連載小説
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TAKE17.91 開戦! 古坂彦太郎杯決勝戦!
「ダメ、だったわ……」
「……」

 ココナッツツリー・コロセウムに併設された控室。椅子に腰掛け力なく項垂れるのは、ギルタブリルの砂川克己。その瞳には最早生気が感じられず、絶望しきった彼女の精神状態を如実に物語っていた。

「ごめんなさい、ゆーちゃん……約束、守れなくて……」

 克己の口から絞り出される言葉には、今に至るまでに何が起こり、結果彼女が何を考えているのか……その全てが集約されていた。
 即ち、彼女は古坂彦太郎杯の決勝戦進出を逃してしまったのである。

(呼ばれたから来てみたものの、どうしたものか……)

 落胆する克己の傍らに立つ雄喜は、どうしたものかと迷っていた。声をかけるべきか、言葉ではなく行動で示すべきか。はたまた何もせず傍らにいるだけが正解なのか。こういった場面に遭遇した経験のない彼は、何も分からぬままただ立ち尽くすことしかできずにいた。

(それだけ克己さんは僕と戦うのを楽しみにしていてくれたって事なんだろうな……本当にありがたいことだ)

 無力な自分の不甲斐なさを悔いつつ、何もできない虚無の時間に耐えられなくなった雄喜は、今までの出来事を回想する。

(Dブロック代表がトラケミーになり、対戦カードは自動的に決まった。第一試合で僕と青藍爪牙隊で、第二試合は克己さんとトラケミー……そして僕は第一試合を制し決勝進出を果たした。青藍爪牙隊は間違いなく強敵だった。今でも何であれに勝てたんだかよくわからん。
 先鋒の赤楚はまだ何とかなったにしても気を抜いていたら危なかったし、次鋒の吉沢と中堅の佐藤は正直どうやっても勝てる相手じゃなかったと思う。副将の要はデッキの相性が良かったお陰で勝てたようなもんだし、岡田戦の勝ちなんてほぼ奇跡だったんだよなあ……まあ、相性だろうが奇跡だろうが勝ちは勝ちだし、あとは克己さんが反対側へ登ってくるのを待つだけだった)

 雄喜は信じていた。
 砂川克己は『本当によくできた女性』で、自分より遥かに『優れている』。
 それはカードゲーマーとしても同じことで、実際彼女の戦いぶりは自分より遥かに洗練されていたように思う。妨害や搦め手、効果ダメージに関するカードも豊富である以上、特殊ルールでライフと手札が少なくターン数制限もあるトラケミーには優位に立ち回れるだろう。
 そもそもあのトラケミーなるグレムリンとて、次の準決勝ではライフ1000・手札二枚から対局を始めねばならない。ならばどれほど構築が洗練されていようと、勝つことは難しい筈だ。
 つまり、例えトラケミー相手でも克己の勝率は十分に高いと言える。きっと彼女ならやってくれる。寧ろ成し遂げて欲しい。
 それが俳優、志賀雄喜の想いだった。

 そして始まった準決勝第二試合。高速展開に秀でた【フューリートイ】や、バーン効果を持つ【BM】といった克己のデッキはトラケミーを瞬く間に葬り去り、あっという間に四連勝……あと一勝すれば克己の勝ちが確定するという所までやってきた。
 克己は思った。このまま行けば勝てるかもしれない……否、勝つしかない。勝って決勝に進み、決勝で雄喜と戦わねばならないのだ、と。
 そしてまた、雄喜は思った。やはり件の特殊ルールはトラケミー自身の枷となっている。これならば克己が勝つのは必然だ、と。

 一方、トラケミーもこのままでは敗北すると悟ったか、運営側への逆転申請を試みる。
 提示した条件は『自身の第一ターンで相手に20000以上のダメージを一度で与えるワンターンキルで勝利する』というもの。余りにも非現実的で荒唐無稽な内容に、観客は『そんな条件達成できるわけがないだろう』と鼻で笑い、運営さえ『できるものならばやってみろ』と言わんばかりにトラケミーの逆転申請をあっさり通した。しかもこの時、トラケミーは先攻であった。

 『先攻一ターン目、手札二枚で何ができる』『今からでも遅くない、条件を変更させて貰え』……観客席からそんなヤジが飛んでくるのもお構いなしに、トラケミーは行動を開始する。


 まず彼女が発動したのは《気前の良すぎる自己犠牲》なるスキルカード。その効果は『自分のライフを任意の数値だけ減らし、相手のライフを任意の数値だけ回復させる』という、単体では敵に塩を送るばかりでほぼ役に立たない、使いどころを選ぶカードであった。
 トラケミーはそのスキルカードで克己のライフを初期ライフの役三倍に相当する24001まで回復させ、同時に自らのライフを僅か1まで減らした。そこで克己はトラケミーの真なる狙いを察知したが、彼女の動きを止めることはできなかった。
 隠された"狙い"に気付きもせずトラケミーを嘲る観客たちを尻目に、グレムリンの少女は二枚目のスキルカード《極限状態の希望》を発動する。
 その効果は『自身のライフが相手より少ない場合、その差2000につき一枚デッキからカードをドローできる』というもの。この効果によりトラケミーは実に12枚ものカードをドローすることに成功する。

 その後はトラケミーの独壇場であった。
 彼女は補充された12枚の手札を存分に活用し、展開を続けていく。
 絶え間なく続いた展開と強化の果てに、トラケミーは元々攻守4000である合成ユニット《メタルサイバー・アルマゲドラゴン》を攻防ともに50000に強化した状態で展開。トドメとばかりに手札からユニットカード《スリングショット・アームズ-L》《スリングショット・アームズ-R》《ハイパーギガ・スリングショット》の三枚を墓地へ捨て、その効果――『自身のユニット一体をベイトし、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える』というもの――を発動する。

 結果、攻撃力50000の《アルマゲドラゴン》がベイトされ、その半分の数値25000のダメージが飛んで来たことで24001のライフは一瞬で消し飛ばされ、克己は何もできぬまま敗北。同時に『自身の第一ターンで相手に20000以上のダメージを一度で与えるワンターンキルで勝利する』という逆転条件は達成され、トラケミーの勝利と決勝進出が確定したのであった。

(……信じがたい展開だった。何から何まで現実離れし過ぎた、絵空事か何かのような……)
 常人の理解を遥かに超えていると、言わずにいられない。尚恐ろしいのは、次の決勝戦で自分が奴らと戦わねばならないということだ。
(決勝は全員出るんだったか……トラケミーだけでも恐ろしいのに、まだ詳細不明の相手が四人もいる……)
 何をしてくるのか、一切合切全く予想できない。雄喜は不安と恐怖に囚われた。
(ああ、全く恐ろしいな……博物館の恐竜ロボットや、出て来たばかりの時のナゾライよりよっぽど恐ろしい……)
 然し雄喜は思う。『だが進まねば。この不安を切り刻み、この恐怖を叩き潰し、前に進むしかないのだ』と。
(そうだ。進むしかない。例え負けてしまうとわかっていても、ここまで来た以上は進むしかないんだ……)
 雄喜は改めて克己へ視線を向ける。察するに彼女も少し落ち着いたらしい。傍に居ただけなのだが、それでもどうやら効果はあったのだなと、青年は内心安堵する。

「本当……ごめんなさいね、ゆーちゃん。決勝で会おうって約束してたのに、守れなくて」
「いえ、お気になさらず。逆の場合も在り得たわけですし……負けずにいられる、常勝無敗の奴なんてこの世にはいないんですから」
「それはそうだけどね、やっぱり残念でならないわ。一緒に勝ち抜いて、決勝の舞台で戦いたかったのに……それだけ目指してここまで頑張って来たのにね」
「克己さん……」
「まあでも、過去は過去。無理だったものは無理なのよね。悔いていたって仕方ない……。
 そういうわけだからゆーちゃん、申し訳ないけどあとは任せていいかしら?」
「ええ、お任せください。ボスの敵のFFC団に、貴女の敵のトラケミー……そしてそいつらを纏め上げて何かを企んでいる十五夜ヒマリ……これで実質、奴ら全員との間に等しく因縁ができたってわけだ。ならやることは、ただ一つです……」
「へえ、何をするの?」
「……決まってるじゃないですか。

 勝つんですよ、徹底的にね





『来たぜ〜来たぜぇ〜! 遂に来たぁっ! 遂にやって来たこの時がぁ!

 キラメキングダム株式会社協賛の元、当「デュエルラボ 椰子ノ木町商店街店」主催で開催中!
 遊侠王オフィシャルカードシリーズ公認大会「第三回 古坂彦太郎杯」!
 その優勝者を決める最後の戦い……決勝戦がいよいよ始まるぜーっ!
 みんな心待ちにしていたことだろう! 俺だって心待ちにしていたんだこの瞬間を!
 待ちくたびれ過ぎて長々喋り倒すのも最早めんどくせぇ! 早速選手を紹介しちまおうかっ!

 オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!

 何もかもが規格外! 不可能を可能にする奇跡の女トラケミー! 彼女を擁する謎だらけのあのチームが、満を持してココナッツツリー・コロセウムに登場だぁ!
 ご紹介しよう! 正体不明の激ヤバ五人衆! 十五夜ヒマリィィィィィィ親ンンン衛ィィィ隊ィィィ!』

「いいかお前ら、絶対勝つぞ? 負けんなよ?」
「勿論ですわ、ご主人様……」
「ぜ、絶対勝つですー!」
「キヒヒッ! 勝ってやんのは構わねーが……」
「十五夜様よォ、オレ等との約束忘れんじゃねーぞ?」
「ふん、心配いらねーよ。3000万ありゃあとはこっちのもんだからなぁ!」

『これまでトラケミー選手しか表に出ず、他のメンバーに関しては謎だらけの「十五夜ヒマリ親衛隊」だがっ! 恐らく全員がトラケミーに匹敵する実力者と思われるぜっ!
 ともすりゃそんな激ヤバ集団に立ち向かえるのはっ! 恐らくこの男をおいて他にいねぇ筈だ!
 ご紹介しよう!

  オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥト!

 メタ張り搦め手ハイビート! 何でもこなす多芸ヤロー! 数多くの強豪を下してきた謎の男は、傑物トラケミーやその仲間たちとどんな戦いを繰り広げるのか!?
 いざ入場! "人ながら魔より魔である男"ォッ! 須賀川ァァァァァァ雄ゥ、一ィ、郎ォォォォ!』

「買いかぶりも甚だしいが、まあ悪くないな……さあ、対局を始めようか?」

 やがて両チームはスタンバイを終え、決勝戦の火蓋は切って落とされる。

『対ィ局ゥ! 開ィィィ始ィィィッ!』


 『十五夜ヒマリ親衛隊』の一番手は、可憐な魔女のリリィ甲斐中(かいなか)。実況担当の店員曰く『他のメンバー共々詳細は一切不明』との事であったが……

(リリィ甲斐中とはまた洒落た偽名を名乗ったなぁ、バイリスカリス……海宝館の恐竜ロボット暴走騒ぎにも関与していたお前を僕は許さない。流行りもので象ったその化けの皮ごと、お前のちっぽけな本性を切り刻んでやる……)

 大切なデートを潰された恨みが届いたか、雄喜は先攻を勝ち取ることに成功する。
 『いち早くバトルを行える後攻を選び、大量展開から徹底的に痛めつけてやるのも一興だ。然し今のデッキの性質を考慮するならユニットで殴るよりずっといい"攻撃"がある』……彼はそう考えていたのだ。


「続けて《カード破壊弾頭》発動。自分フィールドの闇属性ユニットをベイトし、カードタイプを宣言する。僕はスキルカードを宣言。相手のフィールド・手札に含まれるスキルカードを全て破壊」
「ぎゃあああああああああ! わ、私の布陣があああああっ!」
「更に発動後、相手のターンで数えて3ターンの間ドローカードをチェックし、スキルカードが含まれていた場合それを問答無用で破壊する」
「じ、地獄です……最悪ですぅ……」

 雄喜の考える"いい攻撃"とは、徹底的な妨害であった。そもそも此度の対局に彼が選んだデッキは【ディストピア竜王】……嘗て初陣でヴァルキリーのエレナ・カエルムを散々苦しめ、文字通り"闇に葬った"デッキである。その構築コンセプトは『小手先戦術』……よりストレートに言うなら『相手を苦しめること』に尽きる。
 メインデッキ、手札、フィールド、墓地、アルターデッキ……相手のあらゆる領域を的確に、根幹から崩壊させ徐々にリソースを削り続ける……まさに『真綿で首を絞める』ような雄喜の挙動は、バイリスカリスをこれでもかと追い詰めていく。

 程なくして半グレ魔女のメンタルは悉く、原型を留めないレベルにまで粉砕。そして……

「……も、もうムリです! 投了です! 投了するですーっ! ぅぁっへあああああっ!」

 狂った様に泣き喚きながら投了を宣言するのだった。

『決着ゥゥゥゥゥ! 甲斐中選手まさかの投了により、決勝第一回戦は須賀川選手の勝利ィィィ!』
(ちっ、惜しい所で仕留め損ねたか。まあいい……そうやっていつまでも逃げ惑っているがいいさ)

 続く二番手は大鉈を背負ったレッドキャップのエンジオ・ストロンジールス。実況曰くやはり詳細不明との事だったが雄喜はその正体を知っている。

(野蛮亜人アチャティナ……些細な理由で怒り狂い暴れ回る、暴行や器物損壊の常習犯……背がチビなら器も小さい、文字通りの小物だよお前は。暴力や破壊がそんなに好きか? だったら存分に与えてやる……)

 方々で破壊活動を繰り返し甚大な被害を齎し続けてきたアチャティナ。『奴は短気で荒っぽいが、だからこそ打たれ強くもある。バイリスカリスと同じような"攻撃"は意味を為さないだろう』と判断した雄喜は敢えて後攻を選び取る。


「オレのターンだゼッ! まずオレはスキルカード《下取り査定》を発動! 手札からレベル8のユニットカード《蛮族王と化した先輩 コロタド》をコストにデッキから二枚ドロー!」
『ぬわああああああんコストにされたもおおおおおおん!』
『開幕第一ターン! ストロンジールス選手は的確にカードを増やしていく! 然しコストにされた党の《コロタド》としては不本意なようだぁ!』
『頭にきますよ!』
『とか言ってますがどうなんですかストロンジールス選手!?』
「うるせェー! あとで蘇生して切り札にしてやる予定だから文句言うんじゃネーッ!
 オレは続けて手札からパラベラムユニット、《蛮族の後輩 ムキラー》と《蛮族の先輩 ウミッラ》でパラベラムカウンターをセッティング!」
『なんでセッティングする必要なんてあるんですか』
「パラベラム召喚しなきゃいけねーからだヨッ!」
『あっそっかぁ……当たり前だよなぁ!?』
「お前ゼッテー理解できてなかっタロ!? さも理解してたみてーに便乗してんじゃネェ!
 チキショウ……なんでオレのユニットどもはどいつもこいつモ……」
「大丈夫か? 投了するか?」
「しネーワ! 誰がするかボケッ! オレはナンバー2の《ムキラー》とナンバー8の《ウミッラ》でパラベラム召喚!
 出て来やガレッ、レベル5! 《水際蛮族一号》、《水際蛮族二号》を防御体制で展開ィ!」
『はぇ〜すっごい展開……』
『あぁ〜いいっすねぇ〜』
「よっシャ、これで整っタ! オレは手札からスキルカード《蛮族無双》を発動! フィールドに《水際蛮族一号》と《水際蛮族二号》が揃ってる時、手札か墓地から『蛮族』ユニット一体を展開できル! オレは《蛮族王と化した先輩 コロタド》を展開!」
『 や り ま す ね ぇ 』
「《コロタド》にはフィールドの蛮族ユニットをベイトして攻撃回数を増やす効果があル! 更にその攻防は揃って3000! 更に《一号》と《二号》はフィールドの『蛮族』ユニット一体につき攻防を500上げる効果を持ち、これにより揃って攻防2500!
 序でに《ムキラー》と《ウミッラ》の効果でオレのターンのバトル中テメーはユニットの効果もスキルもギミックも使えネェ! つまリ次のバトルでテメーは死ぬってわけダ!
 オレはこれでターンエンド!」

 アチャティナの布陣は一見圧倒的かつ難攻不落であり、実況も『粗が多く使いづらい「蛮族」カードでここまでやる辺り確かな腕前』とアチャティナの実力を高く評価した。ともすれば勇気も『こりゃ面倒なことになったな』ぐらいに思いそうなものだが、然し実際彼にとってアチャティナの動きは寧ろ理想的……何ならいっそ礼を言いたいほどに好都合なものであった。

「僕のターン、ドロー……手札より《機才商兵メルカトール》を召喚」
『ショワーゥ』
「そしてそのまま《メルカトール》の効果発動。自身を破壊し、デッキから同名カード以外でそれぞれカード名の異なる『機才』ユニットを一体ずつ展開する。
 僕はデッキから《機才農兵アグリコラ》と《機才漁兵ピスカートル》を展開」
『フォギゴゴゴゴ……』
『ピジー……ギョギーッ』
「へっ、そんな雑魚ユニットでオレの蛮族を倒そうってカァ!? 笑わせんじゃネーゾ!」
『そうだよ!』
「無論これでは終わらんさ。僕は《アグリコラ》と《ピスカートル》でコネクト召喚を行う。
 素材条件はマシンのタイプを持つユニット二体……。来い、《クリファグラム・メントル》」
『――』
「更に手札からスキルカード《元素変成》を発動。手札からユニットカード《機才工兵アルティフェクス》を除外し、同じレベルと共通のタイプを持ち属性の異なるユニット……レベル4かつマシンで光属性のアライアンスユニット《ファングロウ・アーマー》を、アルターデッキから召喚条件を無視して展開する」
『……――』
「ケ、何を出すかと思いきや攻撃力は《メントル》と同じ1600の雑魚ユニットじゃネーカ!」
『そうだよ』
「まあ、元々直に殴るようなものではないからな。《ファングロウ・アーマー》は装着カード化するユニットでね、装着されたユニットの攻撃力を1000上昇させ、更に戦闘後発動する追加効果も付与してくれる」
「だから何だヨ? 仮にソイツを《メントル》に装着させヨーが攻撃力は2600! 《水際蛮族》の片方をギリギリ戦闘破壊できる程度だろーガ! そんなもんでオレの『蛮族』どもは倒れねーゼェ?」
『 そ う だ よ 』
「……何を勘違いしてんだ。まだ僕のメインパートは終わってないぞ」
「は?」
『ファッ?』
「僕は墓地の《メルカトール》《アグリコラ》《ピスカートル》……三体の『機才』ユニットを除外……手札から《機才神獣ケルベラプトバス》を展開」
『SET UP...BATTLE MODE...』
 現れたのは未来的かつ有機的なフォルムの、肉食恐竜型と思しきロボット《機才神充ケルベラプトバス》であった。
「『ファッ!?』」
「なんだ、えらい驚きようだな。まあ《ケルベラプトバス》は結構新しいカードだしマイナーだから無理もないが……」
「お、おおっ、驚いてなんてネーヨ! かかか、仮に驚いたとしテ!? この状況下でそんな、大した事無さそーなユニット出してるオメーの雑魚っぷりに驚いてんだヨ!」
『そそそ、そそそ、そそそそうだよ!』
「そうか? そんな風には見えなかったが……さっきから便乗ばかりしてるそこの蛮族なんて動揺し過ぎて台詞が三三七拍子になってたぞ?」
「気のせいだロ! いいからさっさと続けやがレ!」
『そうだよ!』
「……まあいい。僕は《ケルベラプトバス》に《ファングロウ・アーマー》を装着。これにより《ケルベラプトバス》は攻撃力が1000上昇し4000になる」
 爪の生えた掌とも牙の生えた顎ともつかないトラバサミめいたメカ《ファングロウ・アーマー》が変形して《ケルベラプトバス》の両腕に合体し、鋭い爪をより凶悪に仕立て上げる。
「だがそれでもオレのライフを削り取れはしねーゼ!」
『そうだよ!』
「ああ、このままではな」
「何ぃ!? どういうことだ!?」
「《ケルベラプトバス》の名前の由来は魔獣ケルベロスと肉食恐竜ヴェロキラプトル、そして淡水魚の近江スズキことブラックバスでね。カードイラストではヴェロキラプトルの頭の両サイドにイヌとバスの頭が生えた三つ首のデザインなんだ」
 雄喜が説明するのと同時に《ケルベラプトバス》の両肩が展開され、それぞれ機械的な獣と魚の頭が生えてくる。
「まあ、左の頭はイヌというよりはコヨーテかハイエナだし、右の頭なんてどう見てもカショーロか何かなんだがね」
 カショーロ……もといペーシュ・カショーロとは、アマゾン川に生息する凶悪な面構えの肉食魚である。
「魔物娘で言えばキマイラのようなもんさ。ライオンとドラゴン、山羊、蛇の特徴を持ち火焔ブレスを扱う個体が一般的らしいが、僕が昔一緒に仕事をさせて貰ったキマイラの同業者はワニの尻尾とスズメバチの翅が生えたオーガでね。内在する皆さんは揃いも揃って生き物にやたらと詳しい方々だったんだが……まあその辺はともかくとして、だ。
 ともあれの状態が《ケルベラプトバス》本来の戦闘形態だ。この姿になる条件は、何かしらの形でアライアンスユニットを装着していること……《ファングロウ・アーマー》は自らを装着カード化できるアライアンスユニットだから相性がいいってわけさ」
「御託はいらネエ! さっさとかかって来やがレ!」
『そうだよ!』
「わかった。ではバトルだ。《ケルベラプトバス》で《水際蛮族二号》に攻撃」
『BITING L FANG』
『アァーッ!?』
「ぐうううう! だ、だが《二号》は防御姿勢! 戦闘破壊はされてもオレへの戦闘ダメージはゼロだ!」
『そうだよ!』
「確かに戦闘ダメージはない。然しユニットを戦闘破壊した時、装着カード扱いの《ファングロウ・アーマー》の効果が発動。破壊したユニットの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。《水際蛮族二号》の元々の攻撃力は1500。よって同じ数値のダメージを与える」
「ぐぎゃああああっ! バーン効果持ちだト!? 聞いてネーゾ!」
「戦闘後発動する追加効果があると言ったろう?」
「戦闘後……そういうことかヨ! だが幾らバーン効果持ちだろーとたった1500じゃ痛くも痒くもネーナッ!」
『そうだよ!』
「大丈夫だ、心配しなくてもアライアンスユニットを装着した《ケルベラプトバス》には追加攻撃効果がある。というわけで《一号》に攻撃」
『BITING R TOOTH』
『アァーッ!?』
「そしてバーン効果で1500ダメージ」
「ぎゃあああああっ! だ、だがそれでもまだライフは5000もあル! 《一号》と《二号》が死んだのは深手だが、《コロタド》さえいりゃ何とでもなる!」
「ならその《コロタド》も始末してやる。《ケルベラプトバス》、《コロタド》へ最後の追加攻撃だ」
「なるほどナ! だが残念だったナァ!? テメーが《コロタド》を攻撃しよーがオレへのダメージはたったの1000! 《ファングロウ・アーマー》の効果を使ったとて4000! オレのライフは1000残ル! 1000のライフと一枚の手札! そんだけありゃテメーを倒すなんぞ余ゆ――
「攻撃宣言時、《ケルベラプトバス》の効果発動。一ターンに一度、相手のアルターデッキの中からユニット一体を選び、これを装着カードとして自身に装着し、カードに記載された攻撃力分、自身の攻撃力を上昇させる」
「な、何ィー!?」
「その効果でお前のアルターデッキを確認……攻撃力1000の《黒塗りのマフィア・ベンツ》を装着」
『ABSORPTION』
 《ケルベラプトバス》はアチャティナのアルターデッキからカードを吸収し、自身の攻撃力を上昇させる。そして……

『BITING C JAW』
『ンアアアアアッッ!』
「ぐおごがっ、ぶぎゃああああああ!」

 《ケルベラプトバス》の攻撃により《蛮族王と化した先輩 コロタド》は戦闘破壊され、それに伴い《ファングロウ・アーマー》のバーン効果が発動……これにより合計ダメージは5000。

「バカな、このオレが……天下無敵のアチャティナ様があああああッ!」

 これによりアチャティナのライフはゼロ。
 暴力で弱者を踏みつけ強者のフリをしてきた小鬼の、何とも呆気ない幕引きであった。
21/07/29 21:41更新 / 蠱毒成長中
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