連載小説
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異界料理屋
 いくつかの島々からなる親魔物国。そのある島に住む漁師のロウはルテに先導されてやってきたのは人の住まない無人島の一つ。
「あのさ……」
「なに?」
 まだ、昇ってからさほど時間が経ってさほどない朝日を受けながら遠慮がちに尋ねるロウに振り向くルテ……小柄な体躯に水着のような鱗をもつ海色の髪と瞳を持つ、サハギンの少女は振り向いて表情の動かぬ真顔で聞き返す。
「いや、そのさ・・・・・・本当にここ」
 水のように澄んだ瞳に見つめられて、頬を赤らめながらしどろもどろに聞く。
「そう……持ち合わせがなかったから、だめだった。ロウのおかげ。感謝する」
 そんなロウにルテは頷く。その顔は自信に満ちていて美しい。女といえば漁村のたくましい女しか知らないロウには、いささかしげきがつよすぎるほどに。

 ロウとルテが知り合ったのは、数日前の嵐の日。あの日あれる波にさらわれて船から放り出され、死にそうになったロウはルテに助けられた。嵐をものともしない泳ぎで船のへりまで運び、シー・ビショップが教がえてくれた、海神ポセイドンに祈りを捧げ波を収めた。
 嵐がやんだ後は、住んでる島に運んでもらいロウは辛くも死から逃れた。
 当然ロウは感謝したし、その美しさと優しさにに惚れもした。自分にできる事ならどんなお礼でもする、そう言った。
 ……たとえその礼として要求されたのが『銀貨十枚』としても、ロウにとってるては命の恩人であり、大切な人となっていたのだ。
 その後、約束としてルテに銀貨十枚……駆け出し漁師にはそこそこの額だが命の対価としてはだいぶ安い金を渡した後、ロウは尋ねた。一体何に使うのか?と。

 ロウとてこの世界のことすべてを知っているわけではないが、人の街に住まない魔物娘にとって貨幣は無価値であるはず……ただ一つの用途を除いて。そして、そのただ一つの用途に使うため、ルテはロウを案内していた。
「この先の森の中にある」
「そうなんだ……森の中?」
 ロウの手を取って上陸すると。
「行こう。遅くなると、人が多くなる」
 ロウを促し、やや強引にルテは森の中を突き進み、その場所へとたどり着く。
「……着いた」
 そしてルテはその扉の前にたどり着く。かつて故郷で見たのと同じ、猫の描かれた扉。
「行く」
 ロウの手を取り、扉を開く。

 チリンチリンと響く鈴の音を聞きながら、ルテとロウは扉をくぐった。
「いらっしゃい・・・・・・・おや、お久しぶりですねルテさん」
 朝の早い時間に訪れた客がここ最近見かけなかった少女であることと、その少女が見慣れぬ少年を連れていたことに、店主は少し驚きながら訪ねる。
「久しぶり。注文、いい?」
 そんな店主に挨拶を返しつつ、マイペースなルテは早速とばかりに注文してもよいか尋ねる。
「はい。大丈夫ですよ。いつもどおり……っと、そちらさんの分はどうしましょう?」
 ルテが頼む料理はいつも同じなのでその確認だけと考えつつ、店主はいつもと違う連れに目を向ける。
 いつもの、ルテより若干年上であろう女性ではなく、日焼けした黒髪の少年。この店では初めて見る客である。
「うん。デミグラスハンバーグ、ライスで二人分」
 そんな店主の問いかけに、ルテはいつもの注文をする。
 食べなれた海の魚ではなく、陸の獣の肉を焼いた、柔らかな料理。故郷で知り合ったシー・ビショップに連れてきてもらってから、ルテはずっとこれの虜であった。
「はいよ。少々お待ちください」
 注文を受け、店主は奥の厨房に引っ込む。
「さ、座ろう」
 それを見届けた後、ルテは適当な席に座る。
「えっと、ここは……?」
 ルテに従い座りながら、ようやく事態に頭が追いついたロウはルテに尋ねる。
 ルテに誘われて、森の中に不自然な扉があり、そこをくぐった先は、謎の部屋。
 はっきり言ってわけが分からなかった。
「ここは、異世界食堂」
 そんなロウに、ルテは淡々とその場所について教える。
「陸の獣が食べれる場所」
 ・・・・・・あくまで彼女にとっての認識だが。

 ルテが手慣れた様子で店主に注文して座った後、店の中をロウは見渡す。
 見たことのない、不思議なものに満ち、見たことのない、魔物娘の客もいる店内は、漁師の狭い世界しか知らなかったロウには、料理がなくとも不思議な面白いものだった。
「へえ、異世界ってのはこうなってるのか……うん?ルテ、どうかした?」
 ルテが少しだけ不思議そうな顔をしていることに気づいたロウが、そう尋ねる。
「ううん。なんでもない……と思う」
 そんなロウの問いかけにルテが首を傾げ、料理を運ぶ黒いものを見やったとき料理が届いた。
「お待たせしました!デミグラスハンバーグをお持ちしました!」
 ロウがめったに口にすることの内陸の獣の肉を細かく刻み、まとめたものだろう。
「へえ……えっとこれ……」
 尋ねようとしたところで、早速とばかりにルテがナイフとフォークを手に食べてるのを見て、ロウはいろいろ聞くことをあきらめる。
「おいひい。たべればわきゃるはず」
 肉を咀嚼しながらルテはそれだけを伝える。
「・・・・・・うん。ありがとう」
 ロウも食べ始めることにする。
「……あ、結構柔らかいんだね」
 そのまま食べ進めているとルテが
「……卵の黄身も合わせるといい」
 と、聞いたことを伝える。

 二人は大いに食べ、店を後にする。
「ルテが銀貨を欲しがったのは、あの店に行くためだったんだね」
 海に戻る途中、ロウに尋ねられ、ルテはコクリと頷く。
 その答えを見て、かすかに頬が熱くなるのを感じながら、ロウは先ほどから考えていた提案をする。
「それじゃあさ、また今度、時々でいいから僕と一緒にいかないか?そのときもお代は、僕が出すから」
「いいの?」
 その提案に、ルテは少しだけ首を傾げながら、聞き返す。
「もちろんだよ」
 そんなルテに、精一杯の勇気を振り絞ったロウは、笑顔で答えた
 そしてルテはロウに初めて笑顔を見せて頷きかえした。
閑話休題20/05/18 08:14
コロッケ20/07/05 22:11
お子様ランチ20/06/23 11:15

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