連載小説
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TAKE17.8 発見! 因縁の相手!
『決着! 決着ゥゥゥゥゥゥゥ!』

 ココナッツツリー・コロセウムに実況の声が響く。
 つい先程まで行われていたのは、最終Dブロックの第一試合。対戦カードは人間の男女二人組でその名の通り婚姻関係にある『榎木夫妻』と、魔物三人にインキュバス一人の四人組『魔界書房トリアメギド』。実力としてはほぼ互角であった両チームの戦いは熾烈を極め、毎度先の読めない壮絶な戦いが繰り広げられた。
 結果、死闘を制したのは『榎木夫妻』であった。


「いやぁ〜とんでもない死闘だったわね」
「アニメでやれって感じでしたね……」
 観客席にて両チームの死闘を目の当たりにした雄喜と克己の言葉は、試合を観戦した観客ほぼ全員の内心を代弁したものと言って過言ではなかった。
「まず何がとんでもないって、榎木のアカリちゃんよ。何あの子、私よりよっぽどやり込んでるじゃない……」
「純粋な武力で言えばトップクラスかもしれませんね。メタも刺さりやすいファン構築ではありますが……」
 比較的熟練者である筈の二人がそこまで絶賛する榎木アカリは、その名の通り夫婦チーム『榎木夫妻』の片割れである。このご時世では比較的珍しくなりつつある人間女性であるが、その実魔物並みの美貌と身体能力の持ち主として一時期名を馳せた人物でもあった。
 というのも……
「榎木アカリ……聞き覚えのある名前だったんで調べてみたんですが、緋殿(ひでん)工科大学の学園祭でハッキングされて暴走した4mのバッタ型ロボットを木刀一本で破壊したのが彼女みたいですね」
「……実はあの子の正体、人間じゃなくて人化した落武者かデュラハンって可能性ない?」
「さあ、どうでしょうね。仮にそうなら素性が割れてると思いますが。わざわざ隠す必要もないでしょうし。それと、夫の方の月航(アポロ)って奴も大概とんでもない男みたいですよ」
「……まあ、名前がまずとんでもないわよねぇ。月に航るでアポロって……」
「その点も踏まえて話します。なんでも奴ら、過去にテレビ番組へ出演したことがあるようなんです。ヒノマル放送の『うぇるカム新婚っ!』って番組なんですが」
「ああ、確か平成後期に『同一司会者でのトーク番組の最長放送』でギネス入りした、あの有名なヤツ?」
「ギネス云々は初耳ですが、ともかくそれです。公式が過去回の一部をネットで公開してまして、その中に奴らの出てる回があったんですよ」
「へぇ〜。そういうのに出るようには見えないけどねぇ……」
「試合中の挙動から察するに他薦ですかねぇ、この大会にしてももしかしたらソレかもしれません。……で、動画の内容についてですが、そもそもまず奴ら夫婦は出会いの段階からして普通じゃなかった」
「出会いから?」
「ええ、出会いからです。四年前の冬、夜道を歩く月航はふと見かけたアカリの美しさに見惚れ、声をかけようとしたそうです。然しその刹那、彼は運悪く『救済の摂理』の関係者に襲われてしまう」
「きゅ、救済の摂理? なんでまたあの子がそんな奴らに……」
「さて、それは調べてみなきゃわかりませんが……『救済の摂理』はどういうわけか月航を殺そうとした。そこで助けに入ったのが……」
「アカリちゃんだった?」
「如何にも。アカリは瞬く間に『救済の摂理』を退け月航を助け、血を流しながら名も告げず立ち去ろうとする。その姿に月航は心を奪われ、満身創痍の身体で彼女を追った。そして彼はアカリに告白する……」
「なるほどね。そこから二人は恋仲になって結婚――
「してないんですよ」
「え?」
「いえ、最終的に結婚はしたんです。然し奴らは恋仲になんてなっちゃいない。何を言ってるんだかわからないでしょうが、僕自身も若干理解が追い付いてないもので……。
 月航の告白に、アカリはこう答えたそうです。『私と結婚してくれるなら付き合おう』と」
「……? 待って? 待ってゆーちゃん、色々おかしくない? なんで? っていうか何それ? 結婚したら? 付き合う? え? 普通付き合ってから結婚じゃないの?」
「僕も最初はそう思いましたが……奴らの場合は違ったようです。まあ、告白すらすっ飛ばして肉体関係から始まることもザラな人魔カップルならまだしも人間同士でそんな、ねえ……」
「魔物からしたって正気疑うわよ、それは。っていうか魔物だって普通の恋愛ぐらいするし。で、それからどうなったの?」
「結局その後離れ離れになってしまったものの、二年後に再会……晴れて結婚に至ったそうです、お互いの事をよく知らぬままに。
 ……とまあ、これだけでも番組史上他に類を見ない異色すぎる二人なんですが、奴ら自身も揃ってとんでもないらしく……」
「と言うと」
「有り体に言えば能力が別ベクトルで魔物並みですね。アカリは先程も言った通りの身体能力に加えどういうわけか身体も頑丈で、負傷しこそすれ医者の世話になったことはなく、更にはかなりのオタクでゲームの達人らしいです。
 対する月航の方はサイクロプスやグレムリン並みの技術力と白澤に匹敵する知識を持ち、八大サバト系列の一次団体から一目置かれ、三次団体が平伏する程度には魔術にも詳しいとの事。しかもそれら殆どは独学で身に着けたとか……」
「えぇー……そんなことってある?」
「あるんじゃないですか、よく知りませんけど。何なら夫婦揃って白山羊様から直々に弟子にならないかとスカウトされたこともあるそうです」
「し、白山羊様が直々に……?」
「あとデルエラ様とも交友があるって話が」
「閣下と!?」
「動画のコメント欄に書いてあっただけなので真偽はわかりませんがね……。
 何にしても奴ら夫婦があらゆる意味で規格外なのは間違いないでしょう。そりゃあLeaf側であんな大勝負繰り広げたって違和感なんてありゃしない」
「寧ろ負けたとは言えあの夫婦をあそこまで追い詰めた『魔界書房』も大概化け物よね。いやまあ、実際化け物っていうか魔物なんだけど。えーっと、確かヴァンパイアとヘルハウンドに……」
「マッドハッターにインキュバスですね。調べた所、元々はヴァンパイアの高野ミト、マッドハッターの古屋シズカ、ヘルハウンドの才川カエデから成る歌手・女優三人組のユニットで、今大会出場に際して芸人で農家のインキュバス、内山ケイスケが急遽加わって現行の四人になったようです」
「なんで百姓芸人加わってんの……」
「さて……粗方腕を見込まれて戦力増強の為に、ですかね。実際、夫婦に勝ったのは内山だけだったわけですから。もしかしたら内山が他の三人に遊侠王を教えたのかもしれません」
「その仮説が本当なら百姓芸人はとんだ化け物だわね。単独でエントリーしてたらあいつが優勝してたんじゃないの?」
「可能性はあると思います。そういう意味では運が良かった……」


 程なくして続くDブロック第二試合が開かれた。準々決勝に進む最後の一組を決める重要な試合である。
 対戦カードは魔物四名からなる『ケルビム』と、幼児体型の魔物五人からなる『十五夜ヒマリ親衛隊』。双方共に然したる特徴もない、このご時世であれば比較的有り触れた魔物たちの集まりに過ぎず、実況担当の店員からも『他が濃すぎて地味な分勝負内容で魅せてくれることに期待したい』とまで言われてしまっていた。
 『親衛隊』のリーダーであるレッサーサキュバスの十五夜ヒマリはこれをチームへの著しい挑発・侮辱行為であると拡大解釈し『そこまで言うならば面白い試合を見せてやる』と切り出し『当チームはこれより準決勝までの間、特殊ルール設定のもと試合に出場する』と宣言した。
 その特殊ルールとは……
  ・各試合五回、計十五回の対局をメンバー一人、デッキ一つのみで戦い抜く。
  ・試合を行う度に自身の対局開始時のライフは半減し、また開始時に持つ手札は一枚ずつ減少する。
  ・5ターン以内に勝利できない場合強制的に敗北とする。

 逆転条件と見紛う程に過酷過ぎる特殊ルール……運営は当初、その申し出を却下する予定であったが、交渉と審議の結果、特例措置として今回のみ十五夜ヒマリの『特殊ルール』を例外的に実施すると宣言した。
 まさかの展開に、観客たちは驚愕しつつも期待に胸を膨らませていた。
 『あの十五夜ヒマリとかいう奴、とんでもないことを言いだしたな。自ら大見得を切る以上、凄まじい実力者に違いない。これは本当に面白い戦いが見られるかもしれないぞ』……誰もが『親衛隊』を率いる無名のプレイヤー、十五夜ヒマリの繰り広げる極限状態での名勝負を心待ちにしていたのである。
 然し、そんな観客たちの期待は早くも裏切られることとなる。


 各試合全ての対局十五回を戦い抜くメンバーは、リーダーのヒマリではなく別の人物だったのである。その人物とは『親衛隊』サブリーダー格のグレムリン、トラケミー。当然観客席からは不満の声が上がった。『お前が出るんじゃないのか』『手下に丸投げするな』『お前が出ろ』……口々に言葉を浴びせる観客を、ヒマリは鶴の一声で黙らせる。
 幼い少女らしからぬ気迫で観客たちを黙らせたヒマリは、続けて以下のように述べた。

 『皆様、ご心配には及びません。この者は我が隊の中でも屈指の実力者です。後悔も失望もさせません』

 ヒマリの言葉には妙な説得力があり、観客たちは納得せざるを得なかった。
 そして始まるDブロック第二試合。波乱の幕開けとなった勝負の行方は……


『決着ゥゥゥゥゥ!
 勝者は「十五夜ヒマリ親衛隊」所属! "ワケありのカリスマデュエリスト"、トラケミー選手だぁぁぁぁぁぁ!』

 Dブロック第二試合を制したのはトラケミーであった。

『すげぇぇぇぇぇ! すげえぞぉぉぉぉぉっ! こんなっ! こんなことが有り得るのかっ!? なんとトラケミー選手、初期ライフ4000かつ初期手札四枚のハンデをものともせず「ケルビム」の四人を相手に制圧ワンキルで五連勝を決め込みやがったっ! 十五夜選手の言葉に偽りなし! これは今後も期待できそうだぜーっ!?』

「……とんでもない奴ね。ライフ半分はともかく、手札一枚減らした状態でワンキル決めちゃうなんて普通じゃないわ。幾ら高打点ワンキルが得意な"メタルサイバー"だからって……」

 克己の言う通り、トラケミーの使う【メタルサイバー】は遊侠王のアニメ作品に登場したデッキであり、未来的な動物型ロボット然としたユニットのデザインや性能に加え、劇中で同デッキを使用したキャラクターの活躍も相俟って今尚根強い人気を誇っていた。
 ゲーム上では豊富なサポートカードや切り札として設計された大型合成ユニットによるパワフルな戦い方を得意としており、圧倒的な攻撃力を以て一撃で相手を倒す"ワンターンキル"戦術で有名であった。

「本当、アニメでやれって思いますよ。ちょうどアニメ出身のデッキなんですから」
「アニメだとしてもまともな出番ないレベルでしょあれ。どんな相手だって一撃で仕留めちゃう展開なんて、精々チート主人公に自己投影してイキり散らかしたいだけの、努力描写アレルギー拗らせた浅ましい底辺オタクにしかウケやしないわよ」
「それもそうですね。『合戦は準備が全て』なんて格言もあるようですが、それにしても……」
「何よりあんな単純作業の繰り返しなんて絶対当人楽しめてないと思うわ。試合中の表情だっていかにも『無理矢理やらされてる』って感じだったし」
「ああ、気付いてましたか」
「気付くも何も、一目瞭然じゃないの。なんていうか、金の為に仕方なくっていうか、苦しみながら嫌々せざるを得ないような、そんな感じよね。十五夜ヒマリってのもなんだか怪しいし……」
「十五夜ヒマリ……というよりは『親衛隊』そのものがかなり怪しい組織だと思いますよ。十五夜ヒマリ、そしてトラケミーについてはただ『何かはよくわからないが何となく怪しい』ぐらいの認識ですが」
「あいつらに付き従ってた残りの三人は違うっての? 」
「ええ。正直僕自身驚きましたよ。何故あいつらがここにいるんだ、他の奴らはどうしたと……そう思わずにはいられなかった。最初は気のせいかと思ったんですが……ファミリアに魔女、レッドキャップと、チーム説明欄にあった種族まで一致してしまったものだから嫌でも認めざるを得なかった。あれは間違いなく"奴ら"だとね」
「なーんか、いかにも見知った顔と再会したって感じの口ぶりね。まさか知り合い?」
「或いは、そんな定義もできるかもしれませんね。と言って、親しい間柄なんかじゃなく、寧ろ刑法とガイドラインが許すなら今すぐにでも皆殺しにしたい……或いはこの世から消し去ってやりたいほどの、憎くて仕方のない連中ですがね……」
 男優は淡々と、正気を欠いた精神異常者の如き表情で物騒極まりない単語を紡ぐ。
 その様子を目の当たりにした毒虫は、本能的な恐怖を感じる。例えるならば、ホラー映画に登場する、未知なる異界の化け物に遭遇した時のそれに近いだろうか。
 そしてまた、彼がそれほど憎んでやまない小柄な魔物というと、克己には一つ心当たりがあった。うろ覚えだが主要な面子の種族も『親衛隊』の残り三名と一致する。ともすれば間違いないだろう。
「ねぇゆーちゃん……あんたの言うその"奴ら"ってまさか……」
「ええ、お察しの通り……FFC団の幹部格です」

 FFC団。
 カジョール・サバト傘下の魔物学校に在籍しその庇護下にありながら、いじめや盗みなど魔物にあるまじき悪行を繰り返し、救いの手を差し伸べようとした新米教師を自殺に追い込もうとしたこの不良グループは、男優・志賀雄喜にとって憎んでも憎み切れない因縁の相手であった。

「克己さんはご存知でしたっけ、うちのボスの過去」
「ええ、聞いたことはあるわ。確かサバト傘下の魔物学校で教壇に立ってらしたって」
「です。より厳密には、元々ルーニャ・ルーニャ・サバト系列の三次団体にあたるカジョール・サバトで事務や経理、果ては広報なんかをやってた所、喋りの上手さと知識量を見込まれて組織傘下の魔物学校で教員をやらないかと声をかけられたそうで」
「最初から教員じゃなかったわけね」
「ええ。勧めてくれたのが恩師の方だったことからボスはその申し出を快諾、大学の教育学部に入って教員免許を取り、魔物学校で教員としての経験を積んでいく。そしてある年、初めてクラスを受け持つことになった……」
「けどそのクラスに奴らが居たせいで柳沼先生は退職に追い込まれた、と」
「当人が語る所によれば『教え子を甘やかした自分が悪い。退職も自殺も責任を取ろうとしただけだ』との事ですが、僕はどうにも奴らの手で退職と自殺に追い込まれたようにしか見えませんでね」
「それは誰でもそう思うんじゃないの。仮に社長も悪かったとしてあいつらが今までやってきたことがチャラになるわけじゃないし。よく知らないけど結構シャレにならないこともやってきてるんでしょ?」
「それはもう。法律には詳しくありませんが、あれをやったのが人間なら懲役十五年や二十年は行くんじゃないですか? 頭の悪い言い方なのは百も承知ですが……あいつらが実質お咎めなしなのは、結局魔物だからなんじゃないですかね。
 『魔物は例外なく清い心を持ち悪意などない。
  よって魔物が罪を犯すことはなく、仮に罪を犯したとしてそこにはやむを得ない事情や正当な理由がある。
  なればこそ魔物を犯罪者として裁く法などあってはならない』……今の世の中はそういう考えが主流になってるんだと思いますよ」
「要するに魔物性善説の浸透……親魔物派が主流になった社会の弊害よねぇ。魔物を不当に差別しちゃいけない、魔物を理解して尊重しようって考えは当然あって然るべきだしイチ魔物としては有り難いけど、必要以上に甘やかすのは違うでしょ、と。魔王様だって『人類よ支え合って仲良くしましょう』とは言ってても『平伏しなさい』とか『崇め奉り媚び諂いなさい』『特別扱いして甘やかしなさい』なんて一言も言ってないじゃない? しかもあっち方面じゃ親魔物国でも人魔問わず犯罪者は等しく処罰されるっていうし」
「結局地球人類が魔物に対して甘すぎるだけなんだよなぁ……FFC団の奴らを退学処分にしたカジョール・サバトも親魔物派気取りの木っ端政治家から叩かれてたりしましたし」
「あー、『親善試合はお遊びかな』発言の下東? あれはダサかったわねー。親魔物派の善人アピールして好感度上げようって魂胆が見え透いてたもの。ま、結局バレて火に油注ぐ結果になったのは傑作だったけど」
「政治家に限らず、魔物に寄り添うフリをしておけば好感度が上がって人気も出るって短絡的に考えるバカは今の世の中特に多いですからね。漫画や映画の製作陣相手に『魔物に配慮した表現を心がけろ』って喧嘩吹っ掛けてる表現規制推進派のクズどもとかもその同類でしょう」
「『悪魔的シリーズ』は悪魔型魔物を貶めてるから云々とかも完全にそれよね」
「ですです。あれの最新作は過激派幹部の悪魔型魔物も監修に参加してるんですがね……」

 ここで二人の言う『悪魔的シリーズ』とは、大手コンビニエンスストアフランチャイザー『TAUSUN(タウサン)』の各店舗で販売されている商品である。『高カロリーで塩分過多だがその美味さ故に健康を度外視して食べ過ぎてしまい、不摂生に走らざるを得ない、まさに堕落へ誘う悪魔の食物』をコンセプトに設計されたそれらは何れも登場当初より根強い人気を誇り、今や『TAUSUN』を代表する主力商品と化していた。

「そういう奴のせいで、心から魔物を愛してて、本当の意味での人魔共存社会を作ろうと考えてる人たちが苦労を強いられてるって思うと腹立ってしょうがないわ」
「ただの民間人にそういう奴らがいるってだけならまだしも、政治や司法の世界もそんな風潮になりつつありますからねー。代表的な事例と言えば、やはり『姫路古書店員監禁事件』ですかね」
「通称『毒蝶の檻事件』ね」
 『毒蝶の檻事件』とは『魔物による犯罪の代表例』として今も語り継がれる有名な刑事事件である。
「事件名からわかる通りそれぞれ犯人はパピヨン……動機については『被害者を夫にしたい欲求に耐え切れず衝動的にやってしまった』と供述……しかも被害者の古書店員は家族に報告もせず勝手に犯人と結婚までしていた……」
「で、納得できない被害者家族が裁判起こしたけど『長い事独身だったなら魔物としてはそういうことしても仕方ないし、被害者も最終的に満足しててお互い愛し合ってるんなら別に犯罪でもなんでもないじゃん』みたいな感じで無罪判決が下ったんだったわね」
「分かりやすく言えばそうですね。家族は控訴するものの不起訴処分……裁判所の判決は当然物議を醸し、あちこちで小競り合いが勃発するわ、この波に乗った『救済の摂理』が信者を増やすわ、何としてでも犯人を罰せんと目論む派閥の一部が犯人の住所を特定して家に火を放つわとろくでもないことばかり……」
「ほんっとろくでもないわよ……同じ虫魔物としてもあのパピヨンはマジで許せないわ。大学時代の親友にパピヨン居たから猶更ね」
「そう言えば僕も『魔界學園』で吹き替えやった時、先輩の女優さんに色々助けて貰ったけどその人パピヨンだっけなぁ……。と言って、じゃあ魔物が人間を襲うことを法で規制すればいいのかというとそうでもありませんからね」
「あら、そうかしら」
「そりゃそうでしょ。そもそも、本当に無理矢理男を襲い、相手の意思も尊厳も無視して強引に夫にしてしまうような独善的な魔物は元来ごく少数派だなんてのは既に一般常識ですし? 原始的な種族ならば襲うこともまた先祖代々続いてきた在り方の一つ……そしてそういう種族は襲ったとしても本能的に夫たる相手を思い遣り尊重することを弁えているもの。それを倫理的に問題があるとかそういう、人間側だけの勝手な都合で否定してしまうのは違うだろうと、そう思うわけです」
「ありがとうゆーちゃん。他ならぬ人間男性の口からそういう言葉を聞けて、魔物として嬉しく思うわ」
「それほどでもありません、僕はただ一般論を述べただけですよ。
 『双方が身勝手であってはならないが、双方が不自由であってもならない』……一定のルールは必要だとしても、行き過ぎたルールの所為で性分に合った生き方ができないってのも本末転倒ですからね。ただ、だからこそ『不自由をもたらす身勝手な奴ら』は排斥されねばならず……それはFFC団の奴らにしても例外ではない……奴らは一度、合法的な手段で叩き潰されなきゃいけないんですよ。わかりますね、克己さん?」
「……ごめん、ちょっと何言ってるかわからない。冗談抜きに」
「すみません、言葉が足りませんでしたね……。試合の流れから察するに、準決勝での貴女が戦うのは恐らく十五夜ヒマリ親衛隊(奴ら)です。まあ、他のチームになる可能性もあるでしょうが……ともかく、相手が誰であれ勝って下さい、ということです」
「……あぁ、所謂『決勝で会おう』ってヤツね。ええ、勿論そのつもりよ。元々私たち、それが最終目的だったものね。ただ、それなら……」
「無論、僕も誰が相手であろうと負けはしません。勝ち残って必ず決勝に進みます」
「もし進めなかったら?」
「考えたくありませんが……次のデートは克己さんの言う事なんでも聞きますよ。所謂奴隷って奴です」
「へぇ〜……それはまたなんとも魅力的ねぇ。なら私もそうさせて貰うわ。決勝前に負けたら、次のデートではゆーちゃんの奴隷になってあげる……」

 斯くして改めて約束を交わした二人は、それぞれ次なる試合へ向けた準備に取り掛かる。
21/07/29 21:41更新 / 蠱毒成長中
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