連載小説
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望まぬ戦い、勇者であること、届いた思い
―――それは、必然だったのかもしれない

彼の憎しみを考えれば、この方法しか無いのかも知れない

それでも、私は―――


ガキィン!


この戦いだけは、避けたかったと思ってしまうのだ

・・・

新しい白勇者の存在を聞いて、私はそこへ向かった

向かった先には、なにかに溶かされた街の残骸しか残っていなかった

が、街の住民は全員森に非難が完了しており、奇跡的に誰一人怪我すら負っていなかったとのことだった


が、本人である巨漢をみて理解した


彼は街を破壊し、住民を出来るだけ避難させようとしていたのだろう

アッシュ=ガルダート

かつて、教団の騎士でありながら、弱き者は魔物でも守ろうとした、歴戦の兵だ

彼はその後戦線から見なくなったと聞いていたが、その答えを理解した

彼もまた、実験の犠牲者となっていたのだろう


目の前の、彼―――キューと呼ばれた少年のように

「ハァ…ハァ…」

キュー君の防御を崩すことは、もはや至難の粋を越えていた

転移魔法で死角から攻撃しても―――
全方位からの魔力弾も―――
広範囲魔法も―――

全て、弾き返されてしまっているのだから

「もう…降参したら…どう、ですか」

が、彼もまた疲弊している
自分から攻撃してこない代わりに、全てカウンター攻撃をしようとしているのだ

当然、その分体力は消耗する

が、それでも―――

「まだ…貴方を、助けてないもの…」

私の声は、彼には届かない

「…魔物如きが、私を助ける?バカも休み休み言えよ!?」

彼は声を荒げて、私に…いや、魔物達に言う

「お前らさえいなければ人間は平和に暮らせたんじゃないか!!」

「そんな事は…」

ない、とは言い切れない部分もあるだろう
旧時代からのしこりもまだ残っているところはある

旧時代の、人間を餌にしていた時の名残りが、今の私達の性欲だ

だが、だからこそ―――

「昔のように、私達は人を襲わない。共に生きて行く事を母が…魔王が願っているから」

「共に生きる?」

その言葉を聞いた瞬間、彼はとても―――彼には似つかわしくない下卑た笑みを浮かべて言った

「そんな戯言を信じると?馬鹿らしい」

呆れたような、見下すような―――

そして、それを本当は願っているような、悲しい笑みを浮かべて彼は言い放った

「貴方達魔物は、性欲を埋める『道具』に、人間を使っているだけでしょう?そんな崇高な気持ち、あるはずないだろうが!!」

「そんな事ない!!」

私は即座に否定する

「少なくとも、そんな悲しい理由だけの訳がない!!皆愛を育んで、共に生きていこうと考えてるのよ!!」

「ならなんで!?」

彼は、その射抜くように見る眼から、涙を流しながら、私達に言う

「なら、なんで…父さんを奪ったんだよ!?」

彼のその言葉の意味が、解らなかった

「ホーネット達が村に攻めてきて…父さんをさらって…母さんは…」

彼は続けることが出来ず、しかし私を睨みながら剣を構える

「なんで、僕達から奪っていったんだよ…。なんでそんな奴らが愛を語れるんだよ…。なんでお前らが幸せに暮せるんだよ!?答えろ!!黒勇者ぁ!!」

そんな彼を見て、私は―――

私は―――

・・・

幼少の頃から、私は不自由なく暮せてきたのだと思う

優しい母、優しい父…
美しく、気高く、しかし謙虚に自己鍛錬をしていく姉達…

そんな素晴らしい家族の末の娘として、私は生まれてきたのだから
、限りなく幸せなのだと思う


そんな私だからこそ、今までの事を振り返っても、魔物が間違ってることがあるなんて、一つも思わなかった


だが、現実を突きつけられて、私は考える

―――果たして、本当に正しいのだろうか?

最近なら、デルエラお姉さまがレスカティエを魔界に変え、そこで苦しんでいた勇者達、国民達などを助けたが…

これを否定する気なんて、当然起きない

起きないが、正しかったのかと改めて聞かれるとどうなのだろ
私達からしたら正しかったとしても、国民の中には少しながら強引な所があったと感じているかもしれない

結果的に、皆が救われていたとしても、だ

だが、これを間違いだと思うこと自体ありえない
ましてや、一方的な略奪者に自分達がなっていると、思わないし―――

思いたくない


「…答えられないでしょ?」


彼は、あざ笑うようにして言う

「貴様らの愛情なんて、ただの欲求から来てるだけなんじゃないのか!?」

そう言いながら、彼は不慣れな攻めをしてくる

「それだけは違う!!」

「じゃあ答えてくれよ!!」

泣きながら、彼は乞う

「なんで!!父さんを奪ったんだよ!?なんで…母さんに売られなきゃいけなくなるんだよ!?」

「それは…」

母親に売られたと聞いて、私は絶句した

親が、実の子供を、売るのか?

「なんで売るって思ってんだろ?…売らなきゃ、みんな死んでたからだよ!!そこまでお前らが追い込んだんだ!!」

彼は剣の質量に任せて、私の細身の剣に体重をかけてくる

「お前の救済なんて、上辺だけだ!!そんな救済なんていらないんだ!!」

「そんな事はない!!私は本気で貴方を!!」

そんなつばぜり合いが続いてる中だった

―――No.30の前に、魔物の子供が出てきてしまったのは

・・・

「あ、あぁ…」

その子は見事に恐怖に怯えていた

「No.30!チャンスです!!」

キュー君は彼に言う

「その魔物を!早く!!」

私は即座に転移魔法でその子の方に移動しようとする
が、目の前のキュー君の剣圧をどうにかしないと、転移する瞬間に殺されてしまう

―――どうにかしないと!!

そうあせっている時だった
No.30は腕を振り上げ―――

「やめてぇぇぇぇ!」


ドズンッ!

その子の、横に自分の拳を叩き付けた
地面が溶けているような感じだが、その子には、怪我も何もない

「なんで…」

キュー君は眼を疑うようにして言う

「なんでそんな事を!?貴方は…わかってるんですか!?」

その言葉と共に、彼は、アッシュ=ガルダードは倒れ、呻き声を上げる

「貴方のそれは魔物を殺さないと…コントロールを失うようにされているでしょ!?早くしないと!!」

彼が代わりに殺そうとするが、私は彼の腕を掴み、彼に聞く

「どうなってしまうの!?」

「彼が…アッシュさんが自壊する…」

・・・

「彼は、元々裏切り者だから…」

「その為に…貴方達は、人の命をなんだと思ってるの!?」

キュー君が悪いわけじゃないのに、私は彼を攻めてしまう
が、言ってから気付き、彼に謝罪する

「…ごめんなさい、貴方のせいではないのに…」

「…僕ら、白勇者は皆背中に逃走と反逆防止の魔術陣を縫いこまれる」

「え?」

「白勇者同士で触れることは出来ないようにされてる…だから…」

彼は悔しそうに、悲しそうにいう

それを見て私の決意は固まった

「背中に、あるのね」

「くろ、勇者?」

アッシュ=ガルダードが背中を上にして倒れてくれて感謝したい気分だった

その鎧を魔術で転送し、服を破く!

「!!くぅぅぅ!」

瞬間、私の手が焼けるように痛んだ

「彼の体は体液が強酸になっている!そんな事をしたら!!」

「わかってる!!」

私は、キュー君に言う

「私は、言ったわよね…?貴方達を救済するって」

キュー君の眼を見て、言う

「嘘じゃないことを…お姉さま達やお母様が間違ってないことを…貴方を助けたいのが嘘じゃないのを、証明させて」

そう言って、私は彼の背中を露出させる

―――そこには、おびただしい数の切り傷と
―――見ていて吐き気がする

禁術の、魔術式の数々が、あった

彼が根元にされている魔術も、禁術なら、彼を苦しめるこの強要魔術も禁術

こんなこと、私は許せなかった

「…」

精神を集中し、解呪を続ける

その間も、私の体を酸が蝕む

が、私は魔物で―――
リリムで―――

―――黒勇者なんだ!

「…こんなもの」

私は、心から願って言う

「なくなってしまえ!」

瞬間―――

彼がまばゆい光に包まれ―――


「解呪…成功ね」

そこには、体を蝕まれ、苦しんでいた彼の姿はなかった

・・・

「…」

彼は、無言で近づいてくる

私はもう満身創痍で、体が動かない
さっきの子は、どうやら逃げてくれたようだ

「…貴方を救うには、この方法しかないの?」

キュー君に聞くも、返事は返ってこない

「…ありがとうございます」

不意に聞こえたのは、キュー君の声

「アッシュさんを助けてくれて…」

彼は向きを変え、そのまま歩いていく

「今回の任務は続行不可能なので、撤退しますが…次はないですよ、黒勇者」

そう言って、彼は行こうとする

「待って!!」

呼び止めようとも、彼は止まらない

「…たなら…」

なにか言ったようだが、上手く聞き取れず―――

結局、彼は立ち去ってしまった

・・・

彼女がアッシュさんを解呪したのを、僕は今でも疑ってしまっている

が、間違いなくアッシュさんは解呪されたのだろう

その証拠に、苦痛にゆがんだ顔が、安心した顔になっていたから

(だけど、なんで信じるんだよ。あいつらは敵なんだぞ?)

またこの声がする

(あいつらは故郷を奪ったんだ)

それなら僕らだって一緒だ

(先にしたのはあいつらだ。だから―――)

黙れ

(殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺)

「黙れ」

頭の中の声を、僕はイメージで握りつぶし、そして―――

彼女の事を、黒勇者の事を思い出す
彼女ならきっと、命をかけて助けようとするのだろう

それこそ、勇者のように―――

と、僕は―――

「そっか」

ついに―――

「そうだったんだ」

自分の感情に気付いた

「僕は…おごがましくも、救われたかったんだ」

これだけ人を傷つけて、これだけ罪に塗れて―――

なんて、僕は―――

「卑しいんだろう」

だからこそ、僕は胸の中で誓った

―――彼女の行動の、救済の為に、その為に

この命を使おう、と

11/11/04 23:58更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
〜〜次回予告〜〜

己の中にある願望を、しかし内に秘めながら黒勇者を立てるために活動することを決意したNo.93

そんな彼が向かう先で、悲しくも…

しかし純粋な思いが暴走する


次回、「フォースミッション〜包囲〜」

「貴方と…こうなる日がくるとはね」


―――

どうも、ネームレスです

さてさて、ついに思いは届くも、しかしキューにとってそれは自分の罪との折り合いがつかない模様で…

さてさて、リリスとの触れ合い

次回はどうなるのでしょうか!?

楽しみにしてくださると、作者嬉しいです(殴

皆様に楽しんで頂くと同時に、なにか残せたらと思っています




それでは今回もここまで読んで頂き、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!

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