連載小説
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TAKE17.93 決着! 古坂彦太郎杯! (無駄に挿絵付き)
「……トラケミー、何の真似だ?」
 試合直後。『十五夜ヒマリ親衛隊』控室にて。レッサーサキュバスの十五夜ヒマリは手下のグレムリン、トラケミーこと中野勇子を問い詰める。
「お前よ、打ち合わせと違うじゃねえのよ。なあ?」
「……」
「打ち合わせでなんつったっけ? 確かオメーが逆転申請して、あの須賀川とかいうフリーターのクソガキブチ殺して逆転勝ちで賞金ぶん取る……そういう算段だったよなぁ?」
「……」
「なのになんだよさっきのザマは。ダラダラと長ったらしくわけのわからねえ事を話し込んだかと思やあ逆転申請もせずクソみてえなカードでクソみてえなプレイング……その上惨めにワンキルなんぞされやがってよぉ。お前……自分が何やってンだか、わかってんのかぁ?」
「……」
「わかってんのかぁぁぁぁぁああああ!?」
「……しょうがねーだろ、負けちまったんだから」
「ああんっ!? ンだとてめえモッペン言ってみろぉ!」
「なんだ聞こえてなかったのかい、レッサーサキュバスの耳も大したことねえなあ。
 あいつに負けちまったんだからさぁ、しょうがねぇじゃんって言ったんだよッ」
「しょうがねえ!? しょうがねえだあ!? あれのどこがしょうがなかったんだよ!?
 お前があそこで逆転勝ちしてりゃ3000万は今頃俺の手元にあったんだぞ!? 言ったよなぁ〜? お前の復讐を手伝ってやるにはカネがいるってよぉ〜? なのにお前よぉ〜折角のチャンスを逃しちまってよぉ〜? 奴らのこと、殺してえほど憎んでんだろ? 生涯かけた手柄を横取りしやがった権威主義のクソどもだって言ってたよなぁ? まさか今んなって許したわけじゃねえだろうなぁ?」
「ああ、奴らを許すつもりはねえよ。復讐は諦めねえ。オレの生涯を滅茶苦茶にしてくれやがった、そもそもの元凶だからな……」
「なら何故勝ちに行かなかった!? 奴らは組織、並みの奴が敵う相手じゃねえ! この俺の後ろ盾がなきゃ復讐なんぞ到底無理ってことはお前も理解してんだろーが!」
「まあそうだな。奴らは強い。オレ一人じゃ敵わねえだろう……」
「ならッッ――」
「だが悪いな十五夜様ァ、もうあんたに苦労はかけらんねえ。オレはオレなりに、中野勇子として奴らに復讐する」
「何をふざけたことを抜かしやがる! そんなことできるわけねーだろ!」
「できるわけねえって誰が決めたんだよ。探せばまだ方法はあるなもしんねーのに、そんな必死になっちまってよぉ。まるでオレを手放したくねえみてーな口ぶりじゃねぇか、あんたともあろうお方がよー」
「……!!」
「それとも何か? マジでオレを手放したくねえってのか? オレがいなきゃあ……てめえ一人じゃ何もできねぇってのかい?」
「トラケミー、てめえこのガキ悪魔がっ……! それでマウント取ったつもりかぁ!?」
「別にマウント取るつもりはねーよ。ただ質問しただけだったんだが……もっとわかりやすく訊いた方がいいかなぁ……
 十五夜様、あんたよぉ……

 怖えのかい?
 あの人間に、須賀川雄一郎に負けんのが、怖えのかい?」

 十五夜ヒマリにとって、それは他の何をも上回る最大の侮辱であった。

「――ねえ、だろ……」
「ぉぅ? ァんだってぇ?」
「怖えわけねぇだろつってんだよボケ悪魔ァ! あり得ねぇ! あり得ねぇだろうが! この俺がぁ! たかが有象無象の民草にっ! いいトシこいてカードゲームなんぞやりこんでる貧乏フリーターの童貞庶民野郎風情に負けるかもとっ! ビビる必要が、どこにあるってんだよおおおっ!」
「へへへ……よくぞ、よくぞ言ってくれたっ。それでこそ我らが隊長サマだっ」
「調子こいてられんのも今の内だ! 断言しておいてやる……お前は絶対、俺の傘下から抜け出たことをっ……"トラケミー"の名を捨てたことを、心底後悔することになるだろう、ってなぁ!」
 意気揚々と控室を後にする十五夜ヒマリに、勇子は何も言い返さない。
(……後悔する、ねえ。その言葉、そっくりそのまま返す気にもならねえわ)

 かくして古坂彦太郎杯決勝戦は、いよいよ最終局面に突入する。


『よぉ、お前らぁ……見えてっかよッ。
 遂に……遂にこの時だぜ……この時ってどの時だよって? バッカおめ、わかんだろそんなもん……

 決勝戦ッ、最終試合だよぉぉぉぉ!
『『『『『ウオオオオオアアアアアアアアアアア!』』』』』
 感極まった実況担当の叫びに呼応するように、観客席がどよめく。
 長きにわたって繰り広げられた壮絶な戦いが、漸く終わる。
 全十六チーム、人数にして六十名にも及ぶ『デュエルラボ』に集まったTCGプレイヤーの頂点がここで決定される。
 その期待感に、誰もが興奮を隠せないでいた。

『さあさあ早速選手をご紹介ッ! 試合待ちきれねーから手短に行くぜ!

 オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!
 あの達人グレムリン、トラケミーこと中野勇子を擁する謎だらけのチーム「十五夜ヒマリ親衛隊」! そのリーダー、全く以て謎に包まれた可憐なロリロリレッサーサキュバスがココナッツツリー・コロセウムに登場だぁ!
 "あっけなく散っていった隊員たちの仇討ちはできるのか"ッ!
 十五夜ァァァァァァ! ヒ、マ、リィィィィィ!』

「はぁ〜いっ♪ みんなのアイドルぅ〜ひまりんだよぉ〜♥」
 華美な衣装をひらひらと揺らしながら、愛らしい仕草でアイドルを気取ってみせるヒマリ。最早多重人格の如き様相であったが、いかにも芝居臭いそれが汚れきった本性を覆い隠す虚飾であるのは言うまでもない。

『そんな十五夜選手に立ち向かうのは、勿論この男ーっ!
  オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥト!
 甲斐中選手から中野選手まで「十五夜ヒマリ親衛隊」の隊員たちを容赦なく屠ってきた非情の男は、謎だらけの十五夜選手を相手にどう立ち回るのか!?
 "最早こいつは真の怪物"! 須賀川ァァァァァァ雄ゥ、一ィ、郎ォォォォ!』

「……どうでもいい上に試合にもこの話にも何の関係もないことなんだけどさ、ス〇サイ〇ミッシ〇ンの運営ってことあるごとにマ〇リアルとかクレ〇ラ配ってくれたりするから個人的には気前いい奴らだなって思ってるんだけど、攻略wikiの雑談スペースとか見ると『運営の奴らは全く頭が悪い』『ユーザーに対する配慮がなってない』とかそういう意見ばっかりで……僕の認識ってそんなに間違ってるのかねえ……」
 知らんがな。

 斯くして向かい合った二者はスタンバイを終え、十五夜ヒマリは運営側に逆転申請をする。提示した条件は『相手に一切ダメージを与えず、一ターンに自分フィールドへ複数体のユニットを出すことなく、互いのライフ残量合計値を250000以上にした上で、15ターン以上経過した状態で勝利する』というもの。
(なるほど、奴のデッキはアレか……)
 それは一見不可思議な条件であったが、遊侠王に造詣の深い雄喜はすぐに相手の使用デッキを見抜いていた。

 そして熱気と歓声に包まれながら、『第三回古坂彦太郎杯』最終試合の火蓋は切って落とされる。


「よぉーしっ! ひまりん、頑張っちゃうゾ〜♪ ひまりんの、先攻っ❤」
 先攻は十五夜ヒマリ。相変わらずの芝居臭い演技……観客たちの反応は冷めきっていて、ただ彼女が如何なるデッキを用い、どのように戦うかだけに注目していた。
「《終末の日を報せるもの》を召喚して、効果発動だよっ♪ デッキから《全て無に帰す日-アルマゲドン・デイ-》を手札に加えるねっ、お兄ちゃんっ❤」
 フィールドに召喚された鳥とも獣ともつかないユニットの効果でデッキからスキルカードを加えるヒマリ……というかお兄ちゃんって誰だよ。画面前の崇高なるロリコン諸氏、またサバト魔物を愛する気高き"お兄ちゃん"の皆様方、どうか騙されないで頂きたい。この女の可憐な振る舞いには所詮下心や悪意しかないのである。まかり間違ってもこんな奴で貴重な精を無駄にしてはならない。
「そしてそのまま《アルマゲドン・デイ》を発動っ♪ このカードの発動性交からお互いのターンで数えて20ターンが経過した時点で、ひまりんは特殊勝利できるんだぁ♪
 しかもこの時、召喚しておいた《終末の日を報せるもの》の永続効果が適用できるよっ♪ なんと《アルマゲドン・デイ》を発動する時に支払わなきゃいけないライフコストを踏み倒せるのっ! すごいよね、お兄ちゃんっ❤」
『デッキタイプ、判明ィィィィィ! なんと十五夜選手が用いるのはまさかの特殊勝利デッキ【アルマゲドン・デイ】だあああああっ!』
(やはり……)

 【アルマゲドン・デイ】
 遊侠王OCSの長き歴史にあって未だ数少なく、また不安定で構築・運用難易度が高いことから『不遇なデッキタイプ』とされがちな『特殊勝利デッキ』でありながら、その実大会で一定数の上位入賞を果たす、極めて異色な代物である。

(その原理は極めてシンプル。『発動後20ターンが経過した時点で使用したプレイヤーは対局に勝利する』効果を持つスキルカード《全て無に帰す日-アルマゲドン・デイ-》を発動して、あとはひたすら防御と延命に徹するのみ……誰が言ったか『馬鹿や素人でも勝てる特殊勝利』……)
 防御偏重の持久戦を軸に据える関係上、対処法も今まで相手取ってきたビートダウンやバーンとは異なってくる。
(デッキの中身は殆ど使い切りのスキルやギミックばかり、ユニットや持続・装着カードのような表向きでフィールドに残り続けるカードは殆ど入ってないだろう。入っていても防御や回復の効果を持つものばかり……)
 ともすれば如何に動くべきか。雄喜は思案する。
(最適な対処法は時間をかけず一気に仕留めるワンキルか防御・回復系のカードを封じる妨害戦法だが、今の僕のデッキは【解縛】……そのどちらも行えるようなデッキじゃない)

 【解縛(かいばく)】
 小型ユニットの『童(わらべ)』とコネクト召喚に関する効果を持つ『式(しき)』及びそれら以外の大型ユニットからなるデーモンのカテゴリ『解縛』を用いるビートダウンデッキである。その基礎は破壊効果とコネクト召喚にあり、特に『式』は相手ユニットを素材としてコネクト召喚を行う実質的な除去効果を持ち、ユニットや持続カード等フィールドに表向きで残るカードを重視するデッキに対しては優位に立ち回ることができる。然しそれは裏を返せばカードをフィールドに残さないタイプのデッキには不利ということでもあった。

(あと【解縛】はコンスタントにアドバンテージを稼げるビートダウンデッキだが弱点も少なくない。中でも地味にきついのが攻撃力の低さだ。『童』は小型ユニットだから仕方ないにしても『式』だって固定値で最大2400、自己強化効果を持つ《解縛の式の邪霊》だって上がり幅低すぎて論外。切り札になる大型連中にしても攻撃力は3000……これが並のデッキ相手なら問題はなかったが、相手は防御と延命に特化した【アルマゲドン・デイ】……【解縛】程度の攻撃では防がれるか、ダメージを与えてもすぐ回復されてしまうだろう。ヘルハウンドがキキーモラに家事対決を挑むようなもんだ。ま、世の中には戦より芸術を好むオーガなんてのもいるそうだから、もしかしたらキキーモラやコボルド並みに温厚で家事の上手いヘルハウンドってのもいるかもしれんがね……)

「次にスキルカード《ヒーリングエナジー》を発動っ♪ 手札一枚をコストに、自分のライフを2000回復しちゃうのっ❤ 更に更にっ♪ 手札コストとして墓地に捨てられた《思いがけないプレゼント》の効果発動っ❤ 墓地からこのカードを除外して、相手ライフを2000回復っ♪ これでお互いライフ10000だよ、お兄ちゃんっ❤
 そしてひまりんはそのままカードを二枚セットして、ターンエンドっ♪」

 そうこうしている内に十五夜ヒマリの第一ターンが終了する。

(やはり回復か。ライフは一万越え……益々【解縛】で削り切るのが難しくなったが、勝ち筋はまだ残されている……)
「僕のターン……ドロー」
 雄喜は手札を確認しつつ、ターン開始を宣言する。
「手札に存在する《倹約芸人ダーク・マッスル》を召喚」
『トゥーッス!』
「更に《ダーク・マッスル》の効果発動。手札より闇属性ユニット《祖なる解縛の式》をコストに、デッキから闇属性ユニット《魔界の黒バイ隊員》を墓地へ送る」
『ヴォニガワラァ!』
「そして《黒バイ隊員》の効果。墓地から自身を除外し手札から攻撃力2000以下のデーモンを展開する……。

 宿命に身を焦がし、歪みに果てた献身者……。
 如何な痛みも飲み下す重き愛の秘儀をこの凡俗に授け給え……。
 いざ来たれ、《ギフト》ッ!
『私がご入用かね。よかろう、ならば力を貸そう』

 手札から現れたのは、どこか異質な風貌の風貌の女人型ユニットであった。
 身長は1.7mほど。漆黒のコートに身を包み、下半身は深紺色のタイツに黒光りするブーツ。
 腰まで伸びた白髪は手入れが不十分なのかくせ毛が酷い。一方プロポーションは抜群で、特に胸は厚手のコート越しにもその存在をありありと主張するほど。所謂"爆乳"の域か。
 また、頭には犬猫か狼を思わせる三角形の白い耳、同じく白い尾は狼か狐のそれを思わせ、背には漆黒の大きな翼が備わるなど、動物めいた要素も散見される。

 この為多くの観客や控室の選手たちは最初この《ギフト》を『まるで獣型の魔物娘のようだ』と思った。『鳥の翼を持つ辺りは丁度グリフォンに似ている』『或いはマンティコアかもしれん』といった具合にである。

 然しその顔面を見た瞬間、ある者は絶句し、またある者は悲鳴を上げ……ともあれ軒並み『魔物娘のよう』という発言を撤回せざるを得なくなった。
 というのも……

「あんな不ッ細工な魔物娘がいるかーっ!」

 《ギフト》の顔面は、愛らしく美しい筈の魔物娘とは程遠い……余りにも不気味で恐ろし気なものだったからである。


作者注:画像は観客席にいた小学生が後に同カードを参考にして描いたスケッチ……ということにしておいて下さい。
あとこのままだとその子の性癖が歪みかねないのでショタ好きの魔物娘さんは少年を救う意味でも早く彼の元へ行ってあげて下さい。



 感情の見えない赤く巨大な複眼。耳まで裂けた牙だらけの大口。汚染された水路の底に溜まったヘドロが如き黒灰色の皮膚。それら異質にして悪趣味なパーツ群から成る《ギフト》の容貌は、ほどよい人外要素や抜群のプロポーションといったプラス要素を台無しにする程に強烈であった。

『なんともなんと、六〇拳ッ! こいつはやべえぞ激ヤバだっ!
 須賀川選手が後攻第一ターンで繰り出したのは、まさかの《ギフト》! アニメ第二作「遊侠王NewAge」第三期"暗黒世界編"のラスボス!
 カードとしての効果もさることながら何より強烈なのはそのキャラとビジュアル! ゴールデンタイムのアニメなのにヤバい台詞を平気で口走る問題児乍ら、そのキャラの濃さと今は亡き名優・水鳥(すいちょう)ヒロコ女史の怪演もあってファン界隈では未だカルト的な人気を誇る名キャラクターだ!
 ただキャラが濃い所為なのかカードとしちゃ聊か扱い辛く、勝利を掴むには工夫が必要! そんな《ギフト》を須賀川選手はどう扱おうと言うのかーっ!?』

「ふえぇ〜ん! なんか不ッ細工で怖いオバさん出て来ちゃったっ! ひまりん怖ぁ〜いっ><;」
『ピョゲーッ! マジオッカネーッ! ブッスババァーッ!』
「……仮にも女性に対して失礼な事を言うヤツだな。そこのユニットも『ブスババア』呼ばわりはないだろ。そりゃ確かに顔は怖いが一応ブスではないし、オバさんて程歳食ってるかどうかもわからんだろうが。
 まあアニメで演じた水鳥さんは当時50手前だったし、DL〇iteのコ〇ック〇楽でも到底ヒロインになれなさそうなビジュアルではあるが」
『……須賀川、フォローになってないぞ。あと外〇云々は地味に傷つくからやめてくれ……』
「傷付く? お前が?」
『ああそうだ。自慢じゃないがこれでも攻防共にゼロなものでね……』
「関係ないだろ。そもそも攻防ゼロでも戦闘破壊耐性と戦闘ダメージ無効化効果持ってる奴が何を言うか。

 続けていくぞ、僕は手札の《解縛の童 サーラ》の効果発動。自分フィールドに存在するカード一枚を破壊すると同時に手札から自身を展開する。
 その効果でフィールドの《ギフト》を破壊
『ヘヘッ、ドリャアッ!』
『ごふうっ!?』
 目付きの鋭い赤髪の少年ユニット《解縛の童 サーラ》は、雄喜の手札から飛び出るや否や佇む《ギフト》の腹を思い切り殴りつける。小柄乍らその一撃は強烈で、喰らった《ギフト》は思わず腹を押さえ蹲(うずくま)る。
『っぐ、おお、っごお……さ、《サーラ》っ、貴様ぁ……! 加減というものを知らんのかっ……!』
『オッ、悪ィ悪ィ。ちっと強すぎたか?』
『"ちっと"どころではないっ……骨が折れるかと思ったぞ……!』
『あぁ〜ごめんなぁ? 最初はオッパイ揉んでやろーかと思ってたんだが、カード間とは言えそれって普通にセクハラでコンプライアンス的に問題あるし、そもそも乳揉んで破壊ってなんかおかしい気がしてよぉ。んでカンチョー、マン的、腹パンの三つで迷ったんだがまあ絵面考慮すりゃ腹パンが妥当かなって』
「使い手目線で言わせて貰うが他にもうちょっとやり様はなかったのか? 手からビーム出すとか」
『いやー、なんかそういうのってつまんねーかなって。そもそもこいつ頑丈だし大丈夫だろ』
『……《サーラ》貴様、対局が終わったら前後上下満遍なく徹底的に可愛がってやるから覚悟しておけよ……ぐへぁっ!』

 冗長なやり取りを経て意味深な捨て台詞を残しつつ《ギフト》は効果破壊されフィールドに倒れ伏す。

『おっとぉ! 須賀川選手、フィールドに出した《ギフト》を自ら破壊っ! これは一体どういうことだぁぁぁぁっ!?』
「あっれれぇ〜? オジサンてばなにやってるのぉ〜? 折角出した切り札を破壊しちゃうなんてっ、もったいなぁ〜い♪ ばっかみたぁ〜い♪」
『ギョピーッ! ジメツジメツゥ! ザコザコザーコ!』
「……何と言おうと勝手だが、これで終わりじゃないからな。

 引き続き僕のターン。《ギフト》が破壊されたことで自身の効果が発動。デッキから自身の上位形態を展開する。

 献身者は傷付き倒れた。されどそれは終わりに非ず。
 俗世の者よ、心せよ。この忌まわしき恐怖から逃れる術はないと思え……。
 具現化せよ、《ギフト-Abominable Distorted Madness》ッッ!
『地獄を味わうがいい……』

 倒れていた《ギフト》の全身が瞬く間に変異し始め、異形の化け物へと姿を変える。
 身長約1.9m、背にはカラスのような黒い翼。全身を黒い毛皮に覆われ、二本の尾と三本の足を持つ。胸から腹にかけて縦に裂けたような牙だらけの大口があり、その内部には巨大な赤い複眼が蠢く。首は細長く、双頭。先端部に備わる頭は到底脊椎動物のそれではなく、そもそも何の動物なのかもわからない。

 "旧魔王時代に生み出された化け物"と呼ぶのもはばかられる醜悪なユニット……それこそ《ギフト》の第二形態、《ギフト-Abominable Distorted Madness》であった。

『来たーっ! 《ギフト》の第二形態だぁー! 第一形態とは似ても似つかぬ異形ぶり! しかも声まで変わったとなりゃ、本当に同じ系統のユニットなのかと疑いたくなるってもんだぜ! つーかこれでステータス上はレベル一つ上がっただけで攻防はゼロのままって明らかにおかしいだろっ!』

「ひっ……き、キモッ! 気持ち悪っ! おまっ、なんだよそれっ! 明らかにおかしいだろ! さっきの奴のどこをどうしたらそんな化け物になるんだよぉ!」
『オゲエエエエ! キメーキメー!』
 現れた《ギフト》の第二形態に、十五夜ヒマリは演技も忘れて騒ぎ立てる。
『心外だな。この芸術的なデザインを気持ち悪いなどと』
「芸術的かどうかはともかく、そんなに騒ぐ程じゃないだろ……さて、本来この《ADM》は【ギフト】デッキの中核を成すカードだが、今回の場合あくまで前座に過ぎん」
「ぜ、前座だぁ!? まだキモくなるってぇのかよ!?」
「キモくなるかは知らんが、まだ先があるのは事実だ。

 僕は手札から《真理書院騎書編纂》を発動。自分フィールドのユニット一体をベイトし、そのユニットよりレベルが低く属性が異なる『書院騎士』ユニット一体を手札に加える。
 僕はその効果で《ADM》をベイト。デッキから《白煙の南方書院騎士 バルサンジェラ》を手札に加える。
 そして《ADM》がベイトされフィールドを離れた時、自身の効果発動。更なる上位形態を展開する」
「ま、まだ出てくんのかっ!?」
「いかにも。これが最終形態だ。

 深淵より更に深く、暗黒より更に昏い、その最奥にかの者在り。
 敵対者よ、諦観せよ。かの者こそは究極の悪夢。抗う術などありはしない……。
 顕現せよ、《ギフト-The Evil Nightmare Disaster》ッッッ!
『終わらせてやろう……』

 ベイトされた《ADM》は更に醜悪に姿を変え、遂に最終形態《The Evil Nightmare Disaster》へと姿を変える。

『来た来た来たーっ! まさかとは思ったがマジで出たっ! これぞ《ギフト》の最終形態《The Evil Nightmare Disaster》ァァァァァッ! ただでさえ扱いのめんどくさい第一形態の破壊と第二形態の除去をしなきゃ出せねーが、バチバチにグロテスクな風貌も相俟って中々にヤバい効果を持っている! 然しレベルは上がったもののステータスは依然として攻防ともにゼロ! ライフ一万の十五夜ヒマリ選手をどうやって始末するつもりなのかー!?』



「へ、へへ……そ、そうだ! そうとも! おい須賀川雄一郎! お前散々大物ぶってるようだがそんなグロくてレベル高いだけの雑魚ユニットでどうやって俺を倒すつもりだっ!? まさか戦闘で倒すなんて言わねえよな!? 幾ら俺の《終末の日を報せるもの》が弱いったって攻防はゼロじゃねぇ! しかもこいつはフィールドに存在する限り攻撃対象に選択できねぇ効果を持ってる! 要するにお前がどんなデカいユニットを出してこようが俺は負けねえんだ! わかるかぁー!?」

 調子付いた十五夜ヒマリはアイドル"ひまりん"の演技も忘れ、素の口調で雄喜を煽り立てる。それは正体不明のユニットを出され焦った幼児体型のレッサーサキュバスが思い至った、せめてもの抵抗。然し対する雄喜は至って冷静に、あくまで試合を終わらせにかかる。

「ああ、そうだな。お前が言うならそうなんだろう……お前の中ではな」
「ああん!? ンだとテメエッ!?」
「言葉通りの意味だ。『須賀川雄一郎が十五夜ヒマリに勝つことはない』……お前がそう認識しているのなら、それはお前の認識に於いてのみ紛れもない真実だろう……そう言っただけだ。
 然し……哀れなもんだな、十五夜ヒマリ。それが素の喋りか? まるで酒と賭博、SNSでの暴言ぐらいしか生き甲斐の無い無様な不良中年みたいだなぁ……可憐なレッサーサキュバスのアイドル十五夜ヒマリはどこに消えた? そんなんじゃ彼氏なんてできないぞ?」
「こンの、低俗貧乏フリーターのイキリ童貞不潔庶民野郎があああああああああああっ!
「なんだ、このタイミングで自己紹介か?
「■※☆×〇Ω▼煤揆DЖ#!!!!」
『ギョ、ギョピーッ! ゴシュジン、オチツキンセ――ブギャアアアッ!?』
 小柄なレッサーサキュバスは雄喜が適当に返した煽りでも何でもない筈の一言に何故か大層腹を立て、盤面を叩き壊さんばかりの勢いで暴れ回る。見かねた《終末の日を報せるもの》が止めに入るも当然聞き入れず、鳥とも獣ともつかないユニットは殴り飛ばされてしまう。

「なんでさっきの台詞でそんなにキレるんだ? ……まあいいや。

 僕はフィールドの《解縛の童 サーラ》と《倹約芸人ダーク・マッスル》でコネクト召喚。
 素材条件は闇属性ユニット一体を含むユニット一体以上。
 夢敗れ落ちぶれんとしていた才女よ、闇の魔力を得て今こそ美しく淫靡に羽搏(はばた)くがいい。
 コネクト召喚! CONNECT-2、《サクセサー・レッサーサキュバス》!」
『はいっ!』
「続いて僕は相手フィールドの《終末の日を報せるもの》をベイト!」
『ナッ! ギャア! ゴ、ゴシュジン! タ、タスケッ!』
「そして相手フィールドに《白煙の南方書院騎士 バルサンジェラ》を展開!」
『平伏なさい』
 雄喜によって十五夜ヒマリのフィールドに現れたのは、昆虫のような深紅と金と白の鎧を身に纏った女騎士《バルサンジェラ》であった。
「――ああああああああああ……あぁ〜? なんだぁ? オイ、なんだこの虫みてーな鎧着た変な女騎士?」
「すまんな、あんたが暴れてる最中に《終末の日を報せるもの》をベイトして出させてもらった」
「なにぃ〜? 俺のユニットを勝手にベイトして出しただとぉ〜?」
「ああ、《バルサンジェラ》にはそういうルール効果があるんでな。悪く思うな」
「へっ、別に構わねーよ。レベル7で攻撃力2600もあるじゃねえか、寧ろあんな使い切りの壁雑魚よりゃいいってもんよ」
『攻撃力でしかユニットを見られないとは……浅はかですね』
「ああん!? なんだとてめえ!?」
『事実を言ったまでです』
「……あぁ〜その、言い忘れてたがそいつ、有能なのは確かなんだが性格に難があってな。特に協調性とかは全く期待できんからその辺は勘弁してやってくれ」
「はあ!? なんだとてめ――
「さて、そしてこれが最後の手札。スキルカード《妄執する敵無き弱者》発動。
 このターン、僕のフィールドの攻防合計1000以下のユニットは一度のバトル中、相手フィールドに攻撃対象となるユニットが存在し続ける限り何度でも攻撃が可能となる。

 さあお待ちどう、バトルだ。《ギフト-The END》で《バルサンジェラ》に攻撃!」
『アルプトラオム・シュメルツ!』
 《ギフト-The END》が攻撃を宣言すると同時に、その背中から毒々しい色合いの細長い節足が無数に現れ《バルサンジェラ》に襲い掛かる。
「へっ、野郎血迷ったか! 攻防ゼロで攻撃力2600が倒せるわけねえ! 自殺行為って奴だぜ! おう《バルサンジェラ》! あの身の程知らずのブサイク野郎を返り討ちにしてやんな!」
『言われるまでもありません。ロゴス・オブ・サウザン――ぐあああああっ!?』
 意気揚々と剣を構えた《バルサンジェラ》。然し剣が振るわれるより前に、彼女の全身に毒々しい節足が突き刺さる。
「なっ!? 《バルサンジェラ》!? 一体どうした!?」
『わ、わかりません……何故、こんなっ……!』
「……《ギフト-The END》は自身の持つ効果により戦闘では破壊されない」
『そして私と相手ユニットの戦闘によって発生する、私のコントローラーへの戦闘ダメージは例外なくゼロになる……』
「な、なんだとっ――ぐごええええええっ!?」

 刹那、十五夜ヒマリを衝撃が襲う。見れば自分のライフ残量が減っている。

「な、なんで……なんで俺がダメージを受けてやがる……!?」
「それも《The END》の効果だ」
『私と相手ユニットが戦闘を行った戦闘ダメージ計算終了時、相手はそのユニットの攻撃力分のダメージを受け、その後相手ユニットは破壊される……』
『し、然し私には戦闘と効果での破壊に対する完全耐性がある筈……! であればダメージを受けることも――
『あるのだよ、これが』
『何っ……!』
「寧ろ僕がお前をデッキに入れてるのは"そこ"が重要だからだ、《バルサンジェラ》。
 《The END》の効果はダメージの方を先に処理する。よって相手ユニットが破壊されまいとダメージだけは発生するんだ」
『ま、まさか……では、私の採用理由とはっ……!』
「お察しの通り、単なる除去効果付きのサンドバッグだよ」
『そんなっ! 然しあなたは嘗て私に「お前こそこのデッキに相応しい、最も優れた書院騎士だ」と言っていたではありませんかっ!』
「正しくは『このデッキで一番使いやすい書院騎士はお前』だろうが、都合よく曲解するんじゃない。そもそも『書院騎士』の中で手札から相手フィールドに展開する効果を持つのはお前を含め精々片手で数える程しかいない。その内《騎書編纂》でサーチしやすいレベル、かつそれなりに攻撃力も高く破壊耐性だってあるから《The END》で殴るのにもってこいだろうと思って採用したんだ。《The END》が居なくても相手ユニットを除去して『式』でコネクト素材にすりゃ大体何とかなるからな。そうでなきゃ【書院騎士】どころかタイプデッキの【インセクト】ですらそうそう採用されないようなお前をわざわざ入れるわけないだろ」
『――』
「対応を改めて欲しければもう少し謙虚になれ。いや寧ろお前なら卑屈ぐらいがいいかもしれん。やれ使命だ上司の命令だ世界の為だ何だと大義名分掲げて高圧的に振る舞って、裏でコソコソ動いちゃ嘘八百吹聴して他人を貶め苦しめて……そんな努力が報われると思ってるのか? 全ては上司の意思のまま? なら上司が正気だという保証がどこにある? お前は上司の傀儡か? 命令されなきゃ何もできないのか?
 っていうのは大体全部、どっちかっていうとお前の元ネタに対する言葉だからまあ大して意味なんてないんだけどさ、とりあえずお前はこれが自分の役目だと思って大人しく殴られとけよ。
 ……好きなんだろう? 上司の意のままに使命を果たし、上司の理想を実現させるのがさあ……」
『』
「さあ《The END》、遠慮はいらん。《バルサンジェラ》はどうやら自分の使命を理解したらしいからな……《妄執》の効果適用により追加攻撃だ」
『アルプトラオム・シュメルツ・ツヴァイト!』
「ちぃっ、クソ! 賞金3000万で借金返して高飛びしなきゃなんねーってのに、こんなところでやられてたまるか! ギミックカード発動! 《迎撃防護壁ホーリーバリア》! これでそのブサイク野郎は効果破壊だ!」
「ならばそれに対し《サクセサー・レッサーサキュバス》の効果発動。炎属性ユニットをコネクト素材としてコネクト召喚した自身をベイトすることでバトル中のスキル・ギミックカードの発動を無効化する」
『レッサーサキュバスの風上にも置けないあなたを私は許しません! 喰らいなさい、魔力焼却!』
「ぬあああああああっ、ぐぎゃあああああああ!」
「残りライフ4800……あと二回の攻撃で終わりだ。行け、《The END》!」
『アルプトラオム・シュメルツ・ドリット!』
「ぐぎいいああああああああああ!
 な、なんでだああああ! 俺は、俺はっ! あの魔物のアホガキどもを出し抜いてカネ儲けをして、俺を見下したクズどもを見返してやる筈だったのにいいいいい!
「それが古坂彦太郎杯に出た真の狙いか。どれだけ堕落した悪党であっても蠱毒成長中をはじめとする本当にどうしようもない連中よりはまだ救いようがあると思っていたが……お前はどうやら奴らと同レベルらしいな。最早躊躇う理由もないか……《The END》!」
『アルプトラオム・シュメルツ・エェェンデェェェェ!』
「ぶろごがばばがああああああああああっ!?」



「け、決着ゥゥゥゥゥーッ!
 第三回古坂彦太郎杯ッ! 優勝は、須賀川雄一郎ォォォォォ!
22/01/20 23:47更新 / 蠱毒成長中
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33