連載小説
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フォースミッション〜包囲〜
そのまま戻った僕に待っていたのは、いつも通りの罵声と、それを庇おうとするフォーエンバッハさんの悔しい表情だった

アッシュさんについては、自滅したとだけ伝え、僕と騎士団は新しい任務に向かう

「…あの人は、そうする人だったな」

不意に、横からもれる、フォーエンバッハさんの声

「あの人は、弱い立場の者を見捨てることが出来ない人だったんだから」

「…そう、ですね」

僕は、彼にも真実を告げてない

告げたら、アッシュさんの身が危ないし―――
黒勇者の、負担になるから

だから、僕の胸の中にだけ真実を隠すことを決意したんだ

・・・

「あの…」

僕らが進んでいる途中、シスター服の女性が話しかけてきた

「貴方達は、第七自由騎士団の方々ですか?」

「貴方は?」

「教団から派遣されてきました…。シスt「エリス!エリスじゃないか!!」

彼女の話を遮り、フォーエンバッハさんが馬から下りて近づいてくる

「エリス!!元気だったか!?」

「カリム…。嬉しいけど、今は…」

あ、とこちらをみてバツが悪そうな顔をするフォーエンバッハさん

「改めて…シスターエリスです。皆さんの治癒などの担当をさせていただきますので、よろしくお願いしますね」

騎士団の皆も嬉しそうにし、士気も向上したみたいだった

「改めてよろしくお願いします。私は白勇者、No.93です」

「え?えっと…」

「エリス、大将には色々あんだよ。…な、大将?」

僕は軽く頷きながら、なぜエリスさんがうろたえたかを考えた

―――そっか、普通なら名前があるんだっけ

僕は、そんな当たり前の事も、忘れていたらしかった

・・・

「しっかし、相変わらずあの二人は仲がいいなぁ…」

僕と並列して歩いている騎士が、ふと漏らす

「…あの二人は、以前から?」

「なんでも、幼馴染らしいです。俺、前の騎士団から隊長と居ましたからね」

前には、確かに仲良さそうにしている、フォーエンバッハさんとエリスさんが見える

「隊長の弟さんがジパングで行方不明になってから、隊長に身内って呼べる人居ませんでしたからね。…俺も恋人ほしいよ…」

「…貴方に、家族は?」

「…母が一人。父は…」

「…すみません。軽率でした」

「いえ…新魔物領と繋がってて処刑されたなんて、最近だとよくある話ですよ」

悲しそうに、彼は言う

「ここの連中、殆どがそんなんですからね。…所詮、オツトメってやつです…」

その表情をみて、僕は胸が痛くなった

―――これから、僕と居るとこの人たちまで苦しめることに…

「でも、俺たちはまだ幸運ですよ。なんてったって、貴方が俺達の大将なんですから」

「そんなことは…」

やめてくれ

「他のところだと、簡単に捨て駒にされます。…でも、貴方は俺たちの安全を優先してくれている。隊長も、俺たちも、感謝してるんですよ」

僕は貴方達を…

「そんなこと…ないですよ」

僕みたいな卑しい人間を、罪人を…
褒めないでくれ、感謝しないでくれ



そう、叫びそうになった


・・・

エリスさんも含め、僕達はある街まで来た

―――親魔物領と内通してる噂があるので調査して来い
大司教からの、新しい指令だった

「…これはこれは」

と、街の住民達が、僕らを迎えてくれた

「良くぞ来てくださいました。…なにも御持て成しできませんが…」

恐らく街の代表だろうか、その老人は僕達にそう言ってきた

「…なにが望みなんだ?」

フォーエンバッハさんが、厳しくして言う

「そんな見え透いた態度で、俺達の機嫌をとってどうす…イテテテテ!」

「カリム!!失礼でしょ!!」

フォーエンバッハさんが僕が疑問に思うことを、代わりに言ってくれていたが、シスターによって、それは妨げられた

ほっぺが、痛そうだ

「…シスター。気持ちはわかりますが」

「あっ…」

街の人たちは唖然としていた

そりゃ、シスターが騎士に説教していたら、誰でもそうなるだろう

「…彼の言うとおり、なにかお困りなのですか?…失礼ながら、私達はあまりこのような歓迎になれていないので」

「…そう、ですな。確かに困っております」

老人が、話し始めた

・・・

「魔界化が、進行していると…」

「そうとしか思えんのです…」

老人や街の住民の話を聞いて、派遣されたのが自分達で本当に良かったと思った

事の始まりは、大体4ヶ月前
その頃から、植物が奇妙な形をして生え始めたのだそうだ

それだけではなく、見たこともない果実が生えたり、淀んだ魔力が墓地に集まりだしたりしているらしい

「魔力に関しては、この街に住んでいるウィレットという若者から教えてもらったんじゃが…」

「彼は魔術師か何かですか?」

「いえ、以前大きな街で教団の魔法関係の施設で働いていただけで本人などは行使できない筈です」

その言葉を聞いて、少し嫌な気分になる
が、この人達が悪いわけでも、そのウィレットさんが悪いわけでもない

話を続けてもらった

「ウィレットは、魔力を感知して魔界化の可能性がある地域を特定する研究をしていたと聞いています」

「その時の感覚から、今回の意見を挙げた、と…」

横からフォーエンバッハさんが口を挟む

「そいつが魔物と関与している疑いは?」

「私達が知っている限りではありません。…幼い時から家族を亡くし、幼馴染も行方知らずで…」

よく聞く話でもあるが、何度聞いてもやはり気分は良くない

―――無意識に、自分と重ねているのだろうか

そう思いながら、僕はある疑問点を聞いた

「なぜ、この街に戻ったのか聞いていますか?」

老人は顔をふせながら言う

「詳しくは聞いてませんが…あそこにいたら、自分の身が危ないと聞いたことはあります」

「危ない?」

顔を上げ、彼は困惑したように言う

「仕事のし過ぎで、少しまいってしまったのだと思います。教団が、人体実験をするなんて言い始めるんですから」

―――瞬間、僕は時が止まったように感じた

人体実験、だと…

「…彼が」

僕は自制が出来ず、聞いてしまう

「彼がいた教団施設は!?」

「大将?」

「た、たしか―――」

困惑しながら、恐怖しながら、彼は言った
その忌まわしい、僕が所属する施設―――

―――サンクチュアリ教団教会の名を

・・・

―――サンクチュアリ教団教会

教団の中でも、特に有能な人材と、信仰心が強い者だけが入れることになっている教会

しかし、それはあくまで表向きの事だ

実態は、僕らのような孤児や、アッシュさんのような人を人造勇者にしたり、新しい魔道兵器を作り出す研究に熱を入れている実験施設だ

僕ら人造勇者を世に放ち、世界を平和にする名目と、その副産物から出来る治療薬などによる救済―――
その実績か教皇からも認められている

…最も、教皇は僕ら白勇者の本当の意味を知らず、新しい勇者としか考えてないからだが

そこから逃げ出した元研究員が出した答えなら、間違いなくここは魔界化が進行しているのだろう

さらに、気になることも聞いた

―――彼がここに戻ったのは、5ヶ月前

彼が戻ってから1ヶ月で魔界化が進行しているのだ
―――この裏には、なにかあるかもしれない

そう思い、僕とフォーエンバッハさん、シスターはウィレットさんの家へ向かうことにした

「しかし、エリスまでついて来なくても…」

「カリムの事を勇者様だけに任せたら、大変じゃない」

こんなやり取りをしながら、僕達は目的地へ向かう

向かいながら、僕は思う
―――羨ましい、と

僕にもあんなふうに親しく出来る人が居たらよかったのに
僕も、あんな風に…

(そう出来なくしたのは、全部魔物のせいだろ?)

また、声が聞こえてきた

(お前が魔物を助けたり、黒勇者の事を助ける度、お前は孤立するんだ)

黙れ

(自業自得、だよ)

黙れ!

―――ドゴン!

不意に、横から大きな破壊音が聞こえてきた

横を見たら、僕が木を殴り、木を折っていた

「た、大将?」

「大丈夫ですか!?」

シスターが、僕の手を見て、叫ぶ

手から、血が出ていた

「あ、はぁ…。大丈夫ですよ、多分」

「何言ってるんですか!?手を出してください!!」

そう言って、僕の傷ついた手を握り―――

「それは…治癒魔法?」

僕の手の傷を、治してくれた

「これで大丈夫ですよ。…一体、どうしたんです?」

シスターに顔を覗き込まれながら、僕は聞かれていた
が、僕は答えられなかった

「いえ…なにも…」

「なにもなくて、木を折ったりなんて…ましてや自分の手を大怪我させることなんて出来ないですよ?」

「…エリス、大将にも言えない事があるんだろうよ。だから、な?」

フォーエンバッハさんがそう言って、彼女を僕から離してくれた時、感謝と同時に感じたのは―――なんで、嫉妬なんだろうか

そう思いながら、僕らは目的地に向かった

・・・

「…教団が何のようですか」

ウィレットさんの家に着き、本人と思しき人物に話しかけた、第一声目がそれだった

「ウィレットさん、ここで魔界k「僕はどうなってでも戻らないからな」

僕の会話を遮り、彼は言う

「白勇者まで引っ張り出して…そこまでしてあんな事を秘密にしたいのかよ!!」

「…やはり、知ってるんですね」

彼は僕を睨みつけ、そのままの姿勢で居る

「…いきなりなんの話かわからんが」

横に居るフォーエンバッハさんが、彼に言う

「今回俺らが言われたのは、魔界化に関する調査だけだ。…あんたの事は現地の魔術師とでも報告するよ」

「そんな事、信じられるかよ…」

「信じろとはいえねぇが…ここは信じてほしい」

彼を見ながら、フォーエンバッハさんは言う

「それに、私はあくまで防衛型ですから。…貴方が番号で解るなら、93と言えば解りますよね?」

「…中に入ってくれ」

ウィレットさんは、警戒しながらも、僕達を向かい入れてくれた

・・・

「先ず先に断っておくけど、貴方達に協力する気はない」

お茶を僕らに振舞いながら、彼は宣言する

「なぜ、私達に協力してくれないんですか?貴方だって、かつては教団の為に…」

シスターが言うのは最もだが、恐らくシスターはサンクチュアリの事を知らないのだろう

「…あんたら、どこの所属だ?」

「…フランチェスコ教団教会からの派遣です」

「俺は第七自由騎士団だ」

「私は…言わなくても解りますよね?」

彼は少し思案にふけっている様だったが、直ぐに顔を上げ、僕らに言った

「…さっきまでの態度は謝る。資料も渡せるだけ渡すけど、教団に僕の事を報告しないでほしいのと、それ以上の協力はさせない事、後僕が何をみたのかとか詮索しない事。この三つの条件を守ってくれるなら協力する」

彼はそういうと、自分のお茶を飲みながら、僕らの出方を待っている

「…三つ目については、私にだけ話してくれませんか?」

「大将?」

「フォーエンバッハさん達をのけ者にしてしまう形で申し訳ありません。…でも、聞かない方がいい事もあります」

フォーエンバッハさんは、その言葉を聞いて、苦虫を潰したような顔をしながら、承諾してくれる

「…まぁ、ここまで来たら、さっきのおっさんから聞いたのが事実なんだろうけど、な」

「…否定も、肯定も出来ません」

「なら…エリス。俺たちは先に出てようぜ?」

「でも…」

シスターも考えることろがあるのだろう
が、彼女には聞いてほしくないし、何より耐えられないだろう

治癒魔法を覚えるくらい、やさしい人なのだから

と、それを読んでか、フォーエンバッハさんが連れて行ってくれた

心の中で感謝だけして、僕はウィレットさんに顔を向ける

「…どこまで知ってますか?」

単刀直入に、僕は聞く

「実験施設に居る魔物の事、君達人造勇者の事、後は君たちの行動範囲、かな?」

「ここなら、僕が来ると思ったんですか?」

「本来なら、ここはNo.30の活動範囲だから、安全だと思ったんだよ」

彼が言いながら、僕を見て言う

「後釜が、まともそうな奴でよかったよ…。君なら、話くらいは聞いてくれそうだし、ね」

「…他の白勇者の事、なにかわかりませんか?」

「…11、12、17、30、96の特徴、能力、後大まかな性格は聞いてるよ。それより、いいかな?」

「なんですか?」

「…なんで、君は僕を助けるの?」

彼の質問の意図が、最初わからなかった

「君はあのサンクチュアリから来たんだろ?なら、僕を捕まえたりするのが普通じゃないの?」

「…捕まえても、意味ないでしょうから」

そう、全く意味を成さない

なぜなら―――

「そもそも、あそこから逃げ出して、ここまで生きている事自体がその行為を無意味だと物語ってます」

「…話がわかる相手で、ホント良かったよ…」

そう、ここまで生き残ること自体ありえないのだ

サンクチュアリは、その機密性から一度入ったらもう二度と出られない位警備が厳重だ

それは、外から来た者も、中から出る者も一緒で―――

普通なら、先ず反逆者として死んでいるだろう
が、彼はどうやってか逃げ延びている

そんな相手に、防御専用の僕が相手しても、逃げられるのがオチだろうし、何より―――

「私は、ある方の為になる事をしたいだけですから」

「ある方?」

「…黒勇者、ですよ」

「それって、確か魔物の…気は確かなのか?」

「あそこから逃げ出した人に、そんな事を言われたくないです」

彼が驚愕しながらも、なぜか悲しそうな顔を向けた時、それは起こった

〜〜〜

「ど、どうしよぉ…」

No.93がウィレットの家に入るのを、その少女は影から見ていた

「ウィー、大丈夫だよね…」

その顔から察するに、彼女は家の主を心から心配しているようだ

「も、もう少しで…もう少しで完成するからね。ウィー…」

「こんなところでどうしたんだい、お嬢ちゃん?」

不意に後ろから掛けられた声に気付き、彼女の表情は強張る

「ん?お前どうしたんだ?」

「あ、隊長」

更に追い討ちをかけるように、後ろからも声が―――

「ん?」

と、隊長と呼ばれた男はその少女を見て気付いた

「まさか…お前!?」

剣を抜き、少女を威嚇する男

「カリム!?いきなり剣を抜いて何を!?」

「こいつは魔女だ!!」

その言葉の瞬間、少女は混乱し―――

それは起きた

〜〜〜

外に出てみると、魔力の渦のような物が発生していた

「これは…」

「まさか…ヴィヴィオ!!」

とウィレットさんが魔力の渦の中に入っていこうとしたので、咄嗟に止める

「何をしようとしてるんですか!?死にますよ!!」

「離してくれ!!中にはヴィヴィオが!!」

彼は何かに取り付かれたように、中に入ろうとする

「―――このままだと、確かに危ないわね」

と、後ろから聞こえてきたのは―――

「黒勇者…」

「このままだと、彼女…死ぬわね」

手に包帯を巻いた、痛々しい姿の黒勇者が、そこにたっていた

「なにを作ろうとしたのかわからないけど、魔道具が暴走してるわね…。魔力が溢れてて転移も出来ない」

更に、黒勇者から、信じられない言葉が出てくる

「しかも、それに巻き込まれる形で3人中にいるわね」

「…まさか」

「恐らく…貴方の仲間ね」

僕はウィレットさんを止めるのを忘れ、そのまま立ち尽くしていた

が、それはウィレットさんも同じで…

「そんな…ヴィヴィオが…」

絶望して、そのまま崩れ落ちた

「…助ける方法は、あるにはあるわ」

黒勇者の、その一言に、僕らは顔を上げる

「その為には、貴方の協力が必要なの…」

そう言いながら、僕をみる黒勇者

「この魔力の渦では、今の私には通り抜けることは出来ないわ。だから「私が、道を開くんですね」

僕は、彼女の言いたい事を理解した

「…まさか、貴女と共闘する日が来るとは、ね…」

「私は、いつでも共闘したいのよ?」

彼女が微笑みながら言う言葉に、僕は返す

「勘違いしないでください。あくまで、魔界化を防ぐ為です」

そういうと、僕は剣を構え―――

「CounterReflect(カウンターリフレクト)の、本当の力をお見せしますよ」

魔力の渦を切り裂き始めた

・・・

CounterReflect(カウンターリフレクト)

僕が埋め込まれた魔術式だ
能力は極めて単純明白、ただ只管相手の攻撃をカウンターするだけだ

しかしこの術式、実は恐ろしいまでに防御力が高い

具体的に言えば―――

魔力の渦を切り裂き、更にはその余波すら寄せ付けない位、魔力を、害を、反射する

「離れないで!!」

そう言いながら、僕は黒勇者をエスコートする

目指すは中心部

僅か10mの距離が、中々移動できない

「魔力の渦の中だと、一番外と違って、体に直接のダメージはないわ!でも…」

「こんな暴風雨みたいなことは、想定していなかったんですね!?」

そこは、魔力が荒れ狂い、まるで竜巻の中にいるようだった
そんな中に居るからこそ、僕は剣で魔力を斬り、黒勇者になにもいかない様に、細心の注意を払っていた

「これだけの魔力を集めて、彼女は何をしようとしたのかしら…」

黒勇者の言葉が聞こえたが、僕には答える予測も、答えもない

ただただ、魔力を斬っていくだけだった

・・・


更に進んでいくと、ふと声が聞こえてきた

『わ…がま…る…』

それは、小さな声だったが、徐々に大きくなっていった

『私がウ…を守る…』

『私が、ウィーを守るんだ!!』

中心部に近づいた瞬間、はっきりとそれは聞こえた

『いっつも私を守ってくれたウィーを、今度は私が守るんだ!!』

「その為に、こんな事を?」

『お前ら教団がいけないんだ!!ウィーを追っかけまわして、したくないことばっかりさせて!ウィーを傷つけないで!!』

それは純粋に彼を思って言ってるんだろう
が、僕は―――

「…けるな」

無性に腹が立った

「ふざけるな!!なにが彼を守るだ!?」

「…キュー君?」

「大切な人を守る為に、こんな危険なことをして、挙句に人に迷惑をかけて!それを他に責任転嫁するな!!」

『うるさい!うるさいうるさいうるさい!お前らなんて!私達をただただ虐殺してモルモットにしただけじゃんか!!』

「そうだとして、それから守るのに!彼の故郷を魔界に変えても言い訳じゃないだろ!!解ってるはずだろ!?」

彼女は、何も言わなくなる

「君は…彼の大切な人なんだろ!?なら、余計に考えなきゃダメじゃないか!!」

到着したそこには、泣きながら魔道具を止めようとしてる少女がいた

「…仕方ないじゃん。またウィーが連れてかれて、辛い思いさせられると思うと嫌だったし。私じゃウィーを守れないから、結界発生装置を作って、ウィーと暮せたら…」

「…」

僕も、黒勇者も、なにも言わない

「でも、教団の騎士が来て、ウィーが連れてかれるかもって思って…」

泣きながら続ける彼女に、僕は言う

「なら、それで彼の故郷を奪っても良いの?」

「!?」

彼女も、ようやく気付いたようだ

―――恋は盲目、という言葉はきっと彼女のためにあるんだろ
愛する人のために、とにかく頑張りたかったのだろう

そのこと自体は認めようと思う

だから―――

「君の努力を壊すけど、それでも、この瞬間だけは…君を助けよう」

手に力を込めて、剣を握りなおす

そして―――

「―――君に、幸あれ」

小さく言うと、僕は、魔道具を叩き壊した

・・・

魔力の渦が晴れ、そこには、フォーエンバッハさんとシスターと、騎士団の一人、そして、犯人と思しき魔女が倒れていた

「ヴィヴィオ!!」

ウィレットさんは、走って彼女に近づいて抱き抱える

「なんでこんな事を!?」

「ウィー…ごめんね。でも…少しでも役に立ちたかったの…」

恐らく、彼がサンクチュアリから逃げ出した理由は、彼女なのだろう

あそこのモルモットにされている魔物に恋をしたか、もしくは―――

「彼女は、幼馴染の?」

「…そうだ。僕の幼馴染だよ」

彼は抱き締めながら、僕に言う

「彼女が仕出かした事は、確かに悪いことだ。でも、それでも…!!」

「…そうですね。せめてもの情けです。―――二人まとめて、送ってあげますよ」

「は?」

彼が振り向いた先には―――

剣を振り下ろそうとする、僕の姿が見えるだろう

が、直ぐに止められた

「それはいくらなんでも、無粋じゃないかしら?」

僕の首元に、剣を突きつける黒勇者

「貴方の本心とは思えないわね?」

「…本心からですよ。私は『白勇者』ですからね」

そう言うと、黒勇者はお得意の転移魔法で、自分と二人を転移しようとしていた

「…ま、下手なお芝居はこの辺にして、と」

一瞬悲しそうな顔をしながら、僕に言う

「また会いましょう」

そうして、彼女は居なくなった

・・・

二人を城に送り届けてから、私は少し散歩をしていた

城では恐らくゆっくり考えられないだろうと判断し、私は外で今日見たキュー君の事を考えた

―――以前と違って、魂がより悲しくなってた?

彼の魂から、憎悪が消えていたが、変わりに悲しみや苦しみが増していた

あんな辛い魂、本当に存在するとは思わなかったとさえ思えるほどだ

同時にあったのは、決意の色
あんな悲しい決意の色も、普通なら見られるはずがない

が、彼はそれを灯しながらも、確実に歩こうとしている

―――一体、何が?

そんな考えに集中しすぎたせいだろう

…まさか、私を捕らえるのに、3人も勇者が来るなんて、思わなかったのもあったが―――

「ねぇ?」

「え?」

―――次の瞬間、私は意識を失った
12/02/14 00:19更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
〜〜次回予告〜〜

「黒勇者が捕まった!?」

それは、魔物たちにとって悲劇のニュースであり、教団にとって吉報と言える事だった

それを聞いたNo.93は、思い掛けない行動にでる!

それは一歩間違えれば自分の命もなくなる、危険な賭けだった

次回、「囚われの勇者、確かな思い、悲しみの証」

「僕は、正しいと思ったことをするだけだ」

―――

どうも、ネームレスです

はい…

一番書きたかったエピソードの一つを書けて、テンション高いです!!

読みきりの時から使いたかったエピソードですからね!

さてさて…黒勇者リリス、ついに捕まってしまいましたが…

これを助けなきゃ主人公じゃないでしょ!!

次回は少しだけネタバレすると…

No.93がやっと活躍します!!

今まで良い所無しの主人公、魅せますよー!!



それでは今回もここまで読んで頂き、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!



追伸:もしかしたら来週アップできないかもしれないので、その時は次の週までお待ちいただければと思います…

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