連載小説
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スピエルの寝言
「いくら何でもやりすぎじゃない?あれじゃ決闘じゃなくて公開処刑だわ」
 部屋に戻るとベルは呆れたよォに言った。
「あれ以上どォ手加減しろってンだよ。ゼファー流も魔法も使ってネェしよ。あんなの負ける方が難しいゼ」
 オレがそォ言うとベルは溜息を吐いた。呆れて何も言えネェみてェだな。
「でも負けたフリをするのは楽そうですよね。あれじゃどんなに演技があれでも実力だと勘違いするでしょう」
 オレもデビーの意見には賛成だ。あの思い上がったクズなら自分の実力だと勘違いするだろォさ。
「でもそれだと別のお兄ちゃんの代わりが来ちゃうんじゃない?強いの来ちゃったらどうしよう」
 クリスが心配そォに言った。確かにあいつより弱ェやつ見つけるのは苦労しそォだな。
「まァやっちまったモンは仕方ネェ。どんなやつが来ても潰してけばいいンだからよ」
 オレがそォ言っても皆は浮かネェ顔をしている。まァオレも気休めにしかならネェってことはわかってるけどよ。
「…そうね。今考えても仕方ないわよね」
 そォ言ってベルは弱々しく微笑ンだ。

『マスターが教会に行くなんて珍しいね。どういう風の吹き回し?』
 シンカの不思議そォな声が頭の中に響いた。
「ちょっと資料室を見てみよォと思ってよ。敵を倒すためにはまず敵の情報を知らネェといけネェだろ」
『そうだね。でも場所わかるの?』
 いや、お前聖剣だろ。資料室の場所くらいは知っとけよ。
『だって今までの所有者はそんなの調べようとしなかったもん。時間ならいくらでもあったのに魔物図鑑さえ見ようとしなかったんだよ。何でも教団の言いなりになるなんて本当バカだよねー』
 相変わらず毒舌だなシンカ。オレもそォいうこと言われネェよォに気をつけネェとな。
「だったら誰かに聞くしかネェか」
 オレたちは近くに誰かいネェか探すことにした。

『あ、マスター。そこに誰かいるよ。』
 シンカが言う通り教会のベンチに金髪で水色の服を着たガキがいた。頭には輪っかが浮いていて、腰からは白い羽が生えている。どっからどォ見てもエンジェルだ。
『とりあえず話を聞いてみたら?』
「そォだな。すみませーん」
 道を聞くために近づいてみたら寝息が聞こえてきた。口からはよだれが垂れている。
「こいつ熟睡してやがるな」
『どうする?起こす?』
 シンカが楽しそうに言った。一体どォやって起こすつもりなンだこいつ。
「別にわざわざ起こさなくていいだろ。別のやつを探そうゼ」 
『…マスターっていっつも女の子には優しいよねー』
 シンカが苦笑混じりで答えた。オレは他のやつを探すために立ち去ろォとした。

「むにゃむにゃ。また主神天使に手を出したの〜?いいかげん学習すればいいのにね〜」
 オレは思わず引き返した。そのエンジェルの寝言があまりにも信じられなかったからだ。
「ていうかあのエロジジイ私たちが人間とエッチなことするのを見たくないから快楽を拒否して、欲望を貪る者に罰を与えるようにしたんでしょ〜。自分でやったことを忘れるなんてバカなだけじゃなくてボケが進行してるよね〜」
 オレはあまりのショックで開いた口がふさがらなかった。主神なんて勝手な理屈を並べ立てて殺しを正当化する気違いだとしか思ってネェオレでもそォなンだから、神への信仰を全てだと思ってる教団のやつらが聞いてたらショック死してただろォな。 
「大体魔王を倒そうとしている理由も人間がいい思いをするのがイヤとか言うしょうもない理由だしね〜。そんな理由で私たちや教団の人を動かすとかマジ最悪なんですけど〜。あのジジイいつまでも生に執着してないでさっさとくたばればいいのにな〜」
 さっきから衝撃の事実ばかり出てくるな。寝言なだけにどれだけ当てになるのかわからネェけどな。

「おいシンカ。そのエンジェルが言ってることは本当なのか?」
 オレは珍しく黙っているシンカに聞いた。
『し、知らないよ。私が作られた時に主神が作った人間と魔物のシステムについては聞いたけど、そんなこと一言も言ってなかったもん』
 シンカは珍しく戸惑ったよォに言った。
「システムだと?つまり魔物は主神が何らかの理由で生み出したものだってことか?」
 まァ魔王が闇から生まれたとか言う戯言なンざハナから信じちゃいなかったがよォ。
『うん。私が聞いた話だと文明が発展しすぎて人間の数が増えすぎるのを防ぐために魔物を食物連鎖で人間の上位において、魔物を魔王の魔力で制御させた。そして魔物を凶暴化させることで人間を大量に殺させて調節する。それで人間の数が減って魔物が増えると今度は人間に力を与えて勇者を生み出す。そして魔王が倒れた後は魔物が魔王を決めるために互いに殺しあって数を減らす。それでまた人間が数を増やす時には次の制御装置の魔王が生まれる。それを繰り返して数を調節するシステムになってるんだってさ』
 つまり教団のやつらは完全に騙されてるってわけか。
「ンなことオレに喋っていいのか?」
『ダメに決まってるじゃん。神も持ち主に聞かれたら適当にごまかせって言ってたような気がする。でもあんなやつよりマスターの方が大事だもん』
 オレもずいぶん慕われてるモンだな。まァ初めて認めた相手だからなのかもしれネェけどよ。

「そりゃどーも。…にしても主神がシンカが言う目的で魔物を生み出したとしたら主神がかなりのバカなのか、それともその理由は建前で、本音は別にあるかのどっちかだな」
『どういうこと?』
 シンカの不思議そォな声が頭の中に響いてきた。
「だってそォだろォよ。人間の数が増えンのは単に文明が発展して食べ物が豊かになったり、病気の治療法とかが見つかったりして死亡する人が減った結果だ。それなのに自分で文明が発展しやすくしておきながら数が増えたら調節するなンてバカとしか言えネェだろォよ」
『文明を発展しやすくする?魔物がいると何で文明が発展するの?』
 シンカはわけが分からネェって口調で尋ねてきた。
「まず魔物は人間より魔力や身体能力が高い。訓練をすれば魔物より強くなれるやつはいるが、普通はそこまで強くなれネェだろォよ。だから武器を改良する必要がある。それに討伐が一日で終わるとは限らネェ。そォなると食料を輸送したり保存する手段が必要になる。他にも情報伝達手段や移動手段とかも発展させていく必要があるンだよ」
 まァ人間の戦いでも同じことが言えるンだがよ。
『つまり魔物との戦いで技術が進んでいくってことだね』
 シンカが納得したよォに言った。
「それに魔物って言うのは人間にとっては共通の敵だ。ンな敵がいるのに他国と戦をするだけの余裕はなくなるし、互いに交流して技術を提供し合ったり、資源をやり取りした方が互いの利益になる。そォすることで文明は発展するンだよ」
 人間同士の戦いでも同盟国の間では同じことがあるだろォよ。だが敵国にはその技術は隠される。手に入れるには諜報活動をするしかネェってわけだ。
『魔物のせいで国同士の結びつきが強くなって、互いの技術が向上していくってわけだね』
 大体シンカが言う通りだ。
「しかも魔王が討伐されたら魔物たちは魔王を決めるために殺し合うンだろ。その間に人間は魔物に対抗するために国力を整えたり、戦いで生まれた技術を伝えたり応用する余裕ができるわけだ。しかもその間他国からジャマされることはネェ。魔物によって国力が削られて攻める余裕がネェのはどこも同じだからよ。自分が文明を発展させるよォなことをしといて後で調節するとかバカだろ。それなら始めからしなけりゃいいじゃネェか」
『…じゃあ主神は全知全能のくせにそんな計算もできないバカなのか、減らすこと自体に何か意味があるから魔物を作ったかのどっちかってことだね』
 どォやらシンカにもわかったみてェだな。
「そォ考えるとそのエンジェルの寝言も全くのデタラメってわけじゃネェのかもな。魔物が人間を食べるとすると真っ先に犠牲になるのは女子供とか未来を担う弱者たちだ。それに軍を動かすとなると経験が少ネェ若い世代ってことになる。つまり主神が魔物を作った理由は人間が増えて文明が発展させるのを恐れたわけじゃなくて」
『人間が増える過程、つまりセックスするのを見たくなかったってわけだね。バカみたいな話だけど意外としっくり来るね』
 まァ全部主神の計画通りに進ンでるのを前提とした場合だがな。主神でもミスくらいあるンじゃネェの?

「もうスピエルちゃん!こんな所で寝ちゃダメでしょー。あれ、あなたどこかで見たような気がしますねー」
 そンな声がしたから振り向くとエンジェルがいた。羽は純白じゃなくて少し灰色がかっている。
「勇者のハインケル=ゼファーです。初めまして天使様」
 オレはいつもの仮面を被って言った。
「天使様じゃなくてアシュエルって呼んで下さいー。この子はスピエルって言いますー。よろしくお願いしますねー」
 アシュエルと名乗ったエンジェルは深々とおじぎした。
「これはどうもご丁寧に。よろしくお願いしますアシュエル様」
 オレは適当にあいさつした。
「どうもー。それよりこの子いつから寝てたんですかー?」
 アシュエルは間延びした声で尋ねてきた。
「さあ。ぼくが来たときにはもう寝てました」
「そうなんですかー。スピエルちゃん変な寝言言ってませんでしたかー?」
 アシュエルは探るよォな目でオレを見てきた。

          つづく
11/03/26 07:55更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
少し長くなったのでここで切ります。
やっと魔物娘を出せました。これからはもっと出していけたらいいです。

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