連載小説
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第1話「その店主、偏屈につき」
私ことアレクシス・バジリスは頭のてっぺんから
尻尾の先までリザードマンと呼ばれる種族だ。
はるか昔は人間と私達が争っていた時代もあったというが、
少なくとも私の周りではそんな雰囲気はこれっぽっちも無い。
体育の授業以外は退屈だった学校で
そんな歴史を学んだっけな、という程度だった。

それでも「戦うこと」は町の外──城壁の外では
物盗や強盗といった悪漢がいて、
私や他の戦闘に長けた種族や人間が隊商の護衛をしたり
‥私はまだ経験が無いから人づての話だけど
「戦争」というものが今でもどこかで起きているのだそうだ。
だから、私達はいろいろな所で毎日の食い扶持を稼げている。
友人には頭の良い者がいるが、彼女達は彼女達で
技能に見合った生活と稼ぎをしている。

‥実を言うと私自身「お金」というものにあまりこだわれない。
町の外に出て獲物を狩り仕留めたりしていれば食事には事欠かず、
私一人ならそれで充分生きていけるから。
だけど、人間はそうはいかないようで
戦うのが得意な者達に守られてでも儲けたい、とか
危険を冒してでも財宝を手に入れたい、とか
正直、よくわからない。
あ、でも「より美味しいもののために良い食事を作りたい」のは
すごくよくわかる。
食べるものは美味しいものが良いに決まっている。

今日も「美味しいもの」を食べるために
胴巻きの中身を覗いたら、昨日奮発しすぎたのか
少し‥どころか全然足りない。
好きな時に好きなものを口にできないのはものすごく気分が悪い。
仕方が無いからギルドで小銭稼ぎをしよう‥って
「西の山で葉っぱの採取、金貨5枚」なんて破格の依頼につられて
紹介された仕事の先がここ。

「OPEN」

何も書かれていない扉にはたった一枚の掛け看板。
しかも「営業中」って。
ここは何屋さんなの?
店の前で何かと考えても始まらない。
見た目以上に重い扉を開くと、カウベルがカランと乾いた音を奏でる。
「いらっしゃ‥おう、一見さんか?」
店の奥にある古いカウンターにいた男‥青年が顔をこちらに見やる。

「ギルドの依頼で来たの、私はアレクシス。アレクでいいわ」
簡潔に自己紹介と用件を言うと、
彼はカウンターの内側から何か木の葉と葉屑のような物をいくつか出した。
「俺の名はリンでいい。仕事の内容はこいつの採取、期限は今週中」
木の葉を一枚摘んで見てみても、何の葉かはよくわからない。

「ギルドに依頼した内容の詳細について打ち合わせしたんだが、良いか?」
薬草か何かの類なんだろう、それを集めてくるだけ。
多分その程度だと思っていた私は、
ギルド依頼書の内容を熟読するべきだったと──この後後悔する。
12/01/04 02:24更新 / 市川 真夜
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■作者メッセージ
アレクシス(アレク)は食べる事に対して
ちょっとだけこだわりがある以外はおおむね‥多分おおむね
普通のリザードマン種です。
ちっぱいとか言ったら蹴っ飛ばさrげふん

「 黙 れ 」

‥oh...

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