連載小説
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30.決戦は突然
馬車、闘技場の控え室に続き、三度。
何かに憑りつかれているかのように、邪魔が入る。

「何だマジでこれどんだけ邪魔入れば気が済むんだアレか呪われてんのか
 出てこいよ誰だよアタシら呪ってんのンなもんぶっ潰してやるから来いよ
 呪いなんてまどろっこしいことやってないで語ろうぜ拳でなぁいいだろ
 痛みを感じる間もなく・・・」
「えっと、何が起きたのかなー・・・」

ダークサイドに堕ちたエトナを尻目に、とりあえず状況確認をするシロ。
音の鳴った方向は街の入口方面から、鳴った音はとてつもなく大きい。ヒントはそれだけ。
これでは何が起こったのか、全く分からない。

「うーん・・・まずエトナさんをどうにかしないと」

流れるように呪詛を呟き続けるエトナ。
彼女を平素の状態に戻す為に取った、シロの行動は。

「・・・む、むにー」
「・・・ん、あんあひほ(ん、何だシロ)」
「いやちょっと、城門の方を確認しようかと」

お馴染み、ほっぺた引っ張り。
自分がエトナにするのは初めてだが、どうやら上手くいったようだ。

「そういや、方向はそっちだったな」
「(あ、ちゃんと聞こえてはいたんだ)えぇ、そういうことなので、見に行きましょう」
「おう」

手を繋ぎ、街の入口へと向かう。
謎の爆発音・・・その正体を予想しつつ、二人並んで、歩を進めた。



城門が見えてきた辺り。
一目して、音の正体が分かった。

「・・・あれ!」
「は!? 嘘だろ!?」

その存在を覚えていれば、遠くからでも分かった。
城門前に転がっていた、金色の物体。

それは紛れも無く、ゲヌア名物『完全勝利のゲヌア砲』の一部だった。

無茶苦茶に巨大な砲塔の中程から先が落ち、地面に叩きつけられれば、当然爆音が轟く。
住宅地に落ちなかったのが不幸中の幸いか。

「内部で腐食が起きていたんですかね? いや、でも整備点検を怠らなければ・・・」
「これ折ろうってなったら爆薬ブチ込むくらいしかねーぞ? 何でまた・・・ん?」

城門前広場、折れたゲヌア砲の周辺で、何かもめ事が起きている。
筋骨隆々の大男と、フードを被った誰か。

フードを被っている方は表情が見えず、種族や性別すら分からないが、
その相手である大男を知っていれば、自ずと答えは見えてくる。

「あれ、町長じゃねーか?」

ギルドの前で言い争いをしていた人物と同じ。大男の方は、恐らくゲヌアの町長。
となれば、対する相手はほぼ確実に教団関係者となる。

「・・・シロ、アタシの後ろに。そこの木の陰なら、ギリギリ聞こえる」
「はい、分かりました」

オーガの五感は、非常に研ぎ澄まされている。
多少距離が離れていても、話し声を正確に聞き取ることぐらい、造作でもない。

こっそり、かつ素早く、太い街路樹の裏に移動する。
一呼吸入れて聞き耳を立てれば、この様な会話が聞こえてきた。



「ふざけんなよお前ら! まず土下座しろってんだボケ!」
「何を言っているのですか。私たちは頭の悪いあなたが治める不幸な街の人々の為、
 こうしてわざわざ警告をして差し上げたのです。感謝されこそすれ、謝る義理はございません」
「それを世では煎餅布団とか気分爽快って言うんだよ! んだったら今ここでやるかオラ!?」
「(宣戦布告と器物損壊?)お待ちください。ですから前から申し上げているように・・・」
「うるせぇよ! お前らの戯言は聞き飽きたわ! 今まで散々抜かしてくれたけどな、
 とうとうよりにもよってアレぶち壊してくれたな! いくらしたと思ってるんだ!」
「あの見栄えだけの砲に使われている金の嘆きの声が聞こえないのですか?
 我々教団の為に使われれば、金も喜び・・・」
「金に感情もへったくれもあるか! あったとしてお前らに使われたら自刃するわ!」
「おかしなことを仰いますね。まぁいいでしょう。これが最後通牒です。
 後日、軍を率いて参ります。その時に調書にサインして頂けなければ、実力行使に出ますので」



(・・・・・・・・・・)

何がどうあったのかは分かった。
何でこんなことをしたのか訳が分からないが、分かった。

「・・・シロ」
「はい」
「アタシ、シロみたいにこういうの分析するの苦手だから、短くまとめるな」
「はい、分かりました。どんな感じですか?」
「大砲壊したのは教団。相変わらず頭イカれてる。・・・そして」

今まで、数々の街の闇を打ち砕いてきた。
シロとエトナの手によって救われた街は少なくない。

今回敵対するのは、教団軍。
間違いなく、今までのどの敵よりも強大。生半可な気持ちで、勝てる相手では無い。

だが、そんなことは関係ない。
むしろ、自分と直接の関わりがあった相手であるなら、尚更だ。

「どっちを選んでも、アタシはシロについていく。
 シロの望みをとことん叶えてやることが、アタシの望みだ」

ギュッと、シロを抱きしめる。
的確な力加減を覚えるくらいに、一緒にいた時間は長い。

答えはもう、予想がついている。
彼は本当に面倒くさいことであろうと、どうにかしたがるお人好し。
そして、それを一緒に解決するのが、とてつもなく面白いことを、エトナは知っている。



「二択だ。戦争起こる前に王都に行くか、首突っ込むか」



「・・・また、お願いできますか」

深さの増した瞳が、モードを切り替えたことを示す。
早くも、策略を巡らせたようだ。

「・・・そうこなくっちゃな!」

VS教団。相手にとって不足無し。
何より、またシロと共闘できることに、エトナは胸を躍らせた。



事が決まったのなら、その後の行動はなるべく早いほうがいい。
今回の場合、猶予はあまり無さそうなのもあり、急がねばならない。

まずは過去から今までの状況をより詳らかに知る為、町長との謁見をとりつける。
幸い、予約者がいなかったらしく、すぐに会えることとなった。

「こちらの部屋が町長室です。時間内であればごゆっくりと。
 それと・・・どうか、あまり驚かないようにして頂ければ」

案内を受け、二人揃って入室する。
その言葉の後半の意味が、よく分からなかったのだが・・・

「・・・んっ?」
「え・・・?」

100人中100人、そう言われるのも当然だと思うだろう。
街を治める町長に会おうと、謁見に向かい、部屋を開けたら。



「おう! お前らが約束のか! 座れ座れ!
 今トレーニング中だから、あと5分待ってろな!」



部屋中を埋め尽くすように並ぶトレーニング機器に囲まれた、半裸の男がいたのだから。



「いやぁ悪い悪い! つい熱が入っちまってな! で、何の用だ?
 街では見ねぇ顔だな、観光客か?」
「えぇ、そんな所ですが・・・服、着ないんですか?」

何とも珍妙な光景が広がる事となった。
身の丈八尺の筋骨隆々の大男が、パンツ一丁でベンチに腰かけている。
勿論、そのベンチとはトレーニング用のものに他ならない。

「あぁ。基本的に街を歩くとき以外はこうしてる。
 『俺は隠し事を一切しない』っていうことを示す為にな。
 前は外でもこうだったけど、教育に悪いって苦情来ちまって。
 部下連中も他の街に行った時に恥かいたっていうもんだから、今はやめた」

ピクピクと大胸筋を動かしながら、眩しいくらいの笑顔で語る町長。
確かに、この黒光りする肉体をそのまま晒す豪胆な男が、隠し事をするなど、
一体誰が考えるだろうか。
それ以前に、脳筋すぎて隠し事など出来るのだろうか、という思いがよぎる程である。

「一部の連中と魔物からは好評だったんだけどなー。ラブレターも貰ったぜ」
「ほー。でも顔は悪くねぇし、全体的に見ればイイ男か」
「アマゾネスとかミノタウロスとか、あと人間の男と女から何人か」
「男性にも需要あるんですね・・・」
「カミさんいるんで、丁重に断らせてもらったよ」

何だかんだ言っても、軍事都市を治めるだけの器量はある。
それだけの人徳があるのなら、好かれるのも当然の事だろう。

「さて、それで何の話だったっけ?」
「はい。この街と、教団との関係をお教え頂きたいと思いまして」
「・・・ほう。そりゃまたどーして」
「城門のやり取りは聞いた。どうも、穏やかじゃない感じでな。
 何か力になれることは無いかと思って、来た訳だ」
「・・・・・・ん」

会話が途切れる。
すぐに拒否されると思っていたシロにとって、この流れは想定外。
エトナも繋げる言葉を持ち合わせていないので、続きを待つこととなった。

しばらく時間が流れた後、町長の口から出たのは意外なことだった。

「・・・もしかしてお前ら、シロとエトナか?」
「えっ・・・」
「何で知ってるんだ!?」

間違いなく、自分たちと町長は初対面。
なのに、何故か自分達の名前が知られていた。

町長は何度も頷きながら、納得した様子。しかし、二人は当然困惑する。

「一体、どうして・・・」
「話はアニキから聞いてる。街を救ったガキとオーガが旅をしてるってな」
「・・・あ、そうか!」

先に閃いたのはエトナ。
筋骨隆々、兄が自分達のことを知っている。
ならば、そうであっても不思議ではない。



「アニキの名前、教えてもらえるか?」
「ガンマ・ズィズヴェイド。タリアナっていう街の領主。
 そして俺はデューク・ズィズヴェイド。ガンマは俺のアニキだ」

意外な所で、意外な人物とのつながりがあった。



「その節は世話になったな。俺からも礼を言わせてもらおう。ありがとな」
「いえいえ。僕はただエトナさんの背中に乗っているだけでしたから」
「何言ってんだ作戦立案者が。お前がいなかったらエラいことになってたっての」
「言ってた通りだな。いいコンビだ」

言われてみれば、ニカッとした明るい笑みに面影を感じる。
キリッとした喋り口調や豪胆さも、若干ベクトルが違うが、概ね合っている。
兄弟と言う関係があっても、不思議ではない。

「でもって、教団のことを聞きに来たってことは、力を貸してくれるんだな?」
「僕達に、出来ることがあるなら」
「戦闘はアタシ。戦闘以外ならシロに任せといてくれ」
「おう! こりゃツイてるぜ。格闘戦のスペシャリストと優秀な参謀が同時に来るとはな。
 この戦、もう決まりだ!」

片腕で派手にガッツポーズを決め、会心の笑顔。
筋肉の照りを全て顔面に集めたかのような輝きさえ感じる、いい笑顔。

「勿論、タダ働きさせるつもりはねぇ。賃金は滞在中3食付きの一室+出来高。期待してるぜ!」
「エトナさんはともかく、僕はそこまで・・・」
「卑下すんなっての。アタシもコンディション整えとくか」

王都へ行く前の一仕事。
それは、シロの過去との決別。教団との決戦。
本来、どうしようもないはずのものだった。

「シロ。・・・どうせなら、教団の連中も殴ってやれ。アタシが許す」

隣に、エトナがいる。

「・・・はい」

それだけで、何だってできる。
シロは、心の底からそう思った。



「街に入られる前に決着をつけるのが一番だけど、この前の件からして飛び道具はある。
 となると一旦王都辺りに避難してもらうのが一番・・・いや、家屋損壊も嫌だな。
 ならいっそのことこの辺りの平原で・・・」

街路図と街周辺の地図を組み合わせ、各所に羽ペンを走らせる。

「172、173、174、175・・・」

右手の指一本で腕立て伏せを続ける。

お互い、それぞれの武器を活用し、磨くことを怠らない。
才能という剣は、よく砥いでこそ、真の輝きと切れ味を魅せる。

「・・・ふぅ」
「199、200。・・・よしっと」
「あ、お疲れ様です」
「シロもお疲れ。ちょっと休憩するか」
「そうですね。紅茶でも淹れますか?」

街の中心部に存在する高級ホテル、そのスイートルーム。
町長の許可証を持つ二人は、滞在中は好きなだけ、ここに泊まる事を許されている。

「それにしても・・・広いですね」
「本当にこの街、何でもデケぇな」

本来、4人から8人くらいの客が泊まることを想定した造りの部屋。
和室が1つ、洋間が2つにベッドルーム。トイレと風呂場も2つずつ。
シロとエトナの二人だけでは、完全に持て余す広さである。

「押し入れに布団ありましたけど、使い道が・・・」
「ベッドもダブルだしな。シングル2つだったら1つだけ敷いて枕並べたけど」
「あはは・・・」

備品に関しても、飲み物や食べ物、日用品の他、ローション等々、
その手のグッズも完璧に用意されている。

「はい、どうぞ」
「ん。・・・ぷはーっ」
「運動の後は水分ですよね。もう一杯、注いでおきます」
「サンキュ♪」

そして、それらの扱いに手慣れている、シロの存在。
文句のつけようのないほどに、至れり尽くせり。

「あー、このまま何も起きなきゃよかったんだけどなー。
 全く、教団の奴ら、面倒なことばっかやりやがって」
「もう今となっては、魔物が人を食らうなんて出鱈目、信じる人はいないと思うんですが。
 この国の場合、利権の問題で縋り付いている、というのが多いのかもしれません。
 そうでもなければ、親魔物派が多い中、そんなことするメリット無いですし」
「同感。性的な意味では食うけど、アタシらを何だと思ってんだよ。鮫じゃあるまいに」
「いずれにしても、なるべく血の流れない結末にしたいですね。
 といっても、事が事ですから、どうしたものか・・・」

シロは理由なく、他人が傷つくことを嫌う。理由があったとしても、場合によっては嫌う。
その生真面目さは、策略を考えるにおいて結構な枷となっていた。

「シロ。アタシもなるべく、余計な戦闘は避ける。だから、多少は楽に考えていいと思う」
「・・・分かりました。それと、もう一ついいですか?」
「何だ?」
「突然ですけど、エトナさん分の補充を」
「ん。・・・んっ」

両手を広げ、華奢な身体を迎え入れ、抱きしめる。
前面で柔らかな胸の感触を、背面で温かな腕の温度を感じながら、髪に顔を埋める。
そこからゆっくりと呼吸をすれば、外も内もエトナに包まり、全身の力が抜け、忽ちとろとろ。
最近は定期的にやらないと、身体の調子が悪くなってしまうくらいに、中毒状態。

「ん〜・・・すぅぅぅ・・・ふぅぅぅ・・・」
(・・・くすぐったい)
「頭・・・」
「うん」

ちょっと乱暴なぐしゃぐしゃ撫でも加わり、更に夢心地に。
先程まで酷使していた頭の疲れもあって、眠たくなってきた。

「・・・眠い?」
「うん」
「いいぞ」
「・・・うん」

軽く幼児退行したシロの、頭を肩に乗せ、夢の世界へと送り・・・

やたらとデカいノックの音。
微睡みの意識は、現実世界に強引に引き戻された。

「・・・本当に、色々邪魔入りますね」
「・・・な。マジで何だろな」

温厚なシロも結構な苛立ちを感じ始める位に、狙ったかのようなタイミング。
そんな中でもノックの音は激しさを増しているので、とりあえずドアを開ける。

「誰「痛ぇ!」だ!? ・・・あれ、いねぇ」
「エトナさん、ドアの裏。強く開けすぎです」
「いてててて・・・鼻はねーだろ鼻は・・・」

鼻血を出しながら現れたのは、町長のデューク。
ドアとの距離が近すぎて、鼻を強打してしまった。

「とりあえずティッシュを。それで、何があったんですか?」
「あぁすまん、・・・って、鼻血出してる場合じゃねぇ!」

渡されたティッシュ箱を横に放り投げ、鼻をつまみながら。



「教団の野郎共、もう来やがった!!!」
15/08/15 22:26更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
突然訪れた、因縁の教団との決戦。
あまりに早すぎた、教団の来襲。

二人の意思とは関係なく、展開は繰り広げられる。

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