連載小説
[TOP][目次]
1人じゃない
現在地-反魔物領の街ガレス-南門付近

俺は教団の兵士を突破した後、すぐに北の関所に向かって旅人と言って関所を抜けて街に向けて走った。

だが…

「凄く廃れてて、不気味な街だな」

夕日の赤い光のせいで街並み全体が赤黒くなっているし、道端にはゴミも散らかっているし、さらには失業者の様な奴等がバタリと倒れている。

既に生きているのか、死んでいるのかも分からない。

「センお兄ちゃん……なんだか恐いよ」

「大丈夫だ。でも俺が良いって言うまで服の中に隠れてろよ」

「うん」

俺の服の中に隠れているポップも少し恐いのか震えている。

とにかく地下に入ってアクアと合流できる場所……下水道への入り口を探さないといけないな。

「おや、旅人さんかい?」

突然、近くにいた人物に声を掛けられた。

その人物は女で、臍の出た露出の激しい黒い服装にトラベラーズハットをかぶり、腰には細身のレイピアを挿した金髪の美女だった。

服装は過激だが、魔物らしい外見はしていないし、こんな反魔物領に魔物が居る筈も無い……どうやら人間の女らしい。

「ああ、ちょっとこの街に用があってな」

「こんな廃れた街に用があるなんて……どんな用件だい?」

「その言葉、そのまま返すぜ。お前も旅人だろ?」

女の足元には麻袋があり、向こうも旅人だということを現している。

「フフ、ボクもちょっと、ね。縁があったらまた会おうね」

そう言って女はスタスタと立ち去って行った。

何だったんだアイツは……妙な奴だ、警戒するに越した事は無い。

まぁ、とりあえず俺は近くの裏路地に入って用水路を探してウロウロするが、そんな俺の前に2人のチンピラが立ち塞がった。

服装はボロボロで、近頃何も食べていないのか顔の骨格が浮き出るくらい痩せていて、正直不気味だ。

それぞれ手にはナイフを持っているが、手入れはされていないのか血がこびり付いていて切れ味は悪そうだ。

「……何か用か?」

「ヒヘヘ、兄ちゃんちょっと金目のモン置いてけよ」

「ククク」

俺を旅人だと見て金を持っていると判断したんだろう。

「お断りだ」

そう言って踵を返して大通りの方へ戻ろうとするが、似たような奴が更に2人、俺達に立ち塞がる。

前後に2人ずつ立ち塞がり、退路は無いが…。

「逃げられると思ったのか、兄ちゃん?」

ベロリとナイフを舐めて俺に近寄ってくるが、残念ながら不運なのはこいつ等だ。

「そっちこそ、無傷で立ち去るチャンスを逃したな」





「で、何か言い分はあるか?」

「カ、カツアゲしようとして…スンマセンでした…!」

数分後、この裏路地にはボロボロのチンピラ4人組が俺に向かって土下座していた。

ボコボコにした後、俺に土下座しろと言ったんだが…。

「土下座の仕方が分からないッス」と言ってきたので仕方が無いので教えてやった。

「先ずはこう、正座をして両手を着いて頭を下げて……って何で俺がやらなきゃいけねーんだ!」

「「「「ギャース!?」」」」

と、言うわけでカツアゲしてきた奴等は俺に土下座している。

「さて、お前らには南側にある下水道の入り口に案内して貰いたい」

「へ…?下水道の入り口ならこの路地の反対側ッスけど」

……どうやらまたやってしまったらしい。

「じゃあそこまで案内を頼むぜ……断ったら…」

「「「「ハ、ハイ!案内させて頂きます!」」」」

そこからは何も言わずに右足のつま先でトントンと地面と叩くと、チンピラ共は元気良く返事してくれた。

なーんだ、案外いい奴等じゃないか?

つー訳で4人に先に行かせて俺はアクアへ念話を繋げる。

『アクア、俺はこれから南側の下水道の入り口に向かうから、そこで合流しよう』

『はい、分かりました』

アクアは既にこの街の用水路のような場所から侵入しているらしい。

そして俺は程なくして用水路のような場所に到着した。

「ここからあっちに向かって歩けばすぐに下水道への入り口がありやすよ……」

「そか、ありがとな」

そう言うと俺は懐から金の入った袋を4人に向かって投げる。

全部じゃないが、案内代だ。

「え、えと……」

「案内代だ、それで飯でも食えよ。顔色悪いからな。じゃな!」

ポカンとしているチンピラ4人を放っておき、俺は下水道への入り口に向けて足を進めると、1分もせずに見えてきた。

用水路へどんどん水が流れ出ている。

俺は回りに気配が無い事を確認すると、念話を繋げる。

『アクア、出てきてくれ』

「はいっ」

ザパッと水面から胸元までを出して、アクアの姿が見える。

「ポップも窮屈だろ?もう服から出ていいぞ」

すると俺の着物からポップもフワリと浮かぶように出てきた。

「窮屈なんかじゃないよ!センお兄ちゃんが近くにいて、すっごく安心したし、すっごく気持ちよかったよ!」

ぐっ……そうストレートに言われると反応に困るな。

ポップの子供のような素直な性格だからこそ言える事でもあるか。

「そっか、ありがとなポップ。そいじゃ敵陣に侵入だ!気合入れ直すぜ!」

そうして俺達3人は下水道より地下へと進んでいくが…。

「しまった……暗くて前が見えない……」

ぜんっぜん考えてなかった……どうするかな。

「私に任せて下さい。ポップちゃん、少しいいですか?」

「ん〜?な〜に?」

アクアは青白い魔方陣を展開させると、その魔方陣の中心にポップを呼んだ。

するとポップの身体が光りだした。

「おお、これならポップがカンテラ代わりになるな」

ポップに与えられた光は辺りの暗がりを照らすには十分な光で、カンテラのような役割になっている。

「わー、光ってる!」

「海底の暗い場所を照らず魔法なんですけど、勿論地上でも使う事ができます」

「成る程……よし、先に進むか」

そのまま3人で進んでいき、T字路に差し掛かるところで、俺達のほかに足音が聞こえた。

いや、ポップは飛んでるしアクアは泳いでるから足音は俺しか立てていないんだけども、ともかく俺以外の足音が聞こえてきた。

俺は人差し指を口元に立てて2人に静かにするようにジェスチャーで伝えると、2人共静かになった。

足音は反響しているが、確かに右側から聞こえてくる。

壁に背中を預けてこそっと覗き見ると武装した教団の騎士がゆっくりと此方に向かって歩いてくる。

こんな下水道で武装した教団の騎士が歩いているのは不自然だ。

間違いないな…ここには教団が隠したい何かがあるって事だ。

さて、こんな場所で見つかっても面白くないし…俺は騎士がある程度接近してきたら飛び出して一気に距離を縮める。

「なっ―!?」

向こうも反応して咄嗟に腰の剣に手をかけるが、遅い。

俺は滑り込みして騎士の股下に潜り込むと、両手で右足を、両足で左足を挟み込むと、そのまま思いっきり足を開かせた。

「はがっ……!」

声にならない悲鳴を上げて倒れる騎士を余所に、俺はすぐに立って後頭部を踏みつけて気絶させる。

「け、結構容赦無いんですね……」

水中に隠れていたアクアが少し苦笑いして出てきた。

「俺は基本的に教団とは相容れないし……何より自分の女達が捕まってるんだ。手段は選ばないってな」

そう言って俺達は先に進んでいく。

途中で何人か見回りの教団騎士を見つけたが、全て瞬殺して気絶させておいた。

そしてかなり地下深くまで潜った頃に見つけたドアを開けると、そこは明るく、大きなホール状の広場だった。

しかしホールは見た限り4階層になっており、それぞれの階層の壁には檻があった。

「間違いない……ここが魔物を捕らえる監獄か。アクアは水中から別ルートで逃げ道が無いかの確認と魔物の脱獄を手伝ってくれ。俺とポップはこのまま隠れて進んでみる」

「はい、何かあれば念話で……」

そう言うとアクアは水中へ潜って見えなくなった。

ドアから侵入して素早く柱や物陰に隠れて見張りの教団騎士の視線をやり過ごす。

さて、皆を探すと一緒に檻の鍵を探さないとな。

しかし流石に見張りが多くて隙が少ない。

このままじゃ動けないな……どうにかして看守室を探さないと。

すると俺が入ってきたドアとは別のドアから慌てた様子の教団騎士が入ってきた。

「大変だ!侵入者だ!」

「侵入者だと!?此処の存在が露見したというのか!?」

「いや、侵入者は単独らしい。此処への侵入目的は見えてこないがこのまま取り逃がすのは拙い。お前達も来い、最低人数だけ此処に残れ」

そうしてこの場所からは見張りの数が一気に減り、残ったのは5人程度になってしまった。

……侵入者ってアクアの事じゃないよな?一回念話を繋げてみるか。

『アクア、俺以外に侵入者がいるらしいがお前じゃないよな?』

『はい、今は水中に潜って移動しているので、バレる心配はないかと……』

なら一体誰なんだろうか……いや、今はこのチャンスを逃す訳にはいかない。

その侵入者とやらが捕まれば見張りは元に戻るだろうから、その前に看守室を探して鍵を奪い、皆を探さないとな。

俺は物陰から飛び出して、再び柱の影に隠れてまた別のドアから別室に移動する。

ドアの向こうは、通路の様な場所だったが、奥の方から話し声と鋭い音が聞こえてくる。

慎重に進んでいくと、奥に鉄の扉が見えた。

小さな小窓が見えたので、そこから中の様子を窺うと、俺は目を見開いた。

「オラオラ!汚らわしい魔物め!」

「あはは!どうしたどうした!?自慢の拳も繋がれてちゃ振るえないだろう!」

「クッソ……テメェ等………!」

部屋の中では緑色の肌に長くて少しボサっとした白髪で、頭から2本の角を生やした魔物が全裸で鉄の十字架に磔にされていた。

そして2人の白いフードを被り、教団の鎧を着た男2人に鞭で叩かれ、水をかけられていた。

ブチッと、俺の中で何かが切れた音がした。

ドゴォン!と、およそ人が何かを蹴るだけでは出ない音が出たが、そんな事はどうでもいい。

俺は目の前の鉄の扉を蹴っていた。

「セ、センお兄ちゃん…?」

「ポップ、隠れてろ……ここから先はお前に見せたくない」

そう言ってもう1度鉄の扉を蹴ると、鉄の扉が大きく歪んだ。

3度目、たったそれだけの蹴りでドアは壊れ、中へ入る。

「な、何者だ貴様!」

「今はこの魔物に神の罰を与えている所だぞ!」

そんな言葉に返答は要らない。

俺は部屋に入ると、片方の腹に本気の蹴りを叩き込む。

鎧には俺の足の跡がクッキリと残っており、それをまともに受けた騎士は一撃で気絶する。

「何っ!?」

「寝てろ」

もう1人にもグルリと回って回し蹴りを繰り出し、それが首元に直撃したため、吹き飛んで気を失った。

2人が気絶したのを確認すると、俺はすぐに2人の服を弄って魔物を磔にしている十字架の鍵を見つけ出した。

「お、おいお前……」

俺はすぐに十字架で磔にされている手足を拘束している鉄具を外すと上着を彼女にかける。

「こんな場所は……許せないな」

徹底的に叩き潰してやる。

「アンタ、俺の仲間のフェアリーと一緒に監獄の鍵を探してくれ。俺が暴れて連中の気を引いておく」

それだけ言うと、俺はすぐにこの部屋を出て先ほどの通路に戻る。

だが向かいから教団騎士が数人やってきている。

多分さっき俺が扉を破壊した音を聞いて確認でもしにきたんだろう。

「何者だ貴様!」

「侵入者か!?」

「ウォオオオオオオオオオオオオオ!」

俺は空中に跳び、1番前にいた騎士の顔面を蹴ると、そこを足場に騎士達の後ろに着地する。

そしてドアを開けて先ほどの広場に戻り、振り返って騎士達を迎え撃つ。

「くっ……貴様、此処がどこだか分かっているのか!」

「ああ、分かってるさ……此処は!」

騎士達が剣を抜くと同時に俺は駆け出した。

「お前達の墓場だ!」

まずは先頭にいる奴に接近し、振り下ろされる剣と黒空がぶつかり合う。

「カァッ!」

「なっ―!?」

ぶつかり合った剣は、脚力と黒空の強度に耐え切れず、半ばから折れる。

そして振りぬいた左足を軸足にして流れるように右足の回し蹴りで目の前の騎士を蹴り飛ばす。

続いて俺に同時に斬りかかって来る騎士が2人。

少しだけ後ろに下がって剣撃を回避すると、すぐに跳躍して騎士2人の肩の所に足を置くと、そのまま足を閉じる要領で2人の頭と頭をぶつけさせて気絶させる。

次に斬りかかって来た騎士も、身体を僅かに横に逸らすと剣は空振りし、その騎士の手を掴んで引き寄せると同時に右足を振り上げて鎧ごと身体を切り裂いた。

「次はどいつだ…?」

凄んでやると、騎士達は剣を構えてはいるものの数歩後ろに下がっていく。

「怯むな!此方は数で勝っている!押せ、押せー!」

「援軍を呼べ!敵襲ー!」

1人2人は根性のある奴がいたらしいが……今の俺は止められない!

1番近くにいた奴に跳び膝蹴りをして倒すと、次に大剣を持った騎士に向けて左足で上段蹴りを放つ。

「ぬぅあ!」

だが反応されて受け止められ、競り合いになるが、俺が急に力を抜くと勢い余ってそのまま大剣を振り下ろしてしまう。

そしてこっそりと俺の背後に回り込んでいた騎士を間違って斬ってしまう。

「ぐあっ!」

「し、しまった!」

大剣を振り抜いて体勢を崩している騎士の脇腹を狙って白地で斬る。

そこでドアから十数人の騎士が入ってきた。

増援か……だが雑魚が何人増えようが同じだ!

俺を取り囲むようにして構える騎士達は、3人が別方向から同時に接近してきた。

俺は地面に手をつけて、カポエラのように逆立ちから足を広げて手で身体を回転させる。

「「「ぎゃあっ!」」」

そして別方向から来ていた3人を同時に斬り裂き、回転を止める。

今度は俺から行く。

走って勢いをつけて跳ぶと、両足を前に出して1人の騎士の首を両足で挟みこんで掴むと、そのまま身体を捻る。

回転しつつ、騎士の首を取りながら地面に叩きつける。

首がイったのを感触で感じながらすぐさま立ち上がる。

槍を構えた騎士が一気に突撃してきて槍を突き出すが、俺は再び身体を逸らす。

僅かにかわし損ねたのか、胸元の薄皮1枚が切れて血が出るが、かすり傷だ。

俺はかわした槍を掴んで先端を地面につけると、槍を足場にして騎士に近づいて顎を一気に蹴り上げた。

蹴りを放った時に、騎士達の奥に2人ほどの魔導士が見えた。

杖を持ち魔法を詠唱している。

俺がそいつ等を狙るのを予想していたのか、俺の前に5人の騎士が立ち塞がる。

「邪魔だぁああああああああっ!」

地面を蹴り、跳ぶと同時に身体を回転させて右足の白地を振るう。

5人を一斉に薙ぎ払い、そのまま魔導士に向かって蹴りを放つ。

「うごふっ!」

腹に蹴りが突き刺さり、吹き飛んだ魔導士は壁に激突して気を失う。

だがもう1人の魔導士は既に魔方陣の展開も詠唱も終わっていた。

「喰らえ!炎獄の雨を!」

魔導士の展開した魔方陣から雨の様な、直径30センチ程度の火球が飛び出してきた。

流石にこれは避けきれないと思った俺は、正面から力尽くで突破する事にした。

火球が当たるたびにボン!と爆発して俺の身体を焼くが、この程度なら問題は無い!

「フ……ならばこれはどうだ?」

今の魔方陣とは別の魔方陣を展開すると、今度は2メートルはあろう巨大な火球が現れた。

「うわぁ!皆逃げろ!」

「巻き込まれる!」

仲間の犠牲も厭わないってのか……ふざけんな!

俺が更に加速するのと同時に、巨大な火球は放たれた。

「死ねぇええええっ!」

「残れよ、俺の身体!」

放たれた火球はボガァアアン!と巨大な爆発を起こした。

「ククク……この魔法が直撃すれば生きてはいまい」

「その台詞……フラグだぜっ!」

「何っ!?」

奴が油断したのを台詞で確認すると、俺は黒煙から飛び出して首を切り裂く。

ぐ……今のは流石に結構な傷を負ったな…、俺の右腕と上半身の右側が重度の火傷を負っちまった。

「い、今だ!奴は手負い、このまま押せ!」

ハッ、この程度の傷で俺を倒す気かよ!

飛んでくる矢を身を屈める事である程度かわすが、2本ほど右肩に刺さる。

だが俺は怯まずにすぐさま走り、手近な騎士を蹴り飛ばすと、背後から迫ってきていた騎士の剣を振り返り際に蹴り、遠くへ弾く。

両腕を掌にし、一度後ろに下げて勢いをつけると同時に騎士の鳩尾に叩きつける。

「ぐぼっ…!?」

鎧を着ているから全ての衝撃は与えられないがある程度の衝撃は与えれたみたいだな。

だがすぐに背中に鋭い痛みが奔り、血が噴出す。

背後から斬られたか…だが!

「がっ……こんな、傷でぇっ!」

痛みに耐えて振り返りつつ後ろ蹴りを放ち吹き飛ばす。

そして近くにいた騎士に接近し、左足を思い切り蹴り上げて手を蹴り、剣を弾き飛ばすと、顔面に踵落としを入れて怯んだ隙に右足の白地で首を斬る。

「ゼェ、ゼェ……!」

く、くそ……血が足りない、意識が朦朧としてきた。

肩膝を着いてその場に座り込むが、向こうは俺を包囲してくる。

しかも残りの人数はまだ20人以上いる……。

「ここまでだ…教団に仇なし、魔物に組する人間は――」

皆………すまない。

「死ね!」

騎士の剣が俺に振り下ろされるその瞬間、騎士の剣が弾き飛ばされる。

「大丈夫?」

「お前は……」

騎士の剣を弾き飛ばしたのは、細身のレイピアで、その使い手は俺が先ほど地上で出会った金髪の旅人の女だった。

何故、こんな所に…?

「貴様、何者だ!」

「さっきの侵入者じゃないか?」

「どいつもこいつも、人間の癖に魔物に組するとは!」

騎士達が剣を構えるが、彼女もレイピアを構え直す。

「多勢に無勢……そういう時、ボクは無勢の方に加担したくなっちゃうんだよね」

よ、よく分からないがどうやら彼女は俺に味方してくれるらしい。

「手助け、助かる……」

「フフ、お礼なんていいよ。それに……君が危なかったからついつい飛び出しちゃったけど、逆転の秘策とかは用意していないんだ」

1人で10人か……さっきの半分と思えば気が楽だ。

「怯むなよ、敵はたった2人だ!数で押せば我々の勝利だ!行け!」

周囲を包囲している騎士達が俺達へを駆け出し、剣を振りかざす。

しかし、その騎士達を大きな蛇の尾が薙ぎ払った。

「な、何だ!?魔物の――!」

そしてその尾の持ち主に視線を向けた騎士達は、瞬く間にその身体を石にしてしまった。

「アンタ達……今まで私にした仕打ちを忘れてはいないでしょうね?」

尾の持ち主は下半身は蛇で、上半身は女、髪の毛の先が蛇になっている、青い髪の魔物だった。

しかし服は着ていない……こんな状況でなんだが、目のやり場に困る。

「なっ、メドゥーサが何故檻の中にいないんだ!?」

「魔物が逃げ出しているぞ!」

「怯むな!魔法を撃ち込み、あの2人は数で制圧しろ!」

騎士隊長の指示により、魔法を唱える魔導士と、俺達に群がる騎士達に分かれるが、突如魔導士の足元に緑色の魔方陣が浮かび、竜巻が発生して魔導士を吹き飛ばした。

「「ぐぁあああああああっ!?」」

「フン、人間が…私を散々辱めた罰を与えてやる」

声がした方を見ると、ここより1つ上の階層に立っている金髪で、耳が長く先が尖っている魔物がいた。おそらく今の魔法を放ったのは彼女だろう。

やはりと言うか、全裸だった。

そして俺が自分を見ていると気がついたのか、顔を真っ赤にして胸と股を手で隠した。

「こ、こっちを見るな馬鹿者!」

「ス、スマン」

慌てて目をそらして目の前の騎士達を視線を戻して集中する。

「慌てるな!まずはこの2人を始末するぞ!」

騎士の1人がそう叫ぶと、俺に斬りかかって来るが、何かに足を取られたかのようにその場に止まり、体勢を崩す。

俺も騎士も不思議に思い、騎士の足元を見ると、青い粘液のような物が騎士の足を地面に捕らえて放さなかった。

「な、なんだこれは!?」

俺にも正体が分からず、そのまま様子を見ていると、青い粘液が少し形を変化させ、騎士の足を捕まえたまま一部が少女の顔のようになった。

「今の内に……!」

変化した少女の顔にそう言われ、俺はハッとする。

今ならこの騎士は隙だらけだ。

すぐに近づいて白地で鎧ごと足を取られている騎士を切り裂いた。

「すまない、助かった」

「んーん」

そのまま青い粘液は形を成していくと人の女性の形になった。

「くそっ!スライムまで……魔具に閉じ込めていたんじゃなかったのか!?」

そうか、こいつはスライムだったのか。

「フン、スライム如き下級の魔物が逃げ出した所で何になる!まだまだ数は此方の方が上だっ!」

まだまだ俺達を囲んでいる騎士達は減ってはいない。

だがこうして魔物達が加勢してくれているって事はポップ達がうまくやっているという事だ……もう少し時間を稼げば……。

「君の傷では動くのもやっとだろう。ボクが前に出て戦うから軽く援護だけしてくれれば……」

金髪の彼女がそう言ってくれる。

俺が言うのもなんだが、この数相手に1人で前に出るのは得策じゃないな。

「奴等に反撃の隙を与えるな!行くぞ!」

そして今度こそ俺達に一斉に駆け寄ってくる騎士達だが、また横から俺達と騎士達の間に飛び込んできた。

「オラァアアアアアアアアアアアアア!」

「「「ぐあああああああああっ!?」」」

それは、先ほど俺が助けた緑色の肌に、長い白髪で、頭から角を2本生やした魔物だった。

俺がかけた着物の上着を靡かせて俺達を守るように間に飛び込んでくると、その拳の1撃で騎士を3人吹き飛ばした。

「おい、大丈夫かお前!」

そしてその魔物は俺を心配してくれているのか、駆け寄ってきてくれる。

「ああ……他の場所の魔物も解放してくれたか?」

「勿論だ。そこから助けた魔物に鍵を渡したから、どんどん解放されてるはずだ。アタシはアンタが心配になって戻ってきたんだ」

「センお兄ちゃん!」

少し遅れてポップも飛んでやって来た。

「ニャハハ、今までよくもやってくれたニャね〜」

「ウフフ、許さないんだから、たっぷりオシオキしてあげるわ」

このドームの折から出てきた、猫の様な魔物や、サキュバス、他にも様々な檻に入れられていた魔物が騎士達に襲い掛かっていく。

『センさん、今水生生物の魔物達を逃がしています!それから街にカリフが呼んだ親魔物領の軍が到着したみたいですよ!』

アクアからの念話が入る。

流れはこっちのモンだな。

「く……逃げろ!全員撤退だー!」

ワラワラと逃げ惑う騎士達を魔物達が追いかけていき、襲い掛かっていく。

「……ポップ、皆は見つけたか?」

「ううん、探したけどどこにもみんながいないの」

どこにいるって言うんだ……こういう時は此処の騎士に聞くのが一番だな。

俺は逃げ惑う騎士を1人捕まえて壁に押し付ける。

「どわっ!」

「オイ、最近に此処に運び込まれた魔物は何処にいる?」

「も、もう1階層下にある地下室だ!なんでも隊長が用があるって…重要な魔物や強力な魔物はそこへ閉じ込めてあるんだ!」

「そうかい」

ポイッと捨てるように騎士を解放すると、俺はすぐにもう1階降りる為に階段を探す。

「そういえば、鍵を奪った看守室に階段みたいなのがあったけど…」

「そこへ案内してくれ!」

「ちょっと待ちなさい」

俺が緑肌の魔物に詰め寄るが、その前に先ほどメドゥーサと呼ばれていた下半身と髪の先が蛇になっている魔物に呼び止められる。

「さっきから見ていたけれど、アンタは1人で無理をしすぎているわ。そんなボロボロの身体で一体何が出来るって言うの?」

足りない血に朦朧とする意識、右半身の火傷に、背中の斬り傷。

確かに俺の身体は限界に近い……だが

「それでも行かなきゃいけない。俺の仲間が、待って居る筈だから」

「……アタシは着いてくぞ。助けられた借りもあるしな」

「ボクも付いて行くよ。まだ捕まっている魔物がいるならボクの目的は果たせていないからね」

緑肌の魔物と、金髪の女はついてきてくれるらしい。

「もう、仕方ないわね……私も付いて行くわ。貴女も行くわよね?」

メドゥーサが俺への同行する事になると、メドゥーサが俺の後ろへ声を掛けていることに気がつき、振り返ると、恥ずかしそうに裸体を手で隠す、さっき俺達を魔法で助けてくれた金髪で耳の長い魔物がいた。

「か、勘違いするな!私が行くのは私を捕らえた人間へ報復するためだ!」

まぁ、目的はともかく一緒に来てくれる仲間が増えるなら歓迎だ。

「俺はセン・アシノだ。宜しく頼む」

「ポップはポップだよ!」

俺とポップが自己紹介すると、先ず最初に金髪の女が笑って答えてくれた。

「ボクはメリス。宜しく」

パチッと俺に向けてウィンクをしてくる所を見ると、飄々としていて掴み所の無い人みたいだな。

次は緑肌の魔物が口を開いた。

「アタシはオーガのテナだ。腕力なら任せておきな」

アノンと似たような姐御肌だな。

同じ様なタイプと言うか……。

「次は私ね。私はヴィーナ…見ての通りメドゥーサよ」

続いて下半身と髪が蛇の魔物、ヴィーナは髪を掻き揚げつつ自己紹介をした。

「私はプリム…」

スライムの彼女は、少しだけ小さい、だが芯は強そうな声でそう言った。

「…………」

しかし何時まで経っても耳の長い魔物の彼女が口を開こうとしない……。

魔物と言えど性格には種族差や個体差があるんだろう、全裸じゃ話も落ち着いてできないのかもしれない。

俺は倒れている騎士が羽織っていたマントを奪うと、彼女の肩にマントをかけてやった。

「あ……」

「とりあえず、羽織っておけ」

「……私は、エルフだ。名はエステル」

マントを羽織らせると、少しの沈黙の後に種族と名を名乗った。

「……良し!これからもう1階下りる。看守室に行くぞ!」

と、走り出した矢先、俺だけ皆とは別の方向へと走り出してしまった。

「って、ちょっと!看守室はこっちよ!」

「っとととと」

ヴィーナが呼び止めてくれて、慌てて俺は止まった。

「何でアタシが先導する方と別の方向へ走るんだ!」

「す、すまん……」

テナにも怒鳴られてしまった……俺はテナの後をしっかりと着いていこう。

看守室に入ると、階段はすぐに見つける事ができた。

俺達はすぐに階段を降りて、先にあった通路を走りドアを蹴り破る。

そこには、先ほどのホールと同じ様に檻があり、今度こそ俺の仲間達の姿もあった。

「皆!」

「セン!?」

「セン!」

「ご主人様!」

俺が声をかけると、アノンやイオ、クー、他にも皆全員揃っていた。

「ほう…生きていたのか、貴様」

そしてそこに、白い鎧着ており足には刃を装着した銀髪の男が居た。

「お前…」

「こいつ等を痛めつける手間が省けたな……聞きたいことはやはり直接貴様に聞くことにしよう」

そう言うと、ホールの中央に俺と向かい合うように銀髪の男がやってくる。

「お前…俺の仲間に手荒な真似したんじゃねぇだろうな?」

「多少な…貴様の脚刀流に関しての情報を聞こうと思ったが、知らぬ存ぜぬでな……」

俺は皆に脚刀流の事をあまり話していない。

知らないのは当然だろう。

「一体お前は何が知りたいんだ」

「それは――」

奴が口を開いた瞬間、俺達のいる場所が強い地震のように揺れた。

「うおっ!?」

「チッ……上層階で魔物共が暴れているな。何れ貴様とは決着を着ける!それまで待っていろ!」

そう言うと奴は向かいにある扉から出ていってしまった。

ぐ……奴を追いたいがこのままだと此処が崩れるのは時間の問題だし、皆を助けなければならない。

仕方が無いな、奴は諦めるか。

「皆も手伝ってくれ!」

看守室からかっぱらってきた鍵を束から幾つか外し、全員に渡して手分けして牢屋の鍵を開けていく。

「セン〜!あんな崖から落ちて、死んじゃったかと思ったよ〜!」

「この馬鹿!心配させるんじゃないよ!」

ティピとアノンが、檻から出てきた途端にそう言ってきた。

確かに、心配をかけたか。

「すまない……これからはもう負けないさ。さぁ皆、逃げるぜ!」

俺の仲間に、メリス、テナ、ヴィーナ、エステルを加えて俺達は上の階を目指して階段を上る。

上の階に出ると、魔物と騎士達が争っているが、殆ど魔物側の圧勝のようだ。

だが此処の下層が崩れて危ないってことはここの地面が危ないって事だろうな。

「全員聞け!」

俺が全員に向けて大声で言うと、魔物も騎士も1度戦いの手を止めて俺達の方を見る。

「ここの地面がもうすぐ崩れる!急いで地上まで脱出するんだ!」

俺がそう警告すると、ホールの一部分の地面が崩れていく。

「うわっ!危ない!」

「に、逃げろ!でないと落ちて死んじまう!」

「私達も生き埋めはゴメンよ」

騎士も魔物も関係なく、皆地上への出口へと走っていく。

それに続くように俺達も脱出をするが、アクア達は大丈夫だろうか……少し念話を繋げてみるか。

『アクア、下層の方が崩れてきてるが、そっちは大丈夫か?』

『はい!私達はもう地上に出ました!カリフとも合流したから安心して下さい!』

向こうはもう大丈夫だな。

後はもう俺達が脱出するだけだな。

俺を最後尾として、階段を上り通路を走るが、途中で突然身体の力が抜けて膝を着いてしまう。

「ハァ、ハァ……な、なんだ急に……どうしちまったんだ…?」

あ、いや……さっきまで怒りで我を忘れてたけど、今の俺って血が無くてボロボロなんだっけか……それに半身に大火傷してるし…。

立ちあがろうとするが、俺が足を立てた瞬間、足元のタイルに皹が入った。

「あ」

っと言う間に皹は広がっていき、地面は砕けた。

「うぉあっ!?」

ギリギリで落ちる前に裂け目を掴めたが、片手だけだ。

手に力が入らないし、意識を失いそうだ……ヤバい……。

も、もう駄目か……限、界だ……。

だが、放しそうになった手を、誰かが掴んで引っ張り上げてくれた。

「え……」

「全く、体力が無くなったならそう言ってくれ。センをおぶる位、私達には何の苦でもないのだからな」

イズマの手が、俺の手を掴んでいてくれた。

そのまま引っ張り上げられ、ダンピールはゴブリン達が担ぎ、俺はイズマの背中に乗せられた。

「たまには、あたい達に兄貴を助けさせてくれよ!」

「そうだぞ。センは私達を助けてくれたんだ……今度は皆でセンを助ける番だ」

「……(コクコクコク)」

パノの言葉にアーリアが同意し、シャナですら何度も頷いている。

……そっか、確かにそうかもしれない。

この件だけじゃない……思えば色々1人だけで考えて、悩んで、貫こうとしていた。

「折角、皆でいるんだ……行きはセンが頑張ってくれたなら、帰りは私達が頑張ろう」

仲間になったばかりのティファルナにもこう言われちまった。

はは、そうだよな。

「ん、出口」

「急げ急げ!」

「いっそげー!」

ミンとポップ、キャノを先頭として次々と俺達も脱出していく。

出口の光を浴びながら、俺は目を閉じて仲間の存在を感じていく。

アノン

ポム

パノ

キャノ

ウト

アーリア

ティピ

ヴェロニカ

クー

シャム

ミン

イオ

ポウ

コロナ

ミスティ

シャナ

イズマ

ポップ

ティファルナ

俺は―――



















1人じゃない。
13/01/23 20:45更新 / ハーレム好きな奴
戻る 次へ

■作者メッセージ
漸く完成した…。

途中で内容を変更したため、若干変な部分があるかもしれませんがどうかお見逃しを……w

今回の事件で、センは全てを1人でこなそうとしていたのを再認識、仲間の存在を改めて確かめます。

もう1人の脚刀流使いとの決着、カズマとの因縁も持ち越しです。

ここから暫く日常編に入るので、少々お待ち下さい。

感想、待っています。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33