連載小説
[TOP][目次]
TAKE17.5 対決! 幼女戦隊VS大手配信者トリオ!
『さぁてさてさてさてッ! 波乱のAブロック予選は「青藍爪牙隊」と「過激上等♥毎晩寝かせknights☆」が勝ち残ったァ! 青春を謳歌する獰猛な男たちと激ヤバ鬼ヤバな過激派の手先! 癖が強いってレベルじゃねーような二組が代表の座をかけてAブロック最終戦で激突する! ……わけだがっ!? その前にBブロックの試合を執り行わせて頂こう!

ではBブロック第一試合! チーム登場だぁっ!』

 カードショップ『デュエルラボ』店内にある特設会場『ココナッツツリー・コロセウム』に、愛も変わらずハイテンションな実況の声が響く。

『オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!
 言わずと知れた魔術のカリスマ集団「サバト」! その中でも特に名の知れた五つの大御所組織傘下から腕の立つカードゲーマー達が勢揃いだ! 魔界のみならず地球の各地でも活躍するエリートたちは、どんなマジックを見せてくれるのかー!?
 個人的には性癖・体型に貴賎ナシでお願いします! 「山羊魔女戦隊サバトレンジャイ」ィィィ!』

 実況に紹介されるまま現れたのは、古典の魔女を思わせる身なりのファミリア、ホットパンツにタンクトップのみという軽装のアークインプ、所謂"ギャル系"ファッションの魔女、学生服姿のリャナンシー、白衣を羽織り眼鏡をかけたワイト……といった面々。
「フフフ……ここで華々しい実績を残せればサバトの地位向上間違いなしですの……」
「別に地位向上とかはどーでもいいケド……ま、精々楽しませて貰おうかしらネ」
「ィーッヒヒャハァ♥ なぁんかぁ〜? 対戦相手見て来たけどぉ〜? どいつもこいつもマジ雑ぁ〜魚ばっかりっていうかぁ〜? 今回の大会ぃ〜、あたし等ならヨユーじゃないデスカァ〜?」
「アーヤさん、フラグって知ってます?」
「……騒がしいのう。早う戦わさんかい」

『見ての通り見た目はキュート! 然し現魔王軍の頭脳との呼び声高いサバトの精鋭だけあってその実力は折り紙付きだ!
 さてそんな強敵に挑むのはぁ〜まさかの面々だぁぁぁぁ!

 オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥト!

 童貞大学生三人組の弱小オカルト研究サークルが奇跡の大出世! 今や界隈でその名を知らぬ者はない謎と驚異の探究者! 身体を張ったロケからアニメ制作までなんでもこなす、ネット界隈期待の天才ルーキー軍団がココナッツツリー・コロセウムに登場だ!
 果たしてカードゲームでの実力は如何に!? 「隠元麒麟流」ゥゥゥゥゥ!』

「天才!? 天才だとぉぉお!? わかってるじゃねーか実況の野郎ォ! ぬおおおおおおおぅ! 興奮してきたぁぁぁぁぁぁ!」
「ギィッキヒハハァ! どんな奴でもかかって来やがれィ! この俺がブチ刻んでやらァ!」
「お二人とも、冷静に……とりあえず木林さんは脱ごうとしないで。田部さんも鉄爪振り回すのやめましょうか。やり過ぎると最悪出場停止ですよ」

 対するRoot側に現れたのは、恐らく20代中盤と思しき三人の男たち。長身でニット帽を被った木林なる男は興奮のあまり着ていたシャツを脱ごうとし、スプラッタ映画の殺人鬼めいた身なりの巨漢・田部は物騒な単語を叫びながら手甲鉤を振り回す。
 そんないかにも曲者じみた二人を宥めるのは、毒々しい両生類の皮膚を思わせる質感のパーカーを着た童顔の小男。口調からしてニット帽男と巨漢の二人は彼の先輩格と思われた。

『さて両チームが出揃ったァ! 今回は五対三の変則マッチ! 可憐な精鋭部隊と実力未知数の若者トリオ! 果たして勝つのはどっちだー!?
 Bブロック第一試合、開幕ゥーッ!』


 そうして『山羊魔女戦隊サバトレンジャイ』対『隠元麒麟流』の試合は幕開けとなる。記念すべき第一回戦の対戦カードは……

『さてさて、スタンバイも完了したようだし早速恒例の選手紹介と参ろうかァ!

 オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!
 数あるサバトの内でもかなり異端な組織! バフォメットの賢者"白山羊"ことシロクトー筆頭が率いる"シロクトー・サバト"! その直系にあたるギリシャの秀才軍団"アナズィトン・サバト"から選び抜かれたのは、この女ァ!
 生涯を研究に捧げた不死身の貴族! イスカァァァァチェリィ・サヴェェェートニクゥゥッ!』

「我が頭脳。我が知略。我がサバト……智は力……武力に依る愚物よ、我が論理の前に敗北を知るがよい……」

 Leaf側の盤面に立つのは、白衣を羽織り眼鏡をかけたワイトのイスカーチェリ・サヴェートニク。素質のある選ばれた死者のみが変じ得るアンデッド系魔物の上位種にして、不死者の王と名高きワイトの名に恥じぬ素朴ながらも高貴な佇まいであった。

『そしてそんなサヴェートニク選手に立ち向かう「隠元麒麟流」の一番手は、この男ォー!

 オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥト!
 弱小サークルを率いてた落ちこぼれの童貞ヤローが一世一代の大博打! 地獄のような苦悩の日々を乗り越え今や界隈に名を轟かす大物に! 大人気動画配信グループの筆頭にして、世界制覇を夢見る若き野心家が堂々登場!
 不屈の情熱と無尽の性欲を併せ持つ爆走インキュバス! 木林ィ〜マ・サ・イィィィィ!』

「さぁぁ〜てっ! どうなるかわかりゃしねーけど、俺は俺なりに全力を尽くすだけだ! この勝負、全力で楽しんでッ、イッくぜェーィ!」

 対するRoot側の盤面に立つのは、古びたニット帽にボロボロのシャツ、ヨレヨレになったジャージの長ズボンといった聊かみすぼらしい身なりの男……もとい『隠元麒麟流』を率いる長身痩躯の筆頭、木林マサイ。明るく陽気に振る舞う彼は好奇心旺盛かつ好色な野心家でもあり、グループ内で唯一のインキュバスでもあった。


『貴族対野心家! 知略対情熱! 対照的な二人の勝負の行く末は!? 使用デッキからして全く想像のつかねぇ二人の対決は、まさにエキサイティングゥーッッ! な代物になること間違いなしだぜっ!

 いざ、対 局 開 始 ィ〜ッ!』


 休憩を経て尚熱気冷めやらぬまま幕開けたBブロック第一試合一回戦。サバト所属の頭脳派ワイトであるイスカーチェリと、動画配信者で陽気なインキュバスのマサイという対照的な二者による対局は、例えるならばドラゴンか、はたまたその変異種であるジャバウォックが愛する夫と交わるが如き激しさを誇り、観客たちを悉く盛り上がらせた。

「メインパート! 俺はこのターンのバトルを放棄することで《怪奇遺物 アトラタイタン》の効果を発動! 自身のスターライトエナジーを一つ取り除き、装着カード化してる《怪奇遺物 アメジスト・メタヒューマン》を墓地に送ることで、相手ライフを半減させる! 喰らえ、ロストテクノロジー・フラッシュ!」
「ぬぅっ……! 攻撃ではなく効果でっ……しかもダメージではない方法でライフを減らしたか……!」
「そうともよ! あんたに攻撃しても大抵は止められちまう! けどダメージを与えるだけがライフの削り方じゃねーってわけさ。ま、ほぼ対局中一回限りの使い切りなんだけどな〜?」
「20代半ばの小僧にしてはやりおる……よかろう。ならば相応の立ち回りで対応するのみ……」

 イスカーチェリとマサイは用いるデッキも対照的であった。マサイのデッキは、例えば黄金ジェットや水晶髑髏といった時代錯誤遺物(オーパーツ)をモチーフにしたユニットから成る【怪奇遺物】であり、カテゴリの個性を活かし派手で独特な動きができるような構築がなされている。対するイスカーチェリのデッキはアンデッド系魔物の王たるワイトらしくゾンビや幽霊などを模した闇属性ユニット及びそのサポートカードや汎用性の高いスキル・ギミックを多く採用し、常に安定して効率的に戦えるよう仕上げられていた。だがそれ故に無難で在り来たりな動きになりがちで、デッキ特有の見栄えや個性はあまり感じられない。

 独自性と効率性。全く異なる理念を掲げる二者が戦いの末に辿った結末は……


『決着ゥゥゥゥ! Bブロック第一試合初戦を制したのは「山羊魔女戦隊サバトレンジャイ」よりアナズィトン・サバト代表"死を超越せし学者貴族"ッ、ワイトのイスカーチェリ・サヴェートニク選手だぁぁぁぁ!』

 勝利したのは効率性のイスカーチェリであった。マサイによるライフ半減と、続けて絶えず迫り来る奇怪な『怪奇遺産』系ユニットらの猛攻を、高貴な不死者は巧みな知略と戦術を以て徹底的に掻い潜っていった。それでも決して無傷では済まされず、最終的なライフ残量は2200と切り札級ユニットの攻撃が通れば一瞬で消し飛ぶまでに減少した……だがそれでも彼女は決して冷静さを失わず、結果勝利を手にするに至ったのであった。


「いやぁ〜負けちまったよ。悪い二人とも、俺としたことが抜かっちまったわ。なんとかなると思ったんだが、どうにもなー」
「ま、そういうこともあるでしょ。あのワイトは木林さんと相性悪いタイプつーか……ま、あいつら全員俺らとは相性そんな良くなさそうですけど。そもそも木林さんはロマンデッカーな分動きにムラがあるからなあ……正直こういう事言いたくありませんけど、普通はもうちょっと徹底しますよ?」
「ギッヒヒ。情けねー野郎だな木林ィ! あんな小手先死体ヤローなんぞ速攻でブチ刻んでやりゃよかったものをよぉ! 河津の言う通りだぜ! プレイングにロマンを求めたり、相手にも華を持たせてやろうって主人公じみた考えは結構だがよ、それにしたって殺意が足りてねーんじゃねえか!?」
「やっかましいわ、それが俺のプレイスタイル、やりたいことを突き詰めた結果なんだよ。っていうか仮に俺のプレイングにムラがあって殺意が足りないとしてもお前らよりはまともだからな!? 特に河津! お前が今回使うデッキはマジでヤバいって自覚あるか!?」
「そう言われましても……俺もお二人と同じく、やりたいことを突き詰めた結果があれなもんで」
「ギヒィ……あのデッキを登録しといてボケ抜きにそれを言うかオメーはよ……」


「お疲れ様です、教授。凄かったですねー」
「流石は白山羊サバト系列で地球トップクラスとの呼び声高きアナズィトン・サバト……何処をとっても無駄のない鮮やかな戦いぶりですの……」
「止せ……あの程度、褒められるようなものではない……」
「ノリ悪いわネェ。そんなんだから未だに彼氏が居ないんじゃなイ?」
「ヒャッフヘヒィ♥ まぁでもぉ〜? あいつってぇ〜? 見るからに雑ァ魚ッて感じでしたしぃ〜? センセが勝てたのもぉ〜、当然の結果なんじゃないデスカァ〜?」
「……お前がそう思うのならそうかもしれんな……




……お前の中だけでは、な





 サバト選抜組『山羊魔女戦隊サバトレンジャイ』が初戦を制し、無垢にして純粋なる幼体の力は卓上に於いても無敵であることを知らしめたかどうかは定かでないBブロック第一試合。ワイトのイスカーチェリ・サヴェートニクの見事な勝利を目の当たりにした観客たちの多くは、このまま同チームが連戦連勝の後Bブロック最終戦へ駒を進めるものと考えていたが……


「ギヒヒィ! バトルだぜッ! 《ナイトメアリス》! チビ悪魔に直接攻撃だ! クイーン・エクスキューション!」
『ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
「あっはぁぁぁぁぁぁん!」

『決着ゥゥゥゥゥ! Bブロック第二回戦の勝者は「隠元麒麟流」所属ッ、"芸術的殺戮装置"田部キンジ選手ゥー!』

 『サバトレンジャイ』の連勝は二回戦にして早くも叶わぬものとなってしまった。
 対戦カードはアーヘラ・サバト所属のアークインプ『ポルニ・プロースティブラ』と、ホラー映画の殺人鬼めいた身なりの巨漢『田部キンジ』。片や過激派系サバトたるクロフェルル・サバト系列の一次団体に所属するインプ属の突然変異種にして強力な魔術の使い手、片や空手の有段者であり猟銃や毒劇物の扱いにも長けた隠元麒麟流随一の武闘派……初戦を超える癖の強い面子による対局は、比較的短時間乍らも極めて見ごたえのある名勝負となった。

『おさらいしておこう! プロースティブラ選手が用いたのは、かの言わずと知れたコラボデッキ「フォールン・メイデンズ」をベースに改良を重ねたその名も【レスカティエ・コントロール】! 魔界の在り方を再現した独自の動きで場の主導権を握る現魔界らしいテクニカルなデッキだ! 然しその反面、魔界らしさを追い求めた結果武力にちいと難があり、その点が災いして田部選手の【ワンダースプラッター】のパワフルで隙のねえ除去&ハイビート戦術に押し切られちまったァ!』

 実況はこのように語るが、実際の勝負内容はそれほど単純でもなく、両者は水面下で複雑な読み合いを繰り広げていた。これについて『サバトレンジャイ』筆頭のファミリア、マギサ・マゴスはあるインタビューに対し『飄々として掴み所のない彼女が、あの時だけはまるで別人のようだった』と述べたという。また当のポルニ自身も『負けはしたが悪い気はしない。お互い独り身だったら対局後に彼を誘惑していただろう』と語り、多くの観客と両チームの他の面々はポルニとキンジの双方を賞賛した……ただ一人を除いては。


「ッハァァァァン! 認めないぃ〜認められなァ〜い! だってぇ〜、そうじゃないですかぁ〜? そんなぁ〜、ねぇ〜? あんな変態コスプレ雑魚野郎にぃ〜? サバトの魔物が負けちゃうなんてぇ〜ねぇ〜? そんなのアリエナイですよぉ〜ねぇ〜?」


 などと宣うのは所謂"ギャル系"ファッションの魔女、芽苣木彩鶴(めすがきさいかく)。モモニカ・サバト系列の二次団体パリヤッソ・サバトに所属する彼女は幼くして狡猾で抜け目がなく、また向上心・負けん気が強くプライドも高い。また自身の肩書を何より誇りサバトの権威を絶対視する彼女にとって、サバト構成員を負かした田部キンジの行いはこの世のどんな犯罪や暴政より許し難い、心底腹立たしい悪魔の所業に他ならない。

「ナマイキな雑魚はぁ〜? しっかり躾けてやらないとぉ〜? でぇ〜すよねぇぇ〜っ!?」



 そうして幕開けたBブロック第一試合三回戦。怒り心頭の彩鶴と相対するは、毒々しい両生類の皮膚が如きパーカーを着た『河津イズミ』。"参謀"や"情報屋"などと称される彼は実際『隠元麒麟流』随一の頭脳派であり、暴走しがちなマサイやキンジのストッパーを務める良識人である。ただその一方、時に狂気じみた一面を見せることもあり、今大会の為に用意したデッキは彼のそういった気質を象徴する恐ろしい代物であった。
 一方彩鶴のデッキは24種ある『サバトコラボ・カード』の内モモニカ・サバトに対応する三種をフル採用し、それらをサポートする少女型ユニットで手軽に素早く戦う正統派のビートダウンデッキであった。その構築は洗練されており、その完成度は『サバトレンジャイ』全体の評価向上にも貢献していた。
 両チームきっての厄介者同士がぶつかり合う第三回戦は、前二戦に引き続き想像を絶する壮絶な戦いが繰り広げられるに違いない。誰もがそう思っていた。
 そしてその先に待ち受けていたのは……



『芽苣木選手、失格ゥゥゥゥゥゥ!』



 ……ある意味、想像を絶する予想外の結末であった。

『Bブロック第三回戦は「隠元麒麟流」所属"サイバネティックス・ヴェノム"こと河津イズミ選手の判定勝ちーッ!』


 結果は実況の述べた通り。彩鶴は運営から失格を言い渡され、結果イズミが決着をつけないまま形式上の勝者に……ということになってしまった。
 芽苣木彩鶴が失格となった原因は至極単純……彼女自身の態度と言動が運営から不適切と見做されたからに他ならない。生来気が強く傲慢で他者を見下さずにはいられない彼女は、対局前からイズミをはじめ隠元麒麟流のメンバーを様々に口汚く侮辱した。当の隠元麒麟流メンバーはこれを気に留めなかったものの、観客たちからは不満の声が上がり、運営側も彩鶴の言動をLeaf側にあるまじきものと判断、不適切な言動を慎みルールとマナーを遵守したプレイを心がけるよう注意を促す。
 続けて運営から『これ以上繰り返せば失格も在り得る』との忠告を受けた彩鶴はこれを渋々承諾、イズミに謝罪しつつ非礼の詫びと称して先攻一ターン目を譲る度量を見せつけた――無論、彩鶴としては初動の手札を一枚増やしつつ戦闘が可能になる後攻1ターン目を先取し、イズミを瞬殺する意図があったわけだが――。

 この時、彩鶴は思っていた。『あいつが使うのは恐らく普通のデッキ。手札が五枚しかないのであっては満足に準備もできまい。ならば簡単に勝てるはず。恐らく童貞であろうただの人間がサバトの魔女に勝てる筈もない』と。実際イズミが最初に発動したのは"デッキから任意のカード一枚を除外し、発動から4ターン後に手札へ加える"という聊か時間のかかる効果を持つスキルカード《旧式転送システム》であった……が、問題はその対象に指定されたカードの方にあった。

「俺はこの効果でデッキからユニットカード《クラックパンダ》を除外します。で、除外された《クラックパンダ》の効果で、お互いのデッキが上から五枚ずつ除外されます」
「はうあっ!?」

 《旧式転送システム》の効果で除外された《クラックパンダ》――邪悪な工学者めいた身なりの縫い包みパンダといった風貌のユニット――は、その効果によりイズミと彩鶴のデッキを五枚も除外した。結果、彩鶴はカードが消滅するのに等しい損害を被ってしまう。魔物娘にしてみれば片思い中だった男がアルプやスケルトンになって他の男と結ばれた挙句知らぬ間に音信不通になるようなものである。

 更に、彩鶴の受難はそれで終わらなかった。《クラックパンダ》の効果により二枚目の同名カードが、更にまた同じようにして三枚目が除外されていき、計15枚もデッキを削られてしまったのである。一ターン目すら迎えないままデッキを大幅に削られた挙句、除外されたカードの中には切り札を含む重要カードが幾つも含まれていたのだから目も当てられない。彩鶴は怒り狂いそうになったが、まだ持ち直せるしここで声を荒げては失格になってしまうと必死で落ち着こうとした。
 何せ彼女は世間からの風当たりが強く不当な差別を受けがちなモモニカ・サバト系列の構成員である。ここで組織の名を貶めるような醜態を曝すわけにはいかないと、湧き上がる怒りを必死で抑え込もうとしたのだが……

「手札からスキルカード《捧げられた片腕》を発動。自分の手札を全部除外して、デッキからスキルカード《遺体復元》を手札に加えつつそのまま発動。その効果で除外されてる《クラックパンダ》三体を墓地に戻します。そして《捧げられた片腕》の発動に際し除外された《隙の無い労災》の効果で三枚ドロー」

 無理だった。まだ、デッキを15枚除外されただけならば辛うじて容認もできただろう。然し相手はデッキトップ除外効果を持つユニット三体を墓地に戻して再利用するつもりでいる。しかもその上手札を全て失ったかと思いきや新たに三枚もドローしている。つまりまたデッキを削り、自分を苦しめるつもりでいるのだろう。しかもこれら一連の行為を、表情一つ変えずさも当然のように、こちらをあざ笑うが如くやってのける。サバトでない癖に、魔法を使えない癖に、人間の癖に、男の癖に、かの有名なモモニカ・サバトの系列組織に所属する崇高なエリート魔女である己に対し、心底侮辱しきった真似を、あの河津イズミなる男は平然とやってのけたのだ。
 激しい怒りと果てしない殺意に我を忘れた彩鶴は、手札を投げ捨てデッキをばら撒き盤面を殴りつけながら声を荒げ、イズミへ筆舌に尽くし難い暴言を浴びせた挙句彼に掴みかかろうとした所で運営側により失格処分を下される

 当然彩鶴はこの判定に納得せず意義を申し立てたものの運営側は当然これを棄却。そこで引き下がっていれば良かったものを『相手が反則をした』『デッキデスなんてルール違反だ』に始まり『《クラックパンダ》なんてカード知らない。あいつが作った非公式のオリジナルカードだ』『魔物を勝たせるのが人間のルールではないのか』など支離滅裂かつ的外れな発言を連発したことで火に油を注ぐ結果となり、観客席から非難が殺到。同じ『サバトレンジャイ』のメンバーからも総スカンを喰らい、実況担当の店員すらイズミの容赦ないデッキデス戦術を絶賛しつつ彩鶴を完全無視する始末。更にそこでイズミから同情されたことで彩鶴はとうとう発狂、大規模な攻撃魔法でココナッツツリー・コロセウムそのものを破壊しようとしたが『サバトレンジャイ』筆頭のファミリア、マギサ・マゴスの魔法で眠らされつつパリヤッソ・サバトの本部へ強制送還されたことで惨劇は回避された。

「この度は誠に申し訳ございませんでした!」

 その後マギサは彩鶴の問題行動に対しチームを代表して会場の全員へ謝罪の言葉を述べ、責任を負う形でチームとしての大会からの辞退を申し出た……が、それに対し隠元麒麟流の三名が『不戦勝など納得できない。誠意を以て責任を取るつもりなら最後まで大会を戦い抜くべきだ』と異を唱え、観客たちもこれに同意。運営側も『芽苣木彩鶴を除いた四名で引き続き大会に出場すべきである』との判断を下し、Bブロック第一試合は続行された。


「バトルです。《夢魔怪盗団 レイナ&リオン》で攻撃!」
『『オメガシンクロニティ・ツインストリーム!』』
「ぎょわっへぇぇぇぇぇ!」

 第四回戦。対戦カードは記者や作家の集うルーニャ・ルーニャ・サバト系列の三次団体トロバドル・サバトに所属するリャナンシー、ファーレンダー・ゼンガー対隠元麒麟流筆頭、木林マサイ。ファーレンダーのデッキはバーチャルライバーにして怪盗でもあるサキュバス二人組をテーマとした【夢魔怪盗団】。対するマサイのデッキは未確認動物がテーマの【未界獣】。どちらも展開力に優れるデッキであり、どちらが勝ってもおかしくない状況であった。ただマサイの【未界獣】は元々展開が運に左右される不安定な効果に依存していたことが災いし、結果として彼は敗北に追い込まれてしまった。

 かくして『サバトレンジャイ』対『隠元麒麟流』の戦いは双方互角のまま最終戦へ突入する。

『さてさてさてさて、波乱続きのBブロック第一試合もいよいよラストの第五回戦! サバトの精鋭と若きネットのカリスマ、果たして勝敗はどちらの手に〜!?
 早速選手を紹介しようっ!

 オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!
 サバトの中でも本家本元! 言わずと知れた魔王軍サバト系列の一次団体、マギーア・サバトから選び抜かれたのはこの女ッ! サバトの地位向上と不当な差別の撤廃を訴えるファミリアのエリートが、ココナッツツリー・コロセウムに今降り立つ!
 他者を使う魔物と書く使い魔! マギサ・マゴスゥゥゥゥゥゥ!』

「黎明期に比べれば社会に順応したものの、サバトが未だ世間から冷めた目で見られ誤解されがちなのもまた紛れもない事実……予想外の不幸もありましたが、なればこそこの逆境を乗り越え勝利を……否、素晴らしい試合を実現し皆様への恩返しをしなくては……」

『そんなマゴス選手に挑むのは、まさかまさかのこの男ぉー!?
 オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥト!
 第一回戦に第四回戦と目下二敗中! 試合そのものは派手で好評だがそろそろ勝ってる所が見てみたいと運営側も思い始めている! 仲間達が勝利を手にする中、リーダーはラストをカッコよく締めくくれるのか!?
 三度目の正直に全力を賭す男! 木林ィィィィ、マサイィィィィ!』

「いやぁ〜実際負けっぱなしだからなぁ〜。ここで負けたらもう後がないし、最後くらいは勝ちたいけどなー……まっ、負けたら負けたでその時はその時だ! 俺は俺なりに、最後まで楽しんで、イっくゥ―!」

 かくしてBブロック第一試合最終戦は幕開けとなる。


「メインパート、《WF 末弟のカイ》を手札に戻し《WF 不死鳥のカイ》を展開!」
「なら俺はそこにチェーンして手札の《OF(オブテインフラッグス) 落ちこぼれ死神(リーパー)》の効果を発動! 手札のこいつを墓地に捨て、相手ユニット一体を対象に取って死亡フラグカウンターを置く!」

 二者の実力はほぼ互角。派手な展開の相次ぐ一進一退の攻防は会場を大いに盛り上がらせた。それは当然、双方揃って『この場の全員が楽しめる対局をしたい』との思いを胸に全力でぶつかり合っていたからなのだが、同時に二人の用いるデッキがそもそも"魅せる対局"に向いたものであったのも事実であった。

 マギサの用いるデッキ【WF(ウィザーズファミリー)】は、その名の通り魔術師の一家をモチーフにしたデッキである。フィールドのユニットを手札に戻し、そのユニットのカードテキストに名前の記された切り札級の大型ユニット――何れも魔術師が幻獣に変身した姿という設定を持つ――を展開し戦闘をこなすビートダウンデッキである。

 一方マサイの用いる【PLOTT】は、動きこそ普通のビートダウンだがその成り立ちからかなり特殊なデッキとしても知られていた。というのもこの【PLOTT】、本来ならば別々に運用すべき全く異なる五つのカテゴリを一つのデッキに纏め上げ、各カードを状況に応じて使い分けながらテクニカルに戦うという、考案者の正気を疑わずにはいられない珍妙な代物なのである。
 デッキの名称は五つのカテゴリの頭文字から取られている。それぞれ、主力級の大型ユニットから成る『混成計画(プロジェクトハイブリッド)』、フィールド上のカードに乗るカウンターを活用する『OF(オブテインフラッグ)』、その名に反して嘗て大会環境を制したこともある『支敗者(ルーザールーラー)』、逆境でこそ真価を発揮する『抗白黒(トレイターモノクローム)』、多種多様な妨害効果で相手を追い詰めて止めを刺す『TC(トーチクリエイター)』……これらの採用割合によってレシピは千差万別だが、マサイが使うタイプは最も王道かつ派手な動きが可能な『混成計画』軸であった。

 マギサとマサイ、二人の対局は大盛況のまま白熱していく。そして迎えた結末は……


「バトル! 《混成計画 不死身のセンエイ》で直接攻撃だ!」
『……深淵、緋刃ッッ!』
「ふっぎゃあああああああああああ!」

 マサイのユニット《センエイ》の放った緋色の刃はマギサに直撃。攻撃により彼女のライフは尽き、勝負は決着した。


『決着ッ! 決着ゥゥゥゥゥ! 波乱続きのBブロック第一試合、その最終戦を制したのはッ! 「隠元麒麟流」筆頭、木林マサイ選手だああああああっ! よってBブロック第一試合は「隠元麒麟流」の勝利ィー!』


「やった! やったぜぇーっ! おいお前ら見てたかっ!? 俺の華麗なる勝利をよぉーっ!」
「ええ、見てましたよ。お見事です木林さん。初戦と四回戦は何だったんだってぐらいの大活躍でしたよ」
「ギッヒヒ! 俺も河津と同意見だぜ! 普段はふざけてる癖にキメる時はキメやがんだから全くオメーはよぉ!」


「申し訳ございません、皆様……やれサバトの地位向上だ差別撤廃だと息巻いておきながら最後の最後でこんな結果に……」
「そう言わないでくださいマギサさん。私は、サバトレンジャイの一員だったことを誇りに思ってますよ」
「寧ろサバトの精鋭集めてカードゲームの大会出場なんて前代未聞だし、あんたは上手くやったと思うわヨ?」
「……誇れ筆頭。貴女はよくやった……此度の務めは貴女でなければ果たせなかったであろうよ……」


『ありがとう木林選手! そしてありがとうマゴス選手! 正直な所トラブルには慣れてるつもりだったが今回はどうなっちまうかとマジでビビってた! だが二人の名勝負のお陰で何とかなって本当に良かった! 心から安心しているッ!
 隠元麒麟流の諸君、次のBブロック最終戦じゃ誰と当たるかはまだわからねーが、お前ら三人ならきっとどんな相手とだって名勝負を繰り広げてくれることだろう、期待してるぜ! そして山羊魔女戦隊サバトレンジャイの諸君! 今回は残念乍ら第一試合で敗退しちまったが、大会は今回だけじゃねぇ! 次回大会の予定が定まったら各種媒体で告知するから、都合さえ合えばまたリベンジに来て欲しい! ただ会場で暴れるのだけは勘弁な!』

 かくして『第三回 古坂彦太郎杯』は尚も続いていく……。
21/07/29 21:39更新 / 蠱毒成長中
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33