連載小説
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何度でも蘇らせるさ!
「ふぁ…」

 今日も、フォーメルを膝に乗せて椅子で寝る毎日である。この時間が終わればまたバーメットからの仕事をこなさねばならない。

「最近のお主、随分疲れているみたいじゃが…何をしておるんじゃ?」

 フォーメルが読んでいた本から顔を上げ、こちらを心配そうに見ている。

「ん、まあちょっとな…」

 あの書類の山を思い出すと気が滅入る。よくバーメットとアーレトはあんなことを毎日やっていられるものだ。

「父上も母上もさっきのお主みたいな顔をすることがあるのじゃ…」

 心配している、というよりもどこか怯えるような表情だ。俺が倒れるとでも思っているのだとすれば大間違いである。それとも、バーメットたちとダブって見えるのか…

「……」

 そういえば、こいつは親と接する機会が極端に少ないのだった。その分、愛情を持って僅かな時間を過ごすのだろうが、やはりまだ辛い年頃なのだろう。むしろ、自分を愛していると分かっている分、余計に辛いのかも知れない。…俺はいなかったから分からないがな。

「…そんな顔誰にもして欲しくないのじゃ」

 なんでこいつは泣きそうな顔をしているのだろう。いつもみたいに笑ってはしゃいでいればいいのに。

「いらん心配するな」

 頭をぽんぽんと叩いてやると、泣き顔から一転し驚いたように目を見開いてこちらを見つめている。

「わ…笑った・・・!?」

「誰がだ?」

「も、もう一回!もう一回笑って欲しいのじゃ!!」

頬は紅潮し、目をきらきらと輝かせてこちらの顔を覗きこんでいる。

「…俺は笑った覚えはないぞ」

「いや、ちょっとだけニコッと笑ったのじゃ!!」

「気のせいだろ」

「ワンモアセッ!」

「やかましい」

 やはりこいつはこうやって騒いでいる方が似合っているな。

………
……








……
………

「毎日助かっております…のじゃ」

 バーメットの机に今日の分の書類を束を置くと、机がミシリと悲鳴を上げた。窓の外を見ると月が真上を浮かんでいた。

「の、わりには人使い荒いが」

「感謝と容赦は別ですじゃ」

「そうか…まあ俺はいいが、お前ら自身には少ししてやった方がいいな、容赦」

「いえ、私達はまだまだやることがありますから…」

「お前達の心配をしているんじゃない」

「………」

「もう少し俺に仕事を寄越せ」

「それは…」

「目立つ仕事以外にも、色々とお前がやっていることくらい想像できる」

「……」

「人並みなことしか言えないが、もう少し周りに頼ったらどうだ」

「…ありがとうございます」

 長い付き合いだが、なかなか性格は変わらないらしい。



「バーメット、こっちは終わったよ。
あ、ジナン様もいらっしゃいましたか、お疲れ様でございます」

執務室の扉から忙しそうにアーレトが入って来た。

「いちいち堅苦しい奴だな」

「そこは、性格だと割り切っていただくしかないです」
 
「ああ、アーレトご苦労、こちらも今日は仕事終わりだ」

「あれ?今日はまだ…」

「あれはジナン様に替わっていただくことにした、だから大丈夫だよ」

 困惑するアーレトを尻目にバーメットはてきぱきと机の整理を終わらせていく。

「そういうことだ。今日は水入らずで過ごせばいい」

「…ジナン様」

「そもそも、もう少し人員増やしたらどうなんだ?」

「他から補充できないか打診中なのですが…」

「まあ、今はどこも人手不足か」

 魔物娘化した魔物たちは番となった男とその子供にのみにしか関心がいかなくなりがちだ。いままで、色々と思うことがあるにしろ働いてきた魔物たちだが、今は夫を優先させ職務放棄することも少なくない。

「それと、これが今日の…そして今後もお任せする仕事になります」

 手渡された書類に目を通す。

「…これはお前が直々にやることだったのか?」

「ええ、どの娘もまだ実力不足で…万が一もありえますから」

「そうかもしれないな、じゃあさっそく済ませてくる」

「いってらっしゃいませ、そして







娘を、フォーメルをよろしくお願いします」


「やめろ!!」












「こいつか…」

 城からそう離れていない森の地点で、仕事の標的を見つけた。国境付近全てに数種の探知魔法が張られておりどれかには引っかかる。だいぶ昔に作ったものだが未だに役立つとは思ってもみなかった。

 標的は全身に鎧を身に纏い、腰には聖銀の剣を佩いている。あの厚さの鎧ともなれば重量も相当なものであるはずだが、旅人が街道を歩くより早く目的地であろう城に向かって歩き続けている。剣も鞘だけみても一流の鍛冶が打ち、二流の魔術師がルーンを彫り、一流の聖職者が加護を与えていることが分かる。なぜ魔術師が二流なのかは説明しているうちに日が明けてしまうのでやめておこう。つまり、こいつはそこそこの…

「っ!?何者です!!」

 気配は消していたつもりだったのだが…年は取りたくないものだ。

「まさか、見つかるとはな」

「真後ろで呟かれたら誰だって気付くわ!!」

「…それもそうか。で、お前がリネット・ミヴィスだな」

「さあ、どうでしょうね」

 剣を引き抜き、こちらに突き構える。声はどこか不敵に感じる。この状況でも余裕があると言うことは自信があるのだろう。それはいいが、本人かどうかは確認しておきたい。

「自分の名前も名乗らずに人に聞くのも失礼だったな。俺は家庭教師のコーネック・アバンレジェンだ」

「おとぎ話の怪物の名前を出されたって、誰も信用しませんよ?」

「じゃあジナンでいい」

「じゃあ、ってなんですか適当な…もういいです。私が勇者リネット・ミヴィスです

で御用は何ですか、ジナンさん?」

「交渉というか相談だな、上手くいかなければ別の用事もできるが」

「交渉…?」

「まあ、領主暗殺を諦めてくれないかということだけだ」

「何故、人間の貴方がそのようなことを?」

 だんだんと握っている剣の柄に力が込められていくのが見て取れた。

「昔から俺は悪の魔物側なんでな」

「そんなことはありません!!人は皆生まれながらにして善良で聖なる生き物です。
貴方は魔に唆されているに違いありません。この国の魔を滅ぼし、必ずや正しき道に貴方を引き戻して見せます!」

 兜の隙間からまっすぐとこちらを見据える瞳を見ると、心の底からそう思っているようだ。糞真面目とはこいつのことをいうのだろうな。


「そうか、期待してるよ。で、答えはどっちだ?
上への言い訳が面倒なら俺もフォローしてやれるぞ」

「儂もフォローしてやるのじゃ」

「!!」

 視認と同時に勇者は後ろに3歩飛び退き、間合いを取った。身のこなしからして、なんだかんだで実践馴れもしているらしい。

「なんだ、人が気を遣ったのに、どうしてここにいるんだ」

 いつのまにやら鎌を持った赤髪の山羊が横に立っていた。

「ジナンだけだと心配じゃからな、儂も様子を見に来たのじゃ」

「いらぬお世話だな」

「鎌に山羊角…幼女の風貌……バフォメットか!」

「別にバフォメットの皆が皆、鎌持ってるわけではないだろ」

「スタンダードではあるがの」

「まさか、貴方がこの国の領主ですか!?」

「の娘じゃ」

「見た目はどっちが母子かわからないがな」

「…娘!?…まさか魔物に子供が…
…いいえ!どちらにせよ魔を滅するが勇者の使命!!
我が名はリネット・ミヴィス!

呪われし穢れた魔物よ!!覚悟なさい!!」


「フハハハ!! 覚悟するのはお主の方じゃ!!

大魔導フォーメル・インディゴードの手にかかること名誉に思え!!」

 勇者は剣を上段に構え、左足に力を込めた。一飛びで踏み込み、全身全力の一撃の元に鎌ごと叩き切るつもりだ。なるほど、城にいる兵の練度ではどうしようもない。上級魔族も何人かいたが、このレベルの勇者だとバーメットでなければ確実には勝てないだろう。

 対する我らが山羊様も鎌を水平に構えているが、あいつが鎌術の鍛錬をしている姿を見たことがない。というよりも二の腕が重さでぷるぷると振るえている。勝敗は火を見るより明らかとしか言い様がなかった。

「手が掛かるのはお前だ馬鹿者…<ライフストップ>」

「…!………」トサッ

「え゛!?」

 詠唱と同時に勇者は草の上に倒れこみ動かなくなった。魅了魔法への耐性装備は欠かしていないようだが、他の魔法に対する耐性はまったく用意してこなかったのだろう。本来必要になるはずもないので、仕方ないと言えば仕方ないか。

「さて、こいつを持って帰るぞ」

「いや、あの…え?」

 倒れた勇者と俺の顔を交互に見ている。

「あのままやってても、あっさり殺されただけだぞ」

「そこじゃなくて…え?死んでる?」

「うむ」

「え、え? 嘘じゃよね? あんなにあっさり、それに傷もないし寝かせただけじゃよね?」

「そういう魔法だ」

「な、なんてことしとんのじゃァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 勇者の死体に駆け寄り、下級上級問わずさまざまな回復魔法を行っている。

「無駄だ、脈を計ってみればわかるだろ」

「…脈もないし、心臓の音もしないのじゃ…瞳孔も開きっぱなし…どうみても…」

「死んでるだろ」

「ぁぁぁぁ……」ぽふっ

 膝を折りがっくりと項垂れている、この世の終わりといった表情だ。
そんなことをしていると城の方から誰かがこちらに走ってきた。

「魔女メイギス!助太刀に参上しました♪」

 メイギスは普段通りの格好だが、流れ出る魔力が鋭く冴え渡り指の先に魔力が集中している。おそらく、この勇者とも五分かそれ以上に戦えたことだろう。未だにこいつの正体が掴みきれない。

「もう終わってるがな」

「あら、お早いですね。フォーメル様はなんであんな姿に?」

「さあな」

「メイ……」

「はーい♪どうしましたか?
外はまだ寒いですし、早く帰りましょうフォーメル様♪」

「ぬぁぁぁぁ! ジナンが殺人犯になってしまうのじゃぁぁぁぁ!!」

「え?」

「じつはかくかくやぎやぎ…」


………
……

「ほお、私も寝てるだけだと思ってましたが、死んでらしたんですね♪」

 まだ森の中にいる。兜を脱がされた勇者は、フォーメルの応急処置で、色々と顔を弄られ見るに堪えない表情で死んでいる。

「もう終わりじゃ…」

「墓場に埋めておけば勝手に蘇ってくるだろ」

「そういう問題じゃない!!

一つしかない命をこんな簡単に奪って良いはずがない…
儂らに剣を向ける勇者だからといって、問答無用で死んでいいなんておかしいのじゃ!!」

「ふむ…そういわれると…」

 案外真面目な奴だ。

「お主は長生きしすぎて感覚が麻痺しておる…
牢の中には儂も入るから一緒に頑張って真人間に更生じゃ!!」

「せっかくだから私も入っていいですか?」

「うむ、メイギスも一緒ならば心強いのじゃ」

「というわけで、今から一緒に出頭しましょう♪」

「どこの世界にそんなうれしそうな顔で出頭する奴がいるんだ。
しかしこのままだと本当に行きかねないな…


…わかった。こいつが今すぐ蘇ればいいんだな」

「そりゃそうですけど…」
「それが出来れば何も苦労しないのじゃ…」

「魔法使いを馬鹿にするな、
全く、それだけでいいなら何もそんなに騒ぐことはなかったんだ。


<リターン>





「ほへっ!?」



 勇者が間抜けな表情で起き上がった。

「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!?」

 代わりに間抜けな表情で山羊が倒れた。

「フォーメル様しっかりしてください!」

「ぬおっ!」

 そんなフォーメルの肩をメイギスががくがくと揺らしている。どうにか気がついたらしい。

「一体何が…」

 勇者は勇者で、状況が理解できず混乱しているようだ。

「お、お主…リネット…じゃよな?」

「え、えぇ…」

「どこか痛んだりは…?」

「どこも全然…」

「気分が悪いとかも?」

「はい…」

「よ、よかったのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 弾丸の様に勇者目がけて山羊が飛ぶ。そして、そのまま抱きついて泣きじゃくりながら頬擦りしている。

「へ?あのちょっと?なんですかこれ?」

 窮鳥懐に入ると、とは良く言うが、山羊が懐に入っても同じらしい。碌に抵抗しない勇者の顔は涙、鼻水、よだれにまみれてべたべたになっている。

「いいですよ〜フォーメル様〜♪次はカメラ目線でお願いします
リネットさんも笑って〜♪」

「は、はい…こうですか?」

「ナイスですね〜♪」

 その光景を熱心に魔女が撮影している。もはやむちゃくちゃである。

「これで、問題ないな?」

「うむ、これでジナンが牢屋に入ることもないのじゃ!!」

「そうか、……ちょうどいいし、お前も今のやって見るか」

「なんじゃと?」

<ライフストップ>

「……!」チーン
 
「う、あおぉぉぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「まさかこの写真が遺影になるとは…」パシャパシャ

「フォーメルがしっかりと成功すれば問題ない」

「な、何をしとるんじゃ…」

「久しぶりに実技の授業ってことだ」

「いくら儂が天才じゃからって、いきなりそんな魔法使えないのじゃ…」

「いや、今のお前でも十分使える魔法だ。ネクロマンシーと違って制限は多いが、魔導師同士の戦いでは使う機会は少なくないし、覚えておくに越したことはない」

「ふむ…」

「マテリアライズ、ドローマグネット、バインドの複合魔法だ。この組み合わせなら何をするか言わずともわかるだろう。配分は…お前のセンスに任せる」

「なるほど、どれも今の儂ならどれも造作ないな…」

「メイギスはどうする?」

「私はやめておきます。流石に魔力が足りませんから
…でも、お兄様さえいればできるのですが…♥」

「知らん」

「よしっ!儂ならできそうな気がするのじゃ!!
いや!しなければいけないのじゃ!!」

「まあ、失敗してもリスクはないし気楽にやってみろ」

「フォーメル様ファイトで〜す♪」

「天才魔導師の儂の力を見るが良い!!

………すぅぅ」

 勇者の死体を見据えると、深く息を吸い込み、目をつむり集中し始めた。空気が張りつめ森の音さえも全て消え去った。

 さすがに初めての魔法で少々緊張しているらしい。しかし、今の所作を見ていると、闇雲に魔法を撃っていたのが大昔のような変わり様である。

「はぁぁぁぁ…」

 勇者の亡骸の下に人が4,5人寝ても届かない程大きな魔法陣が展開される。そして、徐々にその中に色取り取りのルーンが書き込まれていく。

「<マテリアライズ!>」

 肉体を離れた魂、具現化 

「<ドローマグネット!>」

 具現化した魂を肉体に引き寄せ
 
「<バインド!>」
 
 縛りつける

「現世の理を破棄し禁忌の業に仕えん! 回帰せよ!<リターン!!>」

 死体の周りを浮遊し散らばっている魂が肉体に少しづつ引き込まれ、青白い鎖が一つずつ体に縛りつける。魂が肉体に戻るにつれ体から光が発され、最後の一つを縛った瞬間、眩い閃光に包まれた。






「はふっ…」

 実験台…ではなく勇者はゆっくりと体を起こした。夢から覚めてすぐのように、ぼんやりと欠伸をしながら紅い目を擦っている。ん…紅い?

「や、やったのじゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 フォーメルは起き上がった元勇者に抱きついて喜びを表現している。

「わっ!また…もう…一体何なんですか…」

「さっすが儂なのじゃ!!ふふ、ふはぁぁぁはははは!!」

「あ、あれ…?でもリネットさんなんだかとっても土気色といいますか…」

「…メイギス、今すぐあるだけの魔力補給剤を持ってきてくれ、頼む」

「は、はい!」

 言うが早いか、メイギスは即座に町に向かって行った。

「あ、あれ?じ、ジナンこれって…」

 抱きついた相手の様子がおかしいことに、ようやくフォーメルも気がついたらしい。

「術式自体は完璧だったのだが…そもそも魔物の魔力では問題があったらしい」

 体が生気のない青白い色に変わり、瞳が全ての血を吸ったように紅く輝いている。恐らく、ワイトと呼ばれる魔物であることは間違いなかった。

「そ、そんな…」

「本人の素養があったのも大きかったな…」

「冷静に分析してるけど…儂はどうすれば…」

「いますぐそいつから離れろ」

「さっきから何が起こっているのやら…



あぁ、でもフォーメルちゃんふかふかプニプニで気持ちがいいですね〜」ズズズズズズ…


「ぬぁぁぁぁぁぁ!!」チーン

「フォーメル!!」

 フォーメルは抱きついた腕を離そうとしたが、反対に元勇者に抱きつかれ魔力を吸い取られてしまった。吸い取られたフォーメルはというと、口の端からよだれを垂らして痙攣している。……しかしこれで魔力不足で俺が襲われる危険性は減ったか。

「フォーメルちゃん大丈夫ですか?」

 ピクピクと痙攣するフォーメルを両腕で抱きかかえたまま、視線をこちらに向けた。敵意と殺気が抜け落ちてはいるが、先ほど見た勇者然とした眼差しは変わっていない。

「まあ、死にはしないだろうが…」

「よかった…」

「なんだ、さっきまで殺すつもりだったんじゃないのか」

「ええ、ですが私が蘇るたびにあんなに嬉しそう抱きついて来られると」

 フォーメルの髪を梳くように頭を撫でている。こうやってみると年の離れた姉妹にも見える。

「蘇る? 自分が死んだのを思い出したのか」

「死んだ? 『殺された』の間違いでは?」

「…その通りだ」

「…いいんですけどね。私だってフォーメルちゃんを殺そうしていましたし、勇者になった時点でこうなることは覚悟していました」

「そうか…」

「人間ってこんなにあっさりと死ぬんですね」

「みたいだなぁ」

「他人事みたいにいうな!
…そもそも!貴方が余計に私を殺さなければ死んで魔物になることもなかったんですよ!」

「それは、済まなかった。
だが、どちらにしろ捕まった時点で魔物化は避けられなかっただろうし…」

「魔物になったことを怒っているんじゃありません。
人の命を軽々しく弄んだことに怒っているのです!!」

「そうじゃそうじゃ!!」

 気がつくと、ワイトの膝の上の山羊が起きている。

「な、どうせアンデッドになるんだから関係ないだろ!」

「そういう問題じゃありません!!」

「問題じゃないのじゃ!!」

「まだ、私だったから良いものの
他の人にこんな真似は絶対に許しはしません!!」

「お主だったらいいんかい」

「はい、自分への苦痛など一瞬のものですが、
人々の嘆き悲しむ姿を見るのは一生の苦痛です」

「根っから勇者なのじゃ…」

「ワイトになってもこれとは…」

「ワイト…?今の私の種族ですか」

「あぁ、簡単に言うと格上ゾンビだ。
さっきこいつにやったみたいに人から精を吸える」

「あれは無意識に…そもそも、精って…「魔力じゃな」なるほど」

「魔力を吸われた人はどうなるんですか?」

「確か男や魔物ならしばらく動けなくなって、
女ならお前の魔力が換わりに入ってアンデッドになるんだったかな」

「それって間接的に…」

「そうでもないだろ、もうアンデッドと言う魔物みたいなものだ。
サキュバスが仲間増やすのやバフォメットが魔女にするのと大して変わらん」

「そういうもんですか…」

「深く考えずともよいのじゃ。
お主も魔物となり、儂ら魔物が人間に敵意がないことを分かるようになったじゃろ?」

「はい、今まで以上に人間がいえ、魔物でさえも愛おしいです」

「なんかもっとこう、『勇者として生きてきたせいで抑圧されたものが解放!!』みたいな感じになると思ってたのじゃ」

「さらに聖人化してしまってるな」

「…下世話じゃが、恋人、やそれに似たような者は「いませんでした」

「勇者ですから、考えた事もありませんでした」

「今の勇者ってそういうものなのか…」

「さあ?」

「まあ…誰か好きな奴が出来れば変わるじゃろ…本来欲望全開な種族じゃしな

……じゃが、ジナンはダメじゃぞ?」

「……?」



「で、だ。これからどうすんだ」

「そうですね…国には戻れないし…どうしましょう」

「行く宛があるなら路銀くらいは出してやるし、行く宛てもなければこの国に住んでもいい。どちらでも好きなほうを選べ」

「…それじゃあ…」

 


………
……












……
………

「で、こうなったのか」

「みたいじゃな」

「フォーメルちゃん。そちらよりこちらに座りませんか?」

 図書室の椅子に座ったリネットは自分の太腿をぽんぽんと叩き、俺の膝にいるフォーメルに催促している。

「む…ジナンの膝の上は別格じゃが、リネの方もかなり魅力的なのじゃ…」

「俺もたまには本くらい読みたいし、あっちにいったらどうだ」

「なんじゃ、てっきり寝ると思ってたのじゃ」

「余裕ができたからな」

 結局、補充の人員が来ることはなかったが、各部署ごとの管轄権を広げ領主の指示判断を極力少なくしていく方針に切り替えたらしい。下の負担になるのではと、二人は心配していたが俺から言わせると今までが負担かけなさすぎていたのだ。今くらいの方がよほど健全である。やっと領主殿に信頼してもらえたと、喜んでいる者も少なくなかったそうだ。無理もない話しだ。よくも悪くもワンマン(ツーマン?)気味だった体制もようやく改善の兆しが見えそうだ。
 
 彼らの負担が減ると比例して俺の負担も減る。今までの山のような書類も丘くらいにはなった。俺が今後やる予定だった刺客の撃退もリネットが替わりに引き受けることになった
『魔物になっても、誰かを守る勇者でありたいのです』だそうだ。本当にこいつはワイトなのだろうか…いつもはこうしてフォーメルに付きっきりである。

「確かにお主も父上母上も、前みたいな顔をしなくなって何よりじゃ」ポフン

「ええ全くです。フォーメルちゃんから話をお聞きしましたが、
行き過ぎた自己犠牲はよくありませんよ?」

「「おまえがいうか」」

「……?」

「ま、まあそれはいいとして…ジナン読む本はもう決まっておるのか?」

「……♥(あ〜フォーちゃんプニプニ〜♥)」

「いや、別何も」

「なら儂のオススメの本を読んで欲しいのじゃ」

「ふむ…いいぞ」

「よし、取って来るからちょっと待っておるのじゃ」

「あ〜…」

 名残惜しそうなリネットから下りて、図書室の置くへと消えて行った。




「はいこれ!しっかりと目に焼き付けるように読むんじゃぞ!!」ドズン


そういって目の前に置かれた本は…

『馬鹿でもわかる命の大切さ』

『ようちえんからの道徳』

『更生のススメ』

『社会復帰のための100000の約束』

『素晴らしきサバトの世界』

『良心よ育て!』

『悪人性器(しょうき)、堕落神に仕えて』

『ロリっ娘バンザイ』

『貴方のモラルを呼び覚ます』

 …etc


「………」

「冗談じゃなく、なんなら毎日耳元で儂が読む?」





















プルプル、ボク悪い魔法使いジャナイヨ……




続く
14/03/16 05:43更新 / ヤルダケヤル
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■作者メッセージ
「なんか忘れているような…」


待っていただけた方がいるなんて望外の喜びであります。かれこれ1年以上放置というわけで雰囲気変わってたりしたら申し訳ないです。しかも新キャラも増えたと言うね…とにかく頑張ります。



「ジナンさぁぁぁぁぁん!!フォーーーメル様!!どこですかぁぁぁぁぁぁ!!!」

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