連載小説
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仕事/愛


「なるほどね、つまり何かあるとすればここのポイントからか。」 

今の茜華はスーツ姿。
真剣な眼差しはモニターに写し出されている地図へと注がれていた。

茜華の仕事は護衛エージェント。
単なる警備会社の業務ではない。公には開されない貴重なモノの運搬や、重要人物の付き添いで警備をすることだ。

では、一般の会社とは何が違うのか。

まず、俗に言われるSPなどとは異なり24時間体制の仕事はしない。
主に出国や入国時の安全に確保し、そこから常警備の体制へ確立に移行するまでのスペシャリストだ。

そしてその会社はほんの30名、全てのエージェントは魔物娘で構成されていることが大きな特徴となってくる。

人間とは異なり、特殊な能力を持っている者、身体能力の高い者、悪い者を正しい道に戻し結婚を考えている、つまり婚活に利用している者。
様々だが既にパートナーのいる魔物娘が多いため出動が深夜になることはあっても仕事での拘束時間は伸ばさないことが求められていた。

今回、茜華はゲイザーの凶螺(きょうら)、ギルタブリルの鬼灯(ほおずき)、グレムリンの菟弥(うや)の四人で“運びもの”をするのだ。

「せや、つまりは狙撃されても最悪の事態は余裕で防げるちゅうことやな。」

菟弥がモニターに触れず空中で手を動かすと狙撃がある場合の弾着ポイントが予測された。

「運ぶ物の大きさからして破壊は不可能。茜華であれば問題は皆無。むっ、ここはどうなっている。」

鬼灯は冷静に穴がないかを見ると監視可能かつ、なにも印のついてないなポイントに気づいた。

「それを今から話そう思ってたのにせっかちやのぉ。鬼灯にはここから監視を頼むわ。」

「理解、了解した。」

「ホンマにここを押さえておけば不測の事態も対処は可能やろ。茜華がブツの側に置って鬼灯がこのポイントから監視してればどんなに手強い相手でも4分で決着がつくわ。」

「なら、私はこのポイントの磁気を調べて現場でその磁気を帯びた人間がいたら菟弥に報告すればいいのね。」

「もちろん、暗示をかけてからだよな?」

「茜華の言うとおりや。」

「わ、分かってるわよ!今言おうとしたもん。」

「せやな、分かっとるで。」

ニヤニヤと凶螺を眺め、対象はそれに対しプイッとそっぽを向いてしまった。
ゲイザーの力は魔物娘の中でも高度に位置しその能力は多岐にわたる。
場所や物、人などの魔力の磁気を視覚的にとらえることができ、またその磁気は残滓のように体に付着することから上記の会話通りのことが可能である。

ちなみにかける暗示は、思考を停止しその場待機だ。
凶螺も夫帯者のため犯す、犯される等の暗示は一切ない。

「今回は27億2千万相当や。いきらんと確実に成功させてこう。」

「魔法石をこれだけの量運ぶってのはすげぇなぁ。」

魔法石とは魔界産の特殊な鉱石で主にリング、指輪などに加工されるのもだ。
魔力によって加工が可能で一度形付くと変化させるのはサイクロプスでも不可能であるといわれている。

強奪はもちろん、ライバル企業が何らかの方法で魔力を流し使い物にならない使用とたくらんでいるかも知れない。

もちろん、万一というだけで基本的には何もないのだがリスク管理から企業が依頼してきたのだ。

「流石に人間界であれば私たちがでるしかないですわね。」

「これで指輪作るのを楽しみにしとる連中が仰山おるんや、絶対に失敗できへん。」

4人は頷き、細かい点まで作戦を詰めて行くのであった。


ーーーーー☆ーーーーー

「泰華遅いな…」

つき合い始めの二人は週末の今日、仕事終わりに飲みの約束をしていた。 

「せ、茜華さん、お待たせしました。」 

「おっ、泰華おつか…どうした!?」

後ろからした弱々しい声を見ると泰華が立っていた。
正確には茜華の知らない泰華が。

「泰華お前、なんだその目!」

青あざ。
薄目は開いているが左目のあたりが腫れぼったくなっていた。

「あ、あはは、これくらい大丈夫ですよ。」

ヒラヒラと手を振って如何にも、何でもないような雰囲気で話を進めようとする。

「ウソつくなよ!」

「い、痛いですよ茜華さん…」

茜華の愛した者とはかけ離れている状態の顔。泰華は軽く振れられるだけでよろめいた。

「茜華さん、本当に何もないんです。大丈夫ですから…」

それを聞いた途端それまで心配の色が濃かった瞳に変化、ギロリとまるで親の敵を見つけたような、そんな目。

「泰華…よく聞け。あたしの質問に答えるんだ。」

出会って間もない二人だが泰華は恐怖していた。
こんなにも怒る女性、ヘルハウンドだったのかと。そしてその怒りは誰のためでもない、自分のための怒りであることを理解する。

涙が溢れる。

「うっ、うっ…」

自分より大きな体に抱つくと後ろに手が回される。
抱擁の形が取られると慰めの言葉がかけられた。

「泰華、あたしが守ってやる。いや、守らせてくれ。何がったのかは分からないがとにかく話してくれ。そうしたら不安は全部取り除いてやるから。」

静かに泣いている恋人は話しそうにない。言いたいことは山ほどあるがまずはこの喧騒から抜けるべきだろう。

「とりあえず、どこかに行くか。」

弱々しく泣いている恋人を抱きかかえ茜華は歩き始めた。


ーーーーー☆ーーーーー

ベッドの上。

何も考えず、ビジネスホテルに入りそこに着くまでに購入していたもので簡易的に治療を施した。
その間も、終わってからも泰華を抱き片時もはなさないようにしている茜華。
少しして、泰華は徐に話し始めた。

「ぼ、僕またノルマを達成できなくて…」

概ね話を聞く限り泰華に非はなかった。泰華の勤め先は医療器具の商社。

分かる者には分かるのだが、相手先、つまり病院に高額な医療器具を買ってもらうためには非常に色々な手を打たなければいけない。
ノルマを達成するためには返品しても良いから購入の履歴だけを求め土下座をすることもあるくらいだ。

デスクワークを計算に入れていない労働時間。泰華自身、外回りを貸せられ任されていたうちの95パーセントからは契約を取っていた。それでも達成できないノルマなどはお察しであろう。
朝早くから営業へと出向き、通常であれば退社の時間にデスクワークを始める。自宅へ帰るのはてっぺんを越えるのも普通であったそうだ。

当たり前のように常々止めたいと感じていたが、そんな時、茜華とであった。何もない自分を受け入れてくれる恋人に嬉しい反面、これ以上自分の格を落としてはいけないと必死になる。仕事を止めたら別れることになるかもしれない。

「僕、茜華さんのためなら頑張れるんです。」

今日は早く帰れるように2.3日前から日程を調整し、その分残業を行っていた。
やっとのことで仕事を終え、念願の恋人との甘い一時に向かおうとしたところ。

「休んでいた同僚の見積もりと発注を…6件やってから帰れと言われました。」

「…」

嫌だとは言えない。
泰華の性格だけでなく、社風からも来ている。普段ならばだ。
しかし、今日は待ちに待った、楽しみにしていた日。泰華は初めて反抗した。

「明日、早く来てやりますと。」

課長は顔を真っ赤にして、泰華を小突き今からやる旨の内容を必死に引き出そうとした。
結果、応じない泰華への拳。

「もう、いい。」

話を聞いている間、泰華を抱きしめ虚空を見つめていたヘルハウンド。
口を開くと同時に一層強く、泰華を自らへと押し付ける。

「泰華…まず一つ言うぞ。あたしの伝を全力で使ってその会社を何とかする。」

「で、でも」

「そして、悪いが泰華にはそんな所は止めてもらう。」

有無をいわさない口調だ。泰華がなんと言おうと、もう絶対に覆らないことを察してしまうような声。

「…泰華は好きか?その仕事。」

「好きでは、ないです。頑張って色々な知識を付けることができましたがそれくらいです。」

なら、と早速電話を取り出しコールし始める。泰華には何となく察しがついた。
自分のために頼みごとをする電話だと。

「掬か?医療ビジネスに参戦してみないか?」

電話の向こうで「すくい」と呼ばれてた者が泰華には誰か分からない。

「分かった、じゃ、4日後な。よろしく。」

通話を止めたかと思えば、また別の所へとかける。どうやら警察のようだ。

「よっ、愛香。」

今度は「あいこう」と呼ばれる方らしい。暴行事件やらなんやらと言っている。

「じゃ、掬は4日で閉めると言っていたのでよろしく頼む。」

次々と言って、またコール。

「部長、はい、茜華です。今日から4日ほど有給を取りたいのですが。」

『何を言い出すかと思えば。もちろん、有給を取るのに理由なんて聞かねぇのが筋だ。が上司としてではなく、友人として聞こう。大丈夫なのか?』

「問題ありません。泰華…今、目の前にいるこいつのためです。」

頭を優しく、この上なく優しく撫でられる。電話の向こうは察しのよく、もちろん快諾を得られた。

『どこの誰だかしらねぇがヘルハウンドの伴侶を攻撃しちまったのが運の尽きだな。存分にやってこいっ!』

「部長の様な偏食でも食えない位のゲスですよ。でも…ありがとうございます。」

電話を切り天井を見上げ、片手で強く泰華を抱き寄せた。
深く、深く息を吐き出し泰華へと尋ねた。

「泰華、会社の番号を教えてくれ。」

「い、嫌です。」

「どうして?」

顔を、その瞳をのぞき込むように顔を近づけてくるヘルハウンド。

「茜華さんに、迷惑は…」

「泰華、愛してるよ。」

ピタッとその時間が空間に張り付いたかのように止まる。ゆっくりと茜華の唇が小さな男の唇を塞いだ。
ほんの少しの間だったが、もう泰華には嫌と言うほど気持ちが伝わってきていた。
上司の携帯番号を打ち込み茜華へと渡した。

『なんだ、幸谷。やはり後悔したか?ならすぐに戻って…』

「どーも、あたしは泰華の連れだ。」

『なんだ?間違い電話か?』

「間違い…間違いねぇ。まぁいいさ。明日から3日、泰華は出勤しない。」

『はっ?』

「もし文句があるなら今すぐにても労基を向かわせる。ちょいと知り合いが居るもんでな。それで、答えは?」

『お前は誰だ?何が目的だ?』

「さぁな。ま、それでは4日後に。」

通話が切られ茜華は素早く操作をする。と、同時に泰華の携帯も弄り、これでよしと一息着いた。

「着拒にしとかないとな。」

「…」

「泰華♪」

滑らかな動きで男をベットへと押し倒す。

「今日から3日は休みだぞ♪」

「茜華さん…すみません…」

「何がだ?ん?」

いつもの通りに頬に手を添え、親指で擽ってくる。泰華は今にも泣きそうだが待ったがかかった。もちろん、目の前のヘルハウンドから。

「泰華さ。あたしは泰華の性格を分かりきっているから先手を打つぞ。もし、また『僕なんかのために』とか言って一週間も申し訳なさそうにしてたら怒るからな。そんなことしてる暇があったら。」

仕事終わりで少し汗ばんではいるが良い匂いがふわりとし、密着すればもう数えるには途方もないほどの回数を触れてきた大きな胸が押し付けられる。そんな中、耳元で囁かれた。

「悪いと思ってるならエッチしよう♪」

泰華にはもうコクコクとただただ頷くしか無かった。

ーーーーー☆ーーーーー

ずっと、ずっとキスをしていた。大切なことを確かめ合いながら。

「泰華はあたしのものだ。嫌か?」

「いえ、僕は茜華さんさえ居てくれればそれだけで…」

「だろうな♪」

少し自信過剰かもしれないが、相手が酷く落ち込んでいるため安心させる必要があった。
しかし、同時に目の痛々しい傷が憤怒を、憎悪を呼び起こす。

「泰華、泰華…」

その感情は泰華の会社の人間だけではない。泰華を事前に守れなかった自分への感情でもある。
申し訳なさとやるせなさから抱きしめるしかできなかった。

「茜華さん…」

いつもより少し弱く、きゅっと抱きついてくる小さい男。
愛おしさを感じていたが触覚に反応が。

「茜華さん、揉んでも良いですか?」

「もちろん、あたしも泰華に触って欲しい。」

いつもよりゆっくりと茜華に触れその大きな球にツプツプと指を沈めていく。

「んっ…」

直接言わないが慰めの性交である。出来るだけ泰華の好きにさせる気でいた。
貪るように、しかし乱暴ではない揉み方で茜華は攻められる。 
 
「泰華、上手だよ。」

よしよしと頭を撫でられると泰華も嬉しくなってくる。
確実に、相手に気持ちよくなって欲しい。
それだけの気持ちで一心に揉みし抱く心にいやらしさは無い。
だが相手も魔物娘であり、プラトニックな終わり方は不可能である。

「んっ、ふう…。泰華今度はあたしだ♪」

「は、はい。」

茜華はベッドに座っている泰華の前にしゃがみ、泰華の下半身をむき出しにする。

「泰華、興奮してるか?」

ビクビクと脈を打っている泰華の分身に手を添えると茜華も喜色が洗われる。自分で興奮してくれていることは変わらないという事を自覚できるから。

「情けないですよね…凄く悲しいのに。茜華さんのことを見てたら…その…」  

それを聞いた茜華は当たり前のように首を横へと振った。

「いつでも、どこでもあたしだけは泰華の味方だ。情けなくて何が悪い!」

「情けないのは認められました…」

「冗談だ♪」

熱く勃起する肉棒に顔を近づけ躊躇無く竿全体を咥えた。たったそれだけのことだが泰華の体は快感に包まれ悪い意味でなく顔をゆがませる。

「らいは、ひもちいいか?」

喉奥まで咥えながらのコケティシュな喋りに普段では見られない茜華を見れている事が実感され興奮が高まる。
スロートを始めた茜華の口元から淫猥な水音がチャプチャプと漏れ部屋に響く。

「茜華さん、茜華さん…」

体を小刻みに反応させながら愛しい相手の名前を呼ぶと精神的満足が得られた。
少しして、茜華は一端口を離すと泰華への頼みごとをする。

「今だけで良い。もし良かったらだが呼び捨てにしてくれないか?」

「えっ?」

茜華には相応しくないから頑張る。あの日、酔いつぶれ茜華の家で誓った言葉だ。
単純に年上で泰華も話しやすい敬語であったが自分に自信を持てたとき、敬語を止めようとも考えていた。

何故、今茜華は求めるのか。
分からない、分からないが泰華も無性に茜華を呼び捨てにしたくなってきていた。

「せ、茜華。」

「〜〜〜〜っ!!」

自分の膝をパンパンと叩き何か悶えているようだった。

「だ、大丈夫ですか?」

「す、すまんすまん。思ってよりも“キテ”な。」

それじゃ、続けるぞ。
泰華のモノを亀頭をひと舐めし、また頬張る。
上下にスロートし頭が止まると口の中で舌が暴れた。

「す、凄く気持ちいいです。」

茜華の方を見れば目だけで懸命に泰華の方を向き、反応を見ていた。
しかし、それだけではない。泰華はほれに気づいてしまった。

「気持ちいいよ…」

“茜華”

途端、茜華は目を臥せ泰華の息子を咥えたままビクビクと肩を振るわせた。

「茜華さん…もしかしてイっちゃいました?」

頬を蒸気させているヘルハウンドに恐る恐る聞くと目をトロンとさせコクコクと頷いた。

「な、なんで…」

息を調えつつ茜華は口を開く。

「呼び捨てってさ、あしたは泰華のものって感じがするんだよ。」

相応しいか否かなどはもちろん茜華は気にしてはいない。だが、泰華の感じていることであればそれを尊重しようと考えていた。
故に、普段絶対に無い呼び捨てというものは茜華には特別な泰華との繋がりを感じられるものであるのだ。

「泰華ぁ、何で今さらに硬くなったんだ?」

愛している人の知らなかったことを知れ、しかもそれが自分を愛してくれている実感に昇華される。
もう肉体的にも、精神的にも興奮は収まらなかった。

「茜華さん、僕、茜華さんと繋がりたいです。」

「あたしもさ♪」

しゃがんでいた茜華はゆっくりと泰華の体を這うように撫で、立ち上がりベッドに横になった。

泰華はスルスルと茜華の下半身を露わにさせようとショーツを脱がすとクロッチと割れ目との間に糸が引いた。

「茜華さん…エッチです。」

いつもなら嬉しそうにする茜華も先ほどの告白からか少し朱くなってそっぽを向いた。

泰華は自分の凸を茜華へとあてがい、一気に腰を突き出した。

「んっっっ!」

いつも通り、いやいつもより大きく体を振るわし、さらにトロケた表情の茜華。

「泰華の、まだ大きくなってる…」

ドクドクと血液が海綿体をより硬くしていく。
茜華の目を見てゆっくりと腰を動かすとこれまたいつも以上に嬌声をあげた。

「ひうっ!気持ちいぃ…」

譫言のように呟き、泰華の腰の動きにあわせて声があがっていく。

「ぼ、僕も、気持ちいいです」

しかし、その顔はイマイチ明るくない。それを見た茜華は迷い無く泰華を抱き寄せる。

「泰華、ごめんな、守れなくて。あたしが恋人なのに…こんなケガ…」

傷に触れはしないがその周りを優しく撫で、舐める。
もう、泰華は自分に嫌気がさしていたがそれでも茜華は自身を責めている。
そんな状況のセックスが辛くて、もっと茜華に楽しんで欲しくて。

「茜華、僕こそごめん。今度は僕も自分を守れるようにするから。でも、本当に辛いときは助けてもらうかもしれないけど…その時はよろしく」

発言に一番違和感を感じているのが泰華自身、その後に茜華だった。

「いつでも言ってくださいね、あたしはあなたの味方なんだから。」

ペニスは挿入されており、文字通り生まれたままの姿で重なり合っている二人が笑いあう。
一通り笑い泰華は、よしっと顔を引き締める。

「茜華さん、気持ちよくなってください!」

ズンズンと茜華の腰に自分をぶつける。一応成人男性の全力だがヘルハウンドには快楽しか及ぼさない。

「泰華、好きだよ!だからいっぱい突いてくれ!」

一緒懸命に腰を振り自分を快楽へと導いてくれる目の前のオスが愛おしく、ひと突きひと突きで満たされていく。

泰華は茜華に倒れ込みお互いに口を貪るようにキスをする。
時間が流れているのかも分からなくなるくらいの濃厚な時間に二人は追いつめられていく。

「一緒に…泰華、一緒にイこう。」

「中で良いですか?」

「それ以外許さないさっ…」

先程よりもキツく抱き合い懸命にお互いがお互いを愛していることを言葉似せず伝える。
しかし、それも永久ではなく限界を向かえる

「茜華さんっ、イキますっ」

「キてくれ…はぁぁぁぁぁっ」

泰華はその欲望、愛情を注ぎ込み受け止める茜華は頭から白く塗りつぶされていく。
軽く息の切れている中で二人はそれぞれ自分を責めるのを止め、その幸せを噛みしめるのだった。


ーーーーー☆ーーーーー


「おっす、掬、愛香。」

ヘルハウンドが手を挙げる先には、それぞれ刑部狸とぬらりひょんがいた。
前者は着物のようなモノを着ており、後者は警察官のようだ。

あの日から4日。
茜華は泰華の働いている会社の前に出向いていた。もちろん、泰華も連れて。

「全く、オレは忙しいのだ。私的に警察を使うなど許されると思うのか?」

愛香と呼ばれた方は非常に喧嘩腰と言うべきだろうか。しかし、口元はにやけている。

「あしたは連れが殴られたという事実と4日後に犯罪が起こるかもという憶測を述べただけだ。」

茜華もにやけ気味に屁理屈を返す。二人はどこか似た様なところがあると泰華は感じる。

「公僕なれど己、分かっているだろう?」

「で、あるならば公私混合とは。」

泰華には全くと言って良いほど意味が分からなかった。辛うじて警察官の隣から解説が入る。

「君が泰華君かい?」

「は、はい!」

「いやぁ、この二人は出会った頃からこうだから。気にしないでいいよぉー。」

緩い、なんとも緩い口調で掬はフォローを入れた。

「お二人さんや、早いとこ行っちゃいしょー」

「チッ、結局変わらんか。茜華。」

「愛香、お前もな。」

茜華は泰華に寄り添い、会社の中へと入る。比較的大きな一階のホール。
その中に受付はあり、そこの嬢と刑部狸の掬が話すとすぐに社長室へ通された。
その間も茜華は泰華を自分の横で抱き寄せ離す様子はない。

「失礼しまーす!」

元気よく掬が扉をあけると歓迎ムードの社長が表れた。泰華も入社の際に見たのと週1での朝礼での挨拶くらいしか見ない。

「どうも、初めまして。私は…」

「あー、いーよ。面倒な挨拶は。んでー、例の件は?」

「早速準備させていただきます!」

社長は内通電話をしている間に泰華へ説明が入った。声の出先は隣にいる愛しいヘルハウンドだ。

「ああ見えても投資会社の次期会長だ。」

「いやぁ、茜華の言うとおり。ブラックな待遇のおかげでここの社員さん達は抜群の営業力持ってるんよ。ならばうちがホワイトにすれば利益はもっと上げられるわ。」

いたづらっぽく笑うと非常に可愛らしい掬に泰華は少し照れる。

「泰華君可愛いなぁ。もしだったらうちが…」

「掬、それ以上言うな。」

「おー、怖い怖い。」

泰華に色目を使おうとするモノには容赦のない茜華から待ったが入る。

「泰華も照れるなよ。」

「す、すみません…」

そこに社長が戻ってきた。

「お待たせいたしました!」

しかし、一人ではないようで部屋に人影はもう一つ入ってくる。

「失礼し…幸谷!」

課長であった。
泰華はビクッと竦み茜華の後ろへと逃げ気味に引く。

「こら、君、大きな声を出すんじゃない。」

「も、申し訳ありません。」

確実な敵意が感じられる目を泰華に向けつつ謝罪をいれる。

「朱鷺葉様、私はどのようにすれば良いでしょうか?」

「あー、社長さんは少し出ててもらえるとありがたいですねー。」

「承知しました!」

朱鷺葉、つまり掬にお願いされさっさとはける会社のトップに目を丸くして、呆然とする課長の男。
ちなみに、扉の前に愛香が立った。

「さーて、手短に言うよー。うちは朱鷺葉掬。投資ファンドを経営してる…といっても過言ではない者なんだ。ほいで同時にこの会社の株式の54パーセントを持ってる者ー。」

「54パーセント…!?」

株式会社の仕組み上過半数の株式を持っていれば株主総会を席巻可能となる。つまり、掬は事実上の支配権を握っているのと同じなのだ。
ちなみに、基本は買収対策として講じられる策はいくつもあるのだがそこは刑部狸。
金だけではないあらゆる“手”を使って儲け話を実現させるのだ。

「こ、これは、先ほどは失礼を…」

「気にしてないしー。全然おっけー!」

キャピルンルンと答える掬にまだ慣れない男。
しかし、本題に入るとその顔は青くなる。

「それよりもさ。君、誰かのこと殴ったことあるー?」

掬はシュッと拳を前に突き出しポーズを取る。

「い、いえ…」

刹那、ゾクリとしてしまう殺気が、一般人でも分かってしまうほどの殺気が男を襲った。
恐る恐るそちらを見れば泰華を庇うようにして立つヘルハウンドだった。

「正直に言おうねー。」

あくまで掬は冷静だが圧は感じられる言い方に変わった。
扉の前のぬらりひょんも凍るような視線を当ててくる。

「…あります。」

「…それだけ?へぇ、言い訳はしないんだ、別に良いけどさ。で、どーする、茜華?」

「…泰華に決めさせる。」

「えっ?」

茜華を中心として男から隠れるようにしていた泰華は突然話を振られ呆気にとられた。

「泰華、簡潔に言うぞ?あたしはあたし自身を許せない。お前を守れなかったあたしをな。こいつは…極端に言えばすぐにでも殺せるんだよ。それでも被害者は泰華だ。泰華がどんな制裁を与えるかを決めるんだ。」

チラリと愛香の方を見れば面倒くさそうに話しかけてきた。

「警察関係者でその阿呆とやり合えるのは限られている。もし罪を犯せばオレは容赦なく逮捕するが、もしオレが負ければほぼ警察の負けだ。何も証拠が残らないようにして帰らせてやる。」

つまり、男を生かすも殺すも泰華次第でありもし殺人、もしくはそれに準する犯罪が起こったとしても茜華が愛香に勝ちさえすれば事実上無罪と言うことになる。

「…」

「あたしはヘルハウンドだ。自分の番となる男を守るのが指命なのに…だから落とし前をつけさせてくれ。」

「僕は…」

何を迷っているのは分からないが明らかに答えを迷っている。しかし、個の感覚として一番の理不尽を被っている男が声を上げないわけ無いだろう。

「待ってくれ!俺は自分の仕事を!」

「お前は黙ってろっ!!!!!!!!」

咆哮。
ビリビリと空気が痺れ聞いていた人間は等しく脳が呼吸すら止めてしまうような威圧感だった。
それも泰華には効いていないのだが。
充分に威嚇、牽制をいれ本来の目的に戻る。

「泰華、良いよ。何を選んでもあたしはお前の味方だ。」

泰華の方を見ればいつの間にか泣いていた。ボロボロと大粒の涙が頬を伝い嗚咽が漏れている。

「もう、茜華さん。良いです、だからもうそんなこと言わないでください…」

慌てて泰華に駆け寄り抱きしめる。

「ごめん、ごめん。」

愛香も掬も、もちろん男も全く予想していなかった展開に面を食らっている。当然であれば、自身に理不尽極まりない暴力を振るった男が謝りもせずにいたら普通の人間は怒り、憎しみを感じるだろう。
が、泰華の出した答えは。
 
「課長を許して上げて下さい…」

小さな声で茜華へと告げる。フルフルと体が震えている男を壊れない様に抱きしめて茜華を囁いた。

「わ、分かった。分かったから。泣かないでくれ。」

懸命に泣きやむように頭を撫で頬にキスをして慰める茜華。

「な、なんで…」  

もちろん、驚くのは男。先ほどまでは冗談抜きで死を覚悟していたのだから。
しかし、それ以外にも驚きの声は上がる。
 
「はぁー、マジですか。」
 
「全く、茜華の言ったとおりになったではないか。」

刑部狸とぬらりひょんも立て続けに口を開いていた。この数日で様々な場面に備え茜華と連絡を取り合っていたが「泰華ならきっと許す」という言葉を多く耳にした。まさか本当になるとは。

「茜華さんが悪者になるのだけはダメです!僕は優しい茜華さんが好きなんですよ!!!」

赤子のようにわんわんと泣く泰華。
それを強く強く抱きしめ、自分のやったことを少し後悔しながらそれでも自分の想像通りの答えを出してくれた泰華を誇らしく思う。

「分かった、もう二度とこんな事はしない…」

茜華は誓う。
こんな事は今後無いように泰華との時間を、繋がりを一秒単位で大切にしていこうと。


ーーーーー☆ーーーーー


そこからは早かった。
課長は泰華に平謝りで、泰華も吹っ切れたように許していた。
だが一方で、その会社にいることを茜華は望まず泰華もそれに答えた形だ。

会社の方は掬とその一味が大幅な梃子入れを行い、少しずつではあるが社風が変わっているようだが茜華にはもう興味のないこと。

あの時、茜華は泰華が課長の男を許すという確信をしていた。
しかして、それは逆に言うとまた同じ事が起こりえるということだ。
茜華はそれを恐れ泰華自身に何かがあったとき自分はここまでするぞという前例を見せたのである。


全ては泰華を、自分の大切な人を守るために。


泰華は勉強熱心であり茜華は天才肌だ。二人で公務員試験の勉強をこなし、二回目で近くの役所に受かったのがつい最近。








「泰華ぁ、構ってくれよぉ。」

「ダメですっ!今はお仕事してます!」

「…詰まらんなぁ。」

カタカタとパソコンを懸命に打ってる後ろ、ソファーでだらしなく仰向けになりながら泰華へとちょっかいを出す茜華。

とにかく暇らしい。

「泰華ぁ〜、どうせその資料も明日明後日必要なモノとかじゃないんだろう?なぁ、エッチしたいなぁ。」

珍しく茜華の方が甘えた声を出しているが泰華も必死に静止をかける。

「これを終わらせれば週末は遊びに行けるんです。だから、我慢してください!」

えーと、あのデータは…。
机に広げてある紙媒体の資料をペラペラと捲り、何かを確認した後またすぐにキーボードを打つ。
その繰り返し。

むうぅと少し頬を膨らませ、こうなったらと古来から伝わる秘伝?の文句を口にする。

「泰華は仕事とあたし、どっちが大切なんだよ!」

「茜華さんと幸せに暮らすためのお仕事なんです。」

普段デレデレの泰華も、メリハリをつけるという点では大人である。
これが、ドラマに泰華の好みの女優が出演しているときなどは「この女優とあたしどっちが好きだ?」と聞けば必ず顔を赤らめた後、茜華の手を握り告白タイムにはいるのだが今は違った。

「茜華さんだってお仕事の時はしゃんとしてると思います!だから、僕にもしっかりさせてください!」

「もう、泰華なんて知らん!」

くるりとソファーの背もたれ側を向き完全に拗ねてしまった。

「せ、茜華さん?」

「知らん!」 

「茜華さぁん!」

この後、フォローを入れていた泰華が結局泣き始め、慰めのセックスをするのが既に見えていた。






茜華さんと幸せに暮らすためのお仕事なんです




「まぁ、良いか♪」
18/05/03 00:55更新 / J DER
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■作者メッセージ
日本では仕事ってのの役割が少しずれてしまっている気がしますよね。

ま、少し泰華には酷い目にあってもらいいつもより展開の幅を広げた…つもりでしたが足りてませんでしたね

結局中途半端に終わった昼下がりの午後です(適当)
それでは

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