連載小説
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過去2
「なーんてね、うーそ」

 後ろから声がした。は? 顔を上げると、いつも人形が座っていた安楽椅子には誰も座っていなかった。
 華奢な腕がぼくの首に回っている。指を見ると、球体関節だった。
 
「ごめんね、お兄様があんまり可愛いから苛め過ぎちゃった。ちゃーんと最後までしてあげるから、そんなに落ち込まないで?」
「……落ち込んでない」嵌められたことに気付いた。
「ははっ、お兄様ったら、剛情っぱりなんだから」

 人形は腕に力をこめて、ぎゅっとぼくに抱き着いた。背中に人形の体温が伝わってくる。匂いも。ラベンダーの香り……。
 悔しいけど、人形に見捨てられなくて安心している自分がいた。完全に手のひらの上で踊らされている。人形と人間の立場が逆転しつつあった。
 耳元で人形が、内緒話をするようにひそひそと囁く。

「最後までして欲しかったのよね?」人形の息が耳にかかって声が出そうになる。
「っ……いや、欲しくなかった。いますぐ帰りたい」
「素直じゃないなあ。ま、苛めちゃったお詫びに、そういうことにしといてあげる」

 人形はぼくの首に腕を回したままぼくの正面に移動して、キスした。さっきまでのキスとは違う、濃厚なディープキスだった。人形の舌がぼくの唇をこじ開けて、口内を舐めまわす。ぼくも舌を伸ばして絡めた。卑猥な水音が静謐な洋館に響き、唾液が漏れて絨毯を汚した。
 人形の口はとても小さく、柔らかかった。愛しさがこみあげてくる。

「ん、ちゅぱ、んむ、じゅる、ちゅ、じゅる」

 人形は、飴と鞭を上手に使い分けて、ぼくを飼いならそうとしている。と分かっていても、人形のキスは濃厚で甘く、離れがたかった。
 もう、抵抗の意志は完全に折れていた。
 ひたすら気持ち良くなりたい、それだけだった。

「じゅる、じゅじゅる、んちゅ……ちゅぱっ」

 人形は、名残惜しげに唇を離した。唾液が糸を引く。人形は切なげに吐息を漏らし、ドレスの袖で唇の唾液を拭ってふふっと笑い、

「お兄様のおちんちんが興奮して、コツコツわたしの足を叩いてるわ」
「……」
「えっちなお兄様」

 人形は蠱惑的にそう呟いて少しぼくから離れ、ぼくの両足の間に屈み、痛いほど勃起した性器を眺め、

「ねえ、お兄様も、わたしのこと呼んでよ」
「……なんて呼べばいい。妹?」
「なんかゴロが悪いなあ」

 人形はぼくの性器を人差し指でつっつきながら、

「なんかいい名前を考えて。そしたら続きしてあげる」
「イレット」
「なんで?」
「トイレみたいな匂いがするから」芳香剤的に、トイレット。
「……ラベンダーのことがいいたいの?」

 人形は怒って、ぼくの性器を物凄い力で握りしめた。痛い。

「嘘嘘! 紫だから、バイオレットからとって、イレット」
「……まあ、いっか。適当だけど」人形、ではなくイレットは手の力を緩め、にんまり笑って「っていうかやっぱり、続きして欲しいんだね?」
「……べ、別に」

 本当は、して欲しくてたまらない。早くして欲しい。早く、早く……。
 イレットは「イレット、イレット……むふふっ、名前もらっちゃった」とご機嫌な様子だった。そんなことより早く続きをして欲しい。

「お兄様、そんな焦らないでよ」
「う、うるさい……」
「もう、可愛いんだから」

 人形はご機嫌なまま、ぼくの性器をしごき始めた。今度は亀頭じゃなくて、全体を優しく撫でている。苦しくない。気持ちいい。
 はあ、とぼくの口から、安心するように息が漏れた。
 イレットはぼくの性器をしごきながら、甘ったるく間延びした声で語りかける。
 
「お兄様はずっと、人形のわたしでも、優しく扱ってくれたから好き。……わたしが寝てるふりしてる時も、スカートめくって覗いたりしたけど、痛いことは全然しなかったもん。しかも、動かない人形のスカートめくっただけで、ドギマギしたりして、馬鹿みたいで……でも、わたしのこと人間扱いしてくれてるみたいで、嬉しかった」
「……そう」
「一回捨てられたけど」

 イレットは手の動きを速くして、さらにそこに唾を垂らした。潤滑油になって、気持ちいい。球体関節なのに、イレットの指は人間の指よりずっと柔らかかった。

「捨てられても帰ってきて正解だった。お兄様は乱暴しないもん。わたし、人形だからって乱暴されるのが大嫌いなの。だから、お兄様のこと、大好き」

 人形の癖に、と言い続けてきたことに、罪悪感を感じた。いくらなんでも無神経だったかもしれない。人形の癖に健気なこと言いやがって、という言葉をぐっと飲みこんだ。
 ぬちゃぬちゃと、性器から卑猥な音がする。

「お兄様も、わたしのこと好き?」
「……知らない」
「嘘でもいいから好きって言って」

 アメジストの瞳が恋い慕う様に揺れていて、同情したのかぼくの口から自然と言葉が漏れた。

「好き……これでいい?」
「うん。ありがとう。あとお兄様、もう出そう?」
「……」精液が込み上げて来ている。

 無言で顔を逸らした。その瞬間、性器が何か生暖かいものに包まれた。見ると、イレットが口でぼくの性器を咥えこんでいた。
 いきなり何を、と言おうとしたけど、イレットが一心不乱に性器を貪り始めて、その柔らかくて暖かい刺激に、ぼくは言葉が出なくなってしまった。

「んじゅる、じゅる、ちゅる、じゅるる」

 イレットは、小さな口で頬いっぱいに亀頭を咥えこんでいる。それがまた愛らしかった。

「……んきゅっ」イレットは性器を口から出して、一旦顔を上げて、薄紫の髪を耳に掻き揚げて「お兄様、わたしの口に全部出して。ちゃんと食べてあげるから」イレットは亀頭に軽くキスをして、「いっぱい我慢させちゃったぶん、たくさんたくさん出してね」また咥えこんだ。じゅるじゅると卑猥な音がする。舌も使ってカリと裏筋を舐めている。

「ちゅる、んじゅる、ん、ちゅ、ちゅるる……きゅぱっ」

 イレットはまた性器を吐きだして、舌先で裏筋をチロチロと舐めたり、キスしたりした。

「ちゅ、ちゅっ、くちゅっ、ちゅる……ここ、好き?」
「……うん」
「じゃあもっと舐めてあげる」

 執拗に裏筋を責められて、もう限界だった。
 イレットはまた性器を咥えこみ、吸い出すように力を入れた。じゅるじゅると音がする。一見すると高貴なお嬢様のようなイレットが、精液を欲しがってじゅるじゅると卑猥な音を出していることに興奮を覚えて……、
 性器から、どくどくと精液が出た。

「んっ……! んむ、んじゅる、ん、んんっ……!」

 たくさん焦らされて物凄い量が出たのに、イレットはその精液を一滴も口から吐き出さなかった。細い喉が、ごくり、ごくり、ごくりと動いている。
 結局イレットは、ぼくの精液を全部飲んだ。

「はあ……ふう、おいしかった」イレットは無邪気に笑った。
「……ごめん」
「なんで謝るの?」

 言われるがままに口に出してしまって、申し訳なかった。
 イレットはぼくの頭を撫でて、

「優しくしてくれてありがと、お兄様。でもまだおちんちんはおっきいままだよ? まだまだ足りないんだね。えっちなお兄様。大好き」

 イレットは立ち上がって、スカートの中に手を入れた。スルッと、白い下着が足もとに落ちた。ぼくは、流石にそれはマズイと思い逃げようとして、でもイレットのアメジストみたいな瞳がまた独特の威圧感を放ち、身体の自由がきかなくなってしまった。
 イレットはスカートの両端をつまんで持ち上げた。綺麗な割れ目から、透明な液体が細い川になって垂れてキラキラ輝いていた。性器に毛も皺もないのは、イレットが人形だからかもしれない。それとも少女だから?
 イレットはその割れ目を、ぼくの亀頭に押し当てた。

「んっ」

 イレットは少し腰を落とした。すで濡れていた割れ目に、亀頭がすんなり飲みこまれた。焼けるように熱い。
 ずっと生意気に振る舞っていたイレットだが、今は切なげに吐息を漏らし、息を荒げていた。唇を噛んで、必死に耐えている。

「あっ、……んんっ、あ、あああっ!」

 ズブリと、性器が全てイレットの中に飲みこまれた。中はとても狭く、ぼくの性器をきりきりと絞めつけている。溶けそうなほど熱かった。
 ドレスに包まれたイレットの小さな身体が、反り返って痙攣している。天井を向いた紫の両目は潤み、熱に浮かされたように焦点があっていない。

「はあ、ひいっ、はあ、はあ……お、お兄様の、が、中で、あ、はあっ……!」

 イレットは、がくがく震えながらも、ゆっくりと上下に動き始めた。
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅと、互いの粘液が混ざり合って卑猥な音を奏でる。

「ああっ……! お、お兄様ぁ……ああっ、……はあ、はあ……」

 イレットの中はとても柔らかく、それでいて窮屈で、密着した壁が、絞り出すようにぼくの性器を刺激した。ひだがねっとりと、ぼくの性器に絡みつく。フェラとは比べ物にならないはやさで、ぼくは限界を迎えそうだった。

「あっ、あっ、んっ、お、お兄様ぁ、あ、あっ、ああっ」

 それはイレットも同じようだった。華奢な身体が快感に悶え苦しんでいる。それでも健気に、腰を動かし続けた。
 ドロドロの蜜壺の中はとても熱くて、ぼくの性器まで溶けそうだった。

「もっ、だ、だめっ、お兄様っ、あああっ……んっ、あは、ああっ」

 スカートの所為で結合部分は見えない。でもそれより、イレットの表情を見ている方が良かった。あんなに偉そうにしていたイレットが、快感に悶えている。唇からだらしなく涎が垂れている。それすら愛おしく思えた。

「ああっ、んあっ、はあ、はあ……お兄様、わたし、もう、いっちゃ、う……ごめん、なさいっ……!」

 イレットは最後の力を振り絞るように、倍以上の速度で腰を動かした。ぐちゅぐちゅぐちゅと音も加速し、カリがひっかかって刺激にアクセントを加える。絞り出されるような快感と共に、精液が昇りつめる。

「あっ、お、お兄様のおちんちんが! も、もっと、もっとっ! ん、んん……!」

 イレットはさらに腰を深く沈めて動かした。最奥に亀頭が強く当たって、もう出そうだ。ぐちゅぐちゅぐちゅと、卑猥な音が部屋に満ちる。
 
「んんっ……はあっ! ぁああっ、も、もうだめ! くるっ! 出してお兄様! 出して! ……あ、あっ、ぁぁあああああっ!」

 イレットは一際甲高い嬌声を上げて、激しく痙攣した。ぼくも同時に射精し、イレット中にぶちまけた。
 イレットは下の口でぼくの性器を咥えこんだまま、脱力してぼくの胸に倒れ込んできた。小さな身体がまだ、ビクビク痙攣している。ぼくの性器はどくどく脈打って、イレットの中に精液を放ち続けている。
 いつの間にか身体の自由がきくようになっていたので、呼吸と共に上下に動くイレットの背中に腕を回して、きつく抱きしめた。

「はあ、はあ、はあ……はあ、はあ……」

 繋がったまま、無言で抱き合った。二人の息遣いが、静謐な部屋にたゆたっている。
 イレットの薄紫の頭をなでた。
 イレットはぼくを見上げて、嬉しそうに「えへへ……」とはにかんだ。
 鬼のようにぼくを苛めたり、かと思えば少女のように可愛らしく振る舞って、忙しいやつだ。
 だから、ぼくはもうダメだ。完全にこの人形――イレットの虜になってしまっていた。
 そして直感した。この人形からは、一生逃げられないと。




 
 後始末は一瞬だった。何せ、ぼくの精液は全てイレットが回収してしまったから。飲んだわけではなく、イレットが手をかざすと魔法みたいに汚れが全て吸い込まれて消えた。しかもおいしかったと言う。
 イレットは着替えも一瞬だった。スッとドレスが消えたかと思いきや、次の瞬間新しいドレスがイレットを包んでいた。ドレスも身体の一部だからだそうだ。わけ分からん。
 全て終ると、イレットはてとてととどこかおぼつかない足取りで安楽椅子まで歩いて、ちょこんと元の通り腰かけた。

「じゃあ、今度こそ本当にここで寝てるから、またしたくなったらいつでも来てね」
「……いや、」
「嫌って言っても来てるに違いないわ。ありったけ魔力を流し込んだもの。きっと、忘れたくても忘れられなくてここに来る、賭けても良い……そしたらまた、いっぱい楽しいことしてあげる」

 イレットは自信ありげにそう言った。
 いや、ぼくはそういうことが言いたかったのではなく。

「そうじゃなくて、えっと、ここ埃臭いし、あっち行こう」

 イレットはきょとんとして、首をかしげた。
 ぼくはイライラして、自分の頭を引っ掻きながら、

「あっちの、ぼくが生活で使ってるほうの家はちゃんと掃除してあるから、そっちに行こう。ここは身体に悪いよ。食べ物とかもあっちにしかないし」

 言うと、イレットは表情を隠すように咄嗟に顔を伏せて、そのまま走ってぼくに抱き着いてきた。ぼくのシャツに顔を押し付けたまま、

「だから、お兄様のこと大好き」
「その、大好きってやめて。恥ずかしいから」
「うん」イレットは殊勝に肯いた。
「……イレットって、食べ物食べられるの?」気恥ずかしくなって話を逸らした。
「食べられる。食べなくても死なないけど。……でもわたし、料理出来ないよ?」
「ぼくが何か作るよ」
「……うん」

 イレットは耳が真っ赤だった。ご機嫌だなおい。人形の癖に食べ物で釣れるのか、という言葉を飲みこんだ。いけない。人形の癖に、は禁句だ。

 その日、イレットはしきりに「でももう一回お兄様の精液食べたいなあ」とおねだりしてきたが全部拒否すると「そのうちしたくてたまらなくなるわ、明日くらいにはきっと押し倒してる」なんて余裕綽々とのたまうのでぼくも意地になって我慢したけど、結局その日の夜には押し倒していた。不思議なもので、イレットの近くにいると理性の歯止めが効かなくなる。
 それは魔力の所為だろうか?
 そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。ぼくの中では、そうじゃないことになっている。でも調子づけたくないので、イレットには黙っていることにした。
14/10/13 17:14更新 / おじゃま姫
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