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ポリネシアンセックスの定義と図鑑世界における意義について

「ポリネシアンセックスをしましょう!!」

妻が唐突にそんな事を言い出したのは、おおよそ五日前の事。

僕の妻であるメアリは、サキュバスという魔物だ。
こと性行為に関しては常に貪欲な姿勢を見せるサキュバスの例に漏れず、彼女がこんな事を言い出すのは、そう珍しいことではない。
妻との結婚から数年経ち、毎日僕の仕事が終われば即二人で肌を重ねる日々。
魔物娘の肉体が生み出す快楽はそりゃあもう僕を余すことなく愛し尽くしてくれるわけで、数年経っても飽きる気配なんて微塵もない訳だけれど……お互いがすっかり慣れてしまっていて、毎日が同じ事の繰り返しになりつつあるのも事実で。
不満という程のものでもないけれど、それでもメアリにとってはこの小さな感情は放っておけないことなのだろう。
そんな彼女が僕のために様々な提案をしてくれるのはとても嬉しいのだけれど……ただ、僕の貧弱な知識量ではその時の彼女の言っている意味がよくわからなかった。

「ぽ……ポリエチレン?それが、どうかした?」
「ポ・リ・ネ・シ・ア・ン!!そんな袋に使われそうな名前じゃないの!!ちょっとこの前本読んでたら見かけたんだけどさ、なんか愛のある二人にしかできないセックスなんだって!!」
「愛ねぇ……」

そんな言い方をされてしまえば、妻を愛するインキュバスとしては興味を抱かずにはいられない。
僕が興味を示すと、妻は嬉しそうに『ポリネシアンセックス』というものについて詳しく解説を始めた。

曰く、ポリネシアンセックスとは肉体よりも精神的な交わりを重視するセックスだそうだ。
実際に本番を行うのは、5日の内のわずか一回。
それ以外の日は全て、出来たとしても性器以外の愛撫のみを行うことで本番への期待を高めていく。
そして本番の時も最低一時間は前戯と愛撫のみにとどめ、挿入の後も最低30分は動いてはいけない。
絶頂の後も、しばらくは繋がったまま抱き合わなければならない……

妻からの説明を要約すると、大体こんな感じのようだった。

「……なるほどね。確かに、面白そうだとは思うけど……できるの?これ」
「うっ……!!」

図星を突かれたような、妻の表情。
……いや、予想通りの反応なんだけどさ。

僕と彼女の性行為の回数なんて、それこそ毎日数回のペースのものだ。
しかも、どちらかといえば彼女が上になってガンガン腰を振るパターンの方が多かったりする。
そんな彼女、精を主食とするサキュバスが、四日間も性器に触れることすら許されない……そんなことが、果たして耐えられるのだろうか。

「た……耐えてみせるもん!!たかだか四日ぐらい耐えて、気持ちいいセックスをしてやるんだから!!」

言葉だけは強気だが、震えるその声には自信がないのが丸わかりである。
それでもやると言い出す事に、僕は少し戸惑った。
確かに彼女が思いつきで行動するのは珍しいことではないが、その割に態度が頑なな気がする。
僕のそんな思いに気付いたのか、僕と目を合わせたメアリはもじもじと照れながら口を開く。

「だ、だって……愛のある二人にしか、できないセックスなのよ?まるで、これができなかったら愛がないって言ってる、みたいで……そんなの、嫌だし……」

……全く、実に可愛い事を考えてくれるじゃないか。
まんまと雑誌にのせられたような気もするけど、そんな事はどうでもいい。

「……そうだね。やってみようか、僕達の愛を証明する為にもさ」
「……うん♪」

妻をぎゅっと抱きしめると、胸の中からは素直な返事。
しばらくこの体を味わうことができなくなるのは、少しだけ残念だ。

そんな経緯で、僕と妻の『ポリネシアンセックス』はスタートした。
まぁ……一筋縄では、いかなかったんだけれどね。



@ :四日間はキス、抱擁などの軽い前戯までで我慢する

四日間というだけならば。
ポリネシアンセックスをしようと決めたその日の僕は、そんな風に軽い気持ちで考えていた。
しかし、それが元は人間である僕の甘い考えでしかなかったという事を、この四日間で嫌という程に思い知らされる事になった。

一晩セックスをしなかったというだけでも相当まいっていたのか、朝の彼女はどことなくやつれているように見えた。
この頃はまだ、キスをしてあげるだけでも満足そうにはしていたけれど。
……今度は、妻の柔らかい唇の感触を堪能したせいで、僕が必死に性欲をこらえなければならない番だった。
自分で慰めるなど、妻が許してくれるはずもなく……しばらくは、ギンギンになったものを収めないまま眠る方法を模索しなければならなさそうだった。

二日目は、一見まともそうではあった。
ムラムラとした気分を抱え余り眠れなかった僕が起きるよりも早くに起きてご飯を用意して待っていたり、仕事にでかける際に笑顔で見送ってくれたりするのはいつもの優しいメアリと何も変わらない。
ただ……
「あー、私なんかちょっと喉乾いたなー、何か喉を潤すものが欲しいなー(チラッチラッ」だの「最近はご近所さんに茸料理を教わったのよねー、キノコを美味しくいただく方法なんだけどさー(チラッチラッ」だの、本音を隠す気がない露骨な言動が増えていた。
一応、そっと後ろから抱きついてあげたらそれなりに嬉しそうにはしていたけど……いつもならそこから即挿入の流れになってもいいのだが、精を直接あげることをしてはいけないわけで。
愛しているよ、と耳元で囁くだけにとどめて、僕は部屋に戻ることにした。
妻の体に密着したせいで興奮していた自分のものを抑えるのは、本当に大変だった。
安眠できるようワーシープウールの導入でも検討するべきか……いや、後3日だしここは耐えるしか……

三日目の朝には、目を血走らせていた。
いくら僕の妻でも、朝目を覚ました時に充血した目がすぐそばにあったら流石に血の気も引くよ……まぁ、おかげで処理するまでもなく朝立ちを迎えた僕の息子はへにゃりとなったから、そういう意味ではありがたかったのかもしれないけれど。
「明後日だから!!もうちょっとの辛抱だから!!」と必死になだめると、妻もわかってはいるらしくそれ以上は何もしては来なかった。
何も言ってこないのは逆に不気味ではあったけど、納得してくれているのかな……と思って、それ以上僕は何も言わなかった。
だから、次の日はあんなことになってしまったのかもしれない。

四日目の朝と言ったら……もう。
僕の顔を見ても「ちんぽおちんこ男性器怒張剛直大砲息子分身肉棒欲棒……」などとぶつぶつ呟くだけになった。
流石魔物だけあって、その辺の語彙は素晴らしいようだ……などと頭が一瞬現実から逃げ出す程度には見ているのも辛い姿である。
そろそろ気の毒ですらあるし、顔に出さないだけで僕も本当は今すぐぶち込んでしまいたいぐらいに限界ではあった。
こんなことは止めてしまいたい、妻と毎日行為に勤しみたい……けれど、ここで止めたらそれこそ今までに我慢してきたことが無駄になる。
だからこそ僕は、明日を無事に迎えるためにも一昨日ちらりと頭をよぎった事を実行に移すことにした。
……そう、ワーシープウールを結局購入する事にしたのだ。
出費、結構痛かったけど……布団の魔力に包まれた瞬間に眠った妻の、可愛い寝顔がみれたからよかったとしよう。

ここまでの間は、すごく長く感じたけど……大丈夫、明日は休日で朝からまぐわいを開始する予定だ。
ポリネシアンセックスは午前中から開始するのがベスト、という事が雑誌の記事に書いてあったというのもあるが、何より僕自身がもう一日たりとも待てる気がしない。
仕事の事も忘れて、彼女との交わりだけを楽しめばいい。
そうだ……明日になれば、この苦しさからも解放されるんだ……!!

ワーシープウールに包まれて眠気に襲われた頭で、最後に僕はそんな事を考えたのだった。

……これが、僕達の過ごした一筋縄ではいかなかった四日間の記録である。
今にして思えば、魔物娘にとってここが一番の難所なんじゃないかな……?



A :セックス前は飯を取らない
これに関しては、全く何もする心配がなかった。
サキュバスにとっての精は食事と同義なのだから、それを摂っていない彼女はとてもお腹が空いている状態だ。
何せ、四日目は普通の食事でさえまともに摂ってなかった程だし……そりゃね、違う意味では心配してたよ?
けどそれもこの日を迎えれば全て終わるからと、そんな風に自分に言い聞かせて頑張った。
……この時は正直、二度とこんなことしてたまるかと思ったね。



B :一時間ほど抱いたままになる、もしくは軽い前戯のみにとどめる
「はーっ……はーっ……」
……うん。
息が荒いなんてもんじゃないね、これ。
目がぎらぎらと血走ってる妻に抱かれていると、肉食動物の檻に入れられている草食動物はこんな気持ちなのかと思ってしまう。
軽い前戯ぐらいなら本来はしてもいいらしいのだけれど、それをさせたら確実にメアリは本番に一直線になってしまいそうだから今回は止めている。
ちらりと横目に時計を見てみると……うわ。まだ、10分しか経ってない……
このままじゃ、我慢がきかなくなっておそいかかってくるのも時間の問題かもしれないな……仕方ない。
「はーっ……っ、きゃぁっ!?」
妻の体を思いっきり押し倒して、その両腕を押さえつける。
メアリにさせてしまうと暴走してしまうだろうけども……僕がやる分には、問題ないはずだ。
ぎゅっと腕に力を込めると、痛がるどころか彼女はむしろそれを待ち望んでいたかのように甘い表情をした。
メアリはサキュバスらしく自分で責め立てるのは勿論大好きなのだが、男に乱暴な扱いを受けるのも気に入っているのだ。
俗な言い方をすれば『サドマゾヒズム』、というやつらしい。
だから僕は腕だけでなく肘もメアリの体の下で揺れている尻尾の上にのせて、思いっきり体重をかけてやる。
「っ……ぁっ……!!」
膝を尻尾にぐりぐりと力任せに押しつけるだけの、傍から見ればただの暴力にしか見えないような行為。
しかし艶の混じった吐息に紅潮した頬を見せてくれれば、それだけでもメアリが決して痛がってはいないことがわかる。
最初は申し訳ない気持ちになったものだけど、今じゃ妻がどこをどう責めたら痛がらず悦んでくれるかまでもお手のものだ。
しかし……
「ゃ、ぁ……♪苦しい、尻尾が苦しいよぉ……♪」
……これは、きついなんてもんじゃないぞ。
妻が僕の下で存分に乱れる姿なんて見せられたら、今までは即ハメだったからなぁ……
衣服を取っ払った僕の愚息は既に僕の股で激しく自己主張をしているけど、この段階ではまだ僕も妻も絶頂にいたってはいけないんだ。
今にも僕に飛びかかろうとする妻の体を押さえつけて、絶頂しない程度にお互いの体を高め合わなければいけない。
そのためには……
「ぁん♪くすぐったぁい……」
……魔物の夫として、僕が頑張るしかないんだ!!
妻の体に舌を這わせて、僕は覚悟を決める。
後ろの時計は、そんな僕を嘲笑うかのように一時間まであと30分のところを指し示していた。
「我慢しろって言ったのに、もうこんなに興奮して……相変わらず変態だね、君は」
「やぁっ……しょうがない、のぉっ……早く、早く挿れてぇっ……♪」
体だけではなく、言葉による責めも追加する。
しかし前戯をされて余計に熱が高まったのか、彼女は言葉責めにも負けずより催促をしてくるようになる。
「ねぇ……お願い……♪」
くっ……おねだりなんて、反則だ……けど。
僕は、彼女との愛を証明するんだ……!!

それからは、葛藤にまみれた僕と我慢が限界に達した彼女との戦いだった。
何度もねだり、手を振りほどこうとする彼女に罪悪感を感じながらも必死で止めて……しかし、それでもどうにか過ぎた残りの30分。

五日間の長い戦いは終わって……ようやく、挿入してもいい時間がやってきたのだ。



C :挿入後も30分間はピストンしない

いよいよ、挿入の時間がやってきたのだけれど……ここにも、ある程度の決まり事がある。
30分間はピストン禁止で、挿入するときもゆっくりにしなければならないのだ。
「ねぇ、もう……待ちきれ、ないのぉ……はぅぅ♪早く、早くぅ……♪」
と、いう事は妻に説明したはずなのだが……果たして今の状態でそれを実行してくれるのか、甚だ疑問である。
今か今かと僕の侵入を待ち望んでいるメアリの体は、今でも腕を固定してベッドに押さえつけたままだ。
とはいえ、僕も待ちきれないのは確かだし……腹をくくるしか、ないか。
意を決して僕は、自身の先端を彼女の秘部へとくっつける。
散々焦らされていたせいで今もひくひくと愛液を流し続けるそこ。
先端が触れるだけで暴発してしまいそうになるのを、ぐっと堪えて……僕は、そこにゆっくりと侵入した。

つ、ぷん……

「……っ!?ぁ、あぁ……あぁぁぁぁ……♪」
湯船にでも浸かっているかのように安堵する、妻の声が寝室に響く。
僕はそれに、何も言葉を返さなかった。返せなかった、のだ。
入れた瞬間に……溜めていた精が爆発する、その快楽に身を委ねてしまっていたのだから。
長らく待ち望んでいたものがようやくやってきた妻の中は、しかし決して荒々しく快楽に身を委ねることもなく……きゅっと、優しく締め付けてきて。
その気持ちよさは、今までの妻とのまぐわいとは全く異なるものだった。
メアリの体の熱が、やんわりとした締め付けが、僕自身を通じて染みこんでくるような感覚。
お互いの体を貪り暴力的なまでに叩きつけられるいつもの快楽とは違って、包まれること自体に安心感を覚えるような……それだけで幸せな気持ちになるかのような。
その感覚は、僕を即座に射精に追い込むには充分すぎるもので。
それでも、こんなに……こんなに早く、出してしまうなんて……
サキュバスに選ばれた夫としてふさわしいインキュバスに成長したと思ったのに、これではまるで行為自体が初めての少年のようだった。
白濁で妻を白く汚しながら訪れる思考の冴えは、後悔と共にやってきて……
「……っ♪」
僕を見上げる妻の笑顔に、かき消されていく。
余りにも早い僕を嘲笑うでもなく、なじるでもなく。
そんな一面も含めて、僕をどこまでも愛してくれているんだと……言葉よりも雄弁に、僕に伝える表情。
僕はこの表情を、見たことがある。
それは、メアリと初めて迎えた夜の寝室でのことだ。
当時はまだ童貞でしかなかった僕は、彼女のサキュバスとしてのテクを前にして今日のように挿入早々に果ててしまったのだ。
あの時は男としてのプライドを傷つけられた気持ちになって、随分と落ち込んで……でも、そんな僕を見ながら、妻は優しく言うのだ。
「『ほら……もっと、来て……♪私、これだけじゃ足りないんだから……♪』」
思い出の中の妻と今の妻の姿が、一つに重なって。
そこで僕は、今の妻もなお僕を待ちわびて声をあげたことに気付いたのだ。

ははは……昔に戻ったみたいだな、まるで。

けれど、その程度で未だ妻の中にいる僕自身はもう元気を取り戻すのだから、単純なものだ。
そうだな……魔物娘に選ばれた男としてふさわしく、なんてどうでもいい。
僕はただ……メアリの夫として、ただ妻を愛してやればいいんだ……!!
ゆっくり、ゆっくりと。
今までは強引に通ってきた場所を、一歩一歩踏みしめるつもりで肉棒を進めていく。
こうしてゆっくり味わって見ると、やはり妻のそこは名器だ。
結合が解けないようにきつく、スムーズに進めるように緩く。
肉の壁が、自分の精と妻の愛液がない交ぜになった潤滑液でぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら僕を締め付ける。
けれどそれに、乱暴なものは一切感じられなくて……ずっと、僕をいたわってくれていたのだろう。
「ぁっ……♪すごい、これぇ……あったかいの、入ってくるぅ……♪」
あれだけ焦らされて乱暴な挿入をねだっていた妻も、今は幸せそうに顔をとろけさせて僕から与えられる快楽に浸っている。
腰を振ろうなどという考えは、もう頭にちらりとも浮かんでいないらしい。
最も、それは僕だって同じだ。
二人が肌を重ねて一つになっていく、ただそれだけの行為であるのに……それができることが、今の僕達にはたまらなく幸せなのだ。
それでも愛液によりスムーズに進むその先端はやがてこつん、と先端が奥に至って。
「ぁ……はいっ、ちゃったね……♪」
「あぁ……そう、だね……」
我慢は限界に近かったのだろうけど、それでもお互いにそれ以上動こうとはしなかった。
じんわりと、繋がっている部分から全身へと伝わってくる熱。
とろけそうなぐらいに熱く、心地がよいそれをいつまでも、感じていたくなってしまって。
その代わりのつもりか、妻はにっこりと微笑んで……唇をつけるだけの、小さなキスをする。
「んっ……」
それだけで、充分だった。
腕の拘束なんてとっくにほどけてしまっていたけれど、メアリはその腕を背中に回して僕をそっと抱き寄せるだけ。
「ふふっ……♪」
繋がったままで力を抜いて、一緒にベッドに横になる。
いつも僕達がやるように、舌を絡めてはいなかったけれど。

僕達はきっとその時、今までで一番深く繋がっていた。

D :本番

「あぁっ……♪あっ、はぁっ……♪やぁぁぁぁっ……♪」
まるで激しく腰を振っているかのごとく嬌声をあげ続けるメアリ。
しかし、実際はいつもに比べてずっとゆっくりで、穏やかなピストン運動だ。
ずるずると引っこ抜ける直前まで抜いては、また少しずつ腰を落として僕のものを中へと入れていくだけの、サキュバスにしては拙くも感じる動き。
けれど今の僕達にとっては、それ以上のものは必要なかった。
散々に焦らされたフラストレーションもあってか体は貪欲に快楽を求め、わずかな動きでも敏感に愚直は反応してその刺激を容赦なく僕に伝えてくる。
滑らかな肉壁は押し進む度に僕を優しく撫で、包み込む。
たったそれだけの事なのに、僕は早くも二度目の射精を迎えてしまっていた。
先程撒いたばかりだというのに、減るどころかその量を増す程の子種を恥も外聞もなくまき散らして。
そんな僕の欲望をその身に受け止めるメアリの方も、余裕があるようには見えなかった。
雷にでも打たれたかのように体は小刻みに震え、白濁が中を染めていく快楽によがっていて。
それは本当に初夜に時間が巻き戻ったかのような、サキュバスとして以上にただの女の子として快楽に翻弄されるとろけた表情……
「はぁっ、はぁっ……♪」
……その顔も、次の一瞬でサキュバスらしい嗜虐的な笑みへと変貌していた。
魔物としてのサキュバスが本来持つサディスティックな一面が、より精を絞らんと鎌首をもたげ始めたのだろう。
快楽にとろけきった顔の口元だけが、三日月のような弧を描く。
「あなたぁ……もっと気持ちよく、してあげるわね……♪」
しゅるしゅると、蛇を思わせる滑らかさで彼女の臀部から先端がハート型の尻尾が伸びてくる。
それは、僕の目の前で猫じゃらしのようにしなったかと思えば……ベシン、と頬を思いっきりひっぱたかれる。
「くひぃっ……♪」
声をあげたのは、妻の方だった。
そりゃあ、サキュバスにとっての尻尾なんてのは触れられるだけでも強く感じてしまうような性感帯だ。
それを今の全身が敏感になっている状況で思いっきりぶつければ、そんな風にもなるわけで……しかも、僕だって痛みを感じたりはしない。
さっきメアリはサキュバスらしいサディスティックな一面を持ち合わせているとはいったが、人間を愛する魔物娘達が旦那に痛い思いをさせる為に暴力を振るうはずもない。
彼女にひっぱたかれた頬は、まるでキスでもされたかのような熱に覆われて……それはやがてゾクリとした快感に変わって、放出したばかりの愚息でさえまた勃ちあがってしまうのだ。
まるで、頬にされたのはビンタなどではなくキスだったみたいに。
「ほぉら、ひぅっ……ほらほら、ひぅぅっ……♪」
ペシン!!ペシン!!
その尻尾の動きは、さながらダークエルフの鞭。
それが肌に叩きつけられる度に、僕の体にはキスマークのごとく赤い印を刻まれて止めどない快楽が迸る。
そんなものを受けて興奮しないわけがなく、僕も腰の動きを再開させる。
叩かれるのに合わせて腰を上げると、彼女もまた嬉しそうにペシリと尻尾を僕にぶつけてくるのだ。
痛みにも似た快楽は、ポリネシアンセックスによる高ぶりを更に極限まで押し上げていく。
「あっ……♪来る、来るのね……?さっき出した、ばっかなのにぃ……もう、来ちゃうのね、っ……?」
来ないことなどあり得ない、そう言わんばかりの口調で腰を動かし続けるメアリ。
僕はもうそれに言葉を返すだけの理性もなく、魔物以上に貪欲に快楽を求めて腰を突き上げるだけの存在となっていた。
流れ続ける愛液と精液、すなわち僕と彼女の愛の証同士が混ざり生まれた潤滑液は、僕自身を滞りなくメアリの膣内へ進ませては極上の快楽を生み出させてくれる。
やがて僕の中に来る、三度目の大きな爆発の予感。
けれど二度の大きな射精を経た後だからなのか、それともこの快感にもどこか慣れが生じてしまったのか。
そこまでは後一歩なのにどこか物足りない、もう一歩だけ刺激が欲しい……そんな、どうしようもないもどかしさが僕を襲う。
最高に気持ちいいのは間違いないのに、多分今の刺激のままでは僕はもう絶頂できない……しかし妻は、そんな僕の様子を察してくれたらしい。
心までも彼女と深く繋がったのだろうか、そう思わせる程に安心できる優しい笑顔をメアリは浮かべ……
「来て……♪熱い、のをっ……思いっきり、っ……!!」
パァン!!
ハートの尻尾が、一際強く僕の胸に叩きつけられた。
音の衝撃と共に、熱いもので僕の胸が満たされて。
その衝撃に跳ねた僕の体は、最奥に突き刺さらんばかりに挿し込まれて……!!
「あっ……あぁぁぁぁぁ!!」
瞬間、僕は彼女の奥深くに自分の欲望をぶちまけた。
勢いよく飛び出たものは彼女の内側を白く染め、その熱に襲われたメアリはぎゅっと離さないようにと強く締め付けて射精している僕に追い打ちをかけるように快楽を与えてくる。
「あっ……ああっ……♪」
どくん、どくん。
膣内で、僕はいつになく荒々しく震え続けて彼女を僕の色で染めていく。
腰の動きを止めてしまった妻は、その熱を下の口で味わい尽くしているのだろう。
顔はだらしなくとろけたように筋肉が緩んで、唇だって開きっぱなしで……いやらしくも、幸せそうな表情だ。
そんな時間も、精の生成がやむことであっけなく終了した。
「あは、っ……♪」
力の抜けた体が、僕の胸に倒れ込む。
「えへへっ……♪」
意識をなくしたのではないのは、僕の胸の中で妻が浮かべる満面の笑みが何より如実に物語っていた。
さぁ……ポリネシアンセックスも、そろそろ最後の段階だ。

E :絶頂が終わってもくっついたまま長時間抱き合う

と、いったところで……最後の段階は、いつも繋がったまま寝る事が圧倒的に多い魔物とその伴侶である僕達にとって、意識するまでもない事ではあるんだけどね。
「あなたぁ……♪」
僕の腕に抱かれる妻は、胸の中から幸せそうに僕を見上げてくる。
雄の匂いには敏感な魔物にとっては、愛する者に抱かれるだけで笑顔になる事が多いけれど……今日に限っては、それだけじゃないだろう。
「ねぇ……やっぱり、初めて良かったと思わない?これ……」
「あぁ……そうだね」
手順通り正しくできたかどうかはわからないけれど、そんな事はもう些細な問題だ。
自分でも思っていた以上にメアリと深く繋がって、気持ちよくさせあって……純粋に相手を愛するからこそ交わりあう、昔の気持ちを取り戻せたような気がする。
これも、あの時妻が僕とポリネシアンセックスをしようと提案してくれたからこそのものなのだろう。
「また明日から……もう一度、やってみない?私……この快楽、クセになっちゃったみたいなの……♪」
「ははは……我慢、できるのかい?君、昨日まですごく酷い顔してたけど……」
「そ、それはそうだけど……」
恥ずかしそうに、僕の胸に顔を埋めて表情を隠す妻。
勿論、大歓迎だけどね。
そう続けようとしていた僕に、意外な言葉が返ってくる。
「そんな事言ったって、あなただってこの前は酷い顔してたわよ?ほら、仕事から帰ってきた時……」
「え、そうだったかい?参ったな、あの時の事は見逃してくれよ……」
「……まぁ、私も毎日ずっこんばっこんやってたから、そのせいもあるのかしらね」
「そんな事ないさ。君の乱れる顔を見るだけで、僕は元気になれたんだから。むしろ、それがなかったらやっていけなかったぐらいだよ」
「本当に?嬉しい……」
なんでもない会話が、僕達の間で弾むように繰り返される。
そういえば、こんな風にセックスの後にのんびりするのは初めてな気がするな……
いつもお互いの体を貪るように気持ちよくなっては、疲れてすぐに寝ちゃってたし。

心まで深く繋がる、か……

妻が見せてくれた雑誌の一文を、ふっと思い出す。
行為の余韻に浸りつつ、ベッドの中で繋がり合ったまま彼女との会話を楽しむ。
たったそれだけの事なのに、僕は長い間こんな簡単な事さえしていなかったなんて。
なんだろうな……とっても、心地が良い。
穏やかな気分でいると、やがて睡魔が襲いかかってくる。
けれど僕はそれに抗わずに、心地よさに任せて目蓋をゆっくりと閉じていった。
「あなた……お休み……♪」
胸の中から聞こえてくる、安らかなメアリの声。
あぁ……お休み。
内心でした返事は、きっと彼女にも届いている事だろう。

こんな気持ちになるなら、またポリネシアンセックスをするのもいいかもしれない。
まどろむ意識の中で、僕はそう感じながら……彼女と一緒に、夢の世界へと堕ちていくのだった。







……以上、とある夫婦の実体験談でしたがいかがだったでしょうか?
四日間という、短いようで長く感じる時間を乗り越えて、より深く繋がった二人……
ただでさえラブラブだったこちらの夫婦の間にも、より精神的な深い繋がりが産まれたのではないでしょうか?

さぁ、これを読み終わった貴方も、ポリネシアンセックスにレッツトライ!!
――――――ミクコ=モトミヤ(種族:形部狸)著
14/10/01 23:58更新 / たんがん

■作者メッセージ
おまけ
ある街の本屋で

「ミクコー?何してるんだい、一心不乱にペンを動かしてさ」
「これっすか?いやー、大した事じゃねっすよ。これ、うちにも置いてある雑誌なんすけど……そこでちょろっと、記事を書かせていただいているんす」
「どれどれ……って、『月刊チャーム』!?これ、うちの本屋でも魔物娘に大人気の情報誌じゃないか!?君、ここに記事を載せてもらってるの!?」
「ま、数ページ単位の小さな記事っすけどねー。けどこれ、うちにもメリットあることなんすよ?」
「うちにも……うちの本屋の名前でも載せてもらったのか?」
「そんな直接的じゃないっす。そうっすねぇ、強いて言うなら……この前作った特設コーナーの本、きっと売れるんじゃないっすか?」
「はぁ……どうして、そんなことがわかるんだ?」
「わかってないっすねぇ。うちら形部狸にとって……流行なんてのは、自力で作り出すもんなんっすよ♪」

後日、その本屋に置かれていた軽い前戯の仕方やセックスの我慢法等の本が、やたらに売れたとかなんとか。

後書き
魔物娘図鑑よ、私は帰ってきた!!

……とゆうわけでどうもお久しぶりです、たんがんです。
ツイッターばかりやっている内に気がつけば約五ヶ月という長い放置期間になってしまいましたが、覚えてくれている方はいるでしょうか。

この作品はリアルの知り合いに「ポリネシアンセックスについてお話を書いてみてよ!!」と言われた結果生まれたものなのですが……たんがんは正直、そう言われるまでポリネシアンセックスというものが何なのかさえ知りませんでしたww
とゆうわけで、今回のお話はポリネシアンセックスについて必死こいて調べながら書く事になったものなので、多少間違ってるかもしれません。
とはいえ、図鑑世界でも偶にはこんなスローなセックスがあってもいいんじゃないかなぁ、と思う程度には興味深い題材でした。
書いてる途中には他の方がこの題材で先に書いてしまうのではないかとビクビクしながら書いておりましたが……いかがだったでしょうか?

それではここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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