連載小説
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第2話「その依頼、難題につき」
「この植物はな、
西の山脈にあるウトロ山の標高がかなり上の方でしか見られん。
その植物の枝の先から枝1本に1枚づつ。
いいか、1枚づつだけ採取する。
それをそこにある麻袋一杯に積んで来てくれ。
‥おい、目が点になってるが聞いてるか?」

つまり、だ。
これと同じ葉っぱの木、それの各枝から葉っぱを一枚づつ「だけ」取って
この無駄に大きな袋を一杯にして来い‥と。
正直、これは金貨5枚じゃあ割に合わない気がする。
しかしギルドの依頼書を鼻息荒くひったくって来た手前、
そのまま引き返すのも私の意地が許さない。

「良いわ、その依頼を受けましょう」
そうかい、それは有り難いと不適な笑みを浮かべたあいつは、
きっと腹黒い悪徳商人に違いない。
夜には貴族相手におべんちゃらでも使って
妙なものを売りつけているに違いない。


──


──西の山地、ウトロ山へは盗賊や魔物娘、
場合によっては冒険者がパーティーを組むなんて時もある
「人間達にとっては」難しい所だそうだ。
だけど私にとっては裏庭同然の場所なので
顔見知りのワーウルフとかけっこしながらのお遊びでも
充分にたどり着ける。
そう、たどり着くだけなら。

うーん、これはひょっとすると金貨10枚でも良かったかもしれない。
山の木々なんて見ればそこらじゅうにあるけれど、
これと同じ葉っぱの木はなかなか見ない。
それに見つけても、その木から取っていい葉っぱはほんの少し。
麻袋は‥まだ全然膨れてもいない。
おまけに‥寒い。
だんだん目標の木が高い所に生えている事に気付いて、
二日目からは厚着をし始めた。

「高所だからと思ってそれなりの格好はしてきたと思うんだけど‥
それでも寒いものは寒いなぁ‥」
私達リザードマンやサラマンダー、ラミアやメドゥーサなんかの種族は
めっぽう寒さに弱い。
これは鍛えたからってそうそう克服できるものでもなく、
本能で弱いのだから仕方が無い。
おかげで頭の切れる冒険者達は
冬場を狙って私達に勝負を挑んでくることが多いが、
そういう手合いの輩に限って弱い。
寒さで鈍った私ですら一蹴でカタが付いてしまうのだから、
全開の夏場なんてどうなってしまうんだろう?
それでも冒険者を名乗るあたりが
浅ましいというか‥。

三日目は革鎧の替わりにインナーを増やし、
四日目にはタイツと毛糸のぱんつまで穿いた。
誰かに見られたら恥ずかしいなんてもんじゃあないが、
こんなもんでも穿いていないと寒くてたまらない。
五日目にはスカートも辞めて厚手のワークパンツに履き替え、
六日目には蚤の市で「ドカジャン」なる上着にまで手を出してしまった。
動きやすいし暖かいから良いのだけど、
日を追うごとに着膨れしてゆく自分を見て物悲しくなってしまう。
ふと鏡を見るとそこには、ニットの帽子を目深に被った
地味なとび色の上着に鈍色のズボン、同色の尻尾包み。
おまけに洒落っ気も無いワークブーツで完全防備のリザードマン。
──乙女のする格好じゃあないよね、これ。


約束の日まであと1日、
麻袋は7割方にまで埋まった。
あと半日もすれば充分な量が採れそうなのだけど──
寒さと疲れから来る眠気の方が勝り、
ついに私は山の中で軽い冬眠状態に入り
約束の日を寝過ごすという大失態を犯してしまった。
12/01/04 02:25更新 / 市川 真夜
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■作者メッセージ
六日目の午後辺りで電動ピックハンマー持たせてみたら
工事現場にいそうな雰囲気丸出しなイメージです。
おっと、花も恥じらう乙女でそんな想像をしてはいけまsはぶん

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