連載小説
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TAKE17.3 衝撃! トンデモデッキ登場!
 場面は代わり、こちらはマイケル少年とレガシアの対局場面。


「……続けて《ジュガン》の効果……《ジュガン》は相手ユニットを装着カード化し続けている限り三つの効果を持つ……」
「更に三つも効果があるだとっ」
「……そうだ。装着カード化した相手ユニットに戦闘破壊の肩代わりをさせる疑似的な耐性、装着ユニットの持つ元々の攻防を自らのものとするステータス強化、自身と相手ユニットとの戦闘で発生したこちらへの戦闘ダメージを相手にも与える効果……装着カード化できる相手ユニットは同時に一体だから、そこまで強くもないがな……」
「十分つえーよ。つってまあ、この場合はお前の言う通りかもな。
 俺の場にあったユニットは《ギガース・デモン・ゴーレム》のみ、今はガラ空きだから戦闘もクソもねえ。ターン一限りの戦闘耐性とダメージ飛ばす効果は意味ねえし。ともすりゃ普通は直接攻撃にビビる所だが、こと《ギガース・デモン・ゴーレム》はそうじゃねえ。ヤツの攻防は効果が消えりゃゼロになるからな」
「……そうだ。つまり僕は、貴女が生み出した4700の攻撃力も3000の防御力も奪い取れない……。
 ……僕のフィールドには、相変わらず攻防0で無駄に装着カードを持っているだけの《ジュガン》がいるだけだ……」
『悔異異異異異異異(くィいいいいいいい)……』
「……このままでは不完全……だから僕は、こうするんだ。

 ……バックゾーンにカードをセット。
 そしてそのままセットカードを発動……《魂骸癒着》」
「なっ!? セットしたターンにギミックだと!?」
『なぁ〜んとっ! ここで更に予想外の展開ィー! モラン選手ッ、本来ならバックゾーンにセットして相手ターンにならなければ使えない筈のギミックカードを、セットしたターンに発動したぁーっ!』
「……勘違いのないように言っておく。僕は反則なんかしちゃいない……。
 《魂骸癒着》は、自分のフロントゾーンに装着カードを持った"魂骸"と名のつくユニット一体のみが存在する場合、セットしたそのターンから効果を発動できるんだ……」
(なるほどカード毎の効果外テキストか……ならしょうがねえな。あたかもスキルとかギミックみてーにバックゾーンへセットしとけるユニットのカテゴリだってあることだしよ)
「……そして《魂骸癒着》の効果……自分の手札・フィールドから合成素材ユニットを墓地へ送り、その素材によって合成召喚可能な"魂骸"と名の付く合成ユニットを、アルターデッキまたは墓地から合成召喚する……」
『モラン選手が発動したギミックは合成召喚を行うものだったーっ! 未だ得体の知れない"魂骸"の合成ユニットとは一体、どんなものなんだーっ!?』
(合成ユニット……俺と同じか……)
「……《魂骸癒着》の合成召喚は少々特殊なものでね……。
 知っての通り、合成召喚は複数のユニットを素材にして行うのが原則だ……然し《魂骸癒着》の場合は違う……このカードを用いた合成召喚に於いて、ユニットを装着した状態の《魂骸邪導士ジュガン》を合成素材とする場合……
 ……装着カード扱いであるユニットを、そうでないかのように合成素材とすることができるのさ……」
「な、なんだと!? するってえと、お前っ……」
「察したか……その通りさ、溶岩のレディ……僕が合成素材にするのは《魂骸邪導士ジュガン》と、装着カード扱いである貴女の《ギガース・デモン・ゴーレム》……。
 悪いね、溶岩のレディ……君の素敵な切り札を、ほんの少しの間だけ借りさせて貰うよ……」
「謝るんなら最初っから借りんなよっ! つーか持ち主に声かけず許可も取らず勝手に借りてくのは実質盗んでんのと大差ねーだろっ!?」
「……どうだろう。そうかもしれないね……次からはそうするから、今回は大目に見てくれないか? ……すぐ返すから……」
「勝手に借りたばかりか使い潰してから返す奴があるかーっ! ……まあまた合成召喚すりゃいいだけの話ではあるんだが
「……怒鳴った後の一言は余計だと思うが……まあ、いいか……。

 ……《魂骸癒着》の効果……フィールドの《魂骸邪導士ジュガン》と《ギガース・デモン・ゴーレム》を合成素材に指定……。

 ……原初。原始。血の流れぬ楽園に彼は生まれた。
 ……彼は大いなる主より命を受けた。
 ……されど彼は背き、智を求め、血が流れた。

 ……原罪負いし、彼に救いを……。
 ……彼より剥がれし罪の残滓は、我が手に宿して火種としよう……。

 ……合成召喚……これが咎の焔か……《魂骸惨乾道 徒務》……」
『I Sinner……』

 合成召喚によって現れたのは、一見何の変哲もない、腰布一枚だけを身に着けた細身の美男子。不自然な点と言えば精々、胸の中央に埋め込まれた赤い球体ぐらいのもの。

 ……然しよく見ればその首から下は人間のそれではなく、動植物の残骸――干乾びた骨や臓器、枝葉や種子など――が人体の形に固められたものであった。

「一見普通の人間に見えて首から下ァ骨やら臓器やらでできてやがるとは……悪趣味なデザインしてやがるぜ」
「……全くだ……見る度にデザイナーが心配になる……だがこの不気味さ、ヒトの業深さをありありと示すデザインは嫌いじゃない……そしてその性能も、な……」
『Siiiiiinnnn……』
「……《徒務》は《魂骸邪導士ジュガン》と、相手のフィールドに存在するか、または元々の持ち主が相手であるユニット一体を素材条件とする合成ユニットだ……。
 ……その効果は単純明快……自身をベイトし、素材としたユニットのレベル合計値掛ける300ポイントのダメージを相手に与える……」
「ほう、使い切りのバーン効果かよ。俺の《ギガース・デモン・ゴーレム》はレベル8でてめーの《ジュガン》が1、つーことは」
「……そうだ。2700のダメージを受ける……。
 ……《魂骸惨乾道 徒務》をベイトし、効果発動……原罪残滓果炎弾ッ!」
『……aaaaaaaAAAAAAAAA!!』

 ベイトされた《徒務》の胸に埋め込まれた赤い球体――よく見ればそれは巨大なリンゴであった――から火の手が上がったかと思うと、その前身は炎に包まれる。やがて巨大な炎の塊と化した《徒務》はそのままレガシアに突撃し爆発。彼女に効果ダメージを与える。

「ぐおおおおおおおっ!」

『決まったー! モラン選手、巧みなコンボを決めてフローライト選手に大ダメージーっ!』

「……合成召喚された《徒務》がフィールドを離れ墓地に送られた時……僕のフィールドにはレベル1で攻防ともに0、闇属性でコープスとフィンドのユニットタイプを持つ《原始の肋骨トークン》が出る……《肋骨トークン》は決して破壊されず、攻撃対象にもならない……。
 ……僕はこれで、ターンエンド……」
 からりと乾いた音を立てて、マイケル少年のフィールドに黒ずんだ肋骨が落ちては転がる。
「最後にトークンで壁確保、か。どうせそいつもベイトやコスト、素材にしようって魂胆だろうがそうは行かねぇ!
 俺のターン! ドローッ!」

 力強くデッキからカードを手札に加えたレガシアは、ラーヴァゴーレム特有の溶岩色に輝く乳房を荒々しく揺らしながら声高に宣言する。

「やい、ガスマスク野郎ッ! 小手先戦術で俺より優位に立ったつもりか知れねーが、そんなもんこのレガシア・フローライト様の前じゃ無意味ってコトを教えてやるぜ!」
「……そう来てくれなきゃな……ドラゴンやサラマンダー、イグニス、火鼠、ヘルハウンド……そして貴女がたラーヴァゴーレム……炎や熱の魔物ってのは誤解されがちな種族なんだ……みんな彼女たちを、貴女がたを一括りにする……知性をかなぐり捨てて精神論を振りかざし、なんでも力任せに解決したがる、暴力と性欲しか頭にない酷く愚かなヤツらだってさ……」
(うーん……確かに炎ってだけでそういう性格と決めつけられんのは気に食わねえが……然し俺自身わりとそういう性格なのも事実だから、なんて返せばいいかわかんねえ……)
「……だが僕はそうは思わない……確かに炎や熱は危険なものだ……壊したり、傷付けたりしてしまうこともある……だがそれだけじゃないだろう……? ……焚火やストーブは身体を温めてくれる……こんがりと焼いたステーキは美味しいし、ほんの一杯のホットミルクは安らぎをくれる……そして何より……優しく抱きしめられた時の温もりほど尊いものは、この世にそうあるものじゃない……貴女がたとは……炎熱の魔物ってのは、そういうものでもあるだろう? 強い情熱と、優しい愛……それを併せ持つのが、炎熱の魔物である筈なんだ……。だから頼むよ、溶岩のレディ……レガシア・フローライト……貴女の生き様を……炎熱の強さと優しさを……この対局を通じて表現し、僕へ存分に見せつけてくれッッッ!」
「……へっ。ガスマスクでクセェ台詞吐いてんのはどーにもシュールだが……そこまで期待されちまってんならやるっきゃねぇなぁ。いいぜガスマスク野郎ッ、マイケル・モラン! 期待に沿えるかどーかは保障しかねるが、俺の全力を受けてみやがれィッ!」


 かくしてレガシアとマイケル少年、対照的な二者による対局は激しさを増しながら進行していく。レガシアは切り札《ギガース・デモン・ゴーレム》を始めとする大型ユニットを次々と繰り出し、対するマイケル少年は《魂骸邪導士ジュガン》に代表される"魂骸"系の不気味な異形ユニットを操り巧みに立ち回る。
 対局は第四回戦にして最終戦の如き盛り上がりを見せていった。そして――


『ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……』
「よおマイケル・モラン……何か言い残すことはあるか? 文句とか不平不満とかよ」

 フィールドに切り札を立たせつつ、溶岩の魔物は問う。対する少年の答えは、一つしかない。

「……不平はない。不満もない。文句だってない。満足だ。
 ……手札ゼロ、アルターデッキもゼロ、フィールドにも何もない。墓地発動可能なカードも使い切ったし、メインデッキだって残り10枚を切ってる。
 ……抗う術もないほど蹂躙された……これが炎熱の強さであり激しさ……然しただ理不尽に暴力的なわけじゃない……粗を補う確かな知略と、相手への敬意……まさに炎熱の多用な在り方と気高さ、そして幽かにだが優しさをも感じた対局だった……。
 ……最高だったよ、レガシア・フローライト……あとは君がトドメを刺してくれれば……それだけで全て完璧だ……」
「いいぜ……なら望み通りにしてやるよ。

 《ギガース・デモン・ゴーレム》! マイケル・モランに直接攻撃だ! 一気に決めてやんなっ!」
『オ゛フ゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ス゛マ゛イ゛バ゛ァ゛デ゛ィ゛ィ゛ィ゛!』
 身を屈め、翼を広げ、《ギガース・デモン・ゴーレム》は空高く舞い上がる(ココナッツツリー・コロセウム屋根あるけどどうなってんの? とか突っ込んではいけない)
 そして少しの間滞空した後、右掌を突き出した姿勢で加速・突撃する。

「デモンハンドォッ!」
『デ゛ェ゛ェ゛ス゛ト゛ロ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛イ゛!!』

「づおあがあああああああああああっ!」

 あたかも巨大な隕石か誘導弾の如き勢いで《ギガース・デモン・ゴーレム》はマイケル目掛けて突撃。残り僅かな彼のライフを消し飛ばし、対局を決着させた。



『決ッ着ゥゥゥゥゥ! Aブロック第二試合四回戦勝者は「横浜ブラッディゲーマー組合」のレガシア・フローライト選手だああああああっ!』

 圧巻の決着に、会場は歓声に包まれる。然し当のプレイヤーたちは、あくまでも冷静であった。



「 や っ た ぜ 」
「おう、やったなァ! 流石四方護符随一の筋肉バカ!」
「いかにも力押しだけで勝ったみてーな言い方やめろや結構頭使ってんだよ俺ァ」
「皮肉抜きに見事なものでしたよ……ただとりあえず、そのクイズ番組で優勝した医大生みたいなポーズはやめなさい、無駄に太い腕が邪魔です」
「無駄に太いは余計だろうが……まあ降ろすけどよ」

「……お疲れ様、レガシア。さっきのはいい対局だったねぇ……」
「……恐縮です、オーナー」
「肩の力を抜きなさい。……君は昔から喧嘩ばかりしていたけど、相手への敬意や思いやりも忘れない優しい子だった……君の実力なら、やろうと思えば相手の少年を完封しつつ一瞬で叩き潰すこともできた筈だ。然し君はそうしなかったね……」
「すンません、オーナー。言い訳させて貰うと、俺も最初はそうすべきだと思ったんスよ。マイケル・モランは厄介な奴でした。過激派が代表に選ぶだけあってとんでもねー男だ。相手にした時のめんどくささで言や、あのチームで一番かもしんねえ。そんな奴に俺みてーなのが勝つとしたら、速攻で叩き潰すしかねえ。けど俺に向けたあの言葉……『炎や熱の魔物は野蛮だって誤解されがちだけど実際は違う筈だ』っての聞いたら、叩き潰すのが申し訳なくなって来ちまって……正直、対局中何度も負けるかもしれねーってビビってました。ほんと、勝ててよかったつーか……」
「君がお父さん以外に対してそこまで恐怖を覚えるとは相当だな……」
「情けねえ話です。……ところで、ソニアは?」
「ああ、奥にいるよ。試合はしっかり見ていたが、終わった途端控室に駆け込んでしまってね。……言葉をかけてあげるといい」
「……はい」


 各チームに用意された控室の奥。椅子の上で膝を抱えて座り込むのは、リビングドールのソニア・スミー。


「ソニア」
「……レガシア、さん……おめでとうございます……」
「ああ、どうにか勝てたぜ。やべえ相手だったが……これもみんなの、お前のお陰だよ」
「そんなっ、あの勝利はレガシアさん……Ms.レガシアご自身が掴み取ったものです。まして私などのお陰であるなどッ」
「いいや、お前のお陰さ。俺が四方護符として頑張れんのはお前がサポートしてくれるからだし、組合の運営だってお前が軸になってんじゃねーか」
「それは、そうですが……然し私はっ!」
「過激派のシナ包丁に負けた件で負い目感じてるってか?」
 レガシアの問いに、ソニアは無言で頷く。
「バッカおめー、その程度の事で落ち込むなよ。ゲーマーなんて負けてなんぼの生きモンだ、誰だって常勝無敗じゃいられねぇ」
「……」
「負けたんならそれでもいい。なんで負けたかしっかり勉強して、次勝てるようにすりゃいい話だ。入りたての頃、オーナーに言われただろ?」
「然し……」
「然しも案山子もタカシもねぇ、ゲーマーってそういうもんなんだよ。それに……こういう言い方はちっとアレかもしれんが、お前の負けを取り戻そうって思うからこそ、俺は頑張れて、それで勝てたんだ。そう思っちまえばよ、たまには負けたって悪くねーなって思えるだろ?」
「……レガシアさんっ……私、私っ……」
 今にも泣きだしそうで、然しそれでも涙をぐっと堪えるソニアを、レガシアは抱きしめる。
「無理すんなよソニア。お前はリビングドール……大事にされることに貪欲な、愛に飢え続ける魔物だろうがよ。だのに自分押し殺して他人の為に生きてよ……それがお前の欲なら否定しねーけど、たまには俺らに甘えたっていいんじゃねぇか? リビングドールらしく我儘ンなったって、ちょっとなら誰も咎めやしねーよ。……な?」
「っ……ぅ……レガシアさん……レガシアさぁぁん……」
 レガシアの胸に顔を埋め、ソニアは静かに涙を流す。そのまま最終戦までの休憩時間終了間際ま泣き腫らした彼女は、幸福感に満ち溢れた爽やかな笑みを浮かべていたという。





「……すみません、皆様……同点まで巻き返すべき流れで負けてしまいました……」

 一方こちらは『過激上等♥毎晩寝かせknights☆』の控室。ガスマスクの少年マイケル・モランは各国から集まってくれたチームメンバーに首を垂れ、敗北を詫びる。
 彼は失望や叱責を覚悟していた。この流れでの自分の敗北はそれだけ重大な失態だと、そう思っていたのだが……

「気に病むことはないわ、モラン君……あなたは必至で戦った。負けとは言え活躍したことに変わりはないでしょう? ……それに敗北を詫びるべきは先鋒にも関わらず躓いてしまった私の方だわ。正直、序盤はガーゴイルの彼女を軽んじていた……慢心していたのよ……」
 白衣姿の大百足、滋賀県は野洲市にある過激派傘下の医療法人に所属する灰田進美(はいだすすみ)は少年に優しく語りかける。
「いかニも。敗北しタのは貴殿のみニ非ず。真に罪深ク、責任を取ルベキは吾輩であル……灰田殿の負けヲ取り戻してクレたダオレン殿の勝利をふイにしテシまった、ソの罪は重イっ……」
 大柄な和装のセルキー、モーリタニア沿岸部に拠点を置く過激派系組織所属のカルブ・アルバハルがそれに続く。
「オふタリとも、頭挙げてクダさい。ワタしの勝てタの、オートマタの小姐(お嬢さん)が動揺シてプレミしてしまテたかラよ。小姐、わタシの言葉でキズ付いてたネ……規則厳しイ"叶(Leef)"側の玩家(プレイヤー)、管理(運営)側に粗糙播放(ラフプレー)扱いさレテ取消资格(失格)ナてもおカシくなかタです……。
 我的胜利……不是我引以为豪的……」
(和訳:私の勝利は……誇れるようなものではありません……)
 挙句、唯一勝利した筈のジアン・ダオレン――中国都市部の過激派系列組織で技師兼戦闘員として活躍するカースドソード――さえ、必死で勉強中の日本語でたどたどしいながらも反省と後悔を述べる。最後には思わず母国語が出てしまう辺りに、彼女の動揺が見て取れる。

「そんな……皆さんっ……」
「まぁ〜そういうわけだからよ、みんなこう言ってんだし、あんま気にすんなってんだ。なあマイ公、お前はよくやったよ」
 気さくに励ますのは『毎晩寝かせknights☆』の筆頭にしてチーム名の考案者でもあるピエロコスのインキュバス、フレディ・イングランド。チームの中でも特に悲惨な過去を持つ彼は、即席で集められたチームメンバーをも家族のように思いやる愛情深い男でもあった。
「マイ公だけじゃねえ。ススミンにカルちゃん、ジアやんもだぜ? カードゲームの試合ってのは卓上でやるプロレスみてーなもんだ。観客がいる以上見せモンなんだからよ、全力でやってみんな楽しんで、そんで負けたってんならそれでいいだろうさ。勝ち負けは一つじゃねえ、良し悪しってのがあるんだ。その点、ススミンやカルちゃん、それにマイ公は"いい負け方"をしてた。ジアやんのプレミ勝ちにしたって悪気もなくわざとでもねーならラフプレーにゃなんねぇってのが運営の判断なんだし、どうあれ勝ちは勝ちだろ? いつも言ってることだがよぉ、お前らもちっと肩の力抜いて楽しんだ方がいいんだよなー。

 ま、ともあれ……戦況のことは気にすんなや。俺が運営に逆転申請して勝ちゃいい話なんだからよ」

 などと軽々言ってのけ、あくまでも陽気に振る舞うフレディの姿に、四人は元気付けられた……が、この状況を手放しで楽観視できるかというとそうでもなく、寧ろ一抹の不安を感じずにはいられないのであった。
 というのも……


 彼が本大会に向けて準備・登録したデッキは『勝利そのものが困難』とさえ言われるほどに構築・運用の難易度が高い代物だったからである。





『さぁて行くかよ行くとも行くぜっ! いよいよAブロック第二試合、最終五回戦っ!
 戦況は三勝一敗で「ブラッディゲーマー組合」が優勢! 対して目下二連敗中の「今夜は寝かせknights☆」にしてみりゃ、逆転制度を利用する以外に最早勝ち筋はない状況! しかも奴らはLeef側ッ! 逆転申請の審査は厳しくなり、生半可な魅せプレイ程度じゃ勝利は掴めねぇっ!
 となると「ブラッディゲーマー組合」がこのまま勝利を収めるのかっ! はたまた「今夜は寝かせknights☆」が奇跡の逆転勝利を決めるのかーっ!
 果たして準々決勝へ続くAブロック決勝戦へ駒を進めるのはどっちのチームかー!? 気になる最終戦を戦う二人が、只今入場ーっ!


 オォォォォォォン・ザ・リィィィィィィッフ!

 過激派きってのカードゲーマー軍団「過激上等♥今夜は寝かせknights☆」を率いて早三年! 数多くの大会で華々しい活躍を見せる一方、過激派構成員としての本職で多くの哀れな人魔たちを闇深き沼の底へと引きずり込んできた、子供大好き激ヤバリーダー! ココナッツツリー・コロセウムに降り立った道化師は、自慢の芸で奇跡を起こせるかー!?
 アメリカ合衆国カリフォルニア州出身のインキュバス! 淫らなる悪夢の案内人! フレディィィィィィィ・イィングラァァァァンド!


「へへっ、見てろよみんなぁ。リーダーとしての生き様、見せてやっからよぉっ!」


『そしてそんなイングランド選手とやり合うのは、勿論この男ーっ!

 オォォォォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥゥゥト!

 本大会参加者中、人間としては最高齢の八十代! しかもそれでいて外見・挙動何もかもが老いを感じさせねぇ男前っ! 多分老紳士って言葉が神奈川イチ似合う男っ! 激動の昭和に生まれ、平成令和と二度の改元をも巧みに生き抜いた男っ! 北欧の主神オーディンの威厳と哲人皇帝アウレリウスの知性を併せ持つ百戦錬磨の古強者!
 「横浜ブラッディゲーマー組合」筆頭! 名前通りの天才ゲーマー! 天ッッ上ッ才彦ォォォォォォ!


「大袈裟な紹介だなあ……レガシアの文句真に受けた結果がこれか。ドラキュラ伯爵と言われた方がまだましだったような気も……いや、どっちもどっちか」


『さて、両者ともにスタンバイ完了! これより試合開始ィッ……と、行きてえところだがっ!? 時にイングランド選手っ!』
「おう、何だい実況の兄ちゃんっ!?」
 実況の店員から話を振られ、道化師インキュバスは陽気に答える。
『わざわざ言うまでもねえことだが、あんたンとこは五戦中既に三敗してるッ! ここで普通にあんた一人勝っても、結局チームとしては負けなわけでっ! つまりあんたァ――』
「おおっと兄ちゃん皆まで言うなィ! 俺ら後がねぇんでよっ、お察しの通りさせて貰うぜ"逆転申請"をっ!」
『Goooooood! その言葉を待っていたぜイングランド選手ーっ! じゃあ早速提示して貰おうかっ、あんたの"逆転条件"をっ!』
「おうよ任せなッ!
 一つ! 俺はこの対局で、お互いのターンで数えて十ターン以内での確実かつ鮮やかな"特殊勝利"をキメるっ!」

 フレディの言葉を聞いて、会場がどよめく。特殊勝利といえばただでさえ必要パーツの引き込み等、下準備に手間と時間のかかる戦術である。しかもその上安定性や勝率は決して高くない。挙句大会に特殊勝利系デッキで挑むこと自体間違っているとの風潮さえあるほどだ。
 にもかかわらずあのピエロは十ターン以内に勝つと言っているのだ。観客席から『ヘルハウンドを飼い慣らすようなもんだぞ』なんて声が飛んでくるのも無理からぬこと……。ただそれでも『デッキタイプによっては十ターンどころか一ターンで決着をつけることも可能ではないか?』という意見もある。

 そんな中でフレディが提示した次なる逆転条件は……。

「二つ! 特殊勝利である以上俺は何があっても才彦の爺さんにダメージを与えず、当然ライフを0にして負かすこともしねえ!
 三つ! 俺が使うデッキは登録段階から変わらずただ一つ! 【ケイオスネスト】だッ!」
「「「「『『『ええええええええっ!?』』』」」」」

 フレディの発言を受けた観客は驚きの余り取り乱し、実況は思わず絶句した。
 だが彼らがそうなってしまったのも無理からぬこと……何せ彼が使うという【ケイオスネスト】は、遊侠王OCSでもかなり歴史が長く、かかる手間に対する安定性の無さと運用の難しさはトップクラスと名高い。魔物娘図鑑界隈で言うなら『一人の男が白蛇とバイコーンの両方と結婚する方がまだ簡単』といった所であろうか。

『おいおいおいおいっ! 正気かよイングランド選手っ!? 【ケイオスネスト】つったら普通に勝つのだってとんでもなく難しい、超上級者向けの特殊勝利デッキじゃねーかっ! 今運営から連絡来たけど「【ケイオスネスト】での大会出場そのものが異例の事態だから普通に勝つだけでも逆転認める」とか言ってんぞ!? 逆転申請で運営側から条件緩和の申し立てが来るとか異例も異例、本店大会史上前例がねーよっ!』
「そうか。そりゃちょうどいい……運営が緩和申し立ててくるほど過酷な条件ってんなら誰だって文句は言えねーってこった! これで安定して逆転勝利をモノにできるぜぇーっ! よう爺さん、そういうわだが構わねぇかい?」
「構わないが……大丈夫かね? こう言っちゃなんだが十ターン以内にケイオスネストで勝利なんて……」
「心配無用! 敵の心配より自分の心配したほうがいいんじゃねぇかぃ? それよりさっさと始めようぜ! 実況ちゃん、音頭をくれっ!」
『おう! 了解だ!

 逆転を狙うクレイジークラウンと百戦錬磨のゲームの達人! 波乱のAブロック第二試合を制するのは、果たしてどちらなのかーっ!

 いざ、 対 局 開 始 ィ ッ !


 かくしてフレディと才彦の最終五回戦は誰にも予測できない状態での幕開けとなる。
 ダイス投げに勝ったフレディは、自ら先攻を選んだ。先攻の場合最初の手札は一枚少ない点で不利乍ら、逆転条件を満たして勝利するためには先攻を死守しなくては、との考えからであった。

「俺のターン! 俺は手札からスキル《等価交換の申し出》を発動! 一回の対局中に一度しか発動できねーこいつの効果で、俺はライフを500支払いデッキから持続ギミックカード《ケイオスネスト》を除外! 除外したのと同名カードをデッキから直接発動できる! よって俺はデッキの中枢を担うカード《ケイオスネスト》を発動!」

 持続ギミックカード《ケイオスネスト》……デッキ名と同じ名を冠するこのカードは、遊侠王OCSに於いて最も困難かつ不安定な特殊勝利効果を持つカードである。
 まず持続ギミックとは、装着スキル同様発動後フィールドのバックゾーンへ表側で残って効果を発動し続けるギミックカードの事である。同系列としてスキルカードにも"持続スキル"というものがあり、こちらも発動後フィールドに残り続ける。
 そして《ケイオスネスト》は、"巣(ネスト)"と名の付く通り闇の中に張られた不気味な蜘蛛の巣の中といったイラストのカードであり、描かれた巣の中央には蜘蛛の糸らしき粘液で大文字の"C"が形作られている。このCの文字が実は同カードのもたらす特殊勝利効果と密接に関わってくる。

「デッキから直にギミックカードを発動しただと……?」
「驚いたかい? だがまだ序の口だぜっ! 俺は更にスキルカード《致命的減量》を発動! 俺のデッキ総数の半分の枚数のカードをデッキから墓地に送る! 俺のデッキ総数は60枚! よって30枚を墓地りだっ!」
「さ、30枚っ!?」
『ああーっとぉ! イングランド選手、逆転勝利の為には手段を選んでいられないとばかりに第一ターンからぶっ飛ばしていくーっ! 然し"ケイオスネスト"はコンセプト上デッキのカードが重要なデッキ! こんなに大量の墓地肥やしなんてして大丈夫かーっ!?』
「へっへっへ、心配いらねーぜ実況ちゃん! どんぐらい心配いらねーって、デーモンかブギーに惚れられたホームレスの明日ぐれーには心配いらねぇっ! 何せこれやったお陰で一々必要なカードを一枚ずつ墓地に送る手間が省けるんだからなっ!

 続けて《致命的減量》の効果で墓地に送られた《混沌の巣(ケイオスネスト)のダンナクア》の効果! こいつが墓地に存在する限り一ターンに一度、墓地から『ケイオスネスト』『ケイオスウェブ』と名のつくカード、またはテキストにそれらの名が記されているカード一枚を手札に加えることができる! 俺は《ダンナクア》の効果で条件に合致するカード……エリアスキル《深淵の大洞穴》を手札に加える!」
 フレディの効果宣言に伴い、墓地から小さな青紫色の蜘蛛が現れフレディの手に飛びついたかと思えば、尻から出した糸を投げ縄の要領で器用に墓地へ振り下ろし、カードを釣り上げる。
「そしてそのままエリアスキル《深淵の大洞穴》を発動!」
 フレディがそのカードを発動するや否や、ココナッツツリー・コロセウム全体の風景が、薄暗く湿った不気味な洞窟へと姿を変える。
『おおーっと! イングランド選手、怒涛の展開に加えてエリアスキル発動ーっ! 戦場を自分にとって最適の形に作り替えていく―っ!』

 エリアスキル。持続スキルや装着スキルと同じくフィールド上に表側で残り続けるスキルカードの一種だが、スキルカードの中では例外的にバックゾーンではなく専用の"エリアカードゾーン"へ置かれることで発動する。エリアの名の通り戦場全体に効果を及ぼす大規模な"領域"に相当するカードで、一つのフィールドにつき一枚しか存在できないがその分効果は強力なものが多い。また大都市や古代遺跡、果ては惑星などがモチーフとなることが多く、ゲームの背景世界に於ける物語の舞台になることも多い。

「《深淵の大洞穴》の効果を説明させてもらおう! 一つ! 《ケイオスネスト》の効果で『ケイオスウェブ』と名の付くスキルカードを出す場合、それらをユニット扱いとしてフロントゾーンに出すことができる! ユニット扱いとなった『ケイオスウェブ』カードはレベル1、闇属性、攻守ともにゼロ、アラクニドとテラーのタイプを持ち、固有の効果を持たねえプレーンユニットになる! 更に《大洞穴》の効果でユニット化した『ケイオスウェブ』は《大洞穴》自身と《ケイオスネスト》以外の効果を受けず、攻撃対象にもならねえ!」
「……その効果が適用されたユニットしかフィールドに存在しない場合、どうなるね?」
「心配すんな爺さん! 寧ろ喜べ! 《大洞穴》の効果が適用され、攻撃にならねーユニットしか俺のフィールドに存在しねぇ場合、あんたの攻撃は俺への直接攻撃になるんだからなぁ!」
(堂々と言っているが、つまりはこちらが攻撃力8000以上のユニットを用意し、その攻撃が通れば彼自身の負けは確定するわけだな……だがわざわざ自分に不利な情報を明かしたということは《深淵の大洞穴》の効果はあれだけではないのだろう。仮にあれだけだったとして、恐らくそれ以外の防御手段を用意している筈だ。慎重に動かなければ……)
「更に! 俺は墓地からユニットカード《聖域に巣食う霊》の効果を発動! 手札か墓地に存在する自身を持続ギミック扱いでバックゾーンへ表にして置くことで、俺のエリアスキルは相手の効果を一切受けねえ!」
(守りに来たか……!)
「更に念には念を入れてスキルカード《ノロの祈祷》の効果も発動しとこう! 墓地から自信を除外することでバックゾーンに表側で存在する全カードに次の相手ターンから3ターンの間破壊耐性を付与! これで《ケイオスネスト》は勿論持続ギミック扱いになってる《聖域に巣食う霊》の除去も暫くはできねぇ! 俺はこれでターンエンドだ!」
『イングランド選手、防御を固めてきたーっ! 墓地に送られたデッキトップ30枚の中には墓地発動効果を持つ様々な防御カードが入っている模様! 何が出てくるかわからない以上、天上選手には慎重な立ち回りが求められるぜーっ! さあどうするんだぁー!?』
(……全く、厄介なデッキだな。だが私は私にできるだけのことをするまでだ……)
 何が起こっても仕方ない。意を決した才彦はターン開始を宣言する。
「私のターン、ドロー。手札よりパラベラムユニット《山暮らしの彫刻家 マリオ》をバックゾーン右端へセット」

 才彦が"発動"した《山暮らしの彫刻家 マリオ》は、ユニット乍らスキルの性質も併せ持つ特殊なカード"パラベラムユニット"であった。このカード群はユニットとしてフィールドに出すのみならず、バックゾーンの左右両端へ一枚ずつスキルカード扱いで発動可能という特徴を持つ。

「知っての通りパラベラムユニットにはユニットとしての効果の他、スキルカード扱いである際に発動するもう一つの効果……"パラベラム効果"を持つ。私は《マリオ》のパラベラム効果を発動。デッキから自身の同盟カード以外でカード名またはテキストに『王獣隊』の名が記されたカードを手札に加える。その効果によりデッキからパラベラムユニット《王獣隊の始祖 献身者バーラエナ》を手札に加える。そしてそのまま《バーラエナ》をバックゾーン左端へセット」
『ぬおーっ! 天上選手のこの動きはぁぁぁぁ!?』
「パラベラム召喚かっ!」
「その通りだ。改めて説明させて頂こう……パラベラムユニットは例外なくそれぞれ左右に"パラベラムナンバー"を持つ。この数字はパラベラムユニットがバックゾーン両端へセットされた"パラベラムカウンター"の状態でのみ意味をなすものだ。
 バックゾーン両端にパラベラムユニットがある時、そのコントローラーは一ターンに一度、パラベラム召喚によって手札から複数のユニットを一斉に展開できるようになる……無論何でもとは行かず、あくまで双方にあるパラベラムナンバーの間の数のレベルを持つユニットのみだがね」
「あんたのフィールドにあるパラベラムユニットのナンバーは《マリオ》が1で《バーラエナ》が8……つまりレベル2から7のユニットを最大一気に五体出せるってことかよ」
「理論上はね。私の手札はそんなに都合よく仕上がっちゃいないよ……パラベラム召喚自体は可能だがね。

 ……ナンバー1の《山暮らしの彫刻家 マリオ》とナンバー8の《王獣隊の始祖 献身者バーラエナ》でパラベラムカウンターをセッティング。
 レベル4の《王獣隊 荒海のティブロン》、《王獣隊 咆哮のレーヴェ》、《王獣隊 重鎮のスローン》、そしてレベル7の《苦悩する受難者のミサオ》をパラベラム召喚」
「あれ、なんか一つだけ変な名前のヤツいない?」

 パラベラム召喚により、才彦のフィールドへ一気に四体のユニットが並ぶ。
 スペイン風の衣装に身を包んだ女のサメ魚人《荒海のティブロン》。
 ドイツ風の衣装に身を包んだ男のライオン獣人《咆哮のレーヴェ》。
 ロシア風の衣装に身を包んだ男のゾウ獣人《重鎮のスローン》。
 体育座りで膝を抱えた現代風の青年《苦悩する受難者のミサオ》

『「なんか一人変なのいるー!?』」

 眼前に広がる異様な光景。
 信じがたい出来事にフレディと実況は思わずハモった
21/07/29 21:36更新 / 蠱毒成長中
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