連載小説
[TOP][目次]
ガーター
 修業を始めてから1ヶ月ほどが過ぎた。このころには間違えてゼファー流が出ることもなくなり、それなりに呪文も使えるよォになってきた。秘密の特訓も順調に進んでるゼ。少しでも早く教団を裏切るために努力を重ねてる成果が少しは出てるみてェだな。
「はあっ!」
 今日は騎士と組み手をやっている。とは言っても騎士になったばかりの見習いだけどな。ついでに言うと木の剣でやり合っている。いくらなんでも組み手でシンカを使うわけにもいかネェからな。
「おっと」
 オレは見習いの攻撃を軽くあしらった。一応基礎はできてるみてェだが単調で読みやすいな。
「くっ。この」
 見習いはそれでも戦意を失うことはなく切りかかってきた。オレはそれを落ち着いてさばく。
「やっ、りゃっ、とっ!」
 今度はめちゃくちゃな連続攻撃を仕掛けてきた。その諦めの悪さだけは賞賛に値するゼ。だがもうこれ以上続けても意味ネェだろ。
「ふっ!」
 オレは相手の剣を下から弾き飛ばした。木の剣は見習いの手から弾き飛ばされた。
「勝者、ハインケル!」
 審判をやっていた騎士が高らかに宣言した。

「さすが勇者候補だな。まさか一撃で決められるとはな」
 見習いが剣を拾いながらそォ言った。
「いえ、あなたもなかなかのものでしたよ。まだ実戦経験のない見習いにしては上出来です」
 オレの言葉に見習いは苦笑いを浮かべた。
「ずいぶん手厳しいね。それにしても訓練始めたの最近だろ?その割には場慣れしてないか?」 
 意外と鋭いなこいつ。弱ェが相手の実力は見えてるみてェだな。
「…村が滅ぼされる前はそれなりの悪ガキでしたからね。ケンカ慣れしてただけです」
 言っとくがウソは言ってネェぞ。詳しく説明してネェだけだ。
「…すまない。イヤなこと思い出させたな」
 見習いは申し訳なさそォな顔をする。
「…気にしないで下さい。嘆いた所で村の皆は帰ってこないんですから」
 それでも見習いは落ち込んだままだった。やっぱり教団にいるやつらは全員悪ってわけじゃネェンだよな。だからこそ許せネェンだよ。信仰を盾に好き勝手やってるやつらも、信者を思考停止に追い込ンで増長させるだけのクソの役にも立たネェくっだらネェ信仰自体もよ。
「安心して下さい。ぼくは大丈夫です。絶対に強くなって村を滅ぼしたやつらを容赦なく叩き潰してやりますから」
 オレがやつらという所にありったけの殺意を込めて言うと見習いはホッとしたよォな顔をした。反対にデビーは呆れたよォな顔をした。気持ちはわかるゼ。敵の目の前でテメェらをぶっ飛ばすって宣言してンだからよォ。
「ああ。おれも協力するよ。絶対に魔物を倒してやる!」
 見習いはそォ高らかに宣言した。
「ええ」
 オレは適当に相槌を打った。デビーは見習いを哀れむよォな目で見ている。
まァオレもこんな単純でいいやつを騙して少しは心が痛むよォな気はするけどよ。

「ふっ。新しい勇者候補が来たと聞いて来てみたが、思った通り大したことないみたいだな」
 突然訓練場に声が響き渡った。
「…誰ですかあなた?」
 危ネェ。思わず素が出ちまいそォになったゼ。あまりにもウザすぎるからよォ。
「フッ。聞いて驚け。ぼくは」
『ガーター=フェールア。才能も勇者の素質もないくせに見栄を張るためだけに金で勇者の地位を買い取った貴族の次男だったかな』
 男が言う前にシンカが解説してくれた。
「勇者の地位を買えるってどれだけ金持ちだよ。勇者って聖剣の力を使えないとなれないんじゃなかったか?」
 オレもそォ聞いてたゼ。だから多少相性が悪くても力が使えるやつで妥協しよォと思ってたンだが。
「よく見たまえ。聖剣ならちゃんと持ってるぞ」
 そォ言ってスペア野郎が鞘から抜いた剣は紛れもなく聖剣だった。こンなやつに使える聖剣なんてあったのかよ。
『それは聖剣ベーシクの力のおかげだよ。その聖剣は勇者の素質がなくても誰でも使える力があるんだってさ。現にそいつ他の聖剣は鞘から抜くことすらできなかったんだよ』
 鞘から抜けネェってどンだけ勇者の素質ネェンだよ。
『それで焦った騎士が私とべーシクを持って来たんだよ。そいつはまず私を手に取ったんだけど触れた瞬間弾き飛ばしちゃった☆そいつと一緒にいても楽しめそうにないし、選ばなかった方が面白そうだったからね。きゃはははは』
 相変わらず性格悪いなこいつ。
『それで結局べーシクを選ぶしかなかったってわけ。あんなのに合わせないといけないなんて本当にかわいそうだよねー。本当にあの時拒絶しといて正解だったよ。こうしてマスターにも出会えたしね』
 それを聞いたスペア野郎は顔を真っ赤にした。
「聖剣の分際でよくも侮辱してくれたな!こうなったら決闘だ平民!」
 マジでウゼェなこいつ。ぶちのめしても文句はネェよな?
「そうですか。ならこれを構えて下さい」
 オレが木の剣を差し出すとスペア野郎はそれを勢いよく弾き飛ばした。
「ふざけるな!そんなものが使えるか!ぼくは聖剣しか使わないぞ」
 スペア野郎はべーシクを抜き放ってそう言った。
「なるほど。真剣勝負というわけですか。それなら場所を移しましょう。それにどうせなら観客の前でやった方がいいでしょう」
 オレの言葉にスペア野郎はニヤリと笑った。
「いいだろう。貴様の無様な姿を大勢の前でさらしてやる」
 スペア野郎は高笑いを浮かべて去って行った。

 次の日にオレは予定通りに闘技場に来た。壇上にはスペア野郎が自信マンマンで立っていた。
「来たか。しっぽを巻いて逃げたかと思ったぞ」
 スペア野郎はニヤリ笑いを浮かべた。
「当たり前でしょう。勝てる勝負をわざわざ捨てるバカはいません」
 オレの言葉にスペア野郎は顔を赤くした。
「調子に乗るなよ。ぼくと今まで戦った相手は手も足も出なかったし、敵の剣も必ず折ってきた。それに剣を習ってきたやつらもほめてたぞ」
 スペア野郎は偉そうに胸を張った。こいつバカだろ。
「ふーん。それが実力だとでも思ってるんですか。だとしたら相当おめでたいですね。その自信を保ちたいならここで引いた方が身のためですよ」
 オレの言葉をスペア野郎は鼻で笑った。
「ごちゃごちゃうるさい。貴様など瞬殺してボロ雑巾のようにしてやる」
 そう言ってスペア野郎は剣を構えた。

 決着はあっさり着いた。本当に瞬殺でボロ雑巾にされてしまった。
「ぐっ、な、なぜこのぼくが…」
 もちろんスペア野郎がだ。いやスペアにかすってすらいネェ。名前通りのガーターだな。使えネェスペアをジャンクにしてあげた所で誰も困らネェだろ。少なくとも今のところはな。
「なぜ?そんなのあなたが弱いからですよ。今まで手を出さなかったのは貴族の息子を傷つけたらどうなるかわからないから本気を出さなかっただけです。剣が折れたのも武器の差でしょう。剣の師匠が褒めてたのも注意したらどうなるかわからないという保身のためでしょう」
 オレの言葉にジャンクは屈辱で顔を歪めた。
「くっ。こんなことをしてタダですむと思うな!父上に言えば貴様なんか」
「はあ?勇者が金で地位を買っただけのお飾りの勇者候補を倒して何が悪いって言うんです?それにその父上はこの決闘を見ているはずですよ。誇りを重んじる貴族がこんな大勢の前で恥をさらしたあなたなどを援護するとも思えません。最悪勘当されて家から追放されるかもしれませんね」
 オレの言葉にスペア野郎は顔を青ざめさせた。会場には勇者コールが鳴り響いている。
「戦いで勝って人々に希望を与えるのも勇者の役目です。恨むなら無謀にも決闘を挑んだ自分の愚かさを恨んで下さい」
 オレは勝利の熱狂を背に受けながら闘技場を後にした。

         つづく
11/03/16 00:18更新 / グリンデルバルド
戻る 次へ

■作者メッセージ
時間をかけてしまってすみませんでした。次はもっと早く書きたいと思います。
震災にあわれた人たちは大丈夫でしょうか?うちの妹は被災地に住んでるんですけど結構大変だったみたいです。皆様の無事を心から祈っています。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33