連載小説
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第3話「その頭領、脳筋につき」
‥目が覚めたら、ベットの中だった。
「あれ、ここは?」
ふと周りを見渡すと、私が泊まっている宿屋でも
ギルドがある酒場の仮眠所でもなく
どこか知らない民家だった。
そして。

「ン馬ッ鹿もーん!!」
聞きなれた声と共に現れたギルドのボスの声、
そして無防備な私の顔面には鉄拳。
傍目にはきっと「めこり」という音が聞こえたに違いない。
「モゴモゴ‥」
顔がめり込んでいてまともに喋ることができず、
私は意味不明な音をさせるばかり。

「アレーク?おめぇさんはギルドの心得をもう一度
読んで聞かせる必要があるのか?あーん?」
「モガモガ‥」
ボス、それは不要です。
私のミスで依頼を達成できなかったのは
申し訳ありませんが──
せめて口がきける程度に殴って欲しかった。

「アレクよ、おめぇさんの懐事情が寒かったのもわかる。
この仕事がぱっと見で美味そうなのもわかる。
おめぇさんが可能な範囲で準備したのもよぉーっくわかる。
だがな、期日までに業務を終わらせられなかった事は
それらを合わせても何の言い訳にもならん!
それはわかっているな?」
仰るとおりです、ボス。
とはいっても喋れないので頷くだけだ。

「先方には話をして今回の依頼は下げさせてもらう。
そうすればこの依頼は『無かった事』になる。
ギルドとしては旨みのある依頼だったが、
おめぇさんがそれじゃあ他の奴は受けねぇ。
おまけに『こーゆうミス』があったんじゃあ
ギルドとしても看過できねぇ。
いくらおめぇさんでも、俺の言いてぇ事はわかるな?」
再び、頷く。
しばらくはギルドに顔が出せそうにも無い。

「──あぁ、ちょっといいかな」
別の声、確か依頼者のリンだったか。
「そこの姉ちゃんが採ってきたモノを拝見したい。
それの内容によっちゃあ依頼は完了でも良い」
「そうは言うがね、店主」
店主の意見にボスはあまり乗り気ではない。
そりゃあそうだろう。
どんな理由であれ、自分の所で出した不始末は
誰かに借りを作ってまで拭われるのを良く思わないボスだ。
このリンという男はわかっていない。
ギルドの面子とはそういうものなのだと。

「だったらこうしよう。
『本依頼に対しギルドは期日面で難度の高い要求と判断し
追加料金を依頼者より徴収する』
──確かギルドの規約で契約上の難度について
ギルド側が状況次第で依頼額より多く請求できるってのが
どこかに書かれていたよな?
確か──38項か39項、
『契約後の依頼金について』のくだりだったか?」

私の知る限り、商売をする奴というのは
支払う金をより多く出す事を渋る事が当たり前だと思っていた。
しかしこの男は何を考えているのか、
割増しでも良いから取引を続けたいらしい。
一体、あの葉っぱに何があるんだろう?
12/01/04 02:25更新 / 市川 真夜
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■作者メッセージ
「めこり」のコマは
某「メガネのいじめられっ子」が
某「オレンジの長袖トレーナー愛用のいじめっ子」に
顔面パンチを食らう辺りを想像していただければ
よろしいかと思われます。

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