連載小説
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ファーストキスと白い鳥
「なんでこっち来るんですか……? 嫌とかじゃいんですけど」
俺が尋ねると、火の付いていないタバコを加えた内守さんは両の翼をふさふさと揺らした。
「私この状態だとライターつけれないからね」
「あぁ……」
魔物娘特有の悩みだろう。人化の魔法を使ったらどうかと聞くと、どうせすぐに解除するのに面倒だと言われた。
しょうがないのでタバコを咥えてライターを差し出そうとすると「いや。いい」と内守さんが顔を突き出して来て。
「んふ」
じ、と紙の燃える音がした。
爛々と金色に光る目が美しい宝石のようにも見えた。白い毛がマフラーのように首元を覆っている。
シガーキス。内守さんが煙を吐き出しているのをよそに、俺の顔が沁み入ろうとする空気を弾くほどに熱くなっているのを感じた。
「あの、今の、シガーキス……」
「ふふ」内守さんは悪戯っぽく笑った。「ファーストキスだ。初めてやったよ」
俺は真っ赤なまま俯いて「俺もです……」というので精一杯だった。
「ファーストキスを貰っちゃったかぁ。それは悪いことしたなぁ」と内守さんは悪びれもなく言う。
シガーキス。ファーストキスに含めていいのか? 内守さんのファーストキス。いやしかし。
俺がおどおどしているのを見て何を思ったか、内守さんは艶やかに唇を動かした。
「ちなみにこっちもファーストキスはまだだよ」
自分の口元を翼で指して言う。
俺はひとしきり恥ずかしがってからようやく言葉を捻り出した。
「なんか、今日凄く機嫌良くないですか?」
しかし内守さんは目を細めて笑いながら「いやぁちょっとね」というばかりでろくな返事がない。
悶々としながらタバコを吸い終えると、フィルターまで達したタバコを咥えたままの内守さんが顔を突き出してくる。その目は明らかに悪戯心を秘めていた。
「なんです?」俺は諦めて尋ねた。
「これ、取って」内守さんは言った。「自分じゃ取れないからさ」
俺はその言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
短くなったタバコを取る。それはもう唇に触れるのと同義だ。ファーストキス。艶めかしい唇。俺は動揺を悟られないように心を押し殺して手を伸ばした。
そしてタバコを摘んだと思ったら。
「わひゃあ!」
ぺろり、と指が何か熱く柔らかいものに舐められたのだ。
「わひゃあって、ふふ、あはは!」
今日の内守さんはどこかおかしいレベルで機嫌がいい。
ちくしょう、やばい薬でもキメたんじゃないだろうなと邪推していると、「じゃ、私行ってくるね。勉強頑張るんだよ」と言った内守さんがにやりと笑って振り返りーー。
「一人でするのもいいけど、匂いが結構残るからその後にシャワーは浴びたほうがいいね! 行ってきます!」
と飛び去って行った。
「……………!!」
俺は大口を開けて叫び声を上げないのに精一杯で、恥ずかしさに押し殺されそうで、それでも青い空と白い鳥は相変わらずな、実に平和な朝はこうして過ぎて行った。
19/07/27 14:31更新 / けむり
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