連載小説
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囚われの勇者、確かな思い、悲しみの証(上)
〜〜〜

それは、大きなニュースだったと思う

―――黒勇者が捕まった

教団からは歓喜の、安堵の声

親魔物領からは嘆きの、絶望の声


しかし、歴史は語る

黒勇者は死ななかったと

華麗に教団から逃げ出した事になっているが、その真実を見てみよう

〜〜〜



眼が覚めた時、私は縄で縛られ弱体化の魔法陣の上に置かれていた

「気が付いたんだ」

眼をやると、椅子に座っている子供がいた

キュー君より年下のような見た目の彼は、私が今まで見てきた、敵対してきた者達と同じ服装をしていた

「白勇者…」

「ピンポーン!大正解!!僕はNo.11!」

無邪気に、しかし狂気に満ちているようなその眼に、私は無意識に恐怖を覚えた

「しっかし、黒勇者なんて言われてるけど大したことないんだねー!!ボクに簡単に捕まるなんて!!」

私は何も言わない
先ず状況を確認しないと…

「一人で間抜けに歩いててさ、あんな簡単にボクに捕まるんだからホンット、弱いよねー!!こんなんに勝てないなんて、他の白勇者はみーんなつっかえないなー!!」

部屋は扉が一つ、恐らく地下牢だろうこの場所は、先程No.11と名乗った少年の後ろにある扉からしか出れないだろう

私自身は魔方陣で力を奪われ、転移も出来ない

更には縄自体にも弱体化の術が掛かっているらしく、力が出ないのが現状だ

「…あのさ、少しはなんか言えよ」

と、目の前にいた少年が私に言う

「…悪いけど、君と話してる気分じゃないの」

「魔物の癖に生意気だ」

そういうと椅子から降り、こちらに来て―――

「!?ゲホッ!!」

いきなりおなかを蹴ってきた

「あのさ、ボクの方がアンタより強いんだよ?どの白勇者よりも強いんだよ?つまりボクのほうが偉いんだからね」

「な、にを言って…」

「だって、強ければ何をしても良いんでしょ?自分達が力あるからボク達の生活の場をめちゃくちゃにするんでしょ魔物は?」

純粋な、しかし明確な敵意を私に向け、彼は続ける

「だったら、ボクらも同じ事してもいいでしょ?…なんの問題があるの?」

ニンマリと嫌な笑みを浮かべ、彼は言う

「ち…がう…」

「違わないよ。…魔物になった連中もみんなロクなのがいないんだ。…ボクの両親みたいにね」

彼はニヤニヤしながら言う

「母さんが魔物になって、父さんと三人で逃げてた時さ、実の息子を教団に売って逃げようとしたんだよ?母さんが魔物になってなければそんな事なかったし、二人とも死ななかったのにね」

私は無言で、彼のご両親の冥福を祈ろうとした
が、次の言葉に絶句してしまった

「全くさ、『一生交わってろ』って命令したら本当に殺されても交わってるんだから、バッカだよねー!!」

「え?」

「ん?教団に殺されてボクが無理矢理やってると思った?そんな訳ないじゃん!そんな出来損ない共と一緒にしないでよ」

彼は笑いながら続ける

「ボクはあんな出来損ない共と違って、自分から進んで教団に尽くしてるんだ。この力を受け入れてくれた教団に、ね。…他じゃ受け入れてくれなかったこの力を、強化してくれたんだから感謝してるよ」

―――ギイィィ

と、彼が話しているとき、扉が開き、他の男性が入ってきた

「もう時間であるぞNo.11」

「うるさいな!!ボクに命令するなよNo.96!」

まるで旧時代のヴァンパイアを彷彿とさせるその風貌と、雰囲気を纏ったその男は、少年に注意をしながら、自分の用件を言う

「見張りは交代であろうNo.11。オイタが過ぎるならその旨を報告するぞ」

「…ふん!はみ出し者がボクに命令するな!」

そういうと、少年は出て行ってしまった

「…蹴られた箇所は痛むか?」

「かなり弱体化されてるから、ね…」

そういうと、男は椅子に座り本を読み始めた

「動けば対処するが、動かないなら我輩はなにもせん、寝ておけ。…後数日したら処刑されるんだから」

最後の言葉が気になったが、私はそのまま眠りについてしまった

・・・

また眼が覚めると、今度は女性が立っていた

腰には二本の剣―――いや、大型のナイフだろうか―――を持ったその女性は、私を見下ろしている

その眼には、何も感情も感じられない

「…No.12」

突然、彼女が言葉を発した

「…黒勇者、貴様の監視任務が私の仕事」

そういうと、私の体勢を直し―――

「死なれたら困る。食え」

そう言いながらパンを口に押し込まれた
正直、かなり呼吸がしずらい

「…」

彼女は何も言わず、パンを口に押し込んだらまた立ち上がり椅子に歩いていった

この感情の無さ、正直マンティスに匹敵するのではないかと感じる

「食べたら言って。まだあるから」

「…ありがたいけど、もう良いわ」

なんとか食べたが、もう何も口に入れたくない

「魔物なのに、小食」

彼女が何か言っていたが、私はまた部屋を見直してみる

全く変わりないその部屋は、やはり扉は一つだけだった

・・・

代わり映えしないその部屋にいてわかった事は、私の警護の白勇者が3人、それも私を捕まえた張本人たちだという事と、それぞれの特徴だけだった

No.11と名乗った少年、彼が私を捕まえた張本人らしいが…
はっきり言ってかなり性格には問題があった

元から持っていたのか、力が強くなったからか、とにかく自分本位な所が目立つ
とにかく子供っぽく、ワガママだ

No.96と名乗った男性、彼はまともに話が出来る唯一の人物だといっていい

その物腰、口調からかなり学がある人間なのは分かるが、なぜ彼がここに居るのかわからない

また、彼はどうやら代償で血を飲まなければならないらしい

私に謝りながら、血を少しのみ、傷が直ぐに癒えるようにと、かなり効き目の高い薬を使ってくれる辺り、元々は紳士的なのだろう

最後に、No.12と名乗った女性

彼女には感情があるのだろうか?
はっきり言って、人形と話をしていると言っても間違いではない位感情がない

押し殺しているとも思えない位、とにかく淡々としているのだ


それ以外の兵は居ないらしく、彼ら3人さえどうにか出来れば―――

そんな事を考えていると、誰かが入ってきた

「え…」

「久しぶりですね、黒勇者」

それは、キュー君だった

・・・

「黒勇者を捕まえた?」

「そ、ボクが捕まえたんだよ」

連絡用水晶から聞こえてくるのは、No.11と名乗った白勇者の一人だった

「あんた、あんな弱いのに苦戦してたんだね。がっかりだよ『DespairLance(ディスペアランス)』」

彼は恐らく僕より年下なのだろうが、しかし彼は礼節を考えず発言を続けていく

「ナンバーの他に、称号まで貰ったあんたが、こんなの一匹殺せないなんて…。これならボクが称号を貰ったほうが良かったかな?」

「…手間を煩わせたこと、すみませんでした」

彼は水晶越しでも解るくらい踏ん反り返っていた

「てな訳でさ、もし来れそうならきなよ?」

「は?」

彼は何を言ってるんだろう

「アンタを苦しめた敵なんだ。…最後に痛めつけたいだろ?」

笑いながら言う彼の言葉を、僕は理解できなかった

「んじゃ、待ってるからー」

と、一方的に通信を切られてしまった

さて―――

正直またとないチャンスだった

もし捕まったのが本当に黒勇者なら助けなければならない

事実でなくても、相手の中にNo.11が居るなら、黒勇者の救済を手助けするのに利用できる

どちらにせよ、向かうのが良いのは明確だ

だが、問題がある

フォーエンバッハさん達を連れて行けないことだ

彼らにはただでさえ迷惑が掛かるのだ
これ以上、辛い思いをさせたくない

僕は、決心した

・・・

「…この街の調査?」

「原因がなくなっても、まだ魔界化が進んでる可能性がありますし…」

フォーエンバッハさんには、申し訳ないがここに残ってもらうことにした

実際問題、兵の一人がまだ動けない上に、まだ魔界化が振興している可能性がある

…殆ど、可能性はないが

なにより―――

「黒勇者が簡単に捕まるとは思えません。…なにか策があるのかもしれません」

「…わかったが、大将」

と、周りに人が居ないのを確認したフォーエンバッハさんが―――

「本音、俺にはもらしてくれや」

そう言いながら、僕に剣を向けてきた

「…なんのつもりですか?」

「これでも人間見るのは得意でね…。大将が黒勇者を助けようとしてんのなんて、お見通しなんだよ」

その言葉に、僕の心臓は止まるかと思った

「な、何を言ってるんです?」

冷や汗が止まらない

「…悪いがよ、嘘は俺には効かないぜ?」

剣を喉元に突きつけ、彼は続ける

「そもそも、俺の剣なんかが大将に届くわけがないんだ。なのに今は届いてる」

―――どういうことか、わかるかい?

彼の言葉が、僕を追い詰めていく

「大将は良い人だ。剣筋も、人を守るときには輝くし、魔物でも傷つけようとするときには曇る」

僕は答えられない

「恐らくだが…どうにか自分だけを犠牲にして、他の白勇者や俺たちを助けようとしてないか?」

「…」

「だんまりは、肯定と取るぜ?」

僕は―――

「…その事を、報告しますか?」

フォーエンバッハさんに、屈した


「いや、しない」


僕は耳を疑い、顔を上げた

「大将がそこまで惚れこんだ相手だろ?…なら助けに行ってくれや」

「でも、今後も貴方達に「見くびるなよ」

僕の言葉を遮り、彼は続ける

「もう一回言う。見くびるなよ、小僧。俺たち第七自由騎士団は…俺は…アンタを『大将』としてしか動かないんだぜ?」

「でも、僕がしようとしてるのは!!してるのは…」

「アンタだけが、背負い込むことじゃないさ」

そう言いながら、僕の頭を撫でて、続ける

「このことは、俺の胸の中にだけ入れとく。…他の連中には言わないから、安心して助けてきてくれ。そして―――アンタが正しいと思ったことを俺たちに見せてくれ」


その言葉に、その優しさに僕は―――

「うっ…うぅっ…」

「我慢しないで、泣きたいときは泣けよ、な?」

我慢、出来なかった

11/12/03 00:07更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
後編へ続く!!

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