連載小説
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TAKE17.7 華麗! 砂川克己大活躍!
『決着ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!
 Cブロック第一試合を制したのは「ハイブリッド開闢隊」の面々だぁぁぁぁぁ!』

 ココナッツツリー・コロセウムに、実況担当の声が響く。
 Cブロック第一試合……その対戦カードは、人間の男二人と魔物一人から成る三人組のインディーズバンド『ハイブリッド開闢隊』と、ミュージシャンとイラストレーターの人間男性二人組である『魔美肉シスターズ』……双方ともに、人数の少なさを補って余りある曲者揃いのチームであった。

「なんというか、拍子抜けだったな……」
「うん、大会環境ってもっと厳しいイメージだったけど、思いのほかあっさり勝てたっていうか……」
「あー……まああのオッサ、じゃなかったお姉様がたは例外ってカンジだな……他のはつえーよ、多分」
 『ハイブリッド開闢隊』は、男子高校生の千代田カゲマル、カゲマルの同級生にして友人でもある龍の久川ミコト、国籍不明の野生児でフリーター上がりの動画配信者である志手リュウヤの三人から成る便利屋『金剛商会』の面々が音楽活動を行う際の名義である。何れも特殊な生い立ちの彼らは便利屋として様々な依頼をこなす傍ら趣味としてバンドを結成。紆余曲折を経て現在では動画配信者としても活動しており、一部界隈では熱狂的な人気を博すまでになっていた。

「あぁん、負けてしまいましたわお姉様ぁ〜ん」
「ええ、けれど貴女は頑張ったわ……。後で沢山可愛がってェ、あ・げ・るッ❤」
「んン〜お姉様ぁぁぁぁん❤」
 ……上記のような言葉を中年男の声で交わす可憐かつ妖艶な美女の姿をした二人組『魔美肉シスターズ』。その風貌や挙動も相俟ってレッサーサキュバスかアルプに見えなくもない同チームだが、その正体は先述の通り魔術で美女に化けた中年男である。ミュージシャンの火焔菜(カエンサイ)マリオとイラストレーターのイノガシラ雷風(らいふう)。苦難を乗り越え栄華を極めていた二人はある時、何を思ったか『美少女になってみたい』と思い立ち魔術で美少女としての姿を獲得。そのままアイドルユニット『魔美肉シスターズ』として音楽活動を開始した……という経緯の持ち主であった。尚"魔美肉"とは"魔術を用いて美少女として受肉する"の意味であり、まさに二人の経歴を的確に表した単語と言えるであろう。




「……なんていうか、コメントし辛いような、微妙な勝負だったわね」
「コメントし辛いってことはないと思いますよ。盛り上がりには欠けてましたし、微妙なものではありましたがね……」
 観客席で観戦を終えた克己と雄喜のCブロック第一試合に対する見解は『酷評こそしないが賞賛もし難い』という、聊か否定的なものとなった。
「『開闢隊』は良かったんですよ。デッキ構築もしっかりしてたし、悪質な遅延や試合の質を下げるような妨害行為もなかった」
「まあ四回戦で久川ちゃんが手札事故起こして負けてたけど、寧ろあれだけ色々動けるのになんで事故起こしてないんだか不思議なくらいだったし」
「問題はだいたい『魔美肉』の方にありましたね。音楽グループ『BEAT&DRAMATIC』で一時代を築いた火焔菜氏に、平成の時代から数多くの同人誌やアダルトゲームで活躍したイノガシラ先生……クリエイターやエンターティナーとしては間違いなく超一流なんですが、遊侠王のプレイヤーとしては二流だったとしか……」
「期待してたんだけどねぇ。特に私なんて中学高校と『B&D』の大ファンで、毎回CD買って何度も聞いて……『チダマリ』始めたのもほぼマリオさんの影響だったのよ。雷風先生はあんまよく知らないけど、マリオさん共々今じゃバーチャルライバーになってバカ売れ、『魔美肉』名義で音楽活動もしてるっていうから期待してたんだけど……あれじゃ二流どころか三流って言われても仕方ないレベルよね。申し訳ないけど……」
 二人、特にマリオのファンである克己までもが『魔美肉シスターズ』の二人についてこうまで低く評価したのには幾つかの理由があった。中でも最たる一つは二人の用いたデッキであった。
「火焔菜氏のデッキは酷かった。まずカードが古すぎる。十三期の終わり頃だってのに彼の使ってたカードで一番新しかったのは、確認した限りじゃ五期の奴でした。初期のアニメで主人公が使ってたデッキを意識したんでしょうが、それにしたってあれじゃあ……」
「キャラデッキ用のカードなら大会で通用するようなのを公式が積極的に刷ってるんだから、そういうの使えばいいのにね……身内で楽しむんならまだしも、大会に出すのはちょっとねぇ。雷風先生のデッキもなんか酷かったし……」
「あれはデッキが酷いというかイノガシラ先生が根本からミスしてたって感じですね。デッキそのものは現環境トップと名高き【電脳華劇団】……それも、使われたカードから察するに大会優勝レシピのコピー。恐らく先生はその回し方を知らないまま、見よう見まねでデッキだけ作ってしまったんじゃないかと思います」
「……そんなことってある?」
「普通はないと思いますが、そう考えざるを得ないぐらい酷い回し方だったじゃないですか。粗方、勝つつもりでとにかく強いデッキを安易に追い求めた結果環境デッキの大会優勝レシピに辿り着き、『強いデッキを作ったから勝てる』とでも思い込んで最低限のルールとカードの使い方だけ覚えて大会に出たんでしょう。イノガシラ先生は今を時めく一流大物クリエイター……寝る魔も惜しむ多忙さなら練習をする時間が取れなくたって仕方のないことです」
「デッキ回しの練習する時間もないならなんで大会に出ようと思ったのかしら」
「さあ、それは全くの謎ですが……あと、ご両人のデッキがタッグ向けじゃなく、お互いの足を引っ張ってたのもいけませんでしたね」
「それは確かに。フィールドから墓地へ行くカードを除外する効果を持つユニットを無意味に置いたせいで相方の墓地へ送って発動するカードが使えなかったりとかね。よくあれで喧嘩にならなかったわよね。そこは純粋に凄いと思うわ」
「伊達に付き合い長いわけじゃないってことでしょう。……といって、仲が良すぎるのも考え物ですが」
「っていうか流石にないでしょ、アレは。公の場でやるようなもんじゃないわよ。下半身繋げたまま記者会見で結婚発表するアイドル魔物の方がまだマシよ」
 克己の言うアレとは、火焔菜マリオとイノガシラ雷風が試合中度々繰り広げていたカップル風のやり取り――実況担当の店員曰く三文芝居――のことである。典型的な男性向けの所謂"百合もの"が如き内容のそれは性的な言い回しや動作を多分に含むもので、如何に外見が美少女であろうとその正体が成人男性なのはバレバレであり、声も男性のままだった為多くの観客から顰蹙を買う結果となってしまった。
「CherryLoversよりマシってのは言い過ぎな気がしますが……まあなんというか、女に理解のない無知で狭量なオタクの身勝手な理想と幻想を凝固させたレズビアンカップル像ってあんなのかなぁ、って気はしましたね」
「ゆーちゃんの方が言い過ぎだと思うんだけど。……ま、何にせよああいうのはネタの通じる身内でやって盛り上がるものだからね」
「言っちゃなんですがある意味勝ち残らなくて良かったチームかもしれませんね」
「ほんと容赦な時はとことん容赦ないわねあんた……」
「常に全力で生きてるだけですよ。ところで克己さん、次が初陣では?」
「ああ、そうだったわね。忘れかけてたわ。じゃあ、準備してくるから私はこれで……」
「ご武運を」
「ありがとう。決勝で会いましょう」

 かくして克己は自身の出場するCブロック第二試合に向けての準備に取り掛かる。

「えーっと、相手チームは……『新世紀ロリコニック・ジェントルメンズ』? なんかよくわかんないチーム名ねぇ。新世紀とかジェントルメンとか、いかにも平成中期のオタクっていうか、アキバ系だかなんだかそういう奴らっぽいネーミングセンスだこと……ま、ゆーちゃんとの約束もあるし何が来ようと勝つしかないけど」

 控室でデッキの調整を終えた克己は、通路を通ってココナッツツリー・コロセウムへと向かう。道中には他の参加者の為に用意された控室が幾つも存在し、扉越しに幽かながら選手たちの話し声が聞こえてくる。

(やっぱり観客席じゃなくてこっちに留まるのが普通よねぇ。一々移動するのも面倒だし)
 克己と雄喜は『可能な限り生で試合を楽しみたい』との思いから控室をあまり利用していなかったが、他の参加者たちは試合観戦用モニターを含め様々な設備の充実している控室に留まっている者が大半であった。

(まだ時間あるけど急ぐに越したことはないし……あら)
 道中、克己は通路で話し込む男女数人の姿を目にする。

「いやぁ〜! さっきのは凄かったなぁ!」
「というか、まさかそちらが遊侠王やってたとは驚きましたよ」
「その台詞、そのまま返させて貰おう。まさか貴殿らとこの大会で出会うとは思わなんだ」
「つーか、まだ本気なんて出しちゃいねぇよ……じきにアレよりすげぇのを見せてやる」
「千代田、あんま調子に乗っちゃダメだよ? 私もさっきは手札事故起こしちゃったんだし」
「ギッヒヒ! おい久川ァ、てめー少し見ねえ内に随分とヘタレちまってんなぁ!? 前見た時にゃもっとタフだったってのによぉ!」

 それらは何とも見覚えのある六人……隠元麒麟流とハイブリッド開闢隊の面々であった。

「楽しそうね」
「ギッヒ? テメェ確か、次の試合に出る予定の……」
「神代克己さん、でしたっけ?」
「覚えていてくれて光栄だわ。少しの間だけど、私も会話に混ぜて貰っていい?」
「あぁー……俺らは構わないっスけど、そちらは?」
「俺らも別に構わないぜ! ちょうど華が足りないと思ってた所だしな!」
「ありがとうね。じゃあ早速聞きたいんだけど、貴方たちどういう関係? やけに親しそうにしてる辺り初対面じゃなさそうだけど……」
「実は所属事務所が同じなんですよ。"VER(ヴェール)"っていうんですけど、ご存知です?」
 イズミが見せてきたPC画面に映し出されていたのは、彼らの所属する事務所の公式サイトであった。
「ごめんなさい、あんまり見たことないわね……っていうか『開闢隊』のみんなって事務所入ってたの? インディーズバンドじゃなくて?」
「あぁー……『開闢隊』はあくまで同人っスよ。VERでお世話んなってんのはウチの志手っス。こいつ元々はフリーターだったんですけど料理得意で顔もいいってんで、試しにバンドのチャンネルで顔出しの料理動画上げたらバチクソ受けまして」
「以後料理動画専用のチャンネルを立ち上げた所、思いのほか伸びが良く事務所にスカウトされてな……今では動画配信とバンド活動、それに便利屋業の『二束三文』でやらせて貰っているのだ」
「志手っさん、それを言うなら『二足草鞋』だよ……」
「んぬ? 『二束三文』とは『二つ三つと多くの分野に手を伸ばし活躍すること』を言うのではなかったのか?」
「全然違うよ……それだと志手っさんが低賃金でこき使われてるみたいになっちゃう」
「つーか『二足の草鞋を履く』は本来『両立できない仕事を掛け持ちして無理する』って意味だからな。志手っさんの場合はどっちかつーと『二刀流』とか『二役』って感じだろ」

「ねぇ河津くん、彼って……」
「ええ、お察しの通り……」
「ギッヒ……志手のヤローは男前で中身もほぼ完璧な万能超人野郎なんだが……」
「はっきり言って天然でバカなんだよなー。断じて悪いヤツじゃないんだけど、頭がどうにもなー……」
「結構特殊な経歴のせいでまともに学校通えてないですからね……」
「なんか色々ありそうねぇ……」

 その後暫く六人と話し込んだ後、克己はココナッツツリー・コロセウムへ向かった。


『レディィィィィッスェンジェンッッットルメェェーンズ!
 ェンモンスタァァァァァズェンヒューメァァァァンズ!
 皆様お待たせ致しましたってなぁ! 遂に始まるぜ第二試合っ! 早速選手を紹介しよう!

 オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!
 あの須賀川雄一郎と並ぶソロ・プレイヤー! これまた過去の経歴や人となりは謎! そしてファン構築乍らかなりの腕前! 詳細は未だ伏すが、須賀川選手とは別ベクトルのやべーデッキが揃い踏み! いざ入場だ、"ミステリアス&ミスティック・ビューティー"! 神代ォォォォッ、克己ィィィィィッ!』

「なんか紹介が適当になってない? まあ、情報が少ないんだから仕方ないんだろうけど……」

『さあそんな神代選手と相対するは、この男たち!

 オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥト!
 嘗て異常者のレッテルを貼られ社会から爪弾きにされた者たちが決起し立ち上げた反乱軍!
 無垢なる幼体の魅力に囚われたお前らを否定はしない! だが一つ聞かせてくれ、何故サバトに縋らないのかっ!?
 "イロモノ五人組"! 新世紀ィ! ロリコニィィィィィィィック・ジェェェェェントルメェェェェンズ!』

 紹介されるままRoot側に現れたのは、何れも筋骨隆々な体格の人間男性五人組であった……と、これだけならば普通なのだが、問題はその身なりにあった。五人は何れも缶バッジやキーホルダー、タオルに団扇、トートバッグなどのアニメグッズ――何れも幼児体型であるキャラクターのもの――を全身へ鎧の如く纏っていたのである。

「なんだよなんだよ、こんなのってねぇぜオイ……」
「記念すべき最初の対戦相手があんなBBAとは、ついてないであります」
「ですなですな! 全くですな! BBA死すべしですな!」
「どうせならサバトレンジャイの皆様方とやりたかったでござる……」
「……」

 揃いも揃って生粋にして末期の小児性愛者である『新世紀ロリコニック・ジェントルメンズ』の面々。幼女を絶対視する反動から12歳以上の女性を"BBA(ババアを意味するネットスラング)"と呼び蛇蝎の如く忌み嫌い罵声を浴びせる態度は"紳士(ジェントルメン)"のそれとは到底言い難く、悪名高い彼らはサバト魔物からも『奴らに手を出すようでは終わり』とまで言われてしまっていた。

『アダルティなグラマラス美人とロリコン軍団! 断じて相容れねえ二者が禁断の遭遇だぁ! 果たして勝敗はどちらの手にーっ!? Cブロック第二試合ッ、対・局・開・始ィィィィ!』

 身なりや言動の所為で運営側からは克己より格下と見做された『ロリコニック・ジェントルメンズ』の面々であったが、遊侠王プレイヤーとしての実力は克己とほぼ互角……或いは、克己をも上回る可能性さえ秘めていた。その最大の要因はなんといっても五人の所持するデッキにあった。
 というのも彼ら五人が持つデッキは何れも大会で勝ち残ることに特化した構築がなされていたのである。対する克己のデッキはあくまで自分好みのカードや戦術を楽しむことが主目的であり、純粋な実力ではロリコニック・ジェントルメンズに一歩及ばない。
 事実、第一回戦で克己は敗北した。敗因は単純なデッキ同士の相性の悪さであり、克己は相手の操るデッキの圧倒的な高速制圧に順応しきれず、ほぼ何もできずに敗北してしまった。これを受けてロリコニック・ジェントルメンズは勝利を確信した。『奴は初戦枯れて萎びた老いぼれの耄碌BBAだ。あんな奴どうってことはない、俺たちで袋叩きにして心をへし折り、介護施設送りにして笑いものにしてやろう』……ぐらいに考えていた。

「BBAァ―ッ! 貴様を介護施設送りにしてやるでありますーっ!」

 『ロリコニック・ジェントルメンズ』の二番手、松林はLeaf側なら即失格になるであろう罵り言葉を口走りながら意気揚々と対局を開始した。

「本来はここで先攻後攻を決める所でありますが、吾輩は寛容! よってBBAァ、貴様に後攻、即ち最初のバトルを行う権利をくれてやるでありますっ!」
「……あら、いいの? Bブロック第一試合三回戦……モモニカ系列の魔女と河津くんの試合みたいなことになるかもしれないわよ?」
「やかましい! 吾輩のデッキは完全無欠! 貴様如きの雑魚デッキに先制攻撃をされようと負けることなど有り得んのでありますっ! とにかく早く始めるであります!」

 かくして幕開けたCブロック第二試合第二回戦第一ターン。手札事故――手元のカードが偏り、上手く動けない状態――に陥った松林は、仕方なくフロントゾーンにユニットを裏側で伏せてターンを終了した。

(吾輩が伏せたのは《リフレッジャー》……表になった時、お互いの手札を全て捨てつつ五枚ドローさせる効果を持つユニットであります……裏側防御状態ならば原則戦闘ダメージを受けるのはユニットのみでありますし、この役に立たん手札を入れ替えることができればまだチャンスはあるであります! そして序でにあのBBAの戦略を狂わせることができでもすれば儲けもの! あとは一気に主導権を握り、BBAを圧倒できる! 我乍ら完璧な作戦でありますなぁ!)
 独白ではこのように強気に振る舞う松林であったが、その実彼のとった行動が苦し紛れの苦肉の策、不確定要素だらけの運任せに過ぎないことは、他ならぬ彼自身が誰より理解しているのだった。
(さあBBA……何かしら攻撃してくるであります……吾輩の《リフレッジャー》を攻撃してくるでありますっ! BBAならBBAらしく安直な行動をするのが筋でありますよなぁー!?)
 それは実質的な懇願であり、松林は先攻一ターン目にして既に限界まで追い詰められていた。何せ松林は今のいままで常勝無敗、手札事故など起こした経験がなく『手札事故を起こすような構築をする奴はそもそも遊侠王に向いていない。先攻の五枚で相手を制圧できないなら二流』と豪語すらしていた。なればこそ自分が『遊侠王に向いていない二流』のレッテルを貼られそうになったとあれば、精神崩壊じみて取り乱すのも無理からぬことであり……
(負けるわけにはいかないのであります……断じて、負けるわけにはぁぁぁぁぁ!)

 そして迎えた後攻第一ターン。気になる克己の行動はというと……

「私のターン、ドロー。私は《フューリートイ・ピジョン》を召喚して効果発動。デッキから《合成》を手札に加えるわ。頼んだわよ、《ピジョン》」
『クルッホホーゥ』
 縫い包みのハトが如きユニット《フューリートイ・ピジョン》は、頼まれるままデッキから《合成》のスキルカードを運んで克己に手渡した。
「そしてそのまま手札に加えた《合成》を発動。フィールドの《フューリートイ・ピジョン》と手札の《ブレイデモン・ナイフ》を素材に《ヴァイサニマル・サヴェジ・シー・ガル》を合成召喚」
『ピギェェェェェェェッ!』
 合成召喚によって現れたのは、愛らしい《ピジョン》とは似ても似つかぬ醜悪で恐ろし気な鳥の化け物であった。一応、全体像としてはカモメの縫い包みなのだが、全体的な配色は暗く、身体のあちこちが分解の後縫合されたかのようで、刃物が組み込まれ縫合の隙間からは邪悪な視線が覗くなど、かなり不気味で恐ろし気なデザインであった。

『出たーっ! インフレの相次いだ魔の9期に登場した合成召喚デッキ【フューリートイ】の切り札「ヴァイサニマル」が一体《サヴェジ・シー・ガル》だぁぁぁぁ! 最早愛らしかった《ピジョン》の面影は皆無! 恐怖と狂気を煮詰めたような激ヤバのビジュアルは、神代克己の秘めたる恐ろしさを象徴してんのかもしれねぇーっ!』

「そんな人を犯罪者みたいに言わなくても良くない……? まあいいわ。
 続けて合成素材になって墓地に落ちた《ブレイデモン・ナイフ》の効果発動。手札一枚をデッキトップに戻して自己再生」
『シギギーッ!』
「そして《ヴァイサニマル・サヴェジ・シー・ガル》の効果発動。一ターンに一度、相手の場のユニット一体を選んで墓地送りにするわ。私が選ぶのはあんたの場にセットされてるそのユニットよ」
「ぐぎいいっ!? 吾輩の《リフレッジャー》がぁっ! ……し、然し《サヴェジ・シー・ガル》の除去効果を使ってしまったのは悪手でありますなぁ!? 《サヴェジ・シー・ガル》は攻撃力が比較的低い代わりに一度のバトルで二度攻撃できる効果を持つユニット! 然し除去効果を使ったターンは直接攻撃が封じられてしまうでありますよ! 吾輩の《リフレッジャー》を殴っておけば二度目の攻撃は通せたものを! 目先の事に囚われ結果的に損失を被るとは、やはりBBAなどその程度でありますかぁ!」
「……何勘違いしてんの? 私のメインパートはまだ終わってないわよ」
「でゅ、デュフフフフフフゥ! 強がりは止すでありますよBBAァ! 幾ら吾輩の発言が図星過ぎるからといってそのようなことを――
「私は手札から二枚目の《合成》を発動」
「でゅ!?」
「フィールドの《サヴェジ・シー・ガル》と《ナイフ》、そして手札の《フューリートイ・マンチカン》を合成素材に《ヴァイサニマル・ギガ・サルクス》を合成召喚」
『グルルルルルルルル……』
 合成召喚により現れたのは、古代の巨獣アンドリューサルクスを模した厳つい『ヴァイサニマル』の《ギガ・サルクス》であった。
「なっ、こ、虚仮脅しでありますなぁっ! 膨大な消費を伴った割にステータスは《サヴェジ・シー・ガル》に毛が生えた程度……どころか防御力は下がってるであります! その程度のユニットの攻撃、大したことはないでありま――
『ヴァアアアアアアアアアアアアアアッ!』
「ひいっ!」
 恐ろし気な《ギガ・サルクス》の咆哮に、松林は思わず縮み上がる。
「……ごめんなさいねぇ、この子ちょっと怒りっぽい所があるから。ま、大体はあんたの自業自得なわけだけど……。
 さて、気を取り直して《ギガ・サルクス》の効果発動。この子は合成召喚に成功した時、墓地か『ヴァイサニマル』ユニット一体を蘇生できるの。その効果で《サヴェジ・シー・ガル》を蘇生するわ」
『ピギェーィ!』
「そして《ギガ・サルクス》の効果で私の『ヴァイサニマル』は攻撃力が400上昇……よって《サヴェジ・シー・ガル》は攻撃力2600で《ギガ・サルクス》は攻撃力2800……さあ、バトルよ。
 まずは蘇生され直接攻撃不可の制約がなくなった《サヴェジ・シー・ガル》で連続攻撃」
『ギョエーッ!』
「ぎゃばらああああ!?」
「2600の二回攻撃で残りライフは2800……これで終わりよ。《ギガ・サルクス》、奴にとどめを刺しなさい」
「そ、そんなバカな……吾輩が……ロリコニック・ジェントルメンズの頭脳たるこの松林が……こんな贅肉だらけの萎びたBBA如きに――
『ゴオオオガアアアアアアアアアッ!』
「ぐぎょげろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!?」
 鳥と巨獣の連続攻撃により、松林のライフは跡形もなく消し飛ばされた。

『決着ゥゥゥゥゥゥゥ! Cブロック第二試合の第二回戦を制したのは、【フューリートイ】を操る神代克己選手だぁぁぁぁぁぁ!』

「ま、ざっとこんなもんかしらね。こっからどんどん巻き返すわよー」

「……あ……ああ……ば、ばかな……わが、はいが……」
「松林をワンキルしやがるとは……」
「あのBBA、油断できん相手のようですなー」
「松林氏〜? 大丈夫でござるか〜?」
(……俺はもう勝ったから関係ないな)

 かくして二回戦で勝利を収めた克己を『ロリコニック・ジェントルメンズ』の面々は脅威と認識。徹底的に叩き潰さんと次々向かっていくが、試合の流れをモノにした克己の力は凄まじく、如何なる制圧や展開もものともせず掻い潜り悉く勝利。結果二回戦以後『ロリコニック・ジェントルメンズ』敗北を続け、大トリを務めたリーダー格・私屋による逆転申請も却下され、散々侮辱し見下していた克己に惨敗を喫する結果となってしまうのであった。
21/07/29 21:40更新 / 蠱毒成長中
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