連載小説
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TAKE17.4 決着! 魔物娘不在のAブロック第二試合!
『「なんか一人変なのいるー!?」』

 フレディと実況は思わず驚きの声を上げたが、二者が面食らったのも無理はなかった。
 何せ才彦のフィールドに展開されたユニット《苦悩する受難者のミサオ》は『落ち込んだ様子での体育座り』という、本来のカードイラストとは全く違う姿でフィールドに現れていたのである。驚かない方がおかしいというものであろう。

「ああ、すまないね。彼、真面目で責任感もあるし基本的にはいい子なんだけど繊細過ぎて扱いづらい所があるから……」
「え? は? えっ? 何がぁ!?」
「ほら、ミサオくん。今対局中なんだからしっかりしないと。お客さんも見てるよっ」
『天上さん……すみません……でも前の対局、肝心な所で俺が手札に来ちゃって事故起こしてたじゃないですか……事故要因になるような俺には、あなたのデッキに入る資格なんてないんですよ……』
「バカなことを言ってんじゃないよ……君いないとこのデッキ打点も除去能力も不足して結構な頻度で詰むんだけどねぇ!?」
『でも、俺は……』
「 で も じ ゃ な い ん だ よ !
 ……イングランドくん、ちょっと待っててくれるかい?」
「ああ、まあうん、俺は構わねーけども……」
「ごめんねぇ……。ほらミサオくん! しっかり立って、効果発動するんだよ!」
『そうよ! 早くしなさいよ!』
『カードならカードらしく持ち主に使われてりゃいいんだよ!』
『君さあ……そのままでも切り札級の性能なのに誇らしくないの?』
 挙句、同時にフィールドへ出された《ティブロン》《レーヴェ》《スローン》までもが《ミサオ》を叱り始める(しかも《スローン》に至っては扱き下ろすような口調で褒めているのだから何とも言い難い)。
『然し……』
「 然 し じ ゃ な い っ て ば !
 全く……いいかいミサオくん。確かに君は他のメインデッキの"王獣隊"ユニットより扱い辛い所もあるし採用しない構築だってある。けどそれでも私のデッキでは他のみんなと同じ、大事なデッキパーツであり切り札の一つなんだよ。わかるかね?」
『……』
(こうなったら奥の手だ……あまりこういう事は言いたくないが、仕方がない……)

 このままでは対局が進まない。そう考えた才彦は《ミサオ》にとんでもない提案をする。

「そうだ、ミサオくん。もし君の活躍でこの試合に勝てたら、このCGIで君を主人公にした短編を書くよう作者に掛け合ってあげようじゃないか。君は今こそただカードだが、作者に頼めば別の世界線に生きる人間にしてもらうことだってできるし、そうなれば可愛い魔物の女の子と恋ができるぞ〜。なぁ、いいと思わないk――」
『俺の効果、発動!』
「わかってた事ではあるけど切り替え早いな君……」
『俺にはフィールドの"王獣隊"ユニットを任意の数ベイトして、それと同じ数だけメインデッキから俺以外の"王獣隊"ユニットを展開する効果がある! すまないがみんな……天上さんの勝利と俺の恋愛小説デビューの為の犠牲になってくれ!』
『まあ、元々そういうもんだしわざわざ謝んなくてもいいけど……』
『俺らはあくまで天上の旦那を勝たす為に犠牲になるんだからな!? 誰もお前の恋愛小説デビューの為の犠牲になるつもりなんて更々ねぇからな!?』
『そもそも天上様が掛け合ってくれた所で、怠惰で不誠実、傍若無人で自己中心的なあの作者が君を主役にした恋愛ものの作品を書くとは思えないんだが……』
『みんな、そんなに俺のことをっ……! ありがとう! この恩は忘れないぜ! というわけで効果発動! 俺の恋愛小説デビューと、序でに天上さんの勝利の為ッ! 俺の大切な仲間たち、《ティブロン》《レーヴェ》《スローン》をベイト!』
『別にあんたのことそこまで心配してたわけじゃないんだけd――
『てンめぇ、それが本音かっ! この野郎後で覚えt――
『というか君、天上様を差し置いて勝手に試合を進めるn――
 《ミサオ》は大切な仲間たちである筈の三体を効果発動の為容赦なくベイトして消滅させていく。

「大切な仲間って言いながら容赦なくベイトしてくのなんかサイコ臭さアルヨネ……」
「本当は責任感が強くて優しい子なんだ……ただ思い込みが激しくて調子乗ると止まらなくて……」


『そして俺の効果により三体の「王獣隊」ユニットを攻防ゼロ・効果無効で展開する! 俺は天上さんのデッキから《王獣隊 中庸のリノケロス》《王獣隊 異見のレアン》《王獣隊 賛同のテムサーフ》三体を展開!』
「あの、それって私(プレイヤー)の仕事なんだけど……」
 たかがカードの分際でプレイヤーに成り代わって暴走し続ける《ミサオ》は、更にデッキからギリシャ風のサイ男、中華風の狼男、アラビア風のワニ男をそれぞれ展開する。
『ありゃ、どうなってんだこれ? なんで天上の爺さんじゃなくてミサオg――
『おいおい、またミサオの奴調子乗ってんのかぁ? じじい、また変なおだて方s――
『まぁまぁいいじゃないの、落ち込んで体育座りしてるよりゃずっといいy――
『そして俺は《リノケロス》《レアン》《テムサーフ》のレベル7ユニット三体でスターライツネットワークを形成!
 我が友らの魂の具現よ、俺と魔物娘の純愛イチャラブバージンロードを築くべく立ち上がれ!』

「なんかスゲー個人的で煩悩剥き出しな口上だね爺さん」
「……おだて方を間違えてしまったかもしれんなあ……」


『コズミカル召喚! 現れろ、ランク7! 《機甲王獣 ギガプレデター》!』
 才彦の提案を拡大解釈し『自分は作者の手でSSの主役にして貰えて、魔物からモテまくって幸せになれる』と思い込み調子付いた《ミサオ》の勢いは止まらず、遂にはアルターデッキから勝手にコズミカルユニット――同じレベルのユニット複数を重ねることで出せるユニットカード――を展開してしまう(ちなみに《ギガプレデター》の容姿はサイ、オオカミ、ワニの特徴を持つ巨大なサイボーグキメラ獣人といった所である)。
「ああ、それじゃない……この状況で出すべきはそれじゃないのにぃ〜」
『大丈夫だ天上さん! 《ギガプレデター》の弱点とその補い方なら知っている! 俺に任せてくれ!』
「任せらんないよ手札返してよ……
『天上さんからゴーサインも貰ったことだし、まだまだ行くぜ!』
「ゴーサインなんて出してないよ! 寧ろ止めてるんだよ私はっ!」
『俺は俺自身でスターライツネットワークを構築! 令和の魔物娘図鑑を担う色男、装い新たに颯爽登場! コズミカル召喚! 行くぜランク7、《王獣隊士 ハンター・ザ・ワールド》!』
 更に独断行動を続ける《ミサオ》は自らのみを素材とし変身という形でコズミカル召喚(その行為そのものは《ハンター・ザ・ワールド》のカードテキストに書かれた正しい展開方法である)。頭はサイ、右半身は狼、左半身はワニといった風貌の恐ろし気なキメラ獣人《ハンター・ザ・ワールド》へと姿を変える。
「ああ、やると思った……それじゃダメなんだってば……」
『《ギガプレデター》は元々、対ユニット戦闘を想定した効果を持っている! がら空きのお前に攻撃してもただの攻撃力2900のダメージを与えるだけ、どころか最悪スキルやギミックにやられる危険性がある! そこでこの俺ッ、《ハンター・ザ・ワールド》の出番ってわけだ!
 俺自身を《ギガプレデター》の装着カード化することで、攻撃力を1000強化しつつバトル中相手バックゾーンと墓地からのカード効果発動を封じる!
 バイコーンさんにいろんな意味でライドしたい願望を抱いてとりあえずライド!
そしてアポピスさんに優しく巻き付かれたいバースト!
「効果名を勝手に改変してまで自分の願望を叫ぶなーっ!」
 相変わらずプレイヤーに無断で自身の効果を発動した《ハンター・ザ・ワールド》は《ギガプレデター》の操縦席へ乗り込み、フレディのバックゾーン目掛けて煙幕弾を放つ。
「ちぃっ! 俺のバックゾーンと墓地が使えなくなっちまったか……ま、《ケイオスネスト》や《聖域に巣食う霊》が《ノロの祈祷》のお陰で無事なのは幸いだが……」
『行くぜぇぇぇぇピエロぉぉぉおお! 俺の攻撃!
 優しくて家庭的でエロエロなデーモンのお姉さまに甘えて末永く幸せに暮らしたいアタァァァァック!』
「だから攻撃名を勝手に改変して性癖暴露するなぁぁぁぁぁ!」


「なるほど向かってくるかい。確かにこれじゃ手も足も出ねえ……と、思うだろうが! 俺はここで《深淵の大洞穴》の効果発動!」
(あのエリアスキル! やはりまだ何か効果を持っていたかっ!)
「相手ユニットの攻撃宣言時、俺はコイントスを行う! 使うのはこの2005年1月31日に発行されたカリフォルニア州の25セント硬貨だ! 行くぜぇっ!」
『それがどうしたあああああああああああ!』
 フレディの指に弾かれ宙を舞う25セント硬貨。構わず突進する《ギガプレデター》。
「――よっ、と! さぁて、コイントスの結果はッ――

 表ェ!

 よって《深淵の大洞穴》の効果で《ギガプレデター》――《ミサオ》クンの攻撃を無効にする!」

 その刹那、《ギガプレデター》はどこからともなく現れた巨大な蜘蛛の巣に絡め取られ身動きを封じられてしまう。
『ぬお、な、何いいいっ!? な、何故だピエロ!? 俺の効果でお前のスキルは封じた筈! なのにどうしてお前はスキルカードを使えるっ!?』
「何故だって? 気付かねえかい《ミサオ》クン。オメーさんの効果は確かに俺の墓地とバックゾーン、広範囲を封じたッ! しかし逆に言や封じたのはその辺だけ……他はノータッチだったろう!?」
『……そ、そうか! つまりっ!』
「気付いたようだなァ! 俺の《大洞穴》はエリアカードゾーンにある! バックゾーンでも墓地でもねえ! マジにこっちのカード発動を完封されてたらヤバかったが、その粗のお陰で命拾いしたというわけよ!
 んで《深淵の大洞穴》の効果にはまだ続きがある! このカードの効果で相手ユニットの攻撃を止めた時、俺は『攻撃してきたユニットの攻撃力の半分のダメージを相手に跳ね返す』バーン効果か『相手の場のカードを三枚まで選んでデッキに戻す』バウンス効果の内どっちかを選んで発動できる!」
『なんだとおおおおお!?』
(三枚まで"選んで"だと!? まずい、それでは《ギガプレデター》のみならず対象を取る効果への耐性を得ている《マリオ》氏と《バーラエナ》老までバウンスされてしまうっ!)
「俺はバウンス効果を発動! 《マリオ》と《バーラエナ》をデッキバウンスだ!」
(なるほど、徹底して私にダメージを与えない気か……)
 かくして《大洞穴》の効果により才彦のバックゾーンでパラベラムカウンターを成していた二枚のユニットは蜘蛛の糸に絡め取られデッキへ引き戻されてしまう。

『決まったーっ! イングランド選手、天上選手のパラベラムカウンターをバウンス効果で一気に崩したーっ! カードを手札やデッキに戻すバウンスは敵に回すと厄介な能力だが、特にデッキへのバウンスはキッツイぜーっ!』


「防御のみならず除去かバーンまで選べるとは……してやられたな。然し何故三枚まで選べるところで《ギガプレデター》を除去しなかったんだ。それがわからん……」
『……なんだ、わからないのか天上さん』
「君にはわかるのかねミサオく――って何でまた体育座りでいじけてるんだ君は!? さっきまでの威勢はどうした!?」
『……落ち込みもするさ。あのピエロが俺を……《ギガプレデター》を除去しなかったのは、そうする必要が、というより値打ちがなかったからだ……』
「は? 値打ち? 何を言ってるんだ君は?」
『ピエロはいつでも俺を除去できたはずだ……だがそうしなかったのは、きっと俺にその値打ちがないから……除去するほどの脅威だと感じなかったからなんだよ……』
「いや、それは違うだろ!? そもそも脅威だと感じていないなら攻撃を止めすらしないんじゃないのか!? レガシアと戦った少年のような、相手側に攻防の高いユニットが存在する状況を逆手に取る戦術かもしれないと何故考えない!?」
『もういい……もういいんだ、天上さん……無理な慰めなんて止してくれ……』
「無理な慰めじゃないよ! 話聞けよ!」
『そうさ……俺は結局ダメなんだ……俺には、恋愛小説の主人公になって魔物娘と素敵な恋をする資格も、天上さんの戦力になる資格もない……』
「そんなわけないだろ! 君が入っていればこそ勝てた対局は幾つもあったし、クロビネガのCGI主人公って君みたいなのゴロゴロいるぞ! っていうかそれは順序が逆だろ、順序が!」
 《ミサオ》は才彦の話に聞く耳持たずといった感じで一方的に喋り倒しつつ《ギガプレデター》の操縦席を出て、そのまま墓地のある方向へ進んでいく。
「おい墓地へ行くな墓地へ! 君は装着カードとユニットの状態を切り替える効果こそあれ自分を墓地へ送る効果はないだろ! これ以上カードテキストにないことをするなーっ!
『はあ……ここも墓地といえば墓地なんだし、バンシーさんがふと寄り添っていてくれたりしないもんかなぁ……』
「……駄目だあいつ、早くなんとかしないと。

 私はバックゾーンにカードを裏側でセットし、ターンエンド」
「相手ターン終了時、《ケイオスネスト》の効果発動!」
(やはり来るか……)
「俺はデッキから持続スキルカード《ケイオスウェブ「H」》を場に出す……と、見せかけて《深淵の大洞穴》の効果を適用! 《ケイオスウェブ「H」》はプレーンユニット扱いでフロントゾーンに展開される!」

 デッキから発動されたスキルカード《ケイオスウェブ「H」》――中央に粘液で象られた"H"の文字がある蜘蛛の巣が描かれていた――は、フロントゾーンに展開されるや否や空中に張られた蜘蛛の巣に張り付く、腹部に"H"の模様がある毒々しい色の蜘蛛に姿を変える。

『出た出た出たっ! 遂に出たーっ! これぞ【ケイオスネスト】を特殊勝利に導くキーカード「ケイオスウェブ」の一枚目ーっ! 全部で四枚存在する「ケイオスウェブ」は「《ケイオスネスト》の効果でのみ手札またはデッキからバックゾーンに出すことができる」以外に効果を持たない変わり種の持続スキル! そして《ケイオスネスト》は自身の効果で、自身に続けて「ケイオスウェブ」をH、A、O、Sの順番で四枚フィールドに揃える――《ケイオスネスト》のCを合わせて"CHAOS"の単語を作れば問答無用で勝利できるっつーぶっ飛んだ効果を持っている!
 だが《ネスト》も「ウェブ」も扱いの面倒な持続系だし、全部が揃う前にどれか一つでもフィールドを離れたら総崩れになっちまう繊細っぷり! そんなわけで長らくネタでしかなく、サポートが充実してもあくまでロマンの域を出ない、誰もが知っていても誰も見たことのない幻の不遇デッキ! それが今、過去には大会環境を制覇したこともある正統派ビートダウンデッキ【王獣隊】を相手に十ターン以内での勝利を決めようとしているっ! 仮に第二ターン以後、対局がイングランド選手にとって理想的に進んだとして、残る「ケイオスウェブ」は三枚! 更に「ケイオスウェブ」を出せるのは相手ターン終了時に一枚ずつ! よってお互いのターンで数えて最短でも六ターンの間《ネスト》と「ウェブ」、そして自分自身を守らなければならないっ! 更には諸事情考慮するに《ネスト》と「ウェブ」が一度でも除去されちまったらその時点で敗北確定っ! 正直運営側から条件緩和の申し出があって当然の、鬼畜過ぎる難易度だーっ!
 常人ならば思いつきもしない、達成できりゃまさに奇跡としか言いようのねえ前代未聞の逆転条件をっ! 果たしてイングランド選手は達成できるのかぁっ!?
 そして墓地に行ってしまった《ミサオ》くんの行く末は!? 魔物娘図鑑SSの主人公になって魔物娘とイチャラブする彼の夢は叶うのかーっ!?』
「もう彼のことはそっとしておいてあげてー!?」


 かくして、予想外の出来事を交えつつも対局は順調に進行していく。


「《継承する学士 ヤマト》に《王獣隊六面眷属 翼のルベル》を同盟化! 生命輝く星を守るべく、赤き翼が今空を舞う! アライアンス召喚! 来たまえ、《王獣隊 炎翼のヤマト》!」
「《炎翼》……地獄の9期で大暴れして一時は制限カードにまでなったあの《炎翼》か! まさかお目にかかれようとはなぁ!」
『えーっと、褒められてるってことでいいんでしょうか……』



『うおおおおおおお! ありがとう《ヤマト》ッ! 俺はまだやれる! まだやれるぞおおおおお!』
「行け《ミサオ》くん。この際だから遅延やカードの除去なんて無粋な真似はなしだ、『ケイオスウェブ』が全て揃う前に彼を始末するぞ」
『わかったぜ天上さんっ! ぬおおおおおおお! 作者よ俺を白澤先生の個人授業を受けさせてそのままゴールインする短編の主人公にしろバーストォォォォォ!』
「とうとう性癖暴露に突っ込まなくなったか爺さん。まあ俺のやることは変わらねえ。《大洞穴》の効果でコイントスだ!」



「俺はここで《混沌の巣のツマトラク》の効果発動!」
「《ツマトラク》……《ダンナクア》の対となる《ケイオスネスト》の主か」
「その通り! こいつには幾つか効果があるが、今回使うのはこの効果だ! 俺は《ツマトラク》の効果で除外されている《ケイオスネスト》を墓地に戻し、フィールドの《ケイオスネスト》『ケイオスウェブ』各種、《深淵の大洞穴》に効果耐性を付与! 更にこの効果で三枚以上のカードに効果耐性を付与したんで墓地の《ダンナクア》の効果が追加発動! 次の相手ターンまでお互いが受ける戦闘ダメージとお互いのフィールドに存在する全ユニットの攻防をゼロにしつつ、更に全相手ユニットの効果を無効にする!」
『ぐっ、うう……ど、毒が……蜘蛛の毒がぁっ! ……か、身体に力が入らないっ……意識が遠のくっ……!』
『ぬうおおおおおお! 耐えろ、耐えるんだ《ヤマト》っ! 毒設定の効果を受けるのは正直かなりキツい! だがこんな時こそ楽しむんだ……魔物娘……そう、魔物娘の持つ淫毒を受けていると思えばいいんだ! そうすればこの程度の毒何という事はない!』
「いや毒は毒だろそんな無理するんじゃないよ! あと毒は《ダンナクア》のだから魔物娘の毒とは言えないだろ! 待ってなさい、今フィールドから離してあげるから!」



 様々な出来事を経てターンは巡り、才彦の第四ターン。


『さあさあさあさあさあっ! やってきたぞ運命の第八ターン! ほぼここで勝負が決まると言っても過言ではない、事実上の最終局面だーっ!
 片や「相手にダメージを与えず【ケイオスネスト】で十ターン以内に特殊勝利」という過酷過ぎる逆転条件を提示し、有言実行とばかりに勝利へ近づきつつあるフレディ・イングランド選手!
 対するはそんなイングランド選手に《ケイオスネスト》や「ケイオスウェブ」の除去を敢えて行わず、素早く勝利を決めるべく正々堂々真っ向勝負を挑み続ける【王獣隊】使いの天上才彦選手!
 不遇の特殊勝利デッキ【ケイオスネスト】対地獄の9期で環境を制した【王獣隊】! 普通なら誰だってまともな試合が成立するわけねぇと思うであろう、ぶっ飛んだ対戦カード! 然し実際はご覧の通り! ライフ差では未だノーダメージの天上選手が圧倒的に優勢! 一方のイングランド選手は防御しきれなかった分のダメージを喰らい続けてそのライフは風前の灯ーっ!
 だがフィールドの状況ではイングランド選手が優勢! 四枚揃うことで完成する「ケイオスウェブ」は既にH、A、Oの三種類が出揃い残るはSのみ! 一方の天上選手はそのイングランド選手が発動した全体除去の所為でフィールドはガラ空き! 手札は僅か一枚! このターンにイングランド選手のライフを削り切れなければ敗北が確定してしまうが、果たしてーっ!?』


「……負けたら負けたでその時は仕方ない。もうやるしかないんだ……。 私のターン、ドロー!」
 覚悟を決めて、才彦はカードを引く。既にある一枚はこの状況下ではコスト程度にしかなりそうもなく、この一枚に全てがかかっている……。
「鬼が出るか蛇が出るか……ま、私のデッキには鬼も蛇も入っちゃいないがね……」
 自嘲気味に口走りつつ、才彦はドローしたカードを確認する。
「……ほう、これは。あくまでも足掻けということか。いいだろう……ならばゲーマーとして全力で駆け抜けるのみッ。
 私は手札よりスキルカード《下取り査定》を発動。手札よりレベル8のユニットカード《自立型惑星破壊兵器 デストロイ・ギフト》をコストにデッキから二枚ドロー」
『こいつはウマい! 天上選手、幸運にも引き当てたドローソースで手札の増強に成功したーっ!』
「ふむ、まだ足りんか……私は更に手札からスキルカード《浮浪者の恩返し》発動。墓地に存在するユニットカード五枚を選択しデッキに戻してシャッフルする。
 私は墓地に存在する《王獣隊 炎翼のヤマト》《王獣隊士 ハンター・ザ・ワールド》《機甲王獣 キングフェンサー》《機甲王獣 キングファイター》《王獣隊 献身のアウィス》をアルターデッキに戻し、メインデッキをシャッフル。そして二枚ドロー」
『これまたナイスー! 本来ならメインデッキに戻したユニットカードを再び引いてしまうリスクを抱えた《浮浪者の恩返し》の対象をアルターデッキのカードで統一することで実質デッキからの二枚ドローとなったぁー! これは実質禁止カードの《欲深い浮浪者》の再現っ!』
「アルターデッキ補強してっから《欲深い浮浪者》以上の効果なんだよなぁ〜。ほんとあれで制限解除されたのがよくわかんねぇわ」
「それだけ環境のインフレが進んだということだろうな……さて、これでやっと動ける。
 私は墓地よりギミックカード《病み上がりでの復帰》を除外、その効果で墓地より《継承する学士 ヤマト》を攻防ゼロの状態で蘇生。ただ効果は使える……すまないね、《ヤマト》くん。もうひと働きして貰えるかい?」
『勿論ですよ、天上さん……僕と天上さんの仲じゃないですか』
「ありがとう……《継承する学士 ヤマト》の効果発動。デッキから自身よりレベルが低く共通の属性を持つ『王獣』ユニット……《王獣隊六面眷属 翼のルベル》を展開」
『ピョーゥィ!』
「アライアンス召喚かッ」
「その通りだ。レベル4の《学士 ヤマト》にレベル2のコムラードユニット《翼のルベル》を同盟化! アライアンス召喚! < b>再来せよ、《王獣隊 炎翼のヤマト》!」
『はあっ!』
「続けてアライアンス召喚で墓地に送られた《翼のルベル》の効果! このカードを用いたアライアンス召喚によって『ヤマト』と名の付くユニットのアライアンス召喚に成功し、かつフィールドのカードがそのユニットのみである時、《翼のルベル》は自己再生できる! 墓地より舞い戻れ、《翼のルベル》!」
『ピィーッ!』
「自己再生能力持ちのコムラードユニットかよ」
「そういうことだ。まあ、この効果を使ったターンはアルターデッキから『王獣』ユニットしか出せなくなってしまう制約があるが……今の私には関係のないことだ。
 私はレベル6《炎翼のヤマト》にレベル2の《翼のルベル》を同盟化! 燃え盛る翼よ、森の賢人より託された力を得て蹂躙せよ! アライアンス召喚!
 響かせろ、レベル8! 《王獣隊 剛腕のヤマト》!
『うおおおおおおおおおおっ!』
『来たーっ! 《炎翼のヤマト》の進化形態《剛腕のヤマト》だぁぁぁ! 大鷲をモチーフにしたスタイリッシュな《炎翼》から一変、ゴリラをモチーフにした力強いフォルムの《剛腕》は力強くも隙のない効果で根強い人気を誇るぜぇっ!』
「《剛腕のヤマト》の効果発動! このカードのアライアンス召喚に成功したターン、私の場のカードは相手によってフィールドを離れなくなる! ドラミング・ブレイブ! これで《深淵の大洞穴》の効果により攻撃は止められてもバウンス効果は発動しない!」
「あくまで《深淵の大洞穴》の効果を残したまま戦う気かっ!?」
「そうだ! 君とて《ギガプレデター》を――《ミサオ》くんを除去しなかったろう? あれは『全力でかかってこい』の意味だと悟った……なればこそこちらも君と対等に渡り合いたくてね」
「ほう、俺の意図を察知してくれたかい! 嬉しいことだねえ! ……来なよ爺さん。あんたの本気を見せてくれっ!」
「言われずともそうするさ。……私は続けて《翼のルベル》を再度自己再生! そして《翼のルベル》のもう一つの効果! このユニットをフィールドから除外し、デッキから自身よりレベルの高い『王獣』と名の付くコムラードユニットを展開する! 来てくれ《王獣隊六面眷属 原始巨王デケム》! そして《剛腕のヤマト》に《原始巨王デケム》を同盟化!
 古に滅びて尚燃え尽きずそこにあり続ける原初の意思! 心優しくも熱意を持つ青年に受け継がれしその力が今、解き放たれる! アライアンス召喚!
 君臨せよ、レベル12《王獣隊 頂点継承者ヤマト》!

『ぬぉおおおおっとぉぉぉぉおお! こりゃまた怒涛の大展開ーっ! 《炎翼》から《剛腕》と来て、クジラモチーフの最終形態《頂点継承者》ッッ! 【王獣隊】全盛期にはアルターデッキの枠の関係もあって採用が見送られがちだったもののその性能は本物! これはこの勝負決まったかー!?』
「おお……《継承真王》! チビどもの世話も兼ねて遊侠王OCSを始めてそれなりに長い俺でもあんま見たことのねえカードだぜ! いやあ、実物の迫力はやっぱ違うねえ……!」
「確かに、大会環境だと派手な大型ユニットは敬遠されがちだし『ヤマト』系ユニットは《炎翼》の段階で十分強いからな。だが今はこの《頂点継承者》が必要なんだ……。
 行くぞ、《王獣隊 頂点継承者ヤマト》で攻撃!」
『キングブラスター・ファイナルバーストォォォッ!』
「来たか攻撃! だがあくまで《深淵の大洞穴》の効果は発動する!
 コイントス実行――表ェ!
 バウンスはできねーが攻撃は無こ――
『無駄です!』
「何!?」
「……彼の効果が発動したのさ」
「こ、効果だと!?」
「そうだ。彼の攻撃が無効になった時、彼は自身の攻撃力を倍にして追加での攻撃が可能となる……彼の元々の攻撃力は4500……よって9000の直接攻撃だ!
『キングブラスター・トゥルーファイナルバーストォォォォ!』
「ぬおおわあああああああああああ!?」

 《頂点継承者ヤマト》の左腕に備わるレーザー砲から発せられた光線はフレディに直撃。彼を焼き尽くし、遂に対局は決着した……かに思えた。

 然しフレディは、ダメージを受けて尚その場に立ち続けていた。

『き、決まっ……た、のか!? いや、明らかに《頂点継承者》の攻撃は決まっていた! ライフが減ったことも確認している! が、それでもイングランド選手は敗北してねえ! こいつは一体どういうことだぁー!?』

 才彦や《ヤマト》、また観客は勿論のこと実況までもが混乱する最中……ただ一人冷静なフレディはゆっくり口を開く。

「まあ、驚くのも無理はねえが……こいつのお陰で何とか助かったぜ。
 ギミックカード《千死に一生》! こいつは自分のデッキが15枚以下、ライフが500以下、フィールドに存在するユニットの攻防合計が2000以下の条件を満たす状態で、自分が戦闘ダメージを受けた際に一度だけ発動できる! 更に自分ユニットと相手ユニットの攻防の差がそれぞれどちらも4000以上で、一度の攻撃で受けた戦闘ダメージが8000以上であるなら手札・デッキ・墓地の何れかからの除外による発動も可能!」
デッキに入れるのを躊躇うぐらい発動条件の厳しいカードだな……して、その効果とは?」
「負けらんねぇようになる」
「……何? どういうことだ?」
「だから、負けらんなくなるんだよ。ルールを捻じ曲げちまうのさ。
 《千死に一生》の発動から2ターンの間、発動したプレイヤーは何が起ころうとルール上敗北しなくなるんだ。ライフが尽きようと、デッキ切れになろうと、相手が特殊勝利の条件を満たそうと、そのプレイヤーは……俺は敗北しねぇ。投了しようにもそれすらできなくなる。もっとも、2ターン過ぎて尚敗北条件がそのままなら問答無用で負けちまうがな」
『衝 撃 展 開ィィィィ! これは一体! 全く理解が追い付かねぇー! 《千死に一生》なんてカードあったかよあいつのオリカじゃねーのかよってみんな思うだろう! 俺も思ってる! つか思ってた! だが実際運営が確認したところ《千死に一生》は七期の終わり頃に海外先行でひっそり刷られ後に来日もした実在のカードと判明したっ! 再録もされてねーし誰もわざわざ調べようなんて思いもしねーマイナーカードだが、それでも確かに実在するっ! そして今、そのマイナーカードがイングランド選手を辛うじて生き残らせたわけだっ! さあどうする天上選手!? 相手はライフがゼロになっても負けてねぇ! 最早ビートダウンでの勝利は不可能なんだぜーっ!?』


「さあ、どうする爺さん。『王獣隊』ユニットは除去効果持ちも多いだろうがよ。今そいつを出して俺の『ケイオスウェブ』を一枚でも破壊すりゃあとは2ターン待つだけで俺は勝手に死ぬんだぜ?」
「……そうかもしれないな。だが、何もしないでおこう」
「ほう? 勝ちを諦めるってのかい?」
「諦める……まあ、実質そうなのかもしれないな。だが私個人は別に諦めたわけじゃない」
「じゃあ、何だってんだ?」
「譲るのさ。君の強さに敬意を表し、勝ちを譲る。デッキタイプとしての圧倒的不利を覆して対等に渡り合い、運営が緩和を申し出るほど困難な逆転条件を見事クリアして見せた……君のプレイヤーとしての実力は私より格段に上だ。なればこそ、勝ち残るべきも君だ。
 ……なんて言うと、あの子たちに怒られそうだけどね。まあそこはどうにか説得するさ……。
 バトル終了。私はこれで、ターン終了だ」
「……そうかい。そこまで言われちまったらそりゃあ、頂くしかねえわなぁ。

 あんたのターン終了時、《ケイオスネスト》の効果発動! 『ケイオスウェブ』最後の一枚《ケイオスウェブ「S」》をプレーンユニット扱いでデッキからフィールドに展開!」

 フレディのフィールドに四匹目の、腹部にSの文字を持つ蜘蛛が現れる。集った蜘蛛たちは虚空を素早く動き回り、紫色に怪しく光る蜘蛛の巣を作り上げていく。

「これにより俺のフィールドに《ケイオスネスト》《ケイオスウェブ「H」》《「A」》《「O」》《「S」》の全てが揃った!」

完成した巣には、太い粘液の塊で『CHAOS』の五文字が象られている。

「勝利条件は満たされた! 即ち、俺の勝ち! そしてまた同時に逆転条件を満たしたことでこの試合、我が『過激上等♥毎晩寝かせknights☆』の勝利だぁぁぁぁぁっ!」
『決着ゥゥゥゥゥ!
 逆転条件達成により、「過激上等♥毎晩寝かせknights☆」の勝利ィィィィィ!』

 かくして『第三回 古坂彦太郎杯』Aブロック第二試合は、過激派の擁立した魔物とインキュバスから成るカードゲーマーチーム『過激上等♥毎晩寝かせknights☆』の逆転勝利で幕を閉じたのだった。
21/07/29 21:36更新 / 蠱毒成長中
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