連載小説
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TAKE17.6 襲来! 花嫁志願者の魔物たち!
「いよいよか……」
 古坂彦太郎杯参加者用控室にて、デッキの調整を終えた志賀雄喜は事前に配られたトーナメント表に目を通す。
「Bブロック第二試合……次の試合が僕の初陣だ。頭じゃ理解していたことだが、いざ目前に迫るとなるとやっぱり緊張するものだな……」
 役者としてカメラの前には何度も立ってきたし、顔を出す仕事だってこなしてきた。ならなんということはないだろうと、彼はそうに思っていた。だが実際、役者としての仕事とカードゲームの大会は、どうあがいても同一視できない全くの別物だと、青年は本能的に理解した。
 更に彼を取り巻く問題は、緊張だけではなかった。

「……克己さんが出るのは後半のCブロック。僕はBブロックだから、大会で出会うには決勝まで勝ち進まなきゃならん……」
 古坂彦太郎杯はAからDまで四のブロックから成るため、十六のチームが十五の試合を戦うことになる。
「一試合が五戦で、決勝までが三試合だから、対局は五戦……勝つには一試合最低三勝する必要があるから、トータル九勝か……。逆転制度に頼ればこの限りじゃないが、逆転条件をクリアできるか、そもそも申請が通るかの問題が出てくる」
 加えて初戦は雄喜の盤面がLeaf側なのも向かい風と言えた。Aブロック第二試合最終戦で逆転勝ちを決めたフレディ・イングランドの例から考えるにLeaf側が提示する逆転条件は相当厳しくなければならない筈だ。
「まして僕のデッキは全てビートダウン……申請を通すのはより困難になるだろう。それにあまり気合を入れて相手を追い詰めすぎるのも良くないだろうな。四戦目までに三勝したら相手に逆転勝ちを許してしまいかねん。その辺をうまい具合に調整していかないと……」
 雄喜は頭を抱える。考えれば考えるほどに不安や懸念は湧き出てくるし、解決策を考えてもまた別の問題に直面しそうになる。
(……駄目だな、試合前からこんな調子じゃ。もっとこの状況を楽しまないと)
 気持ちを切り替えた雄喜は、会場へ向かうべく控室を後にした。




『さてさて皆様お待ちかねッ! いよいよBブロック第二試合が始まるぜぇ!
 第一試合は濃いメンツ同士のぶつかり合いだったが、入って来た情報によるとどうやらこの第二試合にもとんでもねー奴が紛れてるらしい! てなわけで早速選手を紹介しよう!

オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!

 今大会に二人しか居ない単独でエントリーしたプレイヤーの片割れ! 素性経歴全てが謎! 大会に出場したという記録もなし! ただ登録したデッキ五つのレシピはファン構築としちゃかなり高水準! 果たしてこいつは何者なのか!? 一体どんな勝負を見せてくれるのか!? 更にはあの古坂彦太郎社長の関係者だなんて噂もあるが、真相や如何に!?
 さあ入場だ! "謎纏いのミステリアス美男子野郎"! 須ゥ賀川ァァァァ! 雄ゥ! 一ィ! 郎ォォォォォォォッ!』

(偽名で呼ばれるってのもなんか不思議な気分だな……芸名とはまた違うような……今更何をって話だが)

『そんな須賀川選手と対決するのは、この女達ィ!

 オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥト!

 サイエンスライターにプロゲーマー、果ては経営者……各界隈で栄華を極めた一流の女達が魔物としての幸せを掴むべく立ち上がった! 男を求めて三兆里、目指すは結婚夫婦の契り! 男が多そうなイベントに顔を出しては目立つことに全力を注ぐハイパーハイスペック超絶美女軍団がココナッツツリー・コロセウムに殴り込みだぁ〜!
 果たしてこの大会を経て幸せを掴むことはできるのか! ブラァァァァァイド・アプリカァァァァンツ!』

 対するRoot側に現れたのは、稲荷、刑部狸、リリム、ヴァルキリー、アルプといった面々。実況が『超絶美女軍団』と紹介するだけあって実際非の打ち所がない面々であり、観客席からも『あれで男が居ないなんて嘘だろう』『おいお前あの中の誰かに声かけて来いよ』などの声が上がる。

「失礼な店員ね……爆破してやろうかしら」
「マリア、落ち着きなよ。魔王の孫が人間に手ぇ上げちゃダメだって」
「んン〜あの子なんていいかもしれないわネェ〜でもあっちのオジサマも中々……」
「さ、流石ヌシコさん……婚活の戦いは既に始まっているんだね。これはボクも負けてられないなー」
「男漁りもいいけど自分が使うカードの裁定確認しときなさいねアオバさん。あなた未だに対象に取る効果と選ぶ効果間違えるんだから……」

 かくして幕開ける雄喜の初陣。その行く末は……


「バトル、《呪詛竜王ディアボルス》で《AC 親愛なるブルー》に攻撃」
『レイジ・オブ・ザ・ディストピア!』
『いやあああああああああああああ!!』
「やっぱ無理ぃぃぃぃぃぃぃぃい!」

 第一回戦の相手は陽気なヴァルキリーのエレナ・カエルム。魔界で名を馳せた勇者の子孫であり、両親から継いだ居酒屋を経営する傍ら学生時代はダンス部のエースとして活躍した過去も持つ。常日頃から明るく社交的な彼女が用いるのは、宇宙人のダンサーである少女のユニット《アリス・ザ・ギャラクシー》とそのアシスタントである猫ロボット軍団『AC(アシストキャッツ)』を用いるビートダウンデッキ【アリス&キャッツ】。
 対する雄喜が用いたのは、強力なエリアスキル《無情暗黒域-シナーズ・ディストピア-》と、ドラゴンにしてデーモンである大型ユニット《呪詛竜王ディアボルス》を用いた【ディストピア竜王】。
 尽きることのないスタミナと爆発力を誇る【アリス&キャッツ】と、ギミックカードを軸にじっくり小手先戦術で戦う【ディストピア竜王】……デッキ自体の性質から言えば優勢なのは前者であった。然し雄喜はデッキに搭載されたユニットやスキル、ギミックの効果を以てエレナを徹底的に妨害。属性操作や小型ユニット除去、果ては実質的なサーチやドロー封じまで様々な妨害に悩まされたエレナは思うように動くことが出来ず、何とか抵抗するものの程なく巻き返され結局《ディアボルス》の吐いたどす黒い炎に焼き尽くされてしまうのだった。

『ようようようようっ! こいつはやべぇ! 謎の男、須賀川雄一郎ッ! その戦いには一切の容赦がない! ビジュアルや立ち振る舞いは主人公側だってのにやってることは完全に悪役だー! 性格悪いってレベルじゃねぇ! その在り様たるや最早旧魔王時代の魔物っ! ヤバ過ぎるっ! 果たしてこの思いがけない化け物を、止められる奴は現れるのかー!?』

 実況の店員までそんな風に言いだす始末である。そして……

「須賀川雄一郎……なんて奴だっ! エレナさんの敵、必ずボクが取ってやるぞっ!」

 二回戦での相手は、小柄な刑部狸の貫田アオバ。得てして狡猾で知能が高く、優れた商人が多い傾向にある刑部狸として生まれながら、どこがどう間違ったか聊か頭が弱く浪費家で生活力もない……所謂"ポンコツ"かつ"アホの子"として育ってしまった不運な(?)女である。
 ただ決して無能なわけではなく、確かに頭は弱いが反面純粋で心優しく誠実な性格でもあり、学力こそ低いものの肉体派でゲームの達人という一面を併せ持つ。
 そんなアオバが用いるのは遊侠王OCSとさる同人ゲームのコラボによって生まれた【天穀(てんこく)】デッキ。日本神話と農業をテーマとし、フィールドに表向きで残り続けるカードを田畑に見立て、そこに麦などの穀類に準えたカウンター(カード効果によって置かれる目印のようなもの)を溜め込み数量を参照、または消費することでユニットの強化やライフ回復を行う特徴がある。女神の少女であるユニット《天穀神姫 ウカノ》を切り札に据え、その他のユニットにサポートを任せる動きはエレナの【アリス&キャッツ】に類似しており、図らずも仇討ちの構図にお誂え向きでもあった。
 対する雄喜が二戦目で用意したのは天地人の所謂"三才"をテーマとした異形のロボットを操る【機才】デッキ。嘗て放送されていたアニメ作品にて、悪役軍団の切り札として登場した同デッキは『相手のアライアンスユニットを装着カード化し、その攻撃力と防御力を奪うこと』を動きの軸とする。無論それだけが持ち味ではなく様々な動き方のできるデッキであったが……

「バトルだよ! 《天穀神姫 ウカノ》、あいつに攻撃だ!」
『言われなくてもそうしてやるわッ! 神剣ッ、魂星刀ォッ!』
「づおっ……ごぁっはぁ!」

 【天穀】はそもそも爆発力に秀でたデッキの上、構造上アライアンスユニットはおろかアルターデッキさえ用いず戦うことができたため【機才】と致命的に相性が悪く、結果雄喜は瞬く間に追い詰められてしまった。尚も抵抗を試みた雄喜であったが結局アオバの勢いを止めることはできず、7000という破格の攻撃力を得た《ウカノ》の直接攻撃によりあっさり敗北してしまうのだった。
 そして……

「合成召喚、《爆裂魔神デトネーション》! そしてそのまま《デトネーション》の効果発動! このターンこいつの攻撃を放棄して、代わりに自信と相手のユニット一体を破壊! そして破壊した相
手ユニットの攻撃力分のダメージを相手に与えるわっ! 対象とするのはあんたの《解縛爪牙獣  ゴクオウ》! よってダメージは3000よ! 行きなさい《デトネーション》!」
『ィエッヘァアアアアッ! 道連れボンバァァァァッ!』
『ギャオオオオオオオオンッ!?』
「こいつは、強すぎるっ……!」

 続く三回戦、またしても雄喜は負けた。相手は魔王家の第8982子を母に持つプロゲーマーのリリム、マリア・ゲドン。使用デッキはフィニッシャーとなった《爆裂魔神デトネーション》等のダメージを与える効果を持つユニットを用いた【ビートバーン】。富裕層出身の高給取りであるマリアが金にものを言わせ作り上げた同デッキはひたすらに除去能力と火力を追求する構築がなされていた。雄喜の【解縛(かいばく)】デッキはその圧倒的な力の前になすすべもなく、何とか隙をついて切り札の《ゴクオウ》を出すことこそできたものの最後の最後にはその切り札さえ逆手に取られ、僅か4ターンで敗北してしまった。

(いかん、いかんぞ……これはやばい状況だ……逆転負けの可能性を潰すなら負けておくのも手ではあったがそれにしても二連敗は流石に看過できん……)

 次も負ければ最終戦で逆転申請をしなければいけなくなる。それだけは何としても避けたい。改めて気を引き締めて、雄喜は第四回戦に挑む。そして……

「バトル……《竜座隊 流星機竜カンナヅキ》で攻撃。この時《カンナヅキ》の効果発動。術式召喚に際してベイトしたユニットのレベル合計が2以下である時、相手の全ユニットに一回ずつ攻撃できる。よってそちらの場の《F6 爽快長兄タカヒロ》及び同カテゴリに属する《肉食次男ユウイチ》、《聡明三男ヒロシ》、《神秘四男ジュン》、《甘美五男ダイスケ》に攻撃」
「よ、容赦ないわネ……けど無駄よン? キミの攻撃宣言時、手札にある《F6 可憐末弟ミユ》の効果発ど――」
「できんぞ」
「えッ」
「ギミックカード《竜座隊特攻指令》の効果……このカードを墓地から除外することで、このターンのバトル中相手は効果を発動できなくなる」
「そ、そんなッ!?」
「さて攻撃続行だ。以上五体のユニットに一斉攻撃、《恒星誘導弾・五連射》ァ!」
『CHARGE......FIRE』
『『『『『ぎょわああああああっ!』』』』』
「だわばあああああああああああっ!?」

 ドラゴン型ロボットを操る術式ユニット主体のデッキ【竜座隊】を以て、対戦相手のアルプ、有路(あるじ)ヌシコと彼女の操る男性アイドル風ユニット群が軸のデッキ【F6】を見事に打ち破ったのであった。

『けぇぇぇぇぇーっ着ゥゥゥゥゥゥ! Bブロック第二試合、第四回戦の勝者は須賀川雄一郎選手ーっ! 第二回戦で貫田アオバ選手の【天穀】に後れを取り、続く第三回戦でもマリア・ゲドン選手の強烈なビートバーン戦術に惨敗と目下二連敗中だったが【F6】を操る有路選手を相手に勝利を収め、二勝二敗の同点にまで漕ぎ着けたっ! しかも注目すべきはその圧倒的な戦いぶり!今までの惨敗は果たして何だったのかと思わずにはいられねぇ! まさか今まで本気を出さずに戦っていたとでも言うのだろうか!? ともすりゃ次の最終戦、果たしてどんな勝負になるかッ! こいつぁ目が離せねぇーっ!』

 そんなこんなで始まったBブロック第二試合最終第五回戦……雄喜と相対する最後の相手は『ブライド・アプリカンツ』の実質的なリーダー格である稲荷の常木(つねき)モミジ。二回戦の相手である貫田アオバを助手に雇う売れっ子のサイエンスライターにして出版社の編集長も務める人物である。手掛けるのは主に動植物に関する記事であり、地球と魔界双方の自然に造詣の深い博識ぶりでも有名であった。

(常木モミジ先生……まさか遊侠王やってたなんてなぁ。しかもあのタヌキが先生の助手、か……世の中よくわからんもんだな。というか結婚できないからってなんかよくわからんチームに所属してるのが驚きなんだが……まあいい)

 予想外の相手でこそあれ、所詮は克己と決勝で戦う為に勝たねばならない対戦相手である。雄喜はそう割り切って、登録していた最後のデッキをセットする。一方のモミジ側もスタンバイを終え、遂に対局開始……かと思われた、その時。

「須賀川雄一郎くん……ちょっといいかしら?」
「はい、構いませんが……何でしょう」
 聊か予想外のタイミングで唐突に話を振られ、雄喜は困惑しつつもあくまで平静を装うが……
「そんなに身構えないで頂戴。別にこの場で襲おうってわけじゃないの。ただ幾つか、聞いておきたいことがあるだけよ」
「……これは失礼。何せ貴女は私の所謂"推し"なもので、少し緊張してしまいまして。して、聞いておきたいこととは?」
「そうね。じゃあまず……貴方を私のファンと見込んで聞くけど、私の出した本で一番好きなのはどれかしら?」
「一番と言われると迷いますが、ふと思いつくのは『彼らはこうして襲われた〜世界の獣害事件簿〜』や『改めて知ると頷けるイキモノのハナシ』……あとは『人はなぜ虫を恐れるのか』も読みごたえのある内容だったな、と思いますね。ただ先生の著書は基本的にハズレがないので、どれも甲乙つけ難いんですが」
「そう、それは光栄だわ。では次の質問だけど……須賀川くん。貴方、二回戦三回戦と二連敗してたけど、あれは何故かしら?」
「……何故も何も、ただ彼女らが強く、僕が弱かっただけですよ。序でに言えばデッキの相性も悪かっただろうし、初戦の問題行動が原因で彼女らの怒りを買っていたのも関係してるかもしれません。何にせよそこに特殊な原因や事情なんてありはしない……ただ片方が勝ち、もう片方が負けた。それだけのことです」
「……そう、わかったわ。じゃあ最後に……ネットニュースにもなった、ペット動画を投稿している配信者が起こした騒動を覚えてるかしら?」
「ペット系動画配信者の騒動……ヘビにウサギやハムスターを食わせる動画が虐待にあたると動物愛護団体が刑事告発、って奴ですかね。これに対し配信者は『あくまで餌やりだ』と反論したという……」
「そう、その件よ。話が早くて助かるわ……で、須賀川くん。貴方はこの件についてどう思うかしら? 正しいのは配信者か、それとも愛護団体か。またその根拠とは何か……貴方なりの考えを述べて欲しいの」
「……」
 その問いかけに、思わず雄喜は押し黙る。言葉に詰まったのではない。返答を述べることは簡単だ。然しこの流れでそのような質問をしてきた相手の意図が全く掴めない。相手がどういった答えを求めているかわからない以上、迂闊な返答は控えるべきだと、雄喜は考える。
(……襲うつもりはないという、彼女の言葉を信じたい。実際この場で全裸に剥かれて犯されるなんて絶対嫌だからな。だが相手は稲荷……曲がりなりにも妖狐の亜種で、かつジパング魔物だ。何を考えていてもおかしくはない)

 そこで雄喜は、ふとある魔界に関する逸話を思い出す。

(……『猫の王国』……猫の神バステトにより創造・統治される西洋建築の立ち並ぶ異界……ワーキャットにケット・シー、猫又にスフィンクス、チェシャ猫といったキャット属魔物と、動物の方の猫までもが暮らす、読んで字の如く『猫だらけの世界』……。
 猫を頂点とする縦社会であり、法に於いては常に猫が最優先……その法を守り猫に従属し生きるならば永久の平穏と安寧が約束されるが、反対に国内外を問わず猫に危害を加える者は重罪人として捕らえられ、男は猫の玩具に、女はいずれかのキャット属魔物にされ生涯を国民として過ごすことになるという……)
 無論、重罪人がそこまで酷い目に遭わされるわけでもないことを、雄喜は熟知している。
(で、ジパング魔物の話に戻るが……未だ人類に認知されてないってだけで、彼女らにもそういう『猫の王国』みたいなのがあってもおかしくないわけだ。まして相手は男に飢えて『花嫁志願者』を名乗るような連中の筆頭……口を滑らせれば何をされるかわかったもんじゃない)

 読者諸氏にしてみれば考え過ぎと思われるかもしれないが、一瞬の油断が命取りになる世界で生きてきた関係上、民間人より必要以上に用心深くなってしまうのが志賀雄喜という男であった。

(どうせ死ぬんなら地球で生きて地球で死にたいよ。猫の王国でも不思議の国でも万魔殿でもジパング魔物のそういう何かしらでも、当然そこで暮らすことを否定はしないし、観光で少し向かうんならまだしも永住なんてしたかないね。
 僕の事を思ってくれているみんなを置き去りに、地球で果たすべき責任も放棄してまで何不自由ない快楽に溢れた幸福な暮らしを手に入れたいなんて思わない。それなら多少不自由でも地球でみんなと暮らしながら責任を果たす道を選ぶさ、僕は。
 ……さて、そうなると彼女にはどう返したものかなぁ)

 あれこれと迷った挙句、雄喜が出した結論は

「すみません、試合前で緊張している所為かうまく言葉が纏まらなくて」
 その場凌ぎの誤魔化し程度のいい加減な返答であった。そしてこれに対するモミジの返答はというと……
「わかったわ。じゃあ対局が終わってから聞かせて頂戴な」
「すみません。では、終わり次第必ず……」

 かくして予定より大幅に遅れつつも、Bブロック第二試合最終第五回戦の火蓋は切って落とされる。


「私のターン……持続スキル《王族の祭壇》を発動。この効果で一ターンに一度、ギミックカードはセットしたターンに発動可能となるわ。私はその効果で持続ギミック《口寄せ忍法-大変化-》をセットしつつ発動。更に《大変化》の効果でフィールドのニンジャ《剛腕のシャクドウ》をベイト」
『ぬんっ!』
「そしてデッキから《ベット・ジェヴォーダン》を展開」
『ヴォオオオオオオオッ!』
「ギミックカード特有の遅さを《祭壇》でカバーですか……しかも一気に攻防3000の大型を展開……何とかせねば」

 モミジが用いるのは忍者をモチーフとし種族に於いても『ニンジャ』に属する小型ユニットを専用のサポートカード『口寄せ忍法』で様々な大型ユニットに変化させて戦う【口寄せ忍法】デッキ。対する雄喜が用いるのはインド神話の神をモチーフにした異形のユニットを駆使する【六界】デッキ。双方ともに上手く動けば高い所為圧力を発揮するものの安定性に欠けるきらいがあり、特殊な構築や運用が求められる上級者向けのデッキと言えた。そんな上級者向けデッキ同士の戦いの行く末は……


「メインパート……手札より《六界戦神妃ドゥルガー》、《六界羅刹王ラーヴァナ》、《六界医双神アシュヴィン》を公開することで手札から《不滅六界至高神ラモール・ヴェルミリオン》を展開……」
『ヴェァーハハハハハハハハハハァ!』
「なら、《ラモール・ヴェルミリオン》の展開時、手札の《アビリティ・シーラー》の効果発動! 手札のこのカードを墓地へ送り、このターン相手ユニット一体の攻撃と効果を封じるわ!」
「無駄で――『無駄じゃ無駄じゃあ! そんなもんで儂は止まらんぞ小娘ぇ!』
「なっ!? 効果が、効いてないっ……!?」
「……驚かれましたかね、先生。然し実際、こいつにそんな手札誘発なんて通用しませんよ」
『そうともそうとも! 何せワシには自身より攻防合計値の低いユニットの発動した効果を一切受け付けぬ耐性があるからのぅ!』
「そ、そんな……!」
「その表情から察するに、どうやら打つ手なしといった所でしょうか。すみませんね先生……僕は貴女のファンで、貴女を尊敬していますが……ここは勝たにゃいかんのでね、このターンで決着させて頂きますよ。
 バトルです。《ラモール・ヴェルミリオン》、先生にお得意のアレをお見舞いしてやりな」
『言われずともそのつもりよ! 行くぞ小娘ェ!
 神罰・極刑三叉戟ィィィィ!』
「ぬっぐ、はあっ!? ……な、なんて強烈な攻撃! けど残念、私のライフはまだ残ってるわ。つまり次のターン、引いたカード次第では私の逆転も――『有り得んのう』
「……どういうことかしら?」
「語るまでもなくすぐにわかることです。僕はこれでターン終了……」
『そしてこやつがターン修了を宣言した時、ワシの効果が発動! お互いのプレイヤーに3000のダメージを与える!』
「そ、そんな……! つまり……」
「先生のライフは1200、対して僕のライフは3900……つまりこのダメージで貴女のライフはゼロになるってわけです」
『そういうことじゃい! 行くぞ、ワシの効果ァ! 終焉・神眼灼熱波ァァァァ!』
「づお、ぐあああ……!」
「そんな、馬鹿なぁっ!?」

 禍々しい異形の切り札、《ラモール・ヴェルミリオン》によりモミジのライフは焼き払われ、雄喜の勝利という形で幕を閉じたのであった。

『決着ッ! 決着ゥゥゥゥゥゥ! Bブロック第二試合最終第五回戦の勝者は、単独エントリーの須賀川雄一郎選手だぁぁぁぁぁぁぁ!』



「は、はっ……凄いわね、須賀川くん。まさかこれほどとは……」
「恐縮です。先生こそお強いじゃないですか。カードゲームやるような方には見えなかったんで意外でしたよ」
「ブライド・アプリカンツに入ってから始めたのよ。最初は所詮子供の遊びだし軽く見てたんだけど、気付いたらハマってて……所謂"沼"って奴かしらね。ところで須賀川くん、質問の答えだけど、答えは出せたかしら?」
「勿論です。……『蛇にウサギやハムスターを食わせる動画を配信した飼い主は善か悪か』……あくまで個人的見解ですが、僕自身は件の飼い主を悪だと考えます」
「それは何故? 飼い主は餌を与えただけだと主張しているし、生きた餌しか食べない肉食動物がいるのは貴方も知ってるでしょう?」
「確かに生餌は動物飼育に於いて必要不可欠なものです。然し仮に生餌が必要なら生餌用に売られている個体を与えるべきであり、わざわざペット用に売られている個体を与える必要はない筈です」
「では、生餌用の動物は殺されてもよく、ペット用の動物は殺されてはならないと?」
「なるべくそうとは言いたくありませんが、実質それと同義の主張内容かもしれません。
 僕自身が思うに、生餌とは動物に与える食料、愛玩動物とは飼育する対象というのがそれぞれの用途・用法・規格であり、それらを遵守すること……というか、命を丁寧に扱うことは、自然物を支配・管理させて貰っている立場にある知覚種族の義務であると思うわけです。
 無論、生餌用の動物を敢えて飼育することを罪とまでは言いませんがね。生命の尊重と用途用法規格の遵守……その辺りを考慮するなら、件の飼い主は悪と定義するのが妥当かと。食材を敬い感謝するのは我が国の美徳ですし、貴女がたにしてもそれは同じなのでは?」
「……なるほど、わかったわ。月並みな答えだし粗も多いけど、まあ及第点って所かしらね。それと……」
「はい」
「最後の『貴女がたもそれは同じ』って言葉……他意はないんでしょうけど未婚の魔物相手には煽ってるようにしか聞こえないから気を付けた方がいいわよ?」
「……気を付けます」
21/07/29 21:39更新 / 蠱毒成長中
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