連載小説
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TAKE17.2 激突! ガスマスクVS爆乳溶岩!
『さぁさぁさぁさぁ観客諸君! 覚悟はよろしいかいっ!?
 キラメキングダム株式会社協賛の元『デュエルラボ』椰子ノ木町商店街店主催で開催中!
 遊侠王オフィシャルカードシリーズ公認大会『第三回 古坂彦太郎杯』!
 そのAブロック第二試合がこれより始まるぞぉっ! 早速第二試合を戦うチームの登場だぁーっ!』

 カードショップ『デュエルラボ』店内のイベント用デュエルスペース『ココナッツツリー・コロセウム』に、件の実況者――大会実況歴五年の店員――の声が響き渡る。

『オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!

 かの魔王軍が一大派閥ッ! 魔界化と魔物化による新世界の構築を目指す「過激派」もとい「急進派」各系列組織より選び抜かれた腕利きのカードゲーマー軍団がここに集結!
 狂おしい程に深き愛こそが最強か! 「過激上等♥毎晩寝かせKnights☆」ゥッ!』

 呼ばれるままLeaf側に現れたのは、魔物三名に男二名の計五名。
 内訳は白衣を着た長髪の大百足、毛皮の代わりに和服を羽織った比較的大柄なセルキー、Tシャツにダメージジーンズといった身なりで剣を背負ったカースドソード、ガスマスクで顔を隠した学生服の少年、道化師のコスプレをした中年男といった、見るからに風変わりな面々であった。

「繋ぐ……繋ぐのよ、愛のままに……雄と、雌を……」
「激シきコと獣の如く……獣トなるガいイ……」
「ワタしは矛……ワたシは剣……わタシは刃……」
「……」
「おぉ、オメぇらッ……気合十分ってカンジだなぁ!? いいゼいいゼぇ、その調子だァ! カードゲーマーどもに過激派の本気を思い知らせてやるとしようぜェ!」

『チーム名通り過激上等鬼ヤバ必至な奴らが揃い踏みィ!
 そしてそんな鬼ヤバチームに挑むのは、こいつらだぁー!

 オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥゥト!

 なんとリーダーは八十路過ぎッ! 人間としては本大会最高齢! 二度の改元を跨いで今尚強さを追い求める歴戦の古強者率いる集団が、ココナッツツリー・コロセウムを血で染めるーッ!
 人呼んで"神奈川の串刺し公"とその頼れる配下たち! 「横浜ブラッディゲーマー組合」ィィィッ!!』

 Root側に現れたのは、魔物四名に老紳士一名の計五名。
 八十代とは到底思い難い――精々が六十代程度にしか見えない――端正で凛々しい顔立ちの老人を囲うように、作務衣姿で目付きの悪いガーゴイル、ツナギを着た大柄な悪人面のラーヴァゴーレム、細身で冷めた表情をしたサマードレス姿のクリーピングコイン、スーツ姿で眼鏡をかけた妖艶なリビングドール……といった、これまた只者ならざる面々が佇んでいる。

「ヴラド・ツェペシュだぁ? クソ実況が、ナメやがって! 親父さんを例えるなら控え目に言ってもマルクス・アウレリウスだろうがよぉっ!」
「落ち着けズーティ。ツェペシュだろうがアウレリウスだろうがオーナーが納得すンならそれで構わねえだろうが。本当にナメてんのは運営の奴らよ! オーナーをあんな珍走団より格下扱いしやがって、許せねぇ!」
「真に落ち着くべきは貴女ですよレガシア。今はまだ彼らに敵意の矛先を向けるべき時ではない……筆頭を愚弄した罪を償わせるのは全てが終わってからでも遅くはありません」
「お三方……ご計画の際には是非当方をお使い下さいませ。我ら四方護符は常に一心同体……どこまでもお供致します」
(なんともはや……ズーティは短気、レガシアは暴力的。ビスマは傲慢だし、辛うじてまともそうに見えるソニアもなんだかんだ性格悪いし他人への依存が酷い……こういう所があるからこの子たちは何時まで経っても彼氏ができないんだろうなぁ)


『さぁ両チーム出揃ったァ! 過剰なまでに激しき愛と百戦錬磨の確かな経験! 果たして勝つのはどっちだぁーっ!?
 Aブロック第二試合一回戦ンンンッッ〜 対 局 開 始 ィ〜!』



「まさか過激派がカードゲーマーの精鋭部隊なんてものを作ってくるとは……」
「昭和チックでふざけた名前の奴らだけど、実はもう三年ぐらいあちこちの大会で高い成績を残してるチームらしいわよ? リーダーはあのピエロっぽいフレディ・イングランドってオッサンね。元人間のインキュバスで妻はアトラク=ナクア、元々子供好きだったから過激派に入ってからも児童虐待みたいな問題を解決して回る活動で有名みたい」
「僕の方でも調べてみましたが……何れも各組織の公式名鑑に個別記事ができるぐらいの大物なんですね。それで……対する『横浜ブラッディゲーマー組合』は……」
 観客席から試合を観戦しつつ、雄喜はスマートフォンでかの老紳士が何者かについて調べ上ていく。
「何々……"神奈川県横浜市を活動拠点とするゲーム愛好会。現筆頭、天上才彦(てんじょうとしひこ)と彼のゲーム仲間らによって平成二年2月7日より設立される"……」

 才彦とその仲間たちが道楽で作ったこの"組合"は、当初はトランプやバックギャモン、ビリヤード、麻雀等が活動の基軸であった。然し後に新規参入してきたメンバーの影響でトレーディングカードゲームやビデオゲームにも着手して以来、どういうわけか一部のメンバーが急激に腕を上げ始め、やがて競技チームとしての側面も持つようになる。

「――……"ただ根幹はあくまで個人でゲームを楽しむことを主目的とした趣味人の同好会である。当初より『ゲームで認知症対策』を掲げており、ゲーム業界や出版業界、介護業界との繋がりも持つ"……と」
「過激派の方と同じくらい凄い集団じゃないの。他にもなんかちょくちょくとんでもない単語とかあるし」
「なんなら協賛企業がキラメキングダムですし、あたかも予定されたかのように……運命じみた引力か何かによって、驚くべき実力や肩書の持ち主たちが一堂に会している……」
「なんならここにも今をときめく売れっ子男優がいるからね」
「更にはその売れっ子男優と夫婦役を演じた女優のマネージャーが隣に座ってる奇跡ですよ」
「言うてマネージャーってそんな大物でもなくない?」
「外野からしたら十分大物じゃないですか」
「それはそうだけど」


 中身があるんだかないんだかわからない会話をしつつ、二人は試合を観戦する。


『第三回戦、決着ゥゥゥゥゥ!
 勝者ァ! 「横浜ブラッディゲーマー組合」所属ゥ、"燻し銀の秘宝"ッッ! クリーピングコインのビスマ・クオール選手ッ! おめでとうっ!
 対する「過激上等♥毎晩寝かせKnights☆」の"北海のサブマリンファイター"ことセルキーのカルブ・アルバハル選手のパワフルで隙がないポーラベヒモスデッキに一度は追い詰められるも、その苦境すら計算の内! 華麗にして無駄のない、流れるようなコンボであっという間に巻き返し徹底した戦術でポーラベヒモスを一網打尽! そのまま勝利を掻っ攫ったっ! その有様たるやまさに豪華絢爛! 実にクリーピングコインらしい戦いだったぜっ! ありがとーぅ!』


「ワ、吾輩のポーラビーストどモが打ち破ラれるトは……まだマだ未熟カっ……」
「そう卑屈になることもないでしょう。実際、貴女の戦術も見事でしたよ? 相手が私でなければ勝っていたでしょうねぇ……ま、力押しだけで何とでもなるわけではないのだと学ぶことです」


 三回戦にして戦績は二勝した『横浜ブラッディゲーマー組合』の優勢であった。

 第一回戦。ガーゴイルのズーティ・ヤークト対大百足の灰田進美(はいだすすみ)の対局では、序盤こそムカデやヤスデなどの姿をしたユニットを多用する進美の【ビリオンレッグ・バグ】デッキが高速展開や妨害、効果ダメージなどの戦術で優位に立っていたものの、中盤になりズーティの【火砲岩部隊】デッキによる反撃が始まったことで戦況は一変する。
 同デッキは手札事故率が高く本領発揮までに時間を要する所謂スロースターターだが、その分大器晩成と言わんばかりに準備が整ってからの爆発力は極めて高く、次々と繰り出される高火力の砲撃に多脚の虫たちはなすすべもなく焼き払われ、初戦はズーティの勝利で幕を閉じた。

 続く第二回戦。リビングドールのソニア・スミー対カースドソードのジアン・ダオレンの対局では、騎士や軍人のような姿の人間ユニットと武器に変化する機械生命体ユニットを組み合わせて戦うジアンの【武装生命】デッキと、状況に合わせて自在に姿を変える人形型ユニットでテクニカルに戦うソニアの【ギフト・ドールズ】デッキが互角の勝負を繰り広げていた。
 ソニアは本来冷静かつ知恵深い人物で『組合』に於いて才彦の忠臣たる"四方護符"随一の頭脳派と名高い。一方のジアンも中国に拠点を置く過激派系列の組織で戦闘員と技術者を兼任しており、卓上に於いて双方の実力はまさに互角であった。そんな二人の勝敗を分けたのは"夫の有無"という、一見カードゲームの対局には無関係そうな"差"であった。

 というのも、過激派の中堅たる以上必然的に既婚者であるジアンは、自身が武器の魔物であるが故に昔から『人間と魔物は言うなれば戦士と武器の関係にある。どちらが欠けてもいけないしイケない。両者が互いに手を取り合い支え合い、お互いの良さを活かし合い、また夜はお互いをイカし合ってこその現代社会である』との信条を持ち、これは彼女の口癖でもある。そして当然その口癖は対局中にも飛び出したのだが……この発言が恋人不在で性経験皆無、かつ才彦や四方護符の面々を家族同然に慕い、彼らに依存しきっているソニアにとって場外からの致命傷となった。

 ――彼女の発言は正論だ。ともすれば皆も何れは結婚し、私より家族を優先するようになるだろう。
 そうなった時自分は一人だ。恋人を作り結婚できる自信も確証もない。
  頼る者もなく、一人寂しく孤独と絶望の中を生きていくしかない。


 不安と恐怖に駆られた彼女は、動揺の余りプレイングを間違えてしまう。それは些細な、普段の彼女ならすぐに修正できるようなミスに過ぎなかったが、リビングドールらしからぬ他者に従順で使命感に忠実な性格が災いし、ネガティブな感情に囚われ判断能力が低下……結果更にミスを重ねてしまい、自滅に近い形で惨敗を喫してしまった。

(まさかあそこまで深刻だったとは……魔物なら人間より精神的に丈夫だろうと勝手に思っていたが、昭和特有の思い込みだったか……ともかく私がしっかりと支えてあげなければ、な)

 対局中事情を察した才彦はこう考え、大会が終わり次第四方護符の面々を自宅に招き彼女らの本音を聞こうと心に誓うのだった。


 そして続く三回戦は先程述べた通り。クリーピングコインのビスマはセルキーのカルブ・アルバハルが操るパワフルな海棲哺乳類系デッキ【ポーラベヒモス】に追い詰められるものの、産業がテーマのテクニカルなデッキ【多次元商会】による計算され尽くしたコンボで華麗に逆転勝利。ソニアのミスをフォローしつつチームに貢献して見せるのだった。



『さぁ〜て! 続いてはAブロック第二試合、期待の四回戦ッッッ!
 激しい愛と確かな経験がぶつかり合う戦場に降り立つ次なるプレイヤーたちをご紹介しようっ!

 オォォォン・ザ・リィィィィィッフ!

 嘗ていじめに苦しんでいた不幸な少年が、魔物との愛で奇跡のパワーアップ! ガスマスクで隠れた素顔や如何に!? レンズ越しの双眸が見据え続けるのは、やはり優勝賞金3000万なのかーっ!?
 アメリカ中西部はイリノイ州出身の謎めいたインキュバス! マイケェェール・モラァァァァァン!

「……」

 ガスマスクで素顔を隠したマイケル・モラン少年は、盤面の前に立って尚一切言葉を発しない。ただでさえ異色の風体に加え無言とあって、観客席は彼の話題で持ちきりになる。


『そしてそんなモラン選手とやり合うのは、この女ぁ〜っ!

 オォォォン・ザ・ルゥゥゥゥゥゥト!

 獰猛に荒ぶる大自然の具現! 「横浜ブラッディゲーマー組合」随一の巨体は最早ッ、溶岩を通り越して生きた火山そのものの風格ゥ! 或いはその豪壮にして妖艶、恐ろしくも神々しささえ感じる美貌は、ハワイ神話の女神ペレの生き写しィッ! レェェーガシアァァァ・フロォォォーライトォォォォ!

「ペレ・クム・ホヌアか……まあ悪かねぇが、だとすりゃオーナーがツェペシュなのが納得行かねぇ! オーナーも神に例えやがれ! おい実況この野郎! 聞いてんのかッ!」

 サハギンの如く寡黙なマイケル少年とは対照的に饒舌なラーヴァゴーレムのレガシア・フローライトはよくわからない理由で声を荒げ『あの変なガキの前にテメェと戦わせろ!』とまで言い放つ(そして余りの気迫に圧された実況は謝罪し『彼の紹介の際には納得頂けるような神格の名前を出す』とまで約束した)。

『片や謎のインキュバス! 片や巨体のラーヴァゴーレム! こいつぁまたもや予想外の試合になること間違いなしだぜっ!

 いッざ、対 局 開 始 ィィィーッ!


 かくしてAブロック第二試合四回戦が幕開けた。
 ダイスロールで勝利したレガシアはいち早く攻撃権を得るべく後攻を選択。必然的に先攻となったマイケル少年の動きは……

「……。

 ……――ターン、エンド」


「「「「はあああああああ!?」」」」


 少年の下したまさかの判断に、会場全体がどよめく。遊侠王OCSは常に自分フィールドへ何らかのカードを出しながら戦うのが原則のゲームである。それが先行第一ターンから何もしないとはどういうことか。

『おぉぉ〜っとこれはどういうことだぁ!? 先攻制圧が当たり前の現代遊侠王で何もしないとはっ! 過激派が選び抜いた精鋭モラン選手っ、まさかの手札事故で万策尽きたかーっ!?』
 試合を盛り上げようと煽り立てる実況者。『デュエルラボ』の遊侠王コーナー担当にして同TCGのヘビーユーザーでもある彼は一応"先攻で何もしないプレイング"を知ってはいたが、あくまで大会実況として最適な台詞をチョイスする。

「チッ……めんどくせぇ……」
 会場が大騒ぎになる中、忌々し気に毒づくレガシアは至って冷静であった。
(あのガスマスク野郎は過激派がわざわざアメリカから呼び寄せたインキュバスだ……毒虫女やトド女、ソニアをディスった阿婆擦れ包丁と同じかそれ以上に腕の立つプレイヤーに違いねえ。
 ともすりゃ先行で何をしでかすかと警戒してりゃ、何もしねえだと? 全くめんどくせぇったらねぇぜ……。実況のヤローは手札事故だ何だと適当抜かしてたが恐らくリップサービス、本音じゃ気付いてんだろーよ。ガスマスク野郎は十中八九手札に"アレ"を握ってやがる……)

 レガシアの言う"アレ"とは、遊侠王OCSのかなり初期から存在するユニット《神聖勇者ブレイブ・ジャスティス》のことである。この《ブレイブ・ジャスティス》は採用デッキを選ばない汎用性を誇る強力な効果の故にゲームバランス崩壊を危惧した公式側から規制された経験すらある強力な一枚である。

(《ブレイブ・ジャスティス》の効果はインフレの進んだ現代遊侠王でもそれなりに強え……持ち主のフィールドにカードがねぇ状態でダメージを受けた時、手札の自身を場に出せる。
 そしてそれがユニットの攻撃による戦闘ダメージの場合、対になる《魔界令嬢 ヘル・プリンセス》を追加でどっからでも場に出せる。《ヘル・プリンセス》は《ブレイブ・ジャスティス》との併用を前提とした効果を持ち、内二つはダメージがデカい程に厄介だ。
 で、何の不運か俺のデッキは《ギガース・デモン・ゴーレム》の合成に特化した専用構築……)

 レガシアの切り札《ギガース・デモン・ゴーレム)は、複数のユニットを専用のスキルカードで組み合わせて出す"合成ユニット"の一種であり、"合成に用いたユニットの攻防それぞれの合計値を自身のものとして得る"、"フィールドを離れた場合自身より攻防の合計値が低いユニットを無差別に破壊する"等のパワフルな効果を持っている。

(仮にガスマスク野郎が《ブレイブ・ジャスティス》を握ってんなら、中途半端な攻撃じゃこっちの首を絞めちまう。だが如何に《ブレイブ・ジャスティス》とは言え勝敗決しちまえば出しようもねえ……よって8000以上の攻撃力を出して一撃で仕留めるのが最適解、なんだが……今の手札じゃそれもできねえっ。後攻一ターン目でドローした六枚目に期待もしたが、これじゃ出せて精々が5300……この場合の最悪手じゃねーかっ!)

 レガシアは考える。どうにかしてこちらの被害を抑えつつ、相手をしっかり牽制できるだけの展開をしなくては。ズーティとビスマのお陰でこちらが優勢とは言え自分が負ければ二勝二敗の同点だし、何より傷付いたソニアを励ます為にもここで自分が勝利しなければならないのだ。

(そうだ、ソニア……あいつに俺が勝ってんのを見せつけてやるんだ。『ミスったって気にすんな。俺らがついてんだぜ大丈夫だ』って、元気付けてやんねぇとっ! ならば……こうだっ!)

「俺ァ《遺跡都市の槍使い》を召喚!」
『グオオアアアア……』
 手札から場に出されたのは、その名の通り槍を持った厳つい石像の怪物であった。
「そしてそのまま《遺跡都市の槍使い》で直接攻撃! エンシェント・ジャベリン!」
『ォォオオオッ!』
 レガシアの攻撃宣言を受けて《遺跡都市の槍使い》は手にした槍をマイケル少年目掛けて投げつける。下級の小型ユニットである《槍使い》の攻撃力は1700。さほど高くはないが、仮に《神聖勇者 ブレイブ・ジャスティス》と《魔界令嬢 ヘル・プリンセス)が並び立ったとしてそれほど甚大な被害は出ないような数値でもある。
 よってダメージを与えつつもあくまで優位に立ち回ることができる筈だと、レガシアはそう思っていた……のだが


「……直接攻撃宣言時、《鈴彦姫》の効果を発動……」


 そんな彼女の思惑は、少年の予想外な行動により脆くも崩れ去ることとなる。


「……自身をフィールドに出し、相手ユニットの直接攻撃を無効……。
 そのままバトルを、強制終了……」

 マイケル少年により出された貴族風の小人少女型ユニット《鈴彦姫》は、手にした鈴を鳴らして作り出した障壁で《槍使い》の投げた槍を弾き返してしまった。


「す、《鈴彦姫》……だとっ……!?」
『おぉ〜っとぉ!? ここでまさかの展開っ! モラン選手、フローライト選手の直接攻撃に対し手札誘発型の防御ユニットで対抗だぁ〜っ!』
(バカな……がら空きにしておいて《ブレイブ・ジャスティス》じゃねぇだとっ!?)

 マイケル少年の挙動はレガシアに確かな動揺を齎していた。《鈴彦姫》はレベル1で攻防ともに0の弱小ユニット乍ら、先程説明された効果と低レベル・低ステータス故のサポートの多さにより大会環境での採用率こそ低いものの決して弱くはない有用なユニットである。とは言え効果の発動条件が《ブレイブ・ジャスティス》より緩い反面、防御以外に然したる効果も持たず性能は《ブレイブ・ジャスティス》と《ヘル・プリンセス》のセットに遠く及ばない。よってレガシアにとっては"有り得ないプレイング"であり、故に彼女はマイケル少年の意図が掴めず、早くも彼に得体の知れない恐怖を覚えていた。

「こ、こえーだと……? この、俺がっ……? 横浜ブラッディゲーマー組合、三代目"四方護符"の一角……人呼んで"不死身のレガシア・フローライト"がっ、親父とオーナー以外にここまでビビるだとっ……!?

 クソッ、そんなわけがねえ! こんなのはただの気のせいだっ!
 メインパート・アフター! スキルカード《ダーク・シンセシス》発動!
 デーモンのタイプを持つ合成ユニットを指定し、その素材条件に合致するユニットを俺の手札またはフィールドから墓地へ送り、指定した合成ユニットをアルターデッキから合成召喚する!」
『おぉーっ! フローライト選手ゥ、モラン選手に出鼻を挫かれ乍らもめげずに展開を進めていくーっ! 発動したのはデーモン専用合成スキルカード《ダーク・シンセシス》ッ! 切り札級の強者ひしめくデーモンの合成ユニットから、一体何を繰り出すんつもりだーっ!?』
「チッ、実況野郎の所為で調子狂うぜ……

 俺は場のフォッシル《遺跡都市の槍使い》と、手札のデーモン《怨嗟の解縛雙王》を素材に指定!

 来やがれ、憎悪抱く邪念! 実体を奪われたお前に最高の器をくれてやる! 嚇怒(かくど)を宿した剛腕で、お前を否定した奴らに思い知らせてやれィ!

 合成召喚! 《ギガース・デモン・ゴーレム》ゥッ!」
『ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛イ゛! ア゛ァ゛ー゛ド゛ヴ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ン゛!』


 合成召喚を経てレガシアのフィールドに現れたのは、まさに"悪魔"じみた風貌と"巨人"めいた体躯を誇る"ゴーレム"らしき岩石の化け物……その名も《ギガース・デモン・ゴーレム》であった。

『来たァーッ! 《ギガース・デモン・ゴーレム》だぁっ!
 アニメ第二作「遊侠王NewAge」第三期、賛否両論の"暗黒世界編"で図らずも邪悪なる存在"邪皇"となってしまった主人公、大橋優一朗が使ったことでお馴染み、トラウマ級のデカブツがッ! まさかまさかの後攻第一ターンから堂々登場ォ―ッ!』

「おーおー、ご丁寧な紹介どうもありがとよ実況クン! ……無駄口ばっか叩きやがってあの野郎……まあいい、

 《ギガース・デモン・ゴーレム》の攻防は、合成素材としたユニットのそれぞれの数値の合計となる! よって攻撃力は4700、防御力も3000だッ! 俺は更にバックゾーンへカードを一枚セットし、ターン終了!」

『然し既に一ターン一度のバトルパートは《鈴彦姫》の効果で終了しているッ! 惜しくも攻撃を逃したが、攻防ともに3000越えの大型合成ユニットがフィールドにいる事実に変わりはなし! 更にバックゾーンと手札にカードが一枚ずつ! さてこの状況、モラン選手はどう乗り越えるのかーっ!』


「驚いた。あの構えなら普通、《ブレイブ・ジャスティス》か《トラゲディーア・カー》辺り出すのが定石でしょうに、まさか《鈴彦姫》とはね……」
「《神聖勇者》と《魔界令嬢》の通称"夫婦ギミック"は登場初期より環境を席巻……アライアンス召喚やコズミカル召喚が本格化して、戦力をメインデッキからアルターデッキへ依存するようになって尚も制限カードのままでしたからね」
 観客席で語らう雄喜と克己。遊侠王歴の長い二人からしても、マイケル少年のプレイングは聊か異質なものであった。
「ステータスが不安定でどちらかというとアライアンス召喚やコズミカル召喚のための補助的な運用をされがちだった《トラゲディーア・カー》は二年で規制されて五年で解除されましたけど、ステータス固定の上に戦闘と制圧もこなせる《神聖勇者》と《魔界令嬢》はどっちも規制に一年、解除に七年かかってますから」
「《魔法の反射鏡》共々冷静に考えれば結構強いもんねぇ。対して《鈴彦姫》は殆ど使い切り、出したあとは壁か素材、コストなんかにするしかないってのに」
「……或いは、考えられるとすればそれが狙いかもしれませんがね。"夫婦"ではなく《鈴彦姫》でなければならない、何かしらの理由が……」
「あー、まあ確かにね。夫婦は揃ってレベル7で、旦那は光属性のサピエンス兼ウォリアー、嫁は闇属性のデーモン兼ロード。対して《鈴彦姫》はレベル1で風属性のスプライト兼プリースト……合成はともかくとして小型ユニットを集めるのが前提のアライアンス召喚なら低レベルの方が扱いやすいし、コズミカルユニットにしてもランクの大小と強さは必ずしも比例しないし……」
「寧ろコズミカルは低ランクの小型ユニットにこそ、こういった状況を覆すようなのがいるくらいですから」
「そこからすぐにランクアップもできるからねぇ……自由度高すぎのコネクトは言わずもがな」
「ブリーディングや術式の為のベイト、スキルやギミックのコストにするって選択肢もお忘れなく。風属性やスプライト、プリーストを参照するサポートカードを握ってるのかもしれません」
「コストはともかくベイトは流石にないんじゃない? あの辺は特化しないと厳しいし、特化した構築にしたって昨今は風当たり強いでしょ」
「"インヴェジョンバグズ"使ってる克己さんがそれ言っちゃダメだと思うんですが、それは」
「使ってるからこそ言うのよ。それにゆーちゃんこそ"竜座隊"使ってるじゃない」
「僕のは十一期に入ってからの比較的新しいデッキなので……っていうのは」
「詭弁詭弁。今日日カテゴリの登場時期なんて関係ないでしょうが」




「……僕のターン、ドロー……」

 あくまでも静かに、一切感情を表に出さぬまま、マイケル少年は動作をこなしていく。

「…………手札より、《闇への祈り》発動……」
「じ、術式スキルだと!?」

 マイケル少年により繰り出されたまさかのカードに、レガシアはまたしても度肝を抜かれる。
 術式スキル……その名の通り術式召喚を行うスキルであり、メインデッキに投入される術式ユニットを軸に扱うデッキでは必須となるカードである。

(じゅっ、術式ぃぃぃぃぃ!? バカな! あんな時代遅れで手間かかる代物、今時大会で使うヤツなんて居んのかよっ!? ……ああ、いや、そりゃ"アビシアンズ"とか"センテンジェル"、"エクシーデッド"、"竜座隊"みてーなわりと強い術式テーマもあるっちゃあるらしいが、それにしてもあんな古いカードわざわざ使うかよっ!?)


「……《闇への祈り》……闇属性術式モンスターの顕現に必要な術式スキル……ベイトはフィールドの《鈴彦姫》……」

『モラン選手の選択は、まさかまさかの術式スキル発動ーッ! 然し術式ユニットと言えばレベルを持つ切り札級ユニットの例に漏れず、その殆どはレベル7以上の大型ばかり! ベイトにしたユニットのレベル合計が顕現させる術式ユニットのレベルと同じでなければ出せないのが原則の術式召喚で、レベル1ユニット一体だけをベイトにするとは異例も異例ッ!
 果たしてモラン選手は何を出すつもりなのかーっ!』


「わざとらしい言い方するわねぇあの実況も。レベル1の術式ユニットなんてそんなの一つしかないでしょうに。ねぇゆーちゃん?」
「お気持ちはわかりますがそう仰らず。僕もそりゃ一つしか思い浮かびませんけど、そこで敢えて分からないフリするのも芸の内なので……」


(レベル1ィ!? レベル1の術式ユニットなんて存在したか!? そりゃアライアンスユニットみてーに必ず複数のユニットが要るわけじゃねーし理論上は存在し得るんだろうが、それでもレベル1ってお前……)

 内心混乱するレガシアを他所に、術式召喚のベイトにされた《鈴彦姫》はフィールドから消滅。やがて虚空に形成された闇色のエネルギー体からぬるり、ずるりと何かが這い出てくる。

「……闇。
 深い闇。
 ろくでもないものばかり渦巻く中。
 奴はそこにいる。
 脈打ちながら見据えている。
 静かな中で、その時を待つ……。
……術式召喚……待たせたな、今がその時だ。
……来てくれッ、《魂骸邪導士ジュガン》ッッ……!」
『呪迂迂迂迂迂迂迂迂迂迂迂迂迂(じゅううううううううううううう)……!』

 現れたのは、宙に浮く異形。
 直径1m程の、眼球と心臓が融合したかのような物体。
 後方部から伸びた数多の血管が束ねられ、腕と翼を形成している。
 それこそマイケル少年の繰り出した、恐らくは彼の切り札にして、現状唯一のレベル1術式ユニット……《魂骸邪導士ジュガン》に他ならず。

『衝・撃・展・開ィィィィ! なんとなんと、モラン選手が繰り出してきたのは遊侠王OCS創始以来唯一のレベル1術式ユニット《魂骸邪導士ジュガン》だったぁぁぁぁぁ! レベルが最低なら攻防もともにゼロと最低値だがナメちゃいけねぇ! なんせこいつぁ原作とアニメ第一作でも強敵として登場し、近頃ではサポート続出で強化もされてる見た目通りのクセ者ユニットーっ!
 フローライト選手、一気にピンチかーっ!?』

「オイオイ勘弁してくれよぉ、ただでさえオメーが読めなくてビビってんのにそんなん出されたらケツから溶岩が垂れ流しンなっちまわぁ」
「……怖がらせてしまったのなら、すまない……だがそういうデッキなんだ……どうか許してくれ……」
「あぁ〜うん、まあそりゃ、許す許さねえとかそういう話でもねえつーか、ただの冗談だからそんな気にしなくていいぜ?」
「……そうか……それと補足しておくが……《ジュガン》の効果はシンプルだ……貴女を混乱させることはないだろう……」
(なんか面と向かって話してっとやりづれーな、こいつ……過激派のインキュバスだっつってたし、代表に選ばれるぐれーだから悪人じゃねーんだろうけども)
「……《ジュガン》の効果発動……

 相手フィールドのユニット一体を選び、自身の装着スキル扱いとしてコントロールを奪う……《ギガース・デモン・ゴーレム》を装着カード化……」
「はぁ〜そうかい、装着スキル扱いでコントロールをね――って何ィィィ!?」

 マイケル少年の口から出た衝撃的な単語に、レガシアは驚いて鼻から溶岩を吹き出しそうになる。
 装着スキル……所謂武器や防具に相当するカード群で、その名の通り表向きでバックゾーンに置くことで特定のユニットに装着されるスキルカードである。またユニットやギミックの中にも装着されるものがあり、これらを総じて装着カードと呼ぶ。

 このままでは危ない。折角出した切り札を奪われてしまう! レガシアは焦ったが、ふとフィールドに裏向きでセットしていたカードの存在を思い出す。

「ちっと勿体ねえが、そうはさせねぇ! 《ジュガン》の効果にチェーンしてギミック発動! 《過激派直伝母性の護り》! その効果で《ギガース・デモン・ゴーレム》はこのターンいかなる効果の対象にもならねえ! よって《ジュガン》の効果も発動しね――
「……すまんが、無駄だ……」
「なっ!?」
「……《過激派直伝母性の護り》は発動ターン中、自分フィールドの全ユニットを対象指定効果から守る……だが《ジュガン》の相手ユニット装着は標的を"選ぶ"効果であり"対象を指定する効果"ではない……」
「つまり不発は、俺の方っ……!」

『愚異戯戯戯戯戯戯戯戯戯戯戯異(ぐいぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎい)ッ!』
『ヌ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛!?』


 前もってセットしていたギミックカードも空振りし、《ギガース・デモン・ゴーレム》は《魂骸邪導士ジュガン》によって吸収されてしまう。


「「出た! 遊侠王名物カムイノ語!」」
 雄喜と克己の台詞が同時に発せられ――"ハモる"。あたかも演技かのようだが、その実二人の"ハモり"は意図せずして起こっており、誰より驚いたのは他ならぬ当人たちであった。
「……ハモったわね……」
「……ハモりましたね……」
「でもまあそりゃ、ハモりもするわよね……」
「寧ろハモらずにはいられないでしょう、カムイノ語なら」
「ねー。ほんともうカムイノ語はめんどくさいから」

 二人の言う"カムイノ語"とは、遊侠王のカードテキストに度々見られる一見ややこしい言い回しと、それに関する難解な公式裁定の総称である。名称にある"カムイノ"とは遊侠王OCSの製造元である"カミノグループ株式会社"の子会社"株式会社カミノマルティプルエンターテイメント(略称KME)"が単なるゲーム・玩具メーカー兼出版社であった頃の社名"株式会社KAMINO"に由来する。

「あんま言いたかないですけど、実際めんどくさい裁定多いからなあ……」
「最たる例が"対象にとる"と"選ぶ"の差よ。普通なら一定数の標的を個別に狙うのが"対象に取る"動作で、該当するもの何もかも全部無差別に巻き込むのが"対象を取らない"動作だって思うじゃない?
 一連の元ネタあんま知らない図鑑界隈の子たち向けにわかりやすく説明するなら、アトラク=ナクアが毒液で旦那を蜘蛛の化け物に改造するのが"対象を取る"動作で、ウシオニの血を大人数に向かってとりあえず適当にぶちまけるのが"対象を取らない"動作って感じ」
「……ご自身と同じアラクネ属昆虫型の虫系魔物に例えるの流石ですね」
「そうでもないわ。一瞬マッドハッターとマタンゴにしようかと思ったけどなんか違う気がしてたし。
 ……で、カムイノ語の話に戻るけど、遊侠王OCSの一定数の標的に干渉するカードは"対象に取る効果"と"選ぶ効果"が混在してる状況にあるわけよ。有名どころと言ったら、例えば……」
「"サバトコラボ・カード プレゼントキャンペーン"で配られた24枚のプロモーションカードとか典型じゃないですかね」
「ああ、あれは結構荒れたわよね。当のサバト構成員たちの間で裁定の解釈がすれ違ってトラブルになって、一部では遊侠王禁止令が出たりカミノグループ相手に訴訟起こす寸前まで行ったヤツ……」
「結局"バフォ様"の鶴の一声で鎮静化しましたけどね。でも実際KME側も完全な被害者かというとそうでもない……」

 "サバトコラボ・カード プレゼントキャンペーン"
 "レスカティエ三銃士カード化計画"や"ドラゴニアコラボ・エキスパンション"、"構築済みコラボデッキ-フォールン・メイデンズ-"に続く、魔界の主要組織や大国自治体と遊侠王OCSによるコラボ企画の第四弾たる同キャンペーンは、期間中にサバト及び遊侠王関連の対象商品を店舗で買うと、購入額1000円につき一袋、八つの大手サバトそれぞれとコラボしたカード24種の内何れか4枚がランダムに封入された特別パックが貰えるというものであった。

 八つの大手サバトとは本家魔王軍サバトに加え、過激派のクロフェルル・サバト、頭脳派のシロクトー・サバト、新参乍ら高い実力を有するモモニカ・サバト、記者や作家から成るルーニャ・ルーニャ・サバト、農耕系のマルーネ・サバト、野性的な構成員の集うロプロット・サバト、医療行為による社会貢献を主目的とするグレイリア・サバトの主要七組織。
 これら八組織からそれぞれ、筆頭を再現した切り札級ユニットカード、各組織の持つ技術を再現し自身に効果を及ぼすスキルカード、各組織の在り方を再現し相手に効果を及ぼすギミックカードがそれぞれ各組織総監修のもとデザイン・製造された。

 コンセプトとして『それぞれの構成員、または各組織への加入を希望するプレイヤーたちのデッキにこそ投入されるカードであるべき』との思いから、各カードは汎用性のない、特化した専用構築でこそ輝くよう緻密に設計され、結果としてあまりにも理不尽なシングル価格の高騰や悪質な転売目的での商品買い占めはそれほど起こらなかった。
 だがそれらに全く問題点がないかというと、そうでもなく……

「性能は強すぎず弱すぎずの妥当、シングル価格も一万円超えることはそうなかった……」
「けどテキストがいけなかったのよねー。同じ組織のカードで似てるようで実は違う裁定のカード出しちゃったから」
「最たる例を挙げるならモモニカ・サバトのコラボカード……スキル《カワイイ! バリアー》とギミック《メスガキ☆チャーム》の二枚がわかりやすいですかね。《バリアー》は自分のユニットを対象に取って耐性を付与する効果で、《チャーム》は相手ユニットを選んでコイントスが当たったらそのコントロールを奪える効果……」
「しかもユニットの筆頭が全自分ユニットに対象を取る効果への耐性付与とか持ってるんでしょ? そりゃ裁定巡って喧嘩にもなるわ……」
「あと山羊姉妹、クロフェルル筆頭とシロクトー筆頭のユニット効果も物議を醸したそうで。お二方のカードはどちらもフィールドから離れると発動できるド派手な"任意効果"を持っていて、影響する範囲が互いの在り方を現しつつ、対立させても共闘させても面白いと評判だったようですが……クロフェルル筆頭がフィールドから離れた"時"の任意効果、対してシロクトー筆頭はフィールドから離れた"場合"の任意効果だったようで……」
「黒山羊様だとタイミング逃しちゃうわね……」
「設計側としては、そこもお互いの性格を反映した結果だったそうなんですがね……まあ揉め事が絶えなかったようです。そもそもサバトコラボ・カードは全体的に"時と場合"、"任意と強制"が混在していたのでどこも混乱が相次いだようで……」

 その後、多くのサバトでは先程二人の会話で説明されたような問題――サバトコラボ・カードをはじめとする各種遊侠王カードの裁定に関する認識と解釈の相違に伴う揉め事――が相次ぎ、構成員同士での乱闘騒ぎや魔法の撃ち合いにまで発展するケースが多発。
 事態を重く見た八つの主要サバトを含む多くのサバト幹部格は組織内の和を保つべく"遊侠王禁止令"を下さざるを得なかった。然し禁止令が出た後も殆どの場合治安は良くならず、中には悪化の一途を辿る最悪のケースまで。終いには誰が言い出したか『全部カミノって会社の仕業なんだ』と主張する"責任転嫁組"が台頭。同集団は遊侠王OCSの製造元である株式会社KME、ひいてはその親会社であるカミノグループ株式会社相手に訴訟を起こすべく立ち上がったものの、これに対し魔王軍サバト筆頭こと通称"バフォ様が激怒。

 『魔道と幼体主義の探究を理念とする魔界の賢者にして君子たるサバトともあろう者どもが、己らの和も保てぬばかりか他者に責任転嫁とは何事か』と傘下の者たちを怒鳴り付け、山羊乍ら鶴の一声で騒動を鎮静化させた。その後"責任転嫁組"には一定期間の謹慎や性行為の制限、無償での奉仕活動やおやつをスーパーの特売で売られている格安輸入牛筋の醤油煮で統一するなどの厳罰を下し粛正
 同時に『カードゲームは遊びを通じて文字や計算を学ばせ、知力を向上させ得るコンテンツである』として各組織が発令していた"遊侠王禁止令"を解除させ、かえってKMEと提携して構成員に遊侠王の細かなルールや裁定を学ばせるプレイング講座を開かせるなど、娯楽を通じて魔界と地球の新たな架け橋となるべく、そして当然小児嗜好を外部から問題視されない程度に世間へ浸透させる為にも日々尽力しているという。

「なんかほんの余談程度のネタなのに死ぬほど長くなってない?」
「気にしちゃいけません、いつものことです」
21/07/29 21:34更新 / 蠱毒成長中
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