連載小説
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冒頭「この国家、平穏につき」
それは、ずっと昔のことだった。
魔王の代替わりによって地上の魔物が全て女性化してしまい、
人間の男性を伴侶として求め、愛し合うようになったという。
しかしこれを人間達の集いである「教団」は
不純で悪徳な行為だとし、魔物娘だけでなく
その伴侶となった男達に対しても弾圧すべく力を注いだというが──
いつしか人間のみが暮らしている場所は日々減少の一途を辿り、
それすらも存続が危うくなっている。

それでも「教団」は己が正義と貫き通し、
「反魔物娘領」なる地域を設けてから一層意固地になってしまった。
人間至上主義と化してしまった教団は、軍という名の暴力になり替わり
もはやいがみ合いや取っ組み合いでは
収まりがつかない所まで行き着いてしまっている。
そしてその矛先は近隣の「親魔物娘領」へと向かわれており、
そこに住む力ある魔物娘達は自衛とはいえ望まぬ戦いを強いられていた。


悲しいかな、それが今の時代である。


──

数十年前から港湾業や重工業で栄えた北部と、
百を超える昔から肥沃な大地に恵まれて幅広い農業を営む南部。
そして南部と北部を繋ぐ、いくつもの大きな街道を持つ都市群。

東方には大河が北部の海へと悠然と流れ、
西方では寒々しくも雄雄しくそびえ立つ山脈──。
それぞれ相反する地形に挟まれたこの国は、
これまで幾度と無い他国の干渉や教団との戦争に晒されても侵させる事無く
こうして平穏無事にいられるのは奇跡に近い。
その要因として魔物娘の力があったとか新技術を得たとか噂されているが、
答えは誰も知らない。


そんなこの国で創立期からある都市、その中でも一際古い町並み。
古めかしくも重厚で、そこはかとなく歴史を感じさせる石壁によって
大雑把に区切られた一角にある大通りもまた、
始終賑やかな広場へ向かって広く明るく延びている。

──ところが。
その大通りから路地を経て一つ二つ奥へ入ると、
それまでの華やかさや騒々しさが
まるで別次元のように感じてしまうほど閑静な‥
もとい、殺伐とした空気になっている裏通りに出てしまう。
治安は良いので悪漢やごろつきは昼間は姿を見せないものの、
それだって夜ともなればわからない。

そんな裏通りの角地にいつから商いを始めているのか、
時代を感じる小さな建物があった。
古ぼけた扉には「OPEN」の表札のみ、一体何を扱っているのだろう?
──彼女達は、足を踏み入れる。

「いらっしゃい」
無愛想な店主、不思議な商品が所狭しと並べられた内装。
これは、その国で「商い事」をする人間と
彼をとりまく人々、そして魔物娘達のお話。
12/01/04 02:24更新 / 市川 真夜
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■作者メッセージ
お目汚しではありますが、どうぞ。

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