連載小説
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第十五話 破滅の鎮魂曲
「ブォォォォォォォォォォ!!」


俺は目の前の現実が信じられなかった。人間だと思われていたタイラントが……異形の怪物に変貌してしまった。
全身真っ白のゴツゴツした皮膚、鋭い爪に長い尻尾、そして巨大な翼。蜥蜴の様な顔に銀色の角……真紅に光る両目が一層不気味さを漂わせてる。

まさか……この世にこんな化け物が現れるなんて……!

「……これは骨が折れそうだな……」

黒ひげは冷静さを保ちながら、改めて大剣を握り直す。
黒ひげは戦う気でいるようだが……それは俺も同じ!

「黒ひげ!俺も一緒に戦う!」
「キッド……」
「あれは一人で敵う相手じゃない!俺の仲間たちを守る為にも……拒否は受け入れないからな!」
「……勝手にするが良い」

俺は黒ひげの傍に駆け寄り、腰に携えてる長剣とショットガンを抜き取って戦闘の姿勢に入った。
ここでタイラントを抑えなかったら……俺の仲間たちまで被害が及んでしまう。それだけは絶対に避けなければならない!

「化け物め……覚悟しろ!」

俺は首に掛けてある青い貝殻のペンダントに念を送った。戦いの神アレスの力が込められた貝殻が光り輝き、俺に戦う力を与えてくれる。
この力を借りるのも久しぶりだな……。だが、あれは全力で挑まないと勝てない相手だ。何としてでも……絶対に勝つ!

「キッド君、黒ひげさん!私も戦うね!」
「微力ながら助太刀させてもらおう!」

すると、メアリーは拳を構え、バジルは二本のランスを手に取って戦闘の準備をしていた。
この二人が一緒に戦ってくれるのは心強い。

「あっははは♪自分から前に出ちゃって、そんなに死にたいんだね!」

戦う気を露にしている俺たちを見下す様な目で見ているタイラント。その巨体から出てる威圧感に圧されそうだが……今は怖気づいてる場合じゃない!

「死ぬ気はねぇさ!みんなで生きてこの島から出るんだよ!」
「あっははは♪その発言、完全に死亡フラグだよね?」

タイラントに向かって宣言したが、タイラントは不気味な笑みを浮かべている。
余裕をかましてるのも今のうちだ……!何が何でも勝つ!


「では……行くぞぉ!!」
「「「おう!!」」」


黒ひげの号令を合図に、俺、メアリー、バジル、そして黒ひげの四人は一斉にタイラントに向かって走り出した!


「羽ばたけ!ウィング・ファルコン!」

まずは手始めに、バジルが風の隼を生成して素早く隼の背中に跳び移った。バジルを乗せた隼は、巨体のタイラントの目線より高い位置へと羽ばたいた。

「鳴り響け!サンダー・ホーク!」

そしてバジルは雷の鷲を生成して、タイラントに向けて飛ばした。バチバチと電撃の音を響かせながら雷の鷲が勇猛に羽ばたく。
しかし……!

「ブォォォォ!」

タイラントは右腕を軽く振って雷の鷲を叩き落とした!氷の地面へと叩きつけられた鷲はバチンと破裂の音を立てた瞬間に跡形もなく消滅してしまった。

「甘いわ!私だっているのよ!」

今度はメアリーが背中の翼を羽ばたかせ、タイラントの顔面に向かって突撃した。
そして……!

「必殺!頭蓋割り!!」
「ブォウ!」

空中で一回転してからタイラントの頭に踵落としを繰り出した!
だが……タイラントも易々と攻撃を受けてくれる訳がない!タイラントは頭に生えてる銀色の角でメアリーの足を受け止めた。
すると、タイラントの角から光が……!

「ヘル・シャイニング・スパーク!!」


バリバリバリバリバリ!!



「きゃあああああああ!?」

角から放出された電撃がメアリーを襲った!

「あんたもウザいんだよ!」

バンッ!

「うぅ!」

更に追撃とばかりに、タイラントは巨大な手でメアリーを打ち飛ばした。あまりの威力にメアリーの身体は後方へと勢い良く飛ばされる。
ヤバい!あのままじゃ地面に叩きつけられる……!

「メアリー!しっかりしろ!」
「うぇ!?」

すると、隼に乗ってるバジルは、隼を素早く移動させて後方へと飛ばされるメアリーを受け止めた。

「あ、ありがとうバジル君……」
「礼はいいから、無茶だけはするな!危なくなったら逃げても構わないからな!」
「う、うん……」

顔を赤らめながらもバジルに礼を言うメアリー。
やれやれ、こんな時にあいつら……。

「ちょうど良かった♪二人まとめて八つ裂きにしてやるよ!」

タイラントは不気味に光る爪を構えてメアリーとバジルを襲おうとした。
あの化け物め……好きにはさせねぇ!

「余所見してんじゃねぇぞ!」
「うぐっ!?」

俺はショットガンでタイラントの腕を狙い撃った。そしてタイラントが怯んだ隙に、タイラントの下まで駆け寄り……。

「うぉんらぁあ!!」

タイラントの足を長剣で横一線に斬った!
どうだ!少しは効いたか!?

「……何やってんの?くすぐったいんだけど?」
「なっ!?」

全く効いてないのか、足を斬られたのにも関わらず余裕を見せるタイラント。まさか……痛みを感じないのか!?
しかも……!

「……おいおい、マジかよ……!」

信じられない事に、斬られた傷からは血が一滴も流れない。しかも傷口が徐々に塞がり、そして完全に傷口が塞がってしまった。
今のは……自己再生ってやつか!?どうなってんだよ、こいつの身体は!?いや、今は驚いてる場合じゃない!

「一秒たりとも休ませねぇぞ!」

追撃として勢い良く跳び上がってタイラントの腹を狙って長剣を振り上げた。
だが……やはりタイラントも黙ってなかった!

「舐めんなぁ!」

タイラントの真紅の両目が光り……!


ビュン!


「ぐわぁ!?」

両目から出た赤い光線を正面から受けてしまった!跳び上がった時の勢いが消えてしまい、俺はそのまま地面に墜落してしまう。

「目障りな害虫がぁ!踏み潰してやる!」

俺が地面に倒れたのを好機とばかりに、タイラントは足を上げて俺を踏み潰そうとしている。
うわっ!ヤベェ!早く避けないと……!


「させぬわぁ!念力爆破!」


ドカァァァァン!!


「うっ!」

すると、黒ひげがタイラントの足に爆破魔法を仕掛けた。タイラントの動きが止まった隙に、俺は倒れた状態で後転し、その勢いで立ち上がってタイラントから一旦離れた。

「ふぅ……すまんな、黒ひげ」
「礼には及ばぬ。しかし……貴様もやりおるわ。我が見込んだ通りよ」
「褒めてくれるのは嬉しいが、まずはあの化け物を片付けようぜ」
「うむ」

俺は黒ひげに礼を言いながら改めて武器を構え直した。
危なかった……黒ひげが助けてくれたお蔭で助かった。

「グルルルル……全く、ウザいったらありゃしない!みんなまとめて死んじゃえばいいのにさぁ!」

タイラントは唸り声を上げながら俺たちを睨み付けている。
しかし、厄介だな……さっきの爆発も大して効いてないようだ。攻撃が効かないとなると……どうやって戦えば良いんだ?

「うぉぉぉぉ!!」
「とりゃああ!!」
「……五月蠅いハエだ!」

すると、バジルが隼に乗ってタイラントの周辺を飛び回り、タイラントをかく乱した。それに続いてメアリーも翼を羽ばたかせてタイラントの周辺を飛び回る。タイラントの鋭い爪が風を切る音を響かせながらも、華麗に避け続けるバジルとメアリーを追いかけている。
……なんだ?あいつらは何をやってるんだ?

「俺たちが囮になる!その隙に攻撃を!」

バジルはタイラントの猛攻を避けながら俺たちに叫んだ。
成程……そう言う事か!その勇気は無駄にしないぜ!

「黒ひげ!俺は奴の背後に回るから、正面への攻撃は任せた!」

黒ひげにそう叫びながら、俺は全力でタイラントの背後へと回り込んだ。走りこむ最中に爆音が聞こえたが、恐らく黒ひげの魔術によるものだろう。

「よし!まずはショットガンで背中を……」

ブォン!!

「おわぁ!?」

しまった!タイラントには尻尾が生えてたんだった!

ブォン!ブォン!ブォン!

「うぉっおわ!?うぉっとぉ!おわわわわ!?」

俺は振りかざされる尻尾を何度も避けた。野太い尻尾はまるで別の生き物であるかのように執拗にも俺を襲ってくる。

ブォン!ブォン!ブォン!

「……んの野郎……いい加減に……!」

不覚にも痺れを切らしてしまい、俺は頭上に振り下ろされる尻尾を横っ飛びで避けた瞬間……!

「しやがれぇ!」

タイラントの尻尾を長剣で突き刺した!
分かってはいたが、血は流れないし、タイラントも痛がってる様子は無い。だが少しは怯ませたんじゃ……。

「……ふふふ♪これって魚釣りみたいだね?」
「は?」
「そ〜れ!」
「え!?ちょ!?まっ……!」

タイラントは乱暴にも尻尾を振り回した……俺の長剣が突き刺さったまま。


「うぉわあああああああああ!!!」


タイラントの尻尾に振り回されて身体が宙を舞う!振り落とされそうになるが、俺はなんとか長剣を力強く握って踏ん張る。

ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!

「ちょ!や、止めろ!目が……目が回る!!」
「……何やってんだ、あいつは?」
「さぁ?でも……なんか楽しそうだよ?」
「楽しくねーよ!!」

バジルとメアリーの声が聞こえたが……全然楽しくねーんだよ!むしろ止めて欲しい!


スポッ…………


「あ…………」

おお、良かった。長剣が抜けた……って、良くねぇ!

「あああああああ!!」

長剣が抜けた勢いで俺の体は飛ばされてしまった。弧を描く様に宙を舞った後、勢いよく地面へと落下する。
ちょ、ヤべェ!叩きつけられる!

「全く、世話の焼ける奴だ!」

すると、バジルを乗せてる隼が落下する俺を受け止めた。

「ふぅ……すまねぇなバジル」
「礼を言う暇があったら、遊んでないで真面目に戦え」
「遊んでねーよ!」

俺は巨大な隼の上で徐に立ち上がり、改めて武器を構え直した。
あぁ、酷い目に遭った……。回されすぎて未だに頭がクラクラする……。

「物理攻撃が効かないとなると……これはどうかな!?」

と、メアリーが片手を突き出して黒い魔力の球をタイラントに放った。
しかし……!

「ブォォォォ!」
「うぇえ!?そんな……きゃあ!!」

タイラントの口から白銀の光線が放たれ、メアリーの魔力の球が掻き消されてしまった。更に白銀の光線はメアリーに直撃してしまい、滞空しているメアリーは落下して地面へと叩きつけられてしまった。

「メアリー!おのれ、タイラント……よくも!」
「待てよバジル!俺も行く!」

俺たちを乗せてる隼が翼を羽ばたかせてタイラントへと一気に詰め寄る。

「うぉぉぉぉぉ!!」
「せぁああああ!!」

そして二人揃って隼から跳び上がり、俺は長剣を、バジルは右手のランスをタイラントの顔に突き出したが……。

「遅い!」
「うっ!」
「ぐぅ!」

タイラントは巨大な手で俺とバジルを纏めて掴んだ。二人揃って身動きが取れなくなったのを良いことに……!

ビュン!

「ぐわぁ!!」
「うぁあ!!」

両目から放たれた赤い光線が俺とバジルを襲った!
更にタイラントは無造作にも俺たちを投げ飛ばした。氷の地面へと叩きつけられた俺とバジルの身体はゴロゴロと転がり、最終的には仰向けに倒れる形となった。

「いてて……あの野郎!調子に乗りやがって……!」
「ぐほっ!くっ……あんな強敵は初めてだ……!」

身体中の痛みを堪えながらも俺とバジルは徐に立ち上がる。そんな俺たちの様子をタイラントが蔑んだ眼差しで見ていた。

「あっははは♪ザマァないねぇ!所詮は威勢だけの虫けらって訳ね!」
「黙れぇ!!」

俺はすかさず左手のショットガンでタイラントを狙い撃ったが、その瞬間、タイラントは背中の翼を羽ばたかせて天空へと飛び上がった。タイラントの純白の巨体が宙を舞い、地上にいる俺たちを見下ろす体勢に入る。

「さ〜てと、そろそろ派手にやっちゃっても良いよね?」

タイラントは上空へ羽ばたいたまま、徐に大きく息を吸い込んだ。
まさか……また白銀の光線を放つ気か!?

「むぅ……かなり力を入れておる。あれは相当強力な攻撃を放つに違いない」
「……分かるの?」
「いや、ただの勘だが……十分に警戒した方が良さそうだな」

少し離れた位置にいる黒ひげがタイラントに対し警戒の意を示した。黒ひげの傍に移動してたメアリーも上空で羽ばたいてるタイラントを見据えてる。
確かに、タイラントの様子は明らかにおかしい。一体何をするつもりなんだ…………?

「ブォォォォォォォ!!」
「!……え?」

……タイラントの行動は想定外のものだった。口から赤い光線を放ったが、その標的は俺たちではなく、果てしなく続く天空だった。遥か彼方へと放たれた光線はやがて目では見えなくなり、遂には大空へと完全に消えていった。
……今のはなんだ?タイラントの奴、一体何を……?

「……あ!空が……!」

すると……空が徐々に赤く染まった。普通の赤ではなく、禍々しい感じを漂わせた不気味な赤色に……!

「あっははは♪皆殺しにしてあげる!」

タイラントは大きく両手を広げた。
その瞬間、俺は嫌な予感がしたが……何もかもが手遅れだった。




「全てを滅ぼせ……破滅の鎮魂曲(レクイエム)!!」



赤く光る無数の魔力の球が……天空から降り注いだ!



ドドドドドドドドドド!!!


「うぉああああああああ!!」
「きゃああああああああ!!」
「ああああああああああ!!」
「ふぬぉあああああああ!!」


俺、メアリー、バジル、そして黒ひげまで……成す術もなく地獄の猛攻を浴びてしまう。光の球が地面に降り注がれる度に、激しい轟音が辺りに響き渡る。


「キッドーーー!!」


遠くから……サフィアの声が聞こえた…………。



***************



「コリック君!塩酸メチルフェニデートを持ってきて!」
「は、はいぃ!」
「リシャスちゃんはガスバーナーの用意!」
「あ、ああ!」
「ピュラちゃんは散らかった物を片付けて!」
「うん!」
「副船長さん!さっき言われた物を持ってきた!?」
「卸した生姜と、すり潰した納豆と、魚の目玉でしょ?持ってきたけど、これが何の役に……」
「無駄口を叩いてる暇があったら手を動かして!」
「す、すいません!」

海賊船内の医療室はもはや戦場と化していた。私の周りでコリック君とリシャスちゃん、そしてピュラちゃんとヘルム副船長さんがてんてこ舞いとなっている。
その人たちの協力を得て、私は迅速に……尚且つ、的確に薬を調合していた。

ただ、当たり前だけど今回は趣味で作ってる訳じゃない。
そう……全ては、あいつを倒す為に……!

そして……私のお爺ちゃん、アルグノフの想いの為にも!

「シャローナ!それで本当にあの怪物を倒せるのか!?あれは完全に生き物の域を超えてるぞ!」
「倒せる……ハズよ!私のお爺ちゃんが記した冊子が正しければ、この薬は間違いなく効くわ!」

不安そうに訊くリシャスちゃんを他所に、私はリシャスちゃんが用意したガスバーナーの火で薬が入ったビーカーを温めた。

あの怪物の姿を見た瞬間には、正直言って全身に寒気が走った。まさか、お爺ちゃんが恐れていた事が今になって起きてしまうなんて考えてもいなかった。

「さっきも外で激しい轟音が響いたからゆっくりしてられないわ!みんな!私は全力で製薬するから、みんなも全力でサポートしてね!」
「はい!」
「ああ!」
「私も頑張る!お片づけしか出来ないけど!」
「……そうだね、やるしかないか!」

人造生物、タイラント…………魔物を殺戮する為に作られた異形生物。自分自身で細胞を組み替えてあらゆる姿に変貌出来る能力を備えている。
注目すべき特徴は、驚異的な再生能力。どんなに深い傷を負ったとしても、自身の細胞を活性化させる事により傷口を塞いでしまう。更に身体を傷つけられても全く痛みを感じない恐ろしい特性を持つ。
もはや何から何まで生き物の常識を覆してる。普通に考えれば、あんな化け物に勝てる道理なんて無い。

でも……私たちならあの怪物に勝てる!
お爺ちゃんが残してくれたタイラントの生態書を参考に作った薬があれば……タイラントに勝てる!
こうしている間にも、船長さんたちはタイラントと必死に戦っているだろう。
だから……私も必死に頑張る!タイラントを倒す為にも、船長さんたちを助ける為にも!


だからお願い……間に合って!



***************



「キッド!キッド!」
「サフィアさん!前に出たら危ないです!」
「でも、キッドが!キッドがぁ!!」

ブラック・モンスターの甲板にて、楓さんに身体を抑えられながらも私は何度もキッドに呼びかけた。
目の前では地獄絵の様な光景が広がってる。天空から無数の赤い魔力の球が物凄い勢いで降り注ぐ。島中には砂煙が満遍なく広がり、キッドの姿さえ見る事が出来ないでいた。

「あっははは♪ウザい害虫はみーんな死んじゃえ!!」

空に滞空してるタイラントは面白げに笑い声を上げている。
何がそんなにおかしいの……!なんでこんな酷い事が出来るの!?

お願いだから……私の大切な人を傷つけないで!!

「もう止めて!止めてよぉ!!」

私の叫びも、魔力の球の轟音によって虚しく掻き消されていく。すぐ傍に居ながらも何も出来ない自分が無力で……とても悔しい。

「さてと、もういいかな〜♪」

タイラントの一言と同時に、降り注がれる球の大群が止んだ。赤く染められた空は少しずつ元に戻り、さっきまでの轟音が嘘の様に消えて一気に静まり返る。辺りに漂ってた砂煙も少しずつ晴れてようやく島が見えるようになった。

「キッド!?キッドは!?」

あの激しい猛攻を受けて無事でいられる訳がない。
キッドは……キッドは何処に!?

「あ!サフィアさん!あれ!」

楓さんが指差した箇所に視線を移すと、仰向けに倒れてる人影が…………!


「……キッド!」


そこには……ボロボロの状態で倒れてるキッドの姿があった。
キッドだけではない。メアリーさんとバジルさん、そして黒ひげさん……島に残ってる人たち全員が倒れていた。

「ち、畜生……!」
「うぅ……」
「くっ……!」
「うぅんぬ…………」

キッドたちは何とか立ち上がろうとするが、相当大きいダメージを負ったのか中々立ち上がれないでいる。

ドスゥン!

「あっははは♪なんて無様な姿なの!ゴミみたい!」

さっきまで上空にいたタイラントが地上に降りて冷酷な笑みを浮かべてる。風貌から醸し出される威圧感がより一層恐怖を漂わせる。

「まっ!私が本気を出した時点で結果は決まったようなものだし〜♪でも安心しなよ。あんたたちの後ろにいるひ弱なクズ共も一緒に殺してあげるからさ!どうせなら一緒に死んだ方が良いでしょ?」
「テメェ!……ゲホッ!まだ勝負は……終わってないぜ……!サフィアには……俺の仲間たちには……指一本触れさせねぇ!」

タイラントの言葉が逆鱗に触れたのか、フラフラになりながらもキッドは力を振り絞って立ち上がり、武器を構え直して戦う姿勢に入る。
キッド……お願いだからもう止めて!これ以上あなたが傷付く姿を見るなんて耐えられない!

「な〜に気取ってんだよ!自分の身体を盾にしてまで仲間を守るとでも言いたいの!?バッカみたい!そうやってカッコ付けるだけ付けておいて、いざって時には尻尾巻いて逃げるんでしょ!?」
「……俺は逃げない!絶対に仲間を見捨てない!」
「そんなボロボロの状態で何が出来るっての!?」
「それでも守るんだよ!俺にとって大切な人たちだから!」

タイラントに罵倒されてるにも関わらず、キッドは長剣の切っ先をタイラントに向けて勇ましく言い放った。

「へぇ〜、そう!?そうなの!?だったら……!」

タイラントはゆっくりと視線を私たちの方へと向けた。その真紅の両目からは明らかに殺意が……!

「目の前で大切な人たちが散り果てる姿を見せつけられて、自分が如何に無力か思い知れ!!」

タイラントはドスドスと大きな足音を立てながらこっちに向かって進んで来てる!両手に伸びる鋭い爪が私たちを標的として定めてる!

「テメェ!止めろぉ!!」

すると、キッドが素早くタイラントの前に立ち塞がった。
しかし、その瞬間にタイラントはニヤリとほくそ笑み……!


「あっはは♪そう来ると思った!」


バリバリバリバリバリ!


「ぐぁあっ!」

タイラントの角から放たれた電撃がキッドを襲った!真正面から電撃を受けてしまったキッドは弱弱しく膝を着いてしまう。
すると、タイラントは手を振り上げて…………!


「その無駄な正義感は弱点になるんだよ!」


キッドに向かって片手を突き出した!手の先には鋭い爪が…………!


「キッドーー!!」

……全てがひどくゆっくり動いてる様に見えた。

メアリーさんは倒れたまま何かを叫んで手を伸ばしている。
バジルさんは懸命に立ち上がろうとしたが思うように動く事が出来ないでいる。
そして黒ひげさんは悔しそうな表情を浮かべている。
私の傍にいる楓さんはキッドを助けようと手を伸ばしたが、当然届く訳がない。

この場にいる全員が一斉に動き出したが…………時既に遅し……。











グサッ!!











「ガッ!……グハァ!!」

……頭が真っ白になった。私の目の前では絶望的な惨状が……!

キッドが……キッドがタイラントの爪に突き刺されてる……!
鋭い爪がキッドの身体を貫き、背中から突き出た爪からは夥しい量の血が…………!

「……ガッ!……あ、あ、あぁ……!」
「……死んじゃえ!」


バシュッ!!


勢い良く引き抜かれたタイラントの爪が斜め上に振り上げられ、非道にもキッドの身体を斬る。真っ赤な血が飛び散らされ、タイラントの爪に付着された。


「……キッド……!」


震えた声で呼びかけると、キッドは私の方を振り向こうとしたが、両手に持ってた長剣とショットガンが落とされて…………!


「……サフィ……ア……!」


こちらに振り向く事も出来ずに……前方へと倒れてしまった…………。


「……あ……ああ……!」


私の大切な人の身体から流される血が……氷の地面を真っ赤に染める……。


「……いや……いや、いや!」


目の前の悪夢が……私を絶望の底へと突き落とした…………。


「いやああああああああああああああああ!!!」
12/11/20 00:04更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
感想欄にてタイラントについて色々と訊かれてるので此処で回答します……。
確かにタイラントの名前はバ○オハ○ードから取りました。今回の話のラスボスとして人ならざるものを想像した結果、何故かタイラント(本家)の姿が思い浮かんでしまいまして……。

さて、この連載もいよいよ残り僅かとなりました。あと三話投稿して終了する予定です。長いような短いような……時が経つのは早いですね。

そして次回でいよいよタイラントとの死闘に決着!
タイラントに勝てるのか!?シャローナが作ってる薬とは!?
そして……キッドの運命や如何に!?

では、読んでくださってありがとうございました!

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