな太ももに顔を埋め、黒髪を梳くように頭を撫でられていた。

「どうじゃ行綱。妾の膝枕は」
「……夢の、ようだ」
「ふふ、そうであろうそうであろう」

甘い酒にも似た彼女の香りを胸一杯に吸い込み、絹のように滑らかな肌触りの太腿に頬擦りする。
すっかり気が抜けたような行綱の声に、アゼレアは満足そうに頷いて――ふと、病室のドアが目に留まった。
ドアの向こうに、彼女達の気配があった。

「…………?」

膝の上の行綱が、彼女達に気付いている様子はない。
恐らくは気配を消しているのだろう。
だが、そんな事があり得るのだろうか。
魔王軍の精鋭たる彼女達の隠密に――もっと言えば、この行綱が気付かぬような気配に、自分が先に気付くなどという事が。
アゼレアはさらに部屋の中を見渡した。
そして、見つける。
針の止まった時計を。
その時刻は、自分がこの病室に入った時から殆ど動いていないように見える。

偶然ではない。
そう。この部屋は今――時が止まっているのだ。

「…………!」

それを為しているのは、自分だ。
それは、そう――神にも等しい力を持つと称される、姉妹たちのように。

アゼレアは、行綱の頭を撫でた。

「……行綱。どうやら見舞いが来ているようじゃ」
「…………え?」

顔を上げる行綱にアゼレアは微笑み、ぱちんと指を鳴らす。

「「「きゃぁぁぁっ!?」」」
「……っ!?」

すると病室の扉が勢いよく開き――見知った仲間達の姿が、病室の中へと重なるように雪崩れ込んできた。
何が起こったのかと、自身の体を盾にするようにアゼレアを背後に隠した行綱が臨戦態勢を取る。

「…………あ」

そんな青年の姿を見た魔物達の目から、ぽろぽろと涙が零れる。
戻ってきた。
戻ってきたのだ。
大好きな、大好きな、自分達の良く知るこの男が!!!!

「ユキちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
「行綱っ!!!」
「お兄ちゃんっ、よがった、よがったぁぁぁぁぁっ!!!」

口々に名前を呼ぶ魔物達に抱き付かれ、もみくちゃにされながら。
ようやく思考が追い付いた行綱が、口を開いた。

「その……心配を、かけた」
「…………っ!」

はっきりとした口調で彼の口から言葉が出てくる。
それだけで、今は感極まってしまう。

「ただ、その……服を……」

そしてその言葉で、改めて理解してしまう。
自分達の想い人は、自分達の主と結ばれてしまったのだという事を。
舞からアゼレアが行綱の病室に入ったとの知らせを受け聞き耳を立てようと集まった一同だが、我先にと耳を扉に押し付け間もなく扉が開いた為、詳しい経緯は分からない。
だが、その姿。乱れたシーツ。そして部屋に満ちた二人の魔力と精の匂いが、ここで何が起きたかを何よりも雄弁に物語っている。

「……行綱」

表情を沈ませる魔物達を見て、アゼレアが行綱を背後から抱き寄せた。

「ジパングで一国を納めるまでになった武士は、己の子孫を残すために多くの側室を囲うそうじゃな」
「………………?」

突然の言葉に困惑する行綱と対照的に。
一転、魔物達の顔に、先ほどまでとは様子の違う喜色が混じり始める。





「ひとまずじゃが――ここにいる全員、お前の愛人にして良いぞ♥」
「ーーは?」





再び振り返った行綱が見たのは。
獲物を前に舌なめずりする肉食獣のような目で自分を見下ろす、仲間たちの姿だった。
21/01/21 00:44更新 / オレンジ
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